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No.25752の一覧
[0] 犬夜叉(憑依) 【完結】 【桔梗編 第六話投稿】[闘牙王](2012/02/27 00:45)
[1] 第一話 「CHANGE THE WORLD」[闘牙王](2011/04/20 21:03)
[2] 第二話 「予定調和」[闘牙王](2011/04/20 21:08)
[3] 第三話 「すれ違い」[闘牙王](2011/04/20 21:18)
[4] 第四話 「涙」[闘牙王](2011/04/20 21:28)
[5] 第五話 「二人の日常」[闘牙王](2011/04/20 21:36)
[6] 第六話 「異変」[闘牙王](2011/04/20 21:47)
[7] 第七話 「約束」[闘牙王](2011/04/20 21:53)
[8] 第八話 「予想外」[闘牙王](2011/04/20 21:57)
[9] 第九話 「真の使い手」[闘牙王](2011/04/20 22:02)
[10] 第十話 「守るもの」[闘牙王](2011/04/20 22:07)
[11] 第十一話 「再会」[闘牙王](2011/04/20 22:15)
[12] 第十二話 「出発」[闘牙王](2011/04/20 22:25)
[13] 第十三話 「想い」[闘牙王](2011/04/28 13:04)
[14] 第十四話 「半妖」[闘牙王](2011/04/20 22:48)
[15] 第十五話 「桔梗」[闘牙王](2011/04/20 22:56)
[16] 第十六話 「My will」[闘牙王](2011/04/20 23:08)
[17] 第十七話 「戸惑い」[闘牙王](2011/04/20 23:17)
[18] 第十八話 「珊瑚」[闘牙王](2011/04/20 23:22)
[19] 第十九話 「奈落」[闘牙王](2011/03/21 18:13)
[20] 第二十話 「焦り」[闘牙王](2011/03/25 22:45)
[21] 第二十一話 「心」[闘牙王](2011/03/29 22:46)
[22] 第二十二話 「魂」[闘牙王](2011/04/05 20:09)
[23] 第二十三話 「弥勒」[闘牙王](2011/04/13 00:11)
[24] 第二十四話 「人と妖怪」[闘牙王](2011/04/18 14:36)
[25] 第二十五話 「悪夢」[闘牙王](2011/04/20 03:18)
[26] 第二十六話 「仲間」[闘牙王](2011/04/28 05:21)
[27] 第二十七話 「師弟」[闘牙王](2011/04/30 11:32)
[28] 第二十八話 「Dearest」[闘牙王](2011/05/01 01:35)
[29] 第二十九話 「告白」[闘牙王](2011/05/04 06:22)
[30] 第三十話 「冥道」[闘牙王](2011/05/08 02:33)
[31] 第三十一話 「光」[闘牙王](2011/05/21 23:14)
[32] 第三十二話 「竜骨精」[闘牙王](2011/05/24 18:18)
[33] 第三十三話 「りん」[闘牙王](2011/05/31 01:33)
[34] 第三十四話 「決戦」[闘牙王](2011/06/01 00:52)
[35] 第三十五話 「殺生丸」[闘牙王](2011/06/02 12:13)
[36] 第三十六話 「かごめ」[闘牙王](2011/06/10 19:21)
[37] 第三十七話 「犬夜叉」[闘牙王](2011/06/15 18:22)
[38] 第三十八話 「君がいる未来」[闘牙王](2011/06/15 11:42)
[39] 最終話 「闘牙」[闘牙王](2011/06/15 05:46)
[40] あとがき[闘牙王](2011/06/15 05:10)
[41] 後日談 「遠い道の先で」 前編[闘牙王](2011/11/20 11:33)
[42] 後日談 「遠い道の先で」 後編[闘牙王](2011/11/22 02:24)
[43] 珊瑚編 第一話 「退治屋」[闘牙王](2011/11/28 09:28)
[44] 珊瑚編 第二話 「半妖」[闘牙王](2011/11/28 22:29)
[45] 珊瑚編 第三話 「兆し」[闘牙王](2011/11/29 01:13)
[46] 珊瑚編 第四話 「改変」[闘牙王](2011/12/02 21:48)
[47] 珊瑚編 第五話 「運命」[闘牙王](2011/12/05 01:41)
[48] 珊瑚編 第六話 「理由」[闘牙王](2011/12/07 02:04)
[49] 珊瑚編 第七話 「安堵」[闘牙王](2011/12/13 23:44)
[50] 珊瑚編 第八話 「仲間」[闘牙王](2011/12/16 02:41)
[51] 珊瑚編 第九話 「日常」[闘牙王](2011/12/16 19:20)
[52] 珊瑚編 第十話 「失念」[闘牙王](2011/12/21 02:12)
[53] 珊瑚編 第十一話 「背中」[闘牙王](2011/12/21 23:12)
[54] 珊瑚編 第十二話 「予感」[闘牙王](2011/12/23 00:51)
[55] 珊瑚編 第十三話 「苦悶」[闘牙王](2012/01/11 13:08)
[56] 珊瑚編 第十四話 「鉄砕牙」[闘牙王](2012/01/13 23:14)
[57] 珊瑚編 第十五話 「望み」[闘牙王](2012/01/13 16:22)
[58] 珊瑚編 第十六話 「再会」[闘牙王](2012/01/14 03:32)
[59] 珊瑚編 第十七話 「追憶」[闘牙王](2012/01/16 02:39)
[60] 珊瑚編 第十八話 「強さ」[闘牙王](2012/01/16 22:47)
[61] 桔梗編 第一話 「鬼」[闘牙王](2012/02/20 20:50)
[62] 桔梗編 第二話 「契約」[闘牙王](2012/02/20 23:29)
[63] 桔梗編 第三話 「堕落」[闘牙王](2012/02/22 22:33)
[64] 桔梗編 第四話 「死闘」[闘牙王](2012/02/24 13:19)
[65] 桔梗編 第五話 「鎮魂」[闘牙王](2012/02/25 00:02)
[66] 桔梗編 第六話 「愛憎」[闘牙王](2012/02/27 09:42)
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[25752] 第三十二話 「竜骨精」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/24 18:18
薄暗い洞窟の中で奈落は四魂のカケラを手に握りながら先の戦いのことを思い出す。奈落は妖怪化した犬夜叉との戦いで初めて恐怖を感じてしまった。その時のことを思い出すと今も震えが止まらない。それは奈落にとって受け入れがたい屈辱だった。

