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No.29266の一覧
[0] クララ一直線・セカンド (レギオス 再構成) 【完結】[武芸者](2013/07/10 16:04)
[1] プロローグ 始まり[武芸者](2012/11/01 08:50)
[2] 第1話 学園生活[武芸者](2011/08/11 09:04)
[3] 第2話 入学式[武芸者](2012/05/22 07:12)
[4] 外伝 とある夜[武芸者](2011/09/30 10:15)
[5] 第3話 第十八小隊[武芸者](2011/08/11 09:17)
[6] 第4話 眩しい日常[武芸者](2011/08/11 09:07)
[7] 第5話 第十八小隊の初陣[武芸者](2011/08/11 09:08)
[8] 第6話 汚染獣[武芸者](2011/08/11 09:16)
[9] 第7話 波乱の後に……[武芸者](2012/05/22 07:10)
[10] 第8話 セカンド[武芸者](2011/08/11 22:19)
[11] 第9話 都市警[武芸者](2011/09/30 13:50)
[12] 第10話 一蹴[武芸者](2011/09/30 13:26)
[13] 第11話 一時の平穏[武芸者](2011/11/06 21:28)
[14] 第12話 廃都[武芸者](2012/02/02 09:21)
[15] 第13話 ガハルド[武芸者](2012/05/23 20:58)
[16] 第14話 けじめ[武芸者](2012/06/12 06:49)
[17] 第十五話 目覚めぬ姫[武芸者](2012/11/01 08:21)
[18] 第十六話 病[武芸者](2013/01/19 00:22)
[19] 第十七話 狂気[武芸者](2013/02/17 08:02)
[20] 第十八話 天剣授受者と姫 (完結)[武芸者](2013/07/11 10:07)
[21] クララ一直線・サード!?[武芸者](2015/08/04 17:25)
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[29266] 第十八話 天剣授受者と姫 (完結)
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:981b079b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/11 10:07
「いったい何が起こってやがる……」

怪我を押して野戦グランドへと向かったシャーニッド。未だに傷が痛むが、泣き言を言ってられる常態ではない。
クラリーベルが先に現場へと向かったが、それで安心というわけにはいかない。案の定、野戦グランドは大混乱に陥っていた。

「くそっ……」

グランドどころか、観客席すら覆う土煙。あれではグランドの様子などわかったものではない。
同時に、土煙の中からは轟音が聞こえる。破壊の音だ。グランドは荒れ果て、時には爆発のような音まで聞こえてくる。いったい、あの土煙の中で何が起こっているのだろう?

「無事でいろよ……シェーナ、ディン」

この異常事態に慌てて観客達が避難する中、シャーニッドにできるのは友人の無事を祈ることだけだった。


†††


「あは、あははは! 凄い、凄いですよレイフォン様!!」

野戦グランドの破壊だが、そのほとんどは彼女の所為だった。
病み上がりというのをまったく感じさせないほどに激しく、とても楽しそうに戦う彼女。グレンラン三王家の姫、クラリーベル・ロンスマイアだ。
その様はまるで舞のようだった。状況が違っていたなら魅入っていた者もいただろう。それほどまでに美しい。
流れるような剣撃。激しく、熱く、眩い炎。人の命などたやすく奪ってしまえそうなほどに殺人的な美しさ。だが、その美しさをものともせずに渡り合える者がいた。それがレイフォンだ。

「……………」

レイフォンは無言だった。無表情だった。それでも剣撃を回避し、化錬剄による炎は衝剄などで振り払う。
変わらずそこに立ち続け、視線はクラリーベルだけを見ていた。



「なに呆けてるんだ! さっさと第十小隊のやつらを拾って逃げるぞ!」

「ガトマン先輩……」

この光景に見入っていたナルキに、ガトマンからの怒声が飛ぶ。彼はディンとダルシェナの二人を肩に担ぎ、ナルキを鋭い視線でにらんでいた。

「呆けている暇はないだろ。それに、傭兵団のやつらも言ってただろ、逃げろって」

「で、ですが、レイとん……いや、レイフォンが……」

「だからそういうのは放っておけって! むしろレイフォンのやつが一番危険なんだよ!」

試合開始前までの謙虚なガトマンは影を潜め、今は乱暴な物言いでナルキを叱責する。それほどまでに余裕がないのだろう。
確か、ガトマンはレイフォンにボコられたそうだ。つまり、レイフォンの実力を肌で感じた。その経験ゆえに、レイフォンのことを誰よりも恐れている。

「いいから早く逃げるぞ! 巻き添えなんてごめんだからな」

「ちょ、いたっ……蹴らないでくださいよ」

「だったらさっさと行け!」

尻込みしようとするナルキの背中をせっつき、一刻も早くここから離れようとするガトマン。
レイフォンに対する心配をぬぐえないナルキだったが、先ほどは傭兵団の団長にもここを放れるように言われ、先輩であるガトマンにこうもせっつかれたら逆らうわけにはいかない。

「待ってくださいよ」

「急げレオ! ぐずぐずすんじゃねぇ! おい、傭兵団。そっちに手はいらねぇか!?」

レオも引き連れ、第十八小隊と第十小隊の面々はすぐさまここを離脱しようとする。とはいえ、第十小隊はすでに全滅してしまったため、無事な第十八小隊の面々が連れ出すしかないのだが。
また、レイフォンの手によって傭兵団の者達も何名かやられたようだ。そんな彼らに救いの手は必要ないかとたずねるガトマンだったが、団長であるハイアは緊張感を欠く間延びした声で答えた。

