―UNION・対ガンダム調査隊(仮)―
人革連が宇宙でCBと戦闘を行ったと見られる情報が入っており、グラハム・エーカー達はその件について会話をしていた。
しかし、デブリの四散状況から、それほど大した戦闘が行われていないのが分かり、どれほどガンダムに性能があるのかは不明であった。
一方、研究室でビリー・カタギリとレイフ・エイフマンはモニターを見ながら話をしていた。
「やはりこの特殊粒子は、多様変異性フォトンでしたか」
カタギリの興味深そうな呟きにエイフマンが目を細めて言う。
「それだけではないぞ。ガンダムは、特殊粒子そのものを機関部で作り出しておる。でなければ、あの航続距離と作戦行動時間の長さが、説明できん」
「現在、ガンダムが四機しか現れないことと……関連がありそうですねぇ」
両者共にモニターを見たまま会話をする。
「げに恐ろしきはイオリア・シュヘンベルグよ。二世紀以上も前にこの特殊粒子を発見し、基礎理論を固めていたのだからな」
「そのような人物が、戦争根絶なんていう、夢みたいなことをなぜ始めたのでしょうか?」
正直理解できない、とカタギリは疑問の声を上げた。
エイフマンが持論を述べる。
「CBそのものは紛争の火種を抱えたまま宇宙に進出する人類への警告……そうわしは見ておる。この数ヶ月でほぼ出た結論であれば、恐らくCBにとってもQBはイレギュラー。これから一体どうなることか……」
―人革連・低軌道ステーション―
セルゲイ・スミルノフは巨大なモニターの前でキム司令と繋がった会話をしていた。
[CBの移動母艦の映像のみとは……数十万機の探査装置と数機のティエレンを失った代償にしては少なすぎたな]
スミルノフが直立不動で答える。
「弁明のしようもありません。いかなる処分も受ける覚悟です」
[君を外すつもりはない。辞表も受け付けぬ。確かに本作戦は失敗した。……だが、君に対する評価は変わってはおらんよ。私が君に預けたピーリス少尉が錯乱したとあっては仕方がない。切り札が機能しないのは想定外だ。原因は判明したか?]
キム中佐が尋ねた。
「現在調査中です」
[そうか。今後も我が軍はガンダムの鹵獲作戦を続ける、頼むぞ、中佐]
「お言葉ですが、ガンダムの性能は底が知れません。今回の件ですらコクピットを狙わないCBに対し、鹵獲作戦を続けることはいずれ……]
スミルノフが、ガンダムを目当てにする作戦など積極的に進めるのは徒に兵を失うだけだ、と言おうとした所。
[それもわかっている。だが、あれは我が陣営にとって必要だ。QBという存在がいる以上、周囲に何も無い地域でこちらから仕掛けざるを得ない。それに当たり……主席は極秘裏にUNIONとの接触を図っておられる]
スミルノフが聞き返す。
「UNIONと?」
[CBへの対応が、次の段階に入ったということだ]
陣営間で手を組み、CBを周囲に何も無い位置にわざとお引き寄せて、更に大規模な物量で押し切るという作戦が始まっていた……。
スミルノフはキム司令との会話を終え、ソーマ・ピーリスが異常をきたした件について、超人機関技術研究所分室に向かった。
台の上に寝かせられたピーリスを前に、目にバイザーを付けた研究員に確認を取っていた。
「少尉の体を徹底的に検査しましたが、問題はありませんでした。脳内シナプスの神経インパルス、グリア細胞も正常な数値を示しています」
スミルノフが疑問を呈する。
「では、なぜ少尉は錯乱行動をとったのだ?」
「タオツーのミッションレコードを分析したところ、少尉の脳量子波に異常が検知されました。通常ではあり得ない現象です。外部からの影響を受けた可能性も……」
「外部からの?」
スミルノフが驚くが、心当たりがあるように、顎に手を当てる。
あの羽付きのガンダム……少尉を執拗に狙っていた……まさか……。
「もしそうだとすると影響を与えた人物は、少尉と同じ、グリア細胞を強化され、脳量子波を使う者に限定されます」
「同類だとでも言うのか?」
もしそうだとしたら問題だろう、とスミルオフは語調を強めて言った。
「可能性の問題を示唆したまでです」
一切悪るく感じることも無い様子で研究員は答えた。
「対応策は?」
「少尉のスーツに脳量子波を遮断する処置をしました。同じ轍は踏みません」
少し口元を吊り上げ、端末を見ながら言った。
スミルノフは超人機関の研究に否定的であり、嫌悪感を少し出すように尋ねる。
「それ程までして少尉を戦場に出させたいのか」
「CBなどという組織が現れなければ、我々の研究も公にはならなかったでしょう」
研究員は淡々と答えた。
CBを引き合いにだす言い方に呆れも感じながらも、スミルノフは研究員にCBのガンダムのパイロットの一人がピーリスと同類である可能性を伝え、何か分かったら報告するように言い、去っていった。
―CBS-70プトレマイオス・ブリッジ―
CBは人革連からの襲撃を受けたものの、損傷は極僅かで済み、対応はほぼ完璧といっても問題ない水準であった。
その中でアレルヤ・ハプティズムは迷っていた。
どうする……?
