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No.26038の一覧
[0] 東方ギャザリング (東方×MTG 転生チート オリ主)[roisin](2014/11/08 16:47)
[1] 第00話 プロローグ[roisin](2013/02/20 07:12)
[2] 第01話 大地に立つ[roisin](2012/07/01 17:54)
[3] 第02話 原作キャラと出会う[roisin](2012/07/01 18:01)
[4] 第03話 神と人の差[roisin](2012/07/01 18:05)
[5] 第04話 名前[roisin](2012/07/01 18:08)
[6] 第05話 洩矢の国で[roisin](2012/07/03 21:08)
[7] 第06話 悪魔の代価[roisin](2012/07/01 18:34)
[8] 第07話 異国の妖怪と大和の神[roisin](2012/07/01 18:39)
[9] 第08話 満身創痍[roisin](2012/07/01 18:44)
[10] 第09話 目が覚めたら[roisin](2012/07/01 18:51)
[11] 第10話 対話と悪戯とお星様[roisin](2012/07/01 18:57)
[12] 第11話 大和の日々《前編》[roisin](2012/07/01 21:35)
[13] 第12話 大和の日々《中編》[roisin](2013/01/05 19:41)
[14] 第13話 大和の日々《後編》[roisin](2012/07/01 21:37)
[15] 第14話 大和の日々《おまけ》[roisin](2012/07/01 21:37)
[16] 第15話 鬼[roisin](2013/02/20 07:27)
[17] 第16話 Hulk Flash[roisin](2013/02/20 07:27)
[18] 第17話 ぐだぐだな戦後[roisin](2012/07/01 17:49)
[19] 第18話 崇められて 強請られて[roisin](2012/07/01 17:49)
[20] 第19話 浜鍋[roisin](2012/07/08 19:48)
[21] 第20話 歩み寄る気持ち[roisin](2012/07/08 19:48)
[22] 第21話 太郎の代わりに[roisin](2012/09/23 03:40)
[23] 第22話 月の異名を持つ女性[roisin](2012/09/23 03:39)
[24] 第23話 青い人[roisin](2012/07/01 17:36)
[25] 第24話 プレインズウォーカー[roisin](2012/07/01 17:37)
[26] 第25話 手札破壊[roisin](2013/02/20 07:23)
[27] 第26話 蓬莱の国では[roisin](2012/07/01 17:38)
[28] 第27話 氷結世界に潜む者[roisin](2012/07/01 17:39)
[29] 第28話 Hexmage Depths《前編》[roisin](2013/07/24 23:03)
[30] 第29話 Hexmage Depths《中編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[31] 第30話 Hexmage Depths《後編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[32] 第31話 一方の大和の国[roisin](2012/10/27 18:57)
[33] 第32話 移動中《前編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[34] 第33話 移動中《後編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[35] 第34話 対面[roisin](2012/07/08 20:18)
[36] 第35話 高御産巣日[roisin](2013/07/25 23:16)
[37] 第36話 病室にて[roisin](2012/07/08 20:18)
[38] 第37話 玉兎[roisin](2012/07/08 20:18)
[39] 第38話 置き土産[roisin](2012/09/20 20:52)
[40] 第39話 力の使い方[roisin](2013/07/25 00:25)
[41] 第40話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《前編》[roisin](2012/09/20 20:52)
[42] 第41話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《後編》[roisin](2012/07/08 20:19)
[43] 第42話 地上へ[roisin](2012/09/20 20:53)
[44] 第43話 小さな小さな《表側》[roisin](2013/01/05 19:43)
[45] 第44話 小さな小さな《裏側》[roisin](2012/10/06 15:48)
[46] 第45話 砂上の楼閣[roisin](2013/11/04 23:10)
[47] 第46話 アドバイザー[roisin](2013/11/04 23:10)
[48] 第47話 悪乗り[roisin](2013/11/04 23:11)
[49] 第48話 Awakening[roisin](2013/11/04 23:12)
[50] 第49話 陥穽[roisin](2013/11/04 23:16)
[51] 第50話 沼[roisin](2014/02/23 22:00)
[83] 第51話 墨目[roisin](2014/02/23 22:01)
[84] 第52話 土地破壊[roisin](2014/02/23 22:04)
[85] 第53話 若返り[roisin](2014/01/25 13:11)
[86] 第54話 宝物神[roisin](2014/01/25 13:12)
[87] 第55話 大地創造[roisin](2014/01/25 13:12)
[88] 第56話 温泉にて《前編》[roisin](2014/02/23 22:12)
[89] 第57話 温泉にて《後編》[roisin](2014/02/23 22:17)
[90] 第58話 監視する者[roisin](2014/02/23 22:21)
[92] 第59話 仙人《前編》[roisin](2014/02/23 22:28)
[94] 第60話 仙人《後編》[roisin](2014/03/06 13:35)
[95] 第??話 覚[roisin](2014/05/24 02:25)
[97] 第24話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:27)
[98] 第25話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:28)
[99] 第26話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[100] 第27話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[102] 第28話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:30)
[103] 第29話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[104] 第30話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[105] 第31話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:16)
[106] 第32話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:17)
[107] 第??話 スカーレット[roisin](2014/12/31 18:22)
[108] ご報告[roisin](2014/12/31 18:39)
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[26038] 第55話 大地創造
Name: roisin◆defa8f7a ID:ad6b74bc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/25 13:12






