美樹さやかを、その住まいであるマンションへと、何とか送り届けて。とぼとぼと、鹿目まどかと暁美ほむらは未だ高い日の下に、歩を進めていた。「私……もう、さやかちゃんにしてあげられる事、何も無いのかな」肩を落として、普段以上に背が低く見える鹿目まどかに対して、ほむらは一体どんな声をかけてやれば良いのか。さやかの恋路のゴールが絶望なのは変えられない普遍現象なので、逆行者暁美ほむらさんとしては既に諦め終えた事象なのだが。「でも、美樹さやかが生きてさえいれば、いつか別の希望を見つけることも有り得るわ」美樹さやかがソウルジェムを持ったままだったら、そのまま魔女化していたかもしれないのだから、むしろ今回のさやかは猛烈に運が良い方だったりするのだ。もちろん、それが二週目以降でない面々に共通する感覚ではない事ぐらい、ほむらとて理解している。それでも、人間は生きてさえいれば予期せぬ未来を掴む可能性だって失わない訳で。その発想はむしろ、ほむらにしては珍しく楽観的なものであったとさえ言えるのかもしれない。だが、しかし。そんな稀有な建設的思考を打ち砕きに来た使者は、メダルの怪人でも白い宇宙人でも無くて。「……ちょっと、あんた等3人とも面貸しな」……この街に来てようやく一週間が過ぎたばかりの、赤毛の一匹狼であった。『その欲望を解放して魔法少女になってよ』第百二十一話:俺が変身する!!!「歩きながらで良い。少し、『アイツ』を巡る状況を整理しよう」佐倉杏子の口にした『アイツ』という言葉は、美樹さやかを指しているに違いない。間違いなく、今回の一連の騒動の中心はさやかなのだから。ポッキーを咥えた杏子の口ぶりは、どこか重さを振り撒くそれであった。事の発端は……一体、どこだったのだろう。上条恭介に化物呼ばわりされた時か。それとも、カザリに始末されそうになって、さやか自身の限界を悟った際か。はたまた、魔女の正体を知らされた時?もしくは……魔法少女になってしまった、その時から?どれもが、正解なのかもしれない。全てが、彼女を形作る要素となって来た筈だ。「さやかは今、ソウルジェムを持ってない。そうだな?」「ええ。確認したわ。彼女が変身した時も、魔力の波長は感じなかった」しかし、それはどういうことなのだろうか?魔法少女という存在である以上、ソウルジェムが無いなんて事は有り得ない。そんな奇妙な生物なんて、あの蝙蝠女ぐらいのものだろう、と暁美ほむらは思う。「やっぱり妙だよな。トーリの奴でさえ、魔法を使う時は魔力は出てるのに」……と思っていたら、そんなことは無かったらしい。ほむらにとっては、何気なく新情報だったりして。トーリの魔力は無限だという話だったが、実は魔力を消耗する時に特有の気配は出ているのだということらしい。「……そうなの?」「そうなのって……あんた、無表情キャラに加えて天然ボケ属性でも狙ってんのかよ? 魔法少女なんだから当然だろ?」さりげなく、トーリの正体がヤミーである事を知っていた暁美ほむらとしては、凄まじく重要な事実であった訳だが。ほむらはトーリを魔法少女だと思っていなかったので、そもそも奴から魔力を見出すという作業に発想が向かわなかったのである。これでは、巴マミの説得に失敗したのも納得かもしれない。ソウルジェムを持っていないトーリは確かにこの上なく怪しいが、それでも魔力が検知されていたのなら、マミがトーリの正体を信じないのも無理は無い。杏子から向けられるお手本のような半眼が、若干腹立たしくない事も無いが。その傍ら、杏子のほむらに対する物言いが、さやかがほむらの事を電波さん呼ばわりしたくだりに似ているように鹿目まどかには思えていたりして。実は、意外と杏子とさやかは思考のベクトルが似通っているのかもしれない。もっとも、ベクトルの大きさは……きっと、比べてはいけないのだろう。比べるとしてもおそらく、「賢い」「愚か」「さやか」みたいな三分類になりそうである。「でも、ソウルジェムを身体から離すのは、100メートルが限界だって話だったな?」「大よその目安としては、そうね」「……えっ? でも、今のさやかちゃんはソウルジェムを持ってないんだよね……?」そうなのである。それが、今回最も不自然な点なのだ。にもかかわらず、ほむらやまどかが確認したところ、さやかはいつも通りに魔法少女装束を纏っていた。