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No.28794の一覧
[0] IS 幼年期の終わり  [のりを](2013/09/12 00:14)
[1] NGS549672の陽のもとに[のりを](2011/09/07 04:10)
[2] 彷徨える一夏/ vs銅[のりを](2011/12/26 09:53)
[3] 学園の異常な校風 Mr.strength love[のりを](2011/10/03 22:14)
[4] 織斑一夏はアイエスの夢を見るのか?[のりを](2012/03/27 00:49)
[5] 英国の戦士 / VSセシリア(2/10)[のりを](2011/12/26 09:55)
[6] Take Me[のりを](2011/12/14 21:03)
[7] ASIAN DREAMER / vs箒[のりを](2011/09/19 21:11)
[8] FIGHT MAN / ときめき セシリアVS箒[のりを](2011/12/26 09:57)
[9] La Femme Chinoise ラファールVS甲龍[のりを](2011/12/26 09:56)
[10] BREEZE and YOU  とあるアメリカ製ISの一日[のりを](2012/01/10 17:39)
[11] domino line[のりを](2012/06/03 19:19)
[12] Omens of love(前)[のりを](2012/03/31 16:34)
[13] 【番外編】 GALACTIC FUNK[のりを](2011/12/14 21:04)
[14] 【設定集】ファウンデーション [のりを](2011/12/27 10:33)
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[28794] 英国の戦士 / VSセシリア(2/10)
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:583e2cf9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/26 09:55
俺の名前は織斑一夏、 平凡という名の代わり映えのしない毎日を愛する、剣道がちょっと強いことを除けばごく普通の16歳の男子高校生だ。
それがある日ひょんな事から女にしか動かせない超兵器「IS」を起動させてしまい、養成機関IS学園に強制入学させられてしまう。
もちろん、学園には俺以外には女の子しかいなくて ……俺の高校生活どうなってしまうのか!?


どうなってしまうのか?では無い。
鏡のごとく磨き上げられた「富士」の刀身を見る。そこに映る己の顔を、黒い瞳を見る。

「富士」日本国国防省IS技術研究所、新帝国製鉄、帝国セラミクス 共同開発製造の標準片刃IS刀。
刃は窒化ケイ素系セラミックス、刀身はニッケル基の超靱合金。刃は約5cmのチップを並べたものであり、それを刀身で挟み込むようにして接合がなされている。
それぞれのチップは接合されておらず、反る方向のたわみに対してその隙間が広がることにより、セラミックスの刃が破壊されることを防ぐ。
ISの武装で最も芸術的な量産品と称されるそれ。

手首を回転させ、その刃を前方へ向ける。柄は茎を隙間なく包み込んでいるために、ガチャなどという金属音は立たない。
中段の構えに移行。切っ先に意識を集中。垂直に振り上げ、振り下ろす。

どうするか?戦士に必要な言葉はただ、これだけである。
どうなりたいか、そのためにどうするか。

水平に、斜めに、垂直に、円を描いて。
頭の中で描く軌跡と、現実の刃の軌跡を重ね合わせる。

これはなんだ?
コアナンバー455、外装名「打鉄」IS学園所属。ただ自分の形容する言葉を思い出す。

心と体と神経を、じっくりと打鉄のニューロ回路と馴染ませながら富士で空を斬る。


このようなISと搭乗者の同期調整は、試合に臨むIS乗りにとって必須である。
これが十分でなければ、搭乗者の『人間的』心の動揺が、ISと精神との剥離を生じさせ、ISが意図しない動作をしてしまうこともあるのだ。

一通りの動作を終えた一夏は、今度はIS表面に渡された力場を全開にして富士を振るう。
富士の切っ先の速度は音速を越え、それが一ミリのぶれも無く、動から静、静から動へと転換しながら軌跡を変え、先ほどと全く同じ軌道を辿る。

ISは己、己はIS。一夏の心は、鋼鉄に武装されてゆく。

それを見守るのは織斑千冬。
ここはピットと呼ばれる、決闘に望むIS乗りたちの控え場であった。



コートを挟んだ反対側のピットでは、山田がセシリアに自動拳銃を向けている。
そして山田がわずかに指に力を掛けた瞬間、撃鉄が降りおろされる、それは薬室内に装填された弾丸の雷管を叩き炸薬を点火させ、
炸裂音を伴って直径9mmの弾丸を時速1300kmに加速させる。
銃身内部に刻まれた螺旋条が弾丸に回転を与え、その軌道を安定させる。黒々と空いた銃口から火炎が吹き出し、それとほぼ同時に弾丸が飛び出す。

