宙に浮いていた銀の礫が、一斉に地面へと降り注いだ。途轍もない衝撃によって上方へと舞い上がっていたセルメダルが、滝のように落ち続けていて。まるで水が岩坪を穿つような音を奏でながら、全ての悲しみの欠片が佐倉杏子を中心に散らばって行く。いつしか舞台は……一面の銀世界となっていた。ただし、雪の純白で有り得ない、本物の銀色によって。「あいつは……これぐらい泣いたのか、ね」雨を涙へと例える想像力は、人類有史より星の数ほど。杏子の呟きは……そんな、誰もが真っ先に至る連想の産物であった。もっとも、杏子の膝まで降り積もったそれは雨でも、ましてや雪でさえ無い、無機質な銀色のメダルであったが。……それを耳に挟んで、しかしトーリは思う。さやかの苦しみを食い物にしたのに、たったこれだけしかセルメダルが無いのか、と。確かに、万にも及ぶであろうセルメダルは、トーリの今まで見てきたメダルの総量にも匹敵するかもしれない。トーリの中のヤミーとしての感性は、そのメダルの海を素晴らしい宝だと主張していた。『もっと、かもしれません』だが……トーリは、心の別の場所で思ってしまっていたのだ。さやかの苦しみが、こんなちっぽけなメダルの大海で表されて良い筈が無い、と。ガラに捕まっていたトーリが助かった時、まず駆け付けてくれた美樹さやかの泣き顔が……頭から、離れない。さやかの死を聞かされた時から胸の奥に掬っていた不自然な感覚は、増すばかりだった。腕を切り落とされた時の杏子の痛みが、肉体に直接融合しているトーリには伝わっていた筈なのに、痛覚を以てしても胸の中の不快感は収まる事が無くて。現在は傷口の先にトーリの腕を具現化する事によって応急的に出血や痛みを止めているが、一時の激痛程度では、トーリの抱く釈然としない感覚は消えそうに無かった。「そうだ、早くカザリの方を片付けて、魔女の方に加勢してやらねーと……」甲高い音を立てる足元の銀海を踏み分けて、杏子はさやかの身体を担いだ。……担ごうと、した。しかし。さやかを持ち上げようとした腕は、杏子の左腕一本だけで。『……杏子さん。まずは、腕を治しましょう』どうやら杏子は、動かなかった自身の右腕が借り物だという事に気が回らないぐらいまで、精神的な余裕を欠いてしまっているようだった。杏子にしては珍しく、心が揺れているのかもしれない。思えば、マミが倒れた時の杏子にも、トーリは似たような印象を抱いたものだった。あの時よりも状況が悪いせいか、今回ばかりは杏子もあまり余裕がある訳では無いらしいが。「……それも、そうか。アタシも、一人の腕で運ぶにはちょっと重いと思ってたところさ」魔法少女の腕力で人間一名を運ぶのに窮する事は、まず有り得ない。だが、トーリも自然と杏子の言わんとするところを理解できていた。今の心境の下にたった一人で美樹さやかの躰を運ぶと、精神的に参ってしまいそうだ……という事だろうなのでトーリはとりあえず、翼を使っていつものメダル吸収を始めた。銀の海に埋まった杏子の右腕を、見つけるために。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百二十五話:Reverse / Re:birth ――相転移結界の主たるカザリは……結界の内部に起こった変化を、鋭敏に察知していた。具体的に言えば、何者かが結界の入り口から侵入した事について、である。その正体までは分からないのが不便と言えば不便だが、カザリにとってはそれ程脅威とは言えないというのが、正直なところであった。何といっても、カザリの人質作戦が有効である事は変わらないのだから。もちろん、出口の存在しないタイプの結界を張れるカザリへ挑んでくるのならば、それなりに自信を持った人間が飛び込んできたのかもしれないだが、それでもカザリの優位は簡単に揺らぐものでは無い。……と思ったら、一台のバイクがひとりでにカザリの元へと走り寄って来た。おそらく、侵入者が乗って来たライドベンダーを、囮としてカザリに突撃させたのだろう。そして、カザリはこの状況から導き出される二つの相手の思惑を予測していた。