―CBS-74プトレマイオス2・ブリーフィングルーム―
刹那・F・セイエイは魔獣に対するライザーシステムの使用による対話の試みの結果を報告し終え、ある程度纏まった所でその話はそこまでとなった。
しかし、そこへQBが突如現れ、一方的にライザーシステムを作動させた場所に居合わせたアーミア・リーがその影響でイノベイターになり、一度高濃度GN粒子を浴びるだけでも覚醒するケースもあるという事を話して消えた。
間を置いてスメラギ・李・ノリエガが言う。
「……また、唐突だったけど、イノベイターへの革新の条件は個人によって相当差があるようね」
「俺達だって余程浴びている筈だが、今のところ刹那だけらしいしな。良く分からんよ」
やれやれ、とロックオン・ストラトスが言い、次にアレルヤ・ハプティズムが悩むようにして口を開く。
「QBが言うからには少なくとも嘘ではないだろうけど、そういう事もあるんだね……。けど、スメラギさん、今のアーミア・リーという子は放置して大丈夫なんでしょうか。人革領というのが僕には気がかりです……」
スメラギは顎に手を当てる。
「当分の間は平気だと思いたいけれど、何ともいえないわね。ヴェーダもまだその子がイノベイターだと認定していないし、私達が一般市民に関るのは難しいわ」
「そう、ですよね……」
ティエリア・アーデが僅かに眉間に皺を寄せる。
「世界はイノベイターという存在自体を知らない。だが、今後イノベイターが増えて行く過程で能力差が露呈し問題になる可能性はある……」
リジェネ・レジェッタが引き継ぐように言う。
「……あの人革連超人機関のようなものが研究という名の人体実験を行い始める可能性は大いにあるだろうね」
「……と、言っても、今日明日の事じゃないだろうさ」
アレルヤの表情が暗くなったのを感じ取り、ロックオンが両手を広げて言うと、静かに腕を組んでいたリヴァイヴ・リバイバルが冷静に言う。
「人類のイノベイターへの進化はイオリア計画の一部。我々は今後も活動を続けて行く必要があります」
「そういうことー」
頭の後ろで腕を組みながらヒリング・ケアが言った。
「人の意識を繋ぐ過程で生まれるイノベイター……」
刹那は小さな声で呟いた。
解散後、ヒリングは部屋で虹彩を輝かせ、リボンズ・アルマークに呼びかける。
《ねぇ、リボンズ、この調子でイノベイター増えてほんとに良いの?》
落ち着いた声が返る。
《もちろんさ。……戦闘型である僕達の存在意義が揺らぐのが心配なようだね》
《ま、まぁ……》
《確かにイノベイターは僕達よりも個体としての能力は高いだろう。けれどイオリア計画の根幹を為すヴェーダと僕達はリンクする事が可能だ。それに完全な不老、意識データのヴェーダ内での保全……これらがイノベイターを凌駕しているのは厳然たる事実だ。CBの機密情報を維持できているのも僕らがいるからこそ。イノベイターが増えたとしても僕らの為す事は変わらないさ》
全く動じないリボンズの声を聞いて、ヒリングは納得する。
《う、うん。別にイノベイターが増えても気にする事なんてないね》
……しかし。
ブリッジにて作業中のクリスティナ・シエラが驚いて声を上げる。
「大変ですスメラギさん! ネットワーク上にイノベイターに関する情報が流出してます!」
スメラギが慌てて身を乗り出す。
「な、何ですって!? 一体誰が」
「マジっすか」
「おいおい冗談だろ」
真剣にコンソールを叩きながらクリスティナが言う。
「……どうやら情報を流したのはQB……みたいです」
スメラギがうんざりする。
「またQB……」
「やってくれるな」
「うわ、ホントに……」
ラッセ・アイオンとリヒテンダール・ツエーリもクリスのモニターに近寄って確認し呟いた。
そこへすぐ目の前のモニターにリボンズが映る。
「リボンズ」
[……全く、QBにしてやられたよ。ヴェーダに情報の即削除を申請したらこの僕が拒否される始末さ。各陣営の上層部だけなら僕らとしても意図的な情報の流出はあり得たけど、この段階で一般のネットワークにまで情報を流されるとは余計な事をしてくれた。恐らくイノベイターの情報を世界に知らせる事で、新たな火種を生ませ魔獣を増やすのが狙いだろう]
そう言うリボンズの顔は酷く引き攣り、演技とは言えない程に不機嫌そのものであった。
「ティエリアには……そう言っておくわ」
