―ラグランジュ2・コロニー型外宇宙航行母艦CB―
GNT-0001、ガンダムダブルオー。
GNT-0002、ガンダムケルディム。
GNT-0003、ガンダムアリオス。
GNT-0004、ガンダムセラヴィー。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
CBT-002、2ガンダム。
第四世代ガンダム12機。
地上に降りている三人のガンダムマイスター達が戻ってくるまでの間、オリジナルのGNドライヴでのトランザムの始動実験もZガンダムで行われた。
97%の粒子同調率を達成した新規製造の二基のGNドライヴでの結果は、以前既に済ませていた擬似GNドライヴでのトランザムの結果と同様、その粒子放出量は理論的限界値を越えた300%。
但し、その際異なった現象が二つあった。
一つは97%の粒子同調率を達成しているにも関わらず、オリジナルのGNドライヴでのトランザムは限界時間到達よりも前にオーバーロードを引き起こして停止してしまった事。
そして、もう一つが、オーバーロードを起こす直前、イアン・ヴァスティ達には感じられなかったが、リボンズ・アルマークを始めとするイノベイド達は放出される加速したGN粒子に、不思議な感覚を覚えたという事であった。
コクピットにいるヒリングが脳量子波で同タイプであるリボンズに呼びかける。
《ねぇリボンズ、今のなぁに? 》
《……そうだね。オリジナルのGNドライヴから生み出される純正のGN粒子がもたらす脳量子波の拡張現象という所かな。イオリア・シュヘンベルグもその理論を残していただけでツインドライヴがどういう現象を起こすのかは分からない事が多いからね》
リボンズは落ち着いて答えた。
《リボンズでも分からない事あるの?》
《僕にだって分からないことはあるさ。詳しく調べる為には、トランザムを完全な状態で起動できるように粒子同調率の差異を制御するシステムを追加する必要があるだろうね》
《ふぅん、そっか》
そこで脳量子波会話が終わり、
「ふぅむ、トランザム中にオーバーロードするとはなぁ……」
イアンが手で顎に触れながら悩んだ。
アニュー・リターナーがコンソールモニターを見ながら言う。
「データ上には二つのドライヴの粒子同調率の波形に微細な乱れが記録されています」
それを聞き、イアンはどれどれ、とモニターに近づいて見る。
「……粒子同調率97%でもトランザムは安定せんという事か」
リボンズも徐にモニターに近づき、イアンに聞こえるように言う。
「二つのドライヴの同調率を100%に制御するシステムを機体に追加する必要がありそうだね」
「そうなるか。……よし、これから順次機体テストに入るが、平行して更に新しい作業が増えたぞ。最大で5%、粒子同調率の制御システムを構築する仕事だ」
イアンの呼びかけに、各メンバーはそれぞれ返答をした。
―中東・アザディスタン王国・山岳地帯―
夜、乾燥しきった地面を星明かりが僅かに照らす中、刹那・F・セイエイは座っていた。
そして間もなく静かな駆動音が聞こえる。
その音の正体は隠密性を向上させる改良の施されたガンダムキュリオス。
「来たか」
オレンジ色のGN粒子を放出するキュリオスは巡航形態のまま着陸をすると、コクピットが開き、中からパイロットが現れる。
アレルヤ・ハプティズム。
一応ヘルメットを取って、言う。
「刹那、通信があった通り宇宙に上がるよ」
「了解した」
言って、刹那はキュリオスに近づき、アレルヤと共にコクピットに入った。
慣れきった動作で再びすぐにキュリオスを飛翔させ、その場を後にする。
「……旅はどうだった?」
沈黙したままのコクピット内でアレルヤが尋ねた。
「中東は……変わっていなかった」
「そうかい……」
「ミッションだったのか」
一瞬で会話が終わりかけるかという所、逆に刹那がアレルヤに尋ねた。
アレルヤは少し意外に思ったが冷静に言う。
「そうだね。相変わらずテロが後を絶たないから……」
CBが活動休止期間に入ったとはいえ、全ての活動が停止していた訳ではなかった。
アレルヤは既にCBに合流する形になって区別が薄れてきているフェレシュテに出向し、大気圏内で最も高い機動性を持つキュリオスを駆って、ヴェーダが掴んだ情報からテロを未然に極秘裏に防ぐ活動を地道にしていた。
刹那を中東に迎えにきたのはそんなミッションの終了後、基地に戻る際、丁度付近にいたから。
「すまない」
やや説明の足りない刹那の言葉。
「……問題ないさ。フェレシュテの人手は足りてるから」
アレルヤは脳内補完をしてそう呟くように答え、操縦桿を倒した。
キュリオスは闇夜の上空を駆け抜ける。
―UNION領・国連MS技術研究所―
セルゲイ・スミルノフ達人革連のトップガンの一団が滞在し始めて数日。
ソーマ・ピーリスはこの基地で、頭に響く不可解な感覚が一度あった時は気のせいかと思ったが、機体テストをこなす中、二度目を感じた。
またこの感覚。
やはり脳量子波……?
