―CB所有・南国島―
アレルヤ・ハプティズムがAEUイタリアでの地下鉄爆破テロの映像を見ながらテロ組織の犯行声明文を唱える。
「私設武装組織CBによる武力介入の即時中止、および武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる。これは悪ではない。我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者たちに反抗する正義の使途である。……か。やってくれるよまったくっ」
言って、アレルヤはモニターを叩きつけるようにして閉じる。
その隣で刹那・F・セイエイが呟く。
「無差別爆破テロ……」
外のガンダムの格納コンテナの上でティエリア・アーデが呟く。
「国際テロネットワーク」
砂浜ではロックオン・ストラトスが吐き捨てるように言い、
「くそったれがっ」
拳を握り締める。
ロックオンは強い怒りを心に宿し、海岸を後にした。
翌朝、本土のホテルに泊まっていたスメラギ達をCB所有のクルーザーで島に迎え、エージェント達からの報告待ちに備えて準備に取り掛かる。
スメラギ・李・ノリエガが指示を出す。
「国際テロネットワークは複数の活動拠点があると推測されるわ。相手が拠点を移す前に攻撃する為にも、ガンダム各機は、所定のポイントで待機してもらいます」
ロックオンはフェルト・グレイスからHAROを受け取り、デュナメスへと乗り込んで行く。
同じくエクシアに乗り込む刹那が起動させる。
「GNシステム、リポーズ解除。プライオリティを刹那・F・セイエイへ」
コンテナが無く森の中に待機させてあるキュリオスに乗ったアレルヤが発進させる。
「GN粒子の散布濃度を正常値へ。キュリオス、目標ポイントへ飛翔する」
海の底に沈めてあるヴァーチェからティエリアが出撃する。
「ヴァーチェ、ティエリア・アーデ、行きます」
刹那とロックオンは同時にコンテナから発進する。
「エクシア、刹那・F・セイエイ。目標へ向かう」
「デュナメス、ロックオン・ストラトス。出撃する」
かくして、各機はそれぞれ四ヶ所のポイントへと散開して行った。
―王家邸宅―
小型機で邸宅に戻った王留美は紅龍を従え、仕事に入るべくすぐに地下室へと向かった。
「特定領域の暗号文で、全エージェントへ通達を完了しました」
紅龍がモニターを観測しながら報告し、王留美が右手を腰に当てて尋ねる。
「各国の状況は?」
「主だった国の諜報機関は、国際テロネットワークの拠点を探すべく、既に行動を開始している模様です」
そこへ、モニターに反応が出る。
「テロ発生。人革領です。……これで、ユニオン、AEU、人革連、すべての国家群が攻撃対象になりました。やはり、国際テロネットワークの犯行である公算が大きいようです」
「支援国家の存在も否定できない……嫌なものね。待つしかないということは。それにしてもQBはテロまでは防止してはくれないのね」
顎に手を当てて王留美が考えこむようにしながらも、QBに期待する発言をする。
テロの多発する現状には、人革連のセルゲイ・スミルノフも注視し、UNIONのグラハム・エーカーに至っては無駄にカスタム・フラッグを飛行させていた。
曰く「私は我慢弱く、落ち着きのない男なのさ。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いと来ている」との事。
テロの影響を受けて、マリナ・イスマイールの外交はキャンセル続きとなり、上手くいかないと難航。
更にはシーリン・バフティヤールとの通信でアザディスタン国内の情勢がいよいよ悪化し、マリナが国の王女として旅をできるのも最後になる可能性が出てきていた。
経済特区・東京ではルイス・ハレヴィが母国の母から帰国するように催促する電話を受け、その事についてサジ・クロスロードと同じく電話でやりとりしていた所、絹江・クロスロードが帰宅した。
JNNは連日CBのせいで大忙しであり、情報も不可解なものが多く、訳がわからないと疲れはてていた。
二人はCBの件とテロの件について暗い表情で会話を交わし、一段落着いた所で絹江が言う。
「サジ、これ欲しい?」
と徐に取り出して、しかも頭部を鷲掴みにして見せたのはどう見てもQBの人形。
「どうしたのさ姉さん、そんなの。気味が悪いよ」
サジが顔を引きつらせて言った。
「天柱極市支社に出張していた同僚から無理矢理渡されたのよ。ストレス解消になるぞって」
そのままQB人形の胴体をサジの目の前で絹江がブラブラ揺すって見せる。
一番最初に人革連でQBが出現した事で、売れるかも知れないとどこかの人形メーカーが作ったとのこと。
「ストレス解消って……」
「こう使うらしいわ。 ハぁッ!」
絹江はQB人形を空に放り上げ右ストレートをかまして、部屋の隅にぶっ飛ばした。
「…………姉さん」
サジが呆れて言った。
しかし、使い方は正しい。
何しろQB人形の販売コーナーでのテロップには意味としては「僕を右ストレートでぶっ飛ばしてよ!」と書かれているのだから。
売れ行きは好調、意外にも人革連の軍関係者によく売れているらしい。
余程殴りたいのだ。
ガンダム各機はそれぞれ予定ポイントで待機に入った。
ヴァーチェはオーストラリア・山間部。
キュリオスは人革連・砂漠地帯。
