郊外にひっそりと佇む、一邸宅を目指して。ガメルは……ただ、足を進めていた。オーズから手に入れた青いコアメダルを、最愛の人へと届けるために。従来のガメルならば喜び勇んで駆け足に帰還を遂げた筈なのだが……不思議と、今のガメルの歩みは鈍かった。脚だけに限らず、身体全体の動きが重い。普段からガメルの動作が鈍重である事を考慮に入れても、尚不自然なほどに。重要な何かが……ガメルの腹の傷から溢れるセルメダルよりも大事な代物が、半数近くも抜け落ちてしまっているからであった。当たり前というべきか、いくらガメルが完全態とはいえ、巴マミやオーズの大技を幾度も受けて損壊が皆無であったはずも無い。ガメルが負った傷は……既に、修復不可能なものとなっていたのだ。普段から不鮮明な情報しか齎してくれない五感は、もはや半ば世界を中継する作業を放棄しつつあって。それでも、ガメルには見えていた。たった今ガメルが開けた扉の向こう側に、ガメルの愛しい人が居るという光景が。「めず、うる」と同時に、ガメルの四肢はその機能を失ってしまっていた。どちらの方向に地面があるのか、それさえも判断できなかった。重力を操るグリードである筈のガメルが……もはや、大地の力を感じることも叶わなかったのだ。既に周囲の何もかもが分からなくて。そんな中でもガメルは、メズールがガメルの傍に駆け寄ってきたように思えた。……彼女が何を言っているのか、全く耳に入って来ない。「めだる、とって、きた」青のコアメダルを手渡されたメズールは、きっと喜んでいるに決まっている。そして、いつものようにガメルを愛でてくれる。そう、ガメルは信じて疑わなかった。――ありがとう……ガメル。今は、ゆっくり眠りなさい。メズールの膝の上に倒れ込んでいるそれは、既にグリードでは無くメダルの塊だった。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百三十三話:死を解する獣「戦争でもしたのかよ……?」佐倉杏子が現場へと辿り着いての第一声が、それであった。この夢見公園が閑静な住宅街の一角であったのは既に一週間以上前の過去の話ではあるが、それを踏まえても、この土地は荒れ過ぎていた。具体的に言うと、火の海が広がっている程度には。いつものように立ち食いに励んでいた杏子には、特に連絡は入っていなかった。念話は大体の相手の位置が分からないと通じないため、所在地不定の杏子にはマミの放った救援要請は届かなかったのだ。それでも、爆炎と地響きがあがれば、そこに戦闘が発生している事は明らかな訳で。特に、暁美ほむらさんが時間魔法を駆使して十数本のミサイルを打ち込んだりすれば、悪目立ちするのも当然と言えた。「ある意味、戦争よりタチが悪いかもしれないわ……」そして、佐倉杏子の呟きへと応答をみせてくれたのは、頼れる先輩魔法少女であった。際立った外傷こそ負っていないものの、所々に瓦礫や爆炎を浴びたと思しき跡が見られる辺り、敵は余程のつわものであったらしい。他の男二人も、似たような状況と見える。……暁美ほむらさんだけは、何事も無かったかのように髪を梳きあげていたが。「今日だけで何人死んだか……」後藤によると、公園へ誘導される前に暴れ回っていたガメルによって、相当数の犠牲者が出たのだという。冷たいセルメダルの山へと練成されてしまった人間達は、元には戻らない。ガメルに触れるという、たったそれだけの過程で、人間達は物言わぬ無機物へと変えられてしまったのだ。「今回は私の時間魔術が効いたけれど、こんな事が何回も成功するとは思えないわ」ガメル攻略の鍵は、ほむらの時間魔法であったらしい。マミとオーズが力技でガメルから抵抗力を失わせて、ほむらの魔法と兵器にて一気に勝負を決めたのだとか。だが、それも一回こっきりの手でしか無いだろう。今回の作戦はガメルが鈍重で頭脳もあまり発達していなかったからこそ通じたのだ。カザリやアンクならば、むざむざと身体の中に侵入されるような隙を見せる筈も無い。