[どうした、中尉]
機体の動きが一瞬止まった事でスミルノフが通信を入れた。
「いえ、何でもありません。続行します」
ピーリスは今は仕事中だとして、すぐに返答して、機体テストを続行した。
そして、その日の機体テスト終了後。
ピーリスはスミルノフの滞在する部屋に向かう道すがら、思い返す。
あれは確かに脳量子波……だが、私に向けてのものではない。
しかも、指向性を持った脳量子波……一体誰が……。
「スミルノフ大佐、ソーマ・ピーリスです」
部屋の前に到着した所で、ピーリスは中に連絡を入れる。
[中尉か。入れ]
返答と共に扉のロックが外れ、ピーリスは中に入り、
「失礼します」
敬礼をしてスミルノフに近づいた。
「何かあったかね」
一瞬怪訝な表情をしてスミルノフが尋ねると、ピーリスは少し悩むように言う。
「はい。……この基地に私以外に脳量子波を扱う者がいます」
「ぅん? 何、中尉以外に脳量子波を扱う者?」
スミルノフはまずありえない話に眉をひそめた。
「感じたのはまだ二回だけですが、指向性を持った脳量子波がこの基地の誰かと外部の誰かを繋いでいるようです」
スミルノフが更に尋ねる。
「まさかメッセージをやりとりしていると?」
「恐らく。その内容までは分かりませんが」
スミルノフが唸る。
指向性を持った脳量子波だと……。
ピーリスよりも脳量子波の扱いに長けたものがいるとでもいうのか……しかもこの施設に。
脳量子波の研究は我が陣営以外、UNIONでもAEUでもまず行われてはいない。
だが、まさか。
スミルノフは閃いたかのように息を飲む。
CBが脳量子波の研究までも進めているとしたら……。
脳量子波を扱う事のできるCBのメンバーが密かにこの職員に紛れ込んでいるという可能性がある……。
スミルノフが顔を上げる。
「ぅむ……。中尉、脳量子波を発している者の特定はできそうか」
「近くにいる時であればあるいは」
「そうか……。中尉、この事は他に誰かに報告したか?」
「いえ、大佐が初めてです」
簡潔にピーリスは言った。
「分かった。この件はこの施設の性質上、表沙汰にすると問題が起きる可能性が高い。調査は私の方で行う。中尉は予定通り、ここで専属のテストパイロットを務めてもらうが良いか」
「了解しました」
ピーリスは敬礼をしてスミルノフの指示を了解した。
2307年当時、対ガンダム戦の切り札として超人機関技術研究所から出向してきたソーマ・ピーリス。
しかし、結局現在に至るまでCBのガンダムの圧倒的性能と見えない組織規模に人革連も、UNIONとAEUと同様、特に有効な作戦を打ち出す事はできなかった。
超人機関技術研究所自体、CBの介入により破壊され、加えてピーリスを対ガンダムの切り札としても表立って徴用させる事ができなくなった人革連軍上層部、キム中将は監視の名目でスミルノフにピーリスの身柄を預ける決定を下し、現在に至る。
スミルノフが今回国連MS技術研究所にピーリスを連れてきたのは、ピーリスをこれまで通り対ガンダム戦以外では直接前線に出さないようにする為であった。
ピーリスが去った後、スミルノフは人革連の諜報部に国連MS技術研究所のAEUとUNIONの職員の個人情報を集めて送るように暗号通信で連絡を入れた。
「これで何かが掴めるか、それとも……」
―ラグランジュ2・コロニー型外宇宙航行母艦CB―
刹那、アレルヤ、ロックオン・ストラトスの三人は人革連の軌道エレベーターの高軌道ステーションに集合し、そこから輸送艇でコロニー型外宇宙航行母艦CBに向かい、到着する。
「しかしホントに艦船とは言えない広さだな」
刹那が少し前を先に歩き、右横にアレルヤ、緩やかに円形にカーブを描いている廊下を進む中、ロックオンが適当に天井を見て言った。
「全くだね。光学迷彩があるとしても、こんなサイズの物を今まで見つからずに作っていたというのは驚きだよ」
