とある、橋の上から。人間の少女の姿を模した偽りの姿にて、メズールは視線を泳がせていた。真木邸を後にした時分にはまだ日は高かったはずなのに、既に辺りは薄暗さに彩られつつあった。何をしよう、と明確に決めて屋敷を出てきた訳では無い。ただ、物言わぬメダルの山へと還っていったガメルの姿を思い出すと、心の内は穏やかでは居られなかった。……メズール自身の一番の目的は完全態になって世界を喰らい尽くす事であり、ガメルはそのための犠牲になった。そんな事は、分かっている。ならば……メズールの胸に巣食う言い様の無い感覚は、一体何だというのか。メズールを慕っていた一体のグリードは、既に居ない。その事実に、どれほどの価値があるのか。思えば、以前にもガメルがオーズによって倒されたことがあった。その時にメズールは……何を、考えていたのだったか。――オーズ。『ガメル』はどうなったか知らないかしら?なぜ、メズールはあの時、オーズにガメルの行方を尋ねたのか。ガメルが消えたものの、メズール自身はガメルの取って来た青コアを得て、損をするどころか大幅な得をしている筈なのに。……満たされない。何とも言えない喪失感は、増すばかりだった。「メズール君。ガメル君のコアメダルは……何枚が残っていましたか?」「……6枚も、やられたわ」背後から唐突にかけられた声に、何か感情を返すでもなく。メズールは振り返る素振りさえ見せずに、ただありのままを告げた。即ち、9枚あったガメルのコアメダルはその内6枚もが砕かれてしまったという事実を。しかも、下手をすれば残りのメダルにも、目に見えないダメージが入っている可能性は否めなかった。どちらかと言えば、会話の相手にとって重要なのは、砕かれたコアよりも残ったコアの方らしかったが。「残ったコアメダルからガメル君を復活させるつもりですか」相も変わらず背中越しにメズールへとかけられた言葉は、どこまでも淡々としていた。きっと真木も、メズールの方など見ていないのだろう。いつもの不気味な人形に目を向けているに、決まっている。「グリードの復活には最低でも5枚のコアが必要よ、ドクターの坊や。意識の入ったコアはあるけれど、残り3枚じゃぁ、どうしようも無いわ」発言してみてから、思った。メズール自身の言葉は……まるで、灰色のコアが5枚残っていたらガメルを復活させたかった、というような響きを含んでいたのだ。ガメルは……メズールの傍らに居るのが当たり前のグリードだった。ガラの兵隊に襲われた時には、ガメルが灰色コアを奪われながらも、身を呈してメズールを守り抜いた。今回だって、ガメルはその存在を失ってまでメズールのメダルを取り返してくれた。「バカな、子。私が居ないと、ダメなんだから……」もしメズールが先に消えていたら、ガメルも今のメズールのような喪失感を味わっていたのだろうか。それよりも、ガメルはメズールを復活させるためにまず足を動かすだろう、とメズールは不思議と確信出来ていた。「足りない2枚の代替物は、用意出来るのではありませんか。『今から完全態になる貴女』なら」……現在のメズールは8枚まで青コアを揃えているものの、あと1枚は行方不明の筈だが。そんな指摘を入れようと、メズールがようやく真木博士に向き直ったとき。メズールの頭から、数多の疑念が吹き飛んだ。こちらへ顔を向けている一体の青白い人形と視線を交差させつつ……メズールは確かに、その存在を感じ取っていた。真木博士の肩に座った人形が胸に抱いている一枚のコアメダルの存在感は、メズールにとってあまりに大きかったのだ。「どう、して」「……退職金代わりに、財団から頂いたんですよ」完全態に、なれる。一体のグリードとしての思考は、現在の状況を至高のものであると訴えていた。だが同時に、メズールの中の冷静な何者かが、状況の理解を促してもいた。真木博士が何故、メズールを完全態に導かねばならないのか、と。彼の目的は世界に良き終わりを迎えさせることであって、その道具がグリードとコアメダルである。完全態のグリードに大量のコアメダルを取り込ませて暴走態を作り出し、世界を完全な『無』へと到達させるというのが、真木清人の計画の筈だ。そして、現在殆どのコアメダルが真木邸に揃っているにもかかわらず、真木清人がそれを実行しない理由とは?