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No.26596の一覧
[0] IS〈インフィニット・ストラトス〉-IaI[SDデバイス](2016/03/07 00:44)
[1] 1-1[SDデバイス](2013/12/20 07:53)
[2] 1-2[SDデバイス](2011/03/20 02:32)
[3] 1-3[SDデバイス](2016/03/07 00:53)
[4] 1-4[SDデバイス](2016/03/07 00:53)
[5] 1-5[SDデバイス](2011/03/20 02:35)
[6] 1-6[SDデバイス](2011/03/20 02:34)
[7] 1-7[SDデバイス](2011/03/20 02:37)
[8] 1-8[SDデバイス](2011/03/20 02:37)
[9] 1-9[SDデバイス](2011/03/20 02:39)
[10] 1-10[SDデバイス](2015/07/04 22:24)
[11] 1-11[SDデバイス](2011/03/20 03:05)
[12] 1-12[SDデバイス](2011/03/20 02:40)
[13] 1-13[SDデバイス](2011/03/20 02:41)
[14] 1-14[SDデバイス](2011/03/20 02:41)
[15] 1-0[SDデバイス](2011/03/24 03:12)
[16] 2-1[SDデバイス](2011/04/09 22:58)
[17] 2-2[SDデバイス](2011/04/09 22:57)
[18] 2-3[SDデバイス](2011/05/15 18:24)
[19] 2-4[SDデバイス](2011/05/25 02:13)
[20] 2-5[SDデバイス](2011/06/05 08:10)
[21] 2-6[SDデバイス](2011/06/13 01:35)
[22] 2-7[SDデバイス](2011/06/18 18:01)
[23] 2-8[SDデバイス](2011/06/21 07:56)
[24] 2-9[SDデバイス](2011/07/08 04:45)
[25] 2-10[SDデバイス](2011/07/01 06:13)
[26] 2-11[SDデバイス](2013/12/05 02:08)
[27] 2-12[SDデバイス](2011/07/04 07:46)
[28] 2-13[SDデバイス](2011/07/08 04:35)
[29] 2-14[SDデバイス](2015/07/07 04:10)
[30] 2-0[SDデバイス](2011/07/13 01:23)
[43] 3-1[SDデバイス](2015/11/13 05:35)
[44] 3-2[SDデバイス](2014/05/11 14:27)
[45] 3-3[SDデバイス](2014/05/18 18:54)
[46] 3-4[SDデバイス](2014/06/12 21:52)
[47] 3-5[SDデバイス](2014/07/23 21:25)
[48] 3-6[SDデバイス](2014/10/06 16:16)
[49] 3-7[SDデバイス](2016/03/07 00:54)
[50] 3-8[SDデバイス](2016/03/07 00:54)
[51] 3-9[SDデバイス](2015/02/11 18:32)
[52] 3-0[SDデバイス](2015/02/15 09:29)
[53] 4-1[SDデバイス](2015/04/02 00:41)
[54] 4-2[SDデバイス](2015/05/02 15:05)
[55] 4-3[SDデバイス](2015/05/24 16:13)
[56] 4-4[SDデバイス](2015/05/31 23:59)
[57] 4-5[SDデバイス](2015/08/15 01:43)
[58] 4-6[SDデバイス](2015/09/23 20:47)
[59] 4-7[SDデバイス](2016/03/07 00:43)
[60] 4-8[SDデバイス](2016/03/07 00:43)
[61] 4-9[SDデバイス](2016/03/07 00:43)
[62] 4-10[SDデバイス](2016/03/07 00:44)
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[26596] 2-12
Name: SDデバイス◆132e9766 ID:af57b39d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/04 07:46

