―南アフリカ圏軌道上・外気圏―
「GNフィールド最大展開。大気圏に突入開始します」
クリスティナ・シエラが報告すると同時にプトレマイオスの船体が夥しい量のGN粒子で覆われる。
空力加熱からGNフィールドが船体を完全に保護し、艦首前方が紅く染まった。
―AEU・静止衛星軌道ステーション―
「司令、Eセンサーに反応。大気圏に突入する物体を捕捉しました。……ゆ、輸送艦クラスの規模です!」
AEUの軌道エレベーター、ラ・トゥールの静止衛星軌道ステーションにて、オペレーターが驚いて報告した。
司令が慌てて右腕を振って指示を出す。
「輸送艦規模だと!? すぐに映像を出せ!」
「はっ! 最大望遠映像、出ます!」
次の瞬間、管制室の巨大なモニター画面に艦首部分が紅く染まったプトレマイオス2の姿が映しだされた。
その全長約300m。
管制室全員が驚愕の表情になる。
「ありえん。スペースシップごと地上に降りるなど……。一体どこの……まさかっ! 至急降下予測ポイントを割り出し、地上基地に入電を入れろ!」
場は急激に慌ただしくなり、管制官達は各所への入電を開始した。
―南アフリカ圏海域・高高度上空―
「GNフィールド展開終了。GN粒子散布、通常モードへ」
クリスの言葉と共に、プトレマイオスのGNフィールドが解除される。
「トレミー、一旦減速して通常飛行モードを維持」
「了解です」
プトレマイオスは減速を開始し、高高度で滞空状態に入る。
スメラギ・李・ノリエガが続けて指示を出す。
「ガンダム各機の発進シークエンスお願いね」
「了解。ダブルオー、ケルディム、アリオス、カタパルトデッキへ移行」
フェルト・グレイスのオペレートに従い、第一、第二、第三格納庫から三機が移動し、到着する。
「リニアカタパルトボルテージ、230から520へ上昇。各機体をフィールドに固定」
「トレミー、全ハッチオープン」
プトレマイオスの艦首に存在する左舷第一デッキ、右舷第二デッキ、中央第三のカタパルトが開き、リニアフィールドのランプ全てが点灯する。
「各機、リニアシステムクリア。射出タイミングを譲渡」
ブリッジのモニターに刹那・F・セイエイ、ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズムの映像が表示される。
[了解。ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出る!]
[了解した。ケルディム、ロックオン・ストラトス、出撃する!]
[アイハブコントロール。アリオス、アレルヤ・ハプティズム、目標へ飛翔する!]
三機はそれぞれリニアフィールドに火花を散らしながら出撃して行く。
フェルトが次の発進シークエンスに入る。
「続いて、セラヴィー、Zガンダム、Zガンダム、スタンバイ」
格納庫から次に出撃する四機が移動を開始し、カタパルトデッキに到着。
リニアフィールドに固定。
今度はクリスティナが言う。
「射出タイミングを譲渡します」
ティエリア・アーデ、ヒリング・ケア、リヴァイヴ・リバイバルの姿がモニターに映る。
[了解。セラヴィー、ティエリア・アーデ、行きます!]
[りょーかい。Zガンダム、ヒリング・ケア、行くよ!]
[了解。Zガンダム、リヴァイヴ・リバイバル、発進します]
続けて三機のガンダムがカタパルトデッキから出撃して行く。
そして、最後の二機の発進。
「リニアシステムクリア。射出タイミングを譲渡します」
リジェネ・レジェッタとリボンズ・アルマークの二人がモニターに映る。
[了解です。Zガンダム、リジェネ・レジェッタ、出撃をします]
[了解。Zガンダム、リボンズ・アルマーク、行く]
左舷と右舷のカタパルトデッキから二機がそれぞれ出撃した。
メインモニターに映る各機が小さくなって行く中、フェルトが言う。
「発進シークエンス、終了です」
「プトレマイオス、光学迷彩展開」
フェルトがコンソールを操作し、プトレマイオスの船体が周囲の景色に合わせて姿を消した。
そこでようやくブリッジの緊張がほぐれる。
スメラギがホッと息をつく。
「これで、一先ずね」
「はぁー。シュミレーションでは何度もやりましたけど、実際にトレミーごと大気圏突入するのは流石に緊張したっすよ」
リヒティが振り向いて言い、クリスティナが同意する。
「うん、ホントホント」
そこへリヒティの隣の、強襲用コンテナで何度も大気圏突入と離脱をこなしてきた経験のあるラッセ・アイオンが腕を組んで言う。
「ま、そのうち慣れるさ」
聞いて、スメラギが軽く頷く。
「そうね。さ、リヒティ、トレミーの進路をインド洋にお願い」
「了解です」
そして、プトレマイオスは高度を落としインド洋に潜水モードで潜行した。
丁度、フェルトの右隣の席で作業していたアニュー・リターナーが報告する。
「フェレシュテから暗号通信が入りました。予定通り、宇宙空間でのミッションに入るそうです」
スメラギが返事をする。
「了解よ」
―CBS-72プトレマイオスF―
宇宙空間には、CBS-70プトレマイオスをフェレシュテ用に大幅改造したプトレマイオスFの姿が、確かにあった。
プトレマイオスFは、コロニー型外宇宙航行母艦CBと同じく、オービタルリングからの無線電力供給を受ける事が可能。
その為、供給範囲内において理論上無制限に近い活動時間を持ち、その無制限の電源を利用して光学迷彩を常時展開していた。
女性オペレーターが報告する。
「Zガンダム、発進しました」
「分かりました。では、隠密ミッションも開始します」
言って、シャル・アクスティカは手近な何も映っていないモニターに向かって話しかける。
「ハナヨ、フォンの出撃準備を」
すると、モニターにもこっとした髪型の少女が映る。
「了解しました」
簡潔な返事が返るとハナヨは画面から消えた。
