「あんた、どうして腕怪人を飼いたいなんて言い出したのさ?」「それはね……」……鹿目まどかがアンクと出会ったのは、とある病院の裏地における出来事だった。マスケット銃を構えた魔法少女に殺されそうになっている腕怪人を、病室の窓から見つけたのだ。そして結果的にまどかは、アンクを助ける事となった。だが、当時の鹿目まどかの思考は、博愛主義とも少し違うもので。その事件の前日にキュゥべえ惨殺の様を見てしまったからこその、強迫観念に近い衝動に駆られてのものだったのである。千切れたキュゥべえというトラウマから逃れるための、酷く消極的な行動の結果が、それであったのだ。後に自身を人類の敵だと謳うアンクを、それでも信じてみたかったのも、無意識の内に罪を犯した自分自身を信じ直したいという欲求に因るものであったのかもしれない。それでも、ハコの魔女に襲われた時はアンクに助けてもらって、代わりにヤミー探しを手伝っているうちに、何かが変わってきたというべきか。危機による吊り橋効果も、あったのかもしれない。ともかくとして、一緒に居るのが当たり前に思えるようになっていたのだ。そして、そんな自身の認識に最初に気付いた時期は、江戸時代への転移に巻き込まれた直後であった。切っ掛けは、アンクに接触してきた黒い魔法少女の、一言。――私達は、例え愛する人が魔女になろうがグリードになろうが、共に生を過ごしたいと願っている。君には……そう思ってくれる人が居ると思うかい?アンクはその魔法少女の言葉を無下に斬り捨てたが、この時に鹿目まどかは自覚してしまったのだ。まどか自身が、アンクを失いたくないと思ってしまっていたという事を。……それが、美樹さやかと暁美ほむらに伝えられた、鹿目まどかの『理由』であった。「さすがに『愛する』みたいに大げさな事は言えないけど、一緒に居たいなって思ったのは本当だよ?」だがしかし、それを聞かされた美樹さやかも暁美ほむらも、納得しているとは思えない。それぞれ、鹿目まどかに対して何かしらの不満を持っているらしい。もっとも、二人の納得できない理由が鹿目まどかの身を案じての事であると分かっているため、しっかりと二人の意見を聞こうとも思っているが。「まどか。あんた、羽の生えたグリードに殺されそうになったんでしょ?」「うん。治してくれて、ありがとう」そして、美樹さやかが引き合いに出したのは、鹿目まどかが致命傷を負った一件についてであった。現在の鹿目まどかが生きているのが、アンクの融合能力とさやかの治癒魔法という常識外れな処置の賜物である事は、疑う余地が無い。つまり、さやかが言いたいのは、まどかがまた怪我を負うのは納得がいかない、ということだろうか。「その時、後悔しなかった? あんな奴助けなきゃ良かった、ってさ」……微妙に違った、ような。確かにまどか自身も、あの翼人グリードを助けようとしたのは、軽率であったと思う所はある。だが、ロストアンクを助けたこと自体への後悔は……何故だか、特に胸に巣食っては居ない。「もうちょっと人を見る目を持たないといけないとは思ったよ。でも後悔は無かった……かな」「……そっか。なら、あたしからはもう、何も言わないでおくよ」「…………え?」そんな鹿目まどかと美樹さやかのやり取りの傍らで、ほんの少しだけの驚愕の声が漏れ出したのは……この部屋に上がり込んだもう一人の口からであった。どう考えても、さやかの発言に不満があるとしか思えない。「まどかって変なところで頑固だし。あたしが言っても曲がらないっしょ、コレは」後悔なんて、あるわけない。……そう、言うだけならば簡単なことだ。しかし、実際に自分自身が死の淵に立って、尚それを言えるとなれば、最早彼女を止める術など存在しない。「これからアンクの手伝いをするなら危険は増えるだろうけど、そこはあたし達でカバーすればいいじゃん」それに、口にこそ出さないものの、美樹さやかは鹿目まどかに溢れんばかりの眩しさを見出していた。さやかには、大切な奇跡を他人のために使ったことを後悔して、人助けを躊躇ってしまった経験があった。