一つは、クワガタモズクヤミーが倒された時のようにライドベンダーを自爆させて黄色のボールをまとめて遠くまで飛ばすという、人間側の作戦である。更にもう一つは、カザリがライドベンダーを破壊する一手を打つ隙を突いて、カザリに奇襲が仕掛けられる可能性だった。しかし、グリード最速のカザリならば、予測済みの奇襲攻撃への対処など難しい事では無い。なので、即座に右手を振りかざして熱線放射を行い、ライドベンダーがカザリやボールに近付く前に爆破処理を試みた。「これは……!?」……が、予想外の事態は、唐突に起こった。なんと、ライドベンダーの残した爆炎の中から大量の影が飛びだしたのだ。タカ、タコ、バッタ、ウナギ、ゴリラ、トラ……色とりどりの小型ロボットが、カザリへと殺到したのだ。普段ライドベンダーに収められているカンドロイドが、纏めて起動されたのである。そして、平時はそれぞれの用途に分けて選ばれるべきカンドロイド達だが、今回はその任務は統一されているらしい。グリードの中で最優の頭脳の座をアンクと争うカザリならば、気付かない筈も無い。この人海戦術が黄色いボールを除去するためのものである事ぐらいは、自明の事として瞬間的に理解できたのだ。しかし、それに気づいたカザリがカンドロイドの排除を行うには……一手、足りなかった。「はぁっ!!」「君もしつこいね……!」カザリとほぼ同時にカンドロイドの意味を理解した巴マミが、猛然と飛び蹴り攻撃を敢行してきたのだから。手の先から伸びたリボンで進路上のボールだけを丁寧に除けている辺り、芸の細かい御方である。そして、身体を逸らしてマミの襲撃を何とか回避したカザリは……ようやく、探していたモノを見つけ出していた。ライドベンダーをこの結界に持ち込んだ侵入者が奇襲を仕掛けてくると思っていたので、その存在は予想通りというよりも予定調和というべきかもしれない。その男は、飛行している十数匹のタコカンを踏み台として、カザリの頭上に位置していたのだ。おそらく、先程のカンドロイドの大量解放は、空中の足場を作るためのものだったのだろう。カザリはその男の名前を、知らない。確か、前にライドベンダーを爆破したのもコイツだった筈だが、名前までは覚えていなかった。「……変身!」男の名は……後藤慎太郎。つい先程バースドライバーを勝ち取って来たばかりの、この場で誰よりも満身創痍な男であった。顔の青痣は色鮮やかで、服装も所々が破けてしまっている有様である。もちろん、その後藤慎太郎がたった今バースへ変身した事はカザリにとって想定外には違いない。加えて、巴マミが着地際に魔力紐で靴底にバネのような足場を生み出し、反動で再び襲い来ている様子を視界の端に収めながら。流石にコレは拙いかもしれない、とカザリは思い始めていた。何といっても、巴マミのバネによる再びの突進攻撃を回避しながら頭上からの攻撃に対応するのは、困難を極める。そして、事態は……カザリの想定を超えて悪化の一途を見せていた。「一気に勝負を決めさせてもらう!」『カッター ウィング』『キャタピラ レッグ』『ブレスト キャノン』『クレーン アーム』『ドリル アーム』『ショベル アーム』カザリがマミに対応しているうちに、人間に見合わない大口を叩いたバースがテンコ盛りになっていた。人間達がこういうバースの状態を指すのに使う言葉を、カザリは知っている。確か、『ゴテゴテな』という形容詞を使うはずだ。両足のキャタピラと腕のクレーン付きドリルやショベルに加えて、背中の翼と胸部の主砲まで追加武装を盛ったバースの姿は、まさにその単語が似合い切っていると言えた。カザリとしては、翼とキャタピラの平行使用は、あまり有効とは思えないが。しかも、カザリも途中から気付いていた事ではあったが……カザリの周囲から、黄色のボール達が姿を消していた。カンドロイド軍団と巴マミの動きによって、全ての人質玉が回収されてしまっていたのだ。そして、清水の舞台もかくやという勢いで落下してくるバースへの対処が、カザリに与えられた最大の課題であると言えた。多少カザリ自身の立ち位置を変えても、おそらくバースは翼で軌道を修正して襲い来るだろう。