 クベーラの操る飛翔戦車の上から見る景色は、文字通り空を飛んでいる視点である為に、それはそれは色々なものが見える訳でして。

 しかしながら、見えるものは景色だけには留まらなかった。こちらと同じく空中に……それも、そこかしこに見て取れる物体がチラホラと。象の頭やら、鳥の上半身やら。他は……キ○グギドラの親戚なのかと尋ねてみたい多面顔やら、真っ黒とか真っ青とか真っ白とかな肌な方々とか。数にしてそう多くは無いのだが、誰もが一筋縄じゃあいかないだろう雰囲気をこちらに叩き付けて来ている。

 ―――敵対姿勢は取らない。

 そう公言させてから【素早い支配】の亜種である、ダメージを一切受けない性質の【マナ結合】による【土地】の連続召喚を行ったのだが……。










『マナ結合』

 1マナで、緑の【エンチャント】

 自らの手札から、好きな数の【土地】を場に出す事が出来る。この能力を用いて【土地】を出した場合、残りの手札は全て捨てる。

【素早い支配】の亜種であり、調整版。元になったものはその性質から、非常にコンボに向いていた為に調整を施されたものがこれであり、手札を溜め込む傾向の強いコンボデッキの動きを大きく制限するデメリットを付与させたものとなっている。










(……あぁ、でも、インドの神話のやつらって、主だったキャラでも騙し討ちスレスレの手段とか、えげつない計略とか色々やらかしてる奴やら面やらもあったんだよなぁ)



 神様だからと、相手を信じたのは早計だったか。

 ―――何故、こんなやつが。

 彼ら……あれらの姿からは、そんな文字が浮かび上がっているのがバッチリと分かってしまう。これは喧嘩を売られているのだろうか。そう思い、感じ、応えてやるように蔑みの視線で睨み返す。

 こちらにとっては造作も無い、ただ土地を並べるだけの、こんな事も―――この程度の事も出来ないのかと。

 脳内の第三者視点の俺が『普通は出来ねぇよ』『普通じゃななくても出来ねぇよ』『だよね?』『だよな?』と仲良く会話をしながら突っ込みを入れてきたものの、そこは見ない振りをして。と、口を噤んでもらう事にした。

 そんな俺の態度がいたくお気に召さないようで、刺さる視線の鋭さは何倍にも膨れ上がるのだが、対・神聖防御な数値はしっかりと上昇しているらしく、息苦しくなる程度の重圧で収まっている。これまでの経験からすればこれくらいの苦痛など、十二分に無視出来る問題だ。

 ……それに、謂れのない非難の視線には、心沸き立つものがある。

 全員が全員とは言わないが、己を神聖視している雰囲気を醸し出しているのがチラホラと。



(良いねぇ。そういう思想は大好きだ)



 ―――何故って。

 だってそれは―――相手が増長してくれればくれるほどに―――。



「―――この度の助力、感謝の言葉もありません」



 暗い感情を払拭するように、横から響く男の声―――宝物神クベーラのものに、張り詰めた空気が萎んでいくのが分かる。

 そこに不快な色は無い。

 心の底から感謝しているのだと信じられる、芯に響く、ありがとう、であった。



「……別に。その言葉からすると、もう大丈夫……と思っても良いのか?」

「はい。未だ欠損部分はありますが、これならば百の年を待たずして、元の大地を取り戻す事も可能でしょう」



 そりゃ良かった……のだろうか。

 百年以内とは結構長い気がするのだが、元々回復の目処すら立っていなかったのと比べれば大分マシになった方なのだろう。

 自分でも投げやりな口調で応えてしまったのだが、周囲の神々と、このクベーラという神を見比べて、もう少し自分の態度を軟化させても良いのではないだろうか……と。今後を考えれば、そう思えてならない。

 これが全てという訳ではないのだろうが、少なくとも、この場に居る神々の誰よりも、この宝物神は温和である。少なくとも内心はどうあれ、他者に対して高圧的に出ることはしないのだから。



(殺人犯の中に居る、詐欺師っつーか、なんつーか……)



 周りのイメージがものっそ低ければ、ただ低いだけの相手が相対的に上昇している……ような感覚か。

 環境によって、物事の評価など簡単に変わるものだという一例を垣間見た気がします。



「……ただ、一点。お伺いしたい事が御座います」



 と、そんなお方から質問が。

 ……大よそ、その答えが予期出来る為に耳を塞ぎたくなる声であったのだが、こんな近距離でそうもいくまいと、何食わぬ顔を作り、素知らぬ風に返答する。



「何か?」

「はい……その……」



 しばし言い澱んだ後で、意を決した……というより、困惑の方が目立つ口調で。



「これらの……地面……? は、一体……」



 やっぱり突っ込まれたか。

 あちゃー、と一言内心で呟いて、何食わぬ顔で眼下に広がる広大な地形を見据える。

【ハルマゲドン】による大規模破壊。それを修復する事は、とても【土地】一つで収まる代物ではなく、必然、ぽっかりと出現した空白……もとい暗闇を埋めるべく、大量の【土地】で補填する形を取らざるを得なくなる。

【土地】一つで数キロ範囲を一瞬で作り変えるというチートスキルだというのに、それを複数回使用しないといけないとか……使用した【ハルマゲドン】の性能に身震いするレベルであった。



(流石、白を代表する二大リセット呪文の片割れ……)



 しかしながら現在の俺は、同名のカードは一日に一枚しか使えないという制約の下に居る。使い回し……墓地から回収して再び使用するのは可能だが、それには何よりマナを喰う。

