金属が擦れ合う音を聞くような、感覚。もちろん既に慣れた感覚ではあるため、特にトーリは驚くことこそ無かった。サメのヤミーを感知した時以来、トーリにはヤミーの感知能力が備わっているのである。もっとも、何故それが分かるのかと尋ねられると面倒なので、周囲には教える予定は無いが。……しかし、トーリにぶら下がって飛んでいる内の一人は、欲望の怪人たるグリードな訳で。「ヤミーだ」「やっぱり?」「目的地を変更しますね」鹿目まどかの声を使って、アンクが簡潔に用件を伝えてくれた。今まで面倒臭がって喋らなかったアンクが急に表に出てきたことから、映司も大体予想が出来ていたらしい。アンクがその異形の右腕を以て指し示す方角へと針路を変えながら、トーリは思う。……本当に、創生者ウヴァさんを復活出来る日は来るのか、と。だが、トーリにも勝利の目が無いわけでは無い。トーリは、ガラの部屋に備わっていたディスプレイの一つから、ガメルがコアメダルを奪われる光景を見ているのだ。つまり、ガメルを復活している事は確定情報な訳で。当然、ガメルを復活させた何者かは、グリードの蘇生手段を知っているに違いない。……実は先日カザリに会った時にもガメルの件を聞こうと思っていたのだが、カザリさんが自身の用件だけ言って早々に去ってしまったせいで、質問できなかったのである。実のところとして、本当にカザリは、トーリへとグリード蘇生情報を回すつもりがあるのだろうか。カザリがガメルの一件を知らなかった可能性もあるので、断言はできないが。ぶっちゃけると、どうにもカザリはキナ臭いのだ。……天国のウヴァさん。一体いつになったら、貴方のヤミーは本懐を遂げられるのでしょうか?『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百七話:犯人はヤス魔法少女が魔女を感知したら、どうするか?手持ちのグリーフシードに余裕があれば、見逃すこともあるかもしれない。しかし、大抵の魔法少女は、意気揚々と魔女を狩りに行く生物である。様子見に費やす労力には個人差こそあるものの、大概の魔法少女の行動は一致するだろう。……だが、もし無限の魔力という、ジュースの出る蛇口のような代物に手が届きそうならば?それは事実上、魔法少女を戦いの宿命から解放することを意味する。であれば、佐倉杏子が少しばかり魔女狩りへと消極性を強めている事も、当然と言えただろう。とある廃ビル街の一角にて魔女のタマゴの気配を感じて近くまで来たものの、魔女がまだ孵化していなかったために、廃ビルの中でタイヤキを齧りながら時間を潰しているのである。更に、この場において杏子に不用意な行動を躊躇わせる要素は、もう一つ存在した。どうも、先程から、何者かに監視されているように思えるのだ。そして、杏子が追跡者に気付いているという事実は、おそらく追跡者には悟られていない。「どうしたもんかねー……」相手が普通の変質者やストーカーであれば、魔女の結界の中までは追って来られない筈だ。先日迷惑をかけてしまったホテルの関係者だったりすると、非常に申し訳ないが。しかし、もし相手がグリードや魔法少女のような異能絡みだったりすると、結界の中で魔女を絡めた三竦みの戦いを演じる事になるかもしれない。その手の面倒くさい駆け引きは、あまり杏子の得意とするところでは無いのである。「うぜぇ……」結界に入ってすぐに待ち伏せして強襲するのも、悪くは無い。だが、それを読まれて爆弾を投げ込まれたりすると、笑えないにも程がある。爆弾というのは物の例えであって、範囲攻撃なら何でも危険なのだ。別に、爆弾を使う特定の個人を敵に想定している訳では無い。誰の事とは言わないが。こんな時、背後を守ってくれる相棒が居れば、と思わないでもない。トーリや美樹さやかでは戦力面で若干不安が残るが、巴マミや暁美ほむらならば組んでみたいという気は、無いでも無い。特に、魔法少女としての経験を積み重ねている巴マミの安心感は……。「……って、何か思考がオカシイぞ」と、そこまで考えてしまってから、思う。何時の間にか、他の魔法少女と共に行動した日々を、当たり前のように考えてしまっていた事を。一週間ほど前までは、一匹オオカミを気取っていたというのに。甘味なんて、現在齧っているタイヤキのような食料品から調達すれば、それで十分なのだ。