「さやかちゃん……! 本当に、良かったっ……!」上半身を起こした美樹さやかへと、鹿目まどかが泣きついていて。他の面々も涙を誘われている、と火野映司からは見えた。座り込んでさやかの手を取っているマミは……まどかに先を越されなければ、さやかに泣きついていたのかもしれない。一歩引いて見ている後藤も、どこか鼻声のままで。一同に背を向けて、ちらちらとさやか達の様子を窺っている杏子は……ひょっとすると、涙を隠しているつもりなのだろうか。そして……この場に、もう一人。結界が失われてから合流した魔法少女一名が、その光景に目を見開いていた。「……まさか、本当に成功させるなんて」言うまでもなく、暁美ほむらである。その様子は、何処か混乱しているようだ、と映司は思った。やはり、ほむらはあまり成功率を高く見積もっていなかったらしい。思えば、呉キリカが魔女化した時にも特に反応を見せなかった暁美ほむらは、おそらく魔女は倒すしかない存在だと割り切り終えていたのだろう。それが覆されて、思考が乱れているに違いない。一方の映司も、さやかの復活を喜びながらも、その傍らで別の事柄に思考を割いていた。気絶したままライドベンダーの傍らに座らされているトーリの、今後についてである。グリーフシードにエネルギーを注ぐ作業において、トーリは一度さやかへと融合するという工程を経ていた筈だ。その経過に何の意味があるのか、映司には分からないが……そんな作業が出来るのは、トーリぐらいのものだろう。となれば、魔法少女達は……遠くない未来に、トーリの力を使って人間に戻る事を望む日が来るかもしれない。しかし、それが無事に為されるとは、映司には到底思えなかった。というのも、今回のトーリの成功は、数万にも及ぶ圧倒的な量のセルメダルを前提とするものであったのだ。今回はカザリが美樹さやかからヤミーを作り出したために、そのセルメダルを充てる事が出来た。だが、そんな量のセルメダルがそう簡単に手に入る筈も無い。また魔女化直前の魔法少女から魔女を作れば良いのかもしれないが、その作戦にも穴はある。さやかの一件ではカザリを首尾良く撃退出来たが、そもそもグリードにセルメダルを回収されてしまう危険性もゼロでは無いのだ。更に言うと、セルメダルを得るためには根本的にグリードとヤミーの存在が必要であり、オーズが彼らを根絶したら、魔法少女を人間に戻す術も失われてしまう。つまり、魔法少女は人間に戻るために、グリードを利用せねばならない。想定されうる最悪の場合として、オーズ対魔法少女という構図があり得るという訳だ。もちろん、マミ達が即座に敵対するとは映司も思っていないが、そういう魔法少女が出て来るのは時間の問題だろう。もしかしたら、鴻上財団に回収されているセルメダルならば、マミ達の内の一人ぐらいを人間に戻すだけの量は確保できるのかもしれない。ガラの一件の際に財団の身入りがどれだけあったのかは分からないが、鴻上会長ならば有り得ない話では無い。しかし流石に、眼前の魔法少女3名全員を人間に戻すだけの貯蓄があるとは、思えなかった。「パンツマン。アンタも、ありがとう」それ、でも。他の面々に一通り礼を述べて映司へと声をかけてきた美樹さやかの姿を視界に収めて、映司は思う。今の、この一時だけは……何も考えずに美樹さやかの復活を祝おう、と。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百二十七話:本当に裏切ったんですか再会を喜ぶ面々も、ようやく一段落を迎えて。魔法少女達も落ち着き、後藤がライドベンダーによる美樹さやかの送迎を提案した頃。鹿目まどかの身体を一時的に借りたアンクが、映司へとメダルを返すように求めてきていた。おそらく、今回アンクから追加で渡された青コンボセットとコンドルコアの事だろう。