 この地に降りて色々と経験は積んだとはいえ、それらが改善された様子も無く、予定も無さそうで。

 なもんだから、先に考えていた通り、カード名の異なる、砂漠に準ずる各種【土地】で補った。

 別に自然豊かな大地でも、命溢れる水源でも出せたのだが……。



(お前に食わせるタンメン……ゲフンゲフン……お前らにゃあ、何の思い入れもねぇですし~)



 知名度的には良く知っているのだが、それは時代背景やら人間関係やら背負って来た歴史やらに対してのものであって、性格とか思考パターンとかの、彼らの内面に関する知識はほぼ皆無。

 鈍器本の一角たるタウンペ○ジに記載されている店名をチラっと眺めて知っているだけ、的な。そこには何の感情も挟む余地は無い。抱く印象はそのようなもの。



「別に良いじゃないか。とりあえず暗闇は埋めたんだ。後はそっちで好きにやってくれ」

「は、はぁ……ですが……」



 一陣の風。

 その“極寒の冷気”が火照った……どころか焼け焦がす気満々の太陽の暴力を軽減してくれる。

 ―――こちらとしても、何の対策も講じずに、カード枚数とマナのストックを全て消費したのではない。

【マナ結合】や【素早い支配】を選択肢として上げた際に、ある系統のデッキを思いつき、これは中々悪くないのではないかと思い、実行した。

 コンボデッキに滅法弱く、【ビートダウン】や【コントロール】……特に【パーミッション】に対して目を見張る強さを誇る、それは。



(当時は貧乏デッキなんて呼ばれておりました、【土地単(とちたん)】■■■■の一部で御座います)










『土地単』

 数あるデッキ名の内の一つ。その名の通り、主に【土地】の中の【特殊地形】を主軸として構成されたデッキ名。

 勝ち手段は主に二つ。クリーチャー化する能力を持つ【土地】、通称【ミシュラ・ランド】で相手を殴る【ビートダウン】寄りのものと、とある【特殊地形】を出し、【火力】で対象を焼き尽くす【バーン】型……あるいは【コンボ】型のどちらかに部類されるタイプの二つがある。一般的なデッキ内にある【土地】が二十枚程度であるのに対し、【土地単】は三、四十枚以上が【土地】という異常な代物である。しかし、クリーチャー除去、ライフ回復、直接火力、等々。その汎用性は非常に高く、臨機応変な戦法を得意とする。

 反面、デッキ構成の大半が【特殊地形】に依存している性質上、特定のカードを使用された途端に完封され投了、あるいは瞬殺される事もある。










 今、この砂漠にポッカリと空いた暗闇を埋めた【土地】達は、【土地単】の構成するカードを参考にした。

 見た目は砂の大地だけれど、一部のものはクリーチャーにマイナスの修正を与えるものやら、【土地】を一つ破壊するものやら、色々と。

 ただし、クベーラが反応したのは、それらではない。

 黄色い大地に、明らかにこの地には出現しないであろう性質の代物がでんと広がっているのだから、無視するには大きすぎるし、寒過ぎる。

 何せ一面、氷の世界。

【マリット・レイジ】を召喚した【暗黒の深部】とは一味違った氷の大地の連続体が、吹き荒む灼熱の風を、絶対零度のそれへと変えて、天然のクーラー……いや。これはもはや冷凍庫か。そういったものへと作り変えてしまっている。

 北極やら南極やらで見られそうな光景が、今、こうして大砂漠ど真ん中であった目の前に展開されてしまっているのだから、何か一言、言わずにはいられなかったんだろう。



(何とな~く……これが原因で他の神さんから睨まれてるんじゃないかと思わんでもないです)



 名を、【氷河の割れ目】。

 非常に強力な能力を持つ【特殊地形】である。










『Glacial Chasm/氷河の割れ目』

【特殊地形】の一つ。古いカードである為、日本語表記のものが存在しない。

 これが場に出た時、【土地】を一つ生贄に捧げる。そして、これが場に出ている限り、自身がコントロールするクリーチャーは攻撃が不可能になり、代わり、自身に与えられる、あらゆるダメージを軽減し、ゼロにする。

 非常に強力な能力を有するが、当然ながら、そんなものが安易に使用出来る筈もない。使用ターンが経過すればする程に、2点、4点、6点と、雪ダルマ式に膨れてゆく維持費―――ライフを支払わなければならないデメリットが発生する為、長期間の維持は自殺行為となる。が、その問題点をクリアして運用するデッキも幾つかあり、その内の一つが【土地単】でもある。










 砂漠のど真ん中に氷河とか、天変地異にも程があるとは思うんだけども、細部に眼を凝らして見て見れば、徐々に氷が溶け始めているのが分かる。どうやら、周囲の環境に影響を受けているらしい。

 すぐに。とはならないだろうが、この分ならば、防衛的な意味でも、大地の修復的な意味でも、充分に時間稼ぎとなってくれる筈。その間にこの地の神様ががんばって、自力で修復可能なレベルまで直す事だろう。

 ただ、この【氷河の割れ目】。確かダメージ軽減の仕方は、氷河の壁が一切の攻撃をブロックしてくれてるのだが、代わり、氷河の中にい続ける事で凍え、凍死してしまう。というイメージで画かれたものであったと記憶していたけれど、【ダークスティール】……【死への抵抗】の能力宜しく、絵柄とカード効果の採用比率は、カード能力の方に比重が置かれているようでして。



「いやー、下手したら氷河の中に囚われちまうんじゃないかと内心ビクビクしてたんだわ。無事に足元に出てきてくれて良かった良かった」

「氷、河……で、ありますか。……元は運河であったものを、何故そのような手間を掛けてまで凍結なさったのですかな? ……そも、何もそのような不確定なものに頼らずとも……」



