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No.28794の一覧
[0] IS 幼年期の終わり  [のりを](2013/09/12 00:14)
[1] NGS549672の陽のもとに[のりを](2011/09/07 04:10)
[2] 彷徨える一夏/ vs銅[のりを](2011/12/26 09:53)
[3] 学園の異常な校風 Mr.strength love[のりを](2011/10/03 22:14)
[4] 織斑一夏はアイエスの夢を見るのか?[のりを](2012/03/27 00:49)
[5] 英国の戦士 / VSセシリア(2/10)[のりを](2011/12/26 09:55)
[6] Take Me[のりを](2011/12/14 21:03)
[7] ASIAN DREAMER / vs箒[のりを](2011/09/19 21:11)
[8] FIGHT MAN / ときめき セシリアVS箒[のりを](2011/12/26 09:57)
[9] La Femme Chinoise ラファールVS甲龍[のりを](2011/12/26 09:56)
[10] BREEZE and YOU  とあるアメリカ製ISの一日[のりを](2012/01/10 17:39)
[11] domino line[のりを](2012/06/03 19:19)
[12] Omens of love(前)[のりを](2012/03/31 16:34)
[13] 【番外編】 GALACTIC FUNK[のりを](2011/12/14 21:04)
[14] 【設定集】ファウンデーション [のりを](2011/12/27 10:33)
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[28794] 彷徨える一夏/ vs銅
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:583e2cf9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/26 09:53
二千某年2月某日、織斑一夏は焦っていた。
右手に握りしめているのは、彼がこれから受ける高校入試の受験票と、それに同封されて送られてきた要綱と受験会場への案内が書かれた紙だった。
左腕にはめられた腕時計の示す時間は、刻一刻と進むものの、要綱にかかれた時刻は何度見なおしたところでまったく進まない。
そして前者が後者に追いつき、追い抜くのは、まさしく文字通り”時間の問題”だった。

何度曲がっても似たような廊下が延々と続き、階段を上がっても下がっても光景がかわらない。窓もなく、今何階かの表示も無い。だれにもすれ違わない。
ところどころにある鋼鉄製の扉はどれも一つとして開かない。
鼓動は高鳴り、背中にいやなじっとりとした汗が広がる。

一夏は思い返す。確かに用紙で受験会場とされたビルの名前と、入口に書かれていた名前は一致していたし、入口横にはきっちりと高校名と受験会場と書かれた掲示がなされてあった。
建物に入り、ロビーを抜け、会場である4階にエレベーターで行こうとしたが使用停止の張り紙。仕方なく階段から4階へと行こうとした。そこまでは良かった。
しかしその階段がなかなか見当たらない。右往左往してなんとか階段への扉は見つけた。その安堵からか何も考えず扉をくぐり、覚えてきた歴史の事件・文化・よく出る図の順番を思い出しながら階段を上っていく。
そして途中で気がついた。この階段には階の表示が無いと。

扉にもなにも書かれておらず、踊り場にあるはずの階の表示が無い。しかし焦ることはない。一階からの階数を数えれば簡単に階はわかる。
地面を確かめるために階段の中央の隙間から下をのぞきこむ。床まで優に8階分はある。上った階数よりもあきらかに多い。
それが地下までを貫いていると気がつくまで軽く動揺してしまった。
そして、これまでいくつ踊り場を過ぎたのかが頭から完全にどこかへと飛んで行った。
そして予測であけた扉。それが間違いだったのか?

窓が無い。階を確認できない。今は何階だ?何階通路を曲がった?どれぐらい進んだ?
誰にも会わない。会場を間違った?いやそれは無い。入口にはちゃんと…
それにしてはこのビルの立地はおかしくなかったか?なぜこんな市街の入り組んだ中心地に?ロビーになぜ受験生がいなかった?
いや、間違うはずがない。とにかく誰かにあって会場まで案内、最悪出口まで案内してもらいたい。
もう間違っててもいい。だれかこのビルの人間に会えないのか?俺に出口を、せめて何階かだけ教えてくれ!
一夏の思考は切迫されていた。
立ち入り禁止と張り出された扉のドアノブに手をかけ、開いたことに喜んで、なんの考えも無くそこに入るぐらいには。
そこで見た。人だ。それもスーツを着て机に座り、書類に目を通している女性だ。しかも腕には入試係員の腕章。

