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No.27679の一覧
[0] 【完結】 人間存在のIFF  IS×戦闘妖精・雪風 [hige](2015/10/12 14:45)
[1] 第二話[hige](2012/01/05 21:46)
[2] 第三話[hige](2012/01/05 21:46)
[3] 第四話[hige](2012/01/05 21:47)
[4] 第五話[hige](2011/06/30 15:50)
[5] 第六話[hige](2011/08/11 13:04)
[6] 第七話 地球・夏[hige](2012/01/05 21:43)
[7] 第八話 地球人になった女[hige](2012/06/10 15:13)
[8] 第九話 戦場剥奪[hige](2012/06/10 23:01)
[9] 第十話 脱落者二名 / 被相続人の夜[hige](2014/11/17 16:40)
[10] 第十一話 装置[hige](2012/10/14 18:55)
[11] おまけ 人間存在のIFF <un official version>[hige](2011/06/30 15:47)
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[27679] 【完結】 人間存在のIFF  IS×戦闘妖精・雪風
Name: hige◆53801cc4 ID:a8a1843c 次を表示する
Date: 2015/10/12 14:45
注意書き
このSSはハーメルンさまにも投稿しています
にじふぁんには投稿していません。
感想板に指摘があったので書いときます。


インフィニット・ストラトスとOVAも含めた戦闘妖精・雪風のクロスオーバーです。

不快にさせる表現、展開が出てくる 可能性 があります。

ISは原作再構成。




xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx



「IS第二世代完成。各国へと引き渡される。か」

続けて、六十七体の第一世代は第二世代へとアップデート。

人里から遠く離れ、山々に周囲を囲まれた草原の、小さな湖のほとりに建てられたログハウス。大きな大きなガレージが隣接している。出番まで数ヶ月待つ暖炉のある小さなリビング。素朴な木製のテーブルに着き。あなたは空間投影された最新のニュースを呟いた。朝食のこんがりと焼けたクロワッサンをかじる。

「フムン」

もう、昔のようにISについての情報を積極的に入手しようとは思わなかった。しかしあなたが四十代半ばで退職したこととISの登場は無関係とは言い切れないし、いろいろと思うこともある。それに世界的なニュースだ。どこのニュース会社の情報ページを呼び出してもこの話題一色だろう。読み進める。

どうやら今回束博士が売り渡したISコアの数は二百機。五年前に売り渡された第一世代は六十七機。つまり現在存在するISコアは二百六十七機。記事の中央には実際に装着した女性が優雅に空を飛んでいる動画があり、その横に簡単なスペックが載っていた。ISはコアに取り付ける手足や胴などの装甲によって性能が変化するので、この数値は平均的なものだろう。つまりこれを越えるスペックを持つISは今後現れるはずだ。

高度を問わず最大速度 M2.2
高度を問わず巡航速度 M1.7
航続距離 不明
実用上昇限度 原則大気圏内(単体での大気圏突入、再突入は不可。ただし宇宙での運用は可)
動力 ISコア
アビオニクス ISコア

女性しか扱うことのできない仕様
慣性および重力制御システム PIC
ISコアにデータ化した物質を登録、それの圧縮格納、解凍機能を有する 量子変換システム
エネルギーが尽きるまで操縦者を保護する防護膜 シールドバリアー
IS機能一時停止と引き換えに操縦者の死亡を防ぐ 絶対防御

新たにハイパーセンサー搭載。
超広域レーダー、範囲は機密。常時、空間投影ディスプレイで表示。また、ISコア中枢システムとリンクし、目標物に対し最適な射撃を装甲を通して補正する。

更に、ISコア中枢システムは自己進化と呼ばれるプログラムが備わり、過去の操縦者の戦闘データから常に最適な動きを模索するらしい。操縦者の癖や特性を理解し、それにあわせ自己を変えるという意識まで持つそうだ。

「五年前のIS第一世代のスペックと比較しろ」

テーブルの上でニュースを投影しているA5サイズの銀色のタブレットPCが所有者の肉声に反応した。瞬時に契約しているニュース会社のデータバンクにアクセスし、該当記事をピックアップ。今映し出している第二世代との比較を簡単な表にして別のウインドウに小さく表示した。さすが現行最上位機種である。すばらしい性能に満足し、それに目を通す。

