火野映司は……とある河川敷へと、足を戻していた。映司が蝙蝠娘と共にネグラとしている大きな橋の下へ、である。当然、一日のバイト若しくはその他諸々の用事を終えて帰還したところに違いない。現在の時刻は、夕暮れも過ぎ去り、肌寒さが頭を現しはじめた頃であった。「トーリちゃ……もう寝てるんだ。これは起こさない方が良いかな」「んん……」特に意外な風景も視界に飛び込んで来ず、残されているのは眠りこけているトーリ一匹だけだったが。というか、まだ夕飯時だというのに、コイツは寝るのが早すぎやしないだろうか。まぁ、日は既に落ちているので、既に今という時間は夜にカテゴライズされるだろうが。むしろ蝙蝠が昼行性とは、これ如何に?猫は夜行性だがイエネコは昼行性……という理屈と似たようなものなのかもしれない。「……映司さん、お帰りなさい」「ただいま。起こしちゃったかな。ごめんね」もっとも、魔法少女という生物に睡眠という行為が根本的に必要なのかどうか、映司は知らないが。人間の慣習を忘れるのも、それはそれで彼女達のためにならないと思っているので、突っ込まないというだけの話であって。「ちょっとまたヤミーが出てね。倒せなかったから、ここに戻ってくる時間もまた不規則になりそうかも」「毎度の事ですね」トーリが眠って待っていた事に対して気を遣ったのだろうか。映司が、自身の帰りが少し遅かった理由を付け足してくれた。ところが、トーリが少しだけ驚いたのは、その用件の方であった。ヤミーが出たのならトーリがメダル増加を感じても良さそうなものだが、それを見逃してしまっていたのである。眠っている間に気付かなかったという線も無いでは無いが、トーリは一つだけ心当たりを発見していた。すなわち……昼間にトーリが魔女能力の実験にて結界を張った際に、結界外部の様子に気付けなかったのではないか、というものであった。自分の結界なのだからそれぐらいの融通は利いても良さそうだが、不便なものである。……などと、川に電気を流して魚を水面に浮かせながら、魔女能力に関する考察を行っていたりして。魔法少女に感知される恐れがある魔女能力より、どう考えてもヤミーの電撃能力の方が使い勝手が良い、なんて結論に至ってしまったりする訳だが。確かに魔女の結界は、特定の誰かを閉じ込めるのに使うならば便利かもしれない。だが、閉じ込めた対象を倒すための戦力は、トーリには足りない。まぁ、困った時の切り札は他人本願と決まりきっている訳で、それはトーリの役目では無いに違いない。トーリが魚を捕っている間に映司が火を起こしてくれているように、トーリが誰かに助力を求めれば良いのだろう。「なんだか、まどかちゃんが別の用事に行けなかったってボヤいてたよ。やっぱり、昨日言ってたさやかちゃんの件かな」「何か名案でも閃いたんでしょうかね?」名案は無いが、迷案ならトーリから貰っていたりする。上条君をハーレム野郎にすべき計画が、水面下で進められようとしているのだ。流石の映司とて、トーリの世迷い事を鹿目まどかが実践しているなどとは、想像像出来なかったらしい。「ところで、映司さんが逃がしてしまったヤミーってどんなのなんですか?」そして、コレは一応聞いておかねばなるまい。トーリがそのヤミーに襲われたら困るからだということは、説明するまでもない。基本的に親違いのヤミーには同胞意識というものが働かないので、ヤミーであるトーリも襲われる可能性があるのだ。「ハゲタカのヤミーだったよ」通行人を襲っていたとのことである。親の欲望は分からなかったが、特定の個人を襲撃対象として拘っているようには見えなかったらしい。とりあえず、そのヤミーがまた出た時に備えて、アンクから新たに数枚のメダルを借りているとのことであった。「ハゲタカ……鳥類ですか? ヤミーを作った容疑者は4人しか居ませんね」「えっ? そうなの?」赤コアは、9枚全ての所在が割れている。クジャクは暁美ほむらが1枚、カザリが2枚。タカとコンドルはアンクが1枚ずつ、映司が2枚ずつである。従って、その全ての持ち主を把握していれば、自ずと同じ思考に行き着く筈なのだが……。