なので、映司が自身の懐に手を入れて、コアメダルを取り出そうとしたところ……「アンク……?」アンクが、その右腕を映司の懐に突っ込んで来ていた。いきなり何を始めたのか、と映司が思う暇も無く、アンクは素早く腕を引いて、お目当てのモノを握り込んでいて。真赤な指の間から輝く、モノ。それは……6枚の、鳥類コアであった。まずい、と映司が思った時には、既に全てが遅くて。次の瞬間には……熱風が、辺りに撒き散らされていた。その場に居た面々は弾き飛ばされ、一番近くに居た映司もその例外では無かった。そして、その暴風の中央には、赤い腕を翳したアンクの姿があって。「よく、あの鬱陶しい偽物の力を使い切ってくれたなァ……!」まさに今、その腕に握られた6枚の赤コアがアンクへと吸収されていった。アンクに取り込まれまいと抵抗していたロストの意識が、先程のギガスキャンの際のエネルギー消費によって失われたため、アンクは自色コアの取り込みが可能となっていたのだ。もっとも、アンクがコアの取り込みが不可能である理由を人間達に話していなかったために、映司はアンクが突然力を取り戻すという事態を先読み出来なかった訳だが。「まだ7枚だが……ようやく『復活』だ」直後、アンクの背中からは半透明な翼が具象化していて。鹿目まどかのものであった外見は……強固な肌と嘴を際立たせた怪人へと、姿を変えていった。火野映司は、その怪人の姿に見覚えがある。いつの日か夢見公園を襲撃してきた鳥人と、目の前の真赤な怪人の姿は瓜二つだったのだ。だが、先日の鳥人は右腕と右顔面の一部が失われていたのに対して、鹿目まどかを核としているアンクの姿は……『完全』であった。先程まで右腕だけしか無かったアンクが、身体全体を取り戻したのである。「これで、もう……お前達を使う必要も、無い!」「まどかっ……!」咄嗟に声をかけた暁美ほむらの声は……而して、目の前の怪人を人間に戻すには至らなかった。今までなら、まどかの意思によってアンクを制する事が出来た筈なのに。おそらく、アンクが力を取り戻したことによって人間に対する支配力も増したために、鹿目まどかによる抑え込みが効かなくなったのだろう。「みんな、逃げるんだ! 変身っ!!」『シャチ ウナギ タコ』映司には……アンクの次の行動が、手に取るように分かっていた。火炎弾を使って人間達に攻撃するのだろう、と。だからこそ、アンクがその腕を振り上げる前に、映司は変身する選択肢をとっていた。加えて、アンクが炎弾を打ち出すと同時に、オーズも水棲コンボの頭部を構成するシャチヘッドから水流を噴射していて。冷水にて灼熱の炎を掻き消して、そのままの勢いでアンクへと吹き付けたのだ。そして、水鉄砲の直撃にて怯んだアンクが、辺りに立ち込める水蒸気を払い除けた時。既に人間達は、退散を終えた後であった……。「そんな事があったんですか……」……というのが、全てが終わってから目を覚ましたトーリに告げられた、事件の顛末であった。仮面ライダーと魔法少女の一行の集った河川敷にて。表情を曇らせた面々が説明してくれた内容は……トーリでも事態が深刻だと分かるものだった。「というよりも、その状況でワタシが生きていられたのが驚きですよ」「火野さんが時間を作っている内に私が運んだのよ」「っていうか、トーリちゃん。自分がメダルを持たされてる意味を分かってたんだ……」「何だそりゃー? そもそも、さっきのアンクって奴はあんた等の味方じゃなかったのかよ?」トーリの意外な一言にささやかな驚きを進呈している映司やマミの反応を見ても、杏子には何が何やらである。杏子としても、鹿目まどかとアンクの関係には、何か込入ったものがあるだろうとは思っていた。だが、先程アンクから放たれた攻撃は、直撃すればただでは済まないものである事は明白で。