西暦2307年、私設武装組織CBは、全世界で起こる紛争の根絶を宣言。
武力による介入を開始した。
インド南部セイロン島への民族紛争に介入し、世界を震撼させたガンダムマイスターに新たなミッションが下される。
それは人類に対する神の裁きか。
それとも……変革への誘発か。
はたまた……全く違うものか。
―UNION輸送機内―
「いやはや、本当に予測不能な事態だよ、これは」
ビリー・カタギリが席に座るグラハム・エーカーに苦笑して言う。
「CBがセイロン島に出たとは、惜しいことをした。進路を変えれば……」
残念そうにグラハムが答えた。
「そうでもないよ。話によれば、モビルスーツのパイロット以下、例外無く本当に現れたQBに何らかの精神攻撃を受けたらしい。行かないほうが君の身のため、心の為だろう」
カタギリはそう言いながらも、QBに興味津々であった。
しかし、グラハムも含むような笑いをし、語り出す。
「CBとQB合わせて名づけて……CQB。ソレスタルキュービーイング。乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな」
「何だい、ソレは」
カタギリの顔は『君の脳内が予測不能だよ』と語っていた。
―経済特区・東京・JNN本社―
JNN本社では、社員達は皆忙しなく働いていた。
部長が大声で職員に聞く。
「現地の特派員との連絡は?」
「まだです!」
すぐさま部長は今度は電話の相手に向けて指示を出す。
「ガンダムだ! 小さくてもいい! ガンダムの絵を入れろと言え! それとQBの絵もついでに入れとけと言っておけ!」
そこへ、記者の一人が焦った声で報告する。
「CBからの声明ありませんが、Q、QBからのビデオメッセージ来ましたッ!」
虚を突かれ、部長の反応が一瞬遅れる。
「うん。うん!? 何だと!? 内容は!」
「セイロン島で下らない喧嘩をするのはやめてよ! だそうです!」
記者がわざわざ声真似をするが気持ち悪かった。
「何だそれは!」「CBはふざけてるのか!」「ふざけてるのはQBだろう!」「どっちも同じだろ」「声真似するな!」
他の社員達が口々に言い、纏めるように部長が宣言する。
「……訳が分からないな! まあいい、十分以内に速報配信! 次のニュースは現地からの中継だ! 3時間以内に」
そこへ絹江の部下が現れ、部長に声をかける。
「部長、あの」
「人革主席の公式声明が出るぞ! 枠を空けとけ!」
意に介さず部長が指示し、他の社員が原稿を部長に出す。
「原稿できました!」
「おう」
「あの、絹」
「あとにしろ!」
今構ってられないと部長は絹江の部下を一蹴した。
一方、絹江・クロスロードはJNNの資料室で調べ物をしていた。
「イオリア・シュヘンベルグ……21世紀の後期に出現した希代の発明王。太陽光発電システムの基礎理論の提唱者……」
そう独りごちて、絹江はコーヒーを口に含んで思索にふける。
公に姿を見せず、その名前だけが後世に語り継がれている存在。
この人物がソレスタルビーイングを創設したなら頷ける。
才能的にも、資金的にも。
でも、なぜ200年以上たった今、彼らは動き出したの?
そして、QBの存在は一体。
イオリアとも関連性がもしかしたらある……?
本当にQBが異星生命体だとして……もしかしてイオリアの才能は宇宙人だったからとか……?