「映司さんがそれを覚えていなかったのが、むしろ意外ですよ。まぁ、今回のケースならまずカザリさんでしょうけど……」流石に、映司やほむらにヤミーが作れるとは思えない。ついでに、アンクがヤミーを作れるなら事前にオーズから赤コアを没収する筈である。更に言えば、アンクは人間達と手を切る前に、トーリが預かっているセルメダルを回収に来る事は間違いない。「まぁ、アンクじゃないだろうとは俺も思ってるよ」どうやら、アンクが犯人でないというところだけは、共通見解らしい。あの狡猾なアンクなら、そんな映司やトーリの思考の裏を突いてきそうなのが、若干不気味だが。「あと、何か様子がおかしかったなぁ……。なんか、俺達の注意を繋ぎ止めておく囮みたいな感じがしたんだけど……」映司が言うには、ハゲタカヤミーの動きに若干の不自然さが見られたとのこと。なんでも、映司が駆け付けた時には、ヤミーは通行人を襲っていたらしい。おそらくそれが親の欲望に関連する事項なのだろう。ところが、オーズが跳びかかるや否やヤミーは飛び上がり、あまり速度を出さずに中空を飛び続けたのだとか。その間、オーズはカマキリソードを投げてみたり、シャチヘッドの水鉄砲を撃ってみたりと色々試していたが……結局、逃げ切られてしまったそうだ。魔法少女が居れば、また少し違ったのかもしれない。マミさんの弾幕ならあるいは何とかなるかもしれないし、他の面々もトーリと合体すれば空中戦は可能である。ちなみに、トーリは知らない事だが、バースも実は一応飛べるので対応は可能だったりする。そんな思考の中、真っ先にトーリの頭に浮かんだ懸念とは……「とりあえず、ワタシが一騎打ちで相手をするなんて展開だけはゴメンですねぇ……」……ある意味、最もトーリらしいそれだったのかもしれない。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百十九話:いしのゆくえ思い思いの一晩を過ごした後の、朝のひと時のことだった。上条恭介と志筑仁美の両名の姿が教室に無い事を疑問に思っていた美樹さやかが、とあるニュースを耳にしたのは。「うちの生徒が、昨晩不審者に襲われました。皆さん、夜道を出歩く時は注意してください」早乙女先生から情報を聞いた瞬間には、特に何も思わなかった。不審者ならば、昨晩にさやかを待ち伏せていた猫怪人以上の不審者など居る筈もないのだから。むしろ、昨晩杏子によってクスクシエに運び込まれた筈なのに朝は自宅で寝ていたという不思議な出来事の方がまだ気になる、といった程度に過ぎなかったのだ。おそらく杏子かマミさんが美樹宅にさやかを運び込んでくれたのだろうが。しかし、上条恭介と志筑仁美の欠席が怪人騒ぎに関連しているのだとすれば、一大事である。案の定、鹿目まどかがこちらに視線を寄越していた。なので、さやかがまどかへと念話を繋げたのは、当然の判断であったと言える。『何か知ってんの?』『ええと、昨日の夜にヤミーが出て……仁美ちゃん達は、私達が駆け付ける前にヤミーに会った……のかも?』しかも、そのヤミーは目下逃亡中だとのこと。やはり一大事だった。ヤミー発生という情報だけでも充分に大きなニュースだが、それどころでは無い。どうやらヤミーが人間を襲う基準は今のところ不明らしいが、恭介と仁美は一度襲われた以上、ヤミーの目的次第では二度目の襲撃があるかもしれない。……という訳で、唐突に腹が痛くなったさやかは、教室という戦線から撤退した。格好良く言うと、「私の戦場はここじゃない」理論である。保健委員の鹿目まどかも一緒に抜け出して、ついて来てしまったが。「どうするの?」「とりあえず、恭介の家の前で張り込む」ヤミーからの護衛という名目が無ければ、ストーカーと思われても不思議でない一言であった。ただでさえ美樹さやかには勝利の目が無いというのに、ヤンデレ化などしようものなら、海水に浸かった特撮スーツのような末路を送る羽目になることは疑う余地が無い。「……これを機会に上条君ともう一度話してみる気、無い?」