2303年頃に、データ上存在するイノベイドのマイスターハナヨはビサイド・ペインに関係して引き起こされたCB内の内戦の責任を問われ、またビサイド・ペインの裏切りを立証できなかった為に機能制限を掛けた独立端末、ハロにヴェーダの判断で封印されていた。
しかし、ビサイド・ペインの裏切りは事実であり、リボンズがヴェーダに進言した事でマイスターハナヨはその封印処理を解除され、現在はヴェーダを介してモニターやハロなどの電子機器の至る所に現れる事が元通りできるようになっていた。
フォン・スパークはハロと共に各部の老朽化したパーツを全改修済みのガンダムアストレアTYPE-Fのコクピットに乗り込む。
すると、ハロから小さなハナヨのホログラムが現れ、
[フォン、手錠を解除します]
フォンの手錠を解除した。
「よし、いいぜ」
アストレアはカタパルトデッキに移動する。
[機体をフィールドに固定。射出タイミングをアストレアに譲渡します]
リニアフィールドのランプが点灯し、フォンは爆発のような叫び声を上げる。
「ガンダムアストレア、オレ様出る! あげゃげゃげゃッ!!」
火花を散らしながらアストレアはプトレマイオスFから出撃し、程なくして宇宙空間へ姿を消した。
―AEUフランス空軍基地―
AEU軍の制服を着たカティ・マネキンは直接の連絡が入った為に、基地管制室に急ぎ足で到着し、状況を報告させていた。
「ピラーから入電。大気圏を突入して現れたCBの輸送艦から計八機の新型のガンダムが出撃。内三機がAEU領内、アフリカ圏を北上しているとの情報です」
聞いて、マネキンは個人的感想は舌打ちをして抑え、先に指示を出す。
「っ、見失う前に可能な限りガンダムの予測到達ポイントの割り出しと予測到達時間の算出、モビルスーツパイロットに出撃準備の通達! UNIONと人革連とも情報の共有を進めろ!」
「了解!」
「映像、送られてきました」
オペレーターの一人が言って、モニターに軌道ステーションで撮影されたプトレマイオス2とガンダムの映像が出る。
実際に見ながら、マネキンは手を握りしめ、驚く。
「本当に輸送艦ごと大気圏に……馬鹿な」
八機のガンダムに大気圏突入可能な輸送艦。
CBめ……今まで姿を消していたのは新型の開発の為。
この時期に再び姿を現した……明らかにこのタイミングを見計らっての事。
三陣営に手を組むように流れを作るつもりか。
―CBS-74プトレマイオス2・ブリッジ―
プトレマイオスはインド洋から太平洋方面へと海中を移動する。
暗号通信が入ったのを確認し、クリスティナが言う。
「ダブルオー、ケルディム。アリオスと別れ、間もなくミッションを開始します」
南アフリカ国境地帯。
共に北上していた三機の内、目標地点に近づきロックオンがアレルヤに有視界通信を入れる。
「アレルヤ、予定通り俺と刹那はアフリカを回る。ヨーロッパは頼んだぜ」
[了解。後で合流を]
アレルヤが簡潔に返事をした。
「ああ、また後でな」
通信を終えると、ケルディムとダブルオーは高度を落とし、アリオスは高度を維持したまま、スラスターの出力を上昇させ、欧州へと単独で向かった。
高度を落とした二機は、CBが姿を消した事で再発した国境間の紛争への武力介入を開始する。
「紛争を確認。ダブルオー、目標を駆逐する」
「ケルディム、目標を狙い撃つぜ」
二機は別れて鈍重なアンフが互いに砲撃を放ち合っている所へ向かって行く。
ダブルオーは左肩コーンスラスターにマウントされた非常に目立つ大型実体剣GNバスターソードIIを始めとして装備したセブンソード形態。
GNバスターソードIIは解体されたスローネツヴァイが装備していたGNバスターソードを参考に発展させた物。
ダブルオーはまず狙いを定めた一機のアンフに真上から一気に襲いかかり、GNソードIIロングで易々と上下に切り裂く。
大きな音を立ててアンフが崩れ落ち、続けざまにダブルオーはコーン型スリースラスターの向きを素早く変化させて噴かせ、次のアンフへと近付き、同じように沈黙させて行く。
一方、ケルディムに乗るロックオンは余裕の表情で、GNスナイパーライフルIIで遠距離からコクピットは避けて狙い撃ち続ける。
機体腰後部の二基のバインダー内に太陽炉を内蔵したケルディム。
その出力の為、デュナメスと比べ威力は勿論、射程距離も大幅に伸び、その場から動く必要すらも殆ど無い。
「当然だが、ビットは使うまでもないな」
「出番ナシ! 出番ナシ!」
青ハロがパタパタさせて音声を出した。
「今はな。UNIONやAEUの新型相手にする時は頼むぜ青ハロ」
狙撃中の為、手の放せないロックオンはそう声を掛けた。
「任サレテ! 任サレテ!」
CB活動再開最初の紛争介入終了。
コンソールを叩きながらフェルトが言う。
「ダブルオー、ケルディム、ファーストフェイズ終了。次の目標地点へと移動を開始しました」
そこへ、クリスティナのモニターに反応が現れ、報告する。
「ヴェーダから情報。ラ・トゥールにMS部隊が展開を開始したそうです」
スメラギが落ち着いて指示する。
「予定通りね。アリオスはプランS1を維持。最速でアイルランドへ。軌道エレベーター部隊が接近して来た場合は無視して振り切って。ダブルオー、ケルディムは南アフリカでのミッション継続よ」
「了解です」
それから間もなく、アニューが言う。
「セラヴィー、目標を捕捉しました」
「分かったわ。イアンさん、セラヴィーの武装交換準備お願いします」
スメラギはイアン・ヴァスティに連絡を入れた。
[了解だ]
インド洋上。
一隻の船が洋上を進んでいた。
国際テロネットワークの輸送船。
それをセラヴィーのセンサーが捕捉した。
「対象を確認」
言って、ティエリアは接近する。
両手に持つGNバズーカIIを両肩部のGNキャノン二門と接続し、その砲身を輸送船に向ける。