「あ~、こっちはいいさ。お心遣い、感謝するさ~」

実際、傭兵団のすべてがやられたわけではない。無事な傭兵達も存在する。既に無事な傭兵達が負傷した傭兵を運び出していた。

「しかし、とんだ災難だったさ~」

「ハイアちゃん、私達も離れた方が……」

先ほどの焦りはどこへやら、緊張感を捨て去ったハイアに、金髪と眼鏡の少女が心配そうに声をかける。歳はハイアと同じくらいだろうか。

「その必要はないさ、ミュンファ。ちょうどいい機会だし、あの茶番でものんびり見ているさ」

「茶番?」

少女の名はミュンファというらしい。ミュンファは、ハイアの言う『茶番』という言葉に首をかしげた。

「見てわかんないか? さっきから攻撃してんのはロンスマイアの嬢ちゃんだけ。ヴォルフシュテインの野郎は手を出していないさ」

「あ……」

言われてから気づいた。確かに、レイフォンは回避のために衝剄で炎を振り払ってこそいるが、クラリーベル本人を狙うような攻撃は一切行われていない。

「だから茶番さ。野郎、ひょっとしたら最初から暴走なんてしていなかったかもしれない。最初に攻撃を仕掛けてきたのが、廃貴族という新しい力を試すためだとしたら……」

よくよく思い出してみれば、廃貴族が取り憑いてからレイフォンが攻撃したのは傭兵団だけだ。無差別に周囲を攻撃するようなこと、学生武芸者や観客を襲うことなどなかった。
もしも最初から暴走などしておらず、憂さ晴らしや、新たな力を試すために傭兵団を襲ったのだとしたら……

「本当に気に入らない野郎さ……」

ハイアは苦々しくつぶやいた。


†††



「だんまりですか? 何か言ってくださいよ、レイフォン様。さっきから天剣も使ってませんし。それとも、私には天剣を使う価値もないと言いたいんですか?」

レイフォンと相対していたクラリーベルも異変に気づく。自分は相手になどされていなかったのだ。
レイフォンは始終無言。天剣を復元こそしているが、それはクラリーベルの攻撃を捌くためにしか使用されていない。
有り余る剄と、それに耐えられる至高の錬金鋼。だというのにそれが一切クラリーベルに向けられない。舐められていると思わずにはいられなかった。

「さすがは天剣授受者様ですね。私など、全力を出す相手足り得ないと言いたいのでしょうか ? けど、これを見ても同じ態度ができますか!?」

仕掛けは万全だった。今までの戦闘の、この野戦グラウンドには化錬剄の奥義である伏剄が仕込まれている。剄をあえて化錬させず、未化錬のまま留めて、剄の網としたものだ。それが周囲にいくつもある。
そして、クラリーベルの動作とともにそれが一気に化錬した。

力系衝剄の化錬変化、紅蓮波濤(ぐれんはとう)

クラリーベルの持つ錬金鋼を中心に、紅の炎が広がっていく。炎は爆発的に広がって野戦グラウンドを埋め尽くし、捕食するかのようにレイフォンに向かっていく。まるで紅の獣だった。

「おぃおぃ、嘘だろ!?」

クラリーベルのこの剄技に、周囲の考慮なんてものはまるでなかった。高みの見物をしようとしていたハイアは腰を上げ、すぐさまここから離れようとする。
負傷した傭兵、第十小隊の面々も、まだ完全には避難が完了していない。このままではクラリーベルの大技に巻き込まれかねなかった。

「あのおてんば姫が……」

ハイアは刀を手に取る。やれるかどうかはわからないが、あの剄技を、紅蓮波濤を斬ろうとしたのだ。完全に斬れなくともよい。衝剄などで吹き飛ばし、活路を見出せればいい。
炎の熱気と緊張で唇と喉が渇く。距離があるというのに、肌が焼けるように痛い。
剄を走らせ、構えを取る。サイハーデン刀争術奥義、焔切り(ほむらぎり)を放とうとした。だが、その必要はなかった。

「「は(え)?」」

クラリーベルとハイアの声が重なった。その声は驚きの声だったが、ありえなさ過ぎる光景によって気が抜けたものへとなってしまった。
クラリーベルの剄技が、紅の炎が消失する。突如突風が吹き、炎を掻き消したのだ。
野戦グランドの林が折れ、薙ぎ払われる。突風はクラリーベルやハイアにも届き、体勢を崩した。気を抜けば林と一緒に吹き飛ばされてしまいそうな風だ。
もっとも、驚くべきことはそんなことではない。この突風、風は剄技で生み出されたものではないのだ。正体は風圧。
レイフォンが目の前で正拳突きをひとつ。その風圧は槍のように突き進み、クラリーベルの剄技を貫いた。

「ちょ、なんですかそれ!? そんなのアリなんですか!?」

むちゃくちゃなレイフォンに、クラリーベルは抗議めいた視線を向けようとする。だが、その先にレイフォンはいなかった。
クラリーベルが風圧で体勢を崩し、わずかに視線をそらしてしまった隙にレイフォンは移動していた。

「……え?」

「………」

いつの間にか、レイフォンはクラリーベルの目の前にいた。正面にいるというのに、クラリーベルは今の今まで気づかなかった。
迎撃行動を取ろうとする。だが、あまりにも遅い。それよりも早く、レイフォンの手が伸びた。

「へ……?」

抱きしめられた。わけがわからない。クラリーベルはレイフォンに抱きしめられ、先ほどよりも気の抜けた表情と声を出してしまう。

「れ、レイフォン様……え、痛い!? いた、いたたたっ……ちょ、痛いですレイフォン様!!」

「………」

その直後、レイフォンはクラリーベルを抱きしめる力を強くした。洒落にならないほど強く、洒落にならないほどに痛い。大蛇に巻きつかれた方がマシではないかと思えるほどにだ。もっとも、そんな経験などクラリーベルにはないが。

