……びっくりした。
何か踏んだので、ギクッとしたが……どうやら無事だったみたいだ。
いやー驚いた。
痺れ罠だったのかな?多分、そうだろう。ネットとかが広がる訳じゃないし。
効かなくて良かった……こればっかしは実際に喰らってみないと分からないからなあ。
けど、もっと我ながら驚いたのはその後だった。
……まさか、翼の膜を狙ってくるとは予想外だった。
確かにあそこには他と違って殻も鱗もないからな……頑丈な武器で攻撃されたらどうにもならないだろうから、目の付け所は良かったよな……まさか超速再生があるとは思わなかっただろうが。
いや、俺も知らなかったんだよ。
何しろ、これまでまともな怪我って奴を負った事がなくってさ……いや、ひょっとしたら怪我してたのかもしれない。ただ、気付かなかっただけで。なんて、今回の再生速度を見て思ってしまった。
……なんかそうして考えてみると、確かに痛かった事って昔の独り立ちしてしばらくの間はあったような気がするなあ。
さて、しかし、こっちとしても喧嘩売られた以上は買わないといけない。
……装備とかからして、こいつら絶対凄腕ハンターだよな。
先だっての軍隊との戦いを思い返してみると、軍隊の場合はモンスターの素材を用いた武器って奴を見た覚えがなかった。やっぱり数を揃える必要と装備を揃える必要があるからだろうな。
だとすると……手加減なんてしてられるか!
確かに、戦闘力は弱いかもしれない、俺に比べれば。でも、俺より間違いなく不利な戦いでの経験が豊富なはずだ……そんな相手に油断なんてしたら、ちょっとした事で逆転されかねない。
さあ……全力全壊だ!!
……あ、でも少しは手加減するかな?
【SIDE:人間ズ】
ガラムが感じたのは全身を打つ衝撃だった。
咆哮。
ティガレックスすら上回る咆哮がガラムを吹き飛ばした。エナはかろうじてガードが間に合った、がバランスを崩して倒れこんでいた。
だが、ガラムの武器は太刀だ。
太刀は切れ味も攻撃力も高いが、反面ガードが全く出来ない攻撃一辺倒の武器だ。
こんな至近距離で咆哮を喰らえば、まともに吹っ飛ばされるしかない。
ゴロゴロと転がって、それでも必死で立ち上がる。ここでただ呻いているだけ、というのはハンターの戦闘の最中には許されない。そんな事をしていれば、待っているのは死だけだ。
耳は大丈夫だ。
あの咆哮の凄まじさはハンター達に聞こえない、というリスクを考えても耳栓をする事を選ばせた。
高級耳栓と一般的には呼ばれる最高級の完全に音をシャットダウンする耳栓を用いていた。こうしてまともに咆哮を喰らってみれば、それが正しかったと言わざるをえない。もし、耳栓をしていなければ、今頃鼓膜が破裂していただろう。……そうなれば、どのみち音など聞こえなくなっていた。結果が同じなら、ダメージを受けなかった分、鼓膜破裂による痛みがない分、マシだ。
起き上がって、前を見れば、一人激戦を繰り広げているのがエナだった。
いや、激戦というよりは命がけで遅滞戦闘を繰り広げているといった方がいい。
(これでも効かんか……)
G級ハンターの一撃は凄まじい。
人外、その真実の姿を知る者達はそう言う。
弓でさえ、その強弓はそんじょそこらのバリスタのそれを超える。
もっとも、現状ではそれも無理だ。
ガラムも駆け出した。破壊力で言えば、エナの一撃が今回のチーム中では最大だ。シュウも間もなくこちらに到着する。二人が何とか注意を引きつけてくれれば……奴を仕留める算段もある。
まだ奴は飛び立っていない。
飛び立つ前に奴をしとめなければならない。……如何に甲殻が硬くとも関節は防ぎようがない。何とか関節なりを一時的にでも破壊して……狙いは目だ。幾ら無敵にも思えるリオレウスといえども、脳を破壊されればさすがに倒れるであろうし、目は鍛えようがない。
それには自分の太刀の方が向いている。
駆け寄ったガラムは叩きつけるのではなく、甲殻の隙間を狙い、攻撃を繰り出す。
「俺は死なん……娘の花嫁衣裳を見るまでは……!」
小さくガラムは呟いた。
【SIDE:転生者】
……えーとどうしよう?