 言い淀むクベーラに、心の中で同意する。

 仰る事は最もだと思うのだけれど、クベさんは兎も角、ほぼ完全に他人な他の神々には気を緩める訳にはいかないのです。

 特にそれが、何の思い入れも無い奴らであれば、なおの事。

 月で高御産巣日を相手にしていた時には丸め込まれた印象が拭えないけれど、今この場の……クベーラ以外は丸め込む素振りすら無いと来た。

 リンの事を考えれば……というより、色々な前神っぽい連中……方々であらせられるので、友好になっておくに越した事は無いのだろうが、それをするには些か抵抗を感じてしまう。



「他の奴らが絶対に手を出さない、ってんならこんな真似しなくて済んだんだけどな。今だってこんな状況ですし~」



 隣のクベーラにだけ聞こえるよう、不貞腐れた子供の口調で、一段と音量を落として返答する。

 それを聞いた宝物神は、むぅと唸って黙ってしまう。確約は出来ないのだろう姿を察するに、色々と大変なのね。という同情が沸き起こる。



「……本来ならば、この後、九十九様には天界へと足を運び、インドラ様と会談していただきたい所ではあるのですが……」



 周囲の神々のトゲトゲ視線を見渡して、溜め息一つ。自ら口にした言葉が不可能であるのだと理解したようだ。



「これ、あれか。過ぎたる功は身を滅ぼす。とか、そういった類になりそう……って解釈でいいのか?」



 ぽっと出の……何処の馬の骨とも知れない輩を、自分達のトップが持て成す、というシチュエーションが好ましくないのだろうと当りを付ける。

 ダン・ダン塚で、ウィリクがこぼした台詞を思い出す。

 幾らトップに認められたからといって、以下一同が納得しているかは別の問題。表面上は理解するだろうが、長い眼で見れば怪しいものだ。こういう所は完全縦型社会の面が強い、妖怪達の組織体系が羨ましい。

 まぁそれも、時間を掛けて成果を見せることでの改善を図る道もあるのだろうが、俺が長くこの地に留まる気がない以上、無駄な答えだと切って捨てた。



「申し訳ありません……」

「いんや。別に問題ない。むしろ面倒が少なくてありがたいッス」



 どうやら本当に“そういった類”であったようで、心苦しさを前面に展開した謝罪を受ける羽目になってしまった。

 苦虫を噛み潰した表情や、四苦八苦する姿は十二分に堪能したので、これ以上の謝罪などはこちらの気分が宜しくない。それがリンの為に働こうとしてくれている相手であるのなら、もはやそれは、心苦しさの方が先に立つ。

 そう思ってのおどけた語尾を付け足してみたのだが、見事にそれはスルーされてしまいまして、慌てて話題を作り出し、空気を強引に変える事にした。



「そっ、そういや平天大聖はどうなったんだ? あの後は完全に丸投……任せる形になったけど。こうして土地の修復に当ってたって事は、妖怪の山……タッキリ山だっけ? そこに構えてた妖怪達は倒した……んだろ?」



 こちらの質問に、短めの深呼吸の後、クベーラは真面目な顔で答えてくれた。

 俺とクベーラが雑談に入り始めたのを察したのか、一人、また一人と異形の神々は方々へと散ってゆく。それに合わせ、射殺さんとする視線も消えて行き、未だ何名かの存在は確認出来るものの、悪辣な気配は消え去った。この場に残っている者は、こちらに嫌悪を向ける存在ではないようだ。



「はい。それにつきましては、九十九様の度量を見せ付けるものとなりまして御座います」



 俺が去った後の戦いは、大した山場も無く終わりを迎えたんだそうだ。

 雑多な……とはいっても一騎当千クラスの妖怪の殆どが奈落の底へと消え去り、辛うじて残っていた者達は、インドな神様達によって鎮圧されたらしい。

 とは言いつつ、牛魔王を除く他の大聖……七天大聖が最後まで粘っていたそうなのだが、多勢に無勢で一網打尽。一名の大聖を除く全員が捕縛されたんだそうだ。



「そも、斉天めが不在であったのが幸いで御座いました。あれの力は平天に勝るとも劣らぬもの。思慮が浅く直情的な分、その俊敏さや直感は、我らでも対抗は難しい」



 幸運が重なった。というニュアンスなのは分かるのだが……。



「……知ってる前提で話されても、俺、その斉天? って奴が誰か知らないんですが」



 というか、数日前まで平天大聖が妖怪か神様か……どんな存在だったのかすら知らんかったし。

 リンから一応は教えてもらったけれど、七天大聖というのも似たような名前ばっかで、牛魔王以外は記憶から抜け落ちている。

 とりあえず凄い奴なんだろう。という認識はあるんだが、それ以上思考が派生する事はなかった。名も知らない国の大統領とか首相の名前を言われた気分です。



「どれほど前かは詳細に記憶しておりませんが、最も新しく大聖と名乗る列に加わった若輩者にて御座います。天界での地位……高位を寄越せと申しましたので、馬の飼育係……おほんっ……相応の官職を与えましたところ、不服に思い、反逆したのでしたかな」



 高位……この場合は、役職の高い位を指す言葉、で良い筈……。官職って言ってたし。

 ……ってか、今、馬の世話云々ってもらしてなかったかコイツ。



「……それ、お前らが悪いんじゃね?」

「何を仰います、九十九様。ワタシク共は一切偽りなど申しておりませんとも。それに、力はあれど傍若無人な輩を上位に据えた場合、一体どれほどの民草の命が失われてしまう事になるか。消え往くものが命ではありますれど、ただ悪戯に消費していいものでは、決してありません」



