<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.26027の一覧
[0] 史上最凶の殺人鬼  (史上最強の弟子ケンイチ × MELTY BLOOD)[えそら](2011/05/30 22:35)
[1] 1話 武術世界は殺人鬼を受信する[えそら](2011/03/17 19:40)
[2] 2話 そして誰もいなくなった?[えそら](2011/03/07 20:57)
[3] 3話 大英雄とは違うから[えそら](2011/03/17 23:52)
[4] 4話 物語のプロローグさながらに[えそら](2011/03/29 15:55)
[5] 5話 危険な夜になりそうです[えそら](2011/05/13 00:40)
[6] 6話 梁山泊最強の生物[えそら](2011/05/30 17:18)
[7] 7話 状況は流転する[えそら](2011/05/13 20:39)
[8] 8話 高架線路の影で[えそら](2011/05/31 21:25)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26027] 3話 大英雄とは違うから
Name: えそら◆45576ec2 ID:1ec8cee9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/17 23:52
 高校の昼休みは賑やかで、生徒たちは教室で食事を取りながら談笑している。
 兼一と美羽も例外ではなく一緒に弁当を食べていた。
 少々兼一に生気がないようにも感じるが、ここ最近ではいつも通りの風景だ。

 何故こんなことになったのか。
 七夜との戦いの後、梁山泊の修行が以前に増して厳しくなったからだ。



 先の屋上にて七夜に叩きのめされた五人に、もはや喧嘩を再開する余裕はなかった。男子生徒と宇喜田が冗談抜きで重症だったのも理由の一つだ。
 かくして一時休戦、皆で仲良く岬越寺接骨院 行きと相成った。
 ちなみにこの接骨院の先生、岬越寺 秋雨は梁山泊が誇る七人の豪傑の一人だ。一人所用で出掛けているため六人の豪傑でも可。
 その柔術の達人でもある岬越寺先生は、実に手早く皆を治療し武田の動かない左腕さえ治してみせた。過去、武田の左腕を担当した医者がどれだけ手を尽くしても治せなかった左腕が嘘のようだ。
 これが原因で武田がラグナレク脱退を決意するのは、左腕が完治した三日後のことである。

 ここまでが余談。
 この後に行われた兼一の師匠達六名による梁山泊首脳会議が本題である。

 兼一が七夜に勝ちたいと言って泣きついた。
 そんな発端から始まった梁山泊首脳会議の結論を、岬越寺の言葉から引用するならこうなる。

 ――死んでもともと人生格闘家 大作戦!!

 概要、打倒 七夜志貴。

 しかし美羽の証言を基に予測される彼の実力は最低で準達人級。仮に達人級だとしても不思議はない領域の人間だ。
 今のペースでは兼一が七夜に辿り付くのに十数年程は掛かるだろう。
 故に内弟子だ。師と寝食を共にし、武術の技と業を伝える制度。武術で溜まった疲れを武術で癒し、武術あっての自分とまで思えるまで修行を重ねる武術生活の幕開けである。



 その結果がお昼休みでさえ回復し切らない、消耗した兼一であった。

 だが兼一の前には弁当がある。
 美羽の手作り弁当だ。梁山泊の内弟子になって以来、兼一は美羽に弁当を作って貰えるようになっていた。
 輝く白いご飯、ソースが眩しいハンバーグ、色取り取りのサラダ。素晴らしい。エクセレントだ。
 ここ最近の梁山泊の修行は辛く険しく厳しく命の危険すら感じるものだった。しかしこの役得があるなら頑張れる。兼一は涙ながらにご飯を噛み締めた。
 そして今日のメインディッシュであるハンバーグを頂こうと箸を伸ばし、そのハンバーグが消えていることに気づく。頭が真っ白になる。

「いけるな、このハンバーグ」

 兼一でも美羽でもない第三者がもぐもぐとそれを咀嚼した。
 おかっぱ頭と異様に長い耳がトレードマークの怪しげな男子生徒。新島 春男は、いつの間にか美羽と兼一の近くで椅子に座り、お食事会に参加していた。しかも兼一のハンバーグを横取りしていた。

「どっから湧いた宇宙人! しかもボクのハンバーグ!」

 新島の胸倉を掴んで涙ながらに怒る兼一。
 それを眺める美羽は、仲が良いですわねぇ、と兼一には甚だ承諾しかねることを思い浮かべていた。

「まぁ聞け。俺様も兼一を思ってここに来たんだ」

「ボクを思って……?」

 兼一は胡散臭げに新島を見る。
 二人は悪友だ。友達だが、頭に悪を抜かすことの出来ない関係だ。
 それほど新島とは、悪巧み大好きの悪魔的な男なのである。

「まずこれを見ろ!」

 新島は電子手帳を取り出し兼一に突きつける。
 電子手帳の画面には学園ランキングの文字と、右肩下がりの折れ線グラフがあった。
 学園ランキング、通称『学ラン』とは新島の作り上げた学園内での人間的地位のランキングだ。学力、運動神経、喧嘩の強さ、人間関係 等により順位が上下する。
 その学ランが右肩下がりと言うことは、学園内で兼一の地位が下がっているということだ。