銃口とセシリアの距離はわずかに5m、弾丸がセシリアの眉間に風穴を穿つまで0.014秒も無い。

その時、山田にはセシリアの右腕が消失したように見えた。
いや物質的に消失した訳ではない、それはすぐさま消失した瞬間と同じ格好でそこに現れた。

山田は躊躇無くもう一度引き金を引き、その弾装に納められていた弾丸をすべてセシリアへと放つ。
その度に、セシリアの右腕が左腕が、交互に山田の視界から消失する。
それは、もしも山田が、眼鏡をかける原因となった事故が無く視神経を痛めていなければそれは完全には消失しなかったかもしれない。

16回の炸裂音がピットに木霊し、山田が両手で保持する自動拳銃は遊底が後退しきって停止する。


セシリアは、最初とまっく変わらずそこに佇んでいる。
最初とまったく変わらず、青い装甲を身にまとって。


セシリアは右手を胸の前に持っていき、手のひらを上にして手を開く。

そこには8つのひしゃげた弾丸。
左手をその上で開き、16の弾丸を右手に集合させる。
右手を握り、開く。
それらはそれだけで一塊となる。

ピットの隅に設置された、ドラム管の天板を切除して作られたダストボックスにその塊を投げ込む。
ガコンと重たい金属音が響いた。


それはキャッチバレットと呼ばれるISの基本的なウォーミングアップの一つだった。セシリアはこれを同期調整として習慣にしていた。
銃口を向けられても震えひとつしない自分に、セシリアはISとの精神的な同期を感じ、
指で包み込んで弾丸をキャッチできることにISとの肉体的な同期を感じるのだ。


「Ms.山田、おつきあいいただいて感謝いたしまわ」
セシリアは山田に言う。
「いえ、生徒を助けるのが教師のつとめですから」
「それにしても良い仕上がりですね。……あなたにそう言うのは、かえって失礼かもしれませんが。」
そう言って山田はいたずらっぽく笑う。
「ええ、今日は特別、気合いが入っていますもの」
セシリアも笑う。
「では、良い試合を」
「そのつもりですわ。では、ごきげんよう」
山田は遮蔽シールドをくぐるセシリアを見送る―――――――――――



一瞬のハイパーセンサーのホワイトアウト。そして回復。
標準的なクレイ-シールドドーム型のアリーナ。本来ならば半径数百kmのあらゆる事象を観測できるHSは、そのアリーナの内側のみを一夏の脳に送る。

そしてHSは、アリーナ中央のセットラインに浮かぶそれを捉える。まったく同時に、それに捉えられる。

青き甲冑を着込む、セシリア・オルコット。
その見慣れた、しかし初めて視る鋭利なシルエット。

一夏は、電子情報が擦り切れるほど読んだ資料を脳内に再生する―――――――――――

ブルー・ティアーズ。英国製の、IS開発史に名を残す超革新機。
「ISは二種類に大別できる。ブルーティアーズの前か、後か」そう評されるほどの。

その主武装は、肩の上に浮遊する装置にマウントされる独立機動兵器「ブルー・ティアーズ」4基。(その浮遊する装置はBTマザーと呼称される)
そのコンセプトは砲台を機体から分離・独立して運動させ、搭乗者の思念で制御し、対象への全方位集中砲火を可能にする、というものだ。
単純、故に強力である。
無人であるBTは殺人的な加速度を可能とし、その動きは射撃点から射撃点の、点と点としかとらえることが出来ない。
BTは、サポーターで包まれたタングステン合金の矢を、炸薬で一時加速、銃身に設置された電磁石で二次加速(サポーターが磁性体である)してマッハ4で投射するハイブリットレールガンである。

そしてBTで追い詰めた獲物を、本体の持つ強力な火砲がトドメをさす。それがブルーティアーズの基本戦術である。

一年前、英仏の親善試合で初登場し、その際には一歩も動かずフランスのISを撃破している。
4つの火線はISの行動経路を著しく狭め、フランスのISはBTに撃たれるか本体に撃たれるか、
その選択を試合開始から試合終了まで選ぶほかすることが無かった。

