「……そうか、壊滅したか」
G級ハンター達にも隣国の情報は伝わっていた。
彼らがこうして留まっていたのは、実は情報収集の為だ。その過程では幾つもの想定外の話も得る事が出来た。
「まず、リオレウスの危険度についての追加情報だ」
強力無比な咆哮。
話を分析する限り、その威力はティガレックスに匹敵するものと最低でも判断しなければならない。
「つまり、咆哮だけでも前方にいて、ガードし損ねたら吹き飛ばされるって訳じゃな」
渋い表情でラジーが呟いた。
彼はガンナーではあるが、ハンター達の後衛というのは軍隊とはまるで異なる。
元々G級ハンターはごく少数で動く為に、僅かな連携の乱れから前衛が突破される事も多いし、そもそも竜が突進してくれば、抜かれるのが普通だ。ガードの基本は受け流しが基本であって、受け止めではない。
すなわち、ラジーもまたガンナーではあれど、至近で咆哮を浴びる危険があるという事であり、もし、そうして動けない所で攻撃を喰らえば、ガンナーの防具は剣士のそれより薄い為に一撃で重傷を負いかねない。そう考えると、彼の鍛え上げられた筋肉の鎧はそれへの僅かでもの対抗策なのかもしれない。
「……それと、討伐に対して慎重な意見も広がっている」
これは隣国の惨状がもたらした部分が大きい。
もし、今回G級ハンターを送り込んで、同じ事が起きたら。権力者だけにその辺は敏感だ。
「それに加えて、ようやっと向けられた周辺の村からの情報が混乱を生んでいる」
どうも、あのリオレウスは集団で入り込まねばそこまで危険ではないのではないか、そんな意見が出ているからだ。
ただ、森の恵みを、川の恵みを分けてもらう、というのは周辺の自然と共に生きる人々からは当然の理屈だが、縄張りの外から見ると、縄張りは非常に豊かな土地だ。人に荒らされていないのだから当然だが。
この為に、子供らが森に入り込んだり、猟師が狩りに決死の覚悟で初期は入ったりしていたらしいのだが。
「襲われた人がいない」
それどころか、かつてこんな事があった。
知らず知らずの内に獲物を求めて入り込んだ猟師が、足を滑らせて谷を転げ落ち、身動きが取れず呻いていた。その眼前に飛竜が降り立ち、「俺もここまでか」と思い、目を閉じたが、次に意識を取り戻したら村に向うキャラバンに乗っていた。
何と、飛竜が彼らの前に軽く口で咥えて、運んできた彼を置いて、そのまま飛び去ったのだという。
それ以来、彼は縄張りに入る際は、獲物を得た際は必ず出る前に決まった所に獲物の半分を置いていくそうだが、代わりに一度も襲われた事はないそうだ。
かと思うと、子供達が釣りをしていて、ついつい縄張りに入り込み、そこで凄く釣れる場所があったので夢中になって釣っていると、気付くとランポスの群に包囲されていた。
追い詰められて真っ青になっていた所へ、飛竜がやって来た。
ランポス達はというと、リオレウスの姿を見るなり、蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったが、リオレウスはそのまま水を飲むと、どっしりとその場に居座った。
殆どの子供は怯えて釣りをしなかったが、ガキ大将の子供は意地になって釣りをしたが、何も襲われる事はなく、夕方に帰る段になって、彼らの後をリオレウスが悠々とついて来たそうだ。
びくびくしながら家路についたが、村が見えると、リオレウスは一声軽く吼えて空に舞い立ち、帰っていった、という。
こんな話が探せば探す程ごろごろ転がっており、現在では何と近隣の村の住人は普通に縄張りに入って、川や森の恵みを分けてもらうのだという。
大勢で入ろうとすると、彼らの上空に飛来して、嗜めるように吼えるという事から、今では数人の集団で時折入るようにしているだとか、かつて飢饉の折にやむをえず村の人間が大勢押し寄せた時、舞い降りた飛竜に村長が事情を説明して、このままでは生きていけないので何とかお願いします、と村人全員で頭を下げた所、飛竜リオレウスはじっと聞いていたが、やがて軽く一声吼えると軽く頷いて飛び去った。
そうして、飢饉の間は以後は黙って見過ごした、という……。
また、今回情報が正常に伝わったように、単なる移動のキャラバンならば特に襲われる事もないのは彼らの間では有名な話で、普通に通過しているのだとか。そういえば、情報伝達がいやにきちんと来ると思ったものだった。
大幅に迂回するならとんでもない時間がかかるだろうが、通らせてもらうだけなら構わない、というのならば確かに隣の国の状況も普通に手に入るだろう。
昨今では【竜王様】と一部では崇められており、今回ギルド連中や軍隊がボコボコにされた件も「天罰だ」と囁いてたという。
「……無茶苦茶頭良くないか?というか、完全に人の言う事理解してるだろ?」
俺は呻き声を上げざるをえなかった。
冗談じゃない、人に負けないぐらい頭がいい飛竜なんて相手したくないぞ。
「そもそも、それだと周囲の人は協力してくれないのが明白」
エナもぼやく。
猟師だって、山師だって、こんな環境ではハンターに会った所で正確な情報なぞ提供してはくれないのは間違いない。
彼らのような地元に詳しい人材の協力がないと、初めて赴いた地で使えそうな素材や洞窟の在り処などは全く分からない、どころかこちらに不利になるような場所を教えられかねない。
ガラムが苦い顔で今回の討伐の問題点を上げだした。
「つまり、今回のリオレウスは本体は通常のリオレウスより強力。攻撃力が通常種のそれより桁違いで、おそらくは防御も比例するだろう……。国は混乱状態で真っ当な支援は期待出来ず、周辺の村々に至っては最悪敵に回る可能性すらある……最低でもまともな情報が手に入る可能性は皆無」
口にされる言葉が増える度に、全員の顔が暗くなっていく。いや、無茶苦茶だろう。
「……違約金払って、帰れんかのう」
どこか遠い目をしつつ呟いたラジーの言葉に反論する者はいなかった。
全員そういう事なんだろう……。つか、俺もすぐにでも帰りたい。
【あとがき】
周辺の人達は共存してます
王様とかもっと豊かになりたい人はいますが、同時に今の素朴な生活で満足してる人達もいるし、生活の為に入り込むぐらいだと放置してます
ただし、投網とかで大量に小魚も関係なしに獲って持ち帰ろうとするとか、子供も無差別に殺す猟師とかは容赦してくれません
無論、最近というかここ十年以上誰もしなくなってますが、周囲の人達は