AEU諜報機関本部長官室では、QBの事は依然完全無視、イオリア・シュヘンベルグについて調査が続けられていた。
しかし、具体的に何かが分かるという事もなく、それどころか完全無視していたQBが本当に現れたらしいという情報まで入ってきた事で、報告書の作成に彼らは頭を悩ませた。
―CBS-70プトレマイオス・ブリーフィングルーム―
本来、計画通りであればティエリア・アーデとアレルヤ・ハプティズムも地上に降りていた筈であったが、そうはならなかった結果、CBメンバーの会議はプトレマイオスのブリーフィングルームで再び行われていた。
ロックオン・ストラトスと刹那・F・セイエイは前回と同じく南国島の施設からモニターで繋がれていた。
「QBが出た……という事だけど、話を聞かせてもらえるかしら」
スメラギ・李・ノリエガがロックオンと刹那に尋ねる。
「話と言っても、勝手にいきなりコックピットに現れて『あの金属の塊を全部狙い撃ってよ!』と猫撫で声で言われたぐらいだ」
ロックオンはQBの声真似をして言った。
「俺は『あの金属の塊を全部駆逐してよ!』と言われた」
間を置かずに刹那も低い声で、かつ該当部分のみQBの声真似をして、言った。
気持ちが悪い、とスメラギ達は思った。
「ロックオン、気持ちが悪いよ……。刹那は気味が悪い……」
聞こえない声でアレルヤは呟いた。
ティエリアは声を出す気力も削がれていた。
敢えて触れず、スメラギが尋ねる。
「そ……そう。二人から見て、QBはどうだったの?」
「敵意があるようには思えなかったが、終始不気味な奴だった。映像は提出したが、QBは精神操作能力がある。大量にいる。殺されても『勿体無いじゃないか』なんて言いながら自分の死体を喰いやがる。不気味だろ?」
不気味な割に思い出すだけで何か全部が馬鹿馬鹿しい気がする、とロックオンは答えた。
額に手を当てて、心底頭が痛そうにスメラギが言う。
「そう、あれは……不気味よね……。異星生命体というのは本当、という可能性がどうしても高くなってくるわね……」
そこへ、アレルヤが口を開く。
「スメラギさん、QBが異星生命体かどうかはともかく、QBの行動目的が紛争の根絶だというのは疑問です」
「その通りね……。ロックオンと刹那が見たQBの能力があれば、精神操作なんていう本来あり得るなんて認めたくないような方法で紛争どころか人間同士の対立すら無くす事もできるかもしれないのだから」
「大体っ、あの生物はまた勝手に声明を発表した上、何だあのふざけた内容は!」
いきなり、ティエリアが沈黙を破り行き場の無い怒りを顕にして、壁を叩いた。
アレルヤが生暖かい目でティエリアを見つめ、スメラギが声をかけて、纏めに入る。
「落ち着いて、ティエリア。……とにかく、私達が行動すれば、QBが再び現れる可能性はあるけれど、CBは活動を止める訳にはいかないわ」
ロックオンが分かっていたように言う。
「鉄は熱いうちに打つって事さな」
「ええ、その通りよ。アレルヤ、今度は作戦プラン通り、キュリオスで直接タリビアに降下して貰うけど良い?」
スメラギがアレルヤに聞く。
「喜んで。働いて無いですしね」
皮肉めいてアレルヤが両手を広げて答えた。
「くっ……」
悔しそうにティエリアが声を出す。
「ティエリア、トレミーをもしもの時の為の防衛頼むわ」
一応フォローするようにスメラギが声をかけた。
「当然……ですっ……」
出撃できないティエリアであった。
UNION、Mスワッド本部に帰投したグラハム・エーカーとビリー・カタギリは上官の元に向かった。
そこで、二人はガンダムを目撃した事から転属命令を受け「対ガンダム調査隊(仮)」という新設部隊に移動する事になった。
技術主任はレイフ・エイフマン教授が担当する事が、司令部がいかにガンダムを重要視しているのを明確に示していた。