耳が小声でもきっちり捉えてしまった呟きに、俺は困惑した。
なんかやりづらいな。
とはいえ……やっぱり強いわ、この人達。
弓の使い手は正確にこちらの甲殻の隙間がある所を狙ってくる。
大剣の人は多少は手加減したとはいえ、それをダメージ受けながらも防ぎきった。
太刀の人はあの咆哮まともに喰らったはずなのに、耐えて、突きを放ってくる。狙ってるのも関節だ。
そうして、そこへガンランスの人が加わった。
うむう……甘いのは分かってるんだよな。でも、娘さんかあ。軍隊とかあんだけ蹴散らしておきながら何を言うんだって事も理解してる。あの人達も子供いた人一杯いただろうしね。
でも、こうして目の前でそんな事言われたらなあ……。
そんな風に考えてたのが悪かったんだろう。
急に目の前にいた太刀使いと大剣使いが少し距離を取った。あれ?
次の瞬間、横手から衝撃が来た。
【SIDE:人間ズ】
隙があった。
何故か分からない。だけど、動きが妙に鈍かった。
しかも、ガラムとエナの二人に意識が集中してるっぽい……その隙に腰を落とし、ガンランスのスイッチを入れる。
シューっと音がして青白いガスが噴出す。
だが、ぼーっとしてる、という印象のリオレウスはまだ気付いていない。
頼む、気付かないでくれ……こっちは打つ手が殆ど残ってないんだ……。
矢張り、無謀だった。
そんな思いはある。ガラムがどこか焦っていたのも知っている。だが、それでも、だ。結局、あいつの作戦に賛成して、こうして戦いを挑んだ以上は俺達自身の責任だ。
だから……今は全員で生きて帰る為に全力を尽くす!
竜撃砲!!
轟音と共に衝撃が来る。
ガンランスの代名詞とも言える砲撃はまともにリオレウスの脚部に直撃し、その姿勢を僅かに崩させた。とはいえ……それだけだ。別に足をやられた、とかそんなもんじゃない。
どっちかというと、ちょっと考え事してたら足払われてこけそうになりました、そんな程度だ。
だが、それで油断したのが悪かった。
たたらを踏んだリオレウスは慌てて態勢を整えようとして、向きが完全にこちらに向いた。そうして、向きを変えた脚がまともにシュウを襲った。
「がはっ!?」
通常ならば、ガンランスはランスと並ぶ防御能力に優れた武器だ。
ガードして受け流す事も出来ただろう。
だが、今は竜撃砲を放った後だった。世の中には作用反作用の法則というものがある。リオレウスにバランスを崩させるだけの衝撃を受けて、ハンター側もバランスを崩していた為にガードが致命的なまでに遅れた。
まともに直撃を受けて、シュウはボールのように吹き飛ばされた。
頑丈なグラビモスの素材を用いて作られた装甲が割れ、シュウの肉体にリオレウスの爪が傷をつける。
とはいえ、さすがにグラビドメイルと言うべきか、致命傷レベルのそれは防ぎ、だが、その事がシュウに更なる苦しみを与える事になった。
リオレウスには毒がある。
それがシュウを襲った。手足が痺れて動きが鈍り、呼吸が出来ない。
呼吸が出来ないから、助けを求める事も出来ない。出来たとしても、果たして助けに来るような余裕があったかは別だが、そのせいでポーチからリオレウス用に調合された毒消しを取り出そうとしても震えて上手くポーチが開けられない。
やがて、力が入らなくなる瞬間がやって来た。
だらり、と力が抜け……地面に投げ出される。
「……ついてないぜ」
それはこんな仕事を回された事だったのか、それとも……。
いずれにせよ、G級ハンターの一人だったシュウはその言葉を最期に永遠にその心臓を停止させた。
【あとがき】
という訳で戦死者一人目です