『こちらホークアイ。スパロー1応答せよ』
『こちらスパロー1、何か注文が入ったかい?』
空中早期警戒機ホークアイからの通信に、 F18戦闘機を駆るダニエル少佐は軽い口調で尋ねた。
現在彼らはある地域紛争に派遣された空母クレイジー・ホースの所属だった。
とはいえ、現在の場所は陸上であり、陸軍所属の地上攻撃機A10の護衛役として上空を回っているというのが現状だった。
『そうだな、先程から妙なエコーがある』
妙なエコー?
首を傾げたダニエル少佐に、ホークアイからの通信が続く。
『反応の大きさ自体はちょっと大きめの鳥程度だ』
おいおい、なら呼び出すなよ。
そう思ったのは一瞬だった。
『ただ、速度が時速800km程ある』
何だそりゃ。
確かにそれは妙な反応だ。
まさか鳥が時速800kmで飛べるはずもない。となると……。
『敵機か?』
『分からん、とりあえず仮称としてボギー1とこいつを呼称する』
ボギー、か。
敵機って意味じゃねえか。成る程、あいつらもこれが味方だとは思ってねえんじゃねえか。
そう思って笑う。
『しかし、何だと思う』
『分からん、話に聞くステルスとかかもしれん……』
おいおい。うちでもまだ実用化されてないようなもんを奴らが持ってる訳ないだろう。
そう思ったが、自分とて答えは持っていない。とりあえずは向ってみるか。
そう判断し、自らの部隊を率いて、ダニエル少佐は飛んでいった。
雲の中を進むそいつを見つけたのは偶然でも何でもなかった。
『……こちらスパロー1、ボギー1を発見した。雲の中にいるが……でかい!』
おいおい、B52を上回るんじゃねえか?こいつ。
レーダーを確認するが、駄目だ……酷く小さく捕らえづらい。
これではレーダーを用いて敵を感知するミサイルは駄目だ。それなら……。
『スパロー1よりホークアイへ、攻撃許可求む!』
『了解した、スパロー1。現在地上では重要な作戦の真っ最中だ。上も邪魔されたくないという事で許可が出た。オールウェポンズフリーだ!』
『了解!!いくぞ、スパローズ!ついてこい!!』
全機が赤外線ホーミングを選択する。
フォックス1!その叫びと共に複数の機から発射されたミサイル郡は雲の中の熱を捕らえ、まっしぐらに向ってゆく。
派手な爆炎が広がる。
ついでとばかりにダイブした彼らは20ミリバルカンを撃ち放ちながらその巨体の傍を駆け抜け……。
『な!?健在!!奴はまだ健在だぞ!!畜生、ミサイルでびくともしてねえ!!』
すり抜ける一瞬、確かに悠然と舞う巨体の陰を見た。
嘘だろう!?というのが正直な所だ。空を飛ぶというのは非常に微妙なバランスの上に成り立っているだけではない。地上を行く戦車などと比べれば、頑丈さに大きな差ががあるのだ。
『あのー……』
『なんだ、スパロー4!』
部下の一人が物凄く言いづらそうな口調で言いかけたが、ダニエル少佐は怒鳴りつけるような口調で言った。この忙しい時に、というのもあるし、報告ならきちんとコールサインを呼べ!と軍人らしからぬ言い方に怒ったという意味合いもある。
『先程、自分、あの影が何か見えたんですが……』
『なに?よし、お手柄だ!!それで奴はなんだ!』
だが、その言葉に即座に機嫌を直して怒鳴った。
それなら……そう思った彼は、だが、直後に絶望に叩き落される事になった。
『……【竜王】です』
『『……なに?』』
ホークアイ共々、二人して思わず聞き返してしまった。
『だからあの影……【竜王】だったんです……』
その言葉を証明するかのように、雲の中から巨体が姿を現す。
その姿を見れば間違いなく……。
『りゅ、【竜王】……』
じゃあ、間違って自分達は【竜王】に攻撃してしまったのか……。
絶望に染まったダニエル少佐だったが、【竜王】は特に彼らに反応せず、そのまま飛び去っていったのである。後に敬虔な世界最大の自然崇拝宗教の信徒だったダニエル少佐は、この紛争後、軍を除隊して世界巡礼の旅へと出発した……。
なお、【竜王】自身はといえば、ここに顔を出したのは、「これがあの有名な紛争のこの世界バージョンか」と物見高く見物に行っただけの話で、あの攻撃も流れ弾だったと思ったりしていた……。
「やっぱ戦場は危ないねー。ミサイルが流れ弾で飛んでくるとは思わなかった。悪い事したかな」
【あとがき】
エナさん登場の過去編前に完成したのであげます
なお、異伝を小説家になろう、の方にあげました
……どっちも同じのもなんですし