王留美はアレハンドロ・コーナーと本来会う予定だったが、無しになったという。
依然アレハンドロの天使ことリボンズ・アルマークが家出中、とのこと。
―対ガンダム調査隊(仮)施設―
早速転属したグラハムとカタギリは格納庫でフラッグを前に会話をしていた。
「カタギリ、あのガンダムの性能、どれ程と見る?」
「そうだね……出力で言えば、ガンダムはフラッグの六倍はあると見ていいんじゃないかな。どんなモーター積んでいるんだか……」
興味が尽きないという声でカタギリが答えた。
「出力もそうだろうが、あの滑らかな機動性だ」
「あの機動性を実現させているのは……やはり光だろうね」
「ああ。あの特殊粒子は、機体制御、発見が有視界限定という以上、ステルス性にも使われている」
グラハムは鋭い観察眼でソレを述べた。
「恐らくは、火器にも転用されているじゃろうて」
そこへ、杖をついた老人が現れた。
「レイフ・エイフマン教授」
待ちかねていたようにカタギリがその名を呼んだ。
「恐ろしい男じゃ、儂らより何十年も先の技術を持っておる。もしや、宇宙人なのかもしれぬな」
神妙な面持ちでエイフマン教授が言った。
「ご冗談を」
カタギリが苦笑する。
エイフマン教授はフラッグを見上げて言う。
「できることなら捕獲したいものじゃ。ガンダムという機体を。それとできるならばQBという生命体も」
「前者については同感です。その為にも、この機体をチューンして頂きたい」
同じようにグラハムがフラッグを見上げて言い、エイフマン教授がグラハムに顔を向けて尋ねる。
「パイロットへの負担は?」
グラハムが目を閉じる。
「無視して頂いて結構」
再び目を開けて、エイフマン教授を見て言う。
「但し、期限は一週間でお願いしたい」
面白そうに、エイフマン教授が笑う。
「ほぉ……無茶を言う男じゃ」
「多少強引でなければガンダムは口説けません」
ガンダムに対しては常に真剣とばかりに、グラハムは答えた。
「彼、メロメロなんですよ。だけど、QBに対する策はあるのかい?」
苦笑しながらも、カタギリが尋ねる。
「まだ遭遇してもいないQBに恐れをなしていては何もできはしない。何より、接触しないことには始まらない」
当然の事をグラハムが言った所で、グラハムに通信が入る。
「……私だ。……何、ガンダムが出た?」
その知らせにカタギリとエイフマンが驚く。
「二機。場所は南アフリカ……一機は大気圏を突入してタリビアだと!? ……了解した。単独で大気圏突入ができるとはな……」
言って、グラハムは通信を切り、すぐにフラッグに乗ろうと動く。
「カタギリ、私は出るぞ」
それを、大気圏突入ができるという情報に一瞬驚いていたエイフマンが我に返って止める。
「やめておけ」
「何故です!? 一機はタリビアです。ここからなら行ける」
どうして止めるのか、とグラハムは言った。
「儂は麻薬などというものが心底嫌いでな。焼き払ってくれるというなら、ガンダムを支持したい」
タリビアと聞いて、エイフマンが想定したのは麻薬栽培の地域の事であった。
「麻薬?」
「奴らは、紛争の原因を断ち切る気じゃ」
―南アフリカ地域・鉱物資源採掘現場―
ロックオンはデュナメスに乗り、鉱物資源の採掘権を発端とした内戦への武力干渉に乗り出そうとしていた……が。
「ロックオン・ストラトス、君の牽制射撃でアレを終わらせられるかい? 無理なら僕が介入するよ?」
現場に到着する前にQBがロックオンの……今回はヘルメットを被っていなかった所、頭の上に直接忽然と現れて言った。
「っておい、神出鬼没にも程があるだろ! お前何なんだ!?」
ふざけんな、とロックオンは怒った。
「僕はQB。何度も言ってるじゃないか。君は記憶力が悪いのかい?」
「QB! QB!」
QBとHAROが答えた。
「そういう事じゃねぇよ!」