スペック自体はやや向上した程度だ。第一世代の時点で脅威の性能を誇っていたので、今更驚くほどのことではない。それよりも新たな機能、ハイパーセンサーの射撃補正の及ぶ範囲はどれほどだろうか? 最低でも一キロ圏内、レーザー兵器であれば必中は保障されているだろう。

「……五年前のIS第一世代発表会で行われたデモンストレーションを映像記録でだせ」

この映像を見るのは何回目だろうか。あなたは過去五年間を振り返り自嘲気味に思った。おそらく万は越えているはずだ。

タブレットPCはすぐさま映像を別ウインドウに映し出し、設定に従いミュートで再生する。

あなたはそのウインドウの右上を注視し、最初に見ていたニュースに視線をやった。タブレットPCに備え付けられたカメラが眼球の動きを読み取り、映像ウインドウをニュース記事にマウントさせ大きく表示した。

広い海の上空、雲ひとつない晴天の空に航空力学を無視した造型の人型パワードスーツが浮遊している。そして一瞬にして超音速、水平に直進の後、速度を落とさず垂直上昇。鋭角ターン。操縦者およびパワードスーツにGの負担はない、PICという束博士以外は理解不能の技術がそうさせる。続いて最新鋭無人戦闘機との実弾を使用した戦闘パフォーマンス。戦闘機など、一体どこから調達してきたのだろうか。当時、この映像は会場でリアルタイムに中継されたそうだ。出席したお偉いさん方の心境は容易に想像できた。

前進翼、標準の戦闘機より一回り小さい、鋭角が目立つシルエット。三本のスリットが入った可動式バイザーがキャノピーを覆っているのが特徴的だ。現在最も生産数の多い主力機。DmicD‐9 ”ブリンク”が空気を裂いた。

ふと思う。初めてこの映像を見た時のような絶望は薄れたとはいえ、気が滅入る。ならばなぜあなたはこれほどまでに繰り返しこの映像を見るのか。考えをめぐらせ、やはりこのことに関しては意図的に忘れようとした。ディスプレイに集中し、目をそらさずに戦闘機の敗北を見届ける。

無人戦闘機はISの射程外から中距離高速ミサイル4機を全弾発射。アフターバーナを使わず超音速で接近。中距離高速ミサイル全弾命中せず。距離五キロにて高機動マイクロミサイル計三十発を発射。IS、垂直上昇しチャフを散布、数万もの金属片がきらめく。マイクロミサイル群に搭載された電子チップは誘導方式を電波方式から赤外線方式に切り替えるも、金属片は強い光りと熱を放ちだした。目標を見失うが、最後に観測したターゲットの位置から現在いるであろう位置を割り出し、飛翔した後に起爆。

ブリンクはISを追う。機首の下に備え付けられたサイドスラスタを吹かし、無理やり首をもたげる。急上昇。

ミサイルが撃墜された際の爆煙を突き破りドグファイトを仕掛けるが、空戦機動能力において戦闘機はISにはるかに劣っていた。敵の高性能レーザーライフルから伸びる細い光りの線を危うげに回避。アフターバーナを点火し、距離をとろうとしたが。ISの瞬時にして生み出される加速力はそれを許さなかった。空気の壁を破り急速接近しつつ射撃。無人機は数発のレーザーに貫かれ、無残にも空中で爆砕した。赤黒い炎を纏った破片が不気味なほど青い海へと四散する。映像はそこで終わり、また初めからリピートされた。

あなたはミルクのたっぷり入ったアイスコーヒーをすすると、まぶたの裏で架空のIS同士を戦わせてみる。

人間より一回り大きいくらいのパワードスーツを着込んだ、ISを身に纏った者同士が空を縦横無尽に翔る。互いに超音速で飛行しているのだから、照準を合わせるのも射撃補助ソフトが無ければ困難だろう。いや、IS同士の戦闘が必ずしも超音速とは限らない、亜音速以下での戦闘かもしれない。

IS同士の戦闘記録は公にはなっていないので、なんともいえないが……ともあれ戦闘機とは違い、敵機の移動、攻撃ラインを予測することは難しい。であればいかに敵を捉えるか。ISコアに取り付ける手足などの装甲部分や兵器の性能がものを言うのだろうか。弾速の問題で、きっと実包は使われない。使われたとしてもスナイパーライフルやレールガンのような超高速で弾丸を飛ばすものが採用されるだろう。しかし近距離での戦闘があるのならマシンガンのような。