アレルヤはそう言葉を返し、刹那は黙々と歩き続けた。
艦船の搬入口から、目的のファクトリーに到着するまでにそれなりの時間を要した。
扉を開けて中に入るとそこは、ガラス張りの向こうにガンダムの格納庫が幾つも並んでいるのが見える、数十mは優にあるかなり横長の室内。
Zガンダム七機が格納されている隔壁は閉ざされており、開いているのは残りの五つ。
「よぉ、おやっさん達、着いたぜ」
ロックオンが最初に声を掛けるとイアンが振り返って言う。
「おぉ、来たか。待っとったぞ。あれがお前さん達が乗る第四世代ガンダムだ」
「第四世代ガンダム……」
アレルヤが呟くとイアンは更に続ける。
「既にティエリアはセラヴィー、リヴァイヴはZガンダムでシミュレーションを行っとる。早速で悪いが刹那はダブルオー、ロックオンはケルディム、アレルヤはアリオスに向かってくれ」
「了解」「了解した」「了解」
三人は揃って、各ガンダムに移動を開始し、それぞれワイヤーに掴まりコクピットに乗り込む。
ロックオンがコクピットに入ると、二体のハロからの歓迎を受ける。
『ロックオン! ロックオン!』
「よぉ相棒。というか、増えたなぁ」
ハロが増えている事にロックオンは少し驚きながらも、いつものハロに軽く触れて言った。
「ヨロシクナ! ヨロシクナ!」
「頼むぜ青ハロ」
そこへ、フェルト・グレイスからの通信が入る。
[マイスターは各自シミュレーションプログラムを起動して下さい]
「了解」
ガンダムマイスターはそれぞれヴェーダの演算システムを応用した仮想空間プログラムで実際の機体テストに出払う前に、その前段階としてシミュレーションを開始した。
一方、リボンズとヒリングは広間で丁度始まったマイスター達のシミュレーションを五分割に画面が別れたモニターで見ていた。
ヒリングはリボンズが座るソファの背もたれの後ろから身を乗り出し、両手で顎に触れながら言う。
「ねー、リボンズー。折角作ったオリジナルのGNドライヴどうして人間のマイスターの機体に回すの?」
リボンズは少し左に顔を向ける。
「不満かい?」
少しヒリングはやや頬を膨らませる。
「だって、Zガンダム一機しかオリジナル積んでないなんて不公平。それにティエリア・アーデもあたしらと同類なのにあの子だけ専用機なのもさぁ」
それを聞いてリボンズは軽く微笑む。
「GNドライヴは後一年すればまた新しく六基届くよ。専用機が羨ましいようだけど、Zガンダムに何か不満な所はあるかい?」
「……そう言われるとこれと言って無いけど」
むぅ、と今リヴァイヴ・リバイバルがシミュレーションを行っている画面に目を見やり、ヒリングは息を吐いた。
「少なくとも、これから地球全域で場所を問わず同時に武力介入を行うことになる以上、出番はあるから安心して欲しいな」
ふふ、とヒリングが笑う。
「それは期待してる」
「それにオリジナルのGNドライヴを搭載したZガンダムに乗りたいなら、ヒリング達で乗れば良い」
好きにすると良い、と自分がオリジナルのGNドライヴ搭載機に乗ることに殆ど固執する様子を見せずにリボンズは言った。
「リボンズはそれで良いの?」
ヒリングはその発言に、更に身を乗り出してリボンズの顔を見ようとしながら尋ねた。
「僕はここを余り離れる訳にもいかないし、まだまだ研究も進めたいからね。プトレマイオスに直接乗艦する機会は多くはならない予定だよ」
それを聞いて、ヒリングはそんな、と声を上げる。
「えー、一緒に乗らないの?」
リボンズは少し話を逸らそうとする。
「乗らないとは言ってないさ。……そうだ、ガンダムマイスター達が地上に降りていたようにヒリングも地上に行ってきても構わないよ。例えば……服を買いに行くのでもね」
リボンズは含むような表情をしてヒリングに言った。
虚を突かれたヒリングが目を丸くする。
「へ」
「クリスティナ・シエラ達に誘われていただろう? フフ……少し興味あるみたいだね」
