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No.29266の一覧
[0] クララ一直線・セカンド (レギオス 再構成) 【完結】[武芸者](2013/07/10 16:04)
[1] プロローグ 始まり[武芸者](2012/11/01 08:50)
[2] 第1話 学園生活[武芸者](2011/08/11 09:04)
[3] 第2話 入学式[武芸者](2012/05/22 07:12)
[4] 外伝 とある夜[武芸者](2011/09/30 10:15)
[5] 第3話 第十八小隊[武芸者](2011/08/11 09:17)
[6] 第4話 眩しい日常[武芸者](2011/08/11 09:07)
[7] 第5話 第十八小隊の初陣[武芸者](2011/08/11 09:08)
[8] 第6話 汚染獣[武芸者](2011/08/11 09:16)
[9] 第7話 波乱の後に……[武芸者](2012/05/22 07:10)
[10] 第8話 セカンド[武芸者](2011/08/11 22:19)
[11] 第9話 都市警[武芸者](2011/09/30 13:50)
[12] 第10話 一蹴[武芸者](2011/09/30 13:26)
[13] 第11話 一時の平穏[武芸者](2011/11/06 21:28)
[14] 第12話 廃都[武芸者](2012/02/02 09:21)
[15] 第13話 ガハルド[武芸者](2012/05/23 20:58)
[16] 第14話 けじめ[武芸者](2012/06/12 06:49)
[17] 第十五話 目覚めぬ姫[武芸者](2012/11/01 08:21)
[18] 第十六話 病[武芸者](2013/01/19 00:22)
[19] 第十七話 狂気[武芸者](2013/02/17 08:02)
[20] 第十八話 天剣授受者と姫 (完結)[武芸者](2013/07/11 10:07)
[21] クララ一直線・サード!?[武芸者](2015/08/04 17:25)
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[29266] 第5話 第十八小隊の初陣
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:d980e6b9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/11 09:08
「よぉ、ニーナ」

「シャーニッドか」

対抗試合当日。一般人からすれば武芸者同士の試合は閉鎖された都市の中では極上の娯楽であり、ここ、野戦グラウンドの観客席にはたくさんの人が集まっていた。
その中に、第十七小隊隊長のニーナ・アントークと、第十七小隊狙撃手のシャーニッド・エリプトンの姿があった。

「結局、新人も入んなかったし、フェリちゃんも抜けちまったから対抗試合に間に合わなかったな」

「……ああ」

シャーニッドの言葉に、ニーナは苦々しい表情で頷く。
本来なら、自分達がこの野戦グラウンドの中心に立つはずだった。自分の率いた小隊で対抗試合を勝ち進んでいくはずだった。
なのに、野戦グランドには自分達第十七小隊ではなく、第十八小隊が立っている。
隊長は1年生のレイフォン・アルセイフ。その他の隊員のクラリーベル・ロンスマイアとナルキ・ゲルニも1年生であり、第十七小隊を抜け、第十八小隊に加入した念威繰者のフェリが唯一の2年生だ。
下級生のみで構成された小隊とあってか、第十八小隊は上級生からの風当たりが強かった。その主な理由が妬み。上級生が1人もおらず、また1年生が隊長を務めていることから嫉妬の視線が強かった。
だが、それはエリート意識が高い武芸科だけの話であり、一般人からすればこれ以上面白い小隊はない。
全員下級生と言うだけでも話題性があり、その上華がある。フェリは非公式のファンクラブを持つほどに人気が高く、またクラリーベルにしても美人と言うより可愛らしい容姿のためか男受けが良い。ナルキは姉御肌のかっこいい系の美人であり、男受けよりもどちらかと言うと女受けの方が良かった。
そして第十八小隊唯一の男であるレイフォンも、どこに出しても恥ずかしくないほどの美形だ。
そのために一般人からは男女ともに高い人気を持っており、武芸科連中からは余計に嫉妬深い視線を向けられる破目になってしまった。
見た目に武芸の実力は関係ないと思っているニーナだが、彼女も第十八小隊の設立を面白く思っていない者の1人である。
自身の隊の念威繰者を引き抜かれてしまったため、当然と言えば当然の反応だった。

