「バースは、俺が貰って行きます」「そいつは無理な注文だ」……即答であった。この伊達の答えを、後藤とて予想していなかった訳では無い。何といっても、天秤の片腕に載っている代物は伊達明の命なのだ。そう軽々しくバースドライバーを譲ってもらえる可能性が低い事ぐらい、分かり切っていた。だからこそ、後藤慎太郎は……背中から一丁の装飾銃を取り出していた。黒を基調とした砲身に緑と銀の装甲が施された、鴻上財団特製の火器を。即ち、バースのサブウェポンとして開発された超出力銃器ことバースバスターを、である。「そいつを使って力尽くで、ってか?」確かに、この状況で銃器が出てくれば、そう思うのが普通だろう。しかし、後藤は……バースバスターの引き金に指をかけることを、しなかった。からん、からん、と。音を立てて地面を転がされたバースバスターの姿が、後藤の意思を代弁していたのだ。「俺は伊達さんと美樹を、どっちも助けます。だから伊達さんを殺すような真似はしません」後藤慎太郎は……バースバスターを放り出して、ただ伊達明へと向き直っていた。伊達とてバースバスターを向けられれば変身せざるを得なかっただろうが、それでは後藤の目的は達せられないのだ。そして、後藤の行動を目の当りにした伊達明もバースドライバーを投げ捨てた辺り、後藤の言わんとするところは伊達にも確りと伝わっているらしい。すなわち、バースを奪う過程でバースが壊れてしまっては、意味が無い。もちろん、伊達さんを救う過程で伊達さんを殺してしまっても、意味が無い。「殺さない程度に……力尽くでお願いします! 俺にバースドライバーを譲ってくださいっ!!」言うが早いか、動くが早いか。後藤の放った拳が、伊達明の顔面へと突き立てられた。伊達さんを守るために、伊達さんを倒す。その事に、最早後藤の頭に躊躇など、欠片も残っていない。「分かった! 力尽くで断るッ!!」そして、直後に返ってきた伊達の強烈なヤクザパンチを鼻頭に貰った後藤は、少しだけ思った。……やっぱり無理かもしれない、と。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百二十二話:開幕既に空気が冷え切った、夜遅くの事であった。美樹さやかの部屋の窓を、小石がぶつかる音が叩いたのは。普通に美樹宅のマンションに正面から入るには、常識外れな時間であったからだろう。もっとも、窓に小石を投げるのも、決して常識的とは言えないが。さやかが気怠さを隠しもせずに窓を開けると、路上には佐倉杏子が立っていて。案の定、着いて来い、なんて言い出す始末である。魔法少女という生物の活動時間帯としてはむしろ適正ぐらいなのかもしれないが、精神的ダメージから回復していないさやかとしては、寝直したかったりする訳で。それでも杏子の後を付いて行ってしまったのは……根負けしたから、だろうか。「で、何の用?」美樹さやかの知らぬ事であったが……杏子の話を展開する順序は、昼間に鹿目まどか等に対して繰り広げたそれと全く同じものであった。すなわち最初のカギは、さやかの魔力の発見に関して、である。さやかのものと同じ魔力を放つ結界が、とある路地裏にて発見されたのだ。加えて、現在のさやかが魔法少女装束を具現化した際には、魔力は感知されなかったとのこと。「なにそれ? 確かにあたしのソウルジェムは失くしちゃったけど、その魔女って倒したら、もしかしてあたしもヤバいの?」正直なところとして、杏子もそれは分からないらしい。かと言って、さやかが何か異常を感じていないか、と確認に来たようにも思えない。杏子の様子は、何処か思い詰めているというか、悲壮感が漂っているというか。悪い知らせともっと悪い知らせがあるんだけど、とでも言い出しかねない雰囲気を醸し出しているように思える。すると杏子は、二つ目のカギを開示してくれた。腕怪人アンクが、結界の中からヤミーの気配を嗅ぎ取ったのだ、と。しかし、それを聞いても何が何やらである。なので、さやかに残された道は、残りの一つのカギの情報を迫るのみであった。「それで、三つ目は?」「その前に、アンタに確認しなくちゃならない事がある」やけに焦らしている、と思わせる口ぶりだ。杏子は、決して他人を焦らして喜ぶタイプの人間では無さそうなのに。