そう言われてヒリングは少し狼狽え、
「ちょ、ちょっとだけね。……時間があったら、それもいいかも」
指を一本立てて言った。
リボンズはヴェーダを掌握している為、他のイノベイド達の思考が読めたが、感情程度ならそれを使わなくとも、ヒリングのソレを読む事は容易であった。
―UNION領・エイフマン邸―
夜、家でレイフ・エイフマンとハナミが二人で食事を取った後、食器の片付けをしている途中、ハナミの目の虹彩が輝いた。
ヴェーダ?
その輝きが収まると、ハナミは、
「しまったぁ……」
と頭に手を当てて呟いた。
微かにそれを聞き取ったエイフマンがキッチン越しに尋ねる。
「どうかしたかな?」
「ちょっと怒られちゃいました……」
あちゃぁ、という顔をしてハナミは振り返って言った。
「ふむ……。構わなければ話を聞くが」
「最近来た人革連のパイロットの中に脳量子波を扱える人がいて……それで少し問題があったんです。でも、プロフェッサーは気になさらないで下さい! 今度から気をつければ大丈夫なので!」
少し落ち込んだ様子のハナミはすぐに元気になって両手を構えて言った。
「……そうか。ならば大丈夫そうじゃな」
ソーマ・ピーリスという彼女の事か……。
ハナミはハナミですぐにブリュン・ソンドハイムに脳量子波を送る。
《ブリュン、これからしばらく日中は皆が言っても私には脳量子波を繋がないで貰えますか?》
《それは良いですけど……いつも繋いでくるのはハナミの方では……》
ブリュンは決定的な事実を言った。
そう言われると返す言葉の無いハナミはショックを受けながらも伝える。
《うぅ……だから、私も繋がないようにこれからは気をつけます……》
《分かりました。……もしかしてヴェーダに怒られたのですか?》
《うん……》
ハナミはしゅんとして答えた。
《そうですか……》
こうして、これ以後しばらくの間、ハナミは日中研究所で一人になった時に脳量子波で気軽にブリュン達に話しかけるのを止めざるを得なくなった。
―ラグランジュ2・コロニー型外宇宙航行母艦CB―
第四世代ガンダムの機体テストは順調に進む。
シミュレーション上のみならず、ラグランジュ2の宙域でも密かに実地試験が開始され、プトレマイオス2の建造も完成に近づく。
そして、メンバー達による熱心な研究により、オリジナルGNドライヴのツインドライヴの後僅かな粒子同調率の誤差を制御する為のシステムが完成を迎えた。
ガンダムの各コクピットにはガンダムマイスターとハロの姿が。
但し、ケルディムは元々ハロがニ体いたのに加え、更に一体増え、三体。
「これが粒子同調率を安定させる為の制御システムをインストールした専用ハロの効果か……」
ティエリア・アーデがセラヴィーのコクピットでコンソールモニターを見ながら呟く。
一方、ガラス越しの管制室でフェルトが言う。
「ダブルオー、ケルディム、アリオス、セラヴィー、Zガンダム、各機粒子同調率100%で安定しています」
コンソールモニターに映る各ガンダムの粒子同調率のメーターは左右のドライヴ共に100%(MAX)を示していた。
イアンがそれを見て言う。
「調整はうまく行ってるな。よし、刹那、まずはダブルオーからトランザムをかけるぞ」
[了解]
アニューがカウントダウンを始める。
「ダブルオー、トランザム開始まで残り5…4…3…2…1」
「やってくれ、刹那」
[了解。トランザム始動]
瞬間、ダブルオーの機体が赤くなり、そのコクピット内のコンソールモニターは赤紫色に変貌する。
通常時とは比較にならない程の夥しいGN粒子が一気に放出され、その輝きは勢いを急激に増していく。
「粒子生産量、粒子放出量、共に上昇」
フェルトに続き、シェリリン・ハイドが言う。
「180%を突破。230…260…300%。予定通り理論的限界値を突破。まだ上昇し」
シェリリンが言い終わる瞬間。
