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No.28794の一覧
[0] IS 幼年期の終わり  [のりを](2013/09/12 00:14)
[1] NGS549672の陽のもとに[のりを](2011/09/07 04:10)
[2] 彷徨える一夏/ vs銅[のりを](2011/12/26 09:53)
[3] 学園の異常な校風 Mr.strength love[のりを](2011/10/03 22:14)
[4] 織斑一夏はアイエスの夢を見るのか?[のりを](2012/03/27 00:49)
[5] 英国の戦士 / VSセシリア(2/10)[のりを](2011/12/26 09:55)
[6] Take Me[のりを](2011/12/14 21:03)
[7] ASIAN DREAMER / vs箒[のりを](2011/09/19 21:11)
[8] FIGHT MAN / ときめき セシリアVS箒[のりを](2011/12/26 09:57)
[9] La Femme Chinoise ラファールVS甲龍[のりを](2011/12/26 09:56)
[10] BREEZE and YOU  とあるアメリカ製ISの一日[のりを](2012/01/10 17:39)
[11] domino line[のりを](2012/06/03 19:19)
[12] Omens of love(前)[のりを](2012/03/31 16:34)
[13] 【番外編】 GALACTIC FUNK[のりを](2011/12/14 21:04)
[14] 【設定集】ファウンデーション [のりを](2011/12/27 10:33)
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[28794] BREEZE and YOU  とあるアメリカ製ISの一日
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:e7d0f7e6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/10 17:39
一夏が寮をでると、ひんやりとした空気が顔を撫で、肺を満たした。春とはいえ、明けがたの気温はまだ低い。
一夏は、薄くて非常に動きやすい上に、適温を保ち続ける学園の運動服にいつものように感心しながら、早朝ランニングを開始した。
6時に起床してから、じっくりとストレッチをして覚醒させた体は、いつも通り実に調子がよいようだった。
寮、アリーナ、体育棟を周回する道にでて、同じようにランニングをする生徒たちと合流する。

「おはよう織斑くん」
「おはよう」

「やぁ、おはよう」
「おはよう」

そして、その中に交じるクラスメイトと、軽い挨拶を交わしながら走る。
時間が経過するにつれて、ランニングをする生徒の数はどんどん増えていく。
このように早朝にランニングする生徒は全体の約六割、放課後にランニングするする生徒は六割、両方走るという生徒が三割だ。ちなみに、全生徒のうちの一割は昼も夜もなく地下ハンガー層にこもる整備科3年だ。

一夏は一時間ほど走った後、シャワーを浴びて、今度は制服に袖を通し授業の準備を整える。
寮に併設された売店のような物品配給所(学園内ではあらゆる物品は無料であるからそう表現するしかない)で受け取った軽食を教室で食べながら、一限目の授業の予習を行う。

それは学園に入ってからほとんど変わらない一夏の朝の習慣だった。
ただ、一つの大きい変化として、ランニング中でも教室でも、他の生徒たちと軽くでも言葉を交わすようになったところだろうか。
そして、もう一つ……

「箒、おはよう」
「っ……ぁあ、おはよう、一夏」
「昨日はありがとうな。いろいろと吹っ切れたよ」
「い、一夏!?こんなところでっ、あ、ぁ、いや、その、そうい言ってくれると……ぅぅ」

一夏のほうから話しかけられる人ができたことだ。
その彼女は、顔を真っ赤にしてあたりを見回して、俯いてもじもじとしている。と、ばっと顔をあげて

「ってなにを言っているのだ私はっ!弟弟子に稽古をつけてやるのは当たり前ではないかっ!」
「い、一夏、これからもしっかりシゴいてやるからなっ、覚悟しておれよ!」

「ああ、楽しみにしているよ兄弟子殿。箒の稽古なら大歓迎だ」
そういって一夏は、はにかんで言う。

箒の頭から水蒸気がボンと飛び出して、目が点になるのが一夏には幻視できた。
(いったいなんだっていうんだ)などと一夏は決して思わない。箒の自分への想いは、そして、あの頃から性格も、ちっとも変わっていないようだ。
それに対してどこかほっとする気持ち、そして兄弟子の気持ちを一方的に利用していることへのわずかな罪悪感が、ふらふらと席につこうとする彼女の背中をみながらその胸に宿った。