「セラヴィー、目標を消滅させる。ツインバスターキャノン。高濃度圧縮粒子、解放!」
ティエリアは両手の操縦桿の引き金を引いた。
甲高い音と共に二つの砲身が光り輝き、収束した一本のビームが放たれる。
巨大なビームは容赦なく輸送船の装甲を易々と貫き、内部から深刻な損害を与える。
次の瞬間、僅かに遅れて火の手を上げて大爆発を引き起こした。
轟音を立てて輸送船の残骸が海の藻屑と化す。
「セカンドフェイズ終了」
圧倒的な火力で以て輸送船を消滅させたが、セラヴィーの現在の姿は高機動形態。
セラヴィーはティエリアがヴァーチェとアイガンダムをミッション毎に分けて使用していたのを一機に纏め、Zガンダム寄りの高機動形態とそれに専用大型GN粒子コンデンサーを各所に装備した、重砲撃を連用できる重火力形態の二つに換装が可能。
セラヴィーはそのままインド洋に潜り、付近海中を同じように進んでいたプトレマイオスに有視界通信を繋ぐ。
[セラヴィー、プトレマイオスに一時帰投します]
ティエリアがプトレマイオスのモニターに映り、フェルトが答える。
「了解。第一下部コンテナ、セラヴィー着艦準備開始」
間もなくセラヴィーはプトレマイオスの下部コンテナから着艦、素早くGNバズーカIIをGNバスターライフルに武装を交換し、後で最終的にリジェネ機と合流し人革連軌道エレベーター天柱付近に向かうべく再出撃して行った。
「アリオス、後330でAEU軌道エレベーター空域を抜けます。計算上、偵察部隊を振り切れます」
クリスティナの報告にスメラギが頷く。
「予定通りね」
アフリカ圏AEU軌道エレベーター西南西方面高度空域。
索敵に特化した巡航形態のイナクト五機がV字隊列で飛行する。
突如現れた新型ガンダムに、AEUは依然稀少なGNドライヴ搭載機を出撃させはしなかった。
「こちら羽付き型ガンダムの予測通過地点に間もなく到達」
先頭の指揮官機が軌道エレベーター管制室に通信を入れた。
しかし、そこへ丁度センサーが反応し、望遠カメラが遠くの映像を捉える。
巡航形態のアリオス。
「ガンダム視認!」
パイロットが声を上げるが、すぐにその機影の移動速度に驚愕する。
「なぁっ、速すぎる!」
それでもイナクトは右に旋回し、進路を北に修正して追跡を試みる。
しかし、アリオスは五機のイナクトを完全に無視、圧倒的な速度で機体後部スラスターから緑色に輝く二重の円環を放出しながらその空域を北へと抜けた。
「アリオス、プランS1を継続。AEU軍を振り切った。……アリオスで初めての大気圏内飛行。これがツインドライヴの出力か……」
アレルヤはコンソールに青いゲージで表示される粒子同調率MAXを見ながら呟いた。
つい最近まで長く乗ってきたキュリオスも大気圏内での機動性は高かったが、両脚部に内蔵されたツインドライヴを有するアリオスはそれとはまた別次元の安定性・機動性を誇っていると言っても過言では無いとアレルヤには感じられた。
―AEUフランス空軍基地―
「ピラー管制室より入電。羽付き型ガンダム、偵察部隊を振り切り、北上を継続とのことです!」
「MS部隊の記録映像、出ます」
オペレーターが立て続けに言って、モニターにイナクトが捉えたアリオスの飛行映像が出る。
「な、なんだこの速さはっ!」
モニターに表示されるアリオスの推定速度の数値も目にしながら、マネキンは目を疑った。
狙いはまずアイルランド。
フランス領空内を通過するのは間違いないが、この速度に対応できる機体など……MSはおろか航空機でもありえん。
そこへ更にオペーレーターが報告する。
「高軌道ステーションから入電。宇宙にもガンダムが現れたとの情報です!」
「なにっ!」
馬鹿な、地上の八機に加え宇宙にも展開しているだと。
だとすると新型の輸送艦ではなく以前の輸送艦も運用していると見て間違いない。
CBのガンダムパイロットは最低11人以上……それが全て新型に乗っているとすれば……。
CB……一体どれ程の規模があるというのだ。
―CBS-74プトレマイオス2・ブリッジ―
「ダブルオー、ケルディム、第三、第四フェイズ終了。引き続きアフリカで武力介入を継続」
ダブルオーとケルディムはアフリカの各所を周り更に二ヶ所で武力介入を終えた。
「アリオス、目的地に到達。第五フェイズ開始です」
AEUアイルランド北部。
北アイルランドのテロ組織リアルIRA。
2307年、彼らはCBの武力介入開始早期に、武力介入の対象となる前に先手を打ってその活動の完全凍結を公式発表した。
しかし、2310年後期、三年超に及んで息を潜めていたリアルIRAは、CBが表から忽然と姿を消した事に加え、それまで温存していた分戦力も有り、北アイルランドで紛争を再び引き起こしていた。
高度上空を最高速で飛翔していた巡航形態のアリオスはフランス領空を一気に抜け、アイルランドに近づき始めた事で速度と高度の両者を下げて行く。
アリオスのセンサーが捉えた映像は国境山岳地帯で、ヘリオン同士のMS戦が行われている様子。
「CBが表向き介入を止めた途端これとは……紛争根絶は簡単な物ではないとは自分で言った……。けど、MS同士の争いなら対応はし易い。アリオス、介入行動に入る!」
言って、アリオスは即座にMS形態に変形し、上空から地上を見下ろす形でヘリオン群を急襲する。
即座に一機の四肢を一瞬で削ぎ落し、力なくヘリオンが地に音を立てて崩れ落ちる。
「粒子ビーム!?」「AEUの新型か!?」
粒子ビームが真上から放たれたことにパイロット達は驚くも、
「っぐアぁ!!」「うぁっ!」
アリオスの二挺のGNツインビームライフルから連射された粒子ビームに即座に撃破される。
新素材のクリスタルセンサーによる射撃性能の向上に加え、ツインドライヴによる潤沢な粒子生成量に任せ、アリオスはヘリオンのリニアによる反撃も意に介さず、遠距離からの精密な射撃を上から次々と行い、ヘリオンの四肢を削ぎ落とし無力化していく。
