アザディスタン王国では戦争を起こさせようとわざと画策がなされていた。
アザディスタン王国は国教の解釈の違いにより、国民は大きく二つの教派に分かれていた。
マリナ・イスマイールは改革派。
そして、彼女が王女として即位する前までは親密にしていた保守派の宗教的指導者マスード・ラフマディーという人物がいた。
彼はこれまで、保守派の怒りを受け止める事でマリナの助けとなっていた。
このマスード・ラフマディーという人物を拉致する事で、改革派の仕業を見せかけ、保守派を煽り、内戦を起こさせる事を目的とした者達がいたのである。
そして、実際に拉致事件は起きた。
何者かに雇われた、アリー・アル・サーシェス達によって。
事件が起こったのは、プトレマイオスがラグランジュ4の人革連のスペースコロニー・全球に向かい、件のミッションを終え戻り始めていた頃であり、まだスメラギ・李・ノリエガ達とは地上の二機は通信が取れなかった。
刹那・F・セイエイとロックオン・ストラトスはその対応に王留美のサポートを受けて、アザディスタンの岩場地帯で待機していた。
内紛が起こり、介入を行うその時まで。
王宮ではマリナはマスード・ラフマディー拉致の情報に酷く動揺を受けた。
マリナは自身の提案を議会に出したものの、それが聞き届けられることはなく、改革派は、UNIONから秘密裏に打診された軍事支援を受ける方向で話を勝手に進めてしまった。
UNIONの狙いは、内紛に介入してくるガンダムの鹵獲であった。
―王留美所有・小型輸送艇―
王留美が茶を飲んでいた所、端末に通信が入る。
「私です。そちらの状況は?」
[各所で小競り合いが起こっているようだが、大事ではないよ]
端末に映った人物はアレハンドロ・コーナー。
「直ちに国外への退去を」
王留美が危険である事から退去を進言する。
[ここに残るよ]
フっと微笑んでアレハンドロがそれを断った。
王留美からは後ろ姿しか見えていない。
「残る? 何故です?」
アレハンドロ・コーナーは、アザディスタンのビルの一室からあちこちに煙が上がっているのを見ながら、余裕有りげに答えた。
[この国の行く末を見守りたいのだよ。それに、君たちがどう行動するか、この目で確かめたくてね]
―アザディスタン・太陽光発電受信アンテナ施設―
夜半、太陽光発電受信アンテナ施設の警備を担当していた、MSER-04アンフという胸部から鼻のように突出した頭部が特徴の、貧困国での主力モビルスーツのうち数機に紛れ込んでいた、超保守派の兵士達が、同じく警備中であった改革派の機体に攻撃を仕掛け始める。
軍事支援に来ていたグラハム・エーカー率いる対ガンダム調査隊(仮)はフラッグの飛行形態で上空を哨戒中であった。
[む? ポイントDで交戦!]
グラハムに伝えられる。
[やはりアンテナを狙うか。行くぞ、フラッグファイター!]
グラハムがそう言って、その場所へと向かう事を宣言する。
[了解][了解]
ハワード・メイスンとダリル・ダッジが返答する。
即座にポイントDを捕捉した三機のフラッグであったが、
[中尉! 味方同士でやり合ってますぜ]
[どうします?]
グラハム・エーカーはその質問に対し、介入するにしても、判断がつかなかった。
「どちらが裏切り者だっ? レーダーが?」
そこへ、フラッグの画面に障害が起き、ノイズが走る。
瞬間、桃色の粒子ビームがアンフを構わず狙撃した。
「何!? この粒子ビームの光は、ガンダムかっ!」
次々とアンフが沈黙させられていくのを見ながらグラハム・エーカーは驚きの声を上げた。
狙撃したのは岩場地帯で待機していたデュナメス。
「ところがギッチョン!」
別の場所にて、PMCイナクトから大型ミサイルが四発放たれ、空に打ち上がる。
「何!?」
それを見たロックオン。
「ミサイルだと!」
グラハム。
ミサイルは落下し始めた瞬間に開き、更に無数の小型爆弾が散乱して発電受信アンテナ施設に落下する。
「数が多すぎるぜ!」
ロックオンは連射して撃破するが、余りにも数が多く、為すすべ無く大爆発が起きた。
火の手が上がった地上を見ながらグラハムが指示を出す。
[ダリル、ハワード。ミサイル攻撃をした敵を追え。ガンダムは私がやる!]