 そういって、視線を宙へと這わせ、何かの記憶を思い返すような風になり。



「……あれは何とも、目を覆いたくなる出来事で御座いましたなぁ」



 何があったのかは分からないけれど、あんまり良いものでは無かったようだ。



「それで結果として離反されてちゃ、世話ねぇと思うのですが……」



 などと口に出して言ってみたところ、それは折込済みの事であったらしく、斉天大聖の実力を知り、対策を立てる為の時間が欲しかった為の……ようは時間稼ぎであったらしい。



「そして、平天めでありますが……。あれは今、紅葫蘆の中にて封印中であります」



 後に金銀の名を冠する妖怪に持たれるであろう、西遊記で一二を争う知名度を誇る……と思う宝具の中に囚われているのだという。



「あれを滅する事は叶いません故に、このような手段にて封じるしか手が無かった。というのが実情ではありますなぁ」

「……確かに、あいつの耐久値には目を疑いたくなる光景だったなぁ」



 軽く語尾が被ってしまったけど気にしない。

【弱者の石】で弱らせ、【命取り】で止めを刺した筈なのに、牛魔王はしっかりと生きていた。

 実は何処ぞの不死鳥みたいな存在なのだろうかという線も疑っていたのだが、クベーラの口から出て来た言葉は、なるほど。と、頷くものであった。



「『あらゆる傷を癒す』。かつて誰よりも天を統べるに相応しいと言われ、しかしそれを足蹴にし、天に牙向く存在へと墜ちた者が持ち得ている能力で御座います。その力によって妖の者達を束ね、大聖と名乗るに足る地位へと上り詰めた。……口惜しい。叶うのならば、ワタクシこそがあれの力を得たかった……」

「……それ牛魔王と何の関連性も見出せねぇよ」



 もう少し何か理由付けが欲しい能力であったのだが、西遊記を紐解けば、その能力を持つ理由が分かる出来事やらが書き記してあるのだろうか。

 ……ただ、ここで俺がポロっと漏らしてしまった単語に問題がありまして。



「ふむ、なるほど……牛魔王、ですか……」



 あっ、やっべ。ネタバレですよこれ。

【暴露】でも使って無かった事にしようか。それとも、いっそ『我は未来が分かるのだー』的な預言者でも装ってみようか。

 ……いや、別にヤバくはないのか? というか何かヤバいんだ?



「……うん! 何もヤバくはない!」

「っ!?」



 選択肢その三、強引に押し通す。を選択&実行。

 すまんクベさん。出来ればスルーして下さい。

 こちらの会話に耳を傾けていた神様やらから、おぉ、という感じの声色でヒソヒソと会話をしている。『印象操作』とか、『言ったもん勝ち』とか、あんまり好ましくない単語のものがチラホラと。



「それで!? その瓢箪の中に閉じ込めたお方はどうなるんでしょうか!」

「は、はぁ……。えー、それはインドラ様がお決めになるでしょう。今、紅葫蘆はあのお方の元にありますので」



 強引だったが、路線変更は出来たらしい。

 リンと話す時にちょこちょこやっていたけれど、何だかこの手の強制力にだけ秀でて来た気がするのだが、これは喜ばしい事なんでしょうか。どうなんでしょうか。教えて偉い人。










 ―――その後は、空白となっていた穴を埋める形での時系列順な会話が続き、数名だけであった神様は先の焼き回しの如く、一人、二人と、興味を失った方々から何処かへと去っていった。

 全て話し終えた頃にはこちらに聞き耳を立てる神様は誰も居なくなり、遠目で大地の修復をしている二、三人がポツポツと見えるだけ。

 ならばと後は全て丸投げ……ゲフンゲフン……任せる形で、ダン・ダン塚へと帰還した。

 ウィリクやリンは既に内部へと潜っていたけれど、同伴していた【メムナイト】に念話で連絡を入れ、塚の近場の岩陰でクベーラを交えての話し合いを行い、今後のあれこれを確かめ合う。

 護衛として付近の警戒を行っていた龍人妖怪、睚眦を他所に、終始、ウィリクやリンがクベーラに冷や汗とか渋面を造らせるだけの光景であった気もするが、無理な事は無理だと言っていたのを思い返し、実現不可能な取り決めは結んでいないだろうと思えます。



「それじゃあ、リンはしばらくの間はここでネズミ達を統率して、情報収集の為の組織化。ウィリク様はクベーラとリンとの間の橋渡し。そんな感じで良いのかね?]

「はい。ゆくゆくはウィリク様を間に入れずとも、リン様のみで完結させられるよう、事を運ばせていただきます」



 そこで言葉を止めてしまったクベーラに、目線で『まだ言う事があっただろう』と訴え掛ける。

 はたと気づき、さも元からもったいぶった言い方であったかのように、話を付け足した。



「その際のお話で御座いますが……ウィリク様」



 そう続けるクベーラの姿は、神。

 人々の苦悩を取り除き、救いを与える存在が、今まで見て来た中でも最も純粋な微笑みを湛えていた。



「例え人の身であっても、ワタクシへの使者としてならば問題はないでしょう。―――宝物神……地下の資源などを管理する立場上、ワタクシの主な活動区域には、地の底なども含まれます。必然、死者が暮らす地とはそうも距離を置かず、近しいものとなっておりまして。これより幾万ものネズミ達からもたらされる願いを受けます故に、多忙となるのは目に見えております。然るに、場合によってはその地で幾日も待ち惚けをさせてしまいます事を、事前に申し上げておきましょう」