「だが、時間はまだあるんだ。対抗試合には間に合わなかったが、期日までには隊員を集めてみせる!」

第十七小隊は現在、仮認可中だ。期日までに人数を揃えられなければ認可は取り消しとなってしまうが、逆に期日までに隊員を揃えられれば存続は可能だと言うことだ。
その期日が、入学式から一ヵ月後。あまり余裕はないが、それでも時間はまだある。

「で、お前さんのお眼鏡にかなう新入生はいたのか?」

「それは……」

意気込むニーナだったが、シャーニッドの言葉に沈黙してしまう。
ただ、人数を揃えればいいというわけではない。小隊員に誰でもなれるというわけではないのだ。
選ばれたエリート集団、それが小隊員。もし仮に人数合わせで適当な武芸科生徒を充ててしまえば、小隊員(エリート)に簡単になれるという既成事実ができてしまう。
そうなればツェルニの武芸者達の士気に関わってしまうため、そのような選択はできない。
ならば実力に見合った隊員を補充すればいい話だが、第十八小隊ほどではなくとも、ニーナの率いる第十七小隊は上級生達からの受けが悪い。
小隊員になれるほどの実力を持つのは殆どが上級生であり、誰も下級生のニーナの下に就きたがらないというのが主な理由だ。
ならば1.2年生から小隊員を見繕うしかないわけだが、小隊員に成れるほどの実力者は既に他の隊に所属しており、目ぼしい者は殆どいなかった。
入学式の騒動でレイフォンに目を付けたニーナだが、彼は今、第十八小隊の隊長を務めているために却下。
ニーナを叩きのめしたクラリーベルの実力は十分だったが、彼女も第十八小隊に所属しているために当然却下だ。
まさにお手上げ状態であり、第十七小隊は存続の危機を迎えていた。

「一応身の振り方も考えとけよ。なに、第十七小隊がつぶれても、お前さんならどこの隊でもやっていけるさ」

「そんなことにはならん!」

シャーニッドは向きになって怒鳴るニーナに肩をすくめ、視線を野戦グランドにさ迷わせた。
そこでは準備を終えた第十八小隊と第五小隊が向かい合い、試合が始まろうとしている。
期待の新星、第十八小隊。ツェルニ最強、第一小隊に匹敵する第五小隊との対決。
第十八小隊の隊員であるクラリーベルは、第一小隊を1人で全滅させたと言う噂が立っている。だが、それはあくまで噂であり、下馬評としては第五小隊が有利とされていた。
噂には尾ひれが付くものであり、仮にクラリーベルの実力が抜きん出ていたとしても連携、チームワークの差で第五小隊が勝つだろうと言うのが大半の予想だ。
また、生徒会から殆ど黙認で行われている賭けでもこの予想が反映されており、第十八小隊のオッズは10倍と大穴扱いだった。
だけど彼等は知らない、第十八小隊のとんでもなさを。この隊はあまりにも強すぎ、たかがツェルニ最強程度では足元にも及ばないと言うことを。
それは試合が始まるまで、そして終わるまで、一部の者を除いて誰も予想することができなかった。




































『一体……誰がこのような展開を予想したでしょうか?』

野戦グランドは騒然とした雰囲気に包まれていた。司会者である少年の声が震え、未だに現状を理解できていないようでもある。

『あの第五小隊が……ツェルニ最強の第一小隊に匹敵する強豪が、新星第十八小隊の手によって全滅……強すぎる、強すぎるぞ第十八小隊!』

だが、これは当然の結果だった。一部のものが予想した、当たり前の出来事。
興奮する司会だったが、第十八小隊からすれば、特にクラリーベルからすれば拍子抜けもいいところだった。
天剣授受者であるサヴァリスの弟、ゴルネオ率いる第五小隊。もう少し楽しめると思ったのだが、あまりにも期待はずれすぎる結果に終わってしまった。

『試合時間、僅か10分……まさに圧倒的です。生徒会長が今年の武芸大会のためにスカウトしたエリート中のエリート集団、第十八小隊。これは武芸大会が楽しみになってきました!』