 ▽▽▽

【全機能異常無し(システムオールグリーン)。】
【仮接続。完了。】
【起動準備。完了。】
【待機中。】


 ――未だ名も無き0と1の集合体



 ▽▼▽


「援護は全面的に引き受けてあげます、前衛は任せましたわよ!」


 拳銃型の武装を仕舞い、愛用のライフルを両手でしっかりと構え直したオルコットは、俺と鈴に前を譲るように後退する。入れ替わるように俺と鈴は急加速をかけて敵へ前進した。
 無論敵は黙っていない、頭部両側のビーム砲と右腕の連射砲がこちらに向く。飛翔した四基のビット、その先端から放たれた光矢が敵の両側から突き刺さる。一拍遅れて、オルコット自身が撃ったレーザーが敵頭部のど真ん中にぶち込まれた。
 その隙に俺と鈴が一気に肉薄して、それぞれの武装を叩き込む。文句のない直撃だが――敵の装甲表面に目立った損傷は見られない。
「……思った以上に堅いですわね」
「合体してからシールドの出力も上がってんのよ! かっこいいけどめんどくさいなコイツっ!!」
 振るわれた大型ブレードを掻い潜るように回避して、鈴が土手っ腹に衝撃波の拳を叩き込む。攻撃の衝撃をくらって仰け反りこそするが、シールドを抜くまでには至っていない。
「織斑一夏、零落白夜は後何回使えまして?」
「フルパワーなら後一回」
 スラスターと《雪原》の力場を併用して小刻みにスライドするように機動。敵の右腕から発射された赤いビームを避け、思いっきり振るった弐型を叩きつける。
 頭部脇のビーム砲の内部で赤い光が膨れ上が――四基のビットが一斉射撃。前につんのめりうながら放たれたビームは、誰も何も無い空間を通り過ぎた。
【……概ね、解析が終了しました】
「あの、シロ、謝るんでそろそろ機嫌直してくれない?」
【……仰る意味がわかりません。操縦者に絶対服従する事が最優先事項とされているAIの私に機嫌も何も無いでしょう】
「じゃあその発言の前の微妙な間は何さ」
【……仕様です。わたし、もともとこういうしゃべりかたです】
 嘘だ。絶対嘘だ。
 翳した弐型で敵のブレードを受け止める。せめぎ合いになり、その場で停止した俺の肩を飛び越えた鈴が一気に肉薄。やたらいい感じにトゲトゲしている敵の顔面に、巨大な右拳を叩き込んだ。後退しながら鈴は素早く拳を引く、連動するように右拳が解ける。二門の衝撃砲に復帰した《龍咆》による不可視の圧力が敵のボディを殴りつけた。
「選択肢は二つ。このままエネルギーを節約して、教員の突入まで持ちこたえるか。もしくは――一発に賭けた勝負に出るか。幸か不幸か、”こちら”には一発逆転を狙える武装がありますから」
「俺の零落白夜、か。とはいえそいつはあんまり分がよろしくないな。リスクが高すぎる」
「でもこのままじゃこっちのエネルギーがもつかわかんないわよ。蒼いのと違って白式と甲龍はそう長く戦えないし」
「蒼いのでなくブルー・ティアーズですわ、ブルー・ティアーズ!」
 衝撃波に吹き飛ばされた巨体は地面に着弾、もうもうと土煙を巻き上がらせた。撃破できたとはその場の全員誰もが思っていない。故に警戒は一切怠らない。会話はしても、視線は敵の方向へと注がれ、武器は構えられたままだ。
 土煙が晴れる。地にその巨大な両脚で仁王立ちするISと思しき敵は、ゆっくりと頭部を動かして上空の俺達を見上げている。そのボディの各所はひしゃげていたり焦げていたりするものの、全体的には微々たる損傷しかしていない。