 わざわざ話しを区切ってまで付け足した内容であるのだから、何かしらの意味はあるのだろうが、その意図が掴めない。

 眉をしかめるリンであったが、とうのウィリクは大きく眼を見開いて。



「―――あり、がとう」



 震えそうになる声を押し殺し、眼から滾々と涌き出る雫を拭いもせず、深々と頭を下げる女性の姿がそこにはあった。



「お母様!?」



 動揺するリンを他所に、クベーラはそれら出来事の詳細を話しだす。

 特徴を教えて欲しいだの、何処で出会ったのかだの、答えを知らなければチンプンカンプンな話し合いに、とうとうリンが質問しようと口を開きかけたところで、肩に手を置き、静止をかけた。

 どうして止める。と、こちらを見るリンに顔を寄せ、なるべくウィリクとクベーラの会話の邪魔にならないよう小声で、簡潔に。



「ウィリク様の旦那さんと、会う機会を設けてくれるってさ」



 息を呑むリンに、笑いを向ける。

 そうかと一言呟いて、そのまま顔を下へと向けてしまった少女の背を軽く擦る。ウィリクに引き続き、こちらの真横でもポタポタと砂の大地に煌くものが零れていくのを見なかった事にして、小さな背中を優しく擦り続けた。

 日差しも真横から射す様になって。けれど、今はその熱が心地良い。



(あ~……疲れた……)



 もう、気を張らなくとも良いだろう。

 心地良い脱力に身を任せながら、ばたりと仰向けに寝そべった。



「……ツクモ?」

「疲れた。寝る」



 何とも簡潔な応答であったけれど、まだ、応えただけマシだと思っていただきたい。

 視線を逸らして眺めた太陽に目をやりながら、それが完全に地平線へと没すると同時。



「―――君に、百万の感謝を。助かった。どうも、ありがとう」



 可愛らしい声色に耳を傾けながら、俺の意識は日没と共に沈んでいった。















 ―――気づいた時には、体は横になっていた。

 天幕のように覆う【メムナイト】の腹部が真っ先に目に飛び込んできたものであり、ちょろちょろと動くネズミ達が、今寝ている場所がダン・ダン塚の洞窟内である事を教えてくれる。

 横になったのが夕暮れから夜に入る直後。けれど天上から差し込む光は、真っ白。どう見たって太陽さん絶好調な時間帯だ。



「……む」



 と、俺の胸に小さな重み。

 首だけ持ち上げてそこに目を向けてみると、やはりというか、納得いったというか、一匹の小ネズミが気持ち良さそうに寝息を立てていた。

 諏訪子さんから貰った外套が掛け布団代わりに被せられており、その上にちょこんと乗っかる姿からは、そっと撫でたくなる類の愛くるしさを感じる。



「……ふへぇー」



 何だか色々考えるのも面倒臭くなって、どうでもいいやと頭を降ろし、後頭部のゴツゴツとした感触を実感しながら、大きく息を吐き出す。




(結構疲れてた……もんなぁ……)



 少なくとも日付を跨いだくらいに眠っていたようで。

 リンやウィリクの姿は見えず、クベーラ、睚眦の影も見受けられない。小ネズミと胸板に挟まれる形になっている、月で貰った青い翻訳宝石が痛いのだが、これが俺の意識を覚醒させた最もな原因であったらしい。

 再び大きく息を吐く。

 これが無ければもっと眠りこけていた可能性が高いので、そういう意味では感謝すべきなのかもしれない。
 


(あー……何もやる気しねぇ~……)



 気力の問題ではなく、体力的な問題で。

 動こうと思えば動けるけれど、まどろむ意識を捨て去るのは、中々に誘惑が多くて困る。三大欲求の頂点に君臨しているのは、伊達ではないようだ。



(……二度寝こそ人生の至高!!)



 問題があれば、【メムナイト】が対応してくれるだろう。

 内心で叫ぶ言葉とは裏腹に、俺の瞼は完全に閉ざされ―――。



 ―――直後に感じる地響きによって、瞬発的に跳ね起きた。



「うぉ!?」



 母親に水をぶっ掛けられた子供よろしく、諏訪の外套を跳ね飛ばし、起床。

 反動で、上に寝ていた小ネズミがコロコロと前方に転がっていくのだが、今感じた振動は、それに意識を向けるだけの余裕すら奪い去るもので。

 けれど、こちらの護衛に徹している【メムナイト】の反応は薄い。

 若干姿勢を低めにするけれど、そこに護衛や警戒といった感じは見て取れない。



(あー、メムさん。何か事情をご存知で?)