というか、屋敷から出てきた美樹さやかに外傷が見られなかった事から察するに、回復魔法も普段同様に使えていると思われる。おそらく上条恭介がドン引きしたのは、R15な状態からさやかが復帰したからなのだろう。「さやかちゃん、昨日グリードに襲われた時に自分の中で何かが変わったみたいな事言ってたけど……何か新しい能力に目覚めた、とか……?」「……アタシだって、それが一番良いと思ってたさ」綺麗事が一番良いに決まっている。愛と勇気が勝つストーリーは、いつの時代だって王道だった筈だ。「佐倉杏子。随分勿体ぶるのね?」「ああ、今まで話に出てきた情報だけからじゃ、絶対に現状把握はできねーよ。ってか、そんな状態で結論だけ持って来ても、誰も信じないさ」まるで既に佐倉杏子は真相に辿り着いているような、物言いであった。もしくは、本当に知っているのかもしれない。杏子がほむらとまどかを連れて入った人通りの少ない裏路地に……その答えがあるというのだろうか。普段の杏子ならポッキー一本を食べ終わる間に真相を話してしまっていたのだろうが……杏子自身もまだ確信を持つには至っていないという線も考えられる。「しかも、事態を確定させるために必要なカギは、後三つもあると来たもんだ。もし推理小説がこんな状態で出題編を終えたらら、クレームの魔女が生まれちまうだろーな」つまり、この裏路地にはカギを探しに来たと?むしろ、杏子が既に見つけたカギをほむら達に見せようとしている可能性の方が高いと見るべきに違いない。となれば、一つ目のカギは動かせないモノなのだろうか?現場に残った血痕のような類のモノなのか、はたまたカザリが逃走路として使った痕跡でも残っていたのか。……ぐらいに思っていた二人であったが、実際に杏子に見せられたモノを目の当たりにすれば、納得せざるを得なかった。「見てくれ。コイツをどう思う?」「コレって……魔女の結界、だよね?」確かに、不動産である。登記されていないので法律的に認可される事は無いが、動かせないモノという意味では間違いなく不動産だろう。一応自律的に「動く」事は出来るが、自動車が不動産なら魔女の結界も不動産のように鹿目まどかには思える。もしトーリがこの場に居たら、そういえばライドベンダーって動産と不動産のどちらなんでしょうか、なんてボケてくれたかもしれない。いや、ヤツにそんな高度なボケは期待できないかもしれないが。ちなみに、一般的にバイクも自販機も動産である。もっとも、飽く迄一般中学生の範疇に居るまどかが、そんなことを聞かれて答えられる筈も無い。だが……そんな益体も無い考えを口に出す事など、出来そうに無かった。どうも、まどかの隣に居る暁美ほむらの様子がおかしいのである。何か、魔法少女特有の何かを感じ取っているのか。瞳孔が少しだけ開き気味というか、若干発汗率が高まっているというか、そんな焦燥感を醸しだしているのだ。ほむらが一体何に動揺しているのか、まだ鹿目まどかには分からないが。「佐倉杏子……貴方は、『どうしてこの結界を見つけた』のかしら?」……ほむらが絞り出したその質問は、傍から聞いている鹿目まどかからは、酷く意味の不明瞭なものに思われた。質問の文面が『どうして見つけられた』というように可能形であったのなら、まだ話は簡単だっただろう。その場合は、ほむらが『眼前の結界を杏子が発見する可能性が低い』と見積もるに足る情報を持っていたというだけの話である。だがしかし、『どうして見つけた』と聞いたのならば、その行為の理由が焦点となる筈なのだ。「……あんたが言ったんだろうが。さやかの魔力を探せ、ってよ」杏子が言い辛そうに口にした言葉を、鹿目まどかは一瞬の間、咀嚼する事が出来ずに居た。それを文脈に沿って分かり易く並べ直すなら、こういうことである。――原因:杏子がさやかの魔力を探したこと。――結果:まどか達の眼前にある結界を杏子が発見した。「こんなに発見が早かったのは、本当にただの偶然だろーな。だけど、いつかは見つかることになってたと思うよ」違う。まどかが聞きたいのは、そんな些細なことじゃない。何故、さやかの魔力によって構成された結界が存在せねばならないのか。「おかしい、よ。だって、さやかちゃんは今朝も昨日よりは元気だったし、さっきだってちゃんと私達が家に送り届けて……!」おかしい。こんなの絶対おかしい。この結界が存在するとすれば、それは結界の最奥には魔女化した美樹さやかが存在するという事を意味するのだ。