いや。と、かぶりを振り空想を終わらせる。ISなど最早、あなたには関係無い。そのはずだ。続けて言った。

「しかし束博士とやらには会ってみたいな」

ISや戦闘機とは関係なく話をしてみたいと思った。だが相手は有史以来の天才と呼ばれるほどの人物だ。話を合わせることができるのだろうか。つまらない相手だと思われるのではだろうか。

あなたはサラダに手をつけた。みずみずしいレタスと味わい豊かなハムに舌鼓を打つ。咀嚼し。

「束博士について」

即座にウインドウに情報が映し出された。

性 篠ノ之
名 束
国籍 日本
性別 女性
年齢 不詳
個人でISコアを完成、生産できる唯一の人物。

五年前、アメリカの某ホテル会場で行われたIS第一世代発表会にて各国に六十七機のISコア、および装甲、装甲の製造、コアへの取り付け方法等のマニュアルとともに売却。一機あたりの金額は不明。以後、行方不明。

先月一日に第二世代ISコア二百体を売却。取引方法、場所などは機密扱いとなった。五年以内に追加で二百体を製造売却の契約を交わす。拘束されるのを危惧してか、束博士が姿を現すことなく、彼女が雇った弁護士がこれを代行。本日付、日本時間0700時に政府より発表されると同時にマスコミ等の情報規制解除。

「それだけか? まあ、それ以上詳しいことは政府が隠しているだろうな。政府の公式発表以外の情報も表示」

ずらずらと文字が並ぶ。

ISが女性しか使用できない仕様に設計したのは、女性である自らの地位向上、女尊男卑を目的としたため。束博士が姿を現さないのは某国に捕らえられているか、暗殺されているためである。五年前の発表時は宇宙開発を銘打っていたものの、件のパフォーマンスは明らかな軍事転用アピールであり、彼女は死の商人である。現に第二世代のハイパーセンサーを用いた射撃補助システムはまさにそれである。彼女は特定の人物以外には人間的な魅力を感じない。などなど。

ざっと流し読みをして、やめた。事実にしろ嘘にしろ、どのみち雲の上の存在である。誰も知らない、地下深くの電子的に高度にロックされた研究施設に篭っているのか、はたまた意外にもその辺をぶらついているのか。まあ、会うことはないだろう、と食事を終えた。うまかった。

木製の食器を洗いながら今日は何をしようかと考える。といってもやることは限られているので結局は順番を決めるだけだが、毎日同じでは飽きるのだ。釣り、畑の手入れ、読書、音楽鑑賞、勉強、インターネット、その辺の山の探検、それにアレの製作の続きも。

お気に入りの、やはり木製のタンブラーの水気をタオルでぬぐっていると、鳥の鳴き声が聞こえた。窓の外を見やると、晴天。すぐそばの大きな木の枝の鳥の巣で、親鳥がひな鳥に餌をやっている。

手を止め、しばし眺め。買い物に行くか。

二週間ぶりに街に出ることにした。

ログハウスから直接ガレージへと通じる短い廊下を渡り、途中で壁に掛けられている車のキーを取り、扉を開ける。自動で照明が点く。明るく照らされたガレージと呼ぶには広すぎるこの場所には、昔のフランス映画に出てきそうな古めかしい小さなベージュの車。

そしてその隣に鎮座する、最新鋭無人戦闘機。ブリンク。

少し離れてそれらを見比べた。あらためて思う、このちぐはぐな感じ。浮いているな。

「この車」

ガレージの中にはモニターやら大型の機材、工具、戦闘機に使われる部品などが並べられていた。

車に近づくとジーンズのポケットの中の多機能携帯端末が車のコンピュータに信号をおくり、アウトサイドハンドルを引くと同時にロックが解除され。キーをまわしエンジンをかけると、反応してガレージのシャッターが上がる。便利な世の中だと思う。祖父の時代はここまで自動化はされていなかったそうだ。

アクセルを踏み、出発。車がガレージから出ると、シャッターが下りた。あなたはバックミラー越しに小さくなっていく戦闘機を見つめる。いや、厳密には戦闘機の模型だ。その名に反して戦闘力を有しない見せかけのはりぼて。外装内装ともに本物とよく似たおもちゃだ。

