「相手の能力が、時間を操るタイプだったという事だと思うわ」「……凄いね。俺達より遅く入って来たのに、もう見抜いてたんだ……」ベテラン魔法少女としてのメンツが懸かった一世一代の難問は、どうやら無事に解決されたらしい。心なしか、マミと映司を見る二人の魔法少女の視線には、どこか敬意が混じっているように思える。マミさんは最高です! 的な。当のマミの背中には滝のように汗が溢れていたりするが、それは御愛嬌である。「暁美ほむらから聞いていたのかい?」マミの魔力紐で厳重に関節という関節を固定されつつ、キリカが吐いたのは……少しだけ意外そうな声だった。私の知る暁美ほむらは友を作るタイプでは無かった、とでも言い出しそうなぐらいに、その表情には余裕が残っていたが。「いや、シャチメダルのソナーで周囲を調べてたら、水面に立った波紋の形がおかしくてね」ソナーとは、微弱な振動を発して、その反射波を測定することで周囲の物体の位置や形を特定する器官のことである。そして、映司が今日に入れたシャチメダルには、その能力が秘められていたらしい。そんな中、映司がそのソナーを使ってみたところ、空間の中に異常は見当たらなかった。ところが、水面に広がった波紋は、視覚情報に依ると不自然な形を描いているように見える事が多々あったのだ。そこで光と音の違いを考えてみたとき、『速度』にこそ原因があると思い至ったらしい。つまり、キリカの背後の空間だけ水面や気体ごと時間の流れが違っていて、音で状況を判断するソナーからは分からない異常が、ほぼ無限と言える速度を持つ光情報には影響されずに現れたという事である。だが、キリカが自分の背後の時間を操るのも不思議な話だった。なので、キリカが前方270度程度の範囲の時間を遅くしていると考えた方が自然だ、と思い至ったのだそうだ。「なるほど! それでさっき、一人だけが早く落ちたんですね!」「このさやかちゃんの目を以てしても見抜けなかった……ッ!」一人世紀末の住人のような顔を作っているさやかには、どう対応してやれば良いのだろう。ストレートに、お前の目は節穴だと突っ込んでやるのが優しさなのだろうか?結局触れずに流した四人は、実は結構冷たいヒト達なのかもしれない。「能力が割れてるなら、もっと華のある倒し方を考えて欲しかったな。『落下速度』なんて地味すぎて『落ち』にもならないよ」相変わらず地面に転がされてもマイペースなキリカとしては、先程の攻略法はあまり面白く無かったらしい。一体どんな攻略法なら満足だったのだろう。炸裂弾で背後から奇襲でもかければ良かったのか?「他に方法が無かったわけじゃないけど、何度受けても回避できない攻撃だと分かってくれれば、諦めてくれるんじゃないかと思ってね」だが、映司が求めていたのは派手さでも一発技でも無かったらしい。腕の肉や関節を犠牲にしてまで戦うキリカを殺さずに止めるのは、容易なことでは無い。だからこそ、映司はキリカを踏み留まらせるような作戦を考えたのだ。時間操作による落下速度を利用してキリカだけを電撃でスタンさせ、飛び上がっていたオーズが捕えるという連携を成立させれば、キリカがそれを回避する術は無い。能力を解除すれば滞空時間の問題はクリアできるが、その場合には素早さも無くなってしまうため、跳びかかってくるオーズの攻撃を回避出来ないのである。……その説明を聞いても、さやかが理解出来たかどうかは怪しいが。そんな事より、一同にとって重要なのは、呉キリカを尋問することなのだ。「おら! あんたの じょうほう だせよ!」「捕虜の虐待は国際法違反だよ?」「さやかちゃん、あんまり手荒なことは止めようね……?」どうやらこの場には、『やめたげてよぉ!』出来るような心優しい人間は居なかったらしい。まぁ、今までのキリカの所業を考えれば、それも当然のことだと言える。特に巴マミは過去にソウルジェムを奪われるという仕打ちを受けているのだから、キリカのジェムを奪って川に流すぐらいの事は実行しても、バチは当たらない筈である。ともかく、この面々は結界に閉じ込められているのだ。キリカを説得するなりトドメを刺すなりしなければ、脱出出来ない。「貴女は、おそらく単独犯では無いわよね? 誰かの差し金なのかしら?」とりあえず、マミは先程から疑問に思っていた事を口に出してみた。