「骨がギシギシいってます! 出る、出ちゃいます内臓! 痛い、本当に痛いですレイフォン様!!」

「………」

クラリーベルが喚き散らすが、レイフォンは相変わらずの無言と無表情。こんな状態で錬金鋼など持っていられるはずがなく、クラリーベルは錬金鋼を下に落としていた。
なので、完全なる無防備。抵抗しようにも、ただでさえ膨大な剄を持っており、廃貴族というブースとで強化されたレイフォンの活剄、身体能力を上回ることは不可能。
ゆえに脱出不能。痛みに耐えかねたクラリーベルは、本気で泣いてしまいそうだった。

「っ……の……カ」

「……はい?」

無言だったレイフォンが、この時初めて言葉を発した。だが、声があまりにも小さくて聞き取れない。だから、クラリーベルは当然聞き返した。

「このバカって言ったんですよ!! バカ!」

「ぎゃんっ!?」

叫びとともに、さらに抱きしめる力が強くなる。圧迫感が増したクラリーベルは、もはや涙目だった。
だが、レイフォンはそんなクラリーベルをフォローする余裕などなかった。彼女には、言いたいことがたくさんありすぎる。

「あなたは本当に自分勝手で、落ち着きがなくって、好戦的で……本当にお姫さまなのかって思ったことも一度や二度じゃありません」

「痛い~……ごめんなさい、ホントごめんなさいレイフォン様~!!」

「あなた、自分の立場がわかっているんですか!? 僕がどれだけ心配したと思ってるんですか! やりたいことをやって、言いたいように言う。それが悪いとは言いませんけど、僕にだって言いたいことがあるんです!」

「ひうっ……」

レイフォンは激昂していた。完全に怒っていた。
突っ込みや注意を促されることには慣れているクラリーベルだが、真剣に怒っているレイフォンを見るのは初めてのことだ。及び腰になってしまい、涙目のままレイフォンを見ていた。

「僕は………なんですよ」

「へ?」

力が弱まる。そして、レイフォンから吐き出された言葉。けれど、肝心なところが小さくて聞こえない。

「クララ……」

レイフォンはクラリーベルを手放す。圧迫から開放し、正面からクラリーベルの瞳を見据えた。
優しい声音で、今度はしっかりと発音する。

「僕はあなたが好きです。だからあまり心配をかけないでください。クララが傷ついて、自分のこと以上に辛かったんですから」

「へ……え、うぇ……ええええええええええ!?」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。真っ白となった頭で、言われたことを理解するのに五秒ほどの時を要した。その五秒後には、驚愕の声を上げる。

「ちょ、レイフォン様……いきなり何を言って……」

「前に、クララが言ってくれたじゃないですか。僕のことが好きだって。クララが傷ついてから、僕なりに真剣に考えてみたんです。あなたは、僕のそばにいるのが当然でした。だから、これからもずっと、僕のそばにいてください」

「レイフォン……さま……」

「あなたみたいなおてんばは、目の届くところに置いておかないと心配ですしね」

「う~……」

好きだといわれたのは嬉しいが、最後に言われたことに渋い顔をするクラリーベル。
自覚はあり、自分がおしとやかとは程遠い性格をしているのは理解しているものの、レイフォンに言われると結構ショックだった。
だから、その嬉しさを素直に喜ぶことができず、微妙な表情をしてしまっても仕方のないことだろう。
この様子を見ていたハイアは、とても迷惑そうで、力の抜けた表情でポツリとつぶやく。

「本当に、とんだ茶番さ」

「ねぇ、ハイアちゃん……廃貴族はどうするの?」

ミュンファが問いかける。廃貴族がレイフォンの中にいるのは確かだ。傭兵団の目的は廃貴族の捕縛。なので、場合によってはレイフォンと戦う可能性が出てくる。
けれど、ハイアはとても嫌そうで、めんどくさそうな顔で言った。

「どうもしないさ。そもそも、ヴォルフシュテインはグレンダンの武芸者、天剣授受者様さ~。無理にグレンダンに連れて行く理由がなければ、敵対する理由もない。だから、グレンダンに報告の手紙を書いて、返事が届くまで待機ってところだろ」

ボリボリと頭を掻き、ハイアはため息じみた声を上げる。

「はぁ……それにさ、ヴォルフシュテインの野郎を敵に回すのはマジでごめんさ。ただでさえ俺っちと同じくらいの技量を持っているのに、それに廃きぞ貴族が憑いたらとても手に負えないさ~。ほら言うだろ。触らぬ神に祟りなし、って」

「うん……それはそうだけど、ハイアちゃんと同じくらいって……フェルマウスさんの話だと、ハイアちゃんボロ負けしてなかったけ?」

「そんな生意気なことを言うのはこの口かさ~?」

「いひゃい! いひゃいよ、ハイアふぁん!」

「さっきから言いたかったけど、ハイアちゃん言うなさ。それに、俺っちが負けたのは武器の差さ~。条件が同じなら絶対に負けないさ」

生意気なことを言う幼馴染に、ハイアはほっぺを引張りながら言い訳を述べる。
何はともあれ、今現在、傭兵団にはレイフォンと敵対する理由はなかった。今後の方針は本国(グレンダン)に相談し、指示を待つこととなるだろう。