BTショックとも呼ばれる衝撃が世界を駆け巡り、BTに対抗し得るIS・武装の開発に世界中がシフトしたのだ。
ブルーティアーズは全てのISを過去にした。

そして、ブルーティアーズに対抗しうる装備・機能・性能を持って産まれたISは第三世代又はBT級と呼称されるようになった。
打鉄の浮遊装甲も、その対BT用後付け装備の一つである。全方位攻撃に対応できる全方位防御を目指したのだ。

本体の持つ武装は、対軌道高射砲に開発された、プラズマ砲、レーザー砲、電磁加速砲をそれぞれ小型化、流用した
スターライトP、スターライトL、スターライトRのほか、基本的なIS銃は一通り利用出来、状況により使い分ける。

近接武装として、「インターセプター」。BTマザーとの間の浮かぶ板状の武器で、BTと全く同じ運動性能を持つ剣である。
不用意に懐に飛び込むISは、2枚のインターセプターに瞬時に両断される。

他に、背後バインダー及び腰部装甲に収納される、4基の思念誘導型超高速高機動ミサイル、「バリスティック・ティアーズ」
これは種々の弾頭があり、これも状況により使い分ける。


それを操るのは、英国稀代のIS乗り、セシリア・オルコット―――――――――――


アリーナ中空に、100mほどの距離をあけて相対する打鉄とブルーティアーズ。

打鉄は、肩から垂らされた砂色のマント、外套を装着している。膝まであるそれが背中と上半身を覆っている。
両腰部装甲にそれぞれIS拳銃(拳銃といっても口径20mmのハンドキャノンと呼ぶべき代物)を仕込み、左腰には鞘に収まった富士を佩く。
右手で単発式IS電磁小銃を提げ、その砲身とその下に取り付けられた銃剣が外套から覗いている。
マント以外は、標準的な打鉄の中-近-至近距離戦闘の武装である。
そして一夏は装甲に仕込んだ『隠し玉』を確認する。

対するブルーティアーズは、BTマザーは右部のみ、BTは二基、インターセプター無し、弾道型BT無し。
初心者の刃を恐れるようでは代表候補など務まるはずもない。セシリアはその心意気を示しているのだ。

そのハンデを一夏は妥当であると同時に、好都合とも考えていた
そして一夏は、8枚落ちですらとてつもない圧力を発するセシリアとブルーティアーズに底知れぬものを感じる。

「セシリア・オルコット、ひとつ礼を言わせてもらいたい。」
一夏はそう切り出す。
「うじうじと悩んでいた俺は、お前のおかげで吹っ切れた。ありがとう」

「ずいぶん良いお顔になりましたわね、“まるで”IS乗りみたいですわよ」
そうやってセシリアは微笑む。

「顔だけ、じゃない」

「期待していますわ」
なおもセシリアの笑みはそのままである。しかし、その目からは弛緩が消失し、鋭い眼光が一夏を射抜く。


<<では、これより織斑一夏とセシリア・オルコットの、クラス代表をかけた決闘を開始します。>>
<<校則第9条にのっとり、ここに、学園が正式な決闘見届け人となり、その決闘の正当性を認めます>>
<<結果の如何にかかわらず、双方遺恨を残さないように>>

二人の脳内に直接声が響く。

プランク長さに畳みこまれていた高次元を展開して、そこに波として記述されていた情報を素粒子へ、原子へ、分子へと再構成。スターライトRがセシリアの両手に収められる。その電磁加速機とコアを直結。

小銃のボルトハンドルを引き、薬室へと20mm強装弾を導く。コアで生成した電子を、手の平のコネクタから小銃内のキャパシタに供給

BTマザーからBTが分離。銃口が一夏を指向。

表面に渡された力場と、コアを中心に張られる二層の物理定数偏向場を滾らせる。

二層の空間偏向極大面が形成され、一瞬その球体が視覚化された後視界からは虚空に溶ける。

<<双方死力を尽くして、悔いのない決闘を行ってください>>
<<では、はじめ>>

瞬間一夏は体勢をそのままに地球方向へと万有引力に偏向重力を上乗せして一気に外套をなびかせ加速落下する。
スターライトRの放つマッハ8の弾体がその打鉄の予測位置に放たれる。
それを予期した一夏は重力偏向度を上昇させつつ斜め方向に持たせ、さらに加速、回避。