呆れた声でロックオンが言った。
「ほら、もうすぐ着いちゃうじゃないか。ロックオン、君の射撃技術で死者を出さずに済ませられるのかい?」
QBはロックオンの言葉を無視して催促する。
「……何で自称異星生命体のお前が人間の死者の有無に拘るんだ?」
ロックオンは一応情報を引き出そうと尋ねた。
それに対し、QBは淡々と聞かれた事には答えた。
「勿体無いじゃないか。それに異星生命体なのは自称ではなく事実だよ。僕らからすれば君たちの方こそ異星生命体さ」
「勿体無いって……ッ……調子狂うぜ全く。ああ、分かった。要望通り、死なないように狙い撃ってやるさ」
言ってる間に、現場にまもなく到着してしまうため、ロックオンは元々予定通りだと宣言した。
「助かるよ、ロックオン!」
全く感謝の念が感じられない語調でQBが感謝した。
「メット被ってないから肩に乗ってろ!」
そのまま、ロックオンは肩にQBを乗せたまま、現場のワークローダーに火器を搭載した物に射撃を行った。
「ああ、嫌だ、嫌だ。こういう弱い者虐めみたいなの」
心底うんざりして、ロックオンが言う。
「やっぱり理解できないなあ、そういう人間の考え方は。どうして君は自身の行為に嫌悪というものを感じるんだい?」
無機質な表情でQBが尋ねる。
「はぁ? こんだけ一方的だと、嫌にもなるだろ」
何いってんだと、ロックオンは言いながら、搭乗者を殺さないように射撃を続ける。
目の前の光景を意に介さないようにQBが答える。
「ふうん、それが罪悪感というものなのかな。でも、僕らには分からないや」
「お前……感情が理解できないのか?」
意外な顔をして、ロックオンが尋ねる。
「うん、そうだよ」
その通り、とQBは答えた。
「そうかい。訳がわからないぜ、全く。……早く武装解除しろって。……狙い撃つぜ?」
一つ意思疎通がスムーズにいかない理由が少し理解できたロックオンであったが、とりあえずうんざりしながら、射撃を続けた。
「ニゲタ! ニゲタ!」
ようやく、全ワークローダーが撤退し、HAROが音声を出す。
「……お利口さん」
ほっと息をつく。
「ヨカッタ! ヨカッタ!」
「じゃあ、僕は帰るね」
瞬間的に、QBは消えた。
「っておい! またかよっ! ったく……」
無駄に疲れた様子のロックオンであった。
―南アメリカ地域・タリビア上空―
アレルヤは、キュリオスに乗り、初の大気圏突入に些かの緊張をしながらも、無事成功し、タリビア上空を旋回していた。
「アレルヤ・ハプティズム、僕はQB。作戦地域に人はいないみたいだね」
こちらにも、突然QBがヘルメットの上に現れた。
「うわぁっ!?」
何の前触れも無くQBが現れた事で、思わずアレルヤは声が裏返った。
「いきなり頭を振らないで欲しいな」
しかし、憤慨している様子は無い、QBの言葉。
「いきなり頭の上に現れないで欲しいね……。君がQBか」
皮肉で返す余裕がアレルヤにはあった。
「そうだよ。……もう間もなく作戦行動か。大丈夫そうだね。僕は帰るよ」
言って、QBは消えた。
「は?」
第三の人格が現れたのではないかと勘違いしたくなるアレルヤであった。
「気をとりなおして……旋回行動開始から30分経過。警告終了。キュリオス、これより作戦行動を開始する」
気を取りなおしたアレルヤはコンテナから順次焼夷弾を落とし、麻薬栽培ポイントを焼き払った。
避難していた住民達はその光景を見て、嘆きの声を上げていた。
「目標達成率97%。ミッションコンプリート。こういうのが二度目の出撃だと……覚悟が締まらないな……。悪いことではないけど」
その呟きはコクピットの空気へと溶け込んでいった。
―セイロン島―
セルゲイ・スミルノフは地上に降り、兵士達に迎えられたが、自分の目で確かめるまでは信じられないと、セイロン島に来ていた。
そこへスミルノフに報告が入る。