ともかく、杏子の目的物であった『無限の魔力』は、トーリが一緒に居なければ使えない。だが、トーリと永遠にコンビを組んで活動する予定は無い。そして、杏子がその秘密を手中に収められると決まった訳でもない。つまり、そんな無い無い尽くしの状況の中でグリーフシードを確保しておくことは、杏子にとって悪い選択肢では無いのだ。ならば、追跡者を排除して安全を確保したうえで魔女の結界に侵入するのが、上策に違いない。「きょうび、ストーカーなんて流行らないよ? さっさと出て来いっての」そういう訳で、追跡者に対して少しだけ大きな声をかけてみた。常人の感覚ならば警察に連絡するところだろうが、相手が異能の者であった場合は、警察では役者不足なのである。「なんだ、バレてたのか」案の定、杏子の懸念は見事に当たっていたりする。廃ビルの無数の柱の影から姿を現したそいつは……ドレッドのような毛を頭から垂らした、細身の怪人であったのだから。……あの呼びかけに応じて出て来る方も出て来る方だ、と杏子としては思わないでも無いが。頭の後ろで腕を組んでいる仕草は、余裕のつもりなのだろうか?杏子としては、グリードを倒す理由も無いため、関わり合いたくないという認識が強かったりするのだが、そうも言っては居られないのだろう。そのグリードの方から、杏子へと近付いて来たのだから。「で? あんたの狙いは何なのさ?」「君に用は無いよ。僕が興味を持ってるのは、君が見つけた魔女の方だ」……魔女を追っていたカザリと杏子が、たまたま魔女結界の入り口付近まで同時期に辿り着いてしまったのだろうか。もしくは、魔女を見つけて歩み寄った杏子を、カザリが追いかけていたのか。何となく杏子としては、怪人が嘘を吐いていないように思えるのだが、果たして?「魔女なんて、別に食ったって美味くねーぞ?」「味覚なんて、別に元々感じてないから良いよ」念のために断わっておくと、杏子に魔女を食べた経験がある訳では無い。もちろん、グリーフシードを食べた事もあるはずが無い。キュゥべえがグリーフシードを食べる光景を見た時に、その味に興味を持たなかったといえば嘘になるが。「なら何なのさ? まさか人類を守る正義の味方に目覚めたとか寝言を言い出すんじゃねーだろーな?」「僕が『進化』するための糧になりそうだからだよ。誰が人間なんて守るもんか」割と情報に関するタガが緩いのが、カザリさんの良いところなのかもしれない。もしくは、本当に知られてはいけない情報だけは、見つからないという自信があるのだろうか。「分かった分かった。あんたはあの魔女を狙ってる。で、アタシも同じ魔女を狙ってる。って事は……」怪物の事情なんて知ったこっちゃねーけど、なんて前置きをしながら。……次の瞬間には、廃ビル全体に響き渡るような、甲高い音を奏でていた。杏子の指輪の先から伸びた一本槍の奇襲が、カザリを射殺さんと、一直線に伸びていたのである。「君の持ってる分のグリーフシードまで纏めていただけば良いって事だね」もっとも、その金属音がメダルの零れ落ちる音で無かった時点で、不意打ちの成否は自明であったが。杏子の動体視力は確かに、カザリがその腕より伸びた強靭な爪を以て杏子の槍を受け止めている様子を、見定めていたのだ。どうやら、正面からの不意打ちが決まるような甘い相手では無かったらしい。カザリが空いている方の手から伸びた爪によって槍を絶ち切っている様子を、視界に収めながら。タイヤキを尻尾まで丸々口に放り込みつつ、杏子は思う。正義の魔法少女としてグリードを討つような柄では無いが、グリーフシードの取り合いならば容赦なく相手をぶっ飛ばせる、と。そして、その手の思考の逆転を、この町に来てから何度か行っている事も。灰色の暴走態と戦ったのを、杏子は自身の八つ当たりのためだと思っていた。さやかとマミに無限の魔力のヒントを与えたのは、治療の借りを返すためだと思う事にしていた。トーリと一緒にマミの復活に助力したのは、無限の魔力の情報を集めるためにトーリの提案に乗ったためだと自分に言い聞かせていた。……そして、今も。どちらが本当の自分なのか、ひねくれ過ぎた杏子には分からない。自分が本当は何を望んでいて、誰を求めているのか。欲望の怪人たるグリードならば……杏子自身でさえ曖昧なそれを、教えてくれるのだろうか?