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No.29266の一覧
[0] クララ一直線・セカンド (レギオス 再構成) 【完結】[武芸者](2013/07/10 16:04)
[1] プロローグ 始まり[武芸者](2012/11/01 08:50)
[2] 第1話 学園生活[武芸者](2011/08/11 09:04)
[3] 第2話 入学式[武芸者](2012/05/22 07:12)
[4] 外伝 とある夜[武芸者](2011/09/30 10:15)
[5] 第3話 第十八小隊[武芸者](2011/08/11 09:17)
[6] 第4話 眩しい日常[武芸者](2011/08/11 09:07)
[7] 第5話 第十八小隊の初陣[武芸者](2011/08/11 09:08)
[8] 第6話 汚染獣[武芸者](2011/08/11 09:16)
[9] 第7話 波乱の後に……[武芸者](2012/05/22 07:10)
[10] 第8話 セカンド[武芸者](2011/08/11 22:19)
[11] 第9話 都市警[武芸者](2011/09/30 13:50)
[12] 第10話 一蹴[武芸者](2011/09/30 13:26)
[13] 第11話 一時の平穏[武芸者](2011/11/06 21:28)
[14] 第12話 廃都[武芸者](2012/02/02 09:21)
[15] 第13話 ガハルド[武芸者](2012/05/23 20:58)
[16] 第14話 けじめ[武芸者](2012/06/12 06:49)
[17] 第十五話 目覚めぬ姫[武芸者](2012/11/01 08:21)
[18] 第十六話 病[武芸者](2013/01/19 00:22)
[19] 第十七話 狂気[武芸者](2013/02/17 08:02)
[20] 第十八話 天剣授受者と姫 (完結)[武芸者](2013/07/11 10:07)
[21] クララ一直線・サード!?[武芸者](2015/08/04 17:25)
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[29266] 第13話 ガハルド
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:d980e6b9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/23 20:58
「これは……」

「痛ましいですね……」

夜が明け、都市の調査はなおも続いていた。第十八小隊と第五小隊は共に探索し、あるものを発見する。
それは墓だった。生産区の巨大な農場に立ち並ぶいくつもの墓。とはいえ、それはとても貧相な作りのものだった。せいぜい、穴を掘って死体を埋め、それに土をかぶせただけのもの。
もっとも、滅んでいく都市だったらこれが限界だったのかもしれない。

「獣にでもやられたのか? ひでーもんだ」

いつも軽口を叩くシャーニッドですら表情を歪ませた。誰が作ったのかは知らないが、こんな貧相な墓でも墓は墓。死者の魂を慰めようと、この墓を作った人物は必死だったのだろう。
それなのに墓はあらかた掘り起こされており、辺りには喰い散らかされた肉片が転がっている。これらは、都市の住民だった者達のものだろう。

「まだ、この都市には家畜などの反応が残っています。おそらくはその中の獣の仕業だと思いますが……」

「そうですか」

フェリの説明にレイフォンは相槌を打つ。いつも素っ気無く、無表情でクールな佇まいをしているフェリだが、それでもこの光景を見て平気なわけが無かった。わかりにくいが、僅かに表情を歪めている。
それも当然だろう。むしろ、こんな光景を見て平然としていられることの方が希少だ。掘り返された墓を眺め、レイフォンは僅かに心が痛んだ。

「悲しいですね。どれだけ鍛えようと、どれだけ強くなろうと、人はこうやって死ぬんですね。死んだらただの肉の塊。この死体も、私達も対して変わらないんですね」

「クララ……」

レイフォンの隣では、クラリーベルが柄にもなくセンチメンタリズムなことを言っていた。それが意外で、レイフォンは思わず眉根を寄せる。

「ですから私は、いつ死んでもいいように、後悔しないようにその日その日を精一杯生きてるんです。その方が人生も楽しいですから」

クラリーベルは笑う。笑いながらもその場にしゃがみ、目を閉じた。墓はもはや墓の役割を果たしていなかったが、それでもクラリーベルは手を合わせて死者達に祈った。

「……………」

レイフォンも無言でクラリーベルの横にしゃがみ、手を合わせて目を閉じる。自分達がこの都市の者達にしてやれることは、こうして祈ることくらいしかなかった。
クラリーベルとレイフォンを真似るように、ゴルネオも手を合わせた。ゴルネオがやればシャンテもやる。とはいえ、彼女の場合は意味がよくわかっておらず、ゴルネオのやることをただ真似ただけのことだが。
続いてフェリ、ナルキ、第五小隊の面々、そしてシャーニッドまでもが手を合わせる。死者達の魂を少しでも慰めるために、皆は一心に祈った。