「不幸中の幸いなのは――あれが無人機という事くらいですわね。力の加減を考えなくていいのは、正直助かりますわ」

 オルコットの言葉に、俺と鈴は無言でもって肯定する。
 ISは原則として人が乗らなければ動かない。ただ俺達の目の前に居るそれは、間違いなく例外だった。
 戦っている途中から何かおかしいとは感じていた。この敵とは戦っていて、『楽しく』も『怖く』も無い。銃撃からも剣戟からも何も伝わってこない。人間らしさ、つまりは感情の類が一切感じられないのだ。徹底して機械的な動きなのである。
 人間も感情を殺した動きは訓練を積めば可能だ。しかしそれだったらこんな無機質でつまらないな動きにはならない。人間誰しもが必ず持ち、縛られ、振り回されるのが感情だ。素晴らしくもめんどくさいソレを、自己の意思で抑えこめる人間の動きはもっと美しい。
 ちなみに感情を無理やり壊された場合はもっと分かりやすく醜い動きになる。そっちは見てると不快になってくるから直ぐに分かる。
 そして抱いた疑問は途中で確信に変わった。
 中に人間が入っているのなら、あんな”変形”はどう考えても絶対に不可能である。やったら中の人が大変な事になる。正直実際ぶつかり合わなくてもあの変形合体シーンを見れば一目瞭然である。
「さあて。どうすっかね。中枢の位置に当たりは付けてはあるが、確実にぶった切るのはちいと骨だぜ。あの野郎、零落白夜の特性を知ってやがる」
 俺は一度零落白夜を起動させて攻撃を行っている。その際にあの敵は弐型の”刀身”を避け、柄と腕を掴んだ。あいつは、零落白夜の”刃”が触れてはいけないものだと”知っている”。

「織斑一夏。あなた、わたくしの期待に応える覚悟がありまして?」
「十……いや、五秒でいい。五秒稼いでくれたら、仕留めて見せる」

 敵は未だ動かない。こちらを見上げたまま、佇んでいる。その巨体を見下ろし、狙いを定めながら。かつて盛大に戦り合って、しかし今は肩を並べるクラスメイトと言葉を交わす。
「はん! 五秒と言わず一分でも十分でも稼いでやるわよ!」
「そんだけ稼げるなら普通に倒せよ」
「それだけ稼げるなら普通に倒せばいいでしょう」
「あんたら後でブン殴ってやる」
 兎に角。話は纏まった。後は最善の結果を引き寄せるだけ。
 鈴は両の拳を打ち鳴らして、金属音を響かせる。セシリアはライフルから二丁の拳銃に持ち替える。そして俺は、刀を握り締めた。

 最初に動いたのは――相手の方だった。

 作戦会議を聞いていたのか、それともこちらの様子から何かを察したのかは知りゃしないが――巨大なISのようなそいつは、突如その歪な両の腕を大きく左右に広げる。
 バシュッと空気の抜ける音と共に、胸部装甲の幾つかが脱落する。開いたそこからせり出してきたのは、赤いクリスタル。放つビームと同質の輝きを秘めるその結晶が眩く輝き出す。そしてボディの表面を無数の赤い光が走り始め――
「…………」
「…………」
「…………」
【……敵IS内部でエネルギーの増大を確認】
 視線を向けるまでもなく、鈴とオルコットが顔を引き攣らせたのが息遣いで感じられた。恐らく俺も似た様な顔をしているのだろう。そんな中、一人だけ平常運転(拗ね気味だが)のシロが何とも頼もしい。
 思わず固まってしまったこちら三人を置き去りにして、敵はその輝きを強め続ける。内側で増大し続けているエネルギーの奔流が、装甲の、関節の隙間から閃光という形で溢れ出している。