「……俺達から仕掛けるしか無い」したがって……まず、グリードが完全態になることを許してはいけない。誰もが、映司の言葉の意味を理解していた。グリード完全態がもたらす被害を鑑みれば、尚更である。ガメルの及ぼした被害は甚大であり、アンクも人間達に致命傷となり兼ねない炎を浴びせた経緯が既にあるのだ。加えて、普段からヤミーを作って人命を脅かしているカザリ達なら、更なる悲劇を生み出す事は想像に難くない。かつてアンクを始末されそうになった時には悲嘆を見せた映司だが、今回ばかりは状況が状況だった。というよりも、一時的にでもアンクを保護していた過去を持つ映司だからこそ、グリードを止めなければならないという思いも強いのかもしれない。「あのアンクってのは、アタシ達に攻撃してきた時はコア7枚だっけ? あのレベルの怪物が集まってる所に踏み込むよりも、何とか一体ずつ引き剥がして今回みたいに袋叩きにした方が良いんじゃないの?」……一方、杏子の口から飛び出した言葉は、現実主義者ここに在りといった具合であった。杏子自身はガメルの完全態を見損ねてしまったが、赤コア7枚の状態でも恐るべき威力の炎を生み出したアンクを、杏子は目撃したことがあるのだ。そんな怪物が3体も集っているアジトへ突入するよりは、もっと良い方法があるに違いない。更に言えば、この場の人間達は未だ与り知らぬことだが実はウヴァが復活しているので、屋敷に常駐している怪物は3体では無く4体である。「アンクやカザリ相手だと難しいでしょうね。メズールも無理そう……残ったグリードは皆、力だけじゃない相手ばかりよ」ところが、マミからの人物評を聞く限りだと、グリードの中にも頭脳格差があるのだろうか?杏子はメズールというグリードには心当たりが無いのだが、マミはグリード達の性格を把握する程度の付き合いはあるらしい。尚、クドいようだが人間達はウヴァさんの復活を知らないので、悪意をもって会話からウヴァさんを省いている訳では無い。「通信の魔法で一人ずつ誘き出すのは? 『一人で来い。さもなきゃ、お前のメダル割るぞ!』ってな具合にさ」「……何だかセコいな、佐倉。まるでトーリの奴のようだ」もし杏子が悪の組織の怪人だったら、多分その念話を繋げた時点で手元のコアは砕き終えているに違いない。後藤さんの呆れたような突っ込みに若干の居心地の悪さを感じながら。しかし杏子は、提案して良かったと思えていた。というのも、この場の面々が頭突き合わせて考えても、精々敵のアジトに奇襲を仕掛けるぐらいが関の山だろう、と感じられたからである。頭の出来という問題では無く、素直さという観点からの発想であった。騎士道精神と言えば格好がつくのかもしれないが、おそらくマミや後藤はあまり卑怯な手を率先して使おうと思考できる人間では無い。むしろ、マミさんが嬉々として相手に脅迫念話を送りつけ始めたら、それはそれで杏子としては嫌なものがある。例えるならば、戦隊ヒーローのレッドが敵幹部をボコりながら『どうした! それで終わりかァ!?』と叫んでいる光景に通ずるものがあるだろう。兎にも角にも、そういった汚れ役的な提案を出すのは自分が適任だ、と杏子は思えるようになっていたのだ。強いて言うならば火野映司という男も割と搦め手に精通している印象を与えるが、卑怯な手をあまり使いたがらないマミや後藤の前では、映司も提案を躊躇ってしまうのだろう。そして、正攻法気味のパーティの中だからこそ、杏子はその中に居場所を見出しつつあって。杏子がそんなふうに思えるようになった原因は……ひょっとすると、頼り無い後輩にあったのかもしれない。あの蝙蝠娘は、奴自身が戦闘において殆ど役に立たないという事を知っていた。それでも、その場その場にて『出来る事』を見つけて、結果的には錬金術師騒動や美樹さやかの一件を乗り切ったのだ。自分だからこそ出来る事があれば、集団の中でも不安を感じずに済む。真っ直ぐに輝いている面々の中に居るから、違う視点で物を見られる自分自身に自信が持てる。