「流石にこちらだけ新型だと、一方的にならざるを得ないな……」
そう呟き、結果、二分も経たずしてヘリオン群は全機沈黙。
コクピットフレームだけが無事残ったヘリオンのパイロット達がアリオスを見上げるようにして声を上げる中、アレルヤは言う。
「アリオス、第五フェイズ終了」
するとハロが目を光らせ、くるくると回り、プトレマイオスに暗号通信を送り、間もなくその返信がコンソールモニターに表示される。
「了解。アリオス、現在地を離脱、移動を開始する」
アリオスは即座に巡航形態に変形、再び緑色に輝く二重の円環を放出しながらその空域を後にした。
「第五フェイズ終了。フランス空軍、動きありません」
それを聞いてスメラギが言う。
「良いわ。アリオスをプランS2に移行させて」
「了解です」
それからしばらくして、アニューが報告する。
「Zガンダム、ヒリング、リヴァイヴ機、南米予定ポイントに間もなく到達です」
南アメリカ圏山間部。
緑色のGN粒子を放出するZガンダムとオレンジ色のGN粒子を放出するZガンダムが飛行を続けていた。
映像がコクピットのモニターに表示される。
「目標確認っと」
言って、ヒリングは操縦桿を前に倒し、機体高度を下げ、リヴァイヴ機も続く。
その場所はテログループの活動拠点の一つ。
山場を利用し、それを掘って作られた複数の施設、その付近の林の間にはテログループ所有のMS群があった。
空から降下してくる機影に見張りの男達が気づく。
「MS?」
「どこの機体だ?」
「おぃ! あれガンダムじゃないか!?」
「なにっ!?」
慌てて声を上げだすと、早くもZガンダムが拠点を射程範囲に捉える。
ヒリングが目を鋭くし、語気を強める。
「騒いでももう遅い! いっけぇ!」
瞬間、計10基のGNビットがZガンダムの後背部から同時に射出される。
各ビットは即座に散開、林に粒子ビームの雨が降り注ぐ。
強烈な爆発音と共に、MS群が次々と爆散して行く。
上空からリヴァイヴ機は両腕で構えたソレの砲身を山場の方角へと向ける。
銃身が高濃度GN粒子をプラズマのように帯びて高音を鳴らし、
「チャージ完了。GNメガランチャー、発射」
冷静なリヴァイヴの声と共に、巨大な粒子ビームが山場に向けて左から右へと掃射される。
轟音を立てて、山場に作られた施設は溶けるように壊滅。
ほんの短時間で一帯は静寂に包まれた。
あちこちから煙が立ち上る中、悠然と空に浮かぶヒリングのZガンダムの元にGNビットが帰り、静かに背面へ再マウントされる。
拍子抜けした様子でヒリングは呟きながら、
「んー、あっけない。軍相手にした方がまだ手応えありそ。そうじゃない、リヴァイヴ?」
リヴァイヴに有視界通信を入れた。
[所詮旧世代のMS。当然の結果だ]
「ミッションプラン通りならUNIONが現れるかもしれないけど、どうだか」
そして、二機のZガンダムは次のポイントに向け、北上を開始した。
―UNION領・オーバーフラッグス(旧)基地―
AEUからのCBのガンダムの出現情報はUNIONに伝わり、関係者は慌ただしく動いていた。
ユニオンウイングのMSハンガー付属のパイロット待機室にはグラハム・エーカーを始め、フラッグファイター改めウイングファイター達の姿があった。
巨大なモニターは複数の画面に分割され、CBの輸送艦及びガンダムの映像が流れる。
「ガンダム、とうとう現れやしたね、隊長」
ハワード・メイスンが真剣な表情をしてモニターを見続けるグラハム・エーカーに声を掛けた。
「ああ。プロフェッサーの読み通りだ」
今度はダリル・ダッジが言う。
「しかも今度のCB、最初から総力を挙げるつもりみたいですが」
「どうやらそのようだ。出し惜しみを止めたか、それともまだ手札があるか……。どちらにせよ、CBは本気と見た」
言って、グラハムはぐっと拳を握り締めた。
―オーストラリア・南西部―
Zガンダムの眼下には、粒子ビームによる攻撃を受けて破壊されたMS群から煙が立ち上っていた。
「第八フェイズ終了」
言って、リボンズはZガンダムの高度を挙げながら東へと移動を開始しながら思う。
そろそろ次はダブルオー、ケルディム、アリオスの中東入りする頃か。
さて……これから誰が人類初のイノベイターになるのか、見物だね。
それとも、全く別の誰か、という事もあるかもしれないけれど。
CBの表向き活動再開に伴う怒濤の武力介入はその後も続く。
ダブルオー、ケルディム、アリオスは中東圏で合流を果たし、依然としてアンフが主流の中東各所での武力介入へ移行。
Zガンダム、ヒリング、リヴァイヴ機はヴェーダの情報から判明しているテログループの拠点を叩きながら南米を北西に移動。
Zガンダム、リボンズ機はオーストラリア、オーストラリア南海からニュージーランド方面へ。
セラヴィー、Zガンダム、リジェネ機はインドネシア圏を二手に分かれて移動しながら、人革連軌道エレベーター天柱方面へ。
尚、QBは武力介入の対象が紛争の場合かつ必要があれば現れた。
―中東・リチエラ王国―
リチエラ王国の軍事基地の付近には大規模な難民キャンプが存在する。
そして、最初の訪問国スイールから移動し、ブリジア議員一行は元々重要な目的の一つである難民支援の為に、この現地を訪れていた。
難民キャンプ内でテリシラ・ヘルフィら国境無き医師団が医療活動を行い、直接の食料支援も行われる中、ブリジアは現地の人々と交流し直に彼らの生の声を聞いていた所、秘書官のエリッサ・リンドルースが小声で耳打ちをしに現れる。
「中東にも、CBのガンダムが現れたようです」
「そうですか……。また再び彼らが……。分かりました」
憂うようにブリジアは呟いた。
それからすぐにブリジアは表情を元に戻し、人々と挨拶を交わして難民キャンプを回った。