【……エネルギー総量から推測するに。このまま総てが破壊力に換算された場合、最低でもこのアリーナは跡形もなく吹き飛びます】

「自爆する気かよ、あの野郎ッ!!」
「止めますわよ、一刻も早くッ!!」
「言われなくてもわかってるわよッ!!」
 白式、甲龍、ブルー・ティアーズが全く同じタイミングでその場から敵目掛けて真下へと落下するように飛翔する。
「でも攻撃していいの!? ぶちこんだらボカンとかなんないわよね!?」
「何もしなければどっち道ボカンですわよ!!」
「直ぐ爆発しねえってことは、何か準備してるってことだ、手は多分残ってる! シロ!」
【……はい】
 無機質音声改め拗ねボイスと同時に表示されたのは、敵ISの大まかなシルエット。その胸部の一点に明滅するマークが付けられている。
【……制御中枢部位をピンポイントに破壊出来れば増幅されたエネルギーは破壊力に変換されず霧散します。多少の爆発は起きるでしょうが、このまま一気に放出されるよりは被害は抑えられるでしょう。推測ですが】
「よし! とにかくアイツの動きを止め――」
 轟、と幾筋もの赤い閃光が瞬いた。直進の軌道を無理やりにねじ曲げ、三機のISはバラバラに散開しつつもその砲撃を回避する。明らかにさっきまでより威力が桁違いに増していた。
「自爆準備中に何動いてんの!? そんなのアリなのふざけんじゃないわよ――――!?」
 鈴の絶叫に全力で同意したいのだが、避けるのに忙しくてそんな暇が無い。上がっているのは威力だけでなく、連射速度もだ。恐らく砲身の耐久性を無視しているのだろう。敵の砲塔は発射の度に小規模な爆発を起こしている。

「――――うそっ!? なんで!?」

 突如、鈴が悲鳴のような声を上げる。直後、何処かへ一直線に向かって飛んでいく。敵の方向とは明らかに違う、放たれたビームを避けるための動きでもない。
「おい、鈴!?」
「何してますのこの非常時に!」
 俺とオルコットの叫びに答えず、鈴はただ一直線に飛ぶ。その延長線上に視線を飛ばして、俺は鈴の行動の意味を理解した。鈴が文字通り真っ直ぐに向かっている先には、ピットとアリーナを繋ぐ出入口の一つ。
 遮断シールドで隔てられている外側から、内側へと入り込んだ少女が一人。
 今まさに、地面に向かって落下している途中だった。
「間に合ええぇぇぇぇッ!!」
 ガガッ! と拳が衝撃砲へと可変、そして甲龍が一段加速した。恐らく衝撃砲を後方に発射して即席のブースターにしたのだろう。あのスピードなら、ギリギリだが間に合うだろう。少女は――篠ノ之箒は、地面に落ちる前に受け止められる。
 だが、あんな直線的な動きをしている鈴を敵が見逃す筈がない。

「どうしてこう次から次へと――面倒な事が起きますのッ!?」

 鈴は無事に箒を受け止めた。しかしその背後からは赤いビームが迫ってきている。急停止した直後の鈴にそれを避ける術は無い。
 近接武装しか無い白式はこの位置関係ではどう足掻いてもフォローに回れない。だからオルコットは、直ぐに動いた。正確には動かした。
 ブルー・ティアーズの全火力を集中させてもあのビームは止められない。だから”鈴を”狙う。ビットの一基が放ったレーザーは鈴の傍らの地面に着弾し、爆発を引き起こした。
 吹き飛ばされた鈴は無理やりに位置をずらされ、結果としてビームは鈴でなくアリーナの壁に着弾して爆発する。
 ”弾丸”の進路を変えられなくても、”的”が動けば射撃は外れる。
 鈴と箒を思惑通りに動かせた事に安堵したからか、蒼い彼女は一瞬だけ忘却していた。ブルー・ティアーズのビットを精密操作している時、彼女は”止まって”いるのだ。

「セシリア!!」
「――ッ!」

 俺の絶叫と、閃光の発射は同時だった。それでも反応してみせたのは流石なのだが、一拍遅い。ブルー・ティアーズ右側面のバインダーが、ビームの奔流に飲み込まれて、
 消し飛んだ。


 ▽▽▽


 ――――私はだあれ?