†††


ディン・ディーと、ダルシェナ・シェ・マテルナの離脱。二人は試合での負傷で剄脈に異常をきたし、半年ほどの入院を強いられた。今期の武芸大会はまさに絶望的となる。
主力を失い、小隊として存続できなくなった第十小隊は取り潰しとなり、カリアンの思惑通りとなっていた。これによって、違法酒がらみの騒動は完全に揉み消された。
試合中のトラブルに関しては、野戦グラウンドの老朽化や、システムの不具合などと適当に理由を付け、そちらも揉み消した。レイフォンやクラリーベルの暴走、傭兵団の乱入などがこれに該当する。
彼らとは今後とも友好的な関係を続けたいというのがカリアンの願いだった。
一番の問題なのは、レイフォンに憑いた廃貴族。今回の騒動の一因を担った不確定な存在。本来ならそんなわけのわからないものは、傭兵団が持ち帰ってくれれば万々歳。けれど、レイフォンに取り憑いて引き離せないためにそうはいかない。
武芸大会を前にレイフォンがいなくなるのは困る。ツェルニ最大級の戦力を失うわけにはいかない。とはいえ、今のところ傭兵団に敵対する意思はないようだし、試合中の騒動にしても、精神的に参っていたレイフォンが少々暴走しただけのこと。クラリーベルが復帰し、レイフォンも平常心を取り戻したことから、完璧にとはいえないが、その心配は必要ないかもしれない。
なんにせよ、問題は保留、現状維持が妥当な判断か。釈然とはしないが、それでもある程度の問題が片付いたのは喜ばしい。
カリアンは執務机で書類をまとめ、一息吐いてコーヒーを口にした。

「ひとまずはこれで安心かな。それにしても、ツェルニは呪われているとしか思えないほどにトラブル続きだ。胃に穴が開きそうだよ」

カリアンは苦笑いを浮かべながら願う。どうか、これ以上問題が起きないようにと。だが、そんなカリアンの願いとは裏腹に、これからもツェルニにはさまざまな災厄が降り注ぐのだった。


†††


「釈然としねぇ……」

事が終わり、シャーニッドは病院へと戻っていた。自室のベットの上で天井を眺め、ぶつぶつと文句をたらす。
クラリーベルの復活により、レイフォンは正気を取り戻した。が、それはあまりにも遅すぎた。既にディンとダルシェナはやられており、今期の武芸大会が絶望的なのだからしゃれにならない。
やけっぱちになったレイフォンの心境を理解することはできるが、友が犠牲になったとあらば、そう簡単に納得することはできない。

「す、すいません……」

そのレイフォンが、現在シャーニッドの病室に見舞いに来ていた。とても居心地が悪そうな顔でシャーニッドに謝罪する。
冷静でいられる状況ではなかったとはいえ、シャーニッドを病院送りにしたのだ。かなりの負い目がある。

「お前さんもいろいろあって、いっぱいいっぱいだったんだろ? 別に死者が出たわけじゃねえんだ、気にすんな。この傷の恨みは忘れねぇけどな」

シャーニッドの軽口に引きつった表情をするレイフォン。今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「ま、とにかくだ。本当に死者が出なくてよかったな。冗談抜きで」

「そうですね……クララが無事で、本当によかったです」

シャーニッドはディン達や傭兵団を含めた全てについて話していたが、レイフォンはただ、クラリーベルのことについてのみ語っていた。
それほどまでにレイフォンにとって、クラリーベルの存在が特別なのだろう。悪く取れば、クラリーベル以外はどうなってもいいと思っているのかもしれない。
そう思えるほどに、想像できてしまうほどに、以前のレイフォンは狂気に囚われていた。

「クララちゃんは今、検査の真っ最中か?」

「はい。僕を止めるために、シャーニッド先輩がけしかけましたから。それで先生に怒られて、今は精密検査の真っ最中です。そのことについては、僕もすごく怒ってます」

「じゃあ、お前はどうやったら止まんだよ?」

先ほどのお返しとばかりにシャーニッドを睨むレイフォンだったが、シャーニッドからすれば的外れもいいところだ。というか、他に方法がなかった。狂気に染まったレイフォンを止められるのは、クラリーベルを置いて他にはいない。
そのあたりはレイフォンも理解しているし、そもそも暴れた自分が悪いので、素直に引き下がった。

「あ~あ、ホントに俺は大変なやつの部下になっちまったな」

「なら、第十八小隊をやめますか?」

自嘲気味に言うシャーニッドに、レイフォンは引き止めるそぶりを一切見せずに言った。
元から小隊に対するこだわりはない。また、小隊として最低限の人数は足りている。シャーニッドが小隊を抜けようとも、痛くも痒くもなかった。

「さすがになぁ……第十小隊から逃げ出して、今度は第十八小隊から逃げ出すってのは、かなりイメージが悪いよな」

「なら、残るんですか?」

「だな。もう少しの間よろしく頼むぜ、隊長さん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

どちらにも誠意を感じられない、形だけの会話が交わされる。少なくとも、レイフォンには言葉どおりのよろしくという気持ちはこれっぽっちもなかった。
邪魔にならなければどうでもいいとしか思っていない。シャーニッドが小隊を出ようが、残ろうがどうでもいいのだ。

「じゃあ、僕はクララのところにいきますので」

「おう、お姫様によろしくな」

レイフォンにはクラリーベルがそばにいれば、後はどうでもいいことだった。


†††


「ひゃうっ!?」

「どうかしたんですか、クララ」

久しぶりの我が家。クラリーベルは今まで入院中。レイフォンはそんなクラリーベルに付きっ切りで、半ば住み込みで看病をしていたので、自室の寮に帰るのはずいぶん久しぶりのことだった。