「今俺の持ってるメダルは黄色と緑だけだから、呼び出すならカザリしか居ないか……」「私の中の赤いコアは摘出方法が不明だから、仕方が無いわ」いざ作戦を固めようと思ったら予想外に材料が足りなかった、という状況の一団を眺めながら。この場に居ない後輩について、杏子は考えを巡らせていた。……そういえばトーリの奴は何処にいるんだろう、と。……ガメルの残したメダルを手に屋敷を後にしたメズールを、よそに。「で、白饅頭どもはガメルに、『願い』を使った攻撃はしたのか?」情報交換を始めたのは、この邸宅に住まう4名で。いわずもがな、家主の真木博士と、赤黄緑のタトバグリード3体である。人間の姿を借りた怪人達が、世界を滅ぼす狂科学者の元に集っているのだ。最初に口を開いたアンクに対して、返事を見せたのは……黄色のグリードのカザリであった。「奴らは動いてないみたいだね。あのままだと、この星ごと滅びそうな勢いだったのに」正直に言って、人間達がガメルを倒せるとは、カザリも想像していなかった。ましてや、白い宇宙人たちがそれを見越して沈黙を決め込んだ、なんて事が有り得るのだろうか。こうなれば、『願い』による完全態グリードへの攻撃に現実的な可能性は無いと見た方が良さそうだ。「どうも、お前達のやり方はまどろっこしい。こういう事は、本人に直接聞けば良いだろう?」そして、神聖なるタトバの順を守っている訳では無いだろうが、カザリに続いてウヴァも意見を発してくれていた。アンクやカザリとしては、それが出来れば苦労は無いだろう、と突っ込まざるを得ない。というか、突っ込もうとした。「やぁ」……ウヴァがその手に吊り下げた一体の白猫モドキを目の当たりにするまでは。「……えっ?」「……あァ?」不覚にも、時間が止まったように感じてしまったカザリとアンクであった。ウヴァがしたり顔で吊し上げているのは、話題の中心人物に他ならない。白い猫のような身体に、耳から溢れた無駄毛が邪魔臭そうなその風貌は、間違いなくインキュベーターそのものである。いったい、ウヴァは今までどこにキュゥべえを隠し持っていたのというのか。「……私に相談も無く部外者を入れるのは感心しませんね。重要な情報を聞かれたらどうするつもりですか」そういう問題では無い筈だ、真木博士。もちろん情報や技術の漏洩は、世界中の悪の組織がそろって頭を痛めている問題には違いないが。真木自身の肩に乗った不気味な人形へと視線を戻す前に、もっと何か突っ込むべき点があるのではないか。「それがインキュベーター? 初めて見たよ。どうやって捕まえたのさ?」「俺が、奴からヤミーを作ったからな。気配で分かる」具体的に言うと、ヤミーのセルメダルが増えた時に、その気配によって位置情報も判明するという具合である。ガメルが人間達と戦っている間は、魔法少女達が継続的に魔法を使っていた筈だ。当然、それに伴って蝙蝠ヤミーのセルメダルも増えている訳で。その時間を狙って、ウヴァはキュゥべえを捕獲したということなのだろう。「いや、ヤミーを作るにしても、まずそいつらを見つける方法が無いとダメでしょ?」「それは……企業秘密だ!」「なるほどなァ……」ドヤァ! という擬音が聞こえそうなイイ顔で答えたウヴァに対して、アンクとカザリは的確に情報を読み取っていた。要するに最初は偶然見つけただけなんだろうな、と。全くの大正解であることは、言うまでも無い。「では、単刀直入に聞きましょう。インキュベーター君。グリードの完全態を『願い』によって倒すためには、どの程度の人的資源が必要なのですか?」真木清人の眼鏡に映る白色の宇宙人は……一欠けらたりとも、動揺など見せない。質問の内容を予期していたか、そもそも驚くという感情自体が存在しないのか。「平均的な契約者がおおよそ八千人ぐらい居れば、その因果を束ねて『願い』を使うことで、君達の完全態の一体を倒せるぐらいかな」つまり、ほぼ不可能と考えて差し支えないという事だろうか。魔法少女の資質を持つ人間がどの程度の割合で存在するかは不明だが、それだけの人数の統率をとるのは並大抵のことでは無い。しかも、面子の大半は思春期の少女達である。