「あ、あの!すいません!試験会場はここですか!」
「ええ、そうです。この奥で試験が行われます」
「はい!ありがとうございます!」

もはや入室完了の時刻まで1分もなかった。机の脇をすり抜けて、女性が顔を上げるのも待たずに奥の扉へと飛びつく。
一夏はその背後で女性がボールペンを素早く三度ノックしたことなど全く気がつかなかった。



扉をくぐると、まったく予想と異なる光景だった。
そこには並べられた椅子も机もない。教室ですらなかった。
教室の半分以下の広さ。無機質な鉛色の壁と天井。這わされた配管と配線。
いくつかの高価そうな電子機器。そしてそれに囲まれる銀色の鎧甲。
今入ってきた扉の反対側には立体投影が壁のように、「アリーナ入り口 Dゲートなどと書いている」

ただの甲冑では無い。これはおそらくIS「インフィニット・ストラトス」と呼ばれる、機械服だ。
受験を控えた自分の目の前に現れたのは人類の発展と安全と破壊を保証する、世界のパワーバランスを担う467騎のうちの一つ。
ちらりと腕時計を見る。

もはや自分は受験を控えている、では無く控えていた、になったようだ。

その場に足を崩して座り込む。

「おまえも、俺も、こんなところでなにをやっているんだろうな。」

そうつぶやく。もはや一夏には何の気力も起きない。
数年前から推薦入試という枠組みがなくなった。正確には「男子には」。
男が高校に進学するためには高い内申点と、優秀な学力が必要になった。そして男の中卒などまともな働き口は無い。
一夏は得意で好きな剣道で、全国大会で優秀な成績を残して内申点を確保し、勉学にも励んだ。

そして今

道に迷って会場にもいけず、ISと2人っきり。
一夏は今受けている「はず」の高校以外受けていない。
気力は尽き果て、これまでの人生を振り返り、これからの人生の転落を想像するしか、することが無かった。

しかしISの登場は一周回って一夏を冷静にさせていた。
突拍子のなさすぎるフィクションが、リアリティーの欠如のために感情移入を阻害するかのように。

一夏はおもむろにISをさわる。もはやなにも思考は行われていない。ただ何となく触ってみたくなったのだ。
鉄とは肌触りがやや違う。冷たくなく、何か硬くて軽い素材のように感じられた。一夏には知る由もないことだが、それは表面に張られている炭素繊維の感触だった。

ゴトンという音
ぎょっとして見れば籠手が地面に転がっている。
壊した!一夏の脳内にはISは単位質量で見れば金の15倍の値段をするというどこかでみた情報がぐるぐると流れる。
籠手をあわてて持ち上げようとするが、あまりの重さになかなか持ち上がらない。
持ち上げる前に直しかたを確かめようと、反対側をちらりと見て、籠手がどのように固定されたかを見る。
スネ当ての側面に籠手はへばりついているようで、そこへ持っていくために数十センチ持ち上げなければならない。
鍛えられた一夏の筋肉でも、そこに保持することは大変そうだった。
スネ当ての側面にはなんの突起も無い。
金具で固定されているというのでは無いらしい。
とにかく一度持ち上げてそこに籠手を近づけてみることにした。

「ふん!」
気合いを入れ、持ち上げ、反対側と同じようにスネ当てに押しつける、しかしまったく軽くならない。固定されない。
たまらず籠手を地面に(なるべくそっと)おく。