「あ、あの……レイフォン様……」

「いやですか?」

「いえ、その、そういうわけでは……」

入院中の荷物を持って家に帰った。クラリーベルは先の怪我で内臓にもダメージを負っていたため、しばらく夕食は消化のよいものにするようにと医者に言われた。
クラリーベルからすれば物足りない夕食だったが、それでも夕食が済んで、シャワーを浴びた。
レイフォンに廃都でのことについて少しだけ説教を受け、そのあとは趣味などでちょっとだけ時間をつぶして、後は寝ることとなった。
クラリーベルは先の説教の意趣返しも含めてか、いつものようにレイフォンのベットにもぐりこんだ。いつものように顔を赤くし、慌てふためくレイフォンの姿を予想して。
だが、この日のレイフォンはクラリーベルの思い通りにはならなかった。

「う~……レイフォン様、生意気です」

「生意気なのはクララの方ですよ」

ベットの中にもぐりこんだクラリーベルは、レイフォンに抱きしめられていた。
殺剄まで使って気配を殺し、レイフォンに近づいたクラリーベルだったが、相手は仮にも天剣授受者。ばればれで、起きており、待ち伏せされたかのようにつかまってしまった。

「クララの髪、本当にきれいですね」

「はう……」

ベットの中で、レイフォンがクララの髪を触る。一部分が白髪の特徴的なクララの髪はさらさらで、とても良い手触りをしていた。

「いい匂いですね。シャンプーかな?」

「やぁ……匂い、かがないでください」

「クララが自分からベットに入ってきたんじゃないですか」

「あうぁ……」

いつものレイフォンとは明らかに違う。野戦グラウンドでの言葉も思い出し、今日は逆にクラリーベルの顔が赤く染まっていた。

「今日は、そろそろ寝ましょうか」

「へ……?」

不意に、レイフォンがそんなことを言った。クラリーベルを抱きしめる力も弱くなる。
気恥ずかしくはあったが、いろいろと期待してたクラリーベルは内心で拍子抜けしていた。

「寝ちゃうん……ですか?」

「夜は寝るものじゃないですか」

「むぅ……」

それはそうだが……どこか納得行かないという顔で、クラリーベルは頬を膨らませた。

「え……?」

その頬に、柔らかい感触がした。それはレイフォンの唇だった。
クラリーベルの頬にキスをしたレイフォンは、優しい笑顔でクラリーベルに語りかけた。

「大好きですよ、クララ」

「……………」

野戦グラウンドのような場所ではなく、二人っきりの寝室でハッキリとそう言われた。クラリーベルの中には野戦グラウンドで感じたものとは別の嬉しさが込み上げ、レイフォンの腕から抜け出す。

「えっ……!?」

レイフォンの上に載り、そのまま顔を近づけた。寝室で、横になっていたことからレイフォンも油断しており、反応が遅れた。
気がつけばクラリーベルの唇が、レイフォンの唇に触れていた。

「ん、んんっ!?」

クラリーベルはレイフォンの首筋に手を回し、そのまま舌を入れてくる。危害を加えるのならレイフォンも抵抗しただろうが、このようなことで抵抗する気にはなれなかった。無意識のうちに、レイフォンも受け入れていた。
舌がレイフォンの口内に入る。口の中をまさぐり、舌と舌が絡んだ。よく、キスは果実の味がすると例えられる。だが、レイフォンのしたこのキスは、生々しい唾液の味がした。クラリーベルの唾液の味だった。

「っ……その……そういうことを言って、キスをするんでしたら、ほっぺではなく唇にして欲しかったな、なんて……」

濃厚な口付けが終わり、クラリーベルは唇を離し、いまさらながらにいじらしく、言い訳染みたことを言う。
先ほどの強引なキスが嘘だったと感じられるほどの恥じらいだった。

「あ、れい……」

だから、今度はレイフォンからした。下になったまま、上にいたクラリーベルの首筋に手を回し、そのまま唇に押し付ける。
またも舌と舌が絡み、濃厚な唾液の味がした。

「ん……んん、むっ……」

クラリーベルも、そのままレイフォンを抱きしめる。唇の感触と、レイフォンの体温。これらを感じ、満たされた気持ちが広がっていく。

「ぷはっ……」

唇が離れ、空気を求めて息を吸った。体が熱を持つほどに熱く、心地よく、ずっとしていたいと思えるほどだったが、こればかりはどうにもならない。

「じゃ、今度こそ寝ましょうか」

「え、寝ちゃうんですか!?」

むしろこれからだろうというのに、レイフォンは素でこう言うのだから性質が悪い。

「まだ何かあるんですか?」

「はぁ……もういいです。レイフォン様がここまでしてくれたんですから、今日はこれで許してあげます。けど、もう逃げられるなんて思わないでくださいね」

クラリーベルは呆れつつ、レイフォンの上から横に移動した。レイフォンの腕を枕にし、ぎゅっと抱きつく。

「おやすみなさい、レイフォン様」

「おやすみなさい、クララ」

こうして夜は更けていった。





















あとがき
久しぶりにクララ一直線更新。最近、なかなか思うように更新できません(汗
それでも各SSの完結を目指したいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

さて、今回のクララ一直線ですが、何だろう、思ったよりあっさりと終わってしまいました。
レイフォンに廃貴族が憑いて、暴走したのはあくまでクララの喪失から来るもの。つまりヤンデレ化です。
でも、そのクララが復活して目の前に現れたら、もう暴れる理由はなくなってしまうわけで……こんな感じとなってしまいました。
ディンとダルシェナの件も間に合わず、シャーニッドが道化となってしまいました。けど、ここのハイアは死亡フラグを立てることなく、無事に生き残ることができそうです。
最後は自分の気持ちを自覚したレイフォンと、クララのいちゃいちゃした場面を書きたかったんですが、あんまりガツガツしてるのもどうだろうなってことで、こうなってしまいました。
まぁ、これはこれで気に入ってるからいいですかね。

それはそうと、ついにレギオスが最終回を迎えました。まだ後日談とか、未収録の短編などでもう一巻やるらしいですけど、とりあえず完結です。
ニーナに関してはもうアンチ並みに言いたいこと、突っ込みどころが満載だったので割合しますけど、あえて一言いえるとするのなら……


イヤッホオォオオオォウ、最高だぜええぇぇええぇぇえええ!!