(このわしが……あれが大妖怪の力か……)

奈落は犬夜叉が犬の大妖怪と人間との間に生まれた半妖であることは知っていたがその大妖怪の血があれほどの力を持っているとは思っていなかった。いくら四魂のカケラをほとんど手に入れたといってもあの力を上回ることは難しい。殺生丸を犬夜叉に差し向けることも考えたが犬夜叉と殺生丸は対立しているわけではないらしい。引き連れている人間の小娘を使おうともしたが既にそれも失敗してしまっている。奈落はそのまま深く目を閉じ

「あまり使いたくなかった手だが……仕方あるまい……。」

そう言いながら奈落は四魂のカケラの塊からひとカケラの四魂のカケラを取り出しそのまま洞窟を後にする。

これから奈落が行おうとしている策は諸刃の剣。もし上手くいかなければ自分が死んでしまうかもしれないものだった。それほど奈落は追い詰められていた。そして奈落はある谷に向かっていく。

そこはかつてこの国を二分していた伝説の妖怪が封じられている場所だった……。



「そうか……お姉さまは逝ってしまわれたか……。」
楓がそう呟きながらどこか遠くを見つめるような表情を見せる。かごめから桔梗の自分への遺言を聞いた楓はそのまま今は亡き姉に想いを馳せる。その記憶の中では桔梗は優しく自分を見守り導いてくれた女性だった。楓はそのまま静かに涙を流す。

「楓……すまねえ……俺は桔梗を助けることができなかった……。」
犬夜叉はそんな楓を見、俯きながらそう謝罪する。しかし楓は己の涙をぬぐった後

「いや……犬夜叉……お前は桔梗姉さまを救ってくれた……。ありがとう……。」
そう諭すように犬夜叉に話しかける。犬夜叉はそんな楓に何も言えなくなってしまった。

犬夜叉たちは桔梗を見送ってから楓の村に戻り休養を取っていた。犬夜叉以外は先の戦闘での消耗が激しく、特に弥勒は奈落の蜘蛛の分身の瘴気を風穴で吸いすぎてしまったため安静にしている必要があった。

「弥勒……体のほうは大丈夫なのか?」
犬夜叉が弥勒の右腕を見ながら心配そうに尋ねる。弥勒の風穴はさらに広がってしまっており、弥勒は誤魔化しているが残された時間がそう長くないことは誰の目にも明らかだった。特に珊瑚はそのことを身に染みて分かっているため不安そうな表情で弥勒を見つめていた。