一夏のちょっとした誤算として、箒の“稽古”に対するモノの見方というやつを計り損なっていることがあるが、そう大した問題ではない。一個人の貞操に関わる程度の話なのだから。

「あらあら、一夏さん、そうやって箒をからかってあげるのは可哀想ですわ」
後ろからそう一夏に声をかけるのは
「セシリア……からかう?何の話だ?俺はただ稽古の話をしただけだ」
「おほほほ」

セシリア・オルコット、昨日、打鉄とBTとを結ぶ回線越しに、箒の魂の叫び、欲望の雄叫びを一方的に聞かされた女だった。
BTに音声の遮断を指示したものの、いつか、彼女へのよい切り札になるだろうと、そのすべてをこっそりメモリーに貯めさせたことは秘密中の秘密だ。

「あ、そうそう、甲龍対策ミーティング、今日の放課後に寮の談話室で行いたいのですけれど、どうかしら」
「それが本題か。俺はかまわないが……よっぽど甲龍が憎いようだな」

「いえいえ、憎いだなんてそんなそんな、私は、クラス代表たるあなたが負けてしまったら、それはクラスメイト全員を貶めることになると感じているだけですわ」
「この私が、私怨なんて持ち込むわけがないでしょう?そう、だたあなたに完勝していただきたい一心ですの、そして、きっと同じ気持ちの級友たちを代表して、一夏さんを陰ながらサポートいたしたいだけですの……」

セシリアは指を組んで、頬を上気させ、潤んだ瞳で上目遣いにそう言う。
一夏はため息をつく他する事ができなかった。どこからつっこめばいいのか、どこまでつっこんでいいのか、考えるのも億劫になったからだ。

「言われなくてもわかっている。やるべき事も、なすべきことも……俺はIS乗りだ。過去も未来もこの手で切り開く」
「あら、いい顔ですわ」
零度の眼光が一夏を射抜く。
「で、一夏、やれますの?」
一夏だけに聞こえるように囁かれたその言葉に、一夏は堅く頷く。

セシリアは、ぱっと表情を明るくして
「応援していますわっ!頑張ってくださいまし、一夏さん」
「さて、そろそろShort Home Roomの時間ですわ、ではまた後ほど」
うきうきという空気を纏って、席へと向かうセシリアを目で追って、一夏も自分の端末に着席する。
ふと箒の席のほうをみると、なにやら俯いて、ぶつぶつと口を動かしている。みなかったことにしよう。一夏は、先生たちが教室に入ってくるのを静かに待つことにした。

先生たち、そう。姉を織斑先生と呼ぶことに慣れてきたな。一夏はなんとなくそんなことを考えた。


――――――――――――――――――――SHR――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一夏が考えるに、現在教卓に立つ山田真耶という女性は、なかなかにあざとい。
わざとサイズのあわない服をきて、眼鏡をかけて、童顔です、無垢な少女ですという風を装っているが、身長はIS学園一年生並、すなわち165cm近い。
大きな乳房をことさら強調するような服装。見ようによっては、スーツからキャミソールがはみ出ているように見えなくもない。
女しかいない学園で誰にそんなにアピールしてるのか。一夏にはまったくの謎だった。
クラスメイトの「山田先生は絶対ネコだよ」「だよね」という会話に、いやいや子犬っぽいだろうと思う一夏にとっては、だが。

「……かいつまんで説明しましたが、先日のインドの研究グループの発見で、IS言語が記述する刑而上論理における因果の時間的跳躍特異点が発見され、自己言及性が保証され、自己の矛盾・無矛盾証明のパラドックスが一部解決する糸口が発見されました。しかしながらこれは特別領域においての話しで、一般化には……」

IS乗りたるもの世界の時流に乗り遅れるべからず、その標語を実現しようと行われている、SHR恒例の時事問題解説。
そこで目を輝かせて、延々と教室に喋りかけているのが、一夏の脳内会議で槍玉にあげられている、山田真耶その人である。
学者上がりで、織斑先生と対を成すようだ、という話は聞いていたが、それを今ほど実感したことは初めてだ。