「これからどうしましょうか?」

祈りが終わり、レイフォンがこれからについて問う。都市の探索は既にほとんど終わっていた。
生産区、住宅街、工業区、中心部にシェルターなどなど、大抵の場所は調べ終わったはずだ。あとは、ツェルニがこちらに来るまで待機するくらいしかやることがない。

「待ってください! これは……生体反応!? それも人のものです」

それに待ったをかけるフェリの声。念威繰者であり、表情を変化させることが苦手なフェリの顔が驚きに満ちていた。
この都市には僅かに家畜や養殖湖の魚などの生体反応が残っていたが、昨日の調べでは人の反応はまったく残っていなかった。この都市にはもはや生き残りはいない。それがレイフォン達の出した結論だった。
だが違った。生き残りが、人がいた。もっとも、考えてみれば当然だ。こうして墓がある以上、墓を作った誰かがいるということだ。ならば、その人物と接触して、事情を聞くなり、保護するなりしなければならない。

「フェリ先輩、その人はどこに?」

「待ってください。今、呼びかけています」

フェリが念威越しに相手に呼びかけているようだ。レイフォンは言われたとおり、フェリの返答を待った。

「あ……」

フェリから漏れた声。その声と共に、フェリの表情が不機嫌そうに変化した。

「端子を確認するなり逃げられました。どうやら、機関部の方に向かったようです。まったく、面倒なことを」

無表情だが、それ故に不機嫌そうに見える。仏頂面で、イライラを募らせているようだった。

「放って置くわけには行きませんよね」

「そうですね。この都市唯一の生存者です。聞きたいことは山ほどあります」

ゴルネオの返答を聞き、ならばとレイフォン達はフェリの案内で機関部へと向かった。
それは都市の中心部付近にあった。この都市のほとんどを探索はしたが、さすがに機関部はまだだった。

「その人はこの中に入っていったんですね?」

「ええ、確かにここに入っていきました。しかし、どういった理由で逃げ出したのでしょう?」

レイフォンの問いかけに、余計な手間を増やされたフェリはめんどくさそうに言う。その言葉に考えさせられ、レイフォンは顎に手を当て、ポツリと呟いた。

「罠……でしょうか?」

「そんなに深く考えないでも、直接行ってみればいいじゃないですか。罠だったらその時はその時です」

「クララ……」

楽観的なクラリーベルの言葉に呆れたように、レイフォンは引き攣った表情を浮かべる。確かに生存者に合う必要があるのだが、ここはもっと慎重に動くべきだと思うのがレイフォンの意見だ。

「フェリさん、その人は機関部のどこにいるかわかりますか?」

「いえ、それが地下は念威が通りにくく、申し訳ありませんが一旦見失ってしまいました」

「なら、人海戦術がいいですね。いくつかに別れて探しに行きましょう」

フェリが生存者を見失ったのは、確かに地下だと念威が通りにくいと言う理由もあるだろう。だが、フェリの場合は少し違う。彼女は地下でも苦にならないほどの念威を使えるだろう。
だが、フェリは念威繰者としてのあり方を苦痛に思っており、念威をあまり積極的には使いたがらない。なので、対抗試合のように今は念威の手を抜いていたのかもしれない。なので生存者を見失った。
とはいえ、見失ったのは生存者が逃げ出したことが原因だし、このような余計な手間が増えてしまったためにクラリーベルはフェリに特に何も言わず、話を進めていった。

「フェリさんと第五小隊の念威繰者はここに残ってください。シャーニッド先輩とナルキ、それから第五小隊からも一名、えっと……クルーゼさんでしたっけ? あなたにはここでフェリさんたちの護衛をしていただきたいと思います。あとは私とレイフォン様が個人で、ゴルネオさんはシャンテさんと、あとは残りの方々というように四つに別れるのはいかがですか?」

「ちょ、クララ」

機関部の探索をするというのには賛成だ。フェリの念威は優秀だが、それだけで納得する者もいないため、結局は直接入って調べる必要がある。
何手かに別れるのも、意外にも広い機関部を探索するのには有効な手段だろう。だが、レイフォンが心配しているのはクラリーベルが一人になると言う点についてだった。

「僕はあなたの護衛なんですよ」

「ああ、そういえばそうでしたね。すっかり忘れていました」

「忘れないでください」

「ふふっ、でもレイフォン様。私がただの人に遅れをとると思いますか?」

「それは……」

クラリーベルの護衛として、あまり彼女を一人にするのはよろしくない。だが、同時にクラリーベルには護衛をする必要はないだろうとも思っている。
彼女を相手に同行できる人物など、それこそ天剣授受者のような存在だけだ。グレンダンでも上位の戦闘力を持っているだけに、レイフォンにはクラリーベルが危機に遭う姿がまったく想像できなかった。
ツェルニで、レイフォンがクラリーベルに対してしていることは彼女の暴走を止めるくらいなものだ。