徐々に閉まるシャッターから覗くバイザーのスリットは、どこか恨めしそうにあなたを見ているようだった。

無理だよと、あなたはひとりごちる。

強くハンドルを握り、しかし無情に。 「戦闘機では、ISに勝てない……」

視線を外し音楽をかけ、強くアクセルを踏む。振り切るようにデコボコの道を走る。



二時間ほど車を走らせると、人の営み、家がちらほらと見え始めた。農家の方々だろう。遠くに高層ビルが見え出した。自然と人工物、緑と灰の比率が入れ替わる。しばらくすれば市街地である。久々の都会の喧騒は少し心地よかった。

まず食料と酒、衣類、最新の電化製品も見て回りたい、それに…………まあ、時間はある。のんびりすることにした。

あなたはとりあえず本屋に向かった。独特の紙の臭いが鼻をくすぐる。レジ横の検索コンピュータを使わず、目当ての小説を探し背表紙を眺める。

聞くところによれば、何世紀も前から書物のデータ化を推し進めていた企業連がいたらしい。利点は紙媒体のそれを圧倒したが、それでも多くの人々は後者を選んだ。もちろん何割かのシェアは奪われたが。

古本コーナーにも目を通すが見つからない。諦めよう、どうしても見つからなければ出版会社からデジタル購入すればよいのだ。と、店を出る前に一通り棚を回ってみる。

自然とあなたは雑誌のコーナーで足が止まる。本日発売のものが山積みにされていた、そしてゴシップ誌にはでかでかと『インフィニット・ストラトス』『徹底考察! なぜISは女性しか扱えないのか!?』 少し離れた場所にはミリタリー雑誌。表紙にはIS装甲を身に纏い、銃を構え不敵に笑う少女が。

あの超科学技術の塊が五年の沈黙を破ったのだ、この人気は無理もない。しかし、とあなたはいぶかしむ。本日の情報規制解除とともに雑誌が発売されたのはタイミングがよすぎるように思える。あらかじめマスコミが情報を掴んでいたのか、渡されたのか…………考えすぎだろうか。まあ、いい。

足早に店を出た。

表通りから一本外れ、少し歩き細い路地に入り、小さな寂れた電気屋に着く。へんてこな木製扉の自動ドアが開く。店内のガラスケースにはさまざまな電子パーツがきれいに並べられていた。店主があなたに気づき、久しぶりに現れた上客に顔をほころばせて言う。

「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」

「例の製作が煮詰まってね……しかし、相変わらず時代錯誤な店だ」

店を白く照らす照明を見て言った。

「珍しいでしょう? LEDC電球ですよ」

「驚いたな。遺跡でも発掘したのか? 大戦前のものだと聞くが」

「ま、掘り出し物には違いありませんがね。ところで例の模型製作がはかどっていないとの事ですが、もしよろしければ聞かせてもらえませんか。お力になれるかもしれません」

「技術的な問題ではないよ。実は、いざ完成させるのがもったいなくなっただけさ」

「なるほど、気持はわからないでもありませんが……もし部品が足りないようでしたら遠慮なくお申し付けください。実はわたしもひそかに楽しみにしているのですよ」

「ああ、そのときは頼むよ」

あなたはしばらく店主と世間話をした後、八桁のニキシー管の時計を買い、店を出た。どうやらあの男はタイムマシンかなにかを持っているようだ。

次にデパートの食品売り場で買い物をした。野菜は自家菜園があるので最低限のもの、酒のつまみも買っておこう。電子マネーで支払いを済まし、帰ることにした。

市街地を抜け、住宅街を走っていると、携帯端末のバイブレーション機能が働いた。運転をオートモードに切り替える。ポケットから取り出し、タッチパネルスクリーンを見ると音声通信の文字。相手は以前働いていた職場の上司だった。