打鉄が地面に触れる瞬間、打鉄の降着装置が地球を掴み、蹴る。地面が爆ぜる。
BTによる撃ちおろし。着地の瞬間を狙ったそれを回避。これは接近戦を重視した、大容量の“膝”と降着装置を持つ打鉄ならではの芸当だった。

反作用から推測される未来位置に2基目のBTの射撃。
それを察知する打鉄は地球方向に偏向重力をかける。垂直抗力が増し、摩擦の増した降着装置は、打鉄の進路を運動量を無理やりに打ち消して変更する。
一機目のBT(以下BT甲)は高度2mに移動。打鉄が地面に沿った二次元的移動をするのであれば、射線を二次元に穿つ点でなく、面を薙ぐ線にすればよい。

地面と平行に放たれる射線を避けるために地面を蹴る。
その方向に、高度を落とした二機目のBT(以下BT乙)の地面と平行な射撃。

運動を打ち消しての方向転換はもはや不可能。それには時間も面積も足りない。前方への加速か、地面を蹴っての垂直飛び。二者択一である。
一夏は、二足目を地面に叩きつける。前方向にさらなる加速。射線を抜ける。

一夏が大きく位置を変えたところで、セシリアの射線がそれを追うために必要な操作は、銃口を僅かばかりずらすのみ。
その距離という次元を持つものと、無次元量である角度との差、そしてスターライトの弾速は後出しを許容する。

放たれるマッハ8の弾体。
そんなものはわかりきっている。
打鉄は自身と銃口の間に浮遊装甲を挟み込む。

圧倒的運動量を浴びて、紙のようにひしゃげた浮遊装甲は、打鉄の周りに張られた電磁場偏向帯の上を滑り、
虚空に見えぬ球を描き打鉄の背後へと弾き飛ばされる。
一夏はあえて電磁力による力連絡を絶ち浮遊装甲を吹き飛ばされるままにする。

浮遊装甲のかわりにセシリアの目に飛び込むのは黒々と開いた銃口。
BTと同じハイブリットレールガンである小銃は、マッハ5で弾体を射出する。
BTよりも弾速が速いのは、ISの腕という高性能な駐退機の存在と、長い砲身が、より大きな一次、二次加速を可能にするためだ。

しかしセシリアは浮遊装甲による防御の段階で機動を開始している。
加速度と軌道を時間変化させるその機動は、打鉄をまどわせ弾体をかわし、それを背後のシールドにぶつけさせる。

反撃とばかりにBT甲とBT乙による十字砲火。
しかしその中心は僅かに打鉄の外、打鉄に到達する前に交錯する。打鉄はほぼ本能的にその中心から逃げるような機動をとる。
乙の放った弾体と甲の放ったそれは、空中で接触。破片が打鉄の方向に飛び散る。
その一つ一つを正確に感知するHSは、光を浴びて輝く鋭利な断面を一夏の脳に見せる。

それは“人間”の長かった一夏の反射を誘う。
しかし打鉄は脊髄に介入。より正しい反射を一夏に強制する。
外套の端をつかみ、自身を覆う。外套に阻まれ、運動エネルギーを失った破片は打鉄表面まで届かない。

そのまま地面を蹴り体を丸めて転がるように、移動し、同方向から直射を狙った二基の射線から逃れる。
丸めた体の、外套の内側で高速のボルトアクション。転がりながら、背を地面に付ける一瞬でセシリアを狙っての射撃。
その射撃にセシリアは反応出来ない。弾体がセシリアの胸部を打ち付ける。機体がぶれる。

資料の通りBTと本体の同時精密操作は不可能!
その隙を突いた一夏の企みは一発の砲弾をセシリアの柔肌と鋼鉄を包む力場――絶対防御に届かせた。



セシリアは反応できなかった、ではない。しなかったのだ。
何故か?むろんBTの操作の為である。

回転を終え、しゃがんだ打鉄にBT甲の真上からの撃ちおろし。運動を開始できない打鉄は浮遊装甲で防御。
同時に側面からのBT乙の差し込むような射撃。
背中で受ける。
外套が裂ける。衝撃が胸まで抜け、息が詰まる。
BT甲の機動、射撃。それを追う浮遊装甲。防御。
わき腹への衝撃。肋骨がきしむ。BT乙の射撃。
BT甲の機動、射撃。それを追う浮遊装甲。防御。
左肩への衝撃。BT乙の射撃。