「……正直、『助けてあげるからハーレムに加えて!』みたいに聞こえそうだから、話すとしてもこの一件が終わった後でしょ」そして……意外そうな顔をしている鹿目まどかは、さやかからの否定の返事が温かった事に驚いているのだろう。昨日は確り否定していた美樹さやかが、今日になって少しだけ思考の柔軟性を見せ始めたからに違いない。「さやかちゃん、何だか少し立ち直ってる……?」「自分にとって大切な人とそうじゃない人の区別を、つけなおしたからかも」大切な人とそうでない人の区別をつける……というのは、さやかが魔法の力を以て救うべき人間を選ぶという意味なのだろう。つまり上条恭介はさやかにとって守るべき対象であり、同時にさやかも優先順位の高い方向を明確に見定めて動ける、と。仁美にも色々と思うところがあるだろうが、今は上条恭介の身の安全を確保するのが、美樹さやかにとっての『一番』だという事である。「仁美ちゃんは……大切な人の中に入ってる?」ところが、さやかが棚に上げようとした問題に、鹿目まどかは確りと突っ込んでくれたりしていて。まぁ、当然と言えば当然である。鹿目まどかにとっては、仁美だって友人の一人なのだから。「仁美の事がどうでも良いとまでは思わない。でも、仁美が危険にあってたら、多分あたしは助けられない……かな」さすがに、さやか自身が率先して仁美を害するつもりは無いのだろう。だが、もし仁美が居なくなって、上条恭介がさやかへと振り向く可能性が出て来たのなら。……その未来を袖に振ってまで、さやかは仁美を助けようとは思えない。そういう、事である。「……引いた?」そして、さやかの言葉を聞いた鹿目まどかの戸惑いは、見抜かれてしまっていた。さやかにしては珍しい洞察力を発揮した……というよりは、予めまどかの反応を予想していたのかもしれない。まどかが、それなりに長い付き合いを持った相手であったからなのだろう。「あたしも初めは自分がそんな人間だって思いたくなかった。でも、分かったんだ。誰かの幸せを願った分、誰かを呪わずには居られない、って」昨晩カザリに追い詰められて魔女化が目前に迫ったとき、さやかは気付いてしまったのだ。さやか自身が、誰かを呪って、羨んでいるという事に。過ぎた希望は、呪いとなって自分に返ってくる。ならば、端から自分の身の丈にあった希望を心得ておけば、呪いも少なくて済む。さやかの守れる範囲は自身と周りの少数の人間に限定されるものであって、それ以上を背負うのは荷が重すぎたという事である。「なんか、自分の限界が分かったって感じ。……あたしのこと、酷いヤツだと思ったら、無理して付き合ってくれなくても良いよ」「……ちょっと驚いたけど、さやかちゃんのこと、そんなふうに思えるわけないよ」貴女のことをそんなふうに言う人が居たら、私が許さない。……とまで格好良く言い切ることは、鹿目まどかには出来なかったが。それに、他人に対する優先順位があるのは、ある意味にて当然だと言えるだろう。そして、その中のどこに自分自身の位置を決めるかは、自分次第としか言いようが無い。そんな中でさやかが上条恭介の事を助けようと思えている辺り、彼の順位はさやか自身と非常に近いところに置かれている様子が窺えた。「実は昨日、猫グリードの結界に拉致られて死にそうになって……なんていうか、『走馬灯』ってヤツ? が見えて、色々考えた結果なんだ」……走馬灯は江戸時代の技術において作られたアニメ上映媒体の名前である。影絵を回転させてスクリーンの像が動いているように見せるための工芸品であり、広い意味では侍戦隊の秘伝ディスクも走馬灯の発展系と呼べるのかもしれない。それはともかく、さやかが言いたかったであろう事例の場合は『走馬灯を見ているように自分の記憶がよみがえる』という定型句として使われるものだったりするのだが。むしろ、その辺りの豆知識が微妙に欠けているのが、さやからしいと言えるのかもしれない。「……カザリが、結界を使っただと? もっと詳しく話せ!」「……アンタが急かさなくても、まどかのために話すつもりだっての」更に言うと、唐突に話題に食い付いたコイツも、コイツらしいというか。