このままでは中卒どころかIS犯罪者か?そんな考えが一夏の頭にめぐる。

消耗仕切った精神はこう考えた

どうせなら一度ISを着てみたい。ここまでくればもうなんでも同じだろう。ISを着る・・・男のロマンだな

間違いなく神経は擦り切れていた。
とりあえず寝そべって、落ちている籠手に手をつっこむ。
内側は柔らかくシルクのような肌触りの布で覆われていた。
腕から伝わってくる感触は金属やとがった部品で無く、むしろ非常に柔らかい。
低反発寝具や、なにか暖かいゲルにも思えた。
気持ちいい!突っ込んでよかった!
そのまま気持ちよさに負け、欲望を奥まで差し込む。
しかし拳が細く絞られた部位に引っかかり、それ以上入らない。
それでも力を込めると、その絞りが引き延ばされてさらに奥へと入れられるようだった。
ここまできてやめる訳にはいかない。
めりめりという感触にあらがい、手を無理矢理に突っ込む!
拳が入りきり、その絞りは手首を覆うようにきゅっと閉まる。
籠手は肘までを完全に覆った。拳は籠手の拳まで届かない。指は全て機械で埋まっているのだ。肘から先が、柔らかいものに包まれて、暖かくて……

「き、きもちいい」

何かがぎゅっと腕全体を締め付ける!何かが指に絡みつく!
「うっ!…」

たまらずうめく。
そして異常に気づく。

自分の指を動かす感触で、籠手の指、すなわちISの指が動いている。

「いったい、どうなって」

視界の端で甲冑が揺れる。瞬間バラバラになったそれは宙を舞って一夏に飛びかかる

「うわぁあああああ」


気がつけば、一夏はその鎧甲を身にまとって地面に伏せていた。
なんだこれは?そう思うと
コアナンバー345、外装名「打鉄」IS学園所属
そう脳内に浮かび上がる。ただ覚えていることを思い出すかのように。

ふと思う。こんなに視野がひろかっただろうか。360度全体が上下左右鮮明に見える。自分の姿勢が完全にわかる。高度がわかる。重力加速度を体感する。地平が透けて見える。
頭から指の先までびっしりと神経の通っている感覚。
袴のような足周り、腰の装甲、鞘に収められた刀。背中を支える装甲、そして両肩に浮かぶ浮遊装甲、頭に乗せられた情報集積システム、それらの状態がてにとるようにわかる。
そして自分の表面を覆う力場。慣性制御率。
電磁波を感じる。紫外線赤外線が見える。建物を貫通した宇宙放射線を感じる。
手のひらにあたった地面からの振動。ドアの外にさきほどの女性がいる。
反対側。さっきまでただの立体投影かと気にしていなかったが、これは遮蔽スクリーンだ。競技場にまんべんなく張られた、対ハイパーセンサー用情報壁。”競技用IS”はこれを透視することはできないと条約で決まっている。
このスクリーンの向こう側はCクラス戦闘ISアリーナと読みとれる。
女性のいる部屋に、廊下からの扉が開かれて誰かが入っていた。おそらく少女。会話も振動で読みとれる。
扉がふと透明になって向こう側がぼやけてだが見える。
三次元情報に再構成されたのだ。やはり少女が入ってきたらしい。
(受験番号0102、トダ エリナです)
(え?あなた?)
(……えっと…?)
(じゃあさっきのは?)

一夏は反射的に部屋に入ってこられると困る!となんとか扉を閉じなければと考える。瞬間、打鉄は低出力光子を扉に照射。扉の4辺は加熱冷却され、溶接される。
そのことに驚く前に一夏は扉の向こうから140.85回線波長の電磁波の放出を確認。音声変換。
<<4番ピットの打鉄に強奪警報!>>

なにが起こるか一夏にはわかった。スクリーンへと躊躇い無く飛び出す。抵抗は無かったがスクリーンを通過するとき一瞬ハイパーセンサーがホワイトアウト。

飛びだした直後、背後のスクリーンは3メートルの特殊複合隔壁で物理的に閉鎖される。

着地を制御し競技場に降り立つ。そして20m前方にISを人の乗っているISを確認した。
全体の意匠としては打鉄に近しいものの、銀色では無く、黒。アクセントとして各所が紅く塗られ、浮遊装甲は無い。
打鉄はそれを、汎用機「鋼」系列発展機「銅(あかがね)」であると判断を下した。
またそのニュートリノ波形から、コア番号204、IS学園所属であると知った。