「自分は、ヴォルフシュテイン卿とクラリーベル様がよいのであれば問題はありません」

「だ、そうですよ。いいですよね、レイフォン様」

「う~ん……」

クラリーベルも、今回のような任務ならばそんなに暴走はしないだろう。ゴルネオもこう言っているし、正直分かれた方が効率的に探索も出来る。

「わかりました、それで行きましょう。けどクララ、くれぐれも無茶をしないでくださいね」

「は~い」

なのでレイフォンは、少しだけ渋ったが結局は許可を出す。
けれどこれが間違いだった。まさかあのようなことになるなど、この時のレイフォンは微塵も思わなかった。
そして後悔する。クラリーベルを一人で行かせてしまったことを。


†††


「油臭いな」

「ったく、なんでこんな場所を探索しないといけないんだよ」

「そういうな。それに、腐敗臭がしないだけ上よりマシだろ」

オイルと触媒液の混ざった臭いに顔をしかめる第五小隊の面々。
三年生のランディと、同じく三年生のセロン。そしてこの中では最年長、四年生のバッセは一組となって機関部内を探索していた。

「機関部掃除をやってるやつらはご苦労なことだ。よく、こんなところで働けますね」

「それが仕事なんだろ。その分、給料もいいはずだし」

「とはいえ、いくら高い給料をもらっても、俺はこんなところを掃除するのはゴメンですけど」

この都市の電源はいくつか生きていたが、流石にこの機関部までは生きていなかったようだ。真っ暗な闇に覆われ、薄暗く狭い空間を彼らは歩いていく。
けれど、視界は念威繰者の補助により良好。雑談をしながらも辺りをしっかりと見渡し、先へと進んでいく。

「あ~あ、しかしやってらんねえ。なんでこんな場所をむさい男三人で行かなきゃいけないんですか」

「おい、誰がむさいんだ、誰が」

「あいて!」

ぶつくさと文句を言うランディの背中を、バッセが軽く蹴飛ばした。
ランディは背中をなで、たははと苦笑しながら弁解をする。

「い、いやぁ……男っ気ばかりで、女っ気がまったく無いから寂しいなぁ、なんて思いまして」

「確かにこんな暗い場所で、一緒に歩くならかわいい女のこの方がいいな」

「お、だろ、だろ。さすがセロン。話がわかるな」

「お前ら馬鹿だろ」

あまりにも馬鹿馬鹿しい会話をする後輩二人に、バッセはとても冷ややかな視線を向けていた。

「そういいますけどバッセさん、想像してみてください。こんな薄暗い空間をかわいい子と二人で歩く自分の姿を」

「そんなものを想像してなんになる?」

「いや、いいですから、とりあえずしてみてください。何か思うところはありませんか?」

「特にないな」

「かーっ、バッセさんはどうしてこう枯れてるのかな!? うちの小隊ではシャンテ先輩の次に人気があるのにもったいない」

素っ気無いバッセの反応に、頭をがーっと掻き毟るランディ。
実際、彼の言うとおりバッセは人気があった。小隊員はエリート、一般人にとっては憧れの存在であり、その上バッセは容姿もそれなりに整っている。第五小隊の主力であり、腕は確か。勉学にいたっても優秀。むしろもてない理由がなかった。
第五小隊ではシャンテがその容姿、獣や愛玩動物のようなかわいらしさで女生徒に一番人気があるが、バッセはそれに次ぐほどの人気者である。

「いいですか、バッセさん。なんの面白味のない探索ですけど、これがかわいい子と一緒だったらテンションはもう右肩上がりで上昇します」

「馬鹿の理屈だな」

「馬鹿馬鹿って、男なら当然でしょうが」

「男がいつもそんなことばかり考えていると思うなよ、この馬鹿め」

「俺はいつもこんなことばかり考えています!」

「……………」

バッセは冷ややかな視線を浴びせ、無視することを心に決めたが、それにも構わずランディは話し続けた。

「とりあえず、これが女の子と二人っきりだったら親密な関係に発展しないかな、してくれるといいな、なんて思ってるわけですよ」

「……………」

「なのにむさい男が三人。これ、なんて罰ゲーム? 可憐な美少女と一緒に歩きたいです!」

「……………」

「わかりやすく言うと彼女が欲しい。この一言に尽き……あいたっ!?」

この馬鹿話がまったく終わる兆しをみせないので、バッセはもう一度ランディの背中を蹴飛ばした。今度は結構本気で蹴ったために、ランディは痛そうに地面を転げまわっている。