比べて、自身が瀕死の重傷を負っても尚人助けを後悔しない鹿目まどかの精神性を、羨ましくも思ってしまったのである。だからこそ、まどかを立ち止まらせる事を、良しと思えなかったのだ。「…………貴女を説得する手段も無いわ。仕方ないわね」もしも暁美ほむらさんが外道だったなら、まどかの弟のタツヤ君辺りを人質にとったのだろうが。幼児の頭に拳銃を突きつけながら交渉を迫る魔法少女なんて、ワケが分からないよ!残念ながら、ほむらはそこまで人間を捨てることが出来ていないのである。「あと、それとは別にグリードに確認したい事があるのだけれど……話は、出来るかしら?」……もっとも、これから暁美ほむらが情報を引き出すべき相手は、そもそも人間では無い訳だが。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百五話:Bounce Back ――善意より高いものは無い「アンクちゃん、アンクちゃん?」『……』自身の内に眠る腕怪人へと、コンタクトを図る鹿目まどか。しかし、返事が無い。まどかが抑え込んでいる以上、勝手に外出する事は出来ないのだから、絶対に体内に居るハズなのだが。「アンクちゃーん?」むむっ、と右腕に意識を集中させてみると、赤い怪人態を具現化することが出来た。やはり、アンクがそこに居る事は間違いが無いらしい。なんかグロい……なんて美樹さやかの呟きを、曖昧な表情で流しながら。ウンともスンとも言わないアンクに如何にして呼びかけるべきか、まどかは頭を回してみた。「アンクちゃーん??」空いている左手で、軽くしっぺをかましてみるものの、やはり無反応である。眠っているのだろうか。というか、そもそもグリードは睡眠をとるのか?とりあえず、名案がある訳でも無いので、しっぺは継続中である。「まさか、まどかに吸収されて自我を失ったんじゃぁ……」「ええっ!? しっかりしてよ! アンクちゃん!?」グリードの世界では、それも無いとは言えないのが恐ろしいところである。そして、自身の右腕に呼びかけている鹿目まどかの姿は、シュール以外の何者でもない。まるで中学二年生のようだぜ!「……そういう事なら、私の持っているコアメダルは返さなくても良さそうね」「…………ふざけんな、クソガキ」シャベッタアアアアアアッ!!アンクちゃん、重役出勤の巻。別に寝ていた訳でも無いのだが、今現在の暁美ほむらに聞かれると面倒な事柄があったため、タヌキ寝入りを決め込んでいたのだ。その面倒事とは、アンクがロストのコアを取り込み切れていないために、クジャクコアを現在返還されても困るという一点であった。鹿目まどかが助かったらその時点でコアは返還という約束だった筈だが、そんなに早く鹿目まどかの一件が解決するとは思ってもみなかったのである。もちろん、コアを持ち逃げされるのもいただけないが。「面倒だが、聞くだけ聞いてやる。言ってみろ」「……なんでコイツ、こんなに偉そうなんだろ?」「アンクちゃん、あんまり失礼な事言わないようにね?」尚、どうやら鹿目まどかの全身を借りなくても、発声は可能らしい。まぁ、元々腕だけの状態になっても会話が出来るのだから、当然かもしれないが。どうやら右腕の肘から先はアンクの意思で動かすことを一時的に許されたらしく、偉そうに暁美ほむらを指差して言い放ったのである。飽く迄、『聞いてやっている』のだと言わんばかりに。「貴方は、私がコアメダルを持っているような事を言っていたわね。あれはどういうことかしら?」「そのままの意味だ。お前の炎は、俺のコアメダルを使って生み出してんだろうが?」……確かにほむら本人も、疑問に思わなかった訳では無い。鴻上財団の研究所から逃げ出したときから自身に備わった、炎熱を操る力の由来に関して。だが、巴マミがリボンから銃器を生み出せるように、魔法少女はその能力を変質させる可能性を秘めていることを、ほむらは知っていた。したがって自身の炎も、時間魔術が何らかの形で変化を遂げたものだと思っていたのだ。「……そういうことだったのね」そして、時間停止魔術を破る手段がバレてしまっている今となっては、炎の能力のウェイトは果てしなく重い。