ちらりと周りに目をやれば、数人を除いて彼女の話を聞いている者はいなかった。
それでも彼女の語りにはますます熱が籠もっていく。
先日の、シドニー国際IS競技大会についての批評ならば一切退屈することなく聞けた。
しかし、今日は「皆さんご存じのω無矛盾が……」あたりでギブアップだった。自分以外はうんうんと頷いていたことはそれなりにショックだったが、ついていけないものはついていけない。

「おほん!」
「さすが0を発見した国、流石としかいいようがありません。そう0といえば時空間的虚無について先月」
「山田先生!もう時間です」
「ぅぇえ?あ、あっ!し、失礼しましたっ」
「いや、そう取り乱さないでいただきたい。諸君、今日の通達事項は無しだ。これまで通り勉学と鍛錬に励んでくれ。」
「以上でSHRを終わる。では山田先生、あとは頼みます」
「はぃ…すみません……」

さきほどとは一転、山田はずいぶんとしおらしくなって、教室を後にする織斑千冬を見ながら、次の授業の準備を開始する。
理系科目全般と、教養的文系科目は山田の担当であり、IS乗りとしての戦闘理論、心構え、心理要素に関わる実戦的文系科目は織斑千冬の担当だった。

一夏は端末を操作し、今日の一限目の科目の古典物理学のためのファイルとアプリケーションを起動する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「葉竹、一緒に食べないか?」
午前の授業が終わり、食堂へ向かった一夏は、昼食を求める列に並ぶ葉竹虎子、九十九榴に、久丸富美の、いつものグループを見かけて声をかけた。

「ちょうどよかった。私もちょっと話しがあったんだよ」
「ええ、どうぞ一緒にたべましょう……」
笑顔で一夏を歓迎する葉竹と久丸。しかし、久丸がやや語尾を濁しながら視線をやる先には、仏頂面の九十九。
久丸は「まま、九十九さん」と目で諫めるが、九十九はその顔をほとんど変えず「なに?私は別にいいわよ」とだけ応えた。

久丸は、ごめんなさいと言いたげに一夏に目線を送る。そして葉竹は相変わらずその三人を楽しむように眺める。
久丸にかまわないよと目線を送りながら、内心で居心地の悪さを感じて一夏はそのグループに加わり、共に列に並んだ。

トレーに乗せたトンカツ定食を受け取って、一夏は食堂を見回し、それを見つけだした。

「あそこ空いてるから、あそこにしよう」

そう皆に声をかけ、一夏はそこを目指して歩いていく。ハッキリとした足取りに、三人はついていくことにした。
飢えた生徒で溢れる食堂の中で、その机のその周りだけ、人がいなかった。

「箒、そうピリピリすんなよ。隣、いいか?」
一夏は答えを待たずに箒の座る席の隣に座る。
「い、一夏っ!?」
大いに動揺して、魚の切り身を落とす箒にかまわず
「さ、皆座って座って」と一夏は三人に着席を促す。
それに、「では」と三人は、箒と一夏の向かい側に座った。

一夏が食堂で探していたものは箒だった。一夏は、彼女がクラスで友人と一緒に談笑している姿を見たことがないのを気にしていた。
一夏は、自分の目的の他に、これを期に箒に女子のつながりができれば、と三人に声をかけたのだった。

ますますに動揺する箒を一旦は無視して。
「葉竹、いきなりで悪いんだが、朝、俺とセシリアの話を聞いていたか?あの対策会議に参加して欲しいんだ」
と、葉竹に話しかける。

「さっき話があるって言ったでしょ?あれ、まさしくその話なの。私も参加させて欲しいって言おうと思ったんだけど、手間が省けたみたいね」

「そうか、ありがとう。その、葉竹、というか日本政府は鈴、いや鳳鈴音のことについて何か知っていることはあるのか」
一夏は歯切れ悪く葉竹にそう問いかける。

「イギリス政府よりはいくらか情報は持っているよ。ま、その話は追々、その対策会議でね」

そのやや挑発的な笑みに、一夏はすっかりお見通しらしいと感心する他できなかった。
「ああ、頼むよ葉竹。」
「正直私“たち”も、一夏君に鈴音さんの話をいろいろ聞きたいの。ここはひとつ情報交換といきましょう」