「自分の欲に忠実な奴は嫌いじゃねーけど、アタシの邪魔すんなら覚悟しな!」身勝手な5人組のうちの一人であるカザリと、5人の魔法少女の中で最も身勝手な佐倉杏子。だがしかし、良くも悪くも、相手の心根を変えるような能力を持たないこの二人の戦いは。きっと……互いの性質に変化をもたらす事は、有り得ないのだろう。一方、ヤミーを追っていたオーズ組はと言えば……「助けてくれぇっ!」「お前だけはゆるさねぇ! ヤスゥッ!!」細長い顎が印象的な男が、柄の悪い男に襲われている光景に出くわしていたりして。だが、襲撃側の手の甲からは人間では有り得ない長爪が伸びており、目の前の光景が野良喧嘩の類で無い事は明らかであった。「どう見ても、あの爪が生えた方ヤミーの親だなァ」「って事は、カザリのヤミーか。やり辛いんだよな……」そして、アンクが断定したように、映司もおよその予測はついていた。おそらく、人間に寄生して操るタイプのヤミーなのだろう、と。つまり、適当に弱攻撃を当てて人間と分離させるという面倒な工程が必要なのである。ヤミーの親に体当たりをかまして、逃げ惑う男をトーリやアンクの方向へと誘導しつつ、ベルトにコアメダルをセットして。「映司! 『コレ』で行け!」「分かった! 変身!」『サイ トラ バッタ』そんな忙しい映司へとアンクから投げ渡されたのは、サイとバッタの二枚。トラは元々映司が持たされていた物を使用する事によって、生み出されたオーズの亜種形態の名は……『サトラバ』であった。何故映司が元々コアを持っているかと言われれば、赤コアを保持しておけないアンクが、その事情を誤魔化すためにタカとコンドルのコアを映司に預けた事に原因がある。当然、映司が何かを聞き返したいと言わんばかりの反応を見せたので、万が一の時に変身するためだと教えてトラメダルも一緒に持たせたという訳だ。別に、トラなら失くしても問題が無いとか、そういう事を考えている訳では無い……ハズである。多分。というか、そんな発想をするぐらいならば、そもそも赤コアを預けたりしない。ちなみに、アンクの心情としては様子見には『タトバコンボ』を使いたかったのだが、その点に関しては映司から説明済みだったりする。婦女子が近くに居る時には透視能力を持つタカを使ってはいけないという、例のお約束である。もちろん、時と場合にも依るが。加えて、ヤミーが人間を操っている現状では、あまり攻撃力の高いメダルを渡しても映司がそれを活かさないだろうという見込みもあった。したがって、硬度重視の『サイ』を含んだ防御及び回避系のメダルを渡している訳である。案の定、映司は人間を倒すのではなく、取り押さえようと奮闘しているらしい。トラ手甲で相手の爪攻撃を受け流しつつ、手加減気味の打撃を加えて弱らせる魂胆のようだ。流石に戦い慣れているというべきか、危なげなく敵の爪を避け、的確に相手の胴体へと打撃を打ち込んで足止めをこなす、オーズ。相手が怪人態ならばまだしも、まさか怪人に操られているだけの人間に負ける筈も無かった。……まぁ、だからといって相手を必ず倒せるかと言われれば、それは別問題な訳だが。相手が逃亡を始めれば、オーズは深追い出来ないのだから。アンクの身体が子供のそれに変わって、タダでさえ自衛能力が落ちている現状では、敵を深追いして罠を張られる危険は回避しなければならない。以前、ヤミーを追っていたら魔女の結界に捕らわれてしまった経験さえあるのだ。もしあれを誰かが狙って出来るのならば、単独での深追いは得策では無いと言えるだろう。加えて、残されたアンクと鹿目まどかの身の心配もあるのだ。一応護衛役にトーリを残す事は出来るが、顎の細い男とアンクの二名を守り切るような信頼は、トーリには無いのである。「……あれ?」だがしかし、ヤミーの追跡を諦めて戻って来たオーズの視界は……待っている筈の三名の姿を視界に収めることは無かった。何の前触れも無く、いつの間にか三名は、その場から姿を消してしまっていたのだから。初め、トーリが二人を抱えて上空へ上がったのだろうと思っていた映司だったが、いくら空へ視線を回しても、それらしい影は見当たらない。「まどかちゃーん? トーリちゃーん? アンクー?」適当に周囲に声を撒いてみるも、やはり反応は無かった。オーズは、知る由も無い。