私は動物学者のヘンリー・カーライルという。
今日は世界で最も有名な龍について話をしたいと思う。
そう、彼の【竜王】だ。
【竜王】を称して、『世界で最も広大な土地を治める王』と呼ぶ事もある。
これは紛れもない事実だ。
実効支配しているのがどちらであるか不明な地域もあるので、正確な領域は不明だが、最低でも世界でもその『庭園』の領域を国とするのならば、世界でも五指に入る広大な国、という事になる。
その最初期の領域はもっと狭かった。それは確かだ。
では、何故現在、ここまでの広大な領域を支配するかに至ったか、だが……その理由は、【竜王】自身の成長と、人間の馬鹿さ加減の象徴。この二点に尽きる。
【竜王】の成長に関しては簡単だ。
最初期の【竜王】のサイズは当時対峙した記録から通常のリオレウスサイズ、全長17m程度であったのではないかと推測されている。これに対して、現在の【竜王】は全長50m以上……正に化物だが、体が大きくなれば食事の量が増える為に、行動範囲も広がるのは理解出来るだろう。
……もっとも、昨今の【竜王】の食事量が体格から推測されるそれより異常に少量という研究もあり、外燃機関を備えているのではという説もあるぐらいなのだがね。
まあ、証明も何もなされていない話はさておき。
それ以上に大きかったのが、人間の愚かさが招いた事態だ。
【竜王】が自分から人の街を襲ったという話は……あるにはあるが、非常に怪しい、つまり自分達から仕掛けたのに、襲われたと主張しているとされているレベルのものしかない。
これに対して、人の側から盟約を破って【竜王】を攻撃した、という話には枚挙に暇がない。
結果として、【竜王】から反撃を喰らって、壊滅した国は多数あった。
それだけ、馬鹿をやった国が多い、という事でもある。
そうして、壊滅した国に大抵の場合起きたのは……街のゴーストタウン化である。当然だろう、飛龍の襲撃を受けて、しかも国の象徴というか一番防御が固いはずの王宮がボロボロ。軍隊もハンターも手も足も出ないという光景を目の当たりにしたのだ。そんなものを見せ付けられて、安心してその国で暮らす事など出来るはずがない。
まず、金のある者が逃げ出し、更に……という訳だ。
最後は金のない者達が僅かに残るスラムと化していったという。
そうして、もうけられた街は当然、【竜王】の飛来圏外であり……これだけで【竜王】の領域は広がったも同然になる。そしてそれが繰り返されていく内に、今の領域になった、という訳だ。
ちなみに、【竜王】の領域の正確な広さが判明したのはごく最近の事だ。
静止衛星軌道に送られた気象衛星による画像から割り出されたものでね……ちなみに【竜王】の領域の上を飛ぶ周回軌道上のスパイ衛星みたいなのは全く存在しないのは有名な話だ。……何故かって?【竜王】が全部撃墜してしまったからだよ、周回衛星軌道上の衛星を……本当に生物なのかね?
しかも、壊した方法が生体レーザーと判明した時、当時の動物学者達は揃って壁に資料を全力で投げつけたそうだよ。
……ああ、生体レーザー自体はちゃんと実験室レベルでは発生可能だそうだがね……。
※尚、2011年、我々の現実の世界でも、ハーバード大学にて遺伝子組み換えを施した生きたヒト細胞を用いたレーザービーム放射に成功しており、未来には患者の体内でレーザーを発生させてガン組織に直接照射といった事もありえるかも、という話です
話を戻そう。
【竜王】の『庭園』に入るには外に設けられた唯一の港町ドンドルマを用いる。
他にもない訳ではないが、そのいずれもが漁村のレベルで、大型船が入れるのはここだけだ。
最初期と異なり、上が馬鹿をやっても、下の民衆は何も知らずに生活している者も多く、そうした人間の村が領域に入ったからといって、【竜王】は出て行けとは言わなかった。これまで通りの生活をする限りは、人が己の領域で暮らす事を認めた訳だよ。
現在も、尚昔ながらの生活を維持する彼らはカリュート族と呼ばれているが、遥かな古代からずっと自然と共存を続けている民族だと言われている。
彼らの村へ行く時、車は使えない。
使えるのは、今ではこの領域でしか見る事が出来ないアプトノスを用いた竜車だ。
なに?それでも強引に、或いは裏から持ち込んだりする事はないのかって?