箒にしてみれば、たまったものではなかった。
先ほどまでの、一夏を食事に誘えなかった悶々とした気持ちも忘れ、眼前で女子との会話を見せつけてくる一夏に、ちょっとした怒りすら覚え始める。
完全なる逆恨み、見当はずれの嫉妬だが、そのような気持ちをだれが制御できようか。

「そういえば、篠ノ乃さんとはお話したことありませんでしたわね」
突如横からそう話しかけられる。
一夏と、それと楽しそうに会話をする女に気をとられ、すっかり失念していた正面に座るクラスメイトの方に、箒はそこで初めて意識を向けた。

彼女は穏やかな笑顔を浮かべて、箒の方をただ見ていた。
箒はその顔に覚えはある。しかし名前が出てこない。
「……そうだな。お前と話した記憶など無い」
今一夏となれなれしく話している奴をつれて、早くどこかへ行ってくれ、と心の中で呟きながらぶっきらぼうにそう答える。

「ああ、失礼しました。私の名前は久丸富美といいます。であちらが葉竹虎子さん、こちらは九十九榴さんです。どうぞよろしくおねがいします」
「どうも……」
ぺこりと音が聞こえてきそうな会釈に、箒も頭をさげて
「こちらこそよろしく……ってちが」
「織斑さんと親しいようですが、お二人は旧知の仲なのですか?」
箒にかぶせるように久丸はさらに言葉を繰り出す。その言葉は箒にとって無視はできない。

「し、親しいように見えるか?わ、私たちがっ?」
「ええ。篠ノ乃さんに話かける織斑さんはとてもリラックスなさっていますわ。それで、きっと篠ノ乃さんと長い付き合いなのかと思いまして……間違っていたらごめんなさい」
「いや、そう、その通りだ。私と一夏は小学校の頃同じ道場で修行してな、私は一夏の兄弟子なんだ」
箒はふふんと誇らしく胸を張る。
「まぁ、素敵ですわ。道場、ということは、やはり篠ノ乃さんは篠ノ乃流の方なのですか?」
「そうだ。私は、その直系の継承者ということになる」
「やっぱり、そうだと思っていましたの!クラスに篠ノ乃の流れを汲む武芸者が三人も集うなんて、運命を感じますわね」

箒ははじめて言葉を交わす人間とここまで会話が続いていることが初めてであるということに気づいていない。
中学の時は、その纏うオーラや、肉体からにじみ出る気迫、そして性格が他者を寄せ付けず、グループから孤立しがちであった。
孤独にはなれている。IS学園でも交友など期待していなかった。しかし、IS学園にはそれらを真正面から受けてなお、箒と付き合えるという人間が何人もいる。目の前の久丸富美は、そんな人間の一人だった。

箒にとって自覚はなかったが、そのことは、箒の棘をいくらか取り去るのに効果はあった。
それまで、箒の怒気に萎縮していた九十九が会話に入ってこられるようになるほどには

「篠ノ乃流って、国防軍の格闘術の基になったやつでしょう?」
「ええ、そうです、けれどそれは所詮参考にしただけですわ。それぞれほとんど別物になっています、まぁ、織斑先生の優勝で、もう一度源流に立ち返って、IS戦闘に取り入れようという動きはずっと活発ですけれど…」
「国内では国防軍『鉄』の神園流と、競技IS界隈、織斑の篠ノ乃流で二大派閥があるらしいね」

「よく知っているな」
「ええ、これでも武芸者の端くれですので」
「ほとんど趣味みたいなもので」
「おお、そうなのか。えっと……」
箒はやや言い淀み
「久丸さん、は、なにを?」
「薙刀術、居合、弓術、合気道、などをやっております」
「そうか。九十九さん、は趣味っていうのは?」
「ISよ、子供の頃、地元の基地で零の戦闘展示をみてそれ以来っていう、まぁ、ありきたりな」
「もう九十九さんはISにお熱なんです。好きこそ物の上手なれとはよく言いますが、もうあれは恋ですよ」
「ちゃ、茶化さないで」
「まぁ、ISとの出会いや恋への落ち方はありきたりですが、それでIS学園まで来てしまうあたりはとびきり一途ですわね」
「もうっ!」