カザリの新しい能力という情報にアンクが反応したのは分からないでもないが、傍から見ている身としては心臓に悪い事この上ない。人間は無意識のうちに相手の先の言葉を予測している生物であるからして、そのリズムを崩されるのは地味にストレスフルだったりするのである。さやかが何処かの平行世界で眼鏡娘の爆弾に対して文句を言ったのも、このせいなのかもしれない。もちろん、遅かれ早かれ、カザリの新能力の情報はもたらされていたことだろう。何だかんだで鹿目まどかには危険を説明せねばならないので、どの道アンクにも情報は伝わってしまうのであるからして。そして、それを聞いたアンクの反応は……「カザリにそんな事が出来るなら、お前の護衛なんて何の意味があんだ?」……さやかにとって微妙に痛いところを、突いて来ていたりして。アンクに言わせると、今回のハゲタカヤミーの創造者がカザリであることは確定的であるらしい。したがって、ヤミーの援護に来るグリードがカザリである可能性も高いはずだ。ならば、カザリに為す術も無く倒されるであろうさやかに、一体何の意味があるというのか。「それは、アレでしょ! あたしが結界に捕まったら、まどかがマミさんとかパンツマンとかに連絡を入れてくれる!」「ふん? ……お前、さっきは『無理して付き合ってくれなくても良い』とか言ってたな? 本心では最初からコイツを利用する気満々だったって訳だ?」さやかが、カザリが来る可能性を考えていなかったという線も否定できないが。しかし、さやかの今後の活動指針は、どこか鹿目まどかという協力者ありきのものであった。「そういうトコまで入れて、あたしが酷い奴だと思うなら良いよ? その時はその時でまた何か考えるから」「思わないよ。さやかちゃんが、上条君のことを大切に思ってるってだけだもん」……今度は、鹿目まどか本人が答えてくれた。そして、その小さな言葉は、さやかの背中を少しだけ押してくれていて。かくして、新たな決意を胸に抱えた美樹さやかは……歩を、進める。恋路に先は見えないが己の思考迷路には決着がついたのだ、と信じながら。さやかは、まさか考えることさえしなかった。その先に『路』そのものが存在しない可能性、など……。「……」一方、そんな美樹さやかと鹿目まどかの様子を遠方から窺う魔法少女の姿が、一つ。見晴らしの良い集合住宅の屋上から二人の様子を確認して、ほっと息を吐いている、最近少しだけ御節介焼きの師匠に似てきたと噂の佐倉杏子である。口に咥えたポッキーを落とさずに息をつくという不思議な行為が可能なのは、きっと彼女が魔法少女だからだろう。魔法少女は条理を覆す存在なのだから、それぐらいの事はきっと朝飯前なのだ。「まぁ、マミの頼みも、ここまでやりゃー充分だろ」別に、誰から答えが返ってくる訳でも無いが、独りごちってみた。この場には杏子一人しか居ないのだから、返事など聞こえる筈も無い。「そうとも限らないわ」「……いきなり人の後ろに立つなよ?」……その筈だったのだが。まるで瞬間移動でもしたように杏子の背後に現れた無表情女が、口を挟んで来てくれていた。危うく口に咥えたポッキーを落としそうになった辺り、杏子も割合本気で驚いているのかもしれない。「その双眼鏡で、美樹さやかの指元をよく観察してみて」「何考えてんだか……まぁ、良いけどさ」突然現れて要領を得ない事を言いだした暁美ほむらの移動方法も気になるところではあった。それでも杏子がその言葉に従ってしまったのは……ほむらの意図を的確に読み取ったからに他ならない。すなわち、杏子の視線が誘導された先に何があるハズなのか分かっているからである。さやかの指には、魔法少女の証たるソウルジェムが、指輪形態にて存在している筈なのだ。そのハズ、なのに。「指輪が、無いでしょう?」「球体化して荷物に入れてるんじゃねーの?」杏子が視たところ、それらしい装飾品は見当たらなかった。しかし、ソウルジェムにはタマゴ形態というフォームもあるので、そちらとして持っている可能性も否めない。