オーズの咄嗟の判断が無ければ、防御手段の無い美樹さやか辺りは酷い事になっていたかもしれない。「俺がオーズの力と知識を得る代わりに、俺はあいつのメダル集めを手伝ってやる……そんな関係だったんだ。俺とアンクは」更に聞くところによると、アンクは鴻上財団との間でライドベンダーやカンドロイドの使用料として、高利のセルメダルを要求されていたらしい。そこで、アンクは契約の抜け道として、トーリにセルメダルを一時的に保管していたのだとか。感慨深げに語る映司の言葉の裏にあるのは……物寂しさや懐かしさといったところだろうか。「なるほどねー。それであのアンクってのは、裏切る時にトーリを始末してセルメダルを回収する予定だったって事だな?」「佐倉さん。もう少し、言い方があると思うわよ……?」「まぁ、マミさんじゃなくてワタシに預けた時点で、そうだろうとは思ってましたけど……」ぶっちゃけると、防衛能力面から考えたら、マミに持たせた方が良いに決まっている。トーリは飛んで逃げる事が出来るが、総合的な戦闘能力ならばマミに軍配が上がるのだから、マミにセルメダルを保管させた方が安全なのだ。にもかかわらずアンクがトーリを選んだのは……アンクが来たる離反に伴ってセルメダルを回収する際に、抵抗されると面倒だったからという事なのだろう。鳥類グリードであるアンクは復活した時点で飛行能力を手に入れるので、トーリの飛行技能がアドバンテージでは無くなるという見込みもあったに違いない。まぁ、今回は映司が迅速な判断を以て対処したために何とかなったが、アンクがこのままセルメダルを諦めるとも思えない。ついでに言えば、アンクのクジャクコアを持っている暁美ほむらも、狙われる可能性が高い。「……火野さん」「……分かってる。こうなったからには、俺があいつを止めるよ」そして、マミと映司の間に流れた簡潔な会話の意味は……おそらく、誰にも伝わらなかっただろう。この二人が、とある約束を交わした事を知る人間は誰も居ないのだから、当然である。奇しくも、その約束が為された場所は、現在地と同じ河川敷であったりして。かつて巴マミは、アンクに手を出さない事を火野映司に宣言したことがあった。その条件として、アンクが人間に牙を剥くまで、と付けていたのである。「美樹……大丈夫か? お前としては、目を覚ましてからいきなり色々な事が起こって、整理がつかないところがあるんじゃないか?」一方の後藤は、先程から言葉を発さない美樹さやかへと、心配を向けているらしい。おそらくさやかが混乱しているだろう、と思って、後藤なりに気を遣っているのだ。「そういう訳じゃないんだけど……ちょっと引っかかる事があって、さ」すると、さやかは何かに気付いているという事を仄めかしてくれた。しかし、一体何に気付いたというのか。さやかの頭で考えても名案など閃かないだろうから、早く周囲に相談してほしいところである。「転校生って、魔法で時間を止められるよね。で、アンクは多分それに対抗する方法を手に入れたうえで裏切ったと思う。けど、それをどうやって手に入れたのかな、って」ところが。さやかの口から飛び出た疑問を聞いた面々は、言葉の意味を噛み砕くまでに数秒を要した。……特に、暁美ほむらの頭に走った驚きは、一通りのものでは無かった。確かに、狡猾なアンクならば、時間停止の攻略法も手に入れないうちに人間に反旗を翻すことは有り得ない。つまり、アンクは人間達を炎で攻撃した時点で、時間停止への対抗措置をとっていたと考えるのが妥当である。ほむらも、アンクが抵抗力を持っていると予測したからこそ、アンクが攻撃の意思を見せたあの場で時間停止魔術を使わなかったのだ。そして、結界内で暁美ほむらが鹿目まどかを庇った時には、まどかは時間停止魔法の影響を受けていた。