「はははっ」


談笑する箒を横目に見て、やや強引にでも同席して正解だったと、一夏は思った。
「九十九さんたちもそれに呼んでいいかな?きっとみんなで考えたほうが良い案が出ると思うの」
「ああ、構わないが……」
「ありがとう!じゃあ、クラスの友達にも声をかけてみるね。クラスマッチに向けて団結するって、わくわくするわよね!あ、そうだ。お菓子とかも用意しないとっ!」
「お、おい……」
それでいいのか国防軍の軍人さんと言いたくなったが、葉竹のきらきらとした笑顔になにも言えなくなる。

それから5人は、たわいもない話をしながら、昼食をガツガツと食べていった。今日は体育もIS実習も無いので、白米2合とタンパク質が豊富な伴食程度だ。

突如、一夏は残ったトンカツをすべて口に含み、白米をかき込み、十分に咀嚼もせずにお茶で流し込む。
「すまんが、先に戻る。また教室で。放課後のことよろしく」
それだけ言って、そそくさと食器を返却口へ戻し、わざわざ、一年教室棟から遠いほうの出口からでていく。

四人は呆然とそれを見送ったが、その理由はまもなく判別した。
鈴を先頭にした十数人の一団がぞろぞろと入ってくると、長机に座っていた生徒たちを追い払って占拠しはじめた。
それは、四人にとってもあまり気持ちの良い光景とは言えなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


それは砂漠と青空が成すコントラストの境界線を音もなく飛行していた。
無音で飛行するものといえば、この世界においてISをおいて他にない。四肢をもち、翼を持たぬそれは、紛れもなくISだった。
その外見でもっとも特徴的であるのは背中に背負った巨大な、ISの全長を優に超える筒だろうか。遠目に見ても、そのユニークなシルエットはすぐさまに判別ができる。
近寄ってみれば、そのISは全身の隈なくを装甲で覆う、全装甲型でることが知れた。
下半身を覆うギアは円柱に近い形状でのっぺりと伸び、申し訳程度の降着装置のついた小さなつま先からは、地上での機動戦闘を一切考慮していないものであると伝わってくる。
ふくらはぎの両側面からは、まるで高バイパス比のエンジンのような、樽状の円環が飛び出し翼のような支柱で保持されている。
円環の内側を通る空気に、空気を圧縮させながら量子展開し、膨張による反作用で推進力を得る、もっとも単純・安価で頑丈なIS推進装置である。
それと同じものが肩にも装着され、計4発で推進力を生み出していた。

肩からのびるアームも、他にはない特徴を持っている。右腕と左腕とでその腕の太さが異なっているのだ。
左腕は一般のISよりも太いほどで、外側には小さな盾、絶対防御整流装置が備えられているのに対し、右腕は細く絞られ、非対称を成していた。
直線と曲線とを節操なく取り入れたその非対称のフォルムは、ともすれば歪であるが、中心軸をわずかにずらして装着された筒を重心として奇跡的な調和をとっている。
そのようなISが、直立の姿勢でうつ伏せに亜音速で飛行していた。
場面はその進行方向30km前方の、装輪車を主体にした車列に移る。
4対8輪のそれらの車両は、イラン・イラク・エジプト・リビアで威力を示した、ストライカー装甲車の車体を流用したものと一目でわかる。
しかし、肝心の砲塔・攻撃モジュールはその当時とは全く違うものだった。

車体後部から生えるのは、人間の上半身を模した物だ。
SFから飛び出してきたように、胴体と二本の腕と頭を持つそれは、疑似ニューロ回路を搭載するために必然的にそのような形状をとらざるを得なかったものだ。

その視界と射角の大きさ、50口径から40mmの機関砲、105mm砲、曲射砲、誘導弾まで、その対人対空を問わない照準装置と、腕という駐退機
腕力と指先の器用さの両立は、戦闘用だけでなく、重機として回収車としての汎用性、現地での装備変更の容易さを生んでいる。
ヘラルド(先駆者・露払い)と名付けられ、MBTと歩兵を補佐するのにこれ以上無い性能を持つそれは、近未来の騎兵であり、紛争地域における覇者だ。
それらが6両二列、計12両でずらりと並んでいる。