ヤミーが顎の長い男を襲っていた理由も。その男が原因で、女子二名が姿をくらます結果となった事も。では、当のアンク達の現状は、一体どうなっているのか?その現在地は……とある、廃工場であった。先日集団自殺未遂事件があった場所とはまた違う、やや光の入り易い物件である。いわゆる、『いつもの廃工場』とでも呼べば良いのだろうか。その単語を地球の本棚でググると、きちんと特撮ネタ関連のページにヒットするのは、もはや仕様に違いない。「チッ……!」「わ、悪く思わないでくれよ! こっちも命がかかってんだから!」そう、アンクとトーリの二人は、拘束されて拉致監禁の身の上なのである。後ろ手に手錠をかけられたうえで、二の腕の高さにも縄を巻かれているという、子供相手だというのに慎重すぎる仕事ぶりであった。下手人は当然、目の前に立っている、顎の長い男に他ならない。アンクが睨みつけるたびにビクリと反応を見せてくれるあたり、あまり気は大きくないのだろう。鹿目まどかの顔で睨みつけられたところで、トーリでさえ怯まないというのに。しかし、ヤミーに襲われて助けを求めていた筈の男が、何故未成年者を略取せねばならないのか?「自首すれば罪は軽くなると思うんです! だから解放してくださいっ!」「俺だってこんなことしたくないよ! でも、山金さんが怪物になって襲ってきて……」先程のヤミーの親は山金で、顎の長い男は奥村ヤスジという名前らしい。元々、奥村ヤスジは山金の部下として犯罪に手を染めていたのだとか。ところが、奥村が自首して洗いざらい情報を吐いたため、山金と奥村は共に刑を受ける事となったそうだ。奥村の刑は軽かったのは幸いであったが、化物になって脱獄してきた山金が、奥村ヤスジに復讐するために襲い掛かって来たのだそうな。「……で? その話が俺達に何の関係があるってんだ?」「山金さんから逃げてたら猫みたいな化物がもう一体現れて、助かりたかったら、噂の仮面ライダーと一緒に居る『鹿目まどか』って子をさらって来いって……」それは間違いなく、奴である。グリードの中に、こんな陰険な作戦を立てる個体など、奴を差し置いて他に居る筈が無い。まぁ、当のカザリさんは、まさか奥村の仕事がこんなに早いとは予想できずに油を売っていたりする訳だが……。『どうしましょう、アンクさん?』はてさて、どうしたものか。とりあえず、念話で堂々と内緒話を始めてみるトーリ。まさか、この通信がバレることは無いだろう、と高をくくりながら。『どうするも何も、飛んで逃げれば良いだろうが』『それが……縛られてるせいで、羽が出せないんですよねぇ……』……電池切れのG3マイルドを見るような視線を向けられた。どう考えても、役立たずの烙印を押されているとしか思えない。飛ばない蝙蝠はタダの蝙蝠以下なのである。「オイ。奥村とか言ったか。お前の目的は『鹿目まどか』だけなんだよなァ?」「うん? そうだよ?」先程の奥村の発言から、トーリもそうだとは理解できていた。しかし、それを態々確認したアンクの意図とは、いったい?ちらり、とトーリの方へと視線を一瞬だけ合わせたようだったが、何かのアイコンタクトだったのだろうか?トーリの勘が悪いのか、アンクの言わんとするトコロは、トーリには伝わらなかったが。……アンクさん、何故見てるんですか?「お前の目的の『鹿目まどか』は、そっちの敬語のガキだ。俺は関係無いからとっとと逃がせ」「……ええっ? アンクさん!? まさか自分だけ逃げる気なんですか!!?」……本当に裏切ったんですか!!?まさかの、アンクだけが逃げる作戦である。トーリを犠牲にすることを前提に、奥村ヤスジを謀ろうという訳だ。奥村が元々『鹿目まどか』の外見を知っていたら通じなかった手だが、奥村がトーリとアンクの両方を攫ったという事からの類推であった。即ち、奥村はトーリとアンクのどちらが『鹿目まどか』なのか判断できなかったのだろう、と。「うーん……そう言われればそうかなぁ」そして、あっさり騙されかけている奥村さんェ……。カザリに騙されて行動していたハズの奥村さんは、次はアンクに騙されようとしているようです。「騙されないでくださいっ! 『鹿目まどか』は、そっちの目付きの悪い子のほうです! ワタシの名前はトーリなんですよ!」「えっ? そうなのかい?」トーリとて、必死である。