[ヴェーダにアクセス権のある僕が疑われるのは仕方ないとしても、いい加減信じて欲しい所だけどね。スメラギ・李・ノリエガ、これからの世界の反応次第だけど、今後のミッションプランの作成頼むよ]
そう、伝える事をリボンズが言うと、スメラギが頷く。
「……分かったわ。本当に、QBには困ったものね」
[大分機嫌が悪いからこれで失礼するよ。では]
言って、通信は一方的に切れた。
クリスティナが微妙な表情をする。
「不機嫌そうでしたね……本当に」
「ええ……そうね。これでこっちはミッションプランの計画を臨機応変に見なおさなければならなくなるし……勘弁して欲しいわ」
スメラギは大きな溜息混じりに天井を仰いだ。
CBは秘密にしておくつもりだったけど、僕らから全地球人類に伝えるよ。
イオリア・シュヘンベルグの提唱する新人類、イノベイターについてだ。
イノベイターというのはCBの有するガンダムのGN粒子を浴びることで進化を促され生まれる存在だよ。
イノベイターは状況把握能力、空間認識能力、脳量子波の増大、細胞変化による肉体強化、理論的に通常の人類の二倍の寿命といった、今この星に生きている一般的な人類の能力を凌駕する特性を持つ。
君たち人類にとってイノベイターへの進化は魅力的な事じゃないかな?
今後もし自分に何か変化が起きているように感じたら、それはイノベイターに進化しているのかもしれないね。
ネットワーク上に流出した情報は大体このようなもの。
コロニー型外宇宙航行母艦CBでリボンズは何度もネットワーク上からの情報削除を申請したがヴェーダから全て却下され、情報流出を知ったティエリアも憤慨し、次にQBが出た瞬間には殴らないと気が収まりそうになかった。
そしてイノベイターに関する情報はたちまち世界中で波紋を呼び始める。
勝手な計画遂行の為に人類を一方的に進化させようとするCBのやり方は言語道断だとして批判が現れたり、その一方で脳量子波の増大や寿命が常人の二倍になるという眉唾ものの情報に生物分野の研究者達は水面下で動き出したりと、QBの意図的な情報流出はその計画通り、世界に大きな一石を投じた。
―人革連・ロシア南部軍事基地―
イノベイターに関する情報が流出して数日。
セルゲイ・スミルノフの士官宿舎に唐突に黒服にサングラスをかけた軍関係者が複数訪れ、玄関でスミルノフに敬礼する。
「人類革新連盟軍・宇宙技術開発局よりソーマ・ピーリス中尉をお迎えに参りました」
「中尉を……何の目的か、聞いても良いか」
このタイミング……例のイノベイターとかいう話が関係している……。
スミルノフは不審そうに尋ねた。
「我々は中尉の移送のみが任務であり、その質問にはお答えできません」
「……私はそのような話をまだ知らされていない。何か証明するようなものはあるか」
スミルノフが唸って言うと、黒服の一人が書類を出して見せる。
「こちらを」
そこには、確かにソーマ・ピーリスの身柄引き渡しに関する軍上層部からの指示が書かれていた。
そこへ問題の人物が現れる。
「大佐、一体……?」
「ピーリス」
その後、ピーリスは人革タワー低軌道ステーションの研究施設へとスミルノフに詳しい情報を知らされる事無く、素早く移送された。
人革連の軍研究機関はイノベイターに関する情報にいち早く対応し、超兵であるピーリスから徹底的にデータ収集を行う為、ピーリスの研究施設への移送を決定したのである。
A.D.2312。
CBにより度重ねて行われ続ける高濃度高純度GN粒子の散布の影響が、徐々にその効果を現し始める。
世界各地でイノベイターへ覚醒する人々が現れ始めたのだ。
彼らに共通する変化は、ほぼ確実に当たる勘のようなものが働き、身体機能の向上、果ては他人の思考が読める事があるなど……。
イノベイターに覚醒したのではないか、そう客観的に推測され易かったのは、とりわけスポーツ分野に携わる人物で、記録に残るような目覚しい成績を上げる人物が現れた時にはニュースに取り上げられた。
同時に、彼らが試合や競技に出ることは不公平ではないか、と議論も起こり新たな問題が浮上し始める。
しかし、世界で表沙汰になる事のないより大きな問題が起きていたのは、各国の軍研究機関において。
軍人の中でイノベイターへと覚醒したのではないかと推測された者達の元には軍の高官が研究者を連れて現れ、一方的な指令書を突きつけ、軍の研究施設に移送。