『食料、到着』。返ってきた答えは、そんな簡潔なもの。

 多分、ここに住むネズミ達の食料をクベーラが運んで来たんだろうと当たりを付けながら、地響きと共に吹き飛んでしまった眠気に苦笑しつつ、体を完全に起こす。

 足元からキィキィと、一匹の小ネズミの抗議の声らしき鳴き声を聞き。



「わりぃわりぃ。謝罪……といっちゃ何だが……」



 ひょいと小ネズミを掴み上げ、肩の上へとご案内。



「一緒に行こうぜぃ~」



 小さくなった不満の声に、了承の意思を感じ取り、一緒に同行する事にした。



「メムさん、頼みます」



 姿勢を屈める【メムナイト】に乗り、地響きの音源たる地上方面へと移動する。

 恐らく、そこにみんなは居るだろう。そこで事情を把握した方が良い筈だ。



「あー……体、バッキバキ」



 僅かな振動で、体の関節の何処かしらからパキポキ音が鳴るのを何とも言えない感覚で受け入れつつ、目的地を目指す。

 楽しそうに鳴く肩の存在を手で撫でながら、しばらくの後。

 ダン・ダン塚、最大の出入り口へと訪れてみれば。



「あっ、ツクモ!」



 パタパタとこちらへ近づくネズミ妖怪様の表情からは、満面の笑みが溢れていた。

 今の今まで清々しい労働に従事していたであろう、光る玉の汗をアクセサリーにして駆け寄ってくる様からは、年齢相応の無邪気さを垣間見た気がした。



「おー……こりゃ、凄いな」



 どうやって持ってきたのかは分からないけれど、小さな学校の体育館であれば溢れそうなくらいの量の肉やら野菜やら果物やらの食料が、瑞々しさを誇示するように、その鮮やかな彩りを炎天下へと晒していた。

 ……ただ、その周りに二重、三重にもなりながら、黒い城壁を作り上げているネズミ達には、それなりに慣れ親しんだ筈だというのに、ちょっと引く。

 牛魔王へと挑みかかっていた時は勇ましさが目立つ印象であったのだけれど、今回は欲望……食欲が根底にある為か、彼らが聖に属するものでは無いのだと理解するに足る光景であった。



「クベーラは第二陣を手配中で居ないけど、夕暮れまでには、この倍は持ってくるらしいよ。お母様はそんな神様と同行中。色々と見たり知ったりしておきたいところがあるんだって」



 何処にこんな大量の食料があったのか疑問は尽きないのだが、こうして手配してくれたのだから、これ以上は何も言うまい。元から何も言ってないが。



「そ、っか。……で、何で今はみんな『待て』状態になってんの?」

「たまたま、だよ。誰が静止している訳では無いんだけれど、全ての食料が出揃うまでは。と、みんなが自主的に自粛しているだけなんじゃないかな。……あの大妖怪中の大妖怪。七天大聖が頂点の平天大聖に自らの牙や爪を突き立てた事実が、彼らの中で自信へと繋がったみたいなんだ。ちょっと驕った言い方になるけど、ただの獣から一歩を踏み出したんだと思うよ。早い話、カッコ付けたいのさ」

「驕っちゃいないさ。あの巨大な白牛相手に一歩も後退をしなかったんだ。俺が同じ立場だったら、尻尾巻いて逃げてたかもしれないのに、我が身も省みず挑みかかってくれた姿は、誰に恥じる事もない勇ましさだったぞ」



 リンは少し頬を赤らめて、人差し指で頬を掻き、照れた表情を浮かべる。



「……うん。そう言ってくれるのなら、彼らも命を懸けた甲斐があった、かな」

「あー、まぁ、色々積もる話しもあるが……」



 視線を切って、目の前の、うず高く詰まれた食料を取り囲むネズミ達へと顔を向ける。

 姿勢を屈め、クラウチングスタート。足元の地面は砂地と岩場の混合地帯。その辺りの見極めが勝負を決める筈だ!



「えっ?」



 戸惑いの声を上げるリンを他所に、内心、『勝った』と勝利宣言。



「一番頂きいぃいいい!!」



 背後に砂塵を巻き上げて、全力疾走を実行。

 あっという間にリンや小ネズミ達を後方へと置いてけぼりにし、前方の食料山へと躍り出た。



「―――子供か君は!!」



 抗議(正論)■■■■を無視し、より一層足に力を込める。

 寝起き直後&抜け切らない疲労のせいか、結構空腹な筈なのに、胃袋さんは元気がありません。なので、肉系はちょっとノーサンキュー。

 今の獲物は、左前方。小山と化しているそこの一角。南国旅行番組やらでしか見た事の無いような各種フルーツ系。果物系も一般的なものは殆ど口にしてきたと思うけれど、視界に映る色彩豊かな果実達には、こちらの食指も動こうというもの。

 何より、喉が渇いている。そんな、この如何ともし難い欲望を満たすのは、目の前のご馳走以外には無い訳でして。三大欲求の内の最上位はある程度満たしたのだ。次席である食欲に走るのは、必然であったと言える。



「……ん?」



 ……しかしながら、自分の手でダムの決壊ボタンを押してしまったのだと、その直後に理解する羽目になろうとは。

 自重や自粛を覚えた彼らではあるけれど、誰かに獲物を奪われるのを、ただ黙って見過ごすなど在り得ようか。



「ッ!?」



 背後に、波。

 赤い眼光を爛々と灯しながら地を駆ける無数の黒津波―――ネズミ達は、人間との徒歩の幅の差など、在って無いかのように覆し……。



「ぎゃああああ!!」



 予想以上の足の速さに驚く間もなく、俺の体は小さな生物たちに轢殺されてしまうのだった。
















「おぉ、本日はまた、随分と楽しげな催しを経験なされたようで御座いますなぁ」



 僅かに残っていた果実を、纏めて口へと放り込む。

 夕日から逃れるべく、岩場の影で不貞腐れボーイと化していたこちらに、初めて出会った時と同様の衣装を纏っているクベーラが声を掛けてきた。

 少し離れた所には、無数の貨物。

 空を飛ぶと思われる巨大バナナっぽい船の内部から、天界の中でも下っ端っぽい者達が、嫌々食べ物を降ろしていく光景が見られる。



「……ちょっと何千匹かに踏まれただけだ。屁でもねぇさ、こんなもん」

「で、ありましたら、せめてお顔の足跡くらいはお拭きになられるのが宜しいかと。それとも、何かそのままで居続ける事に意味がおありで?」

「いや、あるにはあったんだが、それも今済んだ。ちゃっちゃと拭いちゃいます」



 首を傾げるクベーラに応える事はせず、シャツの襟辺りを掴み、顔面をゴシゴシと擦る。

 ……別に、俺の惨状を誰も突っ込んでくれないので『ぼく、何かありました』アピールのまま誰かにかまってもらおうとして、ブスーっとし続けていた訳では決してない。クベさんが突っ込んでくれたので結構満足したなんて、微塵もないのである。