《これが……ツインドライヴの……ダブルオーの真の力……》
刹那の表層意識が周囲一体の空間に伝わった。
《え?》 《刹那?》 《頭に声が!?》
《何だ?》 《この感覚はっ》
《これは》 《脳量子波!》
《オリジナルのGNドライヴの効果……》
その場にいる一同の驚きの声が共有され、表層意識がツインドライヴから生成される高濃度GN粒子によって繋がれる。
しかし、大人しくアリオスのコクピットにいたアレルヤが突如豹変する。
《ッハハハハ!! この加速粒子ィ! 俺らの脳量子波にギンギンくるぜェ!! なぁそうだろ、アレルヤァ!!》
《アレルヤ!?》
《ハレルヤか!?》
ハレルヤが調子に乗って強烈に脳量子波で叫ぶ声は皆の頭を刺激し《頭に響く! 黙っていろアレルヤ!》とティエリアが注意した途端から殆ど世にも珍しい超常現象を利用したただの喧嘩に成り下がった。
そのトランザム終了後。
[迷惑をおかけしました……]
開口一番、アレルヤが引っ込んだハレルヤの代わりにコクピット内でうなだれながら謝った。
何とも言えない沈黙と、まばらなフォローの後……。
「し、師匠、粒子放出量は通常の七倍でした……」
唖然としたシェリリンが報告した。
「な、七倍だとぉ!?」
驚くイアンの少し後ろでリボンズが真剣な表情で呟く。
「オリジナルのツインドライヴによって形成された高濃度GN粒子散布領域内における人の意識の拡張……。最早MSの枠を越えているね」
イオリアは本当にここまで予見していたのか……。
「何てこった……理論的限界値を超えるだけに留まらないとは、ツインドライブはわしらの想像をはるかに超えている。これはとんでない代物だぞ……」
イアンは髪の毛をガシガシと掻き……一瞬で冷静になって続けて言う。
「……よし、次はロックオン、今度はケルディムでトランザムやってくれ」
ロックオンが突っ込む。
[っておい! おやっさん、言ってる側からそれで良いのかよ!]
「大丈夫だ、問題ない」
かくして、結局五機全てのガンダムで順にトランザムが行われ、全てのケースにおいて、ダブルオーと同じ現象が起きた。
ハレルヤは二度目からは飽きたという理由であっさり出てこなかった。
トランザム稼働実験が無事終了すると、不可思議な現象に各自それぞれ感想を持ちながらも解散した。
部屋に戻ったリボンズは一人、考えていた。
イノベイター。
人類の到達すべき進化の先にある存在。
人類のイノベイターへの進化を促すことはイオリア計画の重要な目的の一つ。
オリジナルのGN粒子にはそれを促す効果がある。
武力介入による地球上へのGN粒子の散布は……。
「リボンズ・アルマーク、さっきの現象は中々興味深かったね」
「QB」
突然現れたQBは勝手に話し始める。
「一つ一つの個体が独立した肉体と精神を持つ人間が脳量子波を扱えるようになるのは、今後君たち人類の進化の上ではプラスになるだろう」
リボンズが尋ねる。
「君たちは人類のイノベイターへの進化を推奨するのかい?」
全く気にしない様子でQBは言う。
「止める理由は無いよ。今まで僕らが君達人類の文明の進歩のきっかけになる事はあっても妨げた事は無い。勝手に滅びた事は何度もあったけどね」
「フ……そうだったね」
QBと人類の歩んできた歴史を見せられた事のあるリボンズは確かにその通り、文明が滅んだのは人間に原因があったと思い返した。
「君もそれ程気にしていないみたいだね」
QBはリボンズの思考を読んで言った。
「……地球上での優劣に拘るのも飽きたさ」
全く、QBの影響でね。
GN粒子によって人間の細胞レベルで変化が起きるとしても、既に身体はいずれ現れ出るであろうイノベイターを模している上、それすらも容器にしかすぎない僕には直接GNドライヴを使った所で大して意味が無い。
人間のイノベイターが遅かれ早かれ現れるにしても、僕は僕でイオリア計画を進めれば良いだけだ。