司会が熱くなる。鉱山の数が残りひとつとなったツェルニからすれば、第十八小隊はまさに新星、希望であり、注目されるのも当然だった。
観客席からも熱い声援が送られ、熱気に包まれる野戦グランド。その野戦グランド内の特別席で、生徒会長のカリアンと武芸長のヴァンゼはある会話を交わしていた。

「……圧倒的すぎるだろ」

「そうだね……まさか私も、ここまでバランスが崩壊するとは思わなかったよ。もはや笑うしかないね」

「笑い事じゃないだろ!」

驚愕しているようだが、いつもどおりの笑顔で暢気に笑うカリアンに向け、ヴァンゼは鋭い突込みを入れた。
学園都市の小隊は、切磋琢磨と言う理論を掲げているためにある程度の均衡が取られていた。ツェルニ最強は第一小隊ではあるが、下位との戦力はそこまで離れていない。
だが、それを容易に打ち崩す存在、第十八小隊。第一小隊に匹敵する第五小隊を10分で全滅させた彼等は、小隊の均衡を崩すバランスブレイクもいいところだった。

「まぁ、落ち着きたまえヴァンゼ君。確かに小隊の均衡が崩れ、対抗試合の意味を失ってしまうかもしれない。だけど、これほどの戦力が補強できたのなら武芸大会は安泰だと思わないかい?」

それなのにカリアンは笑い続ける。今更均衡など知らぬと言うように、余裕のある笑みを浮かべていた。
そもそも、このような結果など分かりきっていたことだ。クラリーベル個人だけで第一小隊を圧倒する力を持っている。それに加えて第十八小隊にはレイフォンもいるのだ。
間違いなく彼等、第十八小隊がツェルニ最強であり、第一小隊は最強の看板を撤回しなければならないだろう。
小隊の均衡が崩れるのは良くない。だが、その代わりにツェルニは、第一小隊を大きく上回る戦力を補強できたのだ。あまり贅沢を言っては罰が当たると言うものだ。

「ここは学園都市だ。学生達の成長を促し、見守るのは確かに大切なことだよ。けどね、それは都市が存続し続けなければ意味がない。ツェルニには既に後がないんだ。だから私は、ツェルニを救うためにはなんだってするよ」

「ぐっ……」

カリアンの言葉に、ヴァンゼは何も言い返せない。
都市を護るのが武芸者の役目であり、武芸者は社会的に保証を得る見返りとして汚染獣から、そして戦争から都市と市民達を護るのが役目である。
だが、ツェルニの武芸者達はそれを成しえなかった。前回の武芸大会では連敗し、ツェルニを崖っぷちにまで追い込んでしまった。
守護者たりえない武芸者など、社会にとって不要な存在だ。まさにゴミ以下である。
カリアンがそう思っているとは思えない。だが、現状の戦力で武芸大会に勝てるのか不安を持ち、戦力を補強すると言うのは当然だろう。
ツェルニの命運は、ある意味第十八小隊に懸かっていると言っても過言ではなかった。

「でも、まぁ……次回からは対抗試合では手加減して欲しいかな」

野戦グラウンドを眺め、カリアンはポツリとつぶやく。
眼下には、地形を止めないほどに破壊された野戦グラウンドの光景が広がっていた。
クラリーベルの使う化錬剄によって地面は焼け焦げ、抉れ、まるで汚染された大地のように荒れ果てていた。
グラウンドに埋められた樹木、人工的な林は罠などを仕掛けているのに適していたが、それはレイフォンが罠を破壊すると同時に全てを切断していた。
切断したのは鋼糸と呼ばれる武器だ。レイフォンの剣の剣身が幾多にも分裂し、糸のように伸びる。それらが樹木を伐採し、大量の切り株を作り出した。