しばらくして、夕焼け掛かった遠くの空を指を指して声を上げる人が現れ、ふと同じように見上げると、それはダブルオーが移動していく姿であった。
ダブルオーは難民キャンプ付近の空域を抜けて進むと、不意にセンサーが反応しそれは左右からケルディムと巡航形態のアリオスが近づいてきた物。
有視界通信でモニターにロックオンが映る。
[よし、刹那、アレルヤ、人革が偵察に来る前に予定通りトランザムで中東を一気に離脱して海に出るぞ。流石に今日は疲れたからな]
[了解]
「了解」
言って、刹那はコンソールのすぐ右横にある四つのスイッチの内、中央二つを押すとコンソールモニターが赤紫色に染まる。
「トランザム」
瞬間、三機のガンダムは通常の七倍のGN粒子をまるで緑色に輝く三本の天の川のようにその軌跡を残しながら高度を上げて中東を離脱して行く。
《何だ?》《頭に声?》《幻聴?》
幾つもの地上の人々の声を微かに聴きながら……。
―北アメリカ圏南西部・太平洋上―
巡航形態のユニオンウイング、六機小隊が先頭一機、中央二機、後尾三機のフォーメーションで整然と飛行する。
「こちらオーバーウイングス、ガンダム二機を捕捉。領空内での交戦を試みる」
基地に報告を入れ、続けてグラハムは各機に通信を入れる。
「これより、ミッションを開始する。相手は新型のガンダムだ、心してかかれ!」
了解という簡潔な返答と共に、ウイングはスラスターからGN粒子を放出し二機のZガンダムの後ろ姿を追って加速する。
「来た来た」
センサーの反応に気づきヒリングが面白そうに声を出すと、リヴァイヴがモニターに映り冷静に言う。
[彼らの目的は戦闘データの収集。わざわざ交戦する必要は無い筈だ]
「じゃ、リヴァイヴ先行ってて。すぐ追いつくから」
ヒリングが片目を閉じて言った。
リヴァイヴは返す言葉を失い一つ息を吐く。
そこへリボンズが二機のモニターに映る。
[好きにすると良いよ、ヒリング。ただ、殺してしまわないように気をつけて欲しいな]
ヒリングがすかさず呼ぶ。
「リボンズ!」
[リボンズ・アルマーク、良いのですか]
リヴァイヴの問いかけに、微笑を浮かべてリボンズが答える。
[軍にはそれなりにCBに対抗して貰う必要があるからね。戦闘データぐらい収集させても問題ないよ]
[分かりました。ではヒリング、私は先行しますよ]
「りょうかい」
ヒリングはニッと笑って言い、通信を終えた。
するとリヴァイヴ機は速度を上げてヒリング機から先行して距離を開け始めた。
[隊長、一機が先行を!]
「分かっている! なめられたものだが好都合だ。先行した一機を警戒しつつ目標を残った一機に定める!」
スラスターを一段と噴かせZガンダムに迫る。
射程範囲内に入ると同時に、全機一斉に機首の砲門から最大出力で粒子ビームを放つ。
後ろ姿を見せたままのZガンダムに六本のビームが直撃する瞬間。
両肘のコーン型スリースラスターから三条の小型GNフェザーが発動し、それら全てを容易に防いだ。
「なにっ!」「バリアか!」「防いだ!?」
ウイングはフラッグに比べ機体の機動性は大幅に向上したものの、火器の威力自体はGN粒子制御技術の根本的日の浅さの問題から、依然その粒子圧縮率はCBのソレとは比べるまでもない性能であり、とりわけ対ガンダム戦を行うには極めて分が悪い。
「しょぼいビーム。今度はこっちの番、いけぇッ!」
ヒリングは言いながら、GNビットを射出すると同時に後ろに振り返り、大型GNビームサーベル二振りを両腕に構え、ウイングを迎え撃ちに行く。
「くっ、全機散開!」
六機は散開してGNビットを避けにかかる。
しかしヒリングは狙いを定めて進路を追跡した一機をすれ違い様にビームサーベルで斬りつけ、巡航形態左側のサイドバインダーを切り落とした。
ダリルが叫ぶ。
[スチュアートが!]
機体バランスを欠いたウイングは高度を落とし始めるが、ヒリングはそれを追撃せずに振り返り、残る五機へと向かい、その周囲をGNビットが固める。
「スチュアート、無理せず戦線を離脱しろ!」
[り、了解!]
グラハムの指示を受け、スチュアートは機体を旋回させた。
後を取られる形になった残る五機は加速したまま即座にサイドバインダーを後方に旋回させGNバルカンをZガンダムに向けて一斉に掃射。
「この程度!」
ヒリングは操縦桿を操作し、向かって一番左のウイングの方向に機体を動かして回避、反撃にGNビットから威力を抑えたビームを一斉発射。
対する五機のウイングはサイドバインダー内主翼のGNディフェンスロッドを回転させて防ぐ。
続けてスタンドポジション(MS形態)へ変形、宙返りをするように向きを即座に反転、巧みに機体を左へ右へと動かしながら片腕のディフェンスロッドでGNビットの砲撃を防ぎ、もう片腕に構えたアイリス社製GNビームライフルで応戦する。
先程よりも出力の低い五本のビームをヒリングはZガンダムを瞬間的に上方に移動して回避、10基のGNビットの狙いを一機に集中させた。
「くァッ!」
ウイングは回避しきれず、右腕のGNビームライフル、左脚部に被弾し、煙を上げる。
「イェーガンッ!」
そのままZガンダムがイェーガン・クロウ機に接近するのを見てグラハムが叫んだ。
しかし、余裕を持ってZガンダムは進路をハワード機に変更し、GNビットは他の三機に飛ばす。
「調子に、乗ってぇッ!」
当のハワードは単独、スラスターを噴かせ、GNビームサーベルを引きぬいてZガンダムに斬りかかる。
超高硬度カーボン製の折り畳み式アサルトナイフの刀身にGN粒子を纏わせた物。
「うぉぉォッ!」
それをヒリングは受けて立ち、右腕の大型GNビームサーベルで一瞬刃を交えるが、
「そんなビームサーベルもどきぃ!」
圧倒的な出力でビームサーベルごと右腕を切り落とした。
「なぁッ」
[ハワード!]