決して愚鈍では無いメズールの頭脳は、簡単に正解へと行き着く事が出来ていた。真木が目的を達成するためには、完全態グリードの一体を残して他のグリードを解体する必要がある。しかし、実際にグリードの誰かが真木に消されたら、その時点で残りのグリードが逃亡を図るのは必然と言える。都合よく全員を真木の手にかけることが理想的なのだろうが、逃亡されるリスクも相応のものとなってしまうのだろう。だからこそ、グリードの数がもう少し減るまでは、真木が直接手を下す事は出来ない。……完全態になったグリードが勝手に暴れて、人間に倒されでもしない限りは。つまり、そういう事だった。この人間モドキは、メズールが人間に倒される事を予期している。早く完全態になって暴れて、人間達に始末されて来い、と。それが、真木清人の意図に違いない。きっとメズールの次はカザリが、真木の隠し持っていた9枚目を渡されて完全態になって、人間に処分されるのだ。だったら。「そう、ね。完全態になるのは、私達の悲願だったわね」乗ってやろう、とメズールは決めた。どこまでやれるのか、分からない。それでも……この虚ろな感覚から解放されるのなら。悪くは、ない。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百三十四話:獣愛ずる姫君メズールは、まず動物を攫った。陸上動物を見世物にする巨大な展示施設から、サイやゾウを頂いた。ガメルのコアメダルの代替品として使えそうだったからだ。だが、圧倒的に数が足りない。錬金術師達がコアメダルを作る時にどれだけの贄を使ったのかは分からないが、とても一桁で足りる量では無い筈だ。初めて見る動物園というものに、800年前の王が初めて作った獣の庭園に似た気味の悪さを感じながら。メズールは、必要なモノを集めた。動物園の檻の中には、瞬く間に材料が集められていった。同時に、動物園は阿鼻叫喚のコンサートホールと化した。歌っているオーケストラは、声と涙を枯らした子供達だった。ガメルのメンタルに最も近い年齢層であると考えて、メズールは近隣の民家から児童をかき集めたのだ。完全態の出力による激流噴射を以てすれば、民家の防御壁など脆弱そのものだった。メズールは、その一人一人を薄皮のタマゴに閉じ込めた。手間を考えれば2~3人を一つのタマゴに入れた方が早かったが、手を抜いたことによって子供達が安心してしまっては、元も子もない。親の助けを強く求める欲望を強く抱いてもらわなければ、困るのだ。その欲望を魂が枯渇するまで搾り取れば……新たなコアメダルを作り出すまでは出来なくても、ガメルを復活させる際の不足コアの代替品には足りるかもしれない。残ったガメルの意識コアに、自前のコアが5枚あるのだと誤認させれば良いのである。完全態にまで戻ったメズールが行うならば、成功の目は充分にあった。最後に、動物園の中央付近に聳える監視塔の一室に灰色のコアメダルを安置して。ガメルを構成していたセルメダルに加えて、メズールが持っていたセルメダルも、相当量を積み上げた。後は、材料達から養分を抽出するだけだった。……もっとも、そう時間も経たないうちに、妨害者も姿を見せた。闇夜の中でも色を失わない、黄なる魔法少女が。物騒な筒を手に、メズールを恫喝したのだ。子供達を離しなさい、と。もちろん、そんな程度の言葉で引き下がるような怪人も居る訳が無い。飛来する銃弾を、完全態になって甦った液状化能力によってスリ抜けながら。メズールは、散弾銃のように水の弾丸を黄の魔法少女に浴びせた。戦いが続くにつれて地面を染めていく朱は、しかし、どこか薄かった。魔法少女から毀れた命の雫はメズールの発した水と混ざり合い、紅と呼ぶには色が足りない。戦いの最中、魔法少女が尋ねて来た。親から引き離された子が何を感じるのか分かるか、と。どうでも良い、とメズールは思った。この大筒使いの魔法少女が過去に何を経験してそんな言葉を発しているのか、そんな事はメズールの知るところでは無い。むしろ、ガメルを失ったメズールの何を、こいつは分かっているというのだろう。メズール本人でさえも、分かっていないというのに。そんな事は、メズールはおくびにも出さないが。