「……よく考えたら、ワタシ達って別にピンチじゃないですよね?」「……今更だろ?」ヤミーに憑かれた山金が廃工場に侵入してきて、こちらに戦力は無い。だがしかし、ヤミーは奥村安治への復讐を目標としており、その奥村が逃げ出したのだから……。「待て! ヤスゥゥッ!!」「うわあああっ!!」逃げる奥村に、ヤミーは釣られて行ってしまう訳で。別に、トーリ等はそもそもピンチでは無いという結論に達するのである。近くにカザリが居れば、ヤミーに何かしらの指示を出したかもしれない。だが、当のカザリさんが居ないのだから、ヤミーは親の欲望を実行するだけである。即ち、危険なのは山金の復讐の対象である奥村のみであって、トーリとアンクは縛られているとは言っても、危険に遭う事はないのだ。怪人とニアミスをしたのだから、もう少し危険な目に遭っても良さそうなものだが。未確認生命体の世界だったら即死だった……ッ!それはともかく、工場の外へと走って行った奥村を追って、復讐者山金も工場から出て行ってしまった訳で。「で? 通信魔法で助けは呼んであんだろ?」「あ、バレてました?」お前の考えそうな事だ、と即答してくれるアンクの抱くモノは、信頼なのやら諦念なのやら。トーリの選択肢が主に逃亡か他力本願の二択であることは、しっかりと把握されていたようである。別に隠しておく意味も無いので、バレていても特に問題は無いが。「マミさんが、こっちに向かってくれてるみたいです」「……アイツかァ」みんな大好きマミさんですよ。その割に、アンクは嬉しく無さそうである。それは、マミに殺されかけたという経緯を持つアンクならば、ある意味当然の反応と言えるのかもしれない。しかも、あの一件からマミとアンクは和解している訳では無いのだから、互いに面倒な相手である事は間違いが無かった。そうして待つこと一分が過ぎた頃……「トーリさん! 大丈夫!?」「マミさん! 助かりました! それと、アンクさんも……」なんだか、アンクが素直に礼を言ってマミに助け出される姿が想像できなかったというべきか。何となくトーリは、アンクの方へと視線を回していて。……すると、険しさの無い瞳が、困惑したような表情を引き連れてトーリとマミへと交互にピントを合わせていた。トーリやマミの知るアンクは、絶対にこんな不安そうな顔は見せない。となれば?「あれ? アンクさんは引っ込んでしまったんですか?」「そうみたい。マミさんのこと、怖がってるのかなぁ……」アンクは、単にマミと会うのが面倒くさいのか、若しくは殺される危険を感じているのか。まどかとアンクの間で何か内部通話があったのかもしれないが、トーリにはその内容が何のか、判別がつかなかった。「……アンク? アンクって、腕怪人のアンクよね……?」そして、まどかとトーリの会話を聞いて、眉をひそめている巴マミさん。その表情が何を意味しているのか、過去に銃口を向けられた印象の強い鹿目まどかとしては、若干恐ろしいところである。「という事はやっぱり、貴女が鹿目まどかさん?」「は、はい、そうです」「……?」もっとも、傍から会話を聞いているトーリには、何が何やらである。鹿目まどかが少しだけ固くなっている理由も、巴マミが何かを納得したような顔をしている理由も、サッパリ訳が分からない。巴マミと鹿目まどかが病院にて二度の邂逅を果たしていることなど、トーリは知らないのだ。鹿目まどかと共に巴マミに関する噂話に興じた事はあるものの、このマミとまどかの二人が顔見知りだなどとは、思いもよらなかったのである。「お二人は、顔見知りだったんですか……?」「……アンクに手を出したときに、ね」巴マミは、アンクが生き残った方法を疑問に思わないでもなかった。そして、これからアンクを始末する予定がある訳でもないのだから、その手段を聞き出そうとも思っていない。おそらく、現在巴マミの目前に居る鹿目まどかが、何かしらの働きを見せたのだろうが。どうも、鹿目まどかと巴マミは、お互いに思うところがあるらしい。