 全身を叩かれるような衝撃に、濁っていた意識が少しだけ鮮明になった。倒れている身体を起こそうとしたら、全身に感じる鈍痛が邪魔をする。
 何よりも意識を蝕むほどの重く鈍い頭痛が厄介だった。それでも何とか上体を起こした箒は、そこでようやく自分が今何処に居るのかを認識する。
 アリーナの中だ。遮断シールドで隔たれ、入る事の出来ない筈の場所に箒は倒れていた。当然の様に何故と考え、現状に至った過程を思い出そうと試みる。だが一層激しさを増した頭痛によって記憶の回想を阻まれる。
「気がついた? だったら回れ右して出口に向かって走って」
 反射的に顔を上げれば、誰かの背中が視界に入る。誰かは直ぐに検討がついた。ISを着ているから小柄ではないけれども、ツインテールの髪型には覚えがある。髪を結ぶリボンの片方が、黒く焦げていた。
「鈴……? 一体、何が、私は、どうしてここに」
「そりゃあたしが聞きたいわよ。気がついたら何か落ちてるし。大体どーやって遮断シールド通り抜けたの?」
 箒の方を振り返らないまま、鈴は右肩のユニットに手をかけ、振るう。金属音と共に砲が拳に変形する最中で、ひしゃげた装甲や幾つかの部品がバラバラと落下した。
「ま、聞くのは後回しか。とりあえずここから離れて、速く」
 箒は鈴の向こう側に歪な人型が立っている。試合に乱入したISだと理解したが、何故か最初とは形が異なっている。全高が数倍になり、特に両腕が巨大化しているのだ。更に全身から吹き出すように赤い光を迸らせている。

 ――――私はだあれ?

 あれが何かは見当が付かないが、尋常でないことだけは嫌という程伝わって来る。そびえる巨人が、ゆっくりとこちらに向き直った。噴き出る赤い光が収束し、幾つかの球を形作る。
「大丈夫、攻撃は通させない」
 右腕を突き出して、左腕を添える。それだけで部品が幾つか脱落する。鈴のISがダメージを負っているのは明らかだが、推進系はまだ生きている筈だ。なのに何故鈴はここから――今直ぐにでも砲撃されてもおかしくない場所から動かないのか。
「何故だ」
 それは箒が後ろに居るからだ。
 だからわざわざ止まっているのだ。より狙いやすい的になるために。
「何故私を庇う、私は――」
 呆然と呟いていた。
 鈴と最後に会話したのは、部屋割りについて言い争ったのが最後である。箒が一方的に鈴を拒んで、跳ね除けたあの会話が最後である。だから鈴の箒に対する印象は最悪である筈なのだ。だから問わずにはいられなかった。

「だって私、箒と友達になるの諦めたわけじゃないし。というかケンカ別れで死に別れって、それこそ冗談じゃないってのよ」

 鈴は、物凄く何でもない事のように返答した。赤い光球は膨れ上がり続けている。生身である筈の箒は何故か理解している。あの光球が転じて放たれるビームの出力は、甲龍の攻撃では防げない。防御するにもシールドエネルギーの残量が足りてない。
「大体ね、一回や二回ケンカしたくらいでなんだってのよ。あたしとイチカなんかもう数十回はケンカしてるわよ」
 甲龍のハイパーセンサーがそれを察知していない訳は無いのだ。庇いきれない事を鈴は解っているはずなのだ。箒を見捨てて、この場から離れれば助かることは解っている筈なのだ。
 思った事がなんだったのか、はっきりとは自覚できていない。
 それは死にたくないだったのか。
 それは負けたくないだったのか。
 それは助けたいだったのか。
 それは嬉しいだったのか。
 それは悔しいだったのか。
 あるいはその総てだったのか。
 限界まで膨れ上がった光球がビームとして放たれる。迎え撃つために鈴が龍の拳を引き絞る。そして、箒の頭の中で何かが”ばぎん”と音を立てて砕け散る。破片を退けて現れたのは、知らない名前。でも刻まれていた名前。

「紅椿(あかつばき)――――――――――ッ!!!!!」

 ここで初めて鈴が振り返る。それは、絶叫に応えるように”後方”で真紅の光が爆発するように膨れ上がった事に対する驚愕故に。当然だろう。光が爆発するのならば”前方”であるべきなのだから。しかし現実は鈴の予想を飛び越えて展開する。
 迎撃されないビームは当然着弾する。しかしそれまでだった。自身より遥かに高出力のエネルギーの壁に飲み込まれ、掻き消されるように消失する。
【紅椿。合戦用意。】
 箒を中心として拡散した赤い光は、砲撃を無効化した後に弾け飛ぶように消失した。だが赤い光は消えていない。何故なら溢れ出てくるからだ。弾け飛んで消失した分よりも多くの赤い光が――中心から、箒の”纏う機体”から迸り続けている。