ひしゃげた浮遊装甲を傘に、うずくまる打鉄。
そこでぴたりとBTの射撃が止まる。
弾切れである。
BTをオートの帰還モードに移行しスターライトでのとどめを刺すべくかまえる。
そうしようとした瞬間、打鉄を爆発的に膨張する漆黒の煙幕が覆う。

フラーレンに電子を一つ閉じこめたものを散布する量子煙幕。これはHSを阻害しうる数少ない武装である。

セシリアはかまわずスターライトを撃つ。
音波センサーには地面を抉る音のみ。手応えはない。

しかし量子煙幕は双方のHSを分け隔てなく阻害する。
むしろ影響が大きいのは打鉄である。

BTマザーに接続されたBTは、コンデンサーに電子をためながら、銀色の筒を8つずつ、空薬夾をバラリと側面から落とし、再装填。
スターライトを片手保持。左腕に展開したサブマシンガンで、なぐように射撃。

弾丸が装甲にブチあたる音。
サブマシンガンを収納する時間すら惜しい。放りすて、スターライトを構える。
BT2基による射撃。経路をつぶす。
スターライト、射撃。まさしく複合装甲をぶち破る音。

しかしHSはあらぬ方向から小銃を構え煙幕を抜ける打鉄を見る。
その肩に浮遊装甲はない。

はめられたのだ。先のは煙幕中の浮遊装甲だった!
BTに打鉄側面からの挟撃を指示する。
スターライトの精密射撃と回避のために、思念操作ではなくプログラム機動。
小銃の射撃。回避。
スターライトで射撃。
背後の煙幕から飛び出すひしゃげた浮遊装甲がそれを防ぐ。破断。

瞬間、セシリアは混乱し、そして悟る。しかし間に合わない。
穴のあいた浮遊装甲が、打鉄からの電磁的力を受けて煙幕から飛び出し、BT乙の側面にブチ当たる。
本命は、おとりのおとりだった。

打鉄は地面を蹴る。

BTはオート迎撃。スターライトでそれを迎撃する。
ブルーティアーズの思念回路が二系統であることを忌々しく思うのは今に始まったことではない。
しかし機体の仕様を克服するのはいつでもIS乗りの役目なのだ。

打鉄は小銃を捨て、収納された二丁拳銃を構えてセシリアに突撃する。
セシリアは偏向重力で、打鉄に正面を向いて同加速度で後退。

一丁はセシリアに、もう一丁はBT甲に。
HSは銃身・銃口の方向を正確に察知し、演算装置がそれから射線を割り出す。
BT甲はオートでも、その銃口を自前の画像装置で判断して見事に回避する。
しかしその機械的な回避は、有機的な本体との連携射撃を阻害する。
射撃、射撃、射撃、射撃、射撃。
互いの弾丸は当たらない。
その軌跡は互いの射線嫌って複雑な模様を描く。


その時、BT甲の画像装置が銃口をロストする。
虚を突かれた。その瞬間、BT甲のレンズに直径20mmの穴が空く。飛び込んだ金属の固まりは変形しながら回転軸を回転させながら、あらゆる機器を破壊しながら進行する。
裂け目から弾頭が分離、変形。電装機器をずたずたに切り裂く。

腕は反対の脇の下に通され、拳銃が外套の内側から穴をあけて弾丸を射出したのだ。

牽制を受けなくなった打鉄は一気に直線的に加速。
二つの銃口を指向されるセシリアは、逆に、大加速を行えない。小刻みな加速をしなければ、射線に捕らえられてしまうからだ。

ここにきてセシリアは、逆に、前方方向に加速!
打鉄の拳銃が火を噴く。
それをスターライトを盾として弾丸を受けさせる。
セシリアは意味をなさなくなったスターライトを躊躇いなく殴りつけ、その拳の中心は弾装を捕らえる。
タングステン合金の弾体がサポーターをつけたまま打鉄に降り注ぐ。

それを打鉄は打ち払わない。直撃してもせいぜい相対速度は300km程度。ダメージは無い。
飛びかかる破片を無視してもう一度拳銃を斉射。

しかしその弾丸はスターライトの破片に衝突しセシリアまで届かない。

それは偶然ではない。
スターライトを破壊したねらいはもう一つ。
飛び出したコイルに、セシリアの電磁偏向場で電流を流し、それを偏向磁力により操作し、射線を塞ぐ、そのためである。