愚問だな。そんな事をしたら、それこそ【竜王】に怒られるだけだ。
かつての戦争で、この『庭園』に眠る資源をものにしようと艦隊が派遣された事があったが、今も尚、ドンドルマの沖合いには戦艦を含めた大艦隊が躯を晒している。……怒った【竜王】に本国を攻撃されて軍隊が半壊状態に陥って降伏した事から、『同盟軍は連合軍に負けたのではなく、【竜王】に負けた』と言われる所以だな。
この他にも自然回帰論者や、自然保護団体の内でも特に自然と一緒にあるべきだと主張する者が暮らしている事もあるが、外部で環境テロを行った者は何故か【竜王】にばれて、入れてもらえないな。いや、犯罪者特に密猟者が入り込む事はあるんだが……犯罪者でも、『庭園』で自然と共に生きる道を選ぶなら見逃してもらえるらしいんだが、中で犯罪やらかしたらあの広い領域のどこでやっても絶対逃げれないというんだ……。
【竜王】はカリュート族には神として崇められているが、本気で神様かと言いたくなるよ。
ちなみに、生体レーザーが確認された事で、竜種が遥か古代の文明の兵器であったという説が証明されたと主張する学者もいる。
現在は、『庭園』には範囲が広くなったからだろうな。他の竜種も多数生息している。ここでしか見られない大型の竜種も多い。私達動物学者にとっては正に宝の山だよ。危険なのは確かだがね。
……さて、これがその【竜王】だ。
この写真は領域の外、旅客機に近づいた際に撮影されたものだ。
見ての通り全長およそ50m強。
半透明のルビーのような装甲に全身を包まれている。
この全身の至る所から屈折させた生体レーザー砲を撃つ事が出来る上、口から放つブラスターブレスの威力と来たら……かつての大戦では大型戦艦の艦橋の一番上から艦底まで一直線に、或いは一番分厚い砲塔すらぶち抜いて見せたそうだよ。
おまけにこの巨体で音速突破して、機動性はレシプロ戦闘機よりも小さい旋回性能を見せたそうだが……。
おまけに、超感覚、とでも言えばいいのかな?衛星軌道まで攻撃する力まで持っている。
とにかく、人にどうこう出来る相手ではないな。それだけは確かだろう。
写真ではただ綺麗なだけだが……実際に見ると、もう体に震えが走る。
あれを畏怖、と呼ぶんだろうね……。
実際に見た事があるのかって?ああ、あるよ。
カリュート族には『竜王祭』と呼ぶお祭りがあるんだけどね?その中でも、中心となる部族が行う『大竜王祭』、各地のカリュート族の代表となるハンターと呼ばれる村を守る戦士が集まって行われる祭りに、【竜王】は姿を見せる。
この祭りには、見学者は誰でも受け付けるが、写真などは嫌われるから写真は取れない。
空から舞い降りて来た時……あの姿を一目見た瞬間、体が凍ったね。
あれは現地に向うのは大変だし、他の大型竜種に襲われたら命の危機もあるのも確かだが……それでも、私は生きている内にもう一度見てみたい。それだけの価値がある姿だったよ。
……おっと、もうこんな時間だね。
それでは今回の講演はこれで終わりとさせてもらうよ。
【あとがき】
かなり化物的な成長を遂げた……ちょっと暴走気味な未来の姿
もう、本気でゴジラとかの怪獣映画を探した方がいいお姿になっています
逆に言えば、こんなだからこそ、今でも誰も手出しできないんですけれど
外伝での戦闘はさすがにこんな姿では出てきません
……これに比べればまだまだ弱い頃の姿で出ます