いったい何時からこの結界が存在していたのか定かでは無いが、それでも美樹さやかが生きて活動していたという事実とは矛盾する事は間違いない。「そうだ、一昨日のキリカちゃん、だっけ? その子は魔女になる前から結界が使えてたんだよね……?」「呉キリカの結界は、魔法少女と魔女の境界に立つからこそ得られる能力よ。どの道、その後に魔女化を回避する術は無いわ」ほむらもソウルジェムを取り出して、結界から漏れ出る魔力の波長を確認しているらしい。そして鹿目まどかの視力は、美樹さやかの命運が懸かったこの時においてのみ、必要以上に暁美ほむらの反応を拾ってしまっていた。紫の宝石を乗せたほむらの掌の筋肉の若干の強張りさえ、見抜いてしまっていたのだ。暁美ほむらの無言が指し示す意味も、当然に。「でも、今は魔女とさやかちゃんは別々に動いてるんでしょ? だったら、この結界の中に居る筈の魔女を倒しても、さやかちゃんには何も影響は無いかもしれないよ……!」まどかとて、既に不吉な予感は嫌という程嗅ぎ取っていた。何せ、杏子が先程口にした『カギ』とやらは、あと二つも残っているのである。正直に言って、聞くのが怖かった。既に口の中はからからと渇いて、指先からは汗が零れ落ちたところだ。「そこで、だ。二つ目のカギは『証言』なんだ。それを得るために、あんた達をここに連れて来たんだよ」という事は、これから杏子が何かしらの質問を投げかけて来るに違いない。しかし、鹿目まどかには、自身が何か有力な情報を持っているという覚えは無い。ならば暁美ほむらが証言者なのかと思いきや、同じことを考えていると思しきほむらと目が合ってしまった。どうやら、ほむらも質問される内容に見当がついていないらしい。「言ったろ? あんた等『3人』に用事があるってよ」……と、いう事だそうだ。言われてみれば、この場にはもう一人居る筈なのである。鹿目まどかの中で面倒臭そうに口を噤んでいた、腕怪人が。「アタシはこう睨んでる。昨日さやかを襲ったグリードが、さやかに何か細工をしたんじゃないかってな。同じグリードなら、何か分かるんじゃないか?」そう、口に出しながら。杏子はおもむろに取り出した一振りの槍にて、結界の入り口を叩き割って見せてくれた。まだ外は日が高いのに、結界の内部は極夜のように薄暗く思える。おそらく、一緒に結界の中に入って調査に付合え、という事だろう。もちろん、危険が伴う可能性は否定できない。にもかかわらず……まどか達を静止するために動くかと思われた暁美ほむらが無言のままで居る事が、意外と言えば意外であったりして。単純に事態の真相への興味が大きいのかもしれないが。「いや、結界の入り口を開けただけで十分に分かる。これ以上踏み込む必要は無い」だが……静止の声は、別のところからかかる形となった。当の鹿目まどかの口をついて、鹿目まどかの声色で、しかし鹿目まどかの意思とは無関係に。まどかが強く念じれば、その声を押し留める事は出来たのかもしれない。体内の友人は、身体の操作に関してはあまり大きな権限を持っていないのだから。それでも鹿目まどかは、聞いてしまっていた。さやかの身に起こっている事柄を知らずには居られない、と思ったからだ。「……中から、ヤミーの気配がする」杏子が結界に傷を作ってから、結界内部のヤミーの気配がアンクのもとへと届いたのだという。しかし、それは一体どういう事なのか。何故、さやかの魔力で作られた結界の中に、ヤミーが居なければならないのだろう。いよいよ、本格的に意味不明である。「カザリが、結界内で安全にヤミーを育てているという事かしら?」「いや、ヤミーは親の欲望を満たすために、ある程度活動する必要がある。気配からは判別できないが……多分、中に居るのは親の方だろうなァ」ほむらが思ったままに予想を立ててみるものの、どうやらそれはハズレだったらしい。ヤミーは親の欲望を満たさなければセルメダルを増やせないので、ヤミーを隔離空間に置いておく事には意味は無いそうだ。「ヤミーの親になった人を、逃げられないように結界の中に閉じ込めてるの……?」「魔女の結界は、人間がおいそれと生き延びられる空間じゃねーよ」今度はまどかが予想を口に出してみるも、やはり否定されてしまって。もちろん、それを否定したのは魔法少女である佐倉杏子であったが。という事は、ヤミーの親である人間は結界の内部には居ないのか?