いずれにしても、人類のイノベイターへの進化がイオリア計画の重要な目的の一つである以上、ヴェーダにプランを提案しよう。
後はそろそろ、財界を使って裏から政界に手を回す時期か。
人類意志の統一に貢献しそうにない政治家には退場して貰おう。
逆にAEUのブリジア議員の支援は強化しないとね……。
そう考えながら、リボンズの虹彩が輝く。
―UNION領・経済特区・東京・とあるビルの屋上―
深夜、幾ら年月が経過しようとも変わらぬ姿のままの一人の少女。
少女は濁りを吸収し切らなくなったコアを徐に空に放り投げ、それをQBが落とさず背中で回収する。
「ここ最近、少しは落ち着いて来たわね」
ふと、少女が言った。
「そうだね。でも障気はまだまだ濃い」
「……でも、あなた達には都合の良い状況ね」
表情一つ変えずに少女は言って、更にコアを投げる。
「そう言われるとその通りさ」
正解だよ、とQBは可愛らしい声で言ってコアをキャッチした。
ここ数年の感情エネルギー収集効率と言えば、QBの狙い通りCBの活動開始以降、それ以前を遙かに越える収集率を弾き出していた。
太陽光発電紛争当時のように、局所的に紛争の起きた地域があった時代と比較しても、ここ三年超の期間における総魔獣発生率は段違い。
世界規模の情勢不安は、都市部に住む人々の心に否応なく負の感情を抱かせ、それに合わせて多く魔獣が生まれる。
そして、その大量の魔獣を残さず狩る為の魔法少女の絶対数の問題も、ひたすら生み出され続けているイノベイド魔法少女達により解決し、QBにとってはまさに理想の状態。
イノベイド魔法少女がいるとはいえ、勿論QBは人間の少女と新規契約を一切していない訳では無かったが、それなりの因果律を持ち、数が多く質も高い強力な魔獣とのすぐの実戦にも耐えうるであろう少女を見定めて勧誘活動を行った為、その新規契約者の数は極めて限定的であった。
そして、2307年のリリアーナ・ラヴィーニャの一件以降、願いの方向性が高確率で直にCBに対する復讐に向くと見られる少女に関しては、QBが余計な手間がかかる事を考慮しての契約の差し控えが影響した事もその一因であった。
それでも、魔法少女の総数は言うまでもなく激増、世界中に効率よく分散もしており、順調そのものであった。
東京のビル群の立ち並ぶ景色を遠い目をして少女は思う。
CBの活動から三年以上。
約束した通り見続けているこの世界は確かに今までには無かった変化を見せ始めている……。
そして再び彼らが活動を始めた時、果たして……。
風に吹かれ、少女の黒髪が靡く。
―UNION軍事演習場―
A.D.2311。
CBが世界から表向きその姿を消してから半年超が過ぎ、暦はまた新たに一つ数字を増やした。
場所はUNIONのMS演習を行う為の広大な敷地面積を誇る施設。
横に長く伸びる観客席には三陣営軍関係者が揃い、今まさにUNIONの擬似GNドライヴ対応型の新型可変MSの公式発表が行われていた。
SVMS-GN02、ユニオンウイング。
模擬戦場として設置された幾つもの砲台から、無数の弾丸が一機のウイングを狙って発射される。
巡航形態のウイングはオレンジ色のGN粒子を放出しながら、最低限の軌道変更と機体を回転させる事のみで、尽く全てをかわす。
同時に、機首の砲門から次々と威力を調節した粒子ビームを発射し、Eカーボンの的を破壊していく。
その砲門は、元機体となったオーバーフラッグに搭載していたアイリス社製リニアライフル「トライデントストライカー」の形状はそのままに粒子ビーム兵器として転用された物。
「あれがGNドライヴを搭載したUNIONの新型の機動性……」
軍関係者の観客が呟く。
そして次の瞬間、ウイングはいとも簡単に即座に空中変形し、人型形態に移行。
「おおっ!」
その鮮やかな変形に観客は揃って声を上げる。
以前はプラズマフィールドを発生させていたディフェンスロッドに今はGN粒子を纏わせ、砲台から放たれる弾丸を次々と弾いて見せる。