そこでは研究と称する人体実験が日々行われ、人革連の超兵特務機関の再来と言う程の完全に人権を無視したような非道な行為は行われないまでも、彼らは決して良いとはお世辞にも言えない環境下での生活を余儀なくされた。
言わば彼らはイノベイターというモルモットになったのである。
彼らの絶望も、QBの計画通りであったのか……。
そして世界がそのような動きを見せ始めてから間もない時の事。
CBに届いた情報が、アレルヤ・ハプティズムにある決意をさせた。
―ラグランジュ2・コロニー型外宇宙航行母艦CB―
プトレマイオス2は定期メンテナンスの為にコロニー型外宇宙航行母艦CBに帰還していた。
アレルヤはCBのファクトリー内でイアン達と機体に関しての話をしていた所、近場のモニターにスメラギが映る。
[アレルヤ、ちょっとこっちに来て貰えるかしら。ヴェーダが収集した情報に、あなたに伝える事があるの]
CB号内で生活する時はここぞとばかりに酒ばかり飲んで生活しているスメラギであったが、この時は思いつめたような表情をしていた。
「はい……分かりました。今行きます」
アレルヤは静かに頷いてその場から、スメラギの元に向かった。
広々としたホールのようなソファにはスメラギ、ティエリア、そしてリボンズの姿があった。
「それで、僕に伝える情報というのは一体何です?」
スメラギがゆっくり口を開く。
「……ソーマ・ピーリス、言い換えればマリーさんが人革の低軌道ステーションからあのスペースコロニー・全球に移送されるという情報をヴェーダが掴んだわ」
「マリーが全球に!?」
アレルヤの驚愕を他所に、ティエリアが宣告する。
「ヴェーダによると人革連軍部の機密情報には最終的に処分される可能性も示唆されている。このまま行けば彼女が君の望み通り平穏な生活を送る可能性は限りなく低いだろう……」
「な、なんてことだ……」
後ろに控えていたリボンズが一歩前に出る。
「アレルヤ・ハプティズム、ここからは君の意思次第だ。僕達としてはガンダムマイスターである君には万全の状態でミッションを遂行して貰いたい」
リボンズは右手を上げて見せて続けて尋ねる。
「そこでだ。マリー・パーファシーをCBのメンバーとしてスカウトしに向かうというミッションを君は引き受けるかい?」
アレルヤが目を見開く。
「マリーをCBにスカウトだって? ……それはつまり」
目を向けられたスメラギは頷く。
「そういう事よ。CBのメンバーのスカウト……これは列記としたCBの重要な活動の一つ。あなたに私情が混じっているかもしれないけど、それとこれとは別」
反芻するようにアレルヤが沈黙すると、ティエリアが呼ぶ。
「アレルヤ・ハプティズム」
そこで、アレルヤの迷いの見える表情はみるみるうちに、決意に満ちたものへと変化する。
「そのミッション、引き受けます」
フッとリボンズが息を吐く。
「そうとなれば話は決まりだ」
続けてティエリアが真剣な目付きで言う。
「バックアップには僕が入らせて貰う」
「ティエリア。……またこんな事になるとはね。感謝するよ」
アレルヤは四年前、同じスペースコロニー・全球でミッションを行った時の事を思い出しながら言った。
……かくして新たなるミッションがその幕を上げる。
―ラグランジュ4―
ラオホゥ型多目的輸送艦一隻が、スペースコロニー・全球へ向けて宙域を移動し、程なくして到着する距離に入っていた。
「スミルノフ大佐……」
アレルヤ……。
私はこのままあなたにも会えずに……。
艦内の一室で宇宙服を着たマリーは力なく浮いていた。
そこへ所変わってブリッジにてオペレーターの一人が報告する。
「Eセンサーに反応! 右舷後方から何かが急速に接近して来ます!」
「MSか!? 早くモニターに出せ!」
「了解!」
慌ただしく最大望遠でモニターに映し出されたのは、
「が、ガンダムです!」
二機のガンダムの姿。
「何だとぉ!」
すぐに艦内に警報が鳴り響き始める。
「な、何……?」
マリーがその音に顔を上げた。
一方、輸送艦を捉えていたアレルヤが言う。
「これよりミッションに入る!」
アリオスとセラヴィーはバーニアを噴かせ、目標に接近する。
そこへラオホゥ一隻の三つのうち二つの格納庫から計六隻のティエレンが緊急出撃して現れる。
[予定通り先行する!]
