【SIDE:竜王】
うーん、言い方って難しいもんだよな。
いじめって見てて気持ちのいいものじゃないから、叱ろうとしたんだが、これが難しい!
「おい、そんないじめっ子みたいな事やめろよ」
なんて軽い口調で言うのも何だし……。
ちょっと格好つけた感じで言ってはみたけど……うわ、黒歴史じゃね?
何て言うか、見た目がこうもごっついと面倒なんだよなあ。
普段は、会話が通じないから吼えてればそれなりに誤魔化せるんだが。
魔法があると念話が使えるのは便利なんだが……話し方が面倒だよな、本当に。
さて、少し詳しい話を聞いてみますかね……。
【SIDE:ルイズ】
不満だった。
巨竜は顔をコルベール先生の方に近づけて、何やら会話をしている。
最初は全員の頭に響いた念話は、今は範囲を絞り、コルベール先生にしか聞こえていない。とはいえ、そのコルベール先生の話している内容からすれば、使い魔召喚の儀式と、その重要性について語って説得しているようではある。
ちらり、と竜がこちらに視線を向けたが、すぐにコルベール先生に視線を戻した。
それでも私がじっとしているのは、さっきの畏怖があればこそだ。あれはただ、声を発しただけなのに、お母様より威圧感があった。お陰で、さっきまではやしてた連中は未だ硬直したままだ。
……ツェルプストーが平然としているのは腹が立つけれど。
無論、実際にはキュルケもヴァリエールの前で腰を抜かせない!と完全に意地で立っていただけで、顔色も相当に蒼いものになっていたのだが、彼女の浅黒い肌の色のお陰で目立たなかっただけなのだが、それを見抜くにはルイズもまだまだ子供だった。
いや、それ以上に今は自身の使い魔(候補)の事が気になっていたというか……。
「ミス・ヴァリエール!ちょっと来て下さい」
考えている内に会話が終わっていたらしい。
コルベール先生に呼ばれて行ってみると、どこか困惑した表情で使い魔との契約のキスをしてみてください、というではないか!
やった!これまでコッパゲとか思ってたのは取り消します!
そう思い、ルイズは呪文を唱え、キスをする。
これで、ルーンが刻まれ使い魔の儀式は完成……刻まれて……。
『成る程、これが使い魔のルーンとやらか』
「って何で、取り外して見てるのよ!?」
ルイズは思わず叫んでいた。
目の前の巨竜ときたら、刻まれるはずのルーンを取り外して、空中に浮かせてしげしげと見ているのだ。
正直、ここまで規格外の存在とは思っていなかったコルベールも頭を抱えていた。
使い魔の儀式に失敗する、というのは彼も想定内だった。
こんな相手だ、レジストされる可能性もあったし、こう言っては何だが、あれだけミスを繰り返したミス・ヴァリエールの事だ。一発で成功するかどうかは分からない。
……まさか、一発で成功した挙句、そのルーンの制御を完全に奪ってしまうとはコルベールの想像外だった。
【SIDE:竜王】
ふーむ、俺を使い魔に、ねえ?
何て言えばいいんだろう?まあ、最悪分身置いて帰ればいいか、と思ったし、落第も可哀想だ。
とにかく、ちゃんと契約の儀式が成功した、って事を見せればいいんだろう?って事を確認して、キスを受け入れた。
……いや、好き好んで痛い思いしたい訳じゃなし。
刻まれようとして、力がうろうろしてるのも分かったんで、このままじゃ失敗するな、ってのも分かった。
まあ、そうだろうな。
こう言ってはなんだが、力が弱すぎる。
いや、この女の子の中にある力の総量そのものは十分大きいんだが、ぶっちゃけ「海にコップ一杯の赤い染料を投入して、海を真っ赤に染めよう」としてるようなもんだ。多分。
なんで、仕方ないからルーンの力って奴を固めてこいつらに見える形で示して見えるようにしてやった。
『とりあえず、魔法の行使には成功した。これで、進級は成立したのだろう?』
重々しい感じの口調を考えつつ、念話を発する。
何だか悩んでいたようだが、改めて念押しすると、一応学園長に確認する必要はあるが、多分大丈夫だと思う、と言うので、それなら文句を言う奴がいたら出してくれ。こちらから説得してやろう、と言ったら顔が引きつっていたような気がする。
ま、これで付き合いは終わりだが、少しぐらいはこの世界を回ってみるか。
何やら、自然に歪みがあるように感じられるしな……。
そう思っている内、終わったので全員学校に帰る事になったようだ。
そう告げられると、他の生徒達は何も言わずにささっと空を飛んで逃げるようにこの場を飛び去っていった。
……おい、先生の癖に、生徒一人置き去りか?
そう、悔しそうな表情の女の子、俺が戻した男の子を召喚するはずだったピンク色の髪の女の子だ。
放っておくのも何なので、声をかけた。
『戻らんのか?』
そう告げると、かんしゃくを爆発させたように自分は飛べないのだと悔しそうに言う。
成る程、何やら色々と自分に思う所があるらしい。
……歩いて帰るのも大変だろうし、しょうがないから背に乗せて飛んでやったんだが、しばらくすると年相応の笑顔を浮かべていた。
うーむ、どうするべ。
余談だが、ちょっと速度出して追いついて、生徒達の頭上を覆うようにゆっくり飛んでたら、悲鳴は上がるわ、パニック起こしたように懸命に飛行速度を上げようとする者は出るわでえらい賑やかだった。何故だ。