ならば、杏子自身も結論を言うのを躊躇っている?ずけずけとモノを言ってしまう性格のはずの杏子でさえ躊躇しているとすれば、一体どんな救いようの無い話が展開されるというのか。「アンタ、あのカザリってグリードに殺されそうになった時に、自分の大切な物が分かったって言ってたな」「……?」その通りである。さやかは、カザリと1対1の結界の中で、自分が助けても良い人間とそうでない人間の線引きが出来た。魔女になるかもしれないという臨死体験の中で、自分自身の思考に整理がついたのだ。そんなさやかの回想を待ちながらも、杏子は言葉を継ぎ足す。「アンタは……美樹さやかは、魔女になる直前に、グリードって奴らが使うらしい決まり文句を言われたんじゃねーのか。つまり……」――その欲望、解放しろ。「どういうこと? その結界の中に居るのがあたしから生まれたヤミーだから、あたしの魔力も使えるとか?」「その可能性も検討したけどな、アンクの奴と詳しく話してるうちに、この状況を作り出すのにぴったりなタイプのヤミーの存在に突き当たったんだよ」さやかの立てた仮説は、人間態の方のさやかが本体で、結界の中に居る方が従属物であるというものであった。だが……杏子達が行き当たった結論は、全く逆のそれで。「猫型ヤミーは、親の身体を操作できるんだってな。その身体に魂が無いなんて特例なら、尚更抵抗無く操れるだろうさ……!」つまり。結界の中に居る魔女の方が本物の美樹さやかで、今ここに居るさやかは……メダルの化物である、と。杏子の言っているのは、そういう事だった。「……さすがに、発想がぶっ飛び過ぎてない? そこまで言うなら、証拠はあるの?」確かに言われてみれば有り得ないとも言い切れない仮説では、ある。しかし、今までに出てきた情報から導き出されたものとしては、いささか論理の飛躍が激しいと言える。ところが……証拠を求められた杏子が一歩たりとも怯まなかった事が、さやかに決定的な敗北を教えてしまっていた。「アタシ、さ。あんたが上条って奴にバケモノ扱いされたのが、どうしても許せなくて……あの後すぐに、上条をぶん殴りに行ったんだ。その時に……聞いた」――アレは猫の化物だ! 絶対にさやかじゃない! 昨日だって仁美さんと一緒に、あの怪物に襲われたんだ!!それが……三つ目のカギだった。というよりも、杏子にとっては、それが一つ目だったのだろう。杏子達は当初、二つの先入観に支配されて、真実を見抜くことが出来なかったのだ。一つは、ヤミーがハゲタカ一体だという思いこみであった。アベックを襲っていたハゲタカが昨晩上条恭介達を襲った犯人と同一だと、根拠も無く断定してしまった事である。そしてもう一つの先入観は、魔法少女の身体が語るのも憚れる怪物であるというものだった。なまじ情報が増え、魔法少女の実態を知ってしまったがために、上条恭介の言う化物という言葉の意味を杏子達は計り違えてしまったという訳だ。さやかが魔法少女装束を具現化出来たのも、無意識の内にセルメダルを擬態させていたからなのだろう。「絶望する瞬間の魔法少女が生きてる人間を恨んで羨むなら、その欲望を食い物にしたヤミーは、さぞ育つのが早いだろうな……!」愛すべき友人達との普通の生活を望むならば、それだけでそのヤミーのメダルは増える。……更に、恋人を奪いたいという願いから恋敵を襲う事によっても。結局、カザリがさやかへと施した仕掛けは、そういうことだったのだろう。魔女を直接ヤミーの親にするのは不可能でも、魔女化する直前の魔法少女からヤミーを作れば、魔法少女が絶望した後もヤミーは活動できる、と。もちろんカザリとて成功の確信を以て行動した訳では無く、実験の意味合いも大きかったのだろうが。……違う。そう、さやかは反論したかった。だが……出来なかった。何故なら、さやかの口は、「ッシャアァァ!!」「……っ!!」人間では考えられない程強靭な剣牙を、杏子の肩口へと突き立てていたのだから。口の中に広がる鉄分の味と、杏子の苦痛に歪んだ表情が、さやかの記憶を揺り起こした。恭介と一緒に居た仁美へと、襲い掛かった時の事を。その身体はいつの間にか……毛深く覆われていて。手足に生えた鋭い鉤爪には、既に霊長目の特徴など見る影も無かった。……そうだ、あたしは。