フェリ勝利、大勝利!!
作中でなんか、相変わらずレイフォンがニーナに依存してるようだったり、前巻ではフェリの気持ちに気づいたのに、フェリの問いかけに口を濁したりと、レイフォンにも言いたいことたっぷりでしたが、最後の最後でやってくれました。
これでもし、ニーナやリーリンがヒロインになってた日には、レギオス全巻ブックオフ行きでした。ぶっちゃけ、今後レギオスSSを書くモチベーションが保てたかもわかりません。
まぁ、最後の最後になんか新キャラが出て、レイフォンがその護衛をやることになったくだりとかにいろいろ突っ込みたかったりしたのですが。そこはそこでおいておきましょう。

さて、レギオスが完結しました。そして、クララ一直線も切がいいので完結させたいと思います。
おまけネタで今後の七巻部分まで、ダイジェスト?でいきますので、もう少しだけお付き合いください。










おまけ 五巻編

「いかがなさいますか?」

グレンダンの王宮。そこでは女王、アルシェイラが手紙を広げ、めんどくさそうに頬杖を付きながら読んでいた。
その隣で控え、問いかけたのはアルシェイラと同じ容姿をした女性、天剣授受者兼影武者のカナリスだ。とはいえ、自由翻弄の女王であるアルシェイラに影武者が必要なのかと聞かれれば、ほとほと疑問ではあるのだが。

「いかがするもなにも、放置でいいんじゃないの? 仮にも天剣であるレイフォンなら廃貴族をうまく扱えるでしょうし、グレンダンに呼び戻せば廃貴族もセットでついてくるじゃない」

アルシェイラが読んでいた手紙は、サリンバン教導傭兵団からの報告書だった。
レイフォンとクラリーベルの向かった学園都市、ツェルニで廃貴族を発見したとの報。けれど、廃貴族はレイフォンに取り憑いたので、どうすればいいかと王家に指示を仰いできたのだ。

「陛下がそうお決めになったのなら、私はそれに従います」

「ん、それでよし。じゃ、私の代わりに傭兵団宛に手紙書いてね」

「……はい」

レイフォンがグレンダンの武芸者である以上、そしてアルシェイラの決定である以上、カナリスに逆らう理由はない。
政治に関しては相変わらずいい加減だが、それに関しては今に始まったことではないので、多少渋りながらも頷く。
方針が決まり、さっそく手紙を一筆認めようとしたが、そんな時に彼が現れた。

「アルシェイラぁぁぁぁぁ!!」

「ティグじい?」

アルシェイラの祖父であり、ロンスマイア家党首、不動の天剣ことティグリス。
彼は普段の落ち着きある様子からは程遠い雰囲気で、手紙を片手に王宮へと駆け込んできた。
そして孫娘を前にし、懇願するように言った。

「頼むぅぅぅ! わしを、わしをツェルニに行かせてくれぇ!!」

「ちょ、ちょっと、どうしたのよティグじい?」

さすがのアルシェイラでも、実の祖父を邪険にあしらうことはできなかった。というか、そういった雰囲気ではない。
武芸者としての実力は女王のアルシェイラが圧倒的に上なのだろうが、自分よりもはるかに年上で、小さいころの自分をよく知る人物が、恥も外聞もなく、必死でアルシェイラにお願いしてきているのだ。明らかに何かがあったのだろう。

「これを、これを読め!」

「え……?」

ティグリスの差し出した手紙。それは、レイフォンからの報告書だった。
アルシェイラ宛にも同じものが届いていたのだが、その手紙は現在、アルシェイラのめったに使われない執務机の上で、他の書類や手紙と一緒にまぎれていた。後にカナリスが発見することとなる。
それはともかく、レイフォンから送られてきた手紙の内容はツェルニでの任務、廃都で起こったこと。
そこでは汚染獣との交戦。その際に、クラリーベルが負傷してしまったことが書かれていた。
これを読めば、もう一人の孫娘、クラリーベルを溺愛しているティグリスが取り乱すのも理解できる。アルシェイラ自身も、いくら胸は不合格でも、従妹となる少女を捨て置くのは気が引ける。
さらには手紙に書かれた汚染獣、先日グレンダンから逃亡した老生体、ガハルドの憑依体となると思うところがあった。

「わかったわ。ティグじい、あなたにツェルニへの使者を命じます」

「おお!」

孫娘の配慮に、ティグリスは年甲斐もなく瞳を輝かせた。

「けれど、いくつか条件があるわ。ひとつ、こちらからの手紙をレイフォンと傭兵団に届けること。ひとつ、これらのことはあくまでおまけ。ティグじいがツェルニに行く本題は、ある少女の護衛のため」

「護衛……じゃと?」

アルシェイラの言葉に、ティグリスだけではなくカナリスも首をかしげていた。

「そう、護衛よ。手紙よりも、何よりも最優先すること。傷ひとつ負わすんじゃないわよ」

不可解なアルシェイラの言葉。それ以上に。その護衛の人物がティグリスを不可解な心境にさせた。
護衛する人物の名は、リーリン・マーフェス。レイフォンと同じ孤児院で育った少女だが、ティグリスとこの少女には、浅からぬ因縁があるのだった。