しかし、ヤミーを魔女の結界の中に閉じ込めても良い事は何も無い訳で。「頭がこんがらがって来た、ような……」一体、結界の中身は何なのか。まさか、シュレディンガー的にヤミーの親は死んでいて同時に生きている、という訳でもあるまい。親を閉じ込めたのなら、親は結界内で死んでしまっている筈である。一方、ヤミーを閉じ込めてもグリード側に旨味は無い。「まぁ、3つ目のカギを聞けば、話は全部分かる。実はその3つ目も『証言』なんだけどさ……」実はもう、聞いて来てあるんだ。そう続けた佐倉杏子は……既に、事態の核心へと辿り着いているのだろう。杏子にとっては、きっとアンクの証言だけが不確定要素であったに違いない。傍らで口を開かない暁美ほむらは、まだ事態の全容を把握していないように思えるが。そして……佐倉杏子の口ぶりに影が差したように、鹿目まどかには思えていた。如何にも、口にするのが憚られる情報を抱えていると見える。もちろん、普段から渇いた現実主義者な杏子ならば、数秒迷った後に続きを述べてくれただろう。それ、でも。「お願い、杏子ちゃん……聞かせて。杏子ちゃんが誰から、何を聞き出したのかを」鹿目まどかの方から、聞かなければならない。そう、思った。美樹さやかの友達を自認する鹿目まどかが、聞かなければならない。それが……鹿目まどかの決断だった。「それじゃぁ、言うぞ。アタシが3つ目のカギを聞き出した相手は……」果たして、真実の行方は……。その日の、夕暮れ時の事だった。後藤が、さやかを励ます方法について伊達明と語り合いながら、バースのメンテナンスに四苦八苦していた、ちょうどその時に。元真木博士の研究室……現伊達明の住居に備え付けられていた電話が、呼び出し音を奏でたのだ。そして、受話器をとった後藤慎太郎の耳に飛び込んできたのは、『さやかちゃんのために、力を貸してください。お願い、します…………!』消え入りそうな、声だった。後藤は、この声の主を知っている。美樹さやかの親友である、鹿目まどかという女の子だ。親友のために力を貸してくれ、という頼みごと自体は、ごく常識的な内容ではあっただろう。だがしかし、その詳細は常識なんて軽く投げ捨てた代物で。恐ろしくもあり、カザリがそんな手を打ったのかと感嘆して、背筋を寒く思わされて。そんな中、後藤へと期待された役割は、事態の難解さに反して至極単純なものであった。バースである伊達さんと共に、戦力として協力してほしいという事である。よって、後藤がすぐさま伊達さんに声をかけて出動を提案したのは、当然の決断であると言えた。……が。「俺は、行かん」「……えっ?」まさかの、伊達さんの拒否だった。後藤としては、しばしの間思考を止めてしまう程度には予想外過ぎる返答であったと言えた。ガラの事件の時には人間とは思えない精神力と体力にて死地を切り抜けたこの男ならば、今回も力を貸してくれると信じて疑わなかったのに。「バースのメンテをしてる後藤ちゃんなら、分かんだろ。バースは……あと何回、戦える?」その言葉に、思わず後藤は言葉に窮してしまっていた。確かに、現在のバースシステムの状況は、既に限界に迫っている事は間違いが無い。ガラとの戦いの際には一晩中伊達明がバースとして走り回り、明け方には鳥籠の魔女との激戦を繰り広げた。更に、一昨日の落書きの魔女の結界の内部における戦いにおいては、多色のコアを取り込んだカザリの攻撃を余すことなく叩き込まれているのだ。今の状態でも既に、騙し騙し使っているという言葉が妥当なところだと言えるだろう。「本当は最後まで黙ってるつもりだったが……美樹ちゃんの命運がかかってる状況だから、言うぞ。俺が稼ごうとしてる1億円はな、俺の頭の銃弾を抜くための手術費だ」「……!」そこまで言われれば、後藤慎太郎にも理解出来た。伊達明は、自分自身が生き延びるために、鴻上財団の下で働いている。そのための職業が『仮面ライダーバース』という訳だ。ならば、バースシステムが失われれば……。「俺だって、美樹ちゃんを放っておく事に何にも思わない程冷血じゃない。でもな、自分の命と一緒に天秤に載せたら……やっぱり、俺は死ねない」伊達明の容態とて、バースシステムの現状と大して変わらないのだ。下手をすれば、バースシステムよりも重体かもしれない。頭の中に銃弾が入っているなんて状況で、果たして何時まで生きて居られるものか。