暁美ほむらの発言から察するに、呉キリカは複数犯の内の一人であるように思われたので。「私の黒幕に興味があるのかい。でも、そう易々と教える訳が無いじゃないか」「アンタ……自分の立場分かってんの?」身体の所々を魔力リボンで縛られて転がっている呉キリカは、飽く迄通常営業のままで。もしや、この場にオーズと魔法少女等を足止めしておく事に意味があるのか?それとも、この状況から逆転する見込みがあるとでも言うのか。巴マミは、思う。先程から隠れるように巴マミの後ろに陣取っている後輩をこれ以上不安がらせないように、自分がしっかりしなければならない、と。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百十三話:胸に七つの……有機的な、音。何かが離れる、音。固形物と流動体の、音。「なっ……!?」リボンによって縛られていた、ハズなのに。そんなものは甘さだと言わんばかりに……目の前の黒い魔法少女は、拘束を脱していた。そして美樹さやかは、その光景を直視できずに居た。確かに、魔法少女なら『それ』は可能だろう。そう、頭では理解出来る。魔法少女の肉体はソウルジェムからの操作で動いているのだから、鋭い刃物など無くても、身体の一部を意図的に『捨てる』事は不可能では無い筈だ。だがしかし、理屈としてそれは分かっていても、目の前で実行されると受け入れられなかった。文字通りの芋虫となった呉キリカの惨状に、ベテラン魔法少女の巴マミでも、青い顔をしているぐらいなのだから。きっと火野映司とて、その蒼い仮面の下では戦慄しているに違いない。「映司さんっ! タカの目で、キリカさんの中を視てくださいっ!!」そして、焦った様子で上ずった声をあげた、トーリも。トーリが一体何に気付いたのかは、さやかからは分からない。だがしかし、自身の血溜まりに浮かびながらも軽薄な笑みを崩さないキリカが何か恐ろしい事を考えているという事ぐらいは、直感的に理解出来た。『タカ トラ バッタ』タカの目に忌避感を抱いているトーリが言うからには、余程の事なのだろう。一瞬の元に判断とメダル換装を終え、深紅のフェイスマスクに緑の瞳を輝かせながら。オーズの視力は……確かに、捉えていた。呉キリカの内部に潜んだ、『異物』を。更に、異変は巴マミや美樹さやかからも、認識され始めていた。何故なら……呉キリカの四肢が、見る間に傷から伸び、復活したのだから。その超常の現象を目の当たりにしながら、魔法少女達は無意識に後ずさってしまっていて。グロテスクで、奇怪で、化物染みていて、生理的に受け入れられない。そんな理不尽な回復能力を見せつけながら五体満足に戻ったキリカは、何故平気な顔をしていられるのか。「何、で」おぞましいという心境を隠しもせずに、さやかの口から、言葉が漏れ出した。サーベルを取り出す事も忘れて、視線に恐怖を交えながら、問い質す。おそらくオーズとトーリは既に気付いて居るであろう、怪奇現象の正体に。 「コアメダル……ですよ……!」「なんだ、ネタばらしをする楽しみを盗らないで欲しかったな」そして……トーリの絞り出した声が、さやかの問いへと答えを与えていた。キリカが肯定しているようであることからして、おそらくその答えは正しいのだろう。「私も、君達が旅行を楽しんだ江戸の町に行っていた。それだけの事だよ」呉キリカが今まで使って来なかった、まさに切り札。江戸の町にてキリカが調達した手土産にして、反則的なまでの再生能力の要。そこまで説明されれば、さやかやマミも、その正体に見当が付き始めていた。「橙色の、再生コンボのメダル……!」タカの目を以てオーズが視た呉キリカの内蔵に隠された、7つの輝き。確かに、コアメダルというものが10枚セットで作られるならば、在っても不自然では無い。そこに収まっていた物は、徳田新之助がオーズにもたらした3枚以外の、橙コアであった……。「……気になるんなら、お前も結界に入ればいいだろうが」「別に、そんな事は誰も言っていないわ」結界の外に残された、二人。特に会話も無く立ち尽くしていたアンクと暁美ほむらであったが……先に口を開いたのは、アンクであった。どうも、ほむらが浮足立っているというか、そわそわしているというか。何とも言えぬ焦りのようなものを発している気がして、アンクが行動を勧めてみたのだ。