本小話は「正しく2nd始まるよ!」の後辺りに入るものです。スクロールバーを見れば明らかですが物凄く短くて申し訳ありません。
―ラグランジュ2・コロニー型外宇宙航行母艦CB―
ミレイナ・ヴァスティは指を立て、CB号の格納庫で唐突にこう尋ねた。
「パパ、つかぬことを聞くです。……魔法少女についてどう思うですか?」
「んー。どうしたんだぁいきなり。……まさかミレイナ、お前魔法少女になりたいのか」
一瞬困惑して、はたと察したようにイアン・ヴァスティは目を丸くした。
「ち、違うです! ただ聞いてみただけですぅ!」
慌ててぶんぶん手を振って否定するミレイナに対し、イアンはすぐ普通の顔に戻って答え始める。
「まぁ冗談だ。ぅん……そうだなぁ。結構複雑な話題なんだが、儂の客観的考えを言えば、だ。魔法少女は誰かがやる必要のある役目のようなものなんだろう。聞いた話によれば魔獣とやらが生まれるのは避けようがない事で、その対策は魔法少女が昔も昔からやっていることになる。このCBができるよりも遙か以前からだ」
イアンの話にミレイナはじっと耳を傾ける。
「ただQBが願いを叶える代わりに子供が魔法少女になるのは、個人的な感情を言えば儂は積極的に支持はせん。だからといって消極的に支持するなんて話でもないがな。……この際はっきり言っとくが儂はミレイナが願いごとがあるから魔法少女になりたいなんて言い出しても認めんぞ。お前の親としてな」
「は……はいです」
ミレイナは真剣にゆっくりと頷き、イアンは少し苦い表情をしたまま更に続ける。
「……何となく分かったつもりではいるが、魔法少女だからといって儂らが同情したり、妙な感情を持つのは筋違いなんだろう。願いとやらがどれぐらいのものまで実現させられるのかは分からんが、普通ではありえないことを可能にする代わりに魔法少女になって戦うという条件が厳しいかどうかはそれぞれ人によって当然違ってくるだろう。前に例の暁美ほむらが話していた時の記録映像を見たことがあるが、その話す態度からミススメラギ達もそういっていたが、儂もそう感じた。魔法少女全てが暁美ほむらのような強い意思がある訳ではないだろうし、QBのやり方には言ってやりたい文句の一つや二つ簡単に思いつくが……そういう暗黙の了解のもと普段余り話題にもしない。CBの活動が魔獣の増える要因になっとる以上尚更、な」
そうであるが故に、何か言えた義理ではない。考えれば考えるほど複雑になり、魔法少女などというファンタジーでしかありえないような用語を自分で連呼することに若干の違和感を覚えながらイアンは目を細めた。
「それに実際の所どうなのかははっきり知らないが、ティエリア達と同じイノベイドの魔法少女達が恐らく生み出されていることを思うと余計に複雑だ」
「アーデさん達ですか……」
うぅん……とミレイナは小さく唸った。
「本来イオリア計画のためにヴェーダとイノベイドが必要だったんであって魔法少女のためにイノベイドが必要だった訳じゃない。当然ミレイナも分かってるだろうが、ティエリア達は自身の意志を持っている。お前が生まれる前にいた儂らの仲間もそうだった。皆、儂らと変わらない心を持っとるんだ」
ビサイド・ペインに端を発するCB組織内部の内紛によってビサイドとの戦闘でマイスター874は命を落としかけ、ビサイドによって操られたヒクサー・フェルミの弾丸を受けて致命傷の状態だったグラーベ・ヴィオレントは最後の僅かな命を賭しビサイドと戦って死んだ。そこには確かに人としての心が、確かな意志があった。イノベイドなら魔法少女になっても良い、という論理は決して正しくなどない。正しくなど無いが……それでも、だが、なお、しかし……。過去の事が不意に脳裏を掠め、沈痛な面もちのイアンが続ける。
「理不尽な事だが、感情を抜きにすればそれが一つの合理的な選択なのは、全てを納得したくは無いが、儂にも分かる。儂らにできることは儂らは儂らでやるべき事をやって、その一方でそういう現実があることを心に留めておくしかない。儂はそう思うぞ。他の皆がどう思ってるかは……また聞いてみたらどうだ。余り勧めはしないがな」
「……分かったです。ありがとうです、パパ」
ぐっと堪えるようにして聞いていたミレイナはふっと息をついて言った。
(か、かなり真剣な話だったです……)
むむむ、と唸りながらその場を後にしたミレイナは別の場所に向かった。
「ノリエガさんは魔法少女について、どう思うですか?」
「えー魔法少女? そうねぇ、まず若さが減らないのは羨ましいわぁ……。300年よ300年。それに願い事も叶えられるでしょう、でもそんなことよりも私なんてもうまほー☆しょうじょー! なーんて歳じゃないのよ……全く、もう嫌になるわぁ……。フェルトやシェリリン、ミレイナはいいわよねぇ。だいたいあのQBに願い事を叶えてもらえるなんて本当に信じて願い事をいうとしたら、その子絶対思春期、思春期よ、思春期真っ盛りよ。頭の中ファンタジーよ。そう思わない?」