アンクの脳内には『寄生型ヤミー=カザリ制』の図式が存在しているが、トーリの脳内にはその図式は存在しないのだから。カザリがこの場に来る前提ならば安心して取り残されてやっても良いのだが、動向の読めないガメルやメズールが来ると、地味に危険だと思ってしまうのだ。そんなトーリの挙動が真に迫っていたのか、再度考え直してくれる奥村さん。実はこの人、ただ単に優柔不断なだけなんじゃぁ……?「よォーく考えてみろ。さっきソイツは、俺の事を『アンクさん』って呼んでただろうが。嘘を吐いて他人を陥れてでも生き残りたい……『鹿目まどか』っていうのは、そういう奴なんだ……!」「なんだって!? それ、本当かい!?」「それって、そのままアンクさんの事じゃないですかぁっ!!?」言われてみれば、アンクは奥村の前では、一度もトーリの名前を呼んでいない。だが、トーリはアンクの事を名前で呼んでしまっているのだ。奥村の心証としては、ややアンクを信じてしまっていると推測した方が良いだろう。ここまで汚い手を使えば、内部から見ているホンモノの鹿目まどかが何かを言いだしそうなものだが……。おそらく、体内にて鹿目まどか本人にも、アンクが何らかの嘘を吐いて丸め込んでいるのだろう。流石グリード。きたない。「だいたい、『トーリ』なんて3分で考えたような名前使いやがって」「それは否定できないのが辛いところですねぇ……」確かに、映司さんが短時間で思いついた名前な訳ですけども。しかし、トーリはどうすれば良いのだろう。浦沢脚本ばりに、根拠が無い時は目の輝きを主張してみるべきなのだろうか?そして、案の定というべきか、奥村さんはアンクの縄を解く準備を始めていたりする。「あと、お前に預けてたメダル、全部出して逝けよ。今日までご苦労だったなァ」「鬼っ! 悪魔っ! ツチノコっ! ロリコンっ! ドケチっ! アンクさんなんて大嫌いですっ!!」「ハッ」酷い言い草である。こんなのって無いよ! あんまりだよ!トーリが少ない語彙から吐き出した罵詈雑言も、アンクには鼻で笑われてしまって。「奥村さん。さっきの『オーズ』が山金さんを何とかする事を信じて、ワタシ達と一緒に『オーズ』の元まで行くという選択肢はありませんか……?」とりあえず、トーリだけが逃げるのは不可能のようなので、二人で一緒に助かる方向へと思考をシフトしてみた。アンクの舌打ちが聞こえた気がしたが、全力で見逃した。トーリのセルメダルで出来たハートは、そんなに強くないのである。「……そういえば、どっちかを解放しても、さっきの仮面ライダーさんを呼ばれちゃうのか。とりあえず、ここに確保しとくのが安全なんだろうな」だが、その一言を聞いた奥村さんは、アンクを解放しようとしていた手を、休めてしまっていた。どうやら、オーズがこの場へやってくる可能性を、今まで失念していたらしい。「…………あれ?」「クソッ……余計なことを……!」最善だと思った選択肢を選んだら、状況が悪化した……ような?酷い虚淵理論である。全員が最善と思しき選択を重ねていくと、微妙に全員がバッドエンドに直行するという……。そして……いつからこの場所が安全だと思っていた?少なくともトーリとアンクは、この場所が特別に安全だなどとは思っていないのだが。何故なら、「見つけたぞ! ヤスゥゥッ!!」「ひぃぃっ!!?」奥村を追って、ヤミーの親たる山金が、屋上を突き破っての乱入を果たしたのだから。当の奥村がヤミーに追われているという状況が変わらない以上、奥村に安全地帯など存在しないのである。この場に存在するのは、ひ弱なグリードと、タクシー蝙蝠娘と、顎の長い男。残念ながら、とてもヤミーを相手取れるようなメンツでは無かった。というか、アンクとトーリは、拘束されて動けない。「許してください山金さぁん!!」奥村ヤスジは……諸手を挙げて逃げ出したッ!!どうする、アンク!どうする、トーリ!?ヤミーは、すぐそこまで迫っている……!・今回のNG大賞「ワタシ達の目を見比べてください! どちらが本当の事を言っているのか分かる筈です!」「うーん、そっちの小さい子の方かなぁ?」「……トーリちゃん、ゴメンね☆ ウェヒヒw」「本人の方に戻ってる!? そんな手が!!?」こんな外道なまどかは嫌過ぎる……!・公開プロットシリーズNo.107→俺は目的のためなら迷わずお前を捨てるッ!