直後、GNビットの砲撃を巡航形態に変形して掻い潜り、健在の三機がZガンダムに向けてビームを発砲、即座にヒリングは反応してハワード機から距離を取った。
「イェーガン、ハワード、戦線から離れろ」
[了解][っ、り、了解]
ウイングとすれ違ったZガンダムは飛ばしていたGNビットを背部に戻し、再マウント、左腕のビームサーベルをしまう。
ヒリングはその場を離脱する二機を意に介さず独り言を言う。
「さて、半分に減っても、まだやるつもり?」
ウイング三機は再びスタンドポジションに変形、向きをZガンダムに変えてその場に滞空する。
ダリルが通信を入れる。
[隊長、これ以上は]
「分かっている」
悠然と構えるZガンダムを見ながらグラハムが言った。
戦闘データは取れた。
せめてあの特殊な武装の一つでも鹵獲したい所、だがっ。
こうも情けを掛けられている以上、止むを得まい。
グラハムは奥歯を噛み締める。
「悔しさは残るが目標は達成した。撤退する!」
[了解][了解]
そして、ウイング三機は巡航形態に変形し、後方を警戒しながら帰投を開始した。
それを見送りながらヒリングが呟く。
「中々機動性はあるけど、武装がまるで釣り合ってない」
でも、その機動性もアリオスに比べるとダンチなのよね。
ヒリングはアレルヤと模擬戦をした時の事を思い出した。
そこへリボンズがモニターに現れる。
[ヒリング、相手をしてみてどうだったかい?]
んー、と少し考えてヒリングが答える。
「まぁまぁって所。あと、殺害禁止は禁止で結構楽しいかも」
[そうかい]
リボンズはフッと笑った。
「それじゃ、今から戻るね、リボンズ」
そこで通信を終え、ヒリングはコンソール右横のスイッチ中央二つを押した。
膨大なGN粒子を放出し紅く輝くZガンダムはトランザムでプトレマイオスのいる太平洋上へと帰投して行った。
―人革連・ロシア南部軍事基地―
士官詰所にて、幾つもに分割された巨大モニターをセルゲイ・スミルノフが見ていた。
「我が陣営の静止軌道衛星領域圏内のみならず、天柱付近にも新型のガンダムが現れたか……」
天柱のピラー内観測所で記録されたセラヴィーとZガンダム、リジェネ機が海上を移動する様子が映っていた。
そこへ、一人の士官がスミルノフに近寄る。
「大佐、キム司令がお呼びです」
「分かった」
答えて、スミルノフはキム司令との通信を行う為の場所に移動した。
[大佐、知っての通り、CBが活動を再開した。それに当たって、既に上層部では三陣営と合同で対ガンダム国連軍を創設する方向で話が始まったそうだ]
スミルノフは少し驚き、目を見開く。
「もう国連軍を?」
キム司令が頷く。
[そうだ。そこで頂武の時と同じく、国連軍に参加する専任の部隊を新設するが、その人選をまた君に任せたい]
「はっ!」
[では頼む]
敬礼をして通信を終え、スミルノフは考え始める。
重要なのは合同軍が結成される事実が世界に知らされる事だ。
しかし、映像からして、GNティエレンでは新型のガンダムの相手はとてもではないが不可能だ。
余りに非現実的すぎる……。
果たして、人選は頂武の時と同じくすべきか、それとも……。
スミルノフは今後の事に、思いやられずにはいられなかった。
―UNION領・経済特区・東京―
家に帰宅したサジ・クロスロードは、街中のモニターで既に目にしてはいたが、改めてテレビを付ける。
[本日、世界各所に再び現れたCBですが、改めて現時点での最新情報をお送りします]
「CB……」
アナウンサーが続けて言う。
[ガンダムの出現区域ですが、地上では、アフリカ、アイルランド、スウェーデン、中東、南米、インドネシア、オーストラリア……]
次々に映像が切り替わる。
[衛星軌道上では、人革領及びAEU領で……]
その多さにサジは驚きを隠せない。
「こんなに一斉に」
[ここで、ガンダムの現れた中東で不思議な現象があったという情報について、現地の池田特派員と中継が繋がっています。池田さん]
すぐに画面が切り替わり、中東湾岸部のとある市街を背景にマイクを持った池田の姿が映る。
[はい、こちら池田です。私はこの港町に偶然居合わせ体験しましたが、恐らくガンダムと思われる機影が上空を超高速で飛び去った際、一瞬の間、頭に直接他人の声が響くように聞こえる、という現象がありました]
続けて池田は苦い顔をする。
[こうして報道するには、俄には信じがたい事ですが、多くの市民にインタビューをした所、揃って同じ経験をしたというコメントを得ています。尚、通信機器も障害を起こした為、ガンダムとの関連性は高いと思われます]
思わずサジは呟く。
「どういう事……他人の声が聞こえる? そんな架空の話みたいな……」
[詳細に関しましては専門家の分析が必要となると思われますが、今後もガンダムが出現した場合同様の現象が起こる可能性があるかもしれません]
そこで元の画面に切り替わる。
[池田さん、ありがとうございました。この不思議な現象ですが、活動を再開したCBの動向と合わせてJNNでは新たな情報が入り次第……]
そこへ携帯にメールが入った音がし、サジはそれを取り出して見る。
「ん。……姉さん。今日は遅くなる……って、CBが出たんじゃ仕方ないか」
サジは仕事に追われて疲れた姿になって帰ってくる姉の事を思い浮かべ、メールの返信をした。
―UNION領・オーバーウイングス基地―
「いやぁ、どうにも、新型のガンダムは以前の物とは次元の違う性能だねぇ」
大したもんだ、と六機のウイングのミッションレコーダーに記録された映像を解析しながらビリー・カタギリが苦笑して言った。