「いつまでも馬鹿な話をしてんじゃねえよ、この馬鹿。今は任務中だろうが」

「相変わらずランディに容赦ないですね、バッセさん」

「この馬鹿が悪いんだよ」

「ぐぇっ……」

馬鹿馬鹿と連呼し、バッセは転げまわっているランディをわざと踏みつけてから先へと進む。
もう、入り口からかなりの距離を歩いたはずだ。第十八小隊と第五小隊の皆で広範囲を探索しているため、そろそろ見つかってもいい頃合だ。

「あいてて……ひでーっすよ、バッセさん」

ランディから抗議の声が上がる。けれどバッセはそれも無視し、息を潜めた。
何故なら、非常に嫌な予感がしたからだ。

「バッセ先輩、生存者を発見しました」

「お、ついに見つかったのか? たっく、余計な手間をかけさせやがって」

第五小隊の念威繰者から連絡が入る。その連絡に、ランディはめんどくさそうに頭を掻きあげた。
バッセは息を呑む。這いよってくる奇妙な感覚。何故か唐突に不安に駆られ、これが嫌な予感の正体なんだと確信する。

「すぐ近くにいます。もう、そちらでも視認できる距離ですよ。接触を図ってみてください」

「お、あいつか。お~い、あんた……」

そんな中、発見した、この機関部に逃げ込んだ生存者の姿を。その人物は、この暗闇の中明かりもともさずに、ただその場に突っ立っていた。
ドクンと、バッセの心臓が一際大きく脈打った。

「下がれ、ランディ!!」

「へっ?」

思わず叫ぶ。ランディはバッセの声に呆気に取られ、思わずそちらを振り向いてしまった。生存者に無防備な背中を晒し、バッセに間の抜けた表情を向ける。

「あ……」

「ランディ!!」

次の瞬間、ランディの胸元が鋭いもので貫かれた。それは爪だった。獣のような、巨大な爪。それが背中からランディの胸を貫き、ポタポタと血が地面に落ちていく。

「そんな!? 馬鹿なっ!!」

念威繰者が焦りに満ちた声で叫ぶ。脳内で様々な情報を統制するため、感情の変化が乏しくなりがちな念威繰者だったが、それを感じられないほどに今の彼は慌てていた。

「確かに人の反応でした。自分と第十八小隊の念威繰者も、この生体反応を確かに人間のものだと認識していました」

アレが人間なものか。ランディの胸元を貫いた存在とは、あの生存者。右腕を異形のものへと変貌させ、その右腕でランディを殺した。

「う、うぇ……ごほっ!!」

セロンがその場に蹲り、胃液をぶちまけた。何故ならランディを殺したものは、そのままランディを引きちぎり、肉片となった彼を食し始める。
ばりぼりと、骨の砕ける音がこの機関部に響いた。

「けど違います。アレは……あの反応は、汚染獣のものです!!」

念威繰者から伝えられた真実、それはまさに絶望。
生存者、汚染獣はランディだったものを食い散らかすと、今度はその視線をバッセ達へと向けた。

「ぐるる……」

唸りを上げる。それは正真正銘、飢えた獣が獲物を前にした時にする反応だった。
バッセ達は餌とみなされ、汚染獣に睨まれる。

「う、うわぁ……」

「待てセロン!」

セロンは背を向け、一目散に駆け出した。それにバッセも続く。
そうなれば当然、汚染獣は獲物を追う。つかまれば即死亡、死の鬼ごっこが始まった。


†††


「くそっ、汚染獣だと!?」

「隊長、急いでください! ランディが、ランディが……」

「くそっ、くそ、くそ!! 急ぐぞシャンテ!」

「うん!!」

第五小隊隊長、ゴルネオは焦っていた。事情は念威越しの会話でしか知らないが、それでもとんでもないことが起こっているのは間違いない。
ゴルネオはシャンテと共に至急現場へと向かう。だが、そんな彼らに待ったをかける声があった。

「待ってください、ゴルネオさん。相手は汚染獣です! 一人で行かないでください」

「しかし、それではランディ達が……」

「大丈夫! 一人じゃない。ゴルにはあたしがついてるから!」

「そういう問題じゃありません」

その声の主はレイフォンだった。念威端子を介し、ゴルネオ達に抑止をかける。

「いいですか? 最初は間違いなく人の反応だったんです。その正体は汚染獣だった。これからわかることは、その汚染獣は人に寄生するタイプだったと言うこと。前にデルボネさんに聞いたんですが、汚染獣の中には人の体内に侵入する極少のものまで存在するとのことです。そんな奇奇怪怪な変貌を遂げる汚染獣は……」