「了解。アリオスとティエレンはこちらで引き受ける」
ティエリアが返事をすると、巡航形態のアリオスは更に加速して行った。
「ティエレンなど……行けッ!」
ティエリアの虹彩が輝くと同時に10基のGNビットがティエレンに向けて飛び、次々と粒子ビームを放つ。
後方から粒子ビームが飛び前方のティエレンが煙を上げ、全ての武装が瞬く間に沈黙させられていく中、アリオスはMS形態に瞬時に変形してラオホゥ中央部後部にピッタリと張り付き速度を同調させた。
「これで!」
直ちにアレルヤはコクピットハッチを開けて飛び出し、スーツの噴射角度を合わせ、人員搬入用の通用ハッチに接近し、ガンダムマイスターのみがヴェーダによって与えられている『世界の鍵』とフォン・スパークが勝手に呼んでいるあらゆるセキュリティの解除能力を行使し、呆気無く通用ハッチの鍵を解錠し、内部へと侵入する。
《こっからは俺に任せな相棒!》
そして、瞬時にアレルヤとハレルヤは切り替わった。
ハレルヤは用意していた発煙弾を無造作に前方に投げて艦内に煙を瞬く間に充満させ始め、通路内の床を力強く蹴り、スーツの噴射も利用しながら目的の部屋まで一気に進む。
「煙幕!? 前がっ!」
視界が煙で遮られた中、ハレルヤは通路内にいる者達の鳩尾、首筋を強烈に殴り、気絶させて行く。
「おらよォッ!」
「っかは!」
「ぐッ!」
視界が悪くとも脳量子波によって周囲の状況を感じ取る事ができ、直線的な造りをした艦内において移動するのはハレルヤにとって造作も無かった。
《ハレルヤ、二つ先の部屋だ!》
《おうよマリーの脳量子波だァ!》
予めヴェーダからの情報によりマリーのいる部屋を知っていた為、迷うこと無く目的の部屋に辿り着く。
電子錠式のロックを再び一瞬にして解除し終え、扉が開く。
煙と共に中に入る。
「マリー!」
「アレルヤッ! あなたなのねっ!?」
マリーはオレンジ色のパイロットスーツを着た人物に対し声を上げた。
アレルヤは手で示して言う。
「細かいことは後だ。急ごう。ヘルメットを」
それにマリーは無言で頷きヘルメット内蔵式の強化ガラスを降ろした。
素早く部屋から出るとアレルヤはマリーの手を引いて真っ直ぐ来た通路を一気に駆け抜ける。
そのまま最後尾のハッチを開き、外へと飛び出し、正確に噴射角度を合わせ自動操縦のままになっていたアリオスのコクピットへと無事に戻った。
「ティエリア、目的は達成した」
[了解、現宙域より離脱する]
そして二機のガンダムは揃って即座にその場を後にした。
アレルヤはヘルメットを取り、悲しい表情で謝る。
「マリー、僕が覚醒させたせいでこんな事になるなんて……済まなかった」
マリーも強化ガラスを上げ、少し目に涙を浮かべて言う。
「そんな、気にしないで。こうして助けに来てくれて……ありがとう」
「ああ……」
そこへティエリアからの通信が入る。
[アレルヤ、予定通りトランザムで帰投する]
「了解。……マリー、加速Gに気をつけて」
「分かったわ」
マリーが頷くのを見て、アレルヤはトランザムの起動スイッチを入れた。
セラヴィーとアリオスは紅く輝き、夥しい量のGN粒子を放出しながら急加速する。
《アレルヤ、そんなに悲しまないで。私もこうしてあなたの顔を初めて見ることができた。覚醒したあの時も、一瞬だけど、あなただって、すぐにわかった》
意識共有領域内でマリーがアレルヤに呼びかける。