打鉄の再射撃は間に合わない。
左足による蹴りが、鋭利なシルエットを持つ降着装置が両腕をすり抜け打鉄の胴を捕らえる。
拳銃を投げ捨てた右手が、その足を捕らえる。
打鉄の指が装甲を抉り、その指を浸食させる。
セシリアを狙ったゼロ距離射撃。
その瞬間セシリアの右手には展開したサブマシンガン

ゼロ距離の撃ち合い。
数発の弾丸がセシリアの胸の上に着弾する。
打鉄の右腕にサブマシンガンの一弾装分の弾丸が打ち込まれる。
ゆるむ拘束に、セシリアは左足を軸に回し蹴り。装甲がメリメリとめくれ剥がれることにかまわず右足で一夏の側頭部を打ちつける。

たまらず手を離す打鉄の胸を左足で蹴り付け、間合いをとる。

両者の距離5メートル。
互いにボロボロであり、それでも二人は笑っていた。

セシリアは高揚していた。代表候補候補だったころ、英国製量産機セイバーに乗っていた頃を思い出す。
ブルーティアーズに乗って以降、数少ない拮抗した試合である。
そしてよく調査し、よく訓練している。肝が据わっている。
うれしい。決闘の準備をきっちりしてくるなんて。
それはIS乗りとしてのセシリアの気持ちだった。

一夏は自らが進むべき道を見つけた、その喜びが胸を満たしていた。
セシリアは強い。それこそ敬意を示したくなるほどに。
ISに乗ってわかる、力への純然たるあこがれ、勝利へのあこがれ、絶対的存在感。
俺は強くなる。力を持てば、たとえ世界が俺を残して崩れさってしまってもそこに俺という存在を確証できる。
その確信が今もてた。

セシリアはふと熱くなっている自分を客観的に見つめる自分がいることに気がつく。
ハンデを付け、相手のフィールドに飛び込んで拮抗する試合を演出したとして、それが何の意味を持つのだ?
そうやって熱くなることは悪癖ではないのか?
拮抗しているとはいえハンデ戦だ。
なにかがセシリアの中でしぼんでいく。

一夏は、セシリアの発する気迫ともいうべきものが急速に萎えていくのを感じた。
それまで拮抗し、無風状態であった二人の対峙は、その圧力差により一夏からセシリアへと吹く暴風となる。
一夏は反射的に鯉口を切り、抜刀。
その暴風に乗せ、刃をふるう。

その刃の軌跡は容易に予測できる。ブルーティアーズに頼るまでもなく。
それのかわし方と、それぞれからの一連の攻防がセシリアの頭の中で幹と枝のように構築される。
それは紙一重で自らの敗北を招くかもしれない。
こんなつまらないところで、敗北してしまっていいのか?
楽しい!無益だ

現実にブルーティアーズが行ったのは、腰部アーマーから円筒を投射し、その軌跡の上にそっと乗せてやることだった。

富士の刃が、その円筒に切り込むところで、一夏の記憶は途切れる。



青空。全身が痛む。
それが一夏の最初の感想だった。
どうやら地面に仰向けに倒れているらしい。
なにがおこったのだろうか?

視界が狭い。HSが切れている。
体を覆う力場が途切れている。

その喪失感が雄弁に一夏の敗北を物語っているように感じられた

しかしどこか爽快だった。

一夏の横に降り立つ、ブルーティアーズ、セシリア・オルコット。
その顔はどことなく浮かない。一夏にはそれが何か無性に悲しかった。

「おい、勝ったのにどうしてそんな顔をするんだ」
「……あなたに勝ったところで喜ぶ価値も無いからですわ」
それは嘘だった。しかし間違いでも無かった。
一夏はそれを言葉通りには受け取らない。

「最後の、切りかかったときか?」
セシリアはぷいと顔を背ける。
一夏は思い返す。あの急激に萎えた気迫。戦意が萎えていったといっても過言では無い。
しかしそのかわりに、なにか冷たい迫力がセシリアから発せられていなかっただろうか?
それまでセシリアは戦士や騎士として自分と戦ってくれていた。
それが、その瞬間、戦士としてのセシリアが隠れ、別の何かが現れたのだ。
戦士に成りきって戦おうとしていた自分はそれを関知できなかったのだ。