†††


「ちょ、ま、待ってください、クララ……」

「言ったじゃないですか、もう逃げられませんよって。責任、取ってもらいますからね」

「いや、でも、あのクララ……そんなことをしたら、子供ができちゃうかもしれませんし……」

「私は、レイフォン様との子供なら欲しいですが……レイフォン様はいやですか?」

「ぐ、うぅ……」

レイフォンはあれよこれよといろいろな搦め手を使われ、ついにはクラリーベルの前に完全に敗北しようとしていた。
この敗北が後に、レイフォンとツェルニを更なる騒動に巻き込むことを、今はまだ誰も知らなかった。









あとがき2
廃貴族はレイフォンの中で大人しくしてますので、騒動は一切起こりません。そもそもこの第十八小隊なら合宿する必要もありませんし、事故も起こりそうにありませんしね。
そんなわけで、次は六巻編です。










おまけ 六巻編

「く、来るな……来るなぁぁ!!」

学園都市マイアス。そこでは狼面衆なる者達が暗躍し、都市が脚を止めていた。
この騒動の原因は、マイアスの電子精霊の失踪。電子精霊が都市の機関部からいなくなってしまったため、脚が止まってしまったのだ。
その原因を作った、狼面集の一員であり、マイアスの都市警察に所属する青年、ロイ。彼は現在、大ピンチを迎えていた。

「わしの邪魔をするな!」

孫馬鹿全開おじいちゃん、ティグリスの手によって完膚なきまでに叩きのめされていた。

「誰にも邪魔はさせん。ツェルニに行く邪魔を、誰にもさせん!!」

「そ、その、ごめんなさい。ホントごめんなさい。ツェルニへでも、どこへでも行かれていいので、ホント勘弁してください」

もはや恥も外聞もない。ロイは必死で命乞いをし、ティグリスに許しを請うていた。
ちょうど、そんな時だった。脚を止めたマイアスに近づく危機。移動しなくなった都市など、汚染獣からすればかっこうの獲物だった。
接近してくる汚染獣は、雄性体の成り立て、一期だろう。グレンダンなら完全に雑魚扱いだが、学園都市からすれば十分な脅威。
とはいえ、グレンダン最強の一人であるティグリスがいる以上、やっぱり雑魚だった。

「邪魔じゃああ!!」

天剣を復元。本来なら今回の騒動が原因で、マイアスを訪れた旅人達は宿泊施設に監禁され、錬金鋼などの危険物は没収されているのだが、そこはティグリスだからと納得するしかない。
彼ならば監視から楽に抜け出し、錬金鋼を取り戻すことなど朝飯前だろう。
ティグリスの天剣は弓。剄を矢の形に構え、空を飛ぶ汚染獣に一射を放った。

「あ、あぁ……」

汚染獣を一撃で、塵すら残さずに消滅させるティグリス。その圧倒的な力を目の前にし、ロイには更なる命乞いをするしか選択肢がなかった。


†††


「レイフォン様……」

「最初に誘ったのは、クララじゃないですか」

「そうですけど……そう、なんですけど……」

ツェルニでは、これまでの騒動がうそのような平和が続いていた。
だが、確かに新たな騒動がツェルニに近づいている。そんなことはまだ知らぬとばかりに、レイフォンはクラリーベルの存在に溺れていった。

「そういえば、もうすぐ武芸大会が始まるそうですね」

「ええ、もう結構近づいてるとか。確か、名前はマイアスって言ったかな?」

学園都市マイアス。ティグリスがツェルニを訪れるまで、あと少し。






あとがき3
サヴァリスとは違い、ティグじいならロイに容赦はしないだろうなと思いました。
完全にサヴァリス遊んでましたしね。ロイはもう、命乞い意外に生き残る道がありません。
そういえばマイアスとツェルニが戦ったのって、ツェルニが都市の暴走で本来の進路を外れたから、その関係か何かで本来なら遠い場所にあるマイアスと戦ったとか。
この話ではツェルニは暴走してませんけど、そこはまぁ、ご都合主義ということでひとつ。
最後に七巻編です。








おまけ 七巻編

「勝ちましたね、レイフォン様」

「こう言ったらマイアスの方達には悪いですけど、所詮は学生武芸者レベルでしたからね」

ツェルニ対マイアスの都市戦。結果は、ツェルニの勝利で幕を閉じた。
とはいえ、これは当然の結果だった。マイアスも決して弱くはなかったが、あくまで学生レベルの話。
グレンダンで最強の一人だったレイフォンと、天剣に次ぐほどの実力を持ったクラリーベル。この二人がいて、負ける理由などなかった。

「今日は祝勝会ですね。都市中お祭り騒ぎですよ」

「確かに、これで鉱山が二つになりましたからね」

ツェルニはセルニウム鉱山の残りがひとつと、危機的状況にあった。そんななかの勝利だ。まだ油断はできないが、とりあえず目先の危機は去った。
ならば今日くらい、この勝利を噛み締め、大いに騒いでも決して悪いことではないだろう。

「クララぁぁ!!」

「え……?」

勝利の余韻に浸っていた。そんな時、マイアスの方からクラリーベルの名を呼ぶ声が聞こえる。
その声の主は老人だった。老人は少女を小脇に抱え、とても老人とは主ぬ速度でこちらへと向かってきた。

「うそ……おじい様?」

「リーリン……?」

老人の招待はティグリス。ティグリスの小脇に抱えられた少女は、レイフォンの幼馴染であるリーリン。
そんな二人の登場に、レイフォンとクラリーベルは唖然と口を広げていた。