《僕もこんな風に君とまた会って、こうして言葉が交わせるようになるなんて、思ってもみなかったよ》
《うん……。ねぇ、どうしてたの。超人機関を脱出してから。教えて》
マリーがそう落ち着いて尋ねると、アレルヤは過去の記憶を思い出し重苦しく答える。
《……処分を免れようとして、仲間と一緒に施設から逃げたんだ。君を連れて行かなかった事を最初は後悔した。でも、それで良かったんだ》
《何が、あったの?》
《仲間と……輸送船を奪ってコロニーから脱出した。でも、行く宛てなんてどこにも無い。僕達は漂流を続け、やがて艦内の食料や酸素が底をつき、そして……》
漂流する輸送船内でハレルヤの人格が覚醒し、生き残る為に仲間を全員殺害。
その事を伝え終えると、マリーはアレルヤの悲しみを感じ取って言う。
《……知っていたわ。あなたの中にもう一つの人格があった事は。そして、さっき助けに来てくれた時もそうだったでしょ?》
意識共有領域内でアレルヤは首をふるようにして返す。
《言い訳になんかできない。ハレルヤは僕だ》
《でも!》
《唯一生き残った僕は運命を呪った……超人機関を、この世界を。……だから、世界を変えようとガンダムマイスターになることを受け入れたんだ。超兵にできるのは、戦う事しかないから……》
マリーは沈黙し、今度はアレルヤが尋ねる。
《マリー、ソーマ・ピーリスの時の記憶は……?》
《……あるわ。彼女の人格も》
《だったら分かるだろ。僕のした事。僕は……殺したんだ。仲間を、同胞を。この手で皆の命を二度も奪ったんだ……》
意識共有領域内で、マリーはアレルヤの手を黙ってそっと握りしめた。
アレルヤは何も言わずとも伝わってくる優しい感情に言葉を返す。
《……マリー。……僕はソーマ・ピーリスがマリーだと知って、救いたいと思った。戦場に出てくる君をせめて戦いに出なくて済むようにと思って、あの時、呼んだんだ》
《アレルヤ……》
《でも、それも結局こんな巻き込むような形になってしまって。しかも、それが叶った今、何をすればいいのか……。こんな僕が、君にしてあげられることなんて……》
マリーは握ったアレルヤの手を自分の体に引き寄せるようにする。
《いてくれるだけで嬉しいの……》
《マリー……》
マリーは目に涙を浮かべる。
《だって、あなたに出会えたのよ? 五感がなく、脳量子波で叫ぶしかない私に反応してくれたのはあなただけ。あなたのお陰で私は生きている事に感謝できたの。そんなあなたをこの目で見つめることができる。話す事も、触れることだって……! こんな時が訪れるなんて》
《マリー……》
マリーは手を握ったまま静かに目を閉じる。
《神よ、感謝します。アレルヤ……》
それを見て、アレルヤも感謝の気持ちを伝える。
《……ありがとう。生きていてくれて。ありがとう、こんな僕に生き甲斐をくれて》
《アレルヤ……》
そして、やがてトランザム限界時間が到達した時、アレルヤの虹彩は仄かに輝いていたのだった……。
ガンダムによるラグランジュ4に移動中のラオホゥ襲撃は公表される事は無かったが、この件は間もなくスミルノフの耳にも伝わり、スミルノフは複雑な心境ではあるが、ソーマ・ピーリスはマリー・パーファシーの無事を静かに祈った。
そしてこの後、マリーはCBのメンバーへの参加を自らの意思で希望し、仲間に加わる事となる。
しかし、世界の動きはそれとは関係なく、その後軍人から現れ出るイノベイターの扱いに関する問題は起こり続け、それが解消するのは……未来の話。