「すいません……俺がもっと早く奈落に立ち向かっていれば……。」
琥珀がそう言いながら弥勒に頭を下げる。琥珀は桔梗の浄化の光の力によって命をつなぎ犬夜叉たちとともに村に帰ってきていた。琥珀は自分のせいで傷ついてしまった弥勒たちに罪悪感を感じそのまま俯いてしまう。

「気にすることはありません……奈落と戦ったのは自分のためでもあるのですから……それよりも琥珀……桔梗様に救ってもらったその命、粗末にしてはいけませんよ。」
そんな琥珀の様子を見た弥勒は笑いながらそう琥珀に諭す。

「……はい!」
琥珀もその言葉によって少しは気が楽になったのか自分のせいで暗くなってしまった皆の雰囲気を変えようと力強くその言葉に頷く。犬夜叉たちはそんな琥珀をみて琥珀を救ってくれた桔梗に感謝するのだった……。



「これが最後のカケラになるのね……。」

かごめはそう言いながら自分の掌にある四魂のカケラを見つめる。そのカケラには既に浄化の光の力はなくなってしまっていた。そして残りのカケラは全て奈落の手の中にある。次が間違いなく奈落との最後の戦いになる。皆、口には出さなくともそのことを確信していた。

(私たちに後を託してくれた桔梗のためにも……絶対に奈落を倒して見せる!!)
かごめは自分の中に還っていった桔梗の魂を想いながらそう決意する。そしてそのまま顔を上げた時、犬夜叉がどこか儚い表情を見せながらこっちを見ていることに気づいた。

(犬夜叉……?)
かごめはそんな犬夜叉の様子に戸惑う。犬夜叉の視線は自分が持っている四魂のカケラに向けられていた。かごめがそのまま犬夜叉に話しかけようとした時、村の外れから大きな雷が落ちたような音が村に響いた。


「何だ!?」
「とにかく行ってみよう!」
犬夜叉たちはそのまま慌ててその音がした方向に向かって駆け出していく。そして犬夜叉たちが辿り着いた先には


「よう、久しぶりだな犬夜叉。」
「お久しぶりです、犬夜叉様!」

牛の様な妖怪に乗った刀々斎とその肩に乗った冥加の姿があった。




「刀々斎……どうしたんだ一体?」
犬夜叉が戸惑いながらもそのまま刀々斎に近づいていく。刀々斎はそのまま犬夜叉と鉄砕牙を何度か見直した後

「犬夜叉……おめえ妖怪の血に負けちまったな?」
そう犬夜叉に問いただす。犬夜叉はその言葉に思わず顔をしかめてしまう。かごめたちも刀々斎の言葉に驚きを隠せない。

「お爺さん、どうしてそんなことが分かるの?」
かごめが皆を代表して刀々斎に尋ねる。かごめたちはまだ刀々斎が鉄砕牙の生みの親だということを知らなかった。

「そんなもん鉄砕牙を見りゃわかるわい。それに鉄砕牙がわしを呼んだからわざわざ来てやったんだ。犬夜叉、さっさと鉄砕牙を渡しな。研ぎ直してやる。」

「あ……ああ。」

犬夜叉はそのまま言われるがままに鉄砕牙を手渡す。刀々斎はそのまま口から炎を吐きながら鉄砕牙を研ぎ直し始める。犬夜叉たちはその様子を興味深そうに眺め続けていた。そんな中

「犬夜叉様、御無事で何よりです。ますます御立派になられて……。」
冥加がそう言いながら犬夜叉の血を吸おうと飛びかかってくる。しかしそれを犬夜叉は難なく手で追い払いながら

「冥加、おまえ今までどこにいたんだ?」
そう冥加に尋ねる。冥加はその言葉に思わず固まってしまう。

「い……いえ……噂を頼りに犬夜叉様を探していたのですがなかなか追いつくことができず……」
冥加がそう言い訳をするが

「そんなことしなくても楓の村に来ればいいじゃねえか。」
犬夜叉のもっともな意見に再び冥加は黙りこんでしまう。犬夜叉はそのまま無言の圧力を冥加にかけ続ける。

「やっぱり逃げとったんじゃな……。」
「冥加じいちゃん……。」

七宝とかごめはそんな冥加を見ながら呆れて溜息を突くのだった……。

「ほれ、受け取りな。あんまり荒っぽい使い方すんじゃねえぞ。」
そう言いながら刀々斎は研ぎ終わった鉄砕牙を犬夜叉に渡してくる。犬夜叉は黙ってそのままそれを受け取った後