「七夜 志貴に負けて以来、学ランでの貴様の順位は急降下だ! どうしてくれる兼一! 失った信用を取り戻すのは難しいんだぞ!」

 武術をやってるのは学ランのためじゃないやい、兼一はうんざりした。
 一方の美羽は新島から出て来た名前に真剣な表情になる。

「七夜さんとは、あの目付きの悪い方のことですわよね?」

「そう、あの屋上で兼一を叩きのめした野郎のことだ。そのケンカの強さは技の三人衆にも匹敵する……と言うのがこの前までの情報だった」

 新島の表情が苦々しげに歪む。
 情報収集には自信があった。だが実際はどうだ。
 宇喜田、武田、兼一、美羽。これだけの実力者が揃ってあっさり敗北している。誤差では済まされないほど事前情報とかけ離れている。
 七夜にその意図があるにせよないにせよ、彼の擬態を見破れなかった。その事実は新島にとって屈辱以外の何物でもない。
 だからこそ新島は七夜の再調査に乗り出していた。

「正直に言えば、まだ七夜の実力を把握し切れてはいない」

 屋上での一件以来、七夜に挑戦する不良達は後を絶えない。
 個人集団を問わず、ラグナレクもそれ以外も問わず、名を上げるため不良達は七夜に挑んだ。そして当然の如く倒されていった。
 結局 七夜の実力は図り切れない。相手の強さを見抜く新島アイでも強めの学生としか結果が出ず、しかしケンカでは七夜が実力を出し切る前に終わってしまう。
 しかも内容が酷い。
 新島は僅かばかり七夜のケンカ風景を回想する。

『お前を倒してラグナレクに入れゲフッ!!』

『ラグナレクへ来てもらグホッ!!』

『ボクは蹴りの古ガフッ!!』

 せめて言葉くらい最後まで言わせてあげればどうだろうか。
 悪党である新島でさえ少しばかり同情してしまう程、一方的かつあっさりしたケンカ内容だった。

「だが奴を倒す手段はある!」

 その言葉に兼一は不信感しか抱かない。
 新島に武術の心得がない以上、助言の内容は限られてくる。だとするなら新島の助言とは即ち虚言か外道な行為であろう。
 虚言は言うに及ばず、外道な行為などする気のない兼一は不信の眼差しを送る。だがそんな視線は気にも留めず、新島は自身の作戦を語り始めた。

「七夜はやりすぎたのさ。そしてヤバすぎる奴に眼を付けられた。ラグナレク七拳豪の一人、第二拳豪にな!」

 新島が七夜を調べ、それに付随して探し当てた情報だった。
 ラグナレクのナンバー2、ケンカで一度も敗けたことがないと言われる男。
 おそらくは不良内で最強クラスを誇るだろう。

「……それがどう七夜くんを倒す手段になるって言うんだ?」

「第二拳豪と争えば七夜も只じゃすまねぇ。そんな満身創痍の七夜に勝負を挑んで叩きのめす! どうだ完璧な作戦だろ!」

 倒した事実さえあればどんな美談にでもしてみせる! 新島の表情がそう雄弁に語っていた。

 兼一はとりあえず新島を往復ビンタする。
 暴力は嫌いだが友を止めるためだ仕方ない、と自身の正当性を事後承諾した。





 学校が終わり、七夜は帰路に着いていた。
 その表情は憂鬱そのもの。屋上での一件以来、どういう訳か不良達からの襲撃が増えたのである。

 餓鬼の喧嘩に巻き込むな、七夜の主張はこうだ。

 殺し合いなら巻き込まれるのも吝かではない。
 敵手が相応の相手なら、むしろ自ら進んで巻き込まれに行くことさえあるだろう。

 だが喧嘩だ。
 しかも相手は有象無象の塵芥だ。
 それでどうして心を震わすことが出来る。
 楽しむことが出来る。
 そんな餓鬼共に向かって来られた所で、相手に手刀を叩き込むだけの作業でしかない。

 どこかに居ないものだろうか。

 愛刀 七つ夜を抜くに足る敵手。
 容易く殺し得ない難敵。

 七夜は自身と死合ってさえ打倒し難い好敵手を望んでいた。
 それが魔の類なら文句なしだが、この際 人間でも構わないとさえ思える程に。

 実は心当たりがまったくない訳ではない。
 元の七夜の記憶にある有間の爺さんならば良い線まで行くだろう。
 記憶を鑑みるに、強い八極拳士であることは明白だ。
 あるいはタタリの夜において本物の八極拳士と化した有間 都古。それに匹敵する実力者ではないかとさえ思っている。