壁にもたれかけるグラハムが腕を組んで悔しげに言う。
「一対六の数の差でありながら、いとも簡単にウイング三機を損傷させられた。しかもあの新型、GNドライヴを一基ではなく二基も積んでいるようだったが、よもやあれ程の性能とは」
カタギリは片手で頭を抑えて言う。
「んー、でもこれは正直、単純にGNドライヴを二基積むだけではありえないスペックだよ」
両手を広げてダリルも意見を述べる。
「そもそも相手するにはこっちの火器の威力が違いすぎるんですよ」
フラッグファイターであった時は矜持を見せろと言っていたハワードも流石にこれには異論は無く、憮然とした顔で沈黙する。
その開発を行っているカタギリは素直に現実を認める。
「残念ながら、その通りだね。最大出力のビーム六本を余裕で防がれ、ビームサーベルは完全に出力負け、おまけにこの放熱板のような遠隔誘導兵器を同時に10基も操るなんてどうなってんだか……」
我慢できずにハワードが言う。
「終始ガンダムが手を抜いていたのも俺はどうも気に入りません」
グラハムが目を閉じて頷く。
「全くだな。だが、そうでなければ、こうして文句を言うこともできなかったかもしれないのも事実だ。あのガンダムの女性パイロットには情けを掛けられたものだな」
瞬間、カタギリ達は、は? という顔をする。
「ちょっとグラハム、もしかしてガンダムのパイロットと通信をしたのかい?」
カタギリの問いをグラハムは即座に否定する。
「いや、していないが」
いや、ってねぇ……とカタギリが呆れると、今度はダリルが尋ねる。
「どうして女性パイロットだと断定できるんです?」
「動きだよ。あのガンダムは女性的な動きをしていた。見れば分かる」
言って、グラハムはカタギリの操作しているコンソールに触れ、映像を出す。
「どれどれ……」
カタギリ達は改めてZガンダムの動きを見たが、
「あー……僕には全然分からないなぁ、二人はどうだい?」
カタギリは諦め、
「分かりやせんぜ」
「分かりませんね」
結局三人共分からなかった。
「分からないのか」
グラハムの再度の質問に、カタギリがすぐ答える。
「分からないね」
パイロットの性別が分かるのは君だけでいいよ、正直別にどっちでも関係ないし、とカタギリは心の底から思った。
その後もしばらく対Zガンダム戦の感想を話し、ダリルが話題を出す。
「ところで、合同軍を結成するらしいですが、これからどうなるんでしょうか」
「合同軍結成そのものに意味がある」
丁度後ろから杖をついてレイフ・エイフマンが現れて言った。
「プロフェッサー」
「エイフマン教授。わざわざこちらに来られなくとも」
カタギリが片手を上げて言った。
「なに、新型のガンダムと直接交戦したと聞いてな」
「面目ない限りです」
グラハムが謝るが、エイフマンは首を振る。
「気にする事は無い。機体は替えが効く。命があればこそじゃ」
そこへ更に、ハナミが駆け込んで来て声を上げる。
「あっ、少佐達ご無事で! はぁー、良かったです」
ホッと一人胸をなで下ろしたハナミに、グラハム達は思わず表情を和らげた。
A.D.2311、ガンダムは凡そ半年振りに世界にその姿を現した。
新型のガンダムは活動再開と同時にその圧倒的な性能を否応無く世界中に知らしめ、世界に再び楔を打ち込まんとする。
対して、三陣営はそれに呼応するように合同軍結成へと水面下で動き始めた。
―CBS-74プトレマイオス2・作戦立案室―
世界同時多発ミッション終了後、そのブリーフィングを終えたスメラギ・李・ノリエガは、ほぼ自室と言っても良い作戦立案室で椅子に背を預けて大きめのモニターを見ていた。
モニターには画面一杯の世界地図に複数のウインドウ。
スメラギは特に中東地域に描かれた三つの楕円領域を見て呟く。
「トランザムによる意識共有現象……」
ミッションプラン作成についてヴェーダから提示された条件はトランザムを使用し、オリジナルのツインドライヴから生成されるGN粒子を散布する事……。
そしてこれは紛争の根絶には直結しない。
スメラギはリボンズ・アルマークが呟いた言葉を思い出す。
(オリジナルのツインドライヴによって形成された高濃度GN粒子散布領域内における人の意識の拡張)
恐らくヴェーダがこれを推奨するようになったのはリボンズがヴェーダにプランを提案したから……。
[スメラギ・李・ノリエガ、失礼しても良いかな]
そこへ丁度リボンズが部屋の前に現れて通信を入れた。
一瞬間を置いてスメラギが答える。
「ええ、どうぞ」
扉が開き、リボンズが部屋に入る。
「失礼」
スメラギは椅子から立ち上がってリボンズに振り向く。
「用件を、聞いても良いかしら」
「勿論。ヴェーダにプランを提案したのが僕だという予想が貴女には既についていると思ってね」
言って、リボンズはモニターの方に一度目を向け、続ける。
「そのプランの目的について、話しに来たんだよ」
スメラギは僅かに肩をすくめる。
「……奇遇ね。今丁度気になっていた所よ」
「なら良いタイミングだったかな」
言って、リボンズは説明を始める。
「GN粒子には通信障害を引き起こすと言った複数の特性があるのはレベル4までの情報を閲覧できる貴女は当然知っている。
だが、イオリア計画においてGN粒子の本質はガンダムの中核を担う粒子ではない。意識の伝達を可能とする原初粒子だ」
スメラギが繰り返す。
「意識の、伝達……」
「オリジナルのツインドライヴのトランザムによって起きた現象、あれこそがその証拠」
身を持って体験したスメラギが思い出すようにしているのを見て、リボンズはフッと息を吐き、更に口を開く。