IS「銅」は、IS刀「緑(ろく)」を抜き放ち、その切っ先を打鉄へと、一夏へと向ける。その表面に施された特殊合金皮膜が赤鈍く輝く。

打鉄は、銅の胆力と緊張の充実、そしてこちらへの突き刺さるようなハイパーセンサーの指向とその圧力を感知した。
それを打鉄はどうとも判断しない。それはISの仕事ではない。ただ、ありのままを搭乗者の頭脳に、思考抽象言語で瞬時に伝達する。

そしてそれを一夏はこう解釈した。殺気であると。そして一夏の本能は痛みと死からの回避を強く望んだ。そして理性はその本能を当然のことと抑制しなかった。むしろ脳内にあった不安材料を拾いあつめ、その本能を肯定する方向に向かった。

打鉄は一夏の脳内に走った電流を正確に感知・解析し、搭乗者の意志を確認した。
ISは判断はしない。ただ搭乗者の意志を最大限に尊重する。そして、そのための提言は行う。
打鉄は一夏に、左腰に備え付けられた「武器」のことを教える。標準IS刀「富士」のことを。
度重なり襲いかかってきた事態に精神を消耗していた一夏は、ほとんど反射的に左腰に備え付けられた鞘から伸びる柄を握りしめる。しかしその手は、武士の抜刀のためのそれでなく、溺れるものが藁にすがりつくそれだった。そして、刀は、藁は、抜かれた。

不幸であったのは打鉄が試験モード、すなわちスタンドアローンであったことだ。



強奪警報が発せられたとき、銅は試験会場である競技場の中央で、受験者を待っていた。
その現場だという第四ピット方向へ通じる遮蔽スクリーンへ機体正面を向けた瞬間、そこから打鉄がはじき出されたかのように現れた。
そして打鉄は山の低い放物線を描いて、銅の20mほど前方に着地した。

銅は左腰に装着された大小のうちの本差に相当する、刃渡り2m60cmのIS刀「緑」を抜き放ち、次いで「ISから降りろ」と警告するつもりだった。
しかし、銅のハイパーセンサーの捉えたものがそれを、緑を突きつける段階で止めてしまう。
打鉄を起動しているのが「男の顔」をしていたのだ。

搭乗者から確認を依頼された銅はその顔を戸籍データに照合し、彼が実在すること、男であること、名前が織斑一夏であること、そして搭乗者の同僚の弟であることを返した。
それがますます搭乗者の動揺を広げる。もし打鉄で現れたのが女性であればなんらかの交渉や、正体への冷静な考察ができたかもしれない。
その突然の事態は、銅に、思考回路の混線と緊張を強い、かつ、あらゆる事態への対処のための気力の充実を強いた。

そしてそれは打鉄の抜刀を招く。

「緑」と異なり、鋼のように青がかった「富士」の光沢は、銅の思考からあらゆる雑念を払わせた。

武器を向けあったISに、戦い以外の結論は無い。

IS強奪をもくろむものは必見必殺が世界の大原則である。事情は彼を気絶させてから聞けばいい。
もし死んだとしても打鉄を回収すればその思考はトレースできる。そうすれば目的も正体もはっきりするだろう。
それだけ考えて、銅は考えることをやめた。


銅は機体表面に渡された力場で、足に地面を叩かせる。
その反作用は爆発的加速をもたらし、偏向重力場がそれを加速させる。
銅にとって、20mは一刀一足に満たない間合いだった。

時速二百キロを優に越える速度で接近してくる銅を、一夏は引き延ばされた時間の中で認識していた。
打鉄の演算装置と接続された一夏の脳が、普段の数倍の速度で思考を行っているためだ。
そこで一夏も思考を放棄した。そして彼を体に刻み込まれた鍛錬が守ろうとする。彼はそれに身をゆだねた。

銅の右手一本での、左上からの袈裟切りを、柄を左上にして受ける。「緑」の切れ刃は「富士」の刃上を刃先方向に滑る。
両腕で柄を支え、斜めに受けたというのに、両腕にはとてつもない負荷がかかる。