従って、時間停止対策にアンクが暁美ほむらの身体の一部を入手したのは、アンクがほむらを結界外まで運び出した際に違いない。……まぁ、さやかの発言には、もっと重要な問題が孕まれていたりする訳だが。「時間停止……!? そんなに凄い魔法があるなんて……!」「どういうことだ、おい……」「美樹……お前はやっぱり、まだ混乱しているんじゃないのか?」ぶっちゃけると、ほむらさんの魔法の正体が口外されてしまった件について。唯一真面目にリアクションをとっている後藤慎太郎を誉めるべきなのか、さやかの発言を鵜呑みにしている魔法少女組の信頼を美しいと見るべきか。火野映司とトーリが驚かなかったのは、ほむらの魔法の正体を事前に知っていたからに違いないが。果たして時間停止魔術の存在がトーリにバレていただろうか、と暁美ほむらとしては思わないでもないが、今はそれどころでは無い。「『まだ』も何も、魔女になってた時から意識はあったよ! 転校生が時間を止めるのも、この目でしっかり見たんだってば!」更に、唯一さやかの言葉を疑っていた後藤に、さやかが堂々と言い放ってしまっていたりして。まさか、である。ほむらが止める間もなく、ほむらの重大な秘密が衆目に曝されてしまったのだ。正直に言って、宜しくない。「美樹さやか。人の秘密を勝手に公言するのは、感心しないわ……」「えっ? いやその、転校生が珍しく集団行動してるもんだから、話し合って事情も全部打ち明けてるのかな、と。……ゴメン」そして、さやかの疑問に対して、ほむらは如何なる回答を提示すべきなのか。素直にほむらの予想を言ってしまうと、それは時間停止の攻略法を広める事にも繋がる。そうなってしまうのは、好ましい事態では無い。だが、一体どう説明したら良いのか、ほむらにも分からない。「でも、あのアンクが、そんな驚異的な魔法に関して何も対抗策を持っていない訳が無いわね」「確かに、聞いただけでヤバそうな能力だもんなー?」というか、ほむらもほむらで割と精神的に余裕がある訳では無いので、対応が段々億劫になって来ていたりして。鹿目まどかが拉致されたという状況下で最も大きなストレスを感じているのは暁美ほむらなのだから、当然である。どうしたら良いのだろう。火野映司に相談すれば、何か良い切り抜け方を紹介してくれそうな気がする。だが、彼には念話が通じないので、内緒話は出来そうに無い。『トーリ。何とかしてこの話題を終わらせなさい』『えええっ!? 何でワタシに振るんですか!?』なので、会話の聞き役に徹していた蝙蝠ヤミーにストレスを転嫁してみた。突然話を振られて慌てているトーリの姿を見ると、逆にほむらの方が落ち着いてくるのだから、不思議なものである。一人だけ空気化してこの場をやり過ごそうなんて、虫が良すぎるのだ。緑ヤミーだけに。暁美ほむらとしても、こんな内通者に頼るのは嫌なのだが、消去法的に考えて他に選択肢が無いのだから仕方ない。火野映司には念話が通じず、女子中学生3名と後藤慎太郎は質問側なので、トーリ以外に利用できる人材が居ないのである。ファンガイア撲滅組織に匹敵するレベルの人材不足だと言えるだろう。『下手を打ったり、余計な事を口走ったりしたら……この先は言わせないで欲しいわ』言わせんな、恥ずかし(ry怯え上がった様子の蝙蝠娘の姿を見ていると、ほむらのストレスが軽減されるような気がするのは何故だろう。最近、新たな性癖に目覚めかけている気がしないでも無い暁美ほむらの未来は、果たして?そして、無い知恵を絞っていると思しきトーリが、思考の果てに思いついた言葉とは……「そもそもアンクさんは、ほむらさんの能力を知っているんでしょうか……?」「……そういや、そーだな」「言われてみれば、いくらアンクでも、それを知らなかったら対処しようとは思えないわよね」……ほむらとしては想定外のモノではあったが、結果は上々と言えた。