「流石はUNIONの新型だな」
「はい、大佐」
他の観客と同じように視察に訪れていたスミルノフやピーリスら、人革連の軍人達。
ピーリスはここ数ヶ月、UNION領内の国連MS技術研究所でティエレンを母体としたGNドライヴ搭載型のテストの為に滞在していた。
その間スミルノフは、ピーリスをテストパイロットとして専任した後、再び人革領に戻って軍務を行っていた為、ピーリスとは定期連絡は取っていたとはいえ、やや久々に直接顔をあわした。
ピーリスはウイングが飛ぶ姿を目で完璧に追いかけながら、ふと、思う。
ここに来て二度感じた脳量子波……。
その後、脳量子波を感じることは一度も無かった。
……あれは勘違いだったのか。
レイフ・エイフマン教授の助手だというたまに研究所で見かけるハナミという子はどうも気になったが……大佐が独自で進められた調査から私に伝えられたのはデータ上問題のある人物は存在しないという結果だった……。
一方、そう思い出していたピーリスに、指示を伝えたスミルノフ自身は、諜報部が集めた国連MS技術研究所の関係者の個人情報は確かにデータ上改竄された形跡は全く見られないという報告を受け、仮に情報改竄もCBが完璧に行っているのだとしても、立証する手立てが無く、下手に藪をつつけば蛇が出る可能性もあり、ピーリスには「この件は今は忘れて任務に専念するように」と指示するしかなかったのだった。
CBの見えない影がスミルノフの心の隅に引っかかるも、それも時間の経過と共に、少しずつ薄れて行った。
そして今、スムーズな可変を何度も見せ、GN粒子を主動力、主武装に使用したUNIONの最新型正式機ウイングはその発表を終え、観客席前の滑走路に人型形態でGN粒子を放出しながら重さを感じさせずに脚部をつけた。
観客席からは拍手が起こり、その音が一帯に響く。
「ユニオンウイング。この発表にCBがAEUのイナクトの時と同じく牽制に現れるかと期待していたが……どうやらそれは無いようだな」
ウイングのコクピット内でそのパイロットであるがグラハム・エーカーが僅かに残念そうに呟いた。
年は明けて、2311年。
プロフェッサーの予測通りであれば、CBはいつ姿を現してもおかしくはない。
停止していた紛争の中にはCBがいなくなったとばかりに再発してもいる。
武力による紛争根絶……そう宣言したのはCB。
一体いつになったらまた姿を現すつもりだ、ガンダム。
グラハムは徐に顔を空へと向けた。
―中東行・AEU航空機内―
AEU議会の野党代表であるブリジア議員は有力な複数の後援者の後押しを受けて中東諸国を訪問し、難民支援などに向かうべく、航空機で目的地へと向かっていた。
アニュー・リターナーと同型のイノベイドである秘書官エリッサ・リンドルースを始めとして、複数名の護衛を伴い、更にはこの訪問には国境無き医師団も同行していた。
代表のテリシラ・ヘルフィを始めとする複数の医師達。
航空機の個室内の席に座るブリジアに対し、エリッサが声を掛ける。
「間もなく後一時間程でスイール王国首都空港に到着予定です」
「分かりました。いよいよですね」
ブリジアは落ち着いた声で言い、組んでいた手をゆっくりと離し、膝に触れ、そのままエリッサに問う。
「最初の訪問先、スイールは中東の中では治安の良い国ですが、エリッサ、同行する事に不安はありませんか?」
「……そう言われると多少の不安はありますが、問題ありません。今回の中東訪問、これまで通りお供します」
エリッサは目を閉じて軽く頭を下げた。
「ありがとう、エリッサ。これを機に、中東支援が活発になっていくよう尽力しましょう」
「はい。後援者からの全面的支援に国境無き医師団の同行もあります。必ず実りのある訪問になるでしょう」
一方で、同じように同機内で席についていたテリシラは端末を見ていた。
「そろそろ到着、か……」