「さて、本題だけど、僕がヴェーダに提案したのは、ツインドライヴによる全人類のイノベイターへの進化の促進だ」
スメラギが顔を上げて、怪訝な表情をする。
知らない事ばかり……恐らくはレベル7の情報。
「人類のイノベイターへの進化?」
「人類の到達すべき進化の先にある存在、イノベイター。簡潔に言えば、脳量子波を扱える人類さ」
リボンズは淡々と言った。
「やはり脳量子波……。つまり、イオリア計画の中で、CBの武力介入は人類がそのイノベイターへ進化する為の布石だというの……?」
「そう考える事もできるだろうね」
スメラギが目を見開く。
「違う……の?」
「合っているとも言えるけれど、それが全てでもないという事さ。必要性があると考えられてはいても、絶対ではない」
スメラギが納得する。
「……そういう事ね。話しに来たのは、私が安心してミッションプランを立案するように……という所かしら」
「その通りさ。貴女は僕を余り信用していないだろうからね」
リボンズは若干皮肉めいて言った。
思わずスメラギが少し困った様子になる。
「それは……」
平然とリボンズは口を開き、
「気にする必要はないさ。まあ無理もない。ところで……そんな所で立ち聞きしていないで入ったらどうだい、ティエリア・アーデ」
徐に作戦立案室の前の扉を開けた。
「な」
壁に立っていたティエリアは虚をつかれた。
ティエリアはヴェーダを介してモニターから部屋の中を視ていた。
「ティエリア」
スメラギが声を上げ、リボンズが余裕の表情で更に言う。
「僕が一体何者なのか、知りたいようだね」
「っ」
ティエリアは一瞬表情をひきつらせ、少し間を置いて中へ無言で入った。
なにこの状況、と思いながらスメラギは沈黙を貫く中、不審そうな顔でティエリアが問う。
「リボンズ・アルマーク、何故僕が知らない事を知っている」
リボンズは両手を広げて言う。
「単純な事だよ。僕が君よりもレベル7の情報に多くアクセスできるからさ」
「やはり、レベル7の情報をっ!」
声を荒げるティエリアに、やれやれとリボンズは言う。
「そんなに怒らないで欲しいな。マイスターハナヨも情報だけなら君よりアクセスできるよ」
トライアルシステムの優先順位は下だけど。
「なっ」
ティエリアは更に驚き、スメラギもそれには同じように驚いた。
「ただ彼女はヴェーダから課された守秘義務を忠実に貫いているから情報を話す事はまず無いけどね」
リボンズが続ける。
「さて。ヴェーダに最初に生み出されたイノベイド……それが僕、リボンズ・アルマークだ」
ティエリアとスメラギが驚愕に瞳を揺らす。
「な……最初のイノベイドだって……」「最初の……」
フッとリボンズが笑う。
「言ってしまえばこれまでだね。スメラギ・李・ノリエガ、話の続きに戻るけど、僕達イノベイドは人類からいずれ現れるであろうイノベイターを模倣した存在。僕達の性格はともかく、脳量子波が扱えるというのは知っての通り、大体そういう事だと考えて貰えれば良いよ」
そう、リボンズは一瞬ティエリアの方を見て言った。
立て続けに言われたスメラギはそれらを飲み込むように言う。
「わ、分かったわ」
色々あるけど、性格はともかくって……。
「そういう事だから、ティエリア、今後の武力介入は聞いていた通りさ」
リボンズはティエリアにも言ったが、ティエリアは仏頂面で沈黙を貫く。
そして、リボンズは作戦立案室から退室した。
「リボンズ・アルマーク……」
「まさか最初のイノベイドだったなんて……。だとすればレベル7の情報にアクセスできてもおかしくはないわ」
スメラギが呟いた。
そこでティエリアがやや下を向き、その胸中を呟く。
「スメラギ・李・ノリエガ、僕は……彼が本当にイオリアの計画に則っているのか、疑いを拭えない。
QBという存在が彼らに接触した事によってイオリア計画に変化が生じたというのが僕を無性に不安にさせる」
「その気持ちは分かるわ、ティエリア……。彼はQBのように多くを語らないけれど、言っている事は理に叶っている。……いずれにせよ、私達はやるしかないのよ」
スメラギはティエリアの肩に触れて声を掛けた。
「……分かっています。失礼します」
言って、目を伏せてティエリアも部屋を後にした。
「イノベイター、もし本当に人類が進化するのだとすれば……。刹那、ロックオン、アレルヤ……」
スメラギの呟きは空気に溶け込んでいった。
本話後書き
出来上がるまでに時間が掛かった割には、初回武力介入再開だけで大分字数を食われ、かなり冗長になった感があったり、その割にリジェネその他を省略したり、できればウイングをもう少し強くしたかったり、話の進展具合的に……と、色々反省です。
今まで作中に書いていませんでしたが、ブリジア議員=劇場版の女性地球連邦大統領でありまして、一応ここで説明させて頂きます。
また、ダブルオーセブンソード形態については00公式の00Vに画像が有り、ユニオンウイング=劇場版ブレイヴ一般用試験機、セラヴィー≒ラファエルガンダムに近い何か、と言った感じを想定しています。
更に、作中2ガンダムをZガンダムと呼んでおり、感想板で僅かに触れていますが実際の外観はリボーンズガンダム型のキャノンモードの変更無しバージョンのようなものを想定しています(武装は本話のリヴァイヴのメガランチャーやバスターライフルと言った形で適宜換装するような)。
Zガンダムというと可変する方だとは思いますが、可変的な意味ではアリオスが既にありますので、少なくとも飛行形態にはなりません。
8/5
少なくとも何らかのプトレマイオスの場面で終わっていないのが微妙だったので補足追加致しました、煩雑になり申し訳ないです。