「えーっと……ウィリク様は?」

「あちらにて、配下の者達に指示をしております。リン様もそこに加わり、作業は滞りなく」



 ここからその姿は確認出来ないが、クベーラの言うとおり、何の停滞する素振りもなく運ばれてゆく物資を見るに、順調そうに物事は進んでいるようだ。



「やはり不平不満は表れましたが、インドラ様の承諾も得られ、現状は安定しております。年内が勝負、で御座いますかな。いやはや、腕が鳴りますなぁ」



 そう言って、温和な表情を作る褐色な中年様。

 心なしか、戦場で見た時より活き活きとした雰囲気を纏っている。どうやら、戦闘方面よりも内政方面が好みらしい。

 ―――ならば。



「……もう、大丈夫……か」



 最後まで見届けられない事には抵抗を感じるけれど、とりあえずの未来は明るそうだ。



「―――行かれるのですかな」



 呟きにも似た音量であった筈なのだが、クベーラにはしっかりと届いていたようで。

 柔らかい表情はそのままに、少しの悲哀を伴った笑顔となっている神様は、大和の頃の神々を連想させるものであった。

 何もかもが違うのに、月の国での別れ際に依姫から言われた台詞と被り、ちょっと心が重くなる。



「……まったく。初めっからそういう風だったら、俺だって終始丁寧な応対してたっつーの」

「立場故……。と、言い訳したくなるのを許していただければ助かりますなぁ」



 一頻りの苦笑。

 互いに満足し切ったところで。



「……うん。明日にでも行こうと思ってる」



 テキパキと動くネズミ達を眺めながら、零すように、質問に答えた。

 しばしの沈黙。

 大地へと没し始めた太陽を眺めると。



「後の事は、お任せ下さい。確約出来ぬのは心苦しくありますが、最悪の場合が訪れたとしても、ウィリク様とリン様の命は守り通してみせましょう」

「そう言ってもらえると助かります、ってな。……うっし。んじゃ、ま、これで心置きなく帰れますよ。って事で」



 考える人、に成り掛けていた体を起こし、背伸びを一つ。

 吊りそうな感覚に慌てて姿勢を元に戻して。



「クベーラ。この後、空いてる?」

「義務はうず高く積まれておりますが、九十九様のご要望を断る域の案件はありませんなぁ」



 素直にOKと返してくれても問題無いと思うのだが、これはもはや、コイツの癖のようなものなんだろう。



(そういや高御産巣日なんかも、こんな感じの言い回し好きだったなぁ)



 今頃は禁固刑の真っ最中なんだったか。

 何処で禁固されているのかは知らないが……今は何をしているのだろうか。



(永琳さん達が地上に来た時には、何か暇潰しの道具とか贈れるように計らってみるべきか)



 甘いんだろなー、なんて思ったりはするのだが、全部終わった……綺麗? に片が付いた物事。何もかもに区切りを付けた訳では無いけれど、全て無視出来る範囲内。



(……その辺交えて、もう一度くらいは月に行かねぇとダメくさいなぁ)



 まぁ、彼らの寿命は有って無いようなレベルなので、何十、何百年後とかでも構わないだろう。



「んじゃ、付き合え。飲んで騒いで愚痴って笑って。少なくとも退屈はしないだろうし……まぁ、ネズミ様達への顔合わせだと思えば。……どうよ?」

「申し上げました通り、それを断る理由は御座いません。天界へと一報を入れましたら、すぐに」



 荷降ろし終えて、撤収作業へと入り始めた天軍へと歩いていくクベーラの背中を見送る。

 その先は、テキパキと身振り手振りで指示を飛ばすリンとウィリクが。彼女達にも何かしらの話しがあるんだろう。



「さ、ってと……」



 気だるい感覚は未だ残っているけれど、マナ&カード枚数はフルストック。特筆すべき維持費は【今田家の猟犬、勇丸】の1マナくらいか。



(やり放題だな)



 やりたい事は幾つかあって、それはすぐに実現可能で。



(あの辺りだったらダン・ダン塚も届いてなかった筈だし、【土地】出しても、そうも影響無いよな……)



 とりあえず、リンを反してネズミ達に指示を送らなければ。牛魔王に用いた【沼】的な状態にさせる訳にはいかない。



(イメージは夜のリゾートビーチ!)



 昼間に泳ぐのも楽しいけれど、夜に水遊びというのも一興だろう。光源の確保は……まぁ、夜に強い妖怪が殆どだから、俺とウィリクの二人分どうにかすれば、後はあんまり問題は無い筈だ。

 水遊びをしようと前々から考えてはいたので、それが出来そうな機会が訪れたのであれば、それを実行しない手はない。



「何出そっかなー」



 楽しみだけの選択肢とは、何と幸福な事なのだろう。

 溢れ出た喜びが口から零れて音となり、月と太陽が競演する僅かな時の間を通るように、リン達の方へと駆け出すのだった。




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