そのアンクの本心としては、面倒な暁美ほむらから解放されたいという思いも強いのだろうが。「その呉キリカってのは、4人相手でも立ち回れるほどの力を持ってんのか?」「そうは思わない。けれど、もし彼女の黒幕が助けに入ると、私を含めた5人がかりで戦っても勝負は分からないわ」というよりも、流石に巴マミとオーズを含む4名を相手取れば、キリカとて無事では済まない筈だ。ならば、既に近くまで黒幕さんが来ていると考えるのが妥当である。だからこそ暁美ほむらは、鹿目まどかの傍らを離れない。「だが……時間がかかり過ぎてるって事ぐらい、お前も気付いてんだろ?」「……」確かに、ほむらもその点に関しては気になっていた。結界が消えていないという事は、少なくともマミ達は全滅している訳では無いだろう。だが、同時にキリカが倒れていないという事でもある訳で。万が一にも中に居るメンツが全滅してしまったりすると、ワルプルギスの夜が来た時の戦力不足は否めない。「……アンク。貴方は、火野映司の事が心配?」何となく、だった。ほむらが巴マミや美樹さやかの心配をしているように、この怪人も火野映司の身を案じているのではないか、と。そう、思えてしまったのだ。「アイツはヤミーを倒すって点では信用できるが、メダルを勝手に手放されて堪るかよ。それだけだ」もっとも、目を細めて面倒臭そうに答えたアンクは、何処までも自分の欲望しか返して来なかったが。そして、それは脇に置いても、確かに時間がかかり過ぎているというのも事実なわけで。「もう少し経ったら、突入を考えるわ」「考えるだけじゃなくて、とっとと決めろ」とりあえず政治家のように言葉を濁してみた暁美ほむらに対して、アンクは何処までも怪訝な態度を崩さないままであった。微妙に気まずくて、険悪な空気というか。やはりアンクは、結界の中に突入したいのだろう。それを暁美ほむらによって止められているために、フラストレーションが溜まり続けているに違いない。だが、今回の上手くいっている時間軸だからこそ、ほむらは慎重になりたい訳で。何か新たな話題を提供すべきなのだろうか。しかし、最近突っ込みスキルを習得しつつある暁美ほむらさんといえど、流石に人外とコミュニケーションをとるのはハードルが飛び過ぎである。首の動かないマグネットステイツで感情表現の演技を求められるのに匹敵する無茶振りだと言えるだろう。「……ほむらちゃん?」と、思ったら、あちらから話しかけて来てくれた。しかも、ほむらの心労が伝わったのか、鹿目まどか本人の方である。瞳の清らかさを見れば、そんなものは一発で判別できるのだ。生意気そうなアンクと比べれば、一目瞭然だと言える。「どうかしたのかしら?」ぶっちゃけると、それだけで癒される。あと10ループは戦える。今の時間に全力投球していた暁美ほむらさんは何処に行ったというのか。それはともかく、どうやら鹿目まどかは、暁美ほむらに聞きたい事があるらしい。アンクを押し退けて出て来たのも、そのためなのだろう。そんなほむらの回復を知ってか知らずか、前から聞こうと思ってたんだけど、なんて前置きを入れながら。「キュゥべえって、何者なの?」……さらっと、それなりに重要な事を聞いてきた。しかし、何者と言われても、どういうレベルの回答を期待しているのか。魔法少女と魔女の仕組みについては、過去に一通り講釈を終えている筈だ。エントロピーとか宇宙とか、そんな話をすれば良いのだろうか?「『コイツ』が主に聞きたいのは、何であの白饅頭が死なないのか、って事だ」すると、面倒臭そうに眼を細めたアンクが、表層意識に出て来て補足を入れてくれた。会話が潤滑に進むのは悪いことでは無いが、ほむらとしては、出来れば本人の方と話して居たいものである。「アレは、同じ形の個体が沢山居るのよ」そして、アンクが特に驚いた様子を見せないのが、ほむらには不自然に思えてしまった。大抵、予備知識無しにキュゥべえの生態を知らされた人間は、その情報を信じないものなのだ。グリードの思考回路が人間と大きく掛離れている可能性も否めないが。「予想がついていたようね? 理由を聞いても良いかしら?」「……良いだろう。ただし、それを話し終えたらこの結界に入るぞ」ほむらとしては、鹿目まどかの身の安全を確保する事は最重要であると痛いほどに分かっていた。