思い出してみれば、メズールが剣の魔法少女を捕えて弄っていた際に。銃使いの魔法少女は、メズールに対して怒りを露わにしたことがあった。もしあのままメズールが青いソウルジェムを砕いていたら、眼前の魔法少女は、今のメズールのような心境に陥っていたのだろうか。……これも、どうでも良いことだった。少し経つと、銀の鎧を纏った青年が増援にやってきた。だが彼も液状化したメズールに対して有効打を持っていなかった。厳つい装飾銃も、右腕に追加された巨大なクレーンアームも、水を叩き潰す事は適わない。メズールの水の弾丸を受けても削れる程度で済む装甲は、人間が作ったものにしては上出来なのかもしれない、という次元でしか無くて。……人間どもを地に転がしても、何の感慨も湧かなかった。粘る人間達にとどめを刺そうとしていると、上空からの砲撃にて身体を半分ほど消し飛ばされた。液状化しているので損壊はさほど大きくないものの、この攻撃を受け続けると危険である。頭上遥か高くには、紫の恐獣が翼を広げながら、いつもの大斧を砲撃形態に展開している様子が確認できた。……それが、どうしたというのだ。メズールはもうじき、儀式を終える。この動物園の中央に突き立った塔では、あと幾許も無いうちにガメルの復活の準備が整う。あそこに安置された灰色達が、メズールの帰りを待っている。空中の紫のオーズを撃ち落そうと、メズールは水撃の矛先を上方へと向けた。それを隙と見た地上のバースと魔法少女が、同時に最大威力の砲撃を試みたようだが、どのみち液状化しているメズールには効果は無い筈だ。人間達の弾丸はメズールの身体をすり抜けて終わる。そう、思った。その射線の一つがメズールの帰るべき塔に重なっている事に、気付くまでは。必殺技級の砲撃とはいえ、灰色のコアが砕かれると直感した訳では無い。目に見えないレベルの損傷が灰色のコアに残っていれば大きな衝撃によって灰色コアは破壊されるかもしれない、と事前に思っては居たものの、それも確信では無かった。それでも、メズールは。……考える前に、行動していた。人間達の驚く声が、この街に馴染んだメダルの落下音に塗り潰された。回避できる筈の攻撃を、メズールは回避しなかった。液状化を解いて実態を取り戻したメズールの身体には、人間達の砲撃によって抉られた傷口が確かに開いていて。そこから、濡れに濡れた大地へとセルメダルが零れ落ちていった。直後、上空から降り注いだ冷たい一撃が、全てを砕いた。グリードの鈍い感覚でも分かるほどの肌寒さが、メズールの身体を貫いていて。紫のオーズの放った最後の光芒が、終わりを告げた。メズールというグリードが、終わる。そう、分かった。薄れ行く意識の中、メズールは最後に思った。もしガメルが居てくれたら、オーズの砲撃からメズールを庇ってくれただろうか、と。……貴方が居ないとダメだったのは、私の方だったのかもしれない、わね。断末魔の悲鳴をあげる間も惜しんでメズールが考えたのは、そんな些細なことだった。「……マミちゃん。何だか、妙にセルメダルが少ないような気がしない?」「言われてみると、確かにそうですね……」地上に降り立った映司が変身を解きもせずに言い放ったのが、そんな言葉であった。どうも、映司がざっと見たところによると……グリード一体を解体した割には、随分セルメダルが少なく思えたらしい。映司は過去にも不完全態だったウヴァとガメルを倒した事があるというが、その時よりも明らかに、現在動物園に飛び散っているメダルは少ないそうだ。それが、映司が不審に思った点だという。メズールが完全態だった割にあっさりと逝ってしまったのも、セルメダル不足に依るところがあったのかもしれない。何か、セルメダルを消費する用事でもあったのだろうか。まさか、何処かに置き忘れてきた訳でもあるまいが。最悪の想定として、飛び散った残骸の他にメズール本体が何らかの形で生き延びているというのが、一番厄介なケースである。人質の方に足を向けたりメダルを回収に行ったりした時に背後からぐっさりと殺られるとなれば、笑いごとでは無い。しかし、飛び散ったメダル達の中には、ちらほらと青い輝きが散見された。なので、メズールが完全態で再び襲ってくる可能性は、おそらく既に潰えていると見るべきだろう。