だが、あまりカザリが動くと、床に埋まった銃弾に巴マミが残した捕獲紐に捉えられてしまう危険が高まる。というか、巴マミが巨大砲台を取り出して、カザリの退路になりそうな空間に的を絞っている様子が窺えた。事前にカザリが地面に向かって範囲攻撃を使っていれば良かったのだが、まだ罠を一掃するほどの数が地面に溜まっていないと考えて先延ばしにしていた判断が、完全に仇となってしまったのだ。よって、カザリは……数多く存在する自身の能力の中から、重力軽減による攻撃を選んでいた。自身の真上から迫る相手からの攻撃の威力を軽減するためには、その周辺の重力を弱めるのは最善策であったと言える。そんな中、バースの落下速度は、「……っ!?」……まったく、落ちなかった。むしろ、背中の翼に付属したジェットエンジンによって推進力を加え、強引に速度を上げていた。ならば、と思ってカザリが炎弾を打ち出してみるものの、猛回転を見せたドリルアームによって強引に突き破られてしまって。その刃がぼろぼろと崩れて限界に近付いている様子に気づいたカザリには……しかし、時間が無かった。接敵までの時間が、既に足りない。目前に迫ったバースに対して、カザリは最後の寄る辺として……右腕を突き出し、放射熱線を繰り出した。バースの装甲が悲鳴をあげると共に内部からも火花を散らしている様子を、目の当たりにして。カザリは……最悪の愚行を、犯した。バースの損壊具合に安心して、巴マミからの襲撃に注意を向けてしまったのだ。崩壊寸前のバースよりも、中距離から大技を狙っている巴マミの方が危険だ……と判断して。……直後、カザリの右腕が、バースの強靭な二本のクローによって掴み取られた。さらに、拘束から逃れようと振るったカザリの左腕には、辛うじて円錐の形を保っているドリルが突き立てられていて。「シュートッ!!」次の瞬間には……超至近距離からのブレストキャノンが、火を噴いていた。まるで、何度もセルバーストを繰り返した後のような威力の砲撃が、突如として放たれたのである。バースの攻撃の中で注意すべき威力を持ったものはブレストキャノンの溜め射ちだと、カザリも知っていたが……まさかそれが瞬時に放たれるとは思ってもみなかったのだ。この時になってカザリは、ようやくバースの新形態の意味を理解することが出来ていた。おそらく、この欲張りフォームは、最初に装填したエネルギーを状況に応じて追加装備へと再配分できるのだ。だからこそ、どんな状況にも素早く対応出来るうえに、他の部位に回していたエネルギーを唐突にブレストキャノンへ集めて溜め時間を短縮する事も出来るという訳である。……などという考察を垂れ流しているカザリさんの現状は、説明するまでも無かった。両腕をドリルとショベルによって固定された状態で、向かい合ったままブレストキャノンの砲撃を喰らっているのである。いくらカザリがグリード最速でも、相手に掴まれてからでは逃げられる筈も無い。そして、バースがヤミー専門である事を差し引いても、反動を完全に抑え込んだ至近距離からの砲撃はグリードに決定打を与えるには充分すぎた。案の定カザリの胸の傷口からは、セルメダルが湯水のごとく溢れ出ていて。バースの手足の追加武装に備えられた磁力がセルメダルを吸着して回収しているのも腹立たしいところであったが、今はそれどころでは無い。目の前のバースは今の一撃にてガス欠だろうが、カザリの脅威は後藤だけでは無いのだ。「今だ!!」「ティロ・フィナーレっ!!」具体的に言うと、先程カザリの逃亡路を塞ぐために構えられていた砲台が、そのままカザリの現在地へと向けられている件について。バースを盾にするという外道戦法を真っ先に思いつくのが、カザリがカザリさんたる所以だが……生憎フル武装にセルメダル吸着まで行ったバースは、途轍もなく重かった。とても、痩身のカザリが振り回せる重量では無い。……更に言うと、対策を考える時間も、実行する時間も無い。「くっ……!」巴マミの渾身の砲撃を……カザリはブレストキャノンのせいで防御が薄くなっている傷口に食らわないことだけを考えながら、受けざるを得なかった。同時に、カザリは更なる力が自分から失われた事を感じ取っていた。