滴る血肉を啜りながら、さやかは全てを思い出していた。否、その生物は……既に『美樹さやか』では無かった。……あたしは、化物だった。「それで、僕はヤミーのセルメダルを回収しに行っちゃダメなの?」「ここで『どうぞ』なんて言うぐらいなら……最初から貴方の前に立ったりしないわ」佐倉杏子がヤミー本体を相手にしている地にほど近い、人通りの少ない通りに面した一棟の平たい屋上にて。ヤミーのセルメダルの回収に赴く筈だったカザリは……一人の魔法少女によって呼び止められていた。カザリとしては、正直に言ってあのヤミーからのセルメダルの確保を、それほど期待していた訳では無かった。何といっても、美樹さやかは現在のアンクと顔を合わせる機会が多いのだから、アンクは真っ先にさやかがヤミーの親だと気付いていた筈なのである。であるからして、ヤミーの息は元々大して長く無いと考えていたのだ。アンクがハゲタカの方に気をとられてくれれば、精々一昼夜の内に……つまり今夜にカザリが猫科ヤミーを収穫すれば、アンクにの先を越せるだろうという程度の見込みであった。「ヤミーの育ち具合に期待できそうだから、早く回収に行きたいんだけど」だが、カザリの目算を超えて育っているかもしれないヤミーをみすみす失うのも面白く無い。……そう伸びるカザリの発想は、何処までも欲望を追及するグリードの思考そのもので。「美樹さんの絶望を利用しているなら、さぞ育っているでしょうね……!」底冷えするような声と共に襲い来る突然の銃弾を目の当たりにしても、まさか退く訳が無かった。さやかを絶望の淵へ追いやったカザリに対して、巴マミからどんな感情が向けられていようとも。カザリにとっては、巴マミの銃弾を叩き落とすのも美樹さやかを絶望の底へ叩き落とすのも、そんなに違う事では無いのだ。しかし、カザリとて余裕をかましたままで居られるかと言えば、そんな事は無い。何故巴マミが一人でカザリの前に現れたのか、という疑問には、当然のように思い至っていたからである。マミの仲間の幾名かはヤミーの方にあたっているかもしれない。だが、オーズがカザリの担当につかないのは、明らかに不自然と言えた。近接戦に打って出ようとしたマミに熱風攻撃を加えながらも、カザリの疑念は消えない。人間達が何か新しい奇襲を考えているのではないか、と。棒術の如く振るわれた砲を強靭な鉤爪でうけとめつつ、その射線からも意識を外さずに、カザリは考える。この巻毛の魔法少女が、後輩を殺された恨みから感情的にカザリに真っ向勝負を挑んできたという線は、あるのだろうか?それにしては、都合よく同じ時間にヤミーが襲われているのが気になるところである。ぼんやりとだが、グリードは自分のヤミーの状態が分かるのだ。おそらく現在ヤミーは、何者かと交戦中だろう。もしや、オーズやバースをヤミーの方に配分して、マミ一人がカザリを足止めする作戦なのか?「グリードである僕を相手にするなら、オーズを充てるモノじゃないの?」「……」特に反応を見せずに魔力紐を伸ばして来るマミにとって……どうやら、カザリの質問は想定内のものであったと見える。巴マミは特に驚いた様子も見せず、淡々とカザリへの攻め手を打ち続けているのだ。やはり、何らかの考えがあってマミがカザリのもとへ来たと考えるべきだろう。怒りに燃えているようで、どこか冷静さを保ちながらカザリに反撃の機会を与えない、この魔法少女は。一体……何を、考えているのだろうか。カザリが真っ先に思い至った仮説は、人間達がヤミーの方へと戦力を集中させているというものであった。マミを足止め役に使って、速攻でヤミーを倒してそのままカザリのもとへ雪崩れ込むつもりなのではないか、と。だがその仮説も、遠方で戦闘中のヤミーの様子を大まかに察する限りでは、違うように思えた。正確に戦闘の相手方を断定する事は出来ないが、何者かと戦っている事ぐらいは気配で分かるのだ。そして、その気配はまだ継続中である。ヤミーがカザリの目算を遥かに超えて強大に育っている可能性も否めないが、さすがにヤミー一体が魔法少女と仮面ライダーを計4人も相手に出来るとは思えない。とすれば、人間達はヤミーの方にも足止め程度の戦力しか回していないのだろうか?ならば、他に人間勢が戦力を割くべき場所は……?