財団に報告を入れている後藤を尻目に、マミと映司はそれとなく言葉を交わしながら、他にも共通の疑問を抱えていた。液状化していたメズールが最後の最後でマミと後藤の砲撃を食らってしまったのは何故だったのか、と。ひょっとすると、液状化能力には使用制限があって、それがたまたまあの時に発動してしまったのもしれない。都合の良すぎる仮説だが、それが一番ありそうかもしれないとも思えてしまう辺り、この考察には答えは無いと見た方が良いのだろうが。「様子見を続けても仕方ないね。俺が残ったコアを回収してくるよ」そうしないと、オチオチ捕虜たちの救出にも行けないので。冷たいアスファルトの床に散らばったセルメダルを踏み分けつつ、紫のオーズは足を踏み出していた。周囲に警戒を回して、ゆっくりと前進しているオーズは、今のところ危険分子を発見できていないらしい。当然、マミも警戒は怠らなかった。もしメズールも魔女を取り込んでいたりすると、オーズの感知器官では出遅れてしまう危険もあるからだ。だが……緩慢な速度にて歩くオーズの進路の先を見た瞬間。「…………えっ?」……巴マミの背中が、鳥肌に染まった。歩いているオーズの目と鼻の先、10メートル程前方に、人の形をしたものがあったのだから。黄色の格子模様のジャケットと銀髪を目立たせた青年が、いつしか閑散とした動物園の中に現れていたのだ。しかし、人間が居ること自体は、マミを恐怖させる材料となった筈も無い。マミ達が警戒しているのは敵襲を退けるためなのだから、当たり前である。問題は、そこではない。「火野……さん……?」そう。マミの理解を超えていたのは、いつの間にかそこに突っ立っている闖入者の存在ではない。紫のオーズが、未だに臨戦態勢に入らず、前進を続けていることだった。まるで、オーズの進路上には誰も居ないと言わんばかりに、辺りを見回しながらオーズはゆっくりと歩みを進めているのだ。巴マミには、まったく事態が呑み込めなかった。メダルの取り込みに伴って火野映司の視覚が損なわれているのかとも考えたが、それも原因としては弱いと思えた。先程まで戦闘まで熟していた程度には視力は残っているのだから、さすがに目前の不審者の存在を見落とす筈も無い。この異常を感知しているのは、マミだけなのだろうか。そう考えて後藤の反応を観察してみると……。通信機片手にオーズの様子に目を割いている後藤も、無反応であった。もはや、あの人影はマミだけに見えている幻なのではないか、という可能性の検証を巴マミの頭は始めていた。幾らなんでも、おかし過ぎる。もしマミの捉えた視覚情報通りにオーズの進路に見知らぬ人間が立っているのなら、映司や後藤が何らかの反応を見せない訳が無い。相手が映司達の知り合いなのかもしれないが、この状況で人間が現れたら、怪しまれて然るべきである。にもかかわらず、もはや相手が腕を伸ばせば触れられるところまでオーズは進んでしまっているのに、映司も後藤も銀髪青年の存在にすら気付いていないのだ。状況に、現実感が足りない。おもむろに、青年がオーズへと手を伸ばした。……オーズは、やはり無反応のままに辺りを見回して、意味の無い警戒を続けていた。青年が掴んだものは、オーズの中枢機関であるオーズドライバーで。それを剥ぎ取られた映司は、人間の姿に戻ってしまっていた。「あれ……?」疑問気な声を漏らしている映司の様子は……出来の悪いコントのような気味の悪さを、巴マミに感じさせていた。何かが、狂っている。銀髪の青年が掏り取ったオーズドライバーからは、紫のメダルが飛び出して映司の体内へと帰還していた。しかし、紫のコアメダル以外のオブジェクトは、一向に平常運行には戻らなかった。ようやく、巴マミが全てを理解したのは……銀髪の青年であった姿が反転して、怪人が本来の形へと戻った時であった。しなやかな細身に猫科動物の独特な鉤爪を輝かせ、ドレッドのような毛を頭から垂らした、一体の獰猛な怪物。それが……人間に擬態していた不審者の、正体だったのだ。どう見ても、お馴染みの黄色グリードのカザリだった。そんなカザリの姿を目の当たりにして、マミは全ての不自然な事象に関する答えを手にしていた。と同時に、マミは一足飛びに、カザリと映司が立ち尽くす場へと踏み出していた。