「三機目がこのセイロン島に現れただと?」
兵士が敬礼して答える。
「はっ! 第七駐屯地です。既に、第七駐屯地ではQBが目撃され、兵士達が皆持ち場を離れているとの報告が入っています!」
兵士は何とか平常心を崩さずに言えた。
「ガンダムより恐ろしいのはQBか……。生物兵器の類を使用するなど卑怯な奴らだ。使えるティエレンはあるか? 私が出る」
酷く憤慨した様子でスミルノフは言った。
「中佐ご自身がですか!?」
スミルノフの側に控えていた士官が驚いた。
「言ったはずだ。私は自分の目で見たものしか信じぬとな」
真剣な表情でロシアの穴熊、セルゲイ・スミルノフは言った。
―セイロン島・第七駐屯地―
刹那が到着した時には既に兵士達はQBに操られた後、格納庫にしまわれていたティエレンさえもが尽く路上に放置されて、解体場のお膳立ては整っていた。
「エクシア、目標を駆逐する」
特にどうという事もない表情ではあったが、何か物足げに刹那は緑色のティエレンを次々に切り裂いていった。
そこへ、飛行装備を取り付けたティエレンが一機だけ旋回して現れた。
その光景を見たスミルノフは驚いていた。
「大量のティエレンが全て切り裂かれている……だと……。ガンダムは見ればわかるが、QBはどこだ」
寧ろQBの方が気になるスミルノフ。
しかし、スミルノフの元にはその本人の想いとは反対にQBは現れてはくれなかった。
ならば仕方ない、とスミルノフは本来の目的通り、エクシアに飛行状態から砲撃をかけた。
対する刹那も砲撃が飛んで来た事に驚いていた。
「QB、アレはどういう事だ」
砲撃を避けながら言う刹那。
早くもQBのサポートに染まっている自覚はあるのか、無いのか。
「コクピットの位置は覚えただろう? 実戦を経験するのも重要だと思うな」
何か思惑があるのか、ヘルメットの上に乗っていたQBは刹那を試すように言った。
すると、ティエレンが地面に降り、右腕に装備していた火器を捨てて、新たにブレードを構えた。
「火器を捨てた? 試すつもりか、この俺を」
刹那が少し驚く。
ただ、試しているのはQBも同じ。
「戦争根絶とやらの覚悟、見せてもらうぞ」
無骨なメットを被ったスミルノフが言った。
しかし、エクシアとティエレンの間で会話は成立していない。
ティエレンが先に動き、ブレードを振り被るが、エクシアが一瞬で体勢を屈めながら、そのティエレンの右腕を切り飛ばす。
「肉ならくれてやる!」
しかし、ティエレンは振り返りざまに、エクシアの頭部を左腕で鷲掴みにして、その機体を持ち上げる。
同時に切り飛ばされた右腕が落ちる。
「くっ!」
忌々しいと、刹那は唸る。
ティエレンはそのまま頭部をきつく掴み圧力をかける。
「ぬぅ!」
エクシアはその左腕も切り落とそうとする。
「ふ!」
しかし、ティエレンが体勢を僅かに変えて、刃で両断されないようにしてソレを防いだ。
「その首、貰った!」
スミルノフが叫ぶ。
エクシアの頭部に異常を知らせるエマージェンシー音がPIPI、PIPIと鳴り刹那の危機感を煽る。
「な……やるかよッ!」
それに焦った刹那がついに大声で怒り、エクシアの左肩後部に装備されているGNビームサーベルを左腕で取り出し、起動させる。
そのまま展開されたビームはティエレンの左腕をあっさり切り裂く。
ティエレンはそれにより体勢を崩し後ろに倒れる。
「ぬぁア!」
すかさず、刹那はティエレンの右肩から右脚部にかけてGNビームサーベルを振りかぶる。
「えあァアァー!」
掛け声と共に、ティエレンは切り裂かれ、地に伏した。
エクシアは頭部についたままのティエレンの腕を無理矢理取り外した。
「……俺に触れるな」
QBは触れている。
「僕は帰るね」
言って、QBも消えた。
現段階、人革連だけが、QBに襲撃を受けていた。