「……もしかして、魔女の方を厚くしてるのかな? こんな事になるなら、結界の場所を把握しておくんだったよ」巴マミからの答えは、やはり返ってこなかった。まぁ、カザリとしては8割方それが正解だと確信しているので、問題は無いのだが。ちなみに残りの2割は、ヤミーが強すぎる可能性と、カザリへの奇襲用にオーズ達がこの付近に隠れている可能性である。「考えたね。親を倒せばヤミーは消える。アンクの作戦かい」……瞬間、カザリの耳元にはセルメダルの散らす音が届いていた。鋭さを更に増したマミの銃弾が、カザリの頭から伸びた縮れ毛の一本を裁ち切った音であった。その様子は……何処か、カザリの言葉が気に障ったようであった。しかし、どの部分がマミを怒らせたのだろう。「私達の目的は……美樹さんを倒す事じゃないわ」ところが、マミの言葉はカザリにとって全く想定外のそれで。しばしの間、カザリはマミの言っている意味を理解出来ずに居た。マミの言葉は、人間が魔女へと戦力を割いているというカザリの予想自体は肯定しているように思える。だが、魔女を倒す事が目的でないとすれば、一体何故結界へと戦力を割いているのか。「美樹さんの親友だった鹿目さんが呼びかければ、気付いてくれるかもしれない。……そう、佐倉さんが言い出して、皆彼女に賭けた。それだけよ」……さすがに、その答えはカザリとしては想定外過ぎた。何せ、かつてカザリがグリーフシードの現物を手に真木博士と議論を交わした際には、グリーフシードと元の魂との間に可逆性は存在しないという結論に至っているのだ。確かに魔女の原料は人間の魂に他ならない。だが、魂の加工が終了してしまった時点で、グリーフシードは単なるエネルギー収集装置でしか無くなってしまう。まぁ、魔女と化した美樹さやかがヤミーを維持できている様子を見れば、特定種の欲望は残っているようだが。「面白い発想だけど、僕としてはそんな欲望は魅力的には見えないね」確かに珍しい欲望ではあるのだが、明らかに叶う見込みの無い欲望からヤミーを作っても、効率が悪すぎる。ヤミーは親の欲望を叶えるためにある程度能力の方向性が左右されるものだが、それにしても限度というものがあるのだ。とは言え、魔法少女を探してヤミーを作るのも、魔法少女という生物の希少性を考えれば決して効率的とは言えないが。カザリとしては漸く見えてきた人間達の思惑を踏まえて身の振り方をもう一度考え直してみたいところではあった。……が、切り払おうとした弾丸がカザリの目前で爆裂した事に、少しだけ驚かされて。小さな罅が入った自身の爪を見る限りでは、巴マミはあまり気を抜いて戦える相手では無いと考えるのが妥当だろう。中距離攻撃としてカザリが繰り出した重力波さえ、巴マミは難なく回避して見せてくれて。中々に面倒な相手である、とそれが、カザリが目の前の相手に対して下した評価であった……。更に同時刻、見滝原市内において第4の戦闘が始まろうとしていた。後藤慎太郎と伊達明の戦いと同じぐらいに、互いを知った者達同士の間で。さやかと杏子の戦いと同じぐらいに、戦う事を宿命づけられながら。巴マミとカザリの戦いと同じぐらいに相容れない存在達が、戦いの場に就こうとしていたのだ。「……」誰も言葉を発さないままに、三名の人間達は、結界の最奥へと通じる薄暗い通路を進み続ける。人魚の魔女オクタヴィアの結界を、人であって人でない面々が歩を進めているのだ。魔法少女の『暁美ほむら』に、仮面ライダーである『火野映司』、そしてメダルの怪物を体内に飼っている『鹿目まどか』……それが、結界内部を進行する人間達の名前であった。何故このメンツかと言われれば、持久戦が予想される戦いに魔法少女を宛がうのが躊躇われたためである。なので、盾役の映司に説得役のまどか、緊急回避用のほむらという訳だ。道中の隊列は、対応力の高い映司が先頭に立ち、その後ろに鹿目まどかが守られ、しんがりを暁美ほむらが務めるという形となった。一見すれば、魔法少女である暁美ほむらが先頭を行った方が良さそうなものではある。しかし、ほむらが何処か戸惑っているというか、杏子の作戦に同意しつつも不安を隠し切れていない、と映司は感じ取っていたのだ。なので、少しばかり尻込みしている暁美ほむらに代わって、映司が自ら隊列の先頭役を名乗り出たという訳だった。