というか、グリードに強襲されようものならば、火炎弾無しで迎え撃つのは不可能だろう。であるからして、暁美ほむらには炎の能力を手放すという選択肢は存在しなかった。そこで問題となってくるのが、グリードとの約束なのだが……。「あからさまに、返したくないって顔してやがるなァ……」「……この力は有用だもの」話の流れが読めなかった美樹さやかには、鹿目まどかからの補足が入っていたりする。まどかが治るまでその身体を生かしておく代わりに、まどかが復帰したらクジャクコアをアンクに返せ、という約束が結ばれていたという情報である。「それは俺のモンだ。いずれ返してもらう。だが、俺も鬼じゃない。お前の事情次第では、待ってやらない事も無い」要するに、ほむらが知っている事を全部吐け、と。そういう事な訳だが、物は言い様というか、アンクの口が上手すぎるというべきか。そもそも、暁美ほむらにどんな事情があろうと、アンクが赤コアを受け取れないという事情が無ければアンクは返却を急かしていた筈だ。800年の智を持った怪人が14歳の少女をハメようとしていると言うと、若干聞こえが悪くなりそうである。だがしかし、アンクが暁美ほむらに関する情報を欲しているのも、事実なのだ。時間停止などというバカげた力を持った暁美ほむらが、更なる戦力としてコアメダルを求める理由とは何なのか?もっと言えば、その力がアンクに向けられた時のための対処法まで知りたいと考えているのである。そして、ここが暁美ほむらの正念場でもあった。情報を提供するとして、一体何をどこまで話すのか。まず真っ先に返却契約を反故にする選択肢が出てこない辺り、人間として誠実には違いないが。「あと十日程で、この町に特大魔女『ワルプルギスの夜』が来るわ。それを迎え撃つために、戦力は幾らあっても足りない」「何それ? 宇宙帝国の大艦隊みたいな?」それ何てワルズギル?まぁ、戦力的な認識としてはあながち間違ってもいないところが、巨大魔女の恐ろしいところである。「そのぐらいに思っておいて損は無いわ。壊滅するのは精々見滝原市周辺程度で済むけれど」「冗談のつもりだったのに……。でもさ、トーリの無限の魔力を借りて、マミさんがティロフィナーレ連打すれば何とかなるんじゃない?」……言われてみれば、そんな気がしないでもない。巴マミが無限の魔力を用いて大人気のティロフィナーレ祭りを開催すれば、火力だけで押し切れるようにも思えてしまうのだ。もっとも、あの蝙蝠娘が素直に力を貸せば、の話だが。だがしかし、美樹さやかや巴マミからトーリへの信頼は、それなりに厚いように暁美ほむらには思えた。つまり、トーリの正体を知っている暁美ほむらが直接不信感を口にしても、受け入れられる可能性は低いと見るべきだろう。ならば。「彼女自身も不安がっていたでしょう? 私も、無限なんていう物があるとは信じられないわ」トーリ本人の言も借りて、トーリを貶めずに無限の魔力から話題を逸らしておくのが、ベターなのだろう。「まぁ確かに、無限だと思って魔力使って、気付いたらトーリがミイラに……なんてのは嫌だけどさ」「トーリちゃんって、相変わらず弱気なんだね……」無限の魔力という聞き逃せない単語が聞こえた気もするのだが、本題はワル子さんの件である。それを分かっているからこそ、アンクもまどかも、無限の魔力については突っ込みを控えた訳だ。「で、お前がその魔女を倒したい理由は?」「……?」「そういえば、確かに……」「……!」アンクが面倒くさそうに放った一言に、向けられた反応は、三者三様で。鹿目まどかは、意味が分かっていないのか、首を傾げていた。魔法少女と正義の味方がイコールで結びついている認識の中では、魔法少女が魔女退治を行う事に疑問が入り込む余地が無いのだろう。一方、美樹さやかは、指摘されてからはアンクの言わんとしている事に気付いたらしい。以前佐倉杏子から、魔法少女は正義の味方ばかりでは無いと聞かされていた事も影響して、暁美ほむらの戦う理由に興味が湧いたのである。そして、当人の暁美ほむらは、思いがけない指摘に困惑していたりする。