車の音楽をミュートにする。

「もしもし」

『わたしだ、覚えているか?』

力ある口調だった。頑固な技術屋をまとめるのはこういう人物でなければ務まらないだろう。昔を懐かしんだ。白衣の似合う人だったなと。

「散々お世話になった人を、五年ぽっちで忘れませんよ」

『殊勝だな。今、大丈夫か』

「ええ、かまいませんよ。ISについてですか」

話題を予想するのは難しくなかった。

『そうだ。単刀直入に言おう、戻って来い。お前の力が必要だ』

「わたしは今の生活に満足しています、主任」

あなたはもともと定年退職後、先祖代々続くあの広いガレージのあるログハウスに住むつもりだったのだ。それが早まっただけに過ぎない。

『違う、今度は違う。今度はわれわれ技術軍団のプライドを踏みにじるようなものではない』

あなたは相手の言葉を待つ。

『ISに対抗できる無人戦闘機を開発することが上層部で提案された。IS推進派とぶつかるだろうが、おそらく、不透明な部分の多いISコアの解析との折衷案になるはずだ』

「一般回線でする会話ですか」

『構わん。どうせ六大ネットワークにはこの手の話題であふれかえっている』

たしかに、この程度は少し想像の翼を広げれば容易だろう。どのような仕掛けが潜んでいるかわからないISコア。言わば一人を除いて解析不能なブラックボックス。それを軍事利用するにはまだ危険すぎる。第一、束博士以外には生産不能の時点で兵器として成立しない。まず解析、そして生産、コストダウン、大量生産、改良。

『予算もあちらに割かれることになるが、可能な限りまわしてもらうよう手は打ってある…………諦めるな、まだ早いだろう? わたしたちには、お前が必要なのだ』

あなたの心が僅かに揺れ動く。年は十も下のはずなのに、説得力を持つ言葉が心地よく刺激する、が。しばし考え、答えたのはらしくもない子供じみた言い訳だった。

「それで、いったいどうするのですか? ISに勝てる戦闘機を作ったとして」 続けて。

「そもそも高速大陸間弾道ミサイルが主要各国にある以上、戦闘機にそれほどの価値はないでしょう。昔のように戦場に突っ込んで制空権を奪う戦術的価値、重要度は低い。第一、高高度において」

『そのような国家間レベルの話ではない。わたしが思ったよりも五年間は長かったようだな。まさか貴様からそのような言葉を聞くとは思わなかったぞ』

こわばった声で遮られる。言われなくてもわかっていた。

『いや、すまん…………わたしも第二世代の発表で焦っているのだろう。許せ』

「こちらこそ、すみません」

『では、お互い様と言うことにしよう。悪いが最近忙しくてな、そろそろ時間だ』

あなたに復帰の意思が無いことがわかり、仕事に戻るのだろう。

『もしその気になったら連絡をくれ。プライベート端末の番号はあのときのままだ、夜中でもかまわん。わたしはいつ……いや。切るぞ』

通話終了と表示された端末をポケットにねじ込むと、溜息をついて窓を開けた。風にあたる。

すれ違いざまに家に帰宅した子供を見つけた、電子キーを玄関口のリーダーに通し、指紋認証をしていた。いまどきの住宅の錠前はそれが一般的だ。当然企業や国家保有の機密施設はより高度に、厳重な電子システムになっている。シリンダータイプのものを使っているのはあなたくらいのものだ。

もしもISコアが解明されれば、その何十年後にはPICなどが家庭に普及するのだろうか。あの夢のような超科学技術が。

サラリーマンが飛行出勤する姿を想像し、クスリと笑った。

そうなるとタイヤを回転させ走行する自動車の類は消えうせる。どうやら技術が進むにつれ、人は物理的なものから遠ざかってゆくようだ。アナクロからデジタルに身をゆだねるのだろう。