映司としては、ほむらの心境は大体予測できていた。魔女の正体を知っても全く動じなかった暁美ほむらは、おそらく魔法少女の末路というものに対して彼女なりの割り切り方を心得ていたのだろう。それなのに杏子から成功率の低い作戦を振られて、困惑しているという訳だ。魔法少女達の作戦会議に同席した映司としては、まどかとマミが杏子に賛成するのを見たほむらが、渋々と協力を申し出たように思えたのである。ちなみに、映司の視点からこの作戦を見た場合……成功率が計れない、というのが正直な感想だったりする。ほむらの様子を見るに成功率が低そうだとは思っているものの、自分に出来るだけの事はやらなくては後悔する、という認識であった。その上でもう一つ気になるのが、隊列の腹部にて守られている鹿目まどかの様子である。映司が背後を確認するたびに、自責と萎縮を混ぜ合わせた鹿目まどかの視線が、映司へと返ってくるのだ。十中八九、戦闘要員である映司達に引け目を感じているに違いない。好きでやってる事だから気にしなくて良いよ、なんて定型句を投げかけても、おそらく納得してくれないだろう。絶対に助ける、などといった大口も、魔女の仕組みがあまり理解できていない現状では中々に苦しい。……まぁ、そういう時の誘導方法も映司としては無いわけでは無いのだ。が、今現在結界内の通路を慎重に進んでいる映司は、まだ鹿目まどかに語りかけていなかった。何だか暁美ほむらが、鹿目まどかのおどおどした態度に対して何かを言いた気だからである。おそらく暁美ほむらは、戦えない貴女自身を責めないで、的な事を鹿目まどかに言いたいのだろう。それを口に出さないのは、単なる口ベタだからか。「まどかちゃんはさ、さやかちゃんが魔法少女にならなきゃ良かった、って思ったこと、ある?」という訳で、まずは鹿目まどかに対して声をかけてみた。通路を進むペースを少しだけ緩めて、子供達に思考の余裕を与えながら。「それは……魔法少女がこんなふうになるなら、絶対に止めてたと思います」そして、返ってきた言葉も大方予想通りであった。美樹さやかの友達を自認するこの子ならば、当然の反応だと言えただろう。「やっぱり、さやかちゃんの事を大切に思ってるんだね」だからこそ映司は、思う。前衛として攻撃に晒されるであろう映司に構うことなく、まどかには魔女への呼びかけを行って欲しい、と。何となく、この子は映司が倒されそうになったらキュゥべえとの契約を考え始めそうだ、と思ってしまうのだ。映司とて易々と殺られるつもりは無いが、魔女がさやかに戻る保証も無い。「でも、私……さやかちゃんを助けようとする代わりに、火野さん達だけを危険な目にあわせてます……。私だってキュゥべえと契約すれば戦えるのに……」「さやかちゃんを助けたいのは、まどかちゃんだけじゃないって事だよ。それに……」そうなのだ。美樹さやかを助けたいのは皆同じというだけでは、まどかの悩みは半分しか解決しない。すなわち、一人だけ戦わないというまどかの罪悪感を拭い去る事は出来ないのである。だからこそ、映司は言葉を続ける。「まどかちゃんがさやかちゃんに魔法少女になって欲しく無かったのと同じぐらいに、まどかちゃんを心配してくれる人も、居るかもしれないよ」ぶっちゃけると、まどかの背後を歩いているほむらの事である。だが、出来ることなら、ほむらにはもっと自主的にそれをアピール出来るようになって欲しいものだ。……残念ながら、ほむらが何かを言いだす前に、最奥部屋の扉の前まで辿り着いてしまった訳だが。どうやら、ほむらに勇気を持ってもらうのは次の機会へと回さねばならないらしい。したがって、火野映司のすべきことは。「……変身」『タカ トラ バッタ』鹿目まどかや暁美ほむらに『次の機会』が訪れるように善処しながら戦うこと、ぐらいだろうか……。・今回のNG大賞カザリとしては、魔女を人間に戻すなんて可能だとは思えないのだが……「それで、魔女を元に戻す作戦って、どんなの?」「みんなで『ふるさと』を歌えば、美樹さんだって帰ってきたくなる筈よ!」File. もしもシリーズ構成が浦沢義雄だったらpart3この作戦が実行される場合、一番酷使されるのは多分ベルト役の串田さん(6X歳)・公開プロットシリーズNo.122→お前はもう死んでいる