まっすぐに“まえならえ”のような格好だったそれらが、突如上半身を回転させ、一斉に同じ方角に向き、その銃口を微動させ、装甲を兼ねる誘導弾発射口を開く。

疑似ニューロ回路を搭載することによるメリットは上記のものだけにとどまらない。
その最大のものは、展開する味方との同調で、空間の歪みを検知できるところにある。
すなわち、ISを見ることができるのだ。
ISは照射された電磁波を完全に吸収することができる。可視光線も電磁波の一種である。そしてISは空間認識も通信も電磁波を利用せずに行うことができる。
すなわちISはわずかな工夫で完全なステルスを実現するのだ。
いままで影響を与えることはもちろん、触れることも、見ることすら出来なかったISを見られるようになった。これは大いなる進歩だった。

開いた発射口の真裏から火を吹いて、薄い白煙をひく誘導弾を次々に発射していく。
車列のうちの4両から四発ずつ。そのうちの一つを追いかける。
飛行するISの進路を見事に予測し、寸分の狂い無く、相対速度マッハ8以上でISにその内包する運動エネルギーと化学エネルギーを解放していく。

青空は、黒い爆煙が一直線に並んで次々に咲いていき、その数は16を数えた。
そしてISは悠然とその16個目の黒煙から飛び出す。

場面は、手首を取り払って装着した長砲身40mm砲を発射するヘラルドへと移る。
2発ごとに真っ赤な弾装が破棄され、腹の中程から生えた腹腕が、車体から取り出したそれを腕に詰める。

そうして発射される、深紅に輝く砲弾をISが避ける。
慣性を無視した平行移動に、初速が遅く、満足連射速度をとれないその砲弾は、掠りもしない。

しかしISが通常兵器の攻撃を避けるとはいったいどういうことだろうか?
そのISは、発射され続ける誘導弾には指向されようが直撃をうけようが、まったく意識をやらないが、深紅の砲弾にだけは避けるそぶりを見せる。
すなわち、その砲弾には、絶対防御が塗布されているのだ。
無論ヘラルドにその能力は無い。あるのはあらかじめ別のISにより絶対防御を塗布された砲弾を発射する能力だけである。
真っ赤な弾装も特注品で、その内部の絶対防御を安定化させる能力を付与されてISに製造されたものだ。二発が限界ではあるが。

通常兵器がISを見るだけでなく、ISに意識される攻撃をおこなうことができた。それだけでも、大いなる価値がある。

ヘラルドに装備される武装が、ISが射程圏内に入ったものから次々に火を吹いていく。黄色い曳光弾のそれらは、それまで通りただ無視される運命にあったが。

ついにISはそのシルエットを目視できる距離にまで接近する。それは、ISにとってニュートリノがザルを抜けるのにくらべれば、ほんの僅かに困難という程度のことだったが。

ISは状態を起こし四機の推進装置はそれに併せて回転し、進行方向に向き続けるようにする。
残弾のなくなった40mm砲が沈黙し、副腕がM2機関砲を必死に撃ち上げる。
背後に背負う筒を90度回転させ、骨盤まわりにベルトのように備えられたガイドレールに沿って、先端を車列に向ける。
ヘラルドの背後から見れば、2連装20mmバルカン砲の描く二本の光のラインが、ISの寸前で本来通るべきISに達する道筋を大きく逸れる。
筒の側面が開き、重厚な持ち手を成して、それを左腕が保持する。上部の装甲が開き、細い右腕がそこに差し込まれ、装甲が閉じることで肘までを覆う。
そして筒の先端が開き、回転する7つの穴を晒す。

自身よりも長い火炎と、ISを覆う白煙を吹き出す筒を右に揺らし、再び左に戻す。その間二秒。

それだけで、ヘラルドは一両残らず頭頂から車両の先頭まで、ピンク色の塗料で塗り染められる。
膨大な塗料を浴びるその運動量は、ヘラルドの左右への動揺として現れていた。
加熱された砲身に塗料がかかり白煙があがる。