空を見やると今朝の天気が嘘のように、厚い暗雲が立ち込めていた。

「今夜は荒れそうだな」



その夜、予想を超えた豪雨に見舞われた。菜園はおそらくダメだろう、天災に文句を言う気になどさらさら無いが。

大粒の雨が地面を打つ音は表現すればノイズのような音と言える。しかし、電子的なものではなく、自然的なものだと心地よく聞こえるのはなぜであろうか。嫌いではない。

それをBGMにウィスキーをちびちびやりながら眠くなるまで読書を楽しむ。極限まで知能を高めた男の話だった。面白いと思った。

時計の針が十二で重なったころ、今度は何を畑に植えようかと考えながら、あなたは眠りについた。雷が、鳴り始めた。

しばらくして起きたそれは、奇跡だと言える。しかし後にすれば必然であり、そうなるべくしてそうなったのだとも言えた。

当然のように日本の対空レーダーに察知されることも無く、衛星に捉えられることも無く。

あなたが就寝して数時間後、まばゆいばかりの稲光が奔り、一際大きな雷鳴が轟いた。あらゆるものを突き破るような大きな大きな音がした。

あなたの眠りを妨げたのは、しかしその雷鳴ではなかった。ナイトテーブルに置いてある
携帯端末が最大音量設定で鳴り響く。

あなたは耳をつんざく硬質な電子音に飛び起きた。驚きのあまり全身から冷や汗が噴出す、心臓がこれでもかと胸を叩く。

すぐさま着信を認め、アラームを止める。動悸と汗は収まらない。とりあえず部屋の電気をつけ、しばらくの間、汗ばむその手に収まる端末のスクリーンを眺め、映し出された意味を咀嚼し、状況を確認する。

『メール着信』の五文字。

なぜだ。あなたは常に着信の設定はバイブレーションにしておいたはず。音量設定は変更していない、買ったときのままだ。しかし。

親指で画面を操作し設定項目を表示する、焦って計算ソフトウェアを呼び出す。

「何だと言うのだ……落ち着け」

深呼吸し、もう一度。そして画面には。

「何だ……どうなっている? 一体……」

画面には就寝前と変わらず、バイブレーション機能は働いており、音量はデフォルトのままだった。

ベッドに腰掛け、やはりキッチンに向かい、タンブラーになみなみと水を注ぎ、喉を鳴らす。もう一杯飲み、三杯目は寝室に持っていった。もちろん携帯端末は握ったままだ。

落ち着き、今度は震える指でメーラーをチェック。そこには。



From:YUKIKAZE

To:Friendly Force

Message:Ready to RTB



差出人。YUKI……ゆきかぜ? ユキカゼ、雪風。日本人だろうか。しかしそのような名前聞いたことがない。宛先がFriendly Forceとはどういうことだろうか、友軍。味方の軍隊、味方……あなたの味方である。あなたを助ける存在であると主張したいのだろうか。しかし本文のReady to RTB 基地帰還の準備ができているとは?

基地。知ってはいるがあなたが関与できる権限はもうない。基地など……と、ひとつ思い浮かべる。以前友人を自宅に招いたとき、あの模型が置いてある広いガレージを見て一言。「まるで航空基地の一角だな」 個人が所有するには大型で高価な機材が置いてあるあの場所。あそこはたしかに、そう呼べなくもない。

ガレージへと向かう。雨粒が窓ガラスを叩く音が不気味だ。雷とともに急げ急げとあなたを急き立てているようだ。廊下の電気もつけず、足早に進む。白状すればあなたはこの状況が怖いと感じていた。

乱暴にガレージの扉を開けると照明が作動した。その光りに思わず目を細め、扉横の操作パネルを動かす。明るさを最低まで落とし、光源を白色から橙色に切り替える。目を凝らすがガレージ内には異変はない。小さな車と、大きな無人戦闘機は変わらずだ。

あなたはガレージのシャッターを開けるボタンに振るえる指で触れた。てんで荒唐無稽な話だが、あなたの力になれるものが基地に戻りたいと言ってきたのだ。息を整え、目を瞑り、意を決してボタンを押した。すぐに雨音が一際大きくなる。シャッターが完全に上がりきるのを待ち、目を開く。

そこには。

そこには何も無かった。

星空の明かりも無く、夜の闇が広がっているだけであった。

一気に肩の力が抜ける。安心したのか、それとも落胆したのか。なんともいえない気持になる。だが心にいくらかの余裕ができた。ひょっとしたら玄関かもしれないな、と軽く考えることもできた。一息つき、シャッターを下ろそうと思った矢先、一条の雷光が視界を照らす。

そのとき初めて、暗闇に溶け込んでいた黒い機体は輪郭を映し出したのだ。

あなたは背筋を冷たい指でなぞられたかのように感じた。鳥肌が立ち、電流を流されたかのようにしびれた。

爆撃機かと思うほどの巨大な体躯、突き出た前進翼と緩やかなウェーブを描く鋭い機首は獰猛な猛禽類を想起させた。

天翔ける妖精、風の女王。

あなたは驚き、息を吞む。瞬きすらできず、決してそこから目を離せない。

そして、そのキャノピーもまた、まっすぐに、あなたを見ていた。

雷鳴は今更に感じられた。


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