一夏は急に自分が恥ずかしくなってきた。
装備だけではない。精神的なハンデをつけてもらっていてあの体たらくだったのだと気がついた。
セシリアの、ブルーティアーズ本来の戦いはあの冷たい気迫で行われると気がついたのだ。

セシリアは己に戸惑っていた。
この決闘は、元々は英国からの「男のIS適格者を調査せよ」という指示が発端だった。
そしてクラス代表決定の時、あのままなにも発言しなくてもよかった。
しかし、そんな他力本願で、戦わぬ敵を恐れる選択を、国家代表候補ができるのだろうか?と自問した瞬間自分は行動していた。
もうひとつ付け加えるなら、織斑の様子に、IS乗りとしての自分が憤りを覚えたからもあった。
あそこで、織斑の中で変質が起こらず、IS乗りのくせに厭世的な表情をしていたら、フル装備でその尊厳を奪ってやっていたところだった。

しかし、あのときの顔、決闘までの気迫。
セシリアの中の戦士としての部分を妙に刺激され、このような決闘になった。このような決闘にすることにした。

確かに自分は楽しんでいた。それがあの瞬間、戦士としての己が冷めきって、英国軍人、英国代表候補としての自分が現れた―――――――――――

その時、体に染み込んだアクションが機械的に起こされた。
放出したのは、衝撃爆弾。圧縮した空間を閉じこめたシリンダーは富士に切り裂かれ、その亀裂から空間を放出する。
富士は音速を越えて吹き飛ばされる。

ブルーティアーズの拳が一夏の顎を捉え、脳を振動せしめ、その意識を奪い去る。

搭乗者の気絶を感知した打鉄は敗北を宣言すると同時に、重力場を調整して、地面にふわりと着地。
その最低限の機能を残してほぼ全ての戦闘能力を放棄する―――――――――――




「次は…いや、いつか、俺に勝った時、素直に喜べるようにしてやる」
セシリアは一夏を振り向く。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「強くなるよ。強くなって、そして今度は全力を出させて勝たせてやる!」
真剣にきりりと決める一夏。

セシリアはたまらず吹き出す。
「それは変ですわ。」
「勝たせるなんて、しかもそんな格好つけて「負ける」っ」
キリリと顔を作って、声真似までしてそう言ったのち、セシリアは堪らなくなったのかぷっと噴き出す

一夏は頬を紅潮させる
「あ、いやあ」

セシリアは倒れる一夏に手を差し出す。
「けれど、期待していますわ。」
一夏はそれをつかみ、なんとか起きあがる。
慣性質量低減を止めた打鉄は実に重たかった。
柔らかく笑うセシリア。それにつられて笑う一夏。
「素敵な笑顔だ。いつもその笑顔にしないか?」
「あら、そうやっていつも女性を口説いていらっしゃるの?」
「いや、もう口説いたよ」

遮蔽スクリーンは解かれ、ほぼ満員の観客席からは拍手が鳴っている。

「それもそうですわね」
「それまで、私以外の人に殺されないでくださいまし」
「その笑顔、怖いよ」
「そんな顔にさせたのはあなたですわ」
ブルーティアーズは打鉄に肩を貸しながらピットへと向かう。




「にしても、初めはどうしてあそこまで腐っていましたの?」

「……テレビの記者会見で俺じゃない自分がペラペラしゃべっているのを見たら、誰だってショックじゃないか?」
「あと、日にちがどう考えても数日吹き飛んだり、体に変な痕があれば。」

「今のは聞かなかったことにしますわ」
それを公にしていらぬ政治的ダイナミクスを引き起こさせるつもりは今のセシリアには無かった

「すまん……ところでどうして俺は負けたんだ?」
「あら、では、今晩にでも、今日の決闘の復習をいたしましょうか?」
「英国代表候補様の講評がきけるなら、よろこんで」
「セシリア、と呼んでいただいて結構ですわ。私も一夏と呼ばせていただきますので」
「それは光栄至極、ありがたきしあわせ」
わざと恭しく言い、それはセシリアの笑いを誘う。

二人は寄り添い、握手を交わした。































一夏の闘いは、今始まった。


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