そもそもアンクの内心を暴露してしまうならば、戦闘後に大きな報酬があるなら自身も旨味が欲しいという意図の質問だった訳だが、奇しくもその質問は暁美ほむらの核心を突くものとなってしまっていたのだ。いっそのこと、時間逆行のことまで含めて、全てを話してしまうべきなのだろうか。どうも、この怪人ならば疑いこそするだろうが、『常識的に考えて有り得ない』という反応は見せないだろうと、ほむらには思えていた。有り得ないなんて有り得ない……これは、グリード違いだろうが。ただ、逆行能力を明かす場合には、その能力が脅威に思われて攻撃を受ける可能性も、考慮に入れなければいけない。「鹿目まどかを契約させないためよ」「……私?」「契約ってキュゥべえの? ってか、まどかにも素質あったんだ?」「なんでコイツだけなんだ? それをしっかり説明しないと、抑止も聞かずに突っ走るヤツだって事ぐらい、分かってんだろ?」そして、中学生二人の反応は想定通りではあるものの、腕怪人の反応は少しばかり意外性を帯びたそれで。まどかを心配しての発言なのか、若しくは鹿目まどかをダシに説明を煽っているのか。ほむらが何となく、鹿目まどかを利用されているのだと感じてしまうのは、やはりアンクに対して疑念を捨てる事が出来ていないからなのだろう。「鹿目まどかは、魔法少女として常識外れの資質を持っているわ。その力が間違いを起こしたら、この星の誰にも止められない程度にはね」「間違い……?」「……」「なるほどなァ。確かに筋は通ってるか」何とか、美樹さやかには理解されない言い回しを思い付けたのは、僥倖であったと言える。やはり魔法少女の末路は、聞かせるべきものでは無いだろうから。ただし当然まどかには、ほむらの意図が伝わっている筈だ。以前暁美ほむらは、鹿目まどかに対して魔女の正体に対する講釈を行ったことがあるのだから。「だが、それならこのガキを消した方が手早いし、何より確実だ。お前が、コイツと世界を天秤にかける理由は何だ?」「アンクちゃん……?」「あたしも、その言い方は……ちょっと酷いと思う」アンクは、思う。火野映司だったらきっと『そこに手が届くからだ』と即答してくれる筈だ、と。目の前の暁美ほむらはそこまでの『バカ』には見えないが、ひょっとすると彼らの同類なのだろうか。「彼女が私の友人だから……としか、答えようが無いわ」鹿目まどかの記憶を読んだことが有るアンクとしては、その言葉にも若干引っかかるところが無い訳でも無い。たかだか二週間程度の付き合いの友人を、世界が片腕に載った天秤にかけられるのか、と思ってしまうのだ。まぁ、アンクのよく知る男は『朝からの長い付き合いだからな!』という良く分からない台詞を吐いていたような気もするが。「それで……私の理由は、貴方の力を借りておくに足るものだったかしら?」「……良いだろう。しばらく、貸しといてやる。ただし、紛失だけはするな」暁美ほむらが決定的な何かを隠しているという事ぐらい、アンクには分かっていた。だがしかし、どのみち現状のアンクでは、相手からコアメダルを没収してもそれを体内に取り込むことが出来ない。つまり最初からアンクの結論は、貸出期間の延長以外に有り得なかったと言える。それを誤魔化して暁美ほむらから情報を得ようとしていたのが、先程までの会話であったという訳だ。そして、その情報収集が行き詰まりを見せた以上、この話題をこれ以上引っ張る事には意味が無いのである。ほむらの提供した情報にはまだ突っ込みどころも残っていたが、それはお預けということになるだろう。「で、さっきの無限の魔力ってのはどういう事だ?」「私もそれは気になる、かも」「ああ、なんか魔法少女は、トーリに触ってる間は魔力を消費しないで魔法が使えるっぽいよ?」何気なく重要な情報をポロッと溢してしまっている美樹さやかに、暁美ほむらは若干頭を痛めていたりして。もっとも、アンクに魔女の正体を聞かれた件についての自身の落ち度を考えないようにしている辺り、ほむらもあまり他人の事は言えないのかもしれないが。「ほォ……そいつは、中々面白そうだな」「アンクちゃん、何か悪い事考えてない? トーリちゃんに酷い事しちゃダメだからね?」