羽目を大いに外し酒を大量に飲んでできあがっていたスメラギ・李・ノリエガの思考はどこからどうみても正常からほど遠く、テンションがあがったりさがったり面倒臭かった。
「え、えーと。そ、そう思うです……」
そもそも酔っぱらいに話を聞いたのが間違いだった、とミレイナは絡まれる前にそそくさと退散し、通路を歩きながらため息混じりに後悔した。
(か、完全に酔ってたですぅ……)
そこへ反対側からアレルヤ・ハプティズムがやってきて軽く声を掛けてくる。
「やぁミレイナ。ため息ついて、どうかしたのかい」
ミレイナはパッと顔を上げてまた同じ質問をする。
「ハプティズムさんは……魔法少女についてどう思うですか?」
「えっ、ああ……魔法少女か……そうだね。余り触れないようにしたい話題ではあるけど……僕達の行動が彼女達に関係しているのは紛れもない事実だ。目を背けてはいけない。彼女達に申し訳ないと思う気持ちはあるけど、それは僕の勝手なエゴで……だとしても、だからこそ分かった上で僕は活動を続ける必要があると思う。仕方がないっていう言葉で簡単に片づけたくはないんだけどね……あんまり上手く言えなくてごめん、ミレイナ」
微妙な様子で答えたアレルヤに、ミレイナは首を振る。
「いえ! そんなことないです。ありがとうございました!」
するとアレルヤは「魔法少女についてならロックオンや刹那にも聞いてみたらどうだい。じゃ」と言って去っていった。少なくとも戦術予報士よりは余程まともな言葉だった。
ミレイナは次にアレルヤの言葉に従い、ロックオン・ストラトスのもとを尋ねると、丁度部屋を出てきたため同じ質問をした。
「魔法少女、初めて魔法少女に遭遇した時は自分で正気を疑ったな……。ま、それは半分冗談としてだ。QBは相変わらず胡散臭いが……俺達CBには俺達のやることがあるように、魔法少女には魔法少女のやることがあるって言った所か。……だが大人の割り切った考えを真に受ける必要も無いだろうさ。ミレイナぐらいなら、でも、と感情で何度も食い下がるぐらいの元気が丁度良い。……っと、CBにいる以上はそうも言ってられない……か。それよかミレイナ、あんまり聞き回ってるとQBが出てきて話し掛けてくるかもしれないから気をつけろよ。悪いが今から俺は機体テストだから行ってくる。じゃあな」
余り深く語りたくないという様子のロックオンはやんわりと釘を指した。
「は、はい……ありがとうです。頑張って下さいです!」
背を向けたまま片手で返事を返してロックオンは去っていった。
(次はセイエイさんです……)
正直ミレイナには話しやすい相手とはお世辞にも刹那・F・セイエイは言い難い存在だった。それはなぜなら、実際に尋ねてみると……、
「……魔法少女は俺達と似ている。俺達CBが世界と向き合って戦い続けるように、魔法少女は闇の底から人々を狙う世界の歪みと戦い続けている。そして俺は希望の神がいることを知った」
刹那は抽象的な言葉を真顔で口に出し、ミレイナはぽかんと首を僅かばかり傾げる。
(……神……?)
刹那は明日を見るような目で続ける。
「この世界には希望の神がいる。世界の歪みを断ち切ったその先に……。彼女が戦い続けるように、俺も戦い続けて世界を変える。そう約束をした。それでこそ俺達はガンダムマイスターだ」
「な、なるほど…です……?」
言葉とは裏腹に、真剣さだけは伝わったもののミレイナには所々、というか少し……よく分からなかった。
少なくともあちこち尋ねて分かったのは、魔法少女についてそれぞれ思う所はあれど、それでもCBは戦い続けるという現実を見据えた共通の意識があるということだった。
……そして、一応聞き回って興味の落ち着いたミレイナのもとに来訪者が現れる。その白い生物は気さくに可愛らしい声でこう首を傾げて尋ねた。
「こんばんはミレイナ・ヴァスティ。随分熱心に魔法少女について聞き回っていたようだけど、もしかして君は魔法少女になりたいのかい?」
「謹んでお断りするです!」
当のミレイナはQBの質問には答えず結論からビシッと片手を突きつけてお断りし、
また、別の場所では戦術予報士が酒を勧めてくるのを「謹んで辞退します」と言って律儀に断るティエリア・アーデの姿があったとか、なんとか。
スメラギは軽くむすっとして「いけず……」とつれないんだから……と漏らし、
QBは契約希望者かと思えば釣れなかったがCBのメンバーを勧誘しても関係が悪化するのは容易に想定できるが故に「やっぱりそういうだろうと思ったよ」と予想の範囲内だったという。
本小話後書き
重ねて物凄く短く、申し訳ありません。
数ヶ月前に完結済みの本作ですが、感想掲示板での質問についての一応の答えとしまして小話を本当に今更ですが投稿させて頂きました。
……ただ、それだけではあんまりなので、無理矢理一つ。別に私はどこぞの回し者という訳でもありませんが、
「魔法少女まどか☆マギカポータブル」
が昨日から発売したようです。
(何やらQB視点のゲームとかで、私のようなキュゥべぇ好き向け、なのかもしれません。とはいえ、残念ながら私自身やる予定は無いのですが……)
……以上、完全に蛇足でした。