【SIDE:転生者】
朝、洞窟で目を覚ます。
長い時間をかけて形成したねぐらだが、人間のそれのようなベッドは、ない。
最初の頃は草や木を敷き詰めたベッドを作ってみたのだが……何しろ鱗が頑丈だ。防御能力が高い、という事はその分鱗が分厚かったりする訳で、柔らかいベッドなんてものを感じるのは不可能だった。
ぶっちゃけると、硬い岩の地面に寝ても大差なかった。
それなら、安全に過ごせる場所で、土よりも岩肌。そんな場所があれば十分だ。
ぐぐっと体を伸ばし、翼を広げる。
骨なんかは転がってない。
最初の頃は持ち帰ってたんだが……腐るんだよ、どうしても。
肉も内臓も食ってしまうんだが、これが骨ごとバリバリ食えるような小型種ならともかく、アプトノスとかだと骨を残してしまう。
そうして、それに肉がこびりついて残ってたりすると……。
洞窟の奥で、外より暖かいのもこの辺は災いしている。
だから、最近は食事はもう少し下の方に専門の場所を作っている。
のそのそと進み、外を見る。
おお、いい天気だ……。
それじゃ出かけるとしますかね。
翼を広げ、飛び立った。
こうして飛び立ってみると、あのベルキュロスは矢張りベルキュロスらしく峡谷みたいな地形を好んでいたのが分かる。山岳地帯は確かにその下に峡谷を思わせる光景が広がっていたからだ。
あの草原はあくまで狩場だったのだろう。
確かにこの辺は獲物が限られるし、森は空から襲撃かけるには余り向いていないからな……。
少し飛べば海へも行ける。
もっとも、俺自身は海に行く事は余りない。
海洋生物なんて襲撃かけるのは難しいし、間違ってこの体で海に落ちたら後が物凄く面倒だ。貝とかなんて小さすぎて食った気がしないし……。
では何故行く事があるのか?それは草食動物が塩分の摂取に群で数日に一度は向うからだ。
まあ、海なら間違いなく塩があるからな……。
後はあれだ。縄張りの見回りだよ。
ラギアクルス、ダイミョウザザミなんてのが来る事がある。
精々、何年かに一度、ぐらいだけどね。
さて、今日も狩りすっかあ……って?
草原の入り口付近に見慣れぬものを見つけた。
……おいおい、あれはどう見ても……ハンターだよなあ?
何やら武器やら何やら揃えてるし、開拓とかそういう村作り、って感じじゃない。
何狩りに来てるんだろ……ってまさか俺か!?
うーん、今は高空を飛んでるし、雲も薄雲じゃあるが、それなりに今日はあるし……まだ見つかってはなさそうだけど……どうすっかなあ。
正直迷う。
俺だっても元は人間だ。好き好んで人間を襲撃、なんて考えない。
いや、人間を食うって事に嫌悪感もあるし、人ってものの厄介さも分かる。
数増やしたり、罠仕掛けたり、本気で狩る気なら何度でもやってきそう……ここがモンスターハンターの世界だっていうなら、凄腕のハンターなんて居たらこっちが狩られかねないし……。
祖龍なんてのはまだ出会った事がないが、ゲームではそういうのや、巌竜ラヴィエンテみたいな超巨大なのも狩るのがハンターだ。
いかに俺が魔改造リオレウスだとしても、狩られないって保証はない。
……でも、なあ。
ここに人が住もうってなら、俺を狩る動きは止まらないだろう。
そうなると、縄張りに入り込んだモンスター同様の対応するしかないんだろうか……。
【SIDE:人間ズ】
現実には人間達の側にはそこまで何度も来れるような余裕はなかった。
これが少数で狩りに来るような、ゲームみたいな世界ならそれこそ何度でも来るだろう。
でも、今来ているのはハンターの集団だ。
これだけの人数の食料や各個人の装備以外の重武装なんかは全部国が用意したものだ。
今回、これ程早く国が動いたのには訳があった。
ぶっちゃけてしまえば、この地域は二つの国が領有を狙っていたのだ。
これまでも山師が山岳地帯に入った事はあった。
その結果として、この地域は水資源が豊か、森の恵みも期待出来るし、農耕も問題なし。海も領域に入り、湾があるから漁も将来的には可能。山岳地帯からは鉱石の採掘が有望。
更にここに街道を通せば、複数の国との交易路も期待出来るという、国からは実に美味しい場所だった。
そんな地域が何故これまで手付かずだったかと言えば、単純に長い時間をかけて、ここまで人間の領域が迫ってきた、というだけの事だ。
「いよいよ、か」
武器の手入れをしつつ、ハンターの一人が呟いた。
彼が持つのは巨大な大剣。
この大剣はダブルブロスソード。かつて彼の祖父が飛竜退治、ディアブロスと伝えられてる、を行った際に手に入れた素材で作られたものだという逸品だ。
反面、彼自身の防具はゲネポスのそれを加工したものだ。こればかりは彼が飛竜と戦った事がないのだから仕方がない。
無論、鉱石を主体に作れるような武具は上質の物が揃えられている。
そういう面では武具よりも防具に不安がある、と言わざるをえないだろう。防具は動きやすさも重視される為に鉱石よりもモンスター素材が主体となるからだ。
「ああ、腕がなるぜ」
そう言いつつ別のハンターが応えた。
もっとも、誰も彼もが緊張を多かれ少なかれしている。
前衛と後衛のそれぞれのリーダーが打ち合わせをしているし、緊張が重なれば後衛が最悪、射線が重なった前衛を撃ちかねない。
人と飛竜。
彼らの間に、人の都合によって戦端が開かれようとしていた。