「とりあえず、鋼糸と言う武器は封印してもらわないとね。あの武器では安全設定も意味を成さないだろうし、危険すぎる。それから野戦グラウンドの修繕費用なんだけど……」

被害状況を確認し、修繕にかかるであろう費用を予想し、カリアンは微笑を浮かべながら頭を抱えた。

「野戦グラウンドが使えないから、暫くの間対抗試合は中止だね。ヴァンゼ、認可のサインを頼むよ」

「ああ」

野戦グラウンドの担当員が、武芸科の試合が好きなのは小隊の間では有名な話だ。当然、カリアンもそのことを知っている。
彼等は常に試合を観戦し、試合の間に大体の計算をして、修繕計画を立ててしまう。今回の試合に関しても、既に修繕計画が立てられていることだろう。
カリアンは小さなため息を吐き、脳内で予算の見積もりを始めた。




































「私の歌を聴けぇ!」

そのころ、カリアンの気苦労など知らずに第十八小隊は、特にクラリーベルは騒いでいた。
第五小隊に勝利したことを祝う祝勝会。ミィフィ経由でとある飲食店を貸し切りにし、主にクラスメートなどを招いて盛大に祝っていた。
どこから持ってきたのかカラオケセットを使い、クラリーベルはミィフィと共にとても楽しそうに歌っていた。

「フェリ先輩はどうしたんだ?」

「こういう雰囲気は苦手だって、すぐに帰っちゃったよ」

ナルキの問いにジュースを飲んでいたレイフォンが答え、クラリーベルとミィフィの歌に聴き入っていた。
どちらも感心するほどに歌が上手かった。デュエットをしているのだが、クラリーベルとミィフィの息はまるで姉妹のようにぴったりだ。
ナルキの話ではミィフィはカラオケが趣味らしく、一度マイクを握ったらなかなか放さないようだ。だからだろう、プロと比べるのは酷かも知れないがかなりの歌唱力を持っていた。
そしてクラリーベル。彼女の甲高く、透き通るような歌声が店内に響く。まさに美声。歌唱力も高く、クラスメイトの男子の殆どがクラリーベルを見入っていた。
実際、クラリーベルは可愛かった。メイシェンと並び、凌駕するほどの美少女であり、男子からの人気は高い。その上小隊員だ。故に目立ち、注目を浴びるのも仕方のないことだった。
それに高い武芸の才を持っているクラリーベルだが、まさか歌に関してもこれほどの才能を持っているとは知らなかった。レイフォンは感心しながらジュースを飲み干す。

「それにしてもレイとん達は本当に強いな……第五小隊のルッケンス先輩もグレンダンの出身だって聞いたけど、まるで相手になってなかったぞ」

「ああ、うん……アレは見ててかわいそうだったよ。クララがまったく手加減しなかったから」

「いや、レイとんも大概だったぞ。第五小隊が本当に気の毒だった……」

ナルキの言葉に、レイフォンは引き攣った表情で頬を掻いた。
手も足も出ずに蹂躙される第五小隊。アレは到底対抗『試合』なんて呼べるものではなかった。
対抗試合は攻守を分け、フラッグを奪い合うことによって勝敗を決める。
攻撃側がフラッグを奪えば勝利であり、守備側が制限時間内フラッグを守り切るか、相手の指揮官(隊長)を討ち取れば勝利となる。
結果として第十八小隊はフラッグを奪えなかった。いや、奪わなかった。だけど第五小隊が敗北し、第十八小隊が勝利した。
実は攻撃側にはもうひとつ勝利条件があり、第十八小隊はそれを実行したに過ぎない。それは相手を、第五小隊の隊員を全滅させると言うことだ。
本来ならフラッグを奪った方が遥かに楽であり、制限時間もあることから滅多に取られない戦法だ。なのに第十八小隊はその戦法を、わざわざ相手を全滅させると言うめんどくさい方法で勝利をつかんだ。
理由は、戦闘をクラリーベルが楽しみたかったからだ。早々にフラッグだけを奪うなんてもったいない。サヴァリスの弟であるゴルネオがいるのだ。好戦的な彼女の性格なら勝負を挑みたいと思うのは当然のことだろう。
もっともそれは期待はずれに終わり、第五小隊はトラウマものの大敗を喫した。