「その時はあたしも、容赦なく懲らしめるよ」……意外にも、暁美ほむらにとっての問題は山積みなのかもしれない。主に、あの蝙蝠ヤミーが分不相応な信頼を得ている辺りに。ほむらが甘すぎたのだろうか。トーリの正体を秘匿するという約束を守って行動していた訳だが、それが事態を悪化させているように思えるのだ。早いうちに時間停止を使って、魔法少女らの目の前でトーリを銃撃して、正体を暴いた方が良いのかもしれない。よく考えると、この微妙な鬱陶しさはキュゥべえを敵に回す感覚と似ているようにも思える。キュゥべえは、周囲からの信頼を利用して立ち回るタイプの代表例のような存在である。現状としてトーリはキュゥべえ程上手く立ち回れていないが、彼女には『虚言』というキュゥべえが絶対に採択しない選択肢が存在するため、ある意味キュゥべえ以上に厄介かもしれない。「もう一つ、聞きたいことがあるわ。グリードの復活の方法について、教えてもらえるかしら?」そして、暁美ほむらが思い立ったこの質問は……かつて彼女が巴マミやガメルに対して問いかけた内容と全く同じものであった。その主な理由も、再度の時間逆行を行った際の再現性を確保するという部分は変わっていない。であるからして、グリードにそれを聞いてみる事は、最早ルーチンワークのようなものである。「前にも、その質問をした奴がいたっけなァ。だが、それをお前に教えて、俺に何の得がある?」「……私が借りているコアメダルの返還を前倒しにしても良いわ」……アンクが対価を要求してきた事に、ほむらさんは少しだけ考え淀んでしまっていたりして。確かに、ほむらが現物として提供できる見返りは、存在しないのだ。だが、現在クジャクコアをアンクに返還する債務を負っているのは、鹿目まどかの生命がかかった状況下での約束を結んだからである。つまり、次のループ時空へ縺れ込んだ場合、ほむらが一方的にメダルを奪える可能性は有り得る。したがって、グリードの復活方法ほどの重大情報を引き出せるならば、この周回は捨てても問題が無いというわけだ。「生憎だが、時間は有り余ってるんでな。それに、この件に関しちゃ、お前が払えるような対価は期待してない。分かったら、とっとと帰れ」もっとも、アンクの立場は慈善事業者からは程遠い。残念ながら、現在のアンクから情報を無理矢理聞き出す手段は、ほむらには無さそうである。鹿目まどかの体内へと引っ込んでしまったアンクを引き剥がすというアクションを実行できれば、話は違ってくるのだろうが。……そこはやはり、暁美ほむらの甘いところなのだろう。自らの能力によって巻き戻された『最後の一周の鹿目まどか』の生存ルートは、確かに暁美ほむらの最終目標ではある。ならば、その目的に従って『最後の一周以外の鹿目まどか』の存在は必要な犠牲として割り切ってしまうのが効率的であることは、間違いがない。だが、それが出来ないからこそ暁美ほむらは彼女自身であるというべきか。鹿目まどかどころか、他の魔法少女を犠牲にすることさえ躊躇ってしまうほどには、暁美ほむらは甘いのだから。「鹿目まどか。……不用意な優しさは、自身の破滅を呼ぶわ。次に会う時までに、もう一度考え直して欲しい」「アンクちゃんは、もうウチの子だよ?」……暁美ほむらは、それ以上強く言う事が出来なくて。結局、美樹さやかと二人で、帰路につく事となってしまったのだった。鹿目まどかに言っているようで、自分自身にも言っているような、その言葉の重さは……ガラの天秤を以てしても量ることは出来ないのだろう。優しさは、破滅の運命を導くのか。甘さは、絶望への道筋を紡ぐのか。どちらも等価のようで、而してその対価は量り切れない程に重くて。その終焉を拒絶するならば、結末は円環以外に有り得ない。暁美ほむらは、気付かない。舞台の外において、円環の未来を見通してしまった者の存在に。ただ、今は己の帰路につく……のみ。・今回のNG大賞「アンク! 恭介に憑りついて、あたしと既成事実を作ってよ!」こんなキュゥべえ染みたさやかは嫌過ぎる。・公開プロットシリーズNo.105→アンクを言い負かすのは意外に難易度が高いかもしれない。