「クララぁ、無事だったか! 怪我をしたと聞いて、心配だったぞ!」

「え、ええ!?」

「あ、その、グレンダンにはあの時のことを手紙で報告してまして……」

クラリーベルの姿を見るなり、リーリンをおろしてクラリーベルに抱きつくティグリス。
孫娘を本当に心配していたようで、涙ながらにクラリーベルを抱きしめていた。

「レイフォン……」

「リーリン。どうして、君がここに?」

「う、うん、あのね……」

ティグリスがクラリーベルにかまっていたので、レイフォンはリーリンに事情を聞こうとしていた。だが、そんなレイフォンに、ティグリスの視線が向けられる。

「レイフォン」

「へ?」

クラリーベルから手を離し、ティグリスはレイフォンに近づいた。そして、レイフォンの襟首を持ち上げる。

「貴様はクララの護衛ということでツェルニに向かったな。なのに、この様はなんじゃ!?」

「あ、その、そのことについては……」

老人とは思えない力だ。ティグリスは齢八十を超えているというのに、背筋はしゃんと伸び、力強い眼光をレイフォンに向けてくる。
また、ティグリスの言うとおり、レイフォンには肝心な時にクラリーベルを守れなかったという負い目があるため、強く出ることはできなかった。
幼馴染が歴戦の戦士であり、グレンダン三王家の党首に胸倉をつかまれている様子を見て、リーリンはどうすればいいのかと戸惑いを隠せずにいた。そんな中、ティグリスを戒められるのはクラリーベルしかいなかった。

「おじい様、レイフォン様にあまり酷いことをしないでください。それに怪我をしたのは私の不注意、油断が原因です。レイフォン様は何も悪くありません」

「クララ……しかしな……」

ティグリスといえども、孫娘には甘いようだった。クラリーベルにそういわれ、レイフォンの襟首をつかむ力が弱くなる。

「それはそうとおじい様。どうしておじい様がこちらに?」

「む……ああ、廃貴族のことに関する王宮からの決定を伝えるために、レイフォンと傭兵団に用があってな。まぁ、そっちはおまけじゃ。一番肝心な用件は、クララの様子を見に来ることじゃった」

「そうなんですか。私もちょうど、おじい様とレイフォン様に伝えたいことがあったのでよかったです」

「なに?」

「え、僕にもですか?」

ティグリスはともかく、いつも一緒にいるレイフォンにも伝えたいこととはなんだろう?
疑問に思う二人に向け、クラリーベルは平然と爆弾発言をかました。

「実は私……できちゃいました」

「なぬっ?」

「は……?」

ティグリスは一瞬、クラリーベルが何を言ったのか理解できなかった。けれど、心当たりのありすぎるレイフォンは次の瞬間、大慌てだった。

「ちょ、クララ! 初耳なんですけど!?」

「初めて言いましたから。実は先日、体調を崩したので病院に行ったんですが、二ヶ月と診断されました。おかしいですよね。先生にもらった避妊具はちゃんと使っていたんですけど」

「ちょ、よりによってトロイアットさんにもらったものを!? というかクララ、そんな体で今日の試合に出るってどういう頭してるんですか!?」

「いえ……結局、今日の試合はレイフォン様大活躍でしたし、私はそんなに激しく動きませんでしたから」

「だからって……ああ、もう!」

言いたいことがいろいろありすぎて、レイフォンは取り乱しっぱなしだった。
とにかく、一番言いたいこと、思ったことはトロイアットを信用するなということだった。彼はレイフォン達がツェルニへ行く時、選別として穴の開いた避妊具を渡す最低の男だ。
レイフォンはすぐさまゴミ箱に捨てたのだが、事情を知らないクラリーベルがそれを使って、見事にできてしまったというわけだ。レイフォンは頭を抱え、グレンダンに戻ったらトロイアットを殺そうと固く決意する。
だが、トロイアットの殺害よりも、今はレイフォンが生き残れるかどうかの方が重要だった。

「れいふぉぉぉぉぉん!!」

ティグリスマジ切れ。再び強烈な力でレイフォンの胸倉をつかみ、ぶんぶんと上下に揺さぶっていた。

「貴様、貴様ァァ!! よくもクララを傷物に……」

その怒りはもっともだった。レイフォンにも負い目はありすぎる。殺されたって文句は言えないかもしれない。

「レイフォン……」

さらに、レイフォンを強烈な寒気が襲った。この騒動で今の今まで忘れていたが、リーリンだった。
彼女はとても冷え切った瞳で、レイフォンを見ていた。瞳は冷えているが、その中では激しく燃えてもいた。
嫉妬の炎だろうか。氷のように冷たく、灼熱よりも熱い瞳。リーリンは一般人だというのに、歴戦の武芸者であるレイフォンが本気で死を覚悟するほどだった。

「レイフォン様」

背後からは、愛しいクラリーベルの声が聞こえる。

「私、子供ができて早々、未亡人とかいやですので死なないでくださいね」

まるで他人事のようにそういってのけた。どうやら、止める気はないらしい。
レイフォンを、学園都市ツェルニを、ここ最近、最大級の災難が襲おうとしていた。









あとがき4
これでラストです。傭兵団に敵対する理由がない以上、誘拐騒動なんて起こりません。というか、クララを誘拐するのは本当に大変でしょう。フェリには直接の戦闘力はありませんでしたが。
まぁ、それはさておき、クララ一直線初期でレイフォンに穴あきコンドームを渡してたトロイアット。当然クララにも渡されており、こうなりました。
ティグじい大暴れ。リーリン狂化です。もげちまえ、レイフォン。

なんにせよ、これでクララ一直線・セカンドはひと段落、完結です。
レギオスの原作も完結しましたし、フォンフォンやイチカの方にも専念したいですし、ちょうどよいころあいかなと思いました。
ここまで付き合ってくださった読者の皆様には、本当に感謝です。
落ち着いたら、いつの日かサードだったり、おまけの短編を書けるといいなと思っています。
レギオスは終わってしまいましたけど、武芸者(おれ)のレギオスはまだまだこれからです。今後ともよろしくお願いします。


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