カザリが振るおうとした凶刃から、映司を守るために。映司の自衛を期待しようという思考は、ことこの場面において、既に巴マミの頭からは抜け落ちていた。「危ないっ!!」カザリの爪が映司の腹を裂くのと、巴マミが映司を突き飛ばしたのは……殆ど、同時のことだった。お蔭で、映司の足と胴体が泣き別れになる事も無かったが。精々、腹の表面の数センチから出血しているという程度だろう。だが、カザリの手には、たった今映司の懐から掠め取られた黄と緑のコアメダルが握られていて。事態の最悪さ加減に、拍車をかけていた。「マミちゃん……?」「巴……?」地面に突き倒されて、起き上がろうとしている映司は……状況を把握できていないに決まっている。先程までマミが立っていた場所に居る後藤も、当然理解できていない。かく言うマミも、今の今まで理解できていなかった。映司と後藤が、何故眼前のカザリの存在に気付かなかったのか。答えは、『感知する事が出来なかった』から。「カザリ……貴方、キュゥべえを、食べたの……?」マミの目が真っ先に向いたのは、カザリの耳から長く垂れた白い無駄毛で。白から桃色へのグラデーションが美しいその耳毛には、どういう理屈か、宙に浮くように金環が備わっていたのだ。言うまでも無く、マミの良く知る生物の身体的特徴に他ならなかった。そして、白い宇宙人の生態を誰よりも知るマミだからこそ、カザリが怪人態を現した瞬間に答えへと辿り着いた。すなわち、カザリは……キュゥべえを体内に取り込んだことによって特性を引き継ぎ、普通の人間から目視されることが無くなったのだ。「カザリだと? 一体どこから攻撃したんだ……!?」驚愕顔の後藤さんの反応も、マミの言葉から全てを察した様子の映司も。現在進行形で、カザリのことが全く見えていないのである。これは、あまりにも過酷な状況であった。先程まで紫のオーズであった映司も見えていなかった事から察するに、おそらくカザリの纏う迷彩は物理的なものでは無い。多種多様な感知器官を備えているオーズが警戒心を高めていたのなら、高々光学迷彩程度の偽装を見破れない筈も無いからである。間違いなくキュゥべえの不可視化機能の流用なのだが、そうだとすれば、かなりの確率で『観測者の持つ因果の量』に依存するシステムだと見るべきだ。おそらく、キュゥべえを目視できること自体が、魔法少女候補生としての資質を量る基準の一つなのだろう。今までキュゥべえを当たり前のように見てきたマミは気が付かなかったが、魔女とキュゥべえの不可視化機能の間には歴然たる格の違いがあったに違いない。普通の人間でも、メダルを持っていれば、魔女を見られる程度の因果を手にすることは出来る。だが今思えば、メダルを持っているだけの人間がキュゥべえを見たという話は、マミは聞いたことが無いのだ。現に映司等は、キュゥべえを取り込んだグリードを見ることが出来ていない。しかも、そんな驚異的な迷彩能力を得てしまったのが悪辣なカザリであるというのが、最大の難点であった。身体の色合いを黄に深めたカザリは、おそらく先程映司から奪った最後のコアを以て、完全態へと復活を遂げたと思われる。縮れ毛のようだった髪は、いまや神話のヘビ女のそれのように、うねりながら空中を漂っていて。その形態変化は、メズールが液状化能力を得たのと何処か似た雰囲気をマミに感じさせていた。直感的に、分かった。カザリもまた、失われていた完全な力を取り戻したのだ、と。一方、人間側の置かれた状況は、最悪もひとしおだった。映司と後藤はカザリを目視することも適わず、実質的に戦えるのはマミ一人。先程の騒動を聞きつけて佐倉杏子か暁美ほむらも駆け付けるかもしれないが、それだけの人員でカザリを退けられるものなのか。……絶望の足音は、刻一刻と存在感を増していた。・今回のNG大賞「よし、火野! 俺達も今からキュゥべえを食べるぞ!」多分、人間には無理だと思います。良い子の皆は絶対にカザリさんの真似をしないでください。「どうやって探すんですか、後藤さん……」そういう問題でも無い筈だ、映司……。「佐倉さんが、キュゥべえは筋張ってて不味いって言ってたわよ」・公開プロットシリーズNo.134→カザリ×キュゥべえ