既にQBによってスメラギさん達にも示唆された事実を……。
それにアレはマリーだった。
《やることは一つだろ》
《……ハレルヤ》
アレルヤの頭に声がする。
《あの忌々しい機関が存続していて、俺らのような存在が次々と生み出されている。そいつは戦争を幇助する行為だ》
《叩けというのか? 仲間を、同類を。あそこにはマリーの仲間もいるかもしれない》
《おぃぉい、マリーマリーってなぁ。お優しいアレルヤ様にはできない相談かぁ? なら体を俺に渡せよぉ。速攻で片つけてやっからさぁ。……あのときみたいにぃ》
アレルヤはハレルヤのその言葉で昔超人機関から脱出し、船で漂流していた時の事を思い出す。
生き残るためには、一緒に抜けだした仲間を殺さざるを得なかった。
《っハ。やめてくれハレルヤ。何も殺すことはない、彼らを保護することだって》
気を取り戻したアレルヤが言った。
《戦闘用に改造された人間にどんな未来がある? そんなこと自分が一番よくわかってるだろ。えぇ? ソレスタルビーイングのガンダムマイスターさんよ?》
《違う! 僕がここに来たのは》
アレルヤは口に出しながら頭を振る。
《戦うことしかできないからだ》
《違う!》
《それが俺らの運命だ》
《違うっ! 僕はっ……!》
そして息を切らせる。
「はぁっ……はぁっ……」
くっ……ハレルヤの言う事も尤もだ……。
あの機関だけは放置してはおけない。
僕がやらなければ、誰がやるというんだ……。
この悪夢のような連鎖を僕が断ち切る。
今度こそ、僕の意思で。
そう心に決めて、アレルヤは自室に戻り、端末を開いてミッションプランの作成を始めた。
スメラギ・李・ノリエガ達にも知られた超人機関の存在。
アレルヤはデータを素早く纏め、スメラギの部屋に向かった。
心なし焦っていた為、声をかける事なく入ったその部屋には、イアン・ヴァスティとティエリア・アーデがいた。
「アレルヤの為のスーツの処置だけど……アレルヤ!」
スメラギが驚いた。
「スメラギさん……今、僕のスーツというのは」
都合の悪そうな顔をティエリアとイアンもした。
「ええ……そうよ。あなたのスーツに外部からの脳量子波を遮断する処置を施す話をしていたのよ」
仕方なくスメラギが答えた。
「ですが……どうしてティエリアが」
「機密事項だ。君に教えることは無い。失礼させてもらう」
言って、ティエリアはツカツカと部屋から退出して行った。
「あぁ、わしも一旦退室するぞ」
「悪いわね、イアン」
髪を掻きむしりながら、イアンも出て行った。
「スメラギさん達は脳量子波について知っているんですか?」
アレルヤは一瞬不審そうな顔をして尋ねた。
「……ある程度はね。別にCBが人体実験を行っているという訳ではないわよ」
ややばつが悪そうにしながらも、スメラギは眉を上げて言った。
「そうですか……」
「それで、何か用があるのかしら?」
「スメラギさんとヴェーダに、進言したい作戦プランがあります」
スメラギの質問にアレルヤは真剣な表情で言った。
「作戦プラン? まさか……」
「そのまさかです。戦争を幇助するある機関に対しての武力介入作戦。その機関は、僕の過去に関わっています。データに纏めたので良ければ見て下さい」
言って、アレルヤはメモリースティックを渡して出て行った。
スメラギは受けとったメモリーをすぐに開く。
「人類革新連盟軍超兵特務機関……そう」
スメラギはその資料の全てに目を通し、ヴェーダに提案した所、ブリーフィングルームにて、アレルヤを再び呼んだ。
「作戦プラン、見させてもらったわ、あなたの過去も。確かに武力介入する理由があるし、ヴェーダもこの作戦を推奨してる……でも良いいの? あなたは自分の同類を」