ほむらは知らない事だが、トーリはカザリから時間停止魔法の存在を教えられた際に、魔法少女の疑心暗鬼を狙う作戦を仕込まれているのだ。機会が無かったためにトーリは今までにその作戦を実行していなかったが、トーリには、時間魔法の存在を知っている人間と知らない人間を見分けるという思考が存在していた。そんな中、トーリの認識にて、アンクは時間魔法を知っているとも知らないともつかない人物であったという事な訳だが。過程はどうあれ、トーリに状況の打開を命じたほむらさんの大勝利である。もちろん、ほむらはアンクの所有情報を把握している。アンクが時間停止を知っているという事実を、暁美ほむらは知っているのだ。かつてガラの魔術にて江戸に飛ばされた際に、色々と情報を交換する機会があったからである。しかし……トーリの予期せぬ発言によって、暁美ほむらの胸中には新たな疑問が浮かび上がっていた。アンクが時間停止への対策を怠っている筈は無いが、一体どうやってアンクは時間停止への対抗策を知ったのか、と。ほむらとしては、時間停止魔法の攻略法を知っている人間はかなり限定されていると思っていたのに。具体的には真木博士とカザリの反逆組と、何を考えているか分からない白黒コンビである。その二つの勢力の何れかが、事前にアンクと接触して情報を渡したのだろうか?だが、アンクが鹿目まどかよりも高位の肉体操作権限を得たのは、つい先刻の事の筈だ。果たして、おいそれとアンクが他の陣営に接触する事が出来たのだろうか?ならば、アンクが自力で時間停止の破り方を見つけ出したのか?確かに、アンクは独力で時間停止魔法の存在を看破した頭脳は持っているので、有り得ない話ではない。ほむらの思いもよらない方法で情報を得ている可能性は、否定できない。「それよりも、まどかさんをどうやって助け出すかというのが重要ですよね」一方、ほむらの悩みを知ってか知らずか、トーリが命令通りに話題を転換してくれていた。ちらりと暁美ほむらの方へと視線を回したトーリは……これで良いんですよね、と無言で聞いてきていると見える。今までこの蝙蝠女にはイラっとさせられる事も多かったが、今回ばかりはナイスプレーであったと言わざるを得ない。ほむらが慣れない笑顔を作って見せてやったら、トーリに更に怯えられたのが、地味に腹立たしいが。コイツはほむらの事を、一体何だと思っているのか。「佐倉が美樹の身体を取り返した時のように、適当にアンクに傷を作って引っ張り出せば良いんじゃないのか?」そして、トーリの誘導に乗ってくれた後藤が、一応の解決策を提示してくれた。要するに、猫科ヤミーを相手取るのと同じ戦法である。「難しそうね……私のリボンで縛っても、炎で焼き切られてしまうでしょうし」「青いオーズなら炎にはある程度耐性がありそうだし、俺が先頭に立つよ」一応、トーリも翼は特殊攻撃には強いのだが、総合的な戦闘能力の問題でオーズには遠く及ばない。なので、やはりオーズを作戦の核とするのは規定事項だろう。アンクと映司の因縁的な意味でも。「そういえば、聞こうと思ってたんだけどさ。アタシ達がコアメダルってのを身体に取り込むのはナシなのか? 一気に作戦の幅が広がるんじゃねーの?」確かに、オーズが持っているコアメダルを魔法少女達に分配して攻撃手段を広げるのは、悪くない作戦なのかもしれない。ほむらがクジャクを使って自己強化をしているのだから、他の魔法少女も同じことが出来る筈なのだ。「火野の持っているメダルに余裕がある時ならともかく、今オーズを弱体化すると、逆にジリ貧になるんじゃないか?」「確かに、パンツマン弱らせたら勝てる戦いも勝てなくなる気がする……」まぁ、ぶっちゃけると結論はそれなのだが。現在の火野映司の手元に残されたメダルは、青系3枚にライオン・トラ・バッタを加えた6枚しか無いのだ。