「レイフォン様、ここから現場には私が一番近いので先行しますね」

「ちょ、クララ!?」

レイフォンが続けようとした言葉を遮り、クラリーベルは現場へと急行した。何度か呼びかけてみるが、既にクラリーベルからの返答はない。
レイフォンは頭を掻き毟り、とりあえずゴルネオ達に指示を出した。

「いいですか、絶対に現場には近づかないでください。むしろ、即刻ここから避難してください」

「ですが……」

「これは命令です。ツェルニの小隊長としてではなく、天剣授受者としてゴルネオ・ルッケンス、あなたに命令します」

「……わかりました」

レイフォンはツェルニで一番実戦経験が豊富だ。これはゴルネオも認めており、カリアンにはもしもの事態に面したら総指揮を取る許可をもらっている。
また、グレンダン出身のゴルネオがレイフォンにこのようなことを言われたら、それに逆らえるわけがなかった。

「クララ……無理はしないでくださいね」

クラリーベルの身を案じ、レイフォンも現場へと急行した。


†††


「嫌だ……嫌だ嫌だ! 死にたくない、死にたくない!!」

セロンは逃げる。背後を振り返らず、全力で力の限り走った。
前方を気にする様子すらなく、何度か体を壁にぶつけたりもしている。

「あぐっ……」

機関部の通路、曲がり角で再び壁に体を衝突させた。セロンはもんどりうってその場に倒れこみ、苦痛に満ちた表情を作る。

「ランディ、バッセ先輩……」

それでもセロンは、床を這うようにしてその場からの撤退を試みる。もう、生き残りは自分しかいない。ランディが死に、バッセも追いつかれて殺され、三人の中で残されたのはセロン一人だけだった。

「た、助け……助けてください、隊長!」

背後から足をとが聞こえる。ガンガンと、床を踏みつけるような足音。人の姿をした汚染獣は、走ってすぐそこまで迫っていた。

「あ、あぁ……」

汚染獣がセロンの背中を踏みつける。これではもう逃げることも出来ない。
セロンは背中を圧迫され、床を見詰めながら自身の最期を予見した。

「いや、だ……いやだ……」

泣こうが、叫ぼうがもはやどうにもならない。汚染獣の右腕が振り下ろされる。セロンは目尻に涙を溜めて、ぎゅっと瞳を閉じた。
汚染獣の右腕が切り飛ばされる。そのまま追撃の蹴りが入り、汚染獣は吹き飛んだ。セロンの予見した瞬間はやってこなかった。

「……え?」

「まさに間一髪ですね」

セロンを救った者、汚染獣の右腕を切り、蹴り飛ばした人物、それはクラリーベルだった。
胡蝶炎翅剣を携え、セロンを見下ろすように佇んでいた。

「まさか老生体でしたか。予感はしていたんですけどね、あの墓の惨状を見た時からこの都市に汚染獣がいるってことは」

クラリーベルはポツリと呟く。未だに事情を理解できていないセロンは、呆けながらクラリーベルを見上げることしか出来なかった。

「なにをしているんですか? 早く逃げてください。ここは私が引き受けますから」

「え、で、でも……」

「あなたは戦えるんですか? それにいられても、正直邪魔ですからとっとと消えてください。ほら」

クラリーベルは未だに地面に這いつくばっていたセロンの尻を蹴飛ばす。セロンは慌てて起き上がると、クラリーベルの言葉どおりに一目散に逃げ出した。

「さてと」

クラリーベルは通路の先へと視線を向ける。先ほど蹴り飛ばした汚染獣も起き上がり、こちらへと迫ってきた。

「うがあっ!!」

汚染獣は残った左腕でクラリーベルに突きを放つ。クラリーベルはその突きをかわし、汚染獣の耳元で囁くように言った。

「まさか、またあなたの右腕を切り落とすことになるとは思いませんでした、ガハルド・バレーン」

人の姿をした汚染獣、その正体とはグレンダンにいるはずのガハルドだった。この男の顔を、クラリーベルが見間違えるはずがない。
だが、どうしてクラリーベルに右腕を切り飛ばされ、植物状態となったこの男がここにいる?