 だが残念なことに彼の爺と元の七夜は身内であり家族だ。
 元の七夜の感性も多少なりと引き継いでしまった七夜に、彼の爺を害する行為は少しばかり抵抗がある。
 それは有間の爺さんもおそらく同じだ。
 孫も同然の相手に全力で死合うことは出来まい。
 ならば結局、七夜の欲を満たせそうな相手は居ないという結論に達する。

 憂鬱である。
 七夜が歩く歩道の先には曲がり角があった。
 そこを曲がれば広い裏通りに付くのだが、そこは人気がなくほとんど車も来ない。不良達にとって絶好の襲撃地点なのだ。
 もう倒した不良の数も覚えていない。
 回り道するのと不良を相手にするの、どちらがより面倒か。難しい所だと悩みつつ、律儀に不良の相手をしているのが昨今の七夜の日常だった。

 だが今日に限り、その裏通りはいつもと違っていた。

 曲がり角の先には確かに不良の集団がいた。それも六人。鉄パイプや竹刀などで武装している。
 しかしその不良達は既に例外なく倒れている。
 顔面を腫らし、腕が折れ、うめき声を上げる者さえ居る。

 その中央に立つのは一人の青年。
 短い金髪、力強い筋肉を誇る巨体、手に着けたグローブには『Ⅱ』の文字。
 その青年は虫けらを見るような目で不良達を見まわす。

「どいつもこいつもカタツムリみてぇにのろまだ。しかも殴ったらすぐ壊れやがる」

 青年は強かったのだろう。
 あまりに強すぎたのだろう。
 その末に、奇しくも七夜と似た願いを抱き、そして七夜に闘志を向けた。

「だからマジで頼む! 最近燃えてねぇんだ! お前くらいは歯応えあってくれよ、七夜 志貴!」

「誰だよアンタ」

 青年の渇望はもっともだ。
 しかし青年と面識のない七夜からすれば、いきなりそんなことを言われてもついていけない。だからこそそう反論するのも仕方がないことだろう。
 それを理解しているのかは知らないが、不幸なすれ違いにも挫けずあまつさえ青年は獰猛に笑ってみせた。

「俺はラグナレクの第二拳豪――――」

 そして青年は跳躍する。
 その高度は五メートル近くにまで達した。類まれなる全身のバネがその高度を実現し、常人離れしたバランス感覚が体を捻り、前に横に回転することを可能にさせた。
 身体の回転で勢いを加速させ、拳を握り込み、七夜へ落下しながら青年は高らかに名乗りを上げる。

「――――バーサーカーだ!!」

 唸りを上げる拳を七夜に向けて放ち、当然の如く躱されカウンター気味の手刀を顔面に叩き込まれ、落下加重と全身の体重と手刀の衝撃でバーサーカーの首から嫌な音が鳴り響く。更に空中で高速回転し、そして今ここに地面へと叩き落とされる。
 凄く拙い落ち方だったが、七夜の絶妙な力加減により辛うじて死んではいない。しかし動くことはできないだろう。バーサーカーは瀕死である。

「バーサーカーね……名前負けしてないか?」

 そう言い残し、七夜は去って行った。

 こうしてバーサーカーはケンカで初めての敗北を味わった。
 そのケンカ所要時間、僅か2秒。イコール滞空時間であったことは言うまでもない。





 その惨状を目撃した者がいた。
 隠れて七夜を付けていた新島だ。

 ――ヤバいヤバいヤバ過ぎる!! バーサーカーが瞬殺とかあり得ねぇ!!

 焦りに焦り、七夜とは違う方向に新島は逃げ去った。
 万が一に七夜に追跡していたとバレては自分の身が危険と思ったからだ。
 実はバレていて見逃されたのだが。何せ七夜は暗殺者であり、気配を読む術に長けている。今以上に気配を殺せるようにならなければ、七夜にこの方法は通用しないのだ。
 惜しむらくは新島がそれを知らなかったことだろう。知っていれば、より大胆に追跡を続けるくらいしたかもしれない。

 ともかく新島は逃げ、そして安堵した。
 以前 兼一に伝えた作戦は、卑怯だと言う理由から却下されてしまった。だがそれは結果として正解だった。
 強いのは理解していたが、あそこまで突き抜けているのは計算外だったからだ。

 これからは七夜とは敵対しないようにしよう。そう密かに誓い、どうにか取り込めないかと考えを練り始める。
 新島 春男、彼は策略を巡らせる類の悪党であった。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.022853851318359