そんな集団を束ねるなど、容易な筈も無い。「……嘘を吐いてるんじゃないの?」「僕にはそんな機能は無いよ? 日常的に嘘を吐く君達の生態を、興味深いとさえ思っているぐらいだからね」キュゥべえが話を盛っているのではないか、とカザリが探りを入れてみるものの、成果は芳しいものでは無かった。どうも、この宇宙人の考える事は推し測り辛いところがあるのだ。全体的に可愛げのあるフォルムをとっている筈なのに、その深紅の瞳はどこか無機質なガラス玉のような印象を与えるのである。まるで……真木博士の肩に座している色白の人形のように。「彼が嘘を言っていないと仮定しても……彼は『平均的な契約者』が八千人としか言っていませんよ」「ドクター、どういう事だ?」眼鏡の奥に光を見せながら、真木清人が相も変わらず淡々と突っ込みを入れていて。真木の言葉の意味が分からずに質問を発したのは……やはりと言うべきか、ウヴァであった。物怖じの一つも見せずに知識を欲する姿勢は、評価に値するのだろう。おそらく。「つまり、『平均的』じゃない契約者なら、一人でもグリードに対抗できるかもしれないって事だろ」「なるほど。油断ならない奴だな。インキュベーターというのは……!」インキュベーター相手に油断している奴なんてお前ぐらいだ、とは言わないのが、グリードのなけなしの優しさに違いない。単に放置されているだけかもしれないが。まぁ、一応説明してくれたあたり、アンクには同盟者の立場を尊重する意思はあるらしい。「でも、そんな素質を持った人間が居るなら、ガメルが完全態になった時に使ってる筈じゃないの?」「そいつを使えない理由があったか、本当にそんな素質を持った人間は居ないのか。まぁ、その白饅頭が聞かれて素直に答えるとも思えないがなァ」確かに、カザリの言うことはもっともである。キュゥべえさんはこの地球に資源採集に来ているのだから、人類が滅んだらキュゥべえも困るはずだ。にもかかわらず、ガメルが暴れた際にはキュゥべえはそんな人材は使われなかった。という事は、やはり魔法少女の願いを使ってグリードの完全態に対処するのは不可能なのだろうか?ところが、カザリは何となしに、アンクの言葉から別の意図を感じ取っていた。アンクが規格外な因果を持った人間の存在を知りつつ、他のグリードがその情報を得ることを懸念しているのではないか、と。そのために、『聞いても無駄だろう』という予防線を張っているのではないか、と思えてしまったのだ。「で、そんな規格外な人間は居るのか?」「ボクが今まで契約した中には、そんな前例は一人も見た事が無いね。未来の事は分からないけど」……まぁ、そんなカザリの疑問など知る素振りも見せないウヴァが、堂々とキュゥべえに尋ねた訳だが。そして、結果は……カザリの疑念を拭い去るものではなかった。むしろ、キュゥべえの言葉の意味は露骨だと、カザリには思えたからだ。すなわち、キュゥべえは既に資質を持った人間を見つけているのではないか、という事である。さらに、アンクがその事を隠さなければならないとすれば……「じゃあさ、インキュベーター。例えばアンクが使ってるその子が契約したら、僕達は最大でどれぐらいの損失を被るの?」有り得る可能性は……アンクが憑代として使っている一人の子供の存在に違いない。カザリとて、不自然に思ったことが無かったわけでは無かった。どうしてアンクは不便な人間の身体を使っているのか、と。しかし、アンクが鹿目まどかの素質を知っていたのだとすれば……話は繋がる。おそらく、鹿目まどかの存在自体がアンクの切り札なのだ。「分からない。ボクもこんな大きな因果を持った子を見たのは初めてだ。何が起こっても不思議じゃない」「へぇ……?」まさか、たまたまアンクが憑いた少女が規格外の素質を持っていたという事も、あるとは思えない。八千人分以上の因果を持った逸材を見つけるなどという偶然を、信じられる筈も無い。どうやら、メダルの枚数ばかりでなく情報という面においても、アンクは他のグリード達に先んじていたらしい。