まどかとしては、マミの事を怖いお姉さんだと思いつつも、魔法少女がいわゆる『正義の味方』だという事は理解できているために、潜在的な恐怖心が低くなっているのだろう。一方のマミは……アンクの始末を邪魔した鹿目まどかを鬱陶しく思ったのが第一印象であったが、アンクの生存を認めた現在となっては、その印象も随分薄まっていて。互いが、互いに対する距離を測りかねてしまっているのだ。「……とりあえず、今はヤミーを追いませんか?」だが、そんな因縁に巻き込まれるなど、トーリはゴメンなのである。最近どんどん人間関係がややこしくなっているのに、これ以上人物相関図を複雑化しないで欲しい。脚本に東映の用心棒を呼べ、とまでは流石に思っていないが。とにかく、微妙に居辛い雰囲気から抜け出すために、復讐ヤミーの存在を有効利用しようという訳だ。もちろん、トーリ自身がヤミーを感知できる事は、オフレコである。サメヤミー編以降、トーリはヤミーの感知が可能となっているのだが、イマイチ活かす機会に恵まれない能力だったりする。別に、作者がその設定を忘れていた訳ではない。そんなこと、あるわけないじゃないか!そして、トーリの感知能力が知られていない以上、トーリと巴マミの視線が一か所に集まるのは必然な訳で。「……仕方ない。お前がどうしてもヤミーを倒したいってんなら、『手伝わせて』やっても良い」再び目付きを尖らせた鹿目まどかは、渋々と首を縦に振ることとなったのである……。『その欲望を解放して魔法少女になってよ』第百八話:ごとごとホットポット ……美樹さやかは、病院の前のベンチに座って、萎びていた。その視線の角度を下方45度に固定して、どんよりとした気配を放出し続けているのだ。もし99.9秒しか変身できない方々が通りかかったら、怪人と間違えて切掛ってしまうという程度には。もっとも、この世界観にはそんな職業は存在しないが。「なんで来ちゃったんだろ……」さやかがこの病院を訪れた理由は……特に、大それたものではなかった。仲睦まじい様子の志筑仁美と上条恭介を何となく視界に収めて歩いていたら、病院まで辿り着いてしまったというだけの話である。おそらく、上条の回復経過を医師に確認してもらうために、恭介と仁美の二人は病院を訪れたのだろう。さすがに、用事も無く病院に入ることも躊躇われたため、さやかは病院の前のベンチに腰を落としているのであった。「んん? 美樹ちゃんじゃねえか」だが、そんな死んだキュゥべえのような目をした美樹さやかに、話しかけた勇者が約一名。一メートル程のミルク缶を背負った、妙にガタイの良い男が、いつの間にかさやかの目の前に現れていたのである。「伊達さん、だっけ……」確か、バースに変身するこの男の名前は、伊達明といったはずだ。しかし、何故伊達と病院の前で会わなければならないのか。まさか医療関係者には見えないが、持病を患っているようにも思えない。もっとも、現在の美樹さやかには、そのような突っ込みを入れるだけのモチベーションも無いのだが。「おう。戦うドクター『伊達明』とは、俺の事だ!」「……えっ? 医者……?」……と思ったら、伊達が自分からカミングアウトしてくれた。だが、見るからに長身の筋肉質で日に焼けたこの男は、どう考えても白衣が似合いそうには見えない。案の定、伊達の肩に乗ったゴリラのカンドロイドが、伊達明がこれから荒事に参加することを急かしていた。ヤミー感知の能力を持つゴリラカンが、まさにその仕事を遂行していたのだ。「今からヤミーの狩り入れに行くとこなんだけど、一緒に来るか?」一方の伊達は、美樹さやかの大体の事情を把握していたりする。以前に共におでんを囲んだ際に大まかにだけ美樹さやかの失恋について聞いていたため、すぐさま脳内でさやかの現状と結びつけたのである。そのうえで、気分転換を勧めてみたのだ。伊達としては、失恋の特効薬として、新たな目標を設定することは悪くない選択肢だと思っているからして。そして、無言でベンチを立ったさやかの返事は、肯定のものだと考えて良いのだろう……。