必殺の弾丸がカザリを貫通することこそ無かったが、おそらく吸収していたコアメダルも何枚かが零れ落ちたと見える。……が。カザリは着弾に一瞬遅れて、ようやく脱出のための策を起動する事が出来ていた。セルメダルが零れる音に紛れて……車輪が地面を踏みしめる、ゴトゴトという小さな音が結界を揺らしていたのだ。「がはっ!?」「新手!?」具体的に言うと、トロッコに乗った使い魔が笑い声をあげながら、華麗に後藤さんへ轢き逃げアタックを成功させていた。念には念を入れてカザリが事前に仕込んでおいた、緊急時の愉快な逃走アシスト役である。元落書きの魔女の使い魔にして、今はカザリの手下をやっている便利なアッシー君であった。そんな走り屋な使い魔が、カザリをトロッコに載せて逃亡を手伝ったのだ。「逃がすと思って……これは!?」そして、マミの元にも使い魔のトロッコ軍団が殺到していた。別に、使い魔は一体ずつしか出せないというお約束など無いのだ。床に敷き詰められた緑色のルーズリーフの裏に隠れていた使い魔たちが、猛然と神風アタックを仕掛けたのである。これには流石のマミも面食らったらしく、その隙はカザリを逃亡させるには充分すぎて。結界を解除したカザリは……命からがら、撤退することに成功したのであった。変身が解けてしまった後藤慎太郎と、使い魔軍団を殲滅している巴マミと、カザリ自身が零したメダル達を、残して……。「色々気になるところはありますけれど、助けて頂いて、ありがとうございます」「ああ、それより美樹の所に行こう」一段落ついたところで、マミが後藤へと律儀に礼を述べてくれた。マミが突っ込みたいところは、何故後藤がバースドライバーを持っているのかという点がメインに違いない。きっと後藤の武勇伝を聞きたいのだろう。ひょっとすると、後藤の顔や服装に見られる肉弾戦ダメージの痕跡を気にしている可能性もあるが。もしくは、バースの損壊状況を心配されているのかもしれない。……が、後藤は今すぐにでも美樹さやかの結界へと向かいたかった。残念ながら後藤には魔力を探知する術が無いので魔法少女頼りとなってしまうが、そこは御愛嬌である。「ええ。佐倉さん達と一緒に、美樹さんを迎えに行きましょう」そういえば、佐倉杏子とトーリが、この近くでヤミーを相手取っていた筈だ。まさか合体状態の二人がヤミー一体に後れをとるとも思えないが、言われてみればあの二人は未だこちらに姿を見せていない。バース抜きで計画を練り直した際には、早く仕事を終えたチームが残りのチームに合流する筈だったのに。という訳で、杏子がさやかを誘き出したであろう場所へと、マミと後藤が赴いてみると……「これは……ヤミー一体分のセルメダル、なのか……?」「でも、これぐらいあっても不思議じゃないような気も……?」銀の海を掻き分けて何かを探している杏子の姿を、発見することが出来た。背中から生えている黒翼はトーリのものだろう。セルメダルを只管翼から収納して、杏子の探し物を手伝っているように思える。「マミ! 良いところに来た! 実はあたしの腕が飛んじゃってさー」いつもと変わらない調子で軽い声をマミへ向けた杏子は、しかしどこか影が差した様子を隠し切れていないようで。身も蓋も無い言い方をしてしまえば、空元気というヤツである。やはり辛いのだろう、と後藤としては思わずには居られなかった。「地面に落ちた腕を探してたんだけど、無限の魔力を使ってマミの回復魔法で新しく生やしてもらった方が早いと思ってたところだよ」「確かに、この量のセルメダルを収納するのは、それなりに時間が掛かりそうね……」……この足元の銀世界の全てが、美樹さやかの絶望を埋めるために生み出されたセルメダルなのだろう。既にトーリへと吸収された分を合わせれば、更に膨大な量であったに違いない。それほどまでに、美樹さやかの抱いた絶望が大きなものであったというのか。後藤が掌に掬ってみても、海はまるで底を見せる気配の無いほどに絶対的で。確かに、人間一人を本当に絶望の底に突き落としたのならば、それを埋めるためにこれぐらいの欲望は生まれてもおかしくない、と後藤を納得させてしまっていた。