辛うじてコンボと亜種の使い分けは出来るものの、状況は良いとは言えない。何といっても、相手はあのアンクなのだから。一応紫のプトティラセットもあるが、アレは乱発して良いものなのかという疑問も残っている。「でも念のために、実際にコアメダルを取り込んでいる暁美さんと火野さんにも聞いてみたいところね」すると、巴マミが話を振って来た。必然的に次の瞬間には、ほむらは映司と目を見合わせる事になっていて。コアの取り込みをマミ達に実行して欲しくない理由はあるので、それを伝えるべきなのだろう。ほむらはあまり饒舌な方では無いので、出来ることなら映司に率先して話して欲しいと思っているところだが、果たしてアイコンタクトだけでそのメッセージが通じるものなのか。「……実は最近、感覚器官がちょっと鈍くなっているような気がするんだ。あんまり使うと、マズい事になるかもしれない」……まさか本当に映司に通じるとは、ほむらも思っていなかったが。映司の口ぶりから察するに、おそらく感覚器官の件は黙秘しておくつもりだったのだろう。自分の命よりも人助けを優先する火野映司ならば、感覚器官の衰退の事実を墓場まで持って行ったとしても不思議では無い。おそらく今回は、マミの質問に加えてほむらの無言の催促も手伝ったために、公開した方が良いと判断を改めたに違いない。というか、それを黙秘しておくと魔法少女達がメダルの取り込みを始める危険性が高い、と映司は考えたのだろう。「って事は、もしかして転校生も、何か五感がおかしくなってんの?」「……聴覚が、少し」実のところとして、ほむらもあまり口外するつもりは無かったのだが、メダルの取り込みには明確なデメリットが存在する。メダルの力を使っているうちに、五感が少しずつ衰えていくのだ。ほむらは魔法少女の身体強化の応用で視力を矯正した経験があるので、聴力の矯正にもそれほど苦労はしなかったが。しかし、魔法による矯正が効かない火野映司は、いったいどのような状況なのだろうか。「痛覚とか聴覚はまぁ良いけど、味覚が無くなるのだけはゴメンだなー……」その辺りを自分で選べないのも、地味に痛手である。しかも、自分の意思でメダルを摘出出来ないのも、不便な事この上無い。映司は一応短時間ならば紫コアを取り出せるようだが、自動的に体内に戻ってしまうらしい。メダルの怪人であるトーリやアンクが、ほむらや映司の身体に腕を突っ込めば良いのかもしれない。だが、グリードのアンクは言うまでも無く、何となくトーリも機会があれば暁美ほむらに逆襲してきそうなのが不安要素だと言える。少し、あの蝙蝠ヤミーを虐げ過ぎたのかもしれない。「どの道、それは最終手段にした方が良さそうだな」後藤の言葉を最後に、議論の種は底をついていて。人間達の知恵で解決できる問題は解決を終え、そうでない問題は今後に持ち越される以外に無い。美樹さやかの復活を喜ぶ暇も無く、次の事件は既に起こってしまったのだ。アンクの裏切りに、鹿目まどかが道連れにされるという形によって。収束する話し合いを聞きながら、暁美ほむらは思った。アンクの行動を、他ならぬ鹿目まどかは一体どう思っているのか、と……。・今回のNG大賞さやかの一言によって、時間停止魔法がバレた!「人の秘密を勝手に公言するのは、感心しないわ……」「え!? 暁美さん、認めるの? 本当に時間を止められるの??」←「なん……だと……。どういうことだ、オイ……」←「何その反応!? あたしの言ったこと、実は信じてなかったの!? 結構傷付くんだけどソレ!?」「俺は最初からお前を信じていたぞ、美樹」「アンタが最初にあたしを疑ったんだろうがああああ!!?」魔法少女組から美樹さやかへの信頼があったような気がしたが、そんな事はなかったようだ……・公開プロットシリーズNo.127→最終章突入?