「伊達さんはさ、何で、戦うの?」……共に現場へと、走りながら。美樹さやかは自然と、伊達明へ言葉をかけていた。それは、さやか自身が戦う動機について抱えている不安の発露であったが、果たして伊達明はそれを理解しているのだろうか。「前にも言った気がするけど、一億稼ぐためだ」「一億稼いでどうすんの? 何かに使うんでしょ?」金銭は、目的では無く手段である。もちろん、世の中には金銭自体が目的物であるという人間も居るだろうが、大抵の人間にとっては、金銭は手段に過ぎないのだ。「…………そんなに、聞きたいか? つまんねぇ話だぞ?」伊達としては、適当にはぐらかせれば、それに越したことは無いと思っていたりする。何というべきか、伊達明の事情を話すと、同情されそうな気がしているからである。自分で働いて目的を達成したい伊達としては、その事態は好ましいものではないと考えているのだ。もっとも、無言で先を急かすさやかの態度を見るに、伊達が黙秘を続けるのも難しいのかもしれない。「あれは俺がアフリカのサヘルで働いてた時に……っと、到着だ! 続きはまた今度な!」まぁ、伊達の焦らし方が上手かったのか、先に目的のヤミーを発見してしまったのだが。ちょうどヤクザのような男が、伊達明と美樹さやかの目の前で、ヤミーへと姿を変えたのである。鋭い長爪と、側頭部から際立ったタテガミが印象的な、ライオンのヤミーへと。だが、しかし。「なにアレ……?」「ちょっとグロいなぁ……」タテガミに覆われた顔面は、その半分が水膨れのように湿感を纏っており、身体の節々からも触手のような糸が垂れていて。ライオンと呼ぶには、そのヤミーはあまりにも不気味過ぎる風貌を晒していたのだ。「どりゃぁっ!!」魔法少女装束を具現化しながら、剣を持って突っ込んだ美樹さやか。別に、ヤミーの中に捕らわれた人間の救助を忘れている訳では無いのだろうが、手早く終わらせたいと思っているには違いが無さそうである。伊達明の話の続きを早く聞きたいのか、もしくはヤミーの外見が生理的に嫌なのか。早急な人命救助のために情熱を燃やしている、というふうには、伊達の目からは見えなかったが。「変身」一方、襲われていた奥村の無事を確認して逃がしてやっていたために出遅れた伊達も、バースドライバーを腰部に巻き終えて、手早くセルメダルを取り出していた。準備したセルメダルを既に慣れた手付きでベルトの投入口へと差込み、サイドのレバーを回して、変身完了である。そして、仮面ライダーバースへと変身を終えた伊達明は……改めて確認したヤミーの姿に、自らの目を疑っていたりする。美樹さやかが薄く切り裂いたヤミーの傷口から、セルメダルが零れていた。そこまでなら、問題は無い。むしろ、中に捕らわれた人間の身を気遣うことが出来た美樹さやかを誉めるべきところである。しかし、伊達が目を見張った異変は……ヤミーから零れ落ちたセルメダルが、その形を変え始めた事にあった。それらのセルメダルは、地面に落ちて何時もの金属音を響かせる事は無く、宙に浮いたまま新たな形状を取り始めたのである。その形とは……、「クラゲ、か?」特徴的なカサと足を生やした、体長20センチほどのクラゲであった。サーベルと爪にて打ち合う美樹さやかとヤミーを囲むように、クラゲらしきヤミー端子の大群が、泳ぐように宙に浮かんでいたのである。あのクラゲには、何か意味があるのだろうか?ファンネル的に、毒針でも発射するのかもしれない。……と思ってバースが警戒していると、案の定というべきか、クラゲたちは速やかに行動を開始していた。「ぎにゃぁ!!?」さやかに触れたクラゲが、その触手から電流を流したのだ。しかも、30体程の大群による、波状攻撃である。一昔前のマンガだったら、電流が流れるたびに、美樹さやかの全身骨格が浮かび上がる演出が為されていたことだろう。「このっ!」ならば、と。振りかざしたサーベルの先で、空中のクラゲの抹殺を狙ってみるさやか。だが、空を泳ぎまわるクラゲが、ただのクラゲである筈も無く。