「まぁ、あなたがここにいる理由なんて、正直どうでもいいんですけどね」

理由はわからない。だが、今、クラリーベルの目の前にいるのは汚染獣だ。ならば武芸者としてやることはひとつだけ。駆逐するのみ。

「ちょうど、廃貴族の力を試してみたいと思っていましたし。相手が老生体だというのもむしろ望むところです。それに、さっきから廃貴族、メルニスクと言う名前らしいんですけど、彼もたいそうご立腹なようでして」

クラリーベルの体から膨大な剄が溢れ出していた。それが廃貴族の御礼、グレンダンが欲しがっている力。
今のクラリーベルの剄量は天剣授受者に匹敵している。

「あなたですね、墓を荒らして死体をあさったのは」

墓を掘り起こし、前の汚染獣の食べ残しだった死体をあさったのはおそらくこのガハルドだ。汚染獣に寄生されたためか、あの体だと非常に燃費が悪いのだろう。死体をあさり、ランディとバッセを食したがそれでも足りないようだった。
そのためか、メルニスクは非常に怒っている。都市を汚染銃に滅ぼされたために、汚染獣に対する憎しみを抱いていたが、それ以上にこの都市の民が眠る墓を荒らしたガハルドに怒りを向けていた。

「そんなわけですので、行きますよ、ガハルド・バレーン」

両者共に、戦う理由は十分だった。クラリーベルは武芸者としての勤め、またメルニスクの怒りを背負い、ガハルドを敵と認識する。
ガハルドは汚染獣としての本能、飢餓によってクラリーベルを餌と認識した。または私怨。汚染獣に寄生されてもクラリーベルに対する憎悪は収まらず、わざわざここまで追いかけてきたほどの執念。
それらを糧に、クラリーベルとガハルドの命を駆けた戦いが始まった。





「くっ!?」

轟音、爆発。爆風と鼓膜を突き破るような音にレイフォンは姿勢を崩し。引き攣った表情を浮かべた。
幸いにも爆発した場所は遠かったのか、来たのは音と爆風だけ。それと共に周囲の気温が上昇しだし、異変を感じ取るのは容易だった。

「フェリ先輩、一体何が!?」

「クラリーベルが汚染獣と交戦を始めました。その際に彼女の化錬剄の炎がパイプ内に残留していた液化セルニウムに引火し、この爆発が……」

「あの馬鹿!!」

思わず口調が荒らぐ。クラリーベルを罵倒し、さらに急いで現場へと向かう。

「くれぐれもパイプには触らないでください。内部はかなりの熱を持っています」

だからこのように気温が上昇したのだろう。だが、そんなことなど今のレイフォンにはどうでもよかった。

「それよりも、クララは無事なんですか!?」

「……………」

「フェリ先輩!?」

「わかりません。先ほどの爆発で念威端子が破損しました。今、爆発地点を中心に捜索しています」

「くそっ!」

駆ける。もはや限界以上の速度で走っているが、それよりも急ごうとレイフォンは全力で走った。

「パイプの熱が機関部と液化セルニウムのタンクに辿り着けば、さらに激しい爆発が起きます。ここはいったん退避を」

「却下です!」

フェリの抑止を跳ね除け、レイフォンはそのまま現場へと向かう。

「クララ……」

クラリーベルの無事を願って……





「やってしまいました……」

爆発に巻き込まれ、クラリーベルは気まずそうに少しだけ後悔した。
こんなところで化錬剄を使うべきではなかった。おかげで汚染物質遮断スーツは破れ、体のいたるところに軽いやけどを負った。その上、セットの時間のかけた髪の毛もめちゃくちゃ。こんな姿を正直レイフォンには見られたくないと思いながらも、クラリーベルは未だに燃え盛る爆発の中心部から視線を外さない。

「やはりあの程度では死にませんか。仮にも老生体ですからね、それも当然です」

爆発の直撃を受けたガハルドは無傷。だが、彼にはもう人としての面影はなかった。
顔こそは人、ガハルドのものだが、その体躯は異形のものへと完全に変化していた。なくなった右腕が生え、人の三倍ほどはありそうな巨体。赤黒い肉が膨張し、肌はひび割れている。
巨大な翼が背中に生え、全身を鱗のような外皮が覆っていた。あの巨体だからか、機関部の通路ではかなり動きづらそうだった。

「なんですかそれ? 確かに変身して少しは強そうになりましたが、それだとここでは動きにくくないですか?」

クラリーベルの見下したような忠告を聞かずに、ガハルドは生えたばかりの腕をクラリーベルに向ける。
爪が鋭い刃となり、通路を切り裂いた。けれど、クラリーベルはすでにその場所にはいない。