その斬撃をなんとか凌ぎきった一夏の目の前には、無防備な側面を晒す銅があった。
刀を回し切っ先を立てて一夏がそこへ切りかかろうとしたとき、打鉄の警告が右わき腹への触感となって一夏に伝えられる。
本能的に切りかかりをやめ、柄を腰に引きつけ、刃を垂直に立てて右側面を守る。

その瞬間、ドンという音とともに銅がコマのように回転し、水平に寝かされた「緑」がその円周方向の速度をもって「富士」にブチ当たる。

打鉄のハイパーセンサーが捉えたのは、そのとき一夏の意識外において、銅の左足が地面を蹴ろうとする予兆だった。
そこから推測される事象を警告として一夏に伝えたのだった。
もしこれがなければ「富士」が銅に届く前に上半身と下半身とが分離していた。

しかし、なんとか守ったものの受け流すことができず、その威力に数メートル吹き飛ばされる。

空中で打鉄は一夏の脳に干渉し、重力偏向場の刷り込みを行うと、重力偏向場での後ろ方向への加速を提案する。
一夏は了承。さらに力場を用いて体勢を立て直しながら、後退を開始する。

銅はその兆候と意図を一瞬で見抜くと、地面をけり、さらに偏向重力で加速。
慣れない一夏にあっという間に追いつき、再び切りかかる。

斬り結ぶだけならば一夏にもある程度はできた。
しかし空を飛びながら、などということは初めてだった。
相対速度を味方に付け、重たい斬撃を繰り出す銅の一撃目。一夏はそれをなんとか正面から受け増速に利用。相対速度をゼロにする。
これはさきほど吹き飛ばされた経験から、応用したものだった。
しかし二撃、一撃目でわずかに狂った体勢につけこまれたそれは、打鉄に全体で受けることを許さず富士と腕のみにその衝撃を受けさせる。
右手が柄を保持できず、大きく外側へと富士と左腕が弾かれる。
間隙の無い三撃目。右手方向からのそれに打鉄の富士は間に合わない。一夏は、自らの胴を容易に両断しうる緑の刃にたまらず肝をつぶす。

しかしそこで自身と緑の間に割り込む何かを認識した。
それは打鉄の右肩に浮かんでいた浮遊装甲だった。
厚さ100mmを誇る複合装甲を縦に易々と斬り裂きながら進む緑はしかし、切っ先の速度を低下させる。
それを認識した瞬間、一夏は右篭手を跳ね上げ浮遊装甲を叩く。
それは緑を巻き込んで上方向へ弾かれる。
この機を逃す一夏では無い。銅を狙って富士が払われる。

その状況に置いて、自身と富士に遮るものが無いというのにもかかわらず、銅はむしろ打鉄との距離を詰める!
銅の左拳はその運動量を利用して打鉄の右肩の付け根をしたたか打ちつける。
たまらず体勢を崩すものの、一夏は富士を振り切る。
しかし胴との胆力の連絡の無い、腕だけでふるわれた刃は銅の篭手に滑らされ、刃は銅の頭上を斬る。

浮遊装甲を払い捨てた緑が打鉄にせまり、それを防がんと富士が割って入る。
鍔迫り合い。
互いの刃が交わり、刀身が、腕が、ぎりぎりと音を立てる。こちらは両腕で押しているというのに、片腕の銅に岩のような手応えを一夏は感じる。
それまでの斬り合いから学習し、見事に富士を制御し、弾かれず緑の刃を捉えたそれは、一夏の剣術の才とISの才能を端的に示していた。

しかし一夏に才があったとして、それは銅に才が無いということを示さない。

一夏は鍔迫り合いを押し切ろうと胆力をさらに込めた時、胃のそこが持ち上がるような浮遊感、足下がおぼつかなくなる恐怖を感じる。
打鉄の警告。重力場のオーバーライド。
絡み取られた!剣士としての本能で理解する。

一夏の背が地面と平行になる。体勢を立て直せない。
二騎の絡み合っていた力場はもはや銅のものだった。
力場に守られてそれまで何も感じなかった相対的に運動する地面に、今一夏は本能的な恐怖を感じる。