全てが言い終わる前にアレルヤは言う。
「構いません」
遮られたスメラギはもう一人に確認を取る。
「……もう一人のあなたは何て?」
「聞くまでもありません」
アレルヤは目を閉じて答えた。
「本当にいいのね?」
目を開き、アレルヤは答える。
「自分の過去ぐらい、自分で向き合います」
「分かったわ」
かくして、次のミッションプランが決定される。
アザディスタン王国に支援を開始する事になった国連。
アレハンドロ・コーナーはマリナ・イスマイールと会談し、本当の目的を明かす事なく、最後まで上辺だけで話を突き通した。
経済特区・東京ではルイスの母がルイスの元を訪れており、何かにつけてルイスを母国に連れて帰ろうとしていた。
対するルイスは、サジの事をできるだけ好印象に思ってもらう為、色々な画策を始め、ルイスの母にサジの料理を食べさせたりと、少しずつ無理矢理帰国させようとする思いを削りつつあった。
同じく東京に存在するJNNの記者、絹江・クロスロードは失踪者というキーワードを元に、過去に失踪した技術者や科学者の家を訪問し、情報を集めていた。
だが、大抵、余りにも昔の事の為に、得られる情報は少無かった。
しかし、それでもイオリア・シュヘンベルグがどのようにCBを設立したのか、という事についての筋は見えてきたのだった。
そしてCB、プトレマイオスにて。
エクシア、デュナメスはプラン通り、南アフリカ国境紛争地域への武力介入を行い、そこでQBが出たり出なかったり、一方キュリオスとヴァーチェはラグランジュ4に存在する人革連のスペースコロニー・全球にある人革連特務機関に武力介入を開始した。
そちらにQBが現れる事はなく、あったのは、コロニー内に突入したアレルヤの葛藤。
大絶叫を上げながらGNハンドミサイルユニットの引き金を引き、コロニー内で最も大きな建物、人革連・超人機関研究施設を完全破壊した。
ここに来て初めて、大量の殺人行為をするに至ったアレルヤは、ミッション終了後、止まることのない涙を流し続け、プトレマイオスに帰投したのだった……。
ミッション自体としては、終了と同時に、CBからマスコミに対して超人機関の情報がリークされ、その情報は人革連に大きな影響を与えた。
―人革連・低軌道ステーション―
スミルノフは研究員を拘束しに掛かっていた。
調査段階の状態である所に、疾風のごとくCBが介入を仕掛けたのは余りにも痛手。
「CBソレスタルビーイングが、全球を襲撃した。目標は貴官が所属する超兵機関だ」
その言語を聞いた研究員は驚愕する。
「がっ、そ、そんな……」
「私も知らされていない研究施設への攻撃……やはりガンダムのパイロットの中に超兵機関出身者がいたようだ」
「しかし、私は……」
まだ調べる為の情報すらないのにそんな事どうしろと、という風であったが、スミルノフは有無を言わさずに命令を出した。
「私の権限でこの研究施設を封鎖。貴官には取り調べを受けてもらう」
「な、何ですと!? 待ってください!」
即座にスミルノフの部下二人が研究員に手錠をかけた。
「この事件はすでに世界に流れている。何にせよ、我が陣営を不利な状況に追い込んだ、貴官の罪は重いぞ。連れて行け」
言って、スミルノフは部下に研究員を連れて行かせた。
CBに花を持たせるなど……。
結果、研究員はピーリスに脳量子波遮断の為のスーツを施した切り、それまで……となった。
アザディスタンで起きた内紛により、故郷へと向かう刹那。
彼がそこで受ける断罪とは何なのか。
希望の背後から絶望が忍び寄る。
そしてとうとう悪意を持った大人に対する悪意の影が蠢き、牙を剥くのか。
―月・裏面極秘施設―
「そろそろ、頃合いだよ、QB」
「ふぅん、そうなのか」