「楽しんでますか?レイフォン様ぁ~」

「うわ、ちょっと!?何をしてるんですか!」

その憂さを晴らすように、クラリーベルは祝勝会を存分に楽しんでいる。
歌を歌い終わったクラリーベルは、ナルキと談笑をしていたレイフォンに後ろから抱きつく。
それに戸惑うレイフォンだったが、美少女に後ろから抱きつかれるなんてシチュエーションは男達からすれば羨ましすぎる状況だった。
祝勝会には大勢のクラスメート達が参加しており、レイフォンはクラリーベルに興味を抱いているクラスメートの男子達から殺気立った視線を向けられる。
その居心地の悪さに胃に痛みを感じつつ、レイフォンはクラリーベルを引き剥がそうとした。

「こんなところで抱きつかないでください!」

「あら、だったらこんなところじゃなかったら抱きついてもいいんですか?」

「そういうわけじゃありません!って、当たってる!また当たってるんですけど!!」

「だから当ててるんですよ、いい加減察してください。誘ってるんです、誘惑してるんです。どうですか?発情してきましたか?ムラムラしてきましたか?」

「だああっ!トロイアットさん殺す!!グレンダンに帰ったら絶対に殺してやる!」

だが引き剥がせず、レイフォンは顔を真っ赤に染めながら決意を固める。
ここにはいないトロイアットに殺意を抱き、レイフォンは悲鳴のような絶叫を上げた。
それでも背中に押し付けられる柔らかい感触に嫌悪感を覚えないのは、重度の鈍感でもレイフォンが男だと言う証しだろう。あまり大きくはないが、背中に当たるそれはとても柔らかく、そして心地よかった。

「あの、クララ……これでも僕、一応男なんですけど。あまり無防備だとそのうち痛い目に遭いますよ、本当に」

顔を赤くしたまま、レイフォンは精一杯の虚勢を張った。
今のところクラリーベルに手を出すつもりはないが、レイフォンだって年頃の男子だ。鈍くともそれ相応の性欲は持ち合わせているし、異性にも多少ながら興味がある。故に間違いが起こってしまう可能性も十分にあった。
また、クラリーベルは美少女であると同時に告白までされた間柄なので、嫌でも意識してしまうのだ。
だと言うのに無防備に迫ってくるクラリーベル。人目すら憚らずに、彼女は熱烈なアタックを仕掛けてくる。
これでは、そのうち本当に手を出してしまいそうだ。

「いいですよ、別に。むしろ存分に私を壊してください」

「ぶっ!?」

なのにクラリーベルは、あっけらかんととんでもないことを言い放った。
レイフォンの耳元に口を寄せ、その続きを囁く。

「前にも言いましたよね?私は、私を押し倒せる器量のある人が好みですって。もしそうなるのなら、むしろ願ったり叶ったりです」

ドクンと胸が高鳴る。早鐘の如く鼓動する心臓に戸惑いつつ、レイフォンは冷静になろうと深く呼吸をする。

「ですから欲望に正直になってください。存分に吐き出してください。全部、私が受け止めてみせますから」

だけど、それは意味を成さない。次から次へと湧き出てくる動揺。
今まで何度も命がけの戦場を乗り越えてきたが、それとは比べ物にならないほどの修羅場。
耳元にかかるクラリーベルの吐息が熱く、意識が正常に働かない。
ぎゅっとレイフォンを抱きしめるクラリーベルの力が強くなった。それに対し、レイフォンの鼓動は更に速くなる。