さらなる浮遊間。合計3Gの重力加速度が地球方向へと指向され、打鉄と地面との距離が一瞬で詰まる。

その瞬間、墜落の瞬間、胴は鍔迫り合いの接触点を回転軸として緑の切っ先を天井へ、すなわち柄頭を地面へと向かせ、全質量をかけて、緑を地球方向へ滑らせる。

地面に背中を打ちつけられ、鳩尾に柄頭が突き刺さる。
競技場の特殊装甲がたわみ、すさまじい音が鳴り響き、銅はその反作用によってわずかに宙に浮く。

押し退けられた内蔵にぶされる横隔膜に、意図しない声が漏れる。
打鉄は早急に神経回路に干渉し、その気絶する強度の痛覚と、嘔吐をさせようという肉体の反射を遮断する。

銅の足は動きを止めた打鉄のわき腹を蹴り、鞠玉のごとくはねとばす。
放物線を描き地面にぶつかり一度跳ね飛んだ打鉄は空中で体勢を建て直し、両足で着地、いや、すぐさま膝から崩れ落ちる。

両者の間合いは20m。奇しくも最初と全く同じであった。

違うことは、打鉄が満身創痍であり肩で息をしていること。そして、銅は両腕で柄を握りしめ、緑の切っ先が天を向く上段の構えを取っていることだ。

ここにきて一夏の骨髄に氷を突き刺されたような衝撃が走る。これはただの上段に非ず!
初撃と全く同じ踏み込み。しかし両腕から繰り出される斬撃は、受けようとすればいかなる角度であろうと富士をたやすく両断し、一夏の面を割る。
回避しようとすれば再び絡み取られ容易に撃破される。
それは一夏の剣士としての本能が見せる幻視であり、打鉄のすぐれた演算装置がはじき出した結果でもあった。

なぜそれまで両腕による斬撃を繰り出さなかったのか?
それは銅は常時から片腕で緑を振るう戦闘スタイルであり、大小を”今は”一組しか持ち合わせていなかったことも要因である。
しかしそれ以上に一夏の、IS戦闘特有の騙し合い、電子情報戦、力学制御、それらの無い素直な「剣」が彼女の剣士としての心を呼び起こしたためだ。
一夏との切り結びは、戦闘でなんとか覆い隠していた内心の動揺を打ち消していく。
鍔迫り合いを経て、もはやIS乗りであるという責任・感覚はなく、ただの剣士。ただの刃。ただの「銅」であるという認識が残った。この時、彼女と「胴」の境界線は限りなくないに等しい。
彼女の一刀流は、この領域でなければ有用な戦法足り得ない。
またこの領域であれば、必殺に十二分に足り得る。

そして銅の踏み込み。頭上で水平に構えられた富士。
緑は一夏の正中線との間にある富士の鎬を斬り裂く。
しかし鎬の峰には、打鉄の左篭手の拳が当てられている。さらに左篭手には残った浮遊装甲が装着される。
指を斬り裂き、手を斬り裂き、手首を縦に割り、腕に刃を進入させ、肘まで切りさけば、薄い篭手といえど縦ならば緑はそこまでしか切り込めない。
力場で咲こうとする腕を縛り止め、緑を絡めとり、刃渡りが四分の一以下となった富士を手斧のように乱雑に首筋から入れこみ、その心臓を割る。

それは確かな勝利の幻視。

そして現実。踏み込み。
水平に構えられた富士。接触する富士と緑。あてがわれる篭手。
軽い衝撃。緑は富士を斬り裂かない。
腹の中を何かが右から左へと横切る。熱い。
ハイパーセンサーは水平に振り抜かれた右腕、そしてその延長でまっすぐに延びる、刀を見た。

一夏の失敗はその技の起こりを容易に晒したことである。
右手をあてがう時間は、銅にも与えられている。
その時間で銅の右手は技の起こりを察知させることなく左腰に残った脇差し IS刀「青(しょう)」を抜刀し、一夏の裏をついてその刃を一夏の腹へと

一夏は富士を放り出し、こぼれないよう必死に腹を抱える。
腹からの激痛。全身が重たい。立っていられない。
間もなく一夏の意識は、そこで途切れた

















闘いは、つづく


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