現に一昨日の戦闘後には倒れているぐらいなのだから、決して先は明るくは無かった。後藤には、伊達明を責める事なんて出来る訳が無い。美樹を助けるために伊達さんは死んでください、なんて言える筈も無い。どんなに後藤が拳を握りしめても、バースが直る事も伊達さんが治る事も無い。「……分かりました。とにかく俺は、鹿目たちが策戦会議をしているクスクシエに行ってきます」それでも後藤は、諦める訳にはいかない。もちろん、後藤一人がバースの抜けた穴を補える程の戦力として働けるとは思えない。そんな事は、分かり切っていた。しかし、後藤慎太郎は……救ってやりたかった。後藤に、その守るべき世界の広がりを教えてくれた子供達を。ライドベンダーを駆ってクスクシエに辿り着いても、その思いは変わらなかった。……が、後藤はクスクシエの屋根裏部屋へと続く階段の最中にて、立ち止まってしまっていた。バースが参戦できないという事実を、マミの借部屋に集まっているであろう面々にどう説明したものか。戦力としてバースを換算したうえで作戦を立てているであろう彼らに対して、後藤は何か代案が出せるのだろうか?ぶっちゃけると、何も思いつかない。屋根裏部屋へと続く階段を後藤が登れない理由は、ずばりそれであった。「あら、マミちゃん達のお友達? もう中に何人か集まってるわよ?」すると……そんな後藤への声は、後藤の全く予期せぬところからかかる事となった。コスプレ喫茶……もとい民族料理店クスクシエの名物店長、白石知世子さんである。後藤慎太郎という成人男性が女子中学生の『御友達』とは一体どういう理解なんだろう、と後藤としては思わないでもないが。まぁ、既に火野映司が中に居る事を知っているからこそなのかもしれない。どう説明したものか。この白石店長が事情を知らない一般人であることは、後藤とて理解していた。だが、後藤が抱いている気まずさを……きっと後藤は、誰かに聞いて欲しかったのだろう。だから、後藤は洗いざらい話してしまった。魔法のことを、メダルのことを、そして美樹さやかと伊達明の危機を。「マミちゃん達の様子は不思議だと思ってたけど、まさかそんな事が起こってるなんてねぇ……」「いきなりこんな事を言ってしまって、済みません。信じられないかもしれませんが……」むしろ、信じたら驚愕モノである。確かに最近はビルが倒れたり謎の怪人によって犠牲者が出たりしているが、大半の人々にとってそれらは他人事なのだ。信じるとすれば、よっぽどの御人好しぐらいなもので……「ううん。不思議なことなんて幾らでもあるもの。メダルや女の子のお化けを信じるぐらい、屁でも無いわよ」……この店長以外には、そう居るものでは無いだろう。そして、こんな悩み切った後藤の背中を押してくれる人材も。「むしろ信じられないのは後藤君の方」「さやかちゃんと伊達さんのどっちかを選べなんて、そんなの認めちゃダメよ」「それが正しいのかもしれないけど、そんなのつまんない!」「さやかちゃんも伊達さんも、って『ちゃんと欲張れる』のは、今の後藤君だけでしょう?」確かに、その通りだ。二人とも救えるならば、それが一番良いに決まっている。……それが、どんなに困難だとしても。だから後藤は、再びライドベンダーのエンジンに火を点けた。策戦会議を行っている面々に顔を見せる事もせずに、一目散に走ったのだ。行き先は……説明する必要が、あるだろうか。「伊達さんっ!!」「おう、後藤ちゃんか。『遅かった』な」相手の口ぶりは、まるで後藤のとんぼ返りを確信していたと言わんばかりで。「俺には、伊達さんと美樹のどちらかなんて選べません。後で、鴻上会長に頭を下げてでも、脅してでも、一億円は稼ぎ取って見せます」とても半死人とは思えない存在感を纏った伊達明に相対して……しかし後藤慎太郎も一歩も引くことは出来ない。「だから……『バース』は俺が貰って行きます」覚悟は……決まった。・今回のNG大賞おかしい。美樹さやかは普通に生きて活動している筈なのに、なぜさやかの魔力で出来た結界があるのか。まさか、さやかが二人居るとでも?「実は美樹さやかは特異点で、私が時間を巻き戻すたびに新しい美樹さやかが出現していたのよ」「それはとても不思議な事だな、って……」「そんなの絶対アタシがゆるさん!」・公開プロットシリーズNo.121→後藤さん確変? そしてさやかの容態は次回に持ち越し!