結果、QBの存在の真偽に確証を持てないUNIONとAEUの者達は人革連がガンダムに対抗できない言い訳に、QBの存在を捏造したのではという風潮が生まれ、全世界の人々は人革連の軍部に猜疑心を抱いた。
逆に人革連の人々は遺憾の意を感じずにはいられず、QBに、そしてそれを有すると目されるCBに対して怒りを募らせた。
―経済特区東京・マンション―
北アイルランドの対立図式を取り上げて歴史についてのレポートが課題に出されたサジ・クロスロードは帰宅した所、刹那・F・セイエイと偶然遭遇し、話しかけたが、愛想が無いと感想を抱いた。
玄関に入ると、仕事で忙しい絹江と入れ違いになり、会話を交わしてそのまま上がると、ルイスから電話がかかった。
言われたとおり、ニュースをつければ、北アイルランドテロ組織リアルIRAが、武力によるテロ行為の完全凍結を公式に発表したと海外特派員の池田が報道していた所であった……。
「ね、すごいでしょ? 今日習ったところ、レポートどうなっちゃうんだろ……」
サジはその言葉が耳から耳へと通りすぎ、驚いていた。
世界が……世界が変わってる……と。
CBを利用する国。
その国すら利用する国。
陰謀渦巻く戦場に、ガンダムマイスターが赴きQBが活躍する。
政治とは彩り変わる万華鏡なのか。
―月・裏面極秘施設―
リボンズ・アルマークはヴェーダに起きた異変を感じ取り、リニアトレインで宇宙へと上がり、更には小型の宇宙輸送艦で月の裏面へと向かっていた。
月の裏面に隠されているのは、CBの有する量子型演算処理システム・ヴェーダの本体。
施設へ到着したリボンズは脳量子波を操り、固く閉ざされているロックを開く。
中へと入り、通路内を進むと、赤い絨毯の敷き詰められた間に出る。
そこに強化ガラスを通して床下に確かにヴェーダがあるのが見えた。
リボンズは僅かな安堵に一つ息を吐き、ヴェーダにアクセスする為の端末を操作し始める。
《リボンズ・アルマーク、君が一番乗りか》
突如、リボンズの脳内にテレパシーが伝わる。
「なに!?」
リボンズは目の虹彩を輝かせ、驚愕の表情を浮かべる。
「後ろだよ、リボンズ」
その声に従い、リボンズが後ろを振り返ると、そこには。
「僕はQB。異星生命体さ。君たちイノベイドを待っていた」
リボンズに対しては何の意味も持たないにも関わらずQBは首を可愛らしく傾げて見せた。
「Q……B……」
リボンズはどこからともなく、出現したQBに驚きを隠せず、緊張して唾を飲み込み、続けて言う。
「君の目的は何だ」
「感情エネルギーの回収だよ。紛争の根絶はその為の手段の一つさ」
リボンズの様子に意も介さず、QBはさらりと言った。
「感情……エネルギー?」
訳が分からないと、リボンズは困惑した。
「リボンズ、君には理解できないかもしれないけど、僕らは人類の感情エネルギーを回収する為にこの星に来たんだ」
「信じ難いね……。君が異星生命体だという証拠はあるのかい?」
「その質問は無意味だと分かっているのにどうして聞くんだい。さっきのテレパシー、君たちにとっては脳量子波と言うそうだけど、アレで僕らが君たちイノベイドよりも強力な脳量子波を操る事ができるのは身を持って体験しただろう?」
要らぬ手間だと思いながら、QBは説明した。
思わずリボンズは一歩下がる。
「……僕の思考を」
「筒抜けだよ」
感情は理解できないけどね、とまではQBは言わなかった。
「っ……」
「そんなに警戒しないで貰えると助かるな。僕らは少し君に頼みがあるだけなんだ」
「頼みだって?」
「うん。僕が提示する塩期配列パターンの生体年齢14、15歳の女性型イノベイドを量産して欲しい」
本当は勝手にやろうと思ったんだけど、感情が理解できないから仕組みも理解できず断念したんだ、とまではQBは言わなかった。
「イノベイドの量産……」