「……ありゃぁ、厄介だな」若干距離をとって静観している伊達が思わず感嘆する程度には、クラゲは面倒な挙動を見せつけてくれていた。なんと、半分に割られたクラゲが、それぞれ一体ずつの個体として再生したのである。元の一体に比べるとやや小さいように思えるものの、総合的な体積が増えているように見える辺り、セルメダルの実体化能力も大概意味不明だと言えよう。根本的に、何故クラゲの能力が電流なのだろう?毒で痺れるような感覚に陥るという症状からの連想だろうか?『ブレスト キャノン』何はともあれ、見ているだけでは解決しないので、伊達も動くしかない。とりあえず、ベルトへ投入するセルメダルを複数枚用意して、胸部装備用砲台のブレストキャノンを取り出してみた。それに、これ以上静観していると、さやかがオンドゥル語を喋り始めそうな気がしたので。伊達さん! 何故見てるんですか!!?『セルバースト』「美樹ちゃん! 適当に避けろ! ブレストキャノン・シュートッ!!」「うぇっ……」……大概、伊達も容赦の無い男である。バースの最大威力の攻撃であるブレストキャノンの砲撃によって、空中に浮かんでいたクラゲたちを、まるごと吹き飛ばしたのだ。どうやら伊達の見立て通り、単純物理攻撃を受けた時しか分裂出来ないらしく、クラゲたちはセルメダルへと戻って地面へ降り注いでいた。というか、もしバースの砲撃が通じなかったら、おそらくバースでは何をしてもこのヤミーには勝てない。ちなみに、美樹さやかはクラゲの電流スタン攻撃で機動力が落ちていたが、近くのマンホールの蓋を叩き割って事なきを得たそうな。穴から這い出てきたさやかから微妙に下水特有の異臭が放たれているのは、突っ込んではいけないのだろう。電流によって人肉が焼け焦げる生々しい臭いでないだけ、マシである。多分。どちらにしても、魔法少女と名の付く生き物が纏うべき臭いでは無い事は確かだが。奇跡も魔法も無いんだよ!「そういう事は先に言ってよ!? 死ぬかと思ったんだけど!?」「悪い、悪い。つい、やっちまったぜ!」ついヤっちゃうんだ☆仮面ライダーの心強いスポンサーの台詞が、美樹さやかの脳内に届いたのだとか。若干イラっとしないでもないが、まどマギのスポンサーも謎の白い液体だったりするので、案外余所の事は言えないのかもしれない。……そんな事は、ともかく。バースが吹き飛ばしたのは宙に浮いた痺れクラゲだけであり、ライオンクラゲヤミーの本体はまだ健在なのである。だがしかし、ヤミーも自身の不利を悟ったらしく、触手を翻らせて逃亡の姿勢に入っていた。逃亡はヤミーの必修科目なのである。「逃がすかッ!」走るヤミーと、それを追う仮面ライダーに魔法少女。彼らの行き着く先は、果たして……?佐倉杏子は……その戦意を、半減させていた。つまり、目の前で杏子の槍を弾き返している猫怪人と、戦う気が失せていたのである。カザリを退けて魔女を倒せば、確かにグリーフシードは手に入る。だが、そのカザリが微妙に扱い辛い相手だったのだ。最初は、速度も攻撃力も杏子とあまり変わらない程度だと見積もっていたのだが、カザリの手はそれだけでは無かったらしい。重力やら熱風やら、やたらと遠距離攻撃が充実している模様なのである。昨日オーズとキリカから奪ったコアメダルを取り込んだ事によるパワーアップなのだが、相対している杏子からしてみれば、たまったものではない。杏子は鎖と投槍が使えない事もないが、基本的には近接仕様のスタイルなのだから。海水をぶっかけられる程度なら後を引かないが、重力で機動力を封じられると、非常に拙い事態になりかねない。「猫は猫らしく、魚屋でも襲ってろよ!」「魚の魔女が居たら、紹介してよ?」よって、杏子が考えている選択肢の中で、現状もっとも大きな割合を占めるものは……『逃亡』であった。別に、怪人しか逃げてはいけないという訳では無いのだ。むしろ、世界の命運を背負っている主人公チームにこそ、真に『逃亡』スキルが必要なのである。逃げずに勝てるなら、それに越したことは無いが。