【単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)。《狂喜乱舞》。発動。】

 周囲を燃え上がる炎の如くに生々しく蠢く赤い光の端を、赤い鋼で覆われた箒の両腕が捕まえるように握り込む。ずるりと引っ張られたそれは、整えられる飴細工の様に姿を変え――二振りの刀と化した。

「うぅ――おおおおおおぉぉぉ!!!!」

 新たに噴き出した赤の奔流が箒の纏った機体の後部に収束し――爆発する。ただ膨大な出力に任せただけの、単純なる加速。しかしそれは並の膨大でない故に、規格外の速度を叩き出した。瞬きの内に己に肉薄するであろう篠ノ之箒にビームが向かう。
 しかし破壊の光矢は翳されただけの刀に呆気無く膝を折って消し飛んだ。出力の桁が根本的に違う故の、当然の結果である。

「脚だ!!」

 機体の機能、その一部と化しているも同然の今の箒がその言葉に反応できたのは、それが想い人の声だった故か。高く高く振り上げた。赤く揺らめく二振りの刀が力の限り振り下ろされ――巨人の両脚を串刺しにして縫い止めた。

「今ですわ! 放り投げなさい織斑一夏!!」

 続いて聞こえた声は、蒼い機体を纏う少女のものである。白い機体を纏った箒の想い人は、抱えていた蒼い機体を力の限り巨人に向けて放り投げる。
 蒼い機体を纏う少女は、両手の拳銃を乱射し、腰のミサイルを発射し、残り二基となったビットを射撃させながら突貫させ――最後に自身の身体を『右腕』にぶつけて組み付いた。

「せぇいぃやぁぁぁぁ!!!」

 現実に驚愕しても、それでも龍を纏う少女はこれが好機であると察知していた。箒の突撃の後ろという安全地帯を、部品を零しながらも疾走し、残りのエネルギー総てを注ぎ込んだ拳を『左腕』に叩き込む。
『脚』を串刺しにされて。
『右腕』を抑えこまれて。
『左腕』を吹き飛ばされて。

 巨人がその瞬間『停止』した。

 三人の中で唯一かつ最も冷静だったのは蒼を駆る一人である。
 だから彼女は切札の攻撃を促そうとした。
 しかし声を発するよりも早く――どころか正に『停止』した瞬間に、切札は既に『着弾』している。


 ▼▼▼


【零落白夜(れいらくびゃくや)――発動】

 瞬時加速は背後に一度放出したエネルギーを取り込み、圧縮して放出。その際に得られる慣性エネルギーを利用して加速する。
 白式の両脚から最後のカートリッジが排莢される。展開した強力な力場を一気に炸裂させるように破壊。同時に通常力場を張り巡らせる。そのままでは周囲に拡散してしまうエネルギーを一方向のみに集中させ、機体を”前”へと押し出す。
 炸裂による一段目の加速。
 そして”炸裂させたエネルギー”を回収し、圧縮開放しての二段目の加速。
 白式のエネルギーに余裕は無い。攻撃に回す分だけでギリギリだ。しかしこの方法ならば、カートリッジという本体とは別口扱いのエネルギーを加速に流用する事ができる。

【エネルギー転換率――100%】

 雪片弐型の刀身がこれまでとは一線を画す輝きを放つ。四肢を封じられた巨人は、しかしそのクリスタルから最後の一手と赤い閃光を撃ち放つ。

「――――チェェェストォォァァァァアアアアア!!!!」

 それを当たり前のように切り裂いて。
 行為を阻むモノ何もかもを切り裂いて。
 白い流星が、白い光の尾を引いて。


 巨人の身体を、断ち切った。

















【……47センチ。ズレた】

 シロと呼ばれる電子の幼子は、その事実を当たり前のように認識する。



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