[了解!]
ダリル・ダッジが答え、
[ガンダムは任せますぜ!]
ハワード・メイスンも答え、二機はミサイルが打ち上げられた方角へと向かい、グラハムはデュナメスの方角へと向かった。
グラハムのカスタム・フラッグが飛来してくるのを見ながら岩場にいたロックオンは悪態をつく。
「おぉおぉ、UNIONはアザディスタン防衛が任務じゃないのかぁ? やっぱり俺らが目当てかよ。狙い撃ちだぜ!」
言ってロックオンはGNスナイパーライフルで上空の対象に狙撃をする。
しかし、ビームが届く前からそれを察知したグラハムはカスタム・フラッグを巧みに操作し、滞空して急停止、モビルスーツ形態に変形してフラッグの股を開いてそのビームをやり過ごした。
「なっ!?」
ロックオンが驚く。
「っがはぁっ! ……ぐふっ!」
変形には膨大なGがかかり、グラハムは後ろに身体を引き寄せられ、再び身体を通常に戻した瞬間、口から胃液をヘルメット内に吐く。
「人呼んで、グラハムスペシャル!」
そして良い顔で技名を言い切った。
そのまま、リニアガンをデュナメスに向けて放つ。
撃ち落せなかったロックオンはハロにシールド制御を頼み、被っていなかったヘルメットを手に取る。
そして再びライフルを構え、
「二度目はないぜ!」
言いながらロックオンは精密射撃モードで二発放つ。
しかしフラッグは右に左と機体を無理矢理捻り、華麗に交わした。
「あぁっ、俺が外したぁ? 何だこのパイロット」
驚きの操作技術にロックオンは呆れる。
「敢えて言わせてもらおう……グラハム・エーカーであるとぉッ!」
そうロックオンには聞こえはしないがまたしても良い顔で高らかに宣言し、グラハムはデュナメスに対して突撃、蹴りを入れ、そのまま押し付ける。
「蹴りを入れやがったぁ!?」
フラッグは、瞬時に右腕でプラズマソードを引きぬきを抜き、切りかかる。
「チィっ!」
ロックオンは苦々しい表情を浮かべ、左腕で腰のGNビームサーベルを引きぬき、プラズマソードを受ける。
「俺に剣を使わせるとは!」
グラハム・エーカーは鍔迫り合いによって機体外部で高音が鳴る中、鬼気迫る表情で言う。
「身持ちが堅いなぁ! ガンダムッ!」
対するデュナメスは左ふくらはぎのホルスターからGNビームピストルを取り出し、
「こいつでっ!」
「何!?」
至近距離で連射。
フラッグは瞬時に距離を取りながら、しかし、ディフェンスロッドという右腕に搭載された棒の形をしたものを右に左にと回転させ、全弾受けきる。
「なぁっ、受け止めた?」
更にロックオンは目を見開き驚く。
受け切ったとは言え、ディフェンスロッドは損傷した。
『ぅぅ、よぉくも……。私のフラッグをッ!』
それに対し、音声スピーカーでグラハムはそう叫んで、再びデュナメスに突撃する。
「このしつこさ尋常じゃねぇぞ! ハロ、GN粒子の散布中止! 全ジェネレーターを火器に回せ!」
ロックオンがこれ以上構ってられるかと、ハロに指示する。
「リョウカイ! リョウカイ!」
「たかがフラッグにっ!」 「ガンダムッ!」
デュナメスはGNビームピストルを両腕で構え、フラッグが突撃しかかる、瞬間。
[アザディスタン軍ゼイル基地よりモビルスーツが移動を開始。目的地は王宮の模様。全機、制圧に向かってください]
緊急通信が入った事で、フラッグはデュナメスの上方に一度飛び去り、振り向いてリニアガンを構えた状態で停止する。
「緊急通信?」
ロックオンは王留美から通信を受けて情報を得る。
フラッグはそのまま地面に降り立ち距離を取る。
「クーデターだとよ。どうする。フラッグのパイロットさんよ?」
GNビームピストルを構え、対峙した状態でロックオンが言う。
「ようやくガンダムと巡り合えたというのに……口惜しさは残るがぁ、私とて人の子だっ!」
言って悔しそうにグラハムは上昇し、変形、
[ハワード、ダリル! 首都防衛に向かう!]