また場面が移り変わり、先ほどと同じように筒を構えるISの姿を見せる。今度は四発の推進装置を真下に向け、ホバリングの姿勢をとっている。
筒の先には、砂漠色に塗りあげられた30両のMBT。

筒がまたしても火炎と煙を吐く。

10m近い砂柱が風に流された後に残ったのは、外形をほんの僅かだけにのこした十ほどの消し炭と、クレーター、とそこで時間が停止する。

それを背景に、凛々しい表情で織斑千冬が語り始める。
「この、アメリカのE型ISはISの進化という観点では、世界でもっとも特徴的なISの一つだ。」

背景に世界地図が上書きされる
「知っての通り、IS一次分配においてアメリカは僅か5機しか分配されなかった。」
それは北米大陸へとズームアップし、アラスカと本土を輝かし、5つの人型のシルエットを浮かび上がらせる。
「膨大な国境線に対し、実働できるのは四機しかなかった。外装をはがし、コアを初期化しての大幅なアップデートなど、しようが無かったわけだ」
「分配戦争でアメリカが40機のISを得るまでの間、この四機は小刻みなマイナーチェンジを挟みながら、一度も休止せずに太平洋・大西洋・南米の監視と訓練を繰り返してきた。それは現在まで続いている。すなわち、E型ISは第零世代機体群にカテゴライズされることになるな」
背景の北米大陸の中で、四つのシルエットがせわしなく動き、一つのシルエットはアラスカに鎮座する。

「そして、ISはそれにどんどんと最適していくように進化した」
「それを象徴するのが、E型ISに搭載される、広範囲纖滅兵器『エクスティンカー(extincer)』だ」
「そのベースは、30mmの7砲身ガトリング砲だった。」

E型ISにどことなく似通った部分を持つ航空機のCGがバラバラになり、機首に埋め込まれていたガトリング砲が取り出される。
「これの動力をISが補い、毎分6000発の連射速度とその速度での連続量子展開を行い、無限給弾機構を実現している」
虚空からガトリング砲へとベルトが延びていく様子がCGに加わる

「同時に、絶対防御を塗布、そして最大の特徴は、空間を弾頭に詰め込んでいる点だ」
CGの中で砲身が回転し、砲弾が次々に打ち出されていく。
そしてそのうちの一発にカメラがより、弾頭が斜めに切り取られて、その被帽の内側が空であることを見せ、圧縮空間内包、とキャプションがつけられる

「知っての通り、ISはほぼすべての機体において、空間圧縮と、その解放による空間波放射を行える。」
「ただ、圧縮された空間は非常に不安定で、搭乗者の意志のままの時間・位置・速度・速度分布で膨張させることは不可能だ。」
「コアとの距離が離れるにつれ制御はより困難になり、時には、余剰次元への膨張・すなわち不発も起こすようになる」
「相討ち狙いか、損傷を覚悟しても距離をとりたい場合をのぞいては、明らかに技量が格下の相手にしか有効とはならないだろう」
「なぁ、織斑」
じっとりとした視線に、一夏は身を縮こませる。

「まぁ、バカはおいておくとしてだ。毎分6000発という速度で、そのような量子展開・空間操作を行えるISは、このE型ISをおいてほかにない。」
再びCGはガトリング砲へと戻り、砲身と機関部が冷却材で覆われ、装甲と安定具が取り付けられ、ISの背中に背負われる筒の姿へとなり、CGでE型ISの背中に装着される。

「しかだ、一方で、E型ISは、機動のための空間操作が苦手とされている。30mm砲弾以外の高速量子展開も不可能だといわれている」
CGは、脚部の樽のような推進装置へとクローズアップする。

「進化と退化、ISの成長という点で、E型ISは実に興味深い存在だ。もはや自身をエクスティンカーの付属品とすべく変化しつつある。うわさでは競技ISの規格に適合できないほどらしい。」
千冬の背後で、E型ISの時系列での形状変化が示される

「しかし、アメリカはこの四機のE型ISを手放す気はないようだな。」
「できるものなら、アメリカ本土に乗り込んで、首根っこをひっつかんでこの学園の地下にたたき込み、整備科の奴らに徹底的にバラしてもらいたいところだが」
教室をつつむ乾いた笑い