「それとも、私では不服ですか?私には私の魅力があると言ってくれたのは嘘なんですか?」

「いや、その……そんなことは……」

小動物のような瞳で見上げてくるクラリーベルの姿に、レイフォンは反則だと思った。可愛い、素直にそう思う。
だけど問われた言葉に、レイフォンはなんと返答すればいいのか分からなかった。
別にクラリーベルを不服とは思っていない。むしろ自分にはもったいないくらいに可愛いと思っているし、意識もしている。
前回、確かにクラリーベルにはクラリーベルの魅力があると言ったが、アレはあの場を誤魔化すために咄嗟に出た言葉だった。だけどクラリーベルに魅力がないと言うわけではなく、レイフォンは彼女に靡きかけているほどに魅了されている。
この少女を、自分のものにできるのだったらしたい。それは男として正常な判断だろう。
グレンダンでも上位の実力を持つクラリーベルだが、歳相応に美しい彼女の肢体を抱きしめたい。鮮やかな朱色をした柔らかそうな唇を貪りたい。欲望に忠実となり、クラリーベルの全てを手に入れたい。侵し、壊し、一色に染め上げたい。
男ならそう思ってもおかしくはない。何より、クラリーベル自身がそう望んでいる。侵されたがっている。壊されたがっている。一色に染め上げられたがっている。
だけど、レイフォンにはそれができなかった。理性が邪魔をする。溢れ出てくる僅かな欲望に強烈なブレーキがかかる。良く言えば草食系男子、悪く言えばヘタレ。

「えっと、その……」

レイフォンはなんと返答すればいいのか、必死になって言葉を探していた。

「はい、そこまでだ。いちゃいちゃするのは別にいいが、場所を考えような」

「え?……あ」

不意に聞こえてきたナルキの言葉でレイフォンは正気に戻る。ここは祝勝会を行っていた店内であり、周りには大勢のクラスメート達がいた。
つまり、今までのレイフォンとクラリーベルのやり取りはクラスメート達に存分に見られていたと言うことだ。
忠告をしたナルキの顔は赤く、反応に困っているようだった。

「レイフォンの野郎……殺す、殺してやる」

「モテは滅びろ、全滅しろ」

「くそ、くそっ……」

周囲からは殺気染みた男子生徒の視線が集まっていた。
その視線に晒されるレイフォンは強烈な胃痛に晒されつつ、未だに抱きついているクラリーベルの楽しそうな声をしっかりと聞いた。

「これで私とレイフォン様の関係は周知の事実ですね。レイフォン様はもてますから、これで無闇に手を出す人はいないでしょう」

確信犯のように言うクラリーベルに、レイフォンは先ほどの想いが引いていくのを感じた。
まさか計画的犯行で、先ほどの言葉は嘘なのだろうと思ってしまう。それを感じ取ったのか、クラリーベルはレイフォンに抱きついたまま、もう一度耳元で囁いた。

「言っておきますけど、さっきの言葉に偽りは一切ありません」

「……そうですか」

疲れたようにレイフォンは相槌を打った。クラスメート達には嫉妬や好奇の視線を向けられ、冷やかされ、またはからかわれる。
ミィフィは記事にしようと写真を撮り、レイフォンとクラリーベルに取材を求めていた。
興味本位でそれに対応するクラリーベルだったが、レイフォンは深いため息を付く。
まるでお祭りのような騒々しさであり、対抗試合以上の疲れを感じ虚脱感に襲われる。
だけどそれもまた、悪くないと思っていた。若くして天剣授受者となり、レイフォンは学校に通ったことなどなかった。それはクラリーベルも同じだろう。彼女の場合は王家であり、しかもかなりの才を持つ武芸者だ。
一般人と共に机を並べることはなく、同年代の少年少女とこのように楽しそうな会話を交わすことはなかったはずだ。
だからそんな光景を見て、レイフォンは思う。ツェルニに来てよかった、クラリーベルの楽しそうな笑顔を見れてよかったと。
今まで経験したことのない出来事。これから先もツェルニで、様々な出来事をクラリーベルと共に体験していくことになるのだろう。レイフォンはそう確信した。

「さて、今度はレイとんの番だよ!ナイスなコメント期待してるからね」

ミィフィが今度はレイフォンに発言を求める。レイフォンはどう答えるべきなのか迷いながら、今夜はまだまだ騒がしくなりそうだと確信する。
そのレイフォンの予想は、見事に的中した。そして変化は、すぐさま現れる。