もっとも、指輪状態は全ての形態変化の中で最もエネルギー消費が少ないモードなので、常にタマゴ型にしておくのも不思議ではあるが。「調べてみたけれど、美樹さやかはそれらしい物は持っていなかったわ」「んん? でも、マミの奴が一度倒れた時みたいに、ソウルジェムって身体から離すとヤバいんじゃなかったっけ?」杏子としては、硬くなったマミの掌の感触は、忘れたくても忘れられるものではない。ソウルジェムが消失する例としては、他には魔女化したキリカの例を挙げることが出来るだろう。しかしその場合においても、美樹さやかが生きているという現在の状況との擦り合わせは出来そうにも無い。そして、いつもの無表情のままに身体の操作圏内がジェムから100メートルであることを補足してくれている暁美ほむらさんは、何故そんな事を知っているのか。更に言うと、どうして美樹さやかの荷物の中身を調べ終えたような口ぶりなのか……。「って事は、また『例外』か。トーリの奴の『無限の魔力』と同じ理屈だったりするのかね?」一方の暁美ほむらは……杏子の連想に少しだけ驚かされていたりして。確かに、現在のさやかとトーリの間には、ソウルジェムを保持していないという共通点は存在していた。もっとも、トーリが魔法少女で無い事をほむらは知っているため、この件に関してはあの蝙蝠女は関係無さそうだと考えているが。杏子は無限の魔力を裏付ける理屈を知っている訳では無いので、飽く迄勘でモノを言って居るに過ぎないのだろう。「……あんなイレギュラーがそう何人も居るとは思えないわ」「でもさ、一昨日トーリの奴と合体? したんだって? そのせいで何か影響出たんじゃねーの?」……確かに、その可能性は無いとも言い切れなかった。そもそも、トーリの無限の魔力がどういう理屈で維持されているのか、ほむらも理解できていないのだ。ならば、そういう事もあるというぐらいに思っておくのもアリなのかもしれない。「とにかく、もし美樹さやかの魔力の波長を見つけたら、用心するに越した事は無いわ」「まぁ、あの猫グリードが悪用してるかもしれねーしな。忠告どーも」というか、そもそも現状の美樹さやかは魔法を使う事が出来るのだろうか?ソウルジェムを持っていないという事は、魂を加工された魔法少女という生物の枠から逸脱してしまっているようにも思われるが。もしさやかが上条恭介を護衛しようとして、敵前で魔法が使えないなんてことになれば一大事である。よもや、ソウルジェムの設定が崩壊したなんて事もあるまいし。杏子から、カザリの結界の噂を聞きながら。暁美ほむらは……いつしか、根拠の無い楽観とでも言うべき希望的観測が自身の胸に巣食っている事に、気付いていた。さやかのソウルジェムが行方不明になった事例が、魔法少女を人間に戻す手段への足掛かりとなるのかもしれない、と。おおよそ話が出来過ぎていると、ほむら自身でさえも思ってしまっていたのだ。それでも、今回のあまりにもイレギュラーが多すぎる世界は、上手く進み過ぎていて。だからこそ、ほむらが危機感を少しばかり鈍らせてしまったのも、仕方が無いことであったのかもしれない。加えて、白と黒の魔法少女達が鹿目まどかの命を直接的に狙っている訳ではないと判明した事も、ほむらの油断を誘ってしまっていたのだろう。もし彼女達が鹿目まどかを殺害しようとしているのなら、キリカの結界にほむらが捕えられていた絶好の機会を逃すはずは無いのだ。当然、キリカが魔女化という背水の陣を覚悟してまで戦ったのに、敵が何か見返りを得たようには思えない。その事実は不気味ではあった。だが、鹿目まどかの身の安全が約束されたと分かれば、少しばかり気も抜けてしまうというものだ。そして……災難とは、きっとそんな時に来るものなのだろう。事件の幕は、既に開けている。・今回のNG大賞杏子の背後に突然現れたのは、神出鬼没がモットーのほむらさんだった。「で? 何の用だよ? 浦沢脚本風に説明してみな」「美樹さやかのソウルジェムが家出をしたわ」File. もしもシリーズ構成が浦沢義雄だったらpart2・公開プロットシリーズNo.119→天災は忘れたころにやってくる?