「へぇ、思ったより俊敏な動きをするじゃないですか。けど、それでもまだ遅いですよ」

続いて一閃。再びガハルドの腕が飛ぶ。

「ぐあっ!」

今度は左手を振るったが、クラリーベルはそれをひらりとかわしてガハルドの背中に回った。そして再び一閃。
今度はガハルドの翼が切り裂かれる。

「これが老生体ですか!? 天剣授受者でないと勝てない怪物ですか? あはは、まったくの期待はずれですね」

老生体とはいっても、その強さは千差万別だ。このような奇奇怪怪な変貌を遂げるのは間違いなく老生体二期以降。通常は汚染獣は脱皮を繰り返す度に強くなっていくが、老生体の二期以降は必ずそうなるとは限らない。中には特質的な変貌を遂げ、小型化したりして甲殻による防御力が低下したり、生命力が低下する汚染獣もいる。ガハルドの場合はまさにそれだった。
人に寄生する特質的な能力。人の三倍はある巨体とはいえ、通常の汚染獣よりも遥かに小さい。その分甲殻の強度も低下し、通常の錬金鋼でも致命的なダメージを与えることは可能だった。

「ぐああああああっ!!」

「おっと……再生速度だけは目を見張るものがありますね」

ただ、再生速度。それだけは目を見張るものがあった。クラリーベルが切り飛ばした右腕も翼も、もう既に再生している。
ガハルドはその右腕を使い、クラリーベルを振り払った。

「当たりませんよ!」

クラリーベルの表情が緩む。その表情は、半ば勝利を確信しているようだった。

「へ?」

そのクラリーベルの表情が驚愕に彩られる。クラリーベルの耳にはくぐもったような声が聞こえ、それが次第に大きくなっていたからだ。
ガハルドは現在、口を閉じている。食いしばるように閉じられた唇から、腹の底から出されたような唸り声が聞こえた。次の瞬間、ガハルドの口が開いた。

「咆剄殺!?」

「かぁぁぁぁっ!!」

振動がクラリーベルを襲い、全身が震えた。振動波がクラリーベルに直撃し、体が吹き飛ぶ。
あまりの轟音に一瞬だけ何も聞こえなくなり、鼓膜が破れたのかと思ったほどだ。けれどクラリーベルは衝剄でいくらか咆剄殺を無効化し、すぐさま体制を立て直してガハルドに襲い掛かった。

「まさか初代ルッケンスの奥義を、あなたごときが使えるとは思いませんでした」

胡蝶炎翅剣に剄を込める。ガハルドの並外れた再生速度。それを凌駕するため、一撃でガハルドを屠るための剄を、胡蝶炎翅剣に注ぎ込んだ。

「ですが、これで終わりです!!」

クラリーベルは胡蝶炎翅剣を振りかぶる。化錬剄による炎を纏い、きらめく斬撃。
その斬撃がガハルドを襲う前に、クラリーベルの持つ胡蝶炎翅剣の剣身が消失した。

「きゃう!?」

爆発。胡蝶炎翅剣に注がれた剄があまりにも多すぎ、許容量を凌駕してしまった。それに耐え切れず自壊。
すぐさま胡蝶炎翅剣を手放したクラリーベルだが、その爆風に成す術もなく吹き飛ばされてしまう。

「しまっ……」

錬金鋼を失った。体勢を崩し、無防備な姿をガハルドに晒してしまった。
ガハルドは今度は左腕を、刃物のように鋭い爪を向けてくる。クラリーベルにそれを防ぐ術はなかった。

「ごふっ……」

爪がクラリーベルの腹部を貫いた。背中まで貫通し、血が大量に流れる。
咳き込み、口からは血液が吐き出された。内臓がいったようだ。

「クララ!」

レイフォンの声が聞こえた。一瞬幻聴かと思ったが、その声は確かに聞こえた。
そして気づく。ガハルドの咆剄殺によってやられた聴覚が、いつの間にか回復していたことに。
だけど、そんなことクラリーベルにはどうでもよかった。

「れいふぉん……さま……」

そんなことを気にしている余裕などない。ガハルドが爪を引き抜き、クラリーベルはがくりとその場に膝を付いた。

「クララ!!」

レイフォンはすぐさまクラリーベルの元へ駆け寄り、彼女を支えた。
ガハルドは今度は右腕を伸ばし、レイフォンごとクラリーベルに止めを刺そうとする。

「……邪魔だ!」

その叫びと共に、レイフォンは天剣を振るった。ガハルドは咄嗟に顔の前で両腕を交差することで受け止めようとする。
だが、そんなものレイフォンの前では何の役にも立たない。両腕は切り落とされ、衝撃はそのままにガハルドの巨体が背後に物凄い勢いで飛んでいった。

「クララ! クララ!!」

そんなガハルドには微塵も視線を向けず、レイフォンはクラリーベルを呼びかけ続ける。
留まることを知らない血液。明らかに致死量だ。このまま流れ続ければ、クラリーベルの命はない。けれど、今のレイフォンに治療器具の持ち合わせはない。そもそも、この怪我は応急処置なんかでどうにかなるものではなかった。