もちろん、カザリとしてはその状況を快く思える訳が無かった。すぐさまアンクの排除に走る訳でも無いものの、不信感は拭い切れない。「アンクが操った状態で、その人間をお前と契約させる事は出来るのか?」「無理だよ。魂が同意してくれないと、どうにもならない」魂が同意するという発言の意味は、グリードとしては若干測りかねるところではあった。まぁ、アンクが自由に願いの力を使える訳では無いと分かっただけでも収穫だったのだろうが。「……もう、良いでしょう。完全態のグリードを『願い』の力によって倒すのは不可能です。むしろ……単純な相手の能力と戦力で対処される方が問題だと言えます」そして、話の内容の修正を促したのは、やはりというべきか真木清人であった。自身の肩に乗せた不気味な人形から視線を外しつつ、グリードの面々へと注意を喚起したのだ。「はッ。ガメルは、盾のガキの能力を理解してなかっただけだろ。俺達が同じ失敗をするかよ」「仲間の命を簡単に捨てるなんて、酷いね」おそらくガメルは、メズールから暁美ほむらの毛髪を分け与えられていたのだろう。だが、ガメルはその意味を理解できていなかったに違いない。若しくは、ガメルの頭脳の出来を理解していたメズールが説明を端折った可能性もあるが。……そこに苦言を呈したのがキュゥべえさんだったというのが、色々と救いが無いところなのかもしれない。「彼は良き終わりを迎えたのですよ。この世界を美しいうちに終末へと導くための、ね」「終末思想も、そこまで突き詰めるのは珍しいよ。ボク達は、生物の本質は種の維持にあると思うんだけどなぁ。その辺りは価値観の相違だね」種の維持のために同胞を犠牲にする、というのならば、おそらくキュゥべえも理解が及ぶところなのだろう。現に、暁美ほむらに射殺される危険が大きくとも、キュゥべえは見滝原周辺の監視人員を強化したことがあった。結果的に見滝原近辺のキュゥべえの死亡数は跳ね上がったが、それは必要な犠牲と割り切る他無い。全ては、宇宙のエントロピーが極大となるのを防ぐための、やむを得ない犠牲なのである。「でも、さっきのメズールっていうグリードは、仲間の死を納得できていないんじゃないかい? だから君達も、ガメルを使った今回の実験を事前にメズールに教えなかったんだろう?」……そのキュゥべえの言葉を聞いて、アンクが少しだけ目を細めた。そう、真木清人には思えた。それが意味するところにも、当然のように真木の理解は及んだ。そんな中、他のグリード二体は、キュゥべえへと言葉を返していて。「情や愛っていうのは、生き物が子孫を残すためのシステムだよ。グリードのアレは人間の真似事……お遊びみたいなものさ」「メズールに教えなかったのは、その必要が無かったからだ」グリードに、愛は無い。自分自身にとって得になるかどうか、それだけだ。アンクとて、そんな事は分かっている筈なのだが……どうも、彼は人間に馴染み過ぎたのかもしれない。真木清人の眼鏡からは、そう見えた。「インキュベーター君。グリードは……『死ぬ』のではなく『消える』のですよ」「どっちも大して変わらないと思うけどなぁ。変なところに拘るんだね」真木博士は、相変わらず視線を人形へと向けていた。そして言葉のうえでは、インキュベーターに話しかけていた。しかし、真木の眼が見ているものは、人形と宇宙人のどちらでも無かった。メダルの器となって世界を滅ぼす可能性をもった存在へと、その眼差しは注がれていたのだ。真木達にとって重要なのは、完全態以上のグリードはインキュベーターによる妨害を受けないという事。その一点でしか無いのだ。かくして……人の皮を被った異形達の会合は、収束を見せた。各々に情報と確信と、えも言われぬ感覚を残しながら。「そういえば、真木。お前、その白饅頭が見えんのか?」・今回のNG大賞「それがインキュベーター? 初めて見たよ」「そうだよ! ボクは銀河系イチのセールスマン、QQキュゥべえ! 魔女を使ってチーキュを花火にしにきたんだ!」・公開プロットシリーズNo.133→ガメルは漢だった。