だが、ワルプルギスの夜を止められなければ、結局意味が無いのだ。被害が拡大すれば、鹿目まどかはキュゥべえに唆されて、簡単に契約してしまうのだから。そして、そこで問題になるのが……アンクと鹿目まどかを結界の中に連れて行くか否か、である。だが、巴マミをはじめとする4名で戦って勝てないとなれば、既に結界内にはキリカの共犯者も居るに違いない。それが、暁美ほむらの読みであった。つまり、相手の実働要員は残っていない訳であり、暁美ほむらが鹿目まどかを結界の外に残して動いても問題は無いのではないか?実際にはキリカが再生メダルを使って粘っていたりするのだが、流石にそれを暁美ほむらに予測せよと言うのは、無茶振り以外の何物でもない。「最初に助けに行くのは、私だけ。私が入って20分経つまで、待って欲しい」入って来るな、という約束を取りつけるのは、おそらく不可能である。グリードのメダルへの執着を考えるに、条件付きで入って来て良いことにした方が、妥協を引き出せるだろう。舌打ちを漏らして、渋々という心境を隠しもしないアンクだが……何とかそれで納得してくれたらしい。……勝ち筋を、欠いている。申し訳程度に後衛を勤めているトーリからは、そう思えた。呉キリカの遅延魔法と回復能力の前に、魔法少女もオーズも、攻め手に窮しているように思えるのだ。だが、トーリに出来る事は何もない。なぜなら、キリカが隠していた橙色のメダルを使い始めてから、電撃が殆どキリカに効かなくなったからである。生命力を司るブラカワニには、毒や電気といった状態異常系に対する抵抗力も備わっており、そのメダルを使っているキリカも同様の効果を得ているのだ。一度目に捕まった時には腕関節を外しても怪我がすぐに治らなかった事から察するに、先程までは爬虫類メダルの力を使っていなかったのだろう。おかげで、完全にトーリが置物になってしまっていた。まさかトーリが前線に出張っても、キリカに一矢報いることが出来る筈も無い。もっとも、トーリが完全に戦力外となって余裕が出来たために、視野が広がって味方の状態に気付けた訳だが。オーズがタカの目で狙いをつけてコアメダルを抜き取ろうとしているようだが、それも思うように進んでは居ない。キリカの速さは、健在なのだから。しかも、キリカは瞬間回復能力の恩恵で、コアメダルが標的でない攻撃を回避する必要が無いのだ。確かに時間魔法だけでは回避できない攻撃も出て来ているが、そんなものではキリカは止まらない。さやかの横槍で腕が飛んでも、マミの狙撃で腱が切れても。何でも無いように駆回り続けるキリカの姿が、トーリに状況の悪さを教えていたのだ。オーズのタカの目でトーリを視られると非常にマズいが、それどころでは無い。最早、事態はそんな悠長な事を言っていられる次元では無いのだから。いっそのこと、正体がバレるのを考えずに行動してしまうのもアリかもしれない。トーリには一つだけ、この状況を打破する術に心当たりがあるのだ。ぶっちゃけると、先日採り込んだグリーフシードである。魔女のデフォルト能力である結界をトーリが使えれば、キリカの結界を内側からパンクさせる事が出来るのではないか。無限の魔力が結界の形成に影響するかどうかは不明だが、上手くいけばガラのような巨大結界を生み出せるかもしれない。トーリ等がこの場から逃げられないのは結界のせいであり、それさえ無ければ行動の幅は一気に広がるのだ。だが、しかし。「あ……れ……?」箱の魔女のグリーフシードにセルメダルのエネルギーを注ぎ込もうとしたトーリは……思考を、止めてしまっていた。ほむらから銃器で殴りつけられた時を遥かに上回る鈍い痛みが、脳内を走り回ったのだから。それは……『記憶』だった。自分の部屋の外の世界に誰よりも憧れながら、外へ踏み出すための勇気を持てなかった一人の子供の、記憶。どこからともなく現れた魔法の使者に、どこまでも見通せる魔法を貰って。でも、本当は……見ているだけでは、物足りなかった。遠見の魔法で見える全ての物に憧れて、しかし部屋の外が怖くて、一歩が踏み出せない。そして、最期はソウルジェムが濁り切って……。「っ……!」溢れ出す。一人の人間の、一生分の記憶が。たった一つの部屋の中で殆どの時間を過ごした、引きこもりの女の子の全てが、駆け巡る。