「れいふぉんさま……」

それでも、クラリーベルは未だに意識を保っていた。とても弱々しい声でレイフォンの名を呼ぶ。

「あ、あはは……油断しちゃいました」

「あなたは馬鹿です! あれほど無茶をするなって言ったじゃないですか……なんでこんなことを?」

「すいません。少し試したいことがありまして……錬金鋼が壊れて失敗しちゃいました」

「錬金鋼が壊れた!?」

言われて、レイフォンは辺りを見渡した。クラリーベルの周囲には、彼女の錬金鋼である胡蝶炎翅剣の残骸がこれがっていた。だが、これは汚染獣の力によってへし折られたのではなく、強度による不具合でも、ましてや老朽化などによる破損でもない。これは明らかに爆散している。
それはつまり、錬金鋼はクラリーベルの剄量に耐えられずに爆発したと言うことだ。だが、レイフォンの知るクラリーベルにはそんな剄量などないはずだった。

「クララ、あなたは……」

「力を手に入れて、それを試してみたくなって、調子に乗って……結局、私は弱いままでしたね」

レイフォンは今まで、こんなクラリーベルの表情など見たことがなかった。とても儚く、弱々しい表情。
大量の血を失ったためか、顔色も病的なまでに青白い。

「れいふぉんさま……私、死ぬんですか?」

その問いかけに、レイフォンは何も答えられなかった。だが、このまま放っておけば間違いなくクラリーベルは死ぬ。それだけは理解できる。

「れいふぉんさま……覚えていますか? 私とれいふぉんさまが初めて会ったあの日、初陣の時のことを……」

「はい……」

「あの時もこんな風に失敗しちゃって、自分の無力さを思い知らされたんですよ……だから強くなりたかった。れいふぉんさまのように強くなって……あなたに認めて欲しかった」

「クララ……」

「れいふぉんさまに恋して、孤児院の子供達と遊んで、たまに戦ってもらったり……ツェルニに来てからも、ナッキやメイにミィちゃんと出会って、小隊にも入ったり……」

クララの表情が緩んだ。それとは対照的にレイフォンの表情が強張っていく。涙腺が緩み、目尻からは涙が溢れていた。

「そういえば、この間はデートにも連れて行ってくれましたね……あの時はとっても楽しかったんですよ、れいふぉんさま」

「なら、また行きましょう! もっともっと、楽しいことを一緒にしましょう」

「いいですね……また一緒に行きたいです」

クラリーベルは笑っていた。儚げな柄も、とてもいい笑顔を浮かべている。だけど、その瞳からは涙が流れていた。
クラリーベルは、笑いながらも泣いていた。

「いやだ……いやです。死にたくない、死にたくないですよ……れいふぉんさま」

ぎゅっとクラリーベルの手がレイフォンの服の胸元をつかむ。けれどその力はとても弱く、今にも離れてしまいそうだった。

「もっとれいふぉんさまと手合わせをしたかったです……もっとれいふぉんさまと一緒にいたかった……もっとれいふぉんさまと遊びに行きたかった……れいふぉんさまに、わたしのことを認めて欲しかった……」

一際ぎゅっと、クラリーベルがレイフォンの服を強くつかんだ。この都市の者達が眠る墓の前ではああ言ったが、今のクラリーベルには後悔と未練ばかりが渦巻いている。

「れいふぉんさま……大好きです」

だが、それが最後だった。その言葉を最後に、クラリーベルの手が離れる。目を瞑り、言葉を発することができなくなってしまった。

「クララ! クララ!?」

レイフォンはクラリーベルの体を揺するが、反応がなかった、レイフォンの呼びかけに、クラリーベルは答えてくれない。

「ぐるる……」

ガハルドが両腕を再生させ、再び襲い掛かろうとする。レイフォンは視線をクラリーベルに向けたままで、ガハルドの方を見てはいなかった。
ガハルドがレイフォンの背後に歩み寄る。

「があああああああああ!!」

ガハルドが咆哮を上げた。右腕を振り上げ、そのまま勢いよく振り下ろした。




















あとがき
次回、廃都市編完結。それと同時に違法酒編に突入します。
それにしても、自分の描くレギオスSSでハッキリ人死にが出たのはこれが初かな?
今までぼかしてたり、誤魔化したりしてましたが、今回は第五小隊のオリキャラを作って殺してみました。やってて思ったことですが、なれないことはするべきじゃないかなと思ってもみたり。とりあえず、次回は出来るだけ早く更新したいですね。
もう構想は練ってますので、あとはそれを文にするだけです。


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