「えっ?」

「ちょ、なにこれ!?」

「都震だ!」

店内が揺れる。視界がぶれ、テーブルの上に置かれたコップやボトルが倒れる。
都震。要は自律型移動都市(レギオス)独自の地震だ。地盤でも踏み抜いたか、谷にでも足を踏み外したのだろう。
移動する都市故の地震。そのことにパニックになる店内だったが、揺れは思ったより早く収まった。

「どうやら、怪我人は出なかったようですね」

クラリーベルがレイフォンの腕の中でつぶやく。揺れは激しかったが、店内にいるクラスメート達が怪我を負った様子はない。
コップやボトルだけではなく、テーブルや椅子、インテリアなども倒れているが、今の揺れで誰も負傷していないと言うのはある意味奇跡だった。

「そうですね……ひとまずは安心でしょうか?」

レイフォンも安堵したように息を吐く。揺れるのと同時に、レイフォンは咄嗟の判断でクラリーベルを庇うように抱きしめた。
激しくとも大した揺れではなかったので大事には至らなかったが、グレンダンでの経験からかレイフォンの感覚に嫌な予感が走る。
それはクラリーベルも同じなようで、レイフォンの腕の中にいると言うのに何時ものような態度は見せず、引き締まった表情で何かを考えていた。
そしてレイフォンの予感が、クラリーベルの予感が現実となる。

悲鳴のようなサイレンが鳴り響く。空気を切り裂くように喧しい音だ。
その音が何を意味するのか、ここにいる者達の殆どが理解できなかった。ただ2人、レイフォンとクラリーベルを除いて。
汚染獣。腹を空かせた人類の敵が、ツェルニに迫っていた。



































あとがき
クララ一直線、更新です!
そしてまずはごめんなさい。皆さんご期待の第五小隊戦ですが、描写をカットしました。
いや、だって、いじめにしかなんないですもん。ゴルネオとシャンテ程度じゃレイフォンとクラリーベルにどう抗っても勝てないどころか、善戦すらできるわけがありません。
学生の実力からすれば反則過ぎるんですよこの2人。ゴルネオ、トラウマになってないだろうかと少しだけ心配です。

そしてレイフォンは、本当にヘタレなんだと思う。なかなかにレイフォンとクラリーベルの間が進展しないので、作者自身である自分がイライラしてきました。
なんでだ?フォンフォン一直線ではあんなに欲望(フェリ)に忠実なレイフォンなのに、なんでここではこんな感じなんだ!?
本当に自分の作品なんだろうかと時々疑問を持ってしまいました。

そして、フォンフォン一直線の元となった作品、漫画版レギオス、通称フェリ同人。
アレの最新巻を購入したのですが、もう展開がですね……原作よりぶっ飛んだないようには驚愕しましたが、フェリへの愛を感じるので自分は好きです。
そしてカバー裏にあるおまけ漫画も好き。フリーシーかわいいよw
そういえば、フォンフォン一直線の最初の方にもフリーシー出てるんですけど、最近出てないですね。果たして彼の再登場はあるのか!?
カリアンに関してはもはや腹黒なんて展開ではありませんね。どうしたああなってしまったんでしょう、会長……モロに悪人だ。
そしてニーナなんですけど、ネ……漫画版は漫画版で『えぇ……』ってな内容なんですよ。正直、殺意湧くほどでした。もう隊長なんてやめちまえと本気で思う始末。いや、漫画版のレギオスだと隊長云々以前の問題ですが。

なんにせよ、フェリ同人は次の巻で最終巻だとか。今まで読み続けてきた自分としては寂しいですね。
ですが始まりがあれば必然的に終わりもあるので、それは仕方のないことだと思います。永遠なんてものはないんですよ。もしそれがあると言うのなら、俺はそれを狂信するでしょうね。
さて、そんなわけで次回が1巻編のラスト、クライマックスの汚染獣戦です。レイフォンとクラリーベルの無双、始まりますよ~!
そして当初予定していたクララ一直線のラストでもあります。いや、そもそもフォンフォン一直線を連載している身ですし、クララ一直線は書くなら1巻終了時までと考えていたので。
なんにせよ、ここまで付き合ってくださった皆様、本当にありがとうございます。次回も更新頑張りますので、応援よろしくお願いします。


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