「マズいな、こりゃ……」そして、駆け回る最中、杏子は……魔女の卵の胎動を、感じ取っていた。おそらく、そう時間が経たないうちに、魔女が孵ることだろう。杏子としては、グリードと魔女を交えた三竦みの戦いなど、死んでもゴメンだった。誰が好き好んで、そんな面倒な戦いを演じなければならないのか。「遊びすぎたかな……」一方、カザリも別の事に気を取られていたりする。……どうやら、カザリの作った合成ヤミーが、この場に近付いているようなのである。オーズにでも追われて、カザリに助けを求めてきたのだろう。ぶっちゃけ、二人とも考える事は一緒なのだ。とりあえずこの場から離れたい、と。ただ、何となく退くに退けないというか、相手が退きそうな気配がするからもう少し待ってみよう、的な。要するに、チキンゲームである。フラグである。すなわち、半端に意地を張り合ってしまったばかりに、タイムリミットが到来してしまったのだ。ライオンをベースにクラゲの質感が所々から顔を覗かせる不気味なヤミーが、戦いの場に突如として姿を見せたのである。杏子は奇襲こそ許さなかったものの、状況は確実に悪化していた。しかも、ライオンクラゲヤミーの容姿にはドン引きせざるを得ない。魔女にもグロテスクな個体は居るが、そんな集団と比べても、このヤミーのキモさは上の上である。下の下と言っても正解な気がする辺りは、日本語の神秘というヤツなのだろう。そして、当然と言うべきか、ライオンクラゲヤミーを追ってきた若干名もこの場に現れる訳で。「カザリ!?」「それに、この間の家出っ子か。何でこんなところに居んだ?」銀の鎧をまとった男と、青の魔法装束を帯びた女。そいつらが、カザリ達を警戒しつつ、杏子の傍らに駆け寄ってきたのである。「……アンタ、なんか潮臭くない?」「そういうあんたは、下水の臭いがするけどな……」微妙に不穏な、ような。フルフェイスのマスクを被っている伊達には、臭いなど判別できないので、ノーコメントである。伊達は何故杏子がカザリと戦っていたのかと気になっては居るものの、年頃の中学生の体臭に対して苦言を呈するほどのデリカシー欠乏患者でも無いのだ。「あとで仲良く銭湯にでも行ってきな。それよか、説明よろしく!」「説明も何も、あの猫怪人とアタシが戦ってただけだよ。あと、説明するとしたら……」杏子としても、カザリとは今日が初対面であり、特にグリード関連の情報を持っている訳でもないのだ。だが、そんな杏子でも現在の状況に関して説明できる事項が、一つだけ存在していた。「……たった今、魔女が孵って、アタシ達は魔女の結界に取り込まれたって事かな」杏子がこの場を離れたかった理由が、具現化してしまったことである。具体的に言うと、いつの間にか周囲の風景が変化してしまっていたのだ。ノートの切れ端を敷き詰めたような、それでいて緑色で埋め尽くされているという、意味不明な配色の空間へと。補色のような黄色のボールが地面を跳ねまわり、立体感の無いトロッコに乗ったヒトガタが、結界の中を素早く走り回っている。そんな、魔女の結界の中へと。グリードにヤミー、そして魔法少女に仮面ライダーが、同時に引きずり込まれてしまったのである。何が起こっても不思議では無く、誰が事切れる事も有り得る、魔窟。結界という名の決闘場は、その役者達にどのような運命をもたらすのか。メダルや駄菓子やおでんが致死量投入された闇鍋は、じきに煮え立つこととなるのだろう。今回の一番の被害者は、誕生そうそうに結界を勝手に闇鍋化された、落書きの魔女なのかもしれない……。・今回のNG大賞「あとで仲良く『銭湯』にでも行ってきな」「『戦闘』の後に、って事?」さやかェ……。「…………普通、思っても言わねーよ。そんなオヤジギャグ……」「そうだよなぁ(思ってたけど言わなくて良かったっ!)」伊達さんは空気を読み切っていたようです。・公開プロットシリーズNo.108→仮面ライダーと魔法少女とグリードと魔女とヤミーと使い魔を同じ部屋に閉じ込めてみた