リボンズは困惑していた。
感情エネルギーの回収が目的で何故イノベイド量産に繋がるのか。
しかも、QBが塩基配列を指定するという。
訳が分からない。
目の前の赤い目の不気味なQBの意図が全く掴めない。
「そうしてくれれば、僕らは君たちCB全体の計画、そして場合によっては……君個人、の思惑に協力しても良いよ」
「ッ!」
自身の思惑すら筒抜けであることにリボンズは驚愕した。
「どうして動揺するんだい? お互いにとって利益があるじゃないか。確かに、僕を前にしている君にとって脳量子波が強力すぎるのは考え物かもしれないけどね」
そのお陰で普通の人類よりも思考が筒抜けだよ、とは顔に出すことも無く、QBはリボンズが動揺するのが理解できないと淡々と言った。
「……そもそも……君たちQBにとって、地球はどういう対象なんだい? 要領を得ないね」
「侵略なんてする気は無いから安心してよ。地球、いや人類はと言い換えれば、君たちは宇宙の寿命を延ばす為の貴重なエネルギー源なんだ」
「宇宙の寿命……エネルギー源?」
「仕方ないな。理解できるように、教えてあげるよ」
質問形式では埒があかないと、QBは目を怪しく輝かせ、リボンズの脳に直接情報を流し込んだ。
「ぁアぁっ!?」
場合によっては射殺しようかと所持していた銃を使う間もなく、情報の奔流にリボンズは声を上げた。
その内容はQBが地球に来た、感情エネルギーの回収の根本的理由、宇宙の寿命問題から、感情を持つ人類が存在する限り生じる魔獣と呼ばれる存在、そしてソレを狩る魔法少女の存在。
人々が存在し、そして世に呪いがある限り生まれる魔獣は、人々の負の感情が強ければ強いほど、強力な魔獣が生まれ、倒すのは困難になるが、それを倒し結晶と化して感情エネルギーの回収ができれば一気に集めることが可能で、効率的。
QBは昔、暁美ほむら、という現在も現役の齢200代を優に突破し、300代も間近の現在最強の魔法少女から「魔法少女自身の希望が絶望に転換する際の感情エネルギーを回収するという方法が成り立たなくなったのが今の世界」という仮説を聞いた事があったが、現実には「円環の理」という魔法少女は絶望を撒き散らす前に消える、という世界法則が厳然たる事実として存在している以上、QBは数多く、かつ、質の高い魔獣を魔法少女に狩って貰わなければならない。
CBという全世界に武力による介入を行う存在は、紛争の根絶を目指しながらも、平和に暮らしている幸せに満ちた人々にすら負の感情を抱かせる事ができるとQBは考えた。
その負の感情が一点に集中……CBという対象に向かえばそれだけ強力な魔獣が生まれる。
しかし、その場合、発生した魔獣を倒す屈強な魔法少女が必要であった。
産業革命以降、魔法などというものを信じる少女も減り、勧誘活動も上手くいかない中、QBはふと宇宙にも到達するようになった人類の発展を目にし、地上ばかりに向けていた目を宇宙にも向けてみた。
すると、なんとイノベイドという感情と魂の両方を兼ね備えた人工生命体が作られているではないか。
QBはイノベイドを見つけた時は驚いた。
人類にしては画期的な発明である、と。
何より、魔法少女になりうる適合者をいちいち地球を巡らなくともいくらでも生産できるというのは魅力的だった。
人工的に作れば因果律の量が少ないというデメリットはあるとしても、数を揃え、イノベイドには元々知識や身体能力を調整する事すらできるという事実。
何の訓練も受けていない少女を育てるよりも、最初から即席で高度な戦闘能力を兼ね備えた魔法少女部隊を作る事ができれば、どれだけQBの負担が減ることか。
これらの、リボンズの理解にとって「必要な情報」のみをQBは流しこんだ。
その結果……CBとQBの間で契約が交わされたのか。
QBがCBに接触するのは寧ろ必然、まさに運命だったのか。