今回のブリジア議員の中東訪問の後援者となった内訳……。
その筆頭がリニアトレイン公社、公には伏せられているが王商会、加えて幾つかの有力な資産家……。
間違いなくCBが中東をも含めた世界の統合を促す為の布石。
間もなくCBの武力介入が再開するのに合わせ、裏からブリジア議員を強く後押しし、手付かずの中東問題に解決への糸口を作る……か。
場合によっては、この訪問中にCBの介入を直接見る事になるかもしれないな……。
―CBS-74プトレマイオス2・ブリッジ―
ロックオンがケルディムの格納庫に向かう為に通路を移動する中、フェルトが曲がり角から現れる。
「よ、フェルト、いよいよだな」
ロックオンは右手にヘルメットを抱え声を掛けた。
フェルトが頷き、一瞬間を置いて言う。
「うん。……気をつけてね、ロックオン」
ロックオンはふっと表情を和らげる。
「大丈夫だ。まず俺らの新しい機体なら心配いらない。気をつけるとしたらそれは狙撃の方だな。フェルトも頑張れよ」
言って、ロックオンはこの四年で背も伸びたフェルトの頭を一度右手で軽く触れて離れる。
ほんの少しだけ恥ずかしそうに、フェルトは返事をする。
「うん、分かった」
それぞれロックオンは格納庫へ、フェルトはブリッジへと移動していく。
フェルトがブリッジに到着するとクリスティナ・シエラが声を掛ける。
「フェルト、発進シークエンスの準備お願いね」
「了解」
言って、フェルトが自分の席に着くと、クリスティナが艦内放送を入れる。
「プトレマイオス、大気圏突入シークエンスに移行します。ガンダム各機、出撃準備。マイスターは各自コクピットで待機して下さい。0030を以て、ミッションを開始します」
言い終わると、今度はスメラギ・李・ノリエガが言う。
「リヒティ、プトレマイオスを大気圏にお願い」
「了解です」
スメラギはメインモニターに映る地球を見る。
「さあ、いよいよ、始めるわよ」
世界に再び姿を現す新たなガンダム。
その性能に世界は震撼するのか。
新たなる日常の始まりなのか。
本話後書き
殆どシリアスでした。
先に長めの後書きになること、失礼します。
トランザムの件が調整が必要になったりとやや冗長になってしまったと反省です。
実際どうでも良いかもしれませんが、2ndを見直すと、11話「ダブルオーの声」でラグランジュ3内でオーライザーの実験で初めて使ったダブルオーのトランザムに表示されていた粒子同調率の数値は99%、そして同話におけるイアンの調整後、サジの乗ったオーライザーとのドッキング時はMAX表示でした。
そして後者において、普通の人間にも表層意識が声となって他人に伝わる現象が初めて発生しました。
本作、割と安易に新造のGNドライヴの同調率を9割高めに設定して、そのままで良いかと思っていた矢先にこれに気づき、どうあっても不思議現象を起こす為にはMAXに調整しないといけなくなったという事情がありました(実は他にも「まさかツインドライブの粒子放出量に機体が悲鳴をあげるとは」というイアンの心の呟きが存在し、それが機体のフレーム強度の事かどうかは分かりませんが、これを考えるとやはりオーライザー無いと駄目な気がしないでもないのですが、リボーンズガンダムやクアンタにはオーライザーが無いので通す事にします)。
以下8/4変更。
アリオスの太陽炉の位置ですが、ご意見を頂いた結果、両脚部に内蔵という形で確定させて頂きます、ありがとうございました。
何となく、ツインドライヴは外観的に見えている位置に無ければならないという先入観がありましたが、コーン型スタスター的な方式だとアリオスに搭載するのはキツイので、2312年時点のダブルオーのツインドライヴの設計はガンダムラジエルの設計を元にした機体外部に見える形状から考案されたものでしたが、2311年時点でも内蔵型でもツインドライヴは成立したという事にさせて頂きます。