「……これだけのエネルギーが得られるってなら、キュゥべえの奴の考えも分かるな」「……ええ。納得は出来ないけれど、理解は出来るわね」キュゥべえの考え……?その名前は、確か魔法少女を生み出す妖精さんの呼び名だったはずだ。だが、その妖精とエネルギーに一体何が関係しているというのか。後藤としては、バースバスターとキヨちゃんの間柄と同じぐらいに無関係だと思ってしまうのだが。という訳で、魔法少女達に聞いてみると……「作戦会議中に、キュゥべえが現れたんです」その内容は、突拍子も無かった。キュゥべえは宇宙をエネルギー問題から救うために地球に派遣されたインターフェイスなのだという。そして、契約した人間が魔女化する際の希望と絶望の相転移において発生するエネルギーを集めることが、宇宙を熱の枯渇から救う手段なのだとか。ところが、美樹さやかの絶望によってキュゥべえが得たエネルギーは、雀の涙ほどしか無かったらしい。カザリがヤミーを作って魔女の欲望を満たしているせいで、キュゥべえが回収する筈だったエネルギーが横取りされてしまっているとの事だった。なので、残りの魔法少女達はそんな死に方はしないで欲しい、とキュゥべえは頼みに来たという訳である。どこまでも自分の欲と使命に忠実なヤツだ。「今思い出しても腹立つ……! 宇宙のために死んでくれ、なんて良くも抜け抜けと言いやがって!」戦闘前にそんな話を聞いたのに、よく魔法少女達は士気を保てたものである。火野映司や鹿目まどか辺りが何とか励ましたのかもしれないが。後藤としても、そんな話を聞いて簡単に割り切れるほどドライでは居られなかった。さやかが宇宙の延命のために死んだ、などと納得できる筈も無い。キュゥべえの言葉を聞いて涙を流す鹿目まどかの姿を……後藤慎太郎は、あまりに簡単に想像する事が出来た。……そして後藤は、何か重大な要素を見落としているような、気味の悪い感覚に陥っていた。具体的に何とは言えないが、重要な情報にあと一歩で手が届きそうだという予感が、後藤の中に燻っているのだ。エネルギー問題というキーワードを聞いた辺りから、だったような気がする。「……まてよ?」水素を燃焼させた場合には水と熱が生まれるが、実際には変換の際にエネルギーにロスが発生する。そのロスが積み重なる事で宇宙全体のエントロピーは徐々に増大して、やがて宇宙全体が冷え切ってしまうのだという。……だが。「そうか……! このメダルが美樹の絶望と等価値なら……!」水素に限って言えば、水から水素を取り出すこと自体は不可能では無い。水溶液に電気を流す事によって水素を発生させる実験は、おそらくどこの高校でも習っている筈だ。そして……希望から絶望への相転移によるエネルギー抽出が可能ならば、絶望にエネルギーを加えれば?変換ロスまで考えれば、実際には更なるエネルギーが必要となる可能性もあったが、それはそれである。このセルメダルの海が、インキュベーターが得る筈だった感情のエネルギーを変換したものであるとすれば、あるいは……?「美樹の絶望から生まれた分のメダルを全てグリーフシードに戻せば……!」万にも及ぶメダルを使った実験など、前例があった筈も無い。下手なグリードの懐よりも豊かなセルメダルを手にする機会など、そう有るものでは無いのだから。しかし、後藤慎太郎は至った。後藤慎太郎が認識することが出来ないインキュベーターという生物の情報を、魔法少女達から聞くことによって。さらに、魔法少女達が知る由も無い知識を加えることによって、答えを導き出した。人間達に残された……最後の希望へと。……光の道は、見えた。・今回のNG大賞侵入者の存在に気付いたカザリさん。そして、その正体は……「「「「「GAAAA!!!」」」」」トライドベンダー軍団であった。「人質の意味が無い……!?」結界の内部に大量の人質が居る事を知らない後藤慎太郎が、結界の外から大量に投入したトライドベンダーは……出番の少なさという鬱憤を晴らすかのように大暴れしたのだとか。「嫌ぁっ!!?」ちなみに、魔法少女も約一名、被害者になったらしい。・公開プロットシリーズNo.125→絶望から希望への相転移が有り得ないと、いつから思っていた?