背景に、E型ISとはまったく似つかぬ、灰色のシャープなシルエットを持つ全身装甲IS。
装甲は淡い灰色、間接と手は漆黒。爪先から頭頂部、肩胛骨の位置から伸びる薄いバインダーユニットの先端まで、攻撃的な合理性に武装されている。

「アメリカ製の二世代IS,D型IS ver5.03『ドラグーン』だ」
「ドラグーンは現在最良の戦闘ISといわれている。機動方式は空間撥弦デルタ超函数反作用推進と、プラズマジェットパルス推進のハイブリット」
「戦闘に不要な機能はすべてオミットされ、戦闘にすべて最適化されている。スペック上ではE型ISを圧倒しているな」

背景は、360度すべてが水平線の、海原の中心へと移る。
同高度をとる二機のE型IS。巨大な筒「エクスティンカー」を構える。その遙か向こうには、二機のドラグーン。

ドラグーンの背後の空間が圧縮、解放され、ドラグーンをたたき、秒速3kmほどで40mほど平行移動。
その虚空を、二条の光の鞭が横切る。

それらはドラグーンの軌道を妨げるように、まるで生きた竜のように蜷局をまいて、牽制し、襲いかかる。

「エクスティンカーの30mm空間砲弾のIS殺傷半径は約15mといわれている」
「その空間衝撃波の輪郭にふれれば、ISは間違いなく吹き飛ばされる、すなわち、予測進路が一択となり、その進路にの毎分6000発の濃密な砲弾の雨が降ることになる」
「ドラグーンはそれを避けるため、大袈裟な回避を行わざるを得なくなり、E型ISに接近できない。しかしE型ISの最高後退速度は時速600km程度、逃げきることは不可能だな」

一機のE型ISの砲身が焼け付いたのか、火線が一つになる。
その隙をついてドラグーンは急速接近。

そのエクスティンカーは、白煙をあげる冷却材とともに7本の銃身を破棄、瞬間、あらたに砲身が量子展開され、装甲の内部を新鮮な冷却材が満たす。
その交換は時間にして10秒もかからないが、ドラグーンにとって距離を詰めるには十分な時間だった。

再び火線が二本となり、牽制を開始する。E型とドラグーンの距離は、半分ほどにまで詰まっている……とそこで映像は停止する

「アメリカが公開した映像はここまでだ。見てもらってわかると思うが、あの火線に飛び込もうという気にはならないだろう」
「E型ISは、E型IS二機にドラグーン一機、もしくはE型IS一機にドラグーン二機というエレメントを組んで運用されている。」
「さて、誰か私がアメリカへ殴り込みにいくときについてきたいという者はいるか?」

「IS乗りにとって、相手方にそう思わせることが、僅かでも躊躇させることが大事だ。確かに今は無理かもしれない」
「しかしだ、不器用でもだ、なにか一つに打ち込み、他者を圧倒する技能、気迫を会得したならば、某国に某有りと謳われるようになれば、それが愛するものを守ることに繋がる」

「さて、そろそろ時間だ。次回は“IS抑止力の観点で見る通常兵器戦力分布の推移”だ。よく予習しておくように」
「学級映像アーカイブに、今日見せた映像と、それに関連する動画と情報をアップロードしておく。セキュリティーが公開のものから、学園向け部外秘情報まであるので、取り扱いには気をつけること。以上だ」

織斑千冬はそれだけ言って、足早に教室を後にした。その顔に気づかれぬ内に

織斑一夏は、たまたま必要とする情報が授業に含まれ、たまたまそれが閲覧出来るようになったことに手放しで喜んだ。
そして、クラスメイト全体に言ったであろう姉の言葉を胸で反芻し、覚悟をあらたにした。

まずはご飯だ、そして対策ミーティング。そして特訓。
ミシミシと音を立てるのはきっと昨日の訓練の疲れが残っているからだ。難しい理論を朝から必死に叩き込んでいるからだ。
体と頭が疲れているだけだ、きっと心は平気さ。姉だって見ている。そう、だからもっと打ち込まないと。

一夏は、胸の中でひとりそう呟いた。


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