デュナメスはUNION領・南米・森林地帯。
エクシアはAEUスコットランド・山間部。
エクシアのコクピット内で待機していた刹那は昔の事を思い出しながらも、センサーに反応があったのに気がつく。
そこへ丁度王留美からの通信が入り、備え付けの二輪自動車でテロの実行犯が乗ると思われる茶色のクーペを確保に向かう。
一度はその車を捕捉したものの、結果としては逃げられてしまい、それどころか、銃を構えていた事で警官に捕まりそうになる。
だが、そこへ現れたのはマリナ・イスマイールであった。
警官をやり過ごす事ができた刹那はマリナと話がしたいという理由で街の景色が見える場所に移動した。
マリナは刹那をアザディスタンの出身だと勘違いしていたが、クルジスだと言われ、動揺した。
なぜなら、クルジスを滅ぼしたのはそのアザディスタン。
焦ったマリナはそこで去ろうとした刹那を引き止め更に会話をした。
刹那はマリナからアザディスタンで現在抱えている問題についての悩みを黙って聞いたが、CBの名前を口にした。
マリナはCBが死者を出さないようにできるだけ配慮しているのはせめて良い事だけれど、それでもやり方が一方的すぎる事には変わらないと言い、そこから言い合いになる。
結果、刹那は自分がガンダムマイスターである事を暴露し、マリナに精神的ショックを与えて去っていった。
―王家邸宅―
刹那が取り逃がしたテロ実行犯の男は黒服のエージェント達によって確保され、そこからテロ組織の情報が引き出された。
紅龍が報告する。
「お嬢様、確定情報です。国際テロネットワークは、欧州を中心に活動する自然懐古主義組織ラ・イデンラと断定」
王留美が命令する。
「各活動拠点の割り出しを急がせなさい」
それから、しばらくして情報が収集され報告が入った。
「各エージェントより報告です。ラ・イデンラの主だった活動拠点は、既に引き払われているようです」
王留美が少しばかり残念そうに言う。
「周到ね。これでまた振り出し……」
そこへ、紅龍が声を上げる。
「待って下さい。テロメンバーと思われる者のバイオメトリクス抽出情報がネットワークに流出しています。NROの主要暗号文、DND、DGSEの物まで。お嬢様」
この情報はAEU、UNION、人革連の各諜報機関が意図的に流させた物であった。
理由は単純に利害の一致でしかない。
しかしそれでも王留美は面白そうに言う。
「世界が動けと言っているんだわ。わたくし達に」
―各ガンダム―
スメラギからマイスター達に通信が入る。
[ラ・イデンラの活動拠点は三ヶ所。グリニッジ標準時1400に同時攻撃を開始します]
[了解。ヴァーチェ。テロ組織の拠点への攻撃を開始する]
ヴァーチェが発進し、テロ組織の拠点へと向かう。
[キュリオス、バックアップに回る]
組織の拠点が三ヶ所である為、アレルヤは余る。
クリスティナ・シエラがロックオンに通信を入れる。
[敵戦力は不明です。モビルスーツを所有する可能性もあります]
ロックオンはようやく行動開始か、と呟く。
「そんなもん、狙い撃つだけだ」
そして、刹那も二輪自動車から戻り、エクシアへ乗り込み、ラ・イデンラの艦船を破壊しに向かった。
[エクシア、介入行動へ移る]
それにより、南国島でのスメラギ達の仕事は現地でQBが出ようがでまいが終了となり、ビーチで遊び始めたのだった。
そこへ麦わら帽を被ったイアン・ヴァスティが現れ、日光浴をしているスメラギに言った。
「まさか各国の諜報機関が協力してくれるとはぁ、良かったじゃないか」
スメラギが苦笑して答える。
「いいように使われただけです」
「だが、大いなる一歩でもある……」
「ですね」
どことなく嬉しそうな表情。
出撃したヴァーチェ、エクシアはラ・イデンラの基地と艦船を完全破壊及び駆逐。
ロックオンはというと、UNION・南米・山岳地帯に到着していた。
行動に入る前に、QBが現れる。
「勿体無いけど、今回は全部コクピットを狙い撃ってよ!」
可愛らしい少年の声で頼んた。
「だぁっ! 俺は今イライラしてんだよ! 出てくんな!」
今のロックオンには捕まえる気すら起きなかった。
「ふぅん。その様子なら全滅させそうだね。僕は帰るよ」
言って、不思議そうにQBは消えた。
瞬間、ロックオンは身体をわなわなと震わせながら腹の底から声を出す。
「あぁァ、次出たら、何かすげぇぶん殴りてぇ! 今日の俺は……容赦ねぇぞッ!!」
QBにはその気は無かったが完全に火に油を注いだ。
ロックオンは現場に到着すると、精密射撃モードを使わずGNビームピストルをとにかく乱射して、岩場に構築された隠れ家にくまなく発射。
「容赦しねぇ、お前らに慈悲なんかくれてやるかぁッ!!」
大声で叫びながら、ロックオンは暴れまわった。
ヘリオンが出てくればGNスナイパーライフルを構え、全弾コクピットを狙い撃った。
テロ行為に対する武力介入はロックオンが言った通り容赦が無く、ラ・イデンラの主要拠点三ヶ所は壊滅した。
QBとしても、小規模だがかなり多数のテロが起きた為、充分と判断し、これ以上無駄に人間の数を減らされるのも勿体無いので、テロリストの始末を頼んだのであった。
CBはやりすぎたのか。
圧倒的物量で行われる殲滅作戦、そこに隠された真の目的とは。
QBの真の目的は感情エネルギーの回収。
万能などあり得ないのか。