もしトーリがグリーフシードの正体を予め知っていたのなら、その現象を予測出来たハズだった。アンクが合体した人間の記憶を読めるように、トーリもその記憶を読めて不思議では無いという事に。膝が、折れる。両腕を地面に突いて、崩れ落ちそうになる身体を支える。トーリが地面の水に電撃を流す時に同じ姿勢をとっていなければ、きっと火野映司や美樹さやかは、トーリの異変に気付いただろう。しかし、戦闘中の彼らは、トーリが電撃を流す機会を窺っているとしか思っていないに違いない。異変を、悟られてはいけない。不調を知られれば、キリカの標的はトーリに移るかもしれない。「く、ぅ……」舌を噛んで、何とか意識を繋ごうとした。口の中に広がった味は……人間の血液と同じ鉄臭さを伴った、セルメダルのそれであった。「さて、二進も三進もいかない君たちに、逆転のチャンスタイムをあげようじゃないか」……悪魔の囁きは、時に天使の声に聞こえる。相手がこちらを謀る気満々であるのが分かり切っていても、耳を傾けてしまうのが人情というヤツな訳で。攻撃の手を休めずとも、人間達は聞いてしまっていた。キリカの、言葉を。「オーズが紫のメダルとの同調率を上げれば、私の防御を無視してコアを破壊できるよ」……確かに、こちらがキリカの速度には慣れてきたため、攻撃を当てること自体はそんなに難しくは無くなって来ていた。加えて、キリカが防御してもコアメダルを砕く事が出来るのならば、それがそのまま勝利の目となるだろう。だが……この場の誰もが、思っていた。このまま戦い続ければキリカの勝利が待っているかもしれないのに、それを何故教えたのか、と。罠に違いない。しかし、このまま戦ってもキリカに勝てる見込みはない。さやかやマミも無限の魔力を使えば持久戦は出来ないでもないが、こちらの戦法が制限されてしまうだろう。近付いて斬ることしか出来ないさやかは、トーリと密着した状態では機動力が下がって使い物にならない。マミにしても、現在は狙撃と近距離打撃を織り交ぜてようやくクリーンヒットを生み出せているという状況であり、やはり瞬発力を捨てる選択肢は存在しないのだ。「こうなったら、やるしか……」「やるなッ!!」しかし、やるしか無いと言いかけた映司の言葉は、さやかの大声によって止められてしまっていた。おそらく、映司がそう言い出すという事を先読みしていたのだろう。映司なら、この場のマミやトーリの命が懸かっている状況で、映司自身の危険など顧みない筈だ、と。「あの紫は、凄く嫌な感じがした! 絶対何かおかしいよ! コイツだってそれを狙ってるに決まってる!」「そんな事は、オーズだって分かっているだろうに」さやかでも気付けた事柄に、映司が気付いて居ないはずが無い。そんなことぐらい、さやかには分かっていた。そして……その叫びが、映司を今まで止められなかった事も。「ハァッ!」オーズがタトバコンボの緑色の目を一瞬だけ紫に輝かせると同時に、足元の地面へと片腕を突っ込んでいて。地面から取り出したものは……紫の大戦斧、『メダガブリュー』であったのだ。まだプトティラコンボ状態でも無いのに、紫メダル謹製の武器を具現化することに成功したのである。さやかの言葉が届いたために、紫のコンボを使わなかったのか。それとも、紫のメダルと同調したために、タトバコンボにおいても紫の武器が出せたのか。もしくは、両方か。『ゴックン』大斧の刃の端に備え付けられた口へと、セルメダルを飲み込ませながら。オーズは……踏み込んだ。マミの銃弾によって狙われたキリカが、回避の先に動くであろう、未来の地点へと。紫の残光を纏いながら、横薙ぎに振り切る。「セイ、ヤァッ!!」欲望を絶ち切る、無の一撃の行方は、果たして……・今回のNG大賞「マミさん! 無限の魔力でリボンを沢山作って、この結界をパンクさせましょう!」「なんで、そういう狡い事を考えるかな。君は……」数時間後~「恭介のバイオリンが聞こえるぅ……」←酸素が足りない「さやかちゃん、何か苦しそうだけど大丈夫?」←シャチヘッドで多少は無呼吸でも平気「どうかしたんですか?」←ヤミーって酸素必要なんですか?「もう……少しよ……」←先輩の意地こんな持久戦は絵面的に嫌だ。・公開プロットシリーズNo.113→俺は一回刺されただけで死ぬぞォッ!!