命令を出す。
[了解!][了解!]
[ミサイルを破壊した者は?]
[モビルスーツらしき機影を見かけましたが、特殊粒子のせいで……]
ダリル・ダッジが見失ったと答えた。
「ガンダムの能力も考えものだなぁ」
グラハムが苦笑した。
―アザディスタン王国・首都―
『我々は神の矛である! 我々は蜂起する! 神の教えを忘れた者たちに神の雷を! 契約の地に足を踏み入れた異教徒たちを排除せよ!』
アンフに乗ったモビルスーツパイロットがそう叫ぶ。
「避難しなくてよいのですか?」
その光景を窓越しにリボンズ・アルマークがアレハンドロ・コーナーの後ろに立って言う。
「リボンズ、君も見ておくと良い。ガンダムという存在を」
アレハンドロはそう振り向きもせず返した。
瞬間、リボンズの口元が僅かにニヤリと吊り上がった。
避難すれば良いものを……。
そのアンフに対しエクシアが上空から降下して現れて、戦闘を開始してすぐ。
部屋の外から数人の走る足音がしていたが、エクシアを眺めていたアレハンドロが気づく事はなく、銃声が鳴り、扉を突き破る音がする。
「何事だっ!?」
流石に気づいたアレハンドロが振り返り、
「アレハンドロ様っ!」
リボンズも焦ったような声を上げる。
しかし即座に黒服スーツに覆面を被った者達が直ちにリボンズとアレハンドロの目の前に現れ、マシンガンを構えた。
「なっ!?」
アレハンドロが胸元から銃を取りだそうとしたが時、既に遅し。
マシンガンが先に、火を吹いた。
瞬間、背後の窓ガラスが盛大に割れる音がし、まともな声らしい声を出すことも叶わず、アレハンドロとリボンズは銃弾に倒れた。
犯人達は更に、爆弾を死体の近くに設置、部屋から撤退し、爆破した。
それからというもの、同時多発的にクーデターに乗じて爆破テロが各所で発生。
国連使節団を集中的に狙ったテロが行われ、技術者はそれを免れたものの、アレハンドロを筆頭とする代表団は軒並み全員死亡し、死体も爆破され、原型を留める事は無かったという。
エクシアも突如起こった爆発を熱源反応で捉えていたが、王留美が、それに関してはエージェントを動かすと言って刹那とロックオンは武力介入を続行、結局夜明けまで戦い通した。
ある地域で、少年兵達がアンフに殺されるのを阻止できなかった事に、刹那は酷くショックを受け、そこに後でロックオンが見つけた。
QBは余りにも紛争が頻発している所には意味が無いと見て、現れないのであった。
そして、翌早朝。
[増援部隊は、首都圏全体の制空権を確保しました!]
UNIONから到着した増援部隊の一人がグラハムに報告を入れる。
「信心深さが暴走すると、このような悲劇を招くというのか……」
グラハムはそう、呟いた。
同時刻、UNION群を撒く為に、雲の上を飛んでいたサーシェスが悪態をつく。
「糞ったれがぁ! やってくれるぜ、ガンダムぅ! お楽しみはこれからだってのによぉ!」
そこへ、通信が入る。
「ん……何だ……何!? スポンサーが死んだ!?」
サーシェスはこれまでに無いほど、動揺した。
信念を打ち砕かれた刹那の前にアリー・アル・サーシェスは立ちはだかるのか。
紛争根絶の為、エクシアが再び立ち上がるのか。
刹那、ガンダムとなるのか。
とうとう、歯車が回り始める。