「刀々斎……鉄砕牙の守刀の力を強くすることはできねえのか?」
真剣な様子でそう刀々斎に尋ねる。犬夜叉は自分の中に流れる妖怪の血が力を増したことで妖怪化を鉄砕牙が抑えきれなくなったことには気づいていた。また奈落との戦いの中で妖怪化してしまえば今度はどうなってしまうか分からない。最悪かごめたちを手にかけてしまうかもしれない。犬夜叉は再びその問題に突き当たっていた。そこでその鉄砕牙の守刀の力を強くすることができないかずっと考えていたのだった。しかし

「無理だな、守刀の力をこれ以上強くすることはできん。犬夜叉……これはお前自身の問題だ。お前はずっと親父殿の鉄砕牙に守られてきた。だが今度ばかりは鉄砕牙に頼らずにお前が何とかしねえといけねえ。」
刀々斎は淡々と事実を犬夜叉に伝えて行く。犬夜叉はその言葉を聞きながら鉄砕牙を握り続けることしかできない。

(もっともそれは犬夜叉……お前が独り立ちする時が来たってことだ……)

刀々斎は改めて犬夜叉に目をやる。刀々斎も鉄砕牙を手に入れてから一年も経たずに犬夜叉がここまで強くなるとは思っていなかった。

「まあ親父殿の妖怪の血を完全に抑えることは簡単なことじゃねえだろうがな。」
犬夜叉の父の大妖怪の血の力はそれほどまでに強力なものだった。

「犬夜叉のおっとうはそんなに強かったのか?」
七宝がそんな刀々斎の言葉に思わず問いかける。その話しぶりからだと犬夜叉の父は犬夜叉よりもずっと強いという風に聞こえたからだ。しかし七宝にとって一番強いのは犬夜叉でありそれよりも強い存在というのが想像できなかった。

「当たり前だ。少なくとも今の犬夜叉の数倍は強かったぜ。」
刀々斎はさも当然の様にそう告げる。しかしその言葉にかごめたちは思わず固まってしまう。

「犬夜叉の……数倍ですか……?」
「冗談だよね……?」
弥勒と珊瑚が信じられないといった様子で刀々斎に尋ねる。自分たちが知っている最も強い妖怪である殺生丸もそこまでの力は持っていなかった。

「冗談なんかじゃねえさ。親父殿はこの国を二分していた大妖怪だぜ。そんぐらいの力は持ってて当たり前だ。親父殿に対抗できたのは竜骨精ぐらいだ。」

「竜骨精?」
聞いたことのない言葉にかごめが疑問の声を上げる。

「親父殿と同じくこの国を二分していた竜の大妖怪だ。親父殿でも封印するのがやっとだった程の怪物でな。この国で一番大きな谷も二人の戦いで出来たもんだ。」
犬夜叉たちは自分たちの理解をはるかに超える話に付いていくことができなくなってしまっていた。そして犬夜叉がその話をもっと詳しく聞こうと話し通うとした瞬間、

空が急に暗くなってきていることに皆が気付いた。


「何?」
「雨でしょうか?」
いきなりの出来事にかごめたちが驚きの声を上げる。そして空にはあっという間に暗雲が立ち込め雷が起き始める。それはまるで天変地異の始まりであるかのような激しさだった。

その異常な状況にかごめが戸惑っていると犬夜叉、七宝、雲母の三人の様子がおかしくなっていることに気づいた。特に七宝と雲母はその場にうずくまったまま動かなくなってしまう。それは先の戦いで犬夜叉の妖気にあてられたときと状況は酷似していたがその様子は比べ物にならない程だった。

「これは……」
犬夜叉が絞り出すような声を出しながら天変地異が起こっていると思われる方向に目をやる。犬夜叉の体は震え続けその背中は冷や汗で濡れてしまっている。それは妖怪の血の本能が犬夜叉に逃げろと警告しているために起こっているためにことだった。そして天変地異に呼応するように鉄砕牙が騒ぎだす。

「犬夜叉?」
「どうしたのですか犬夜叉?」
犬夜叉の尋常ではない様子に弥勒と珊瑚も慌てて犬夜叉に駆け寄ってくる。しかし犬夜叉はそんな二人にも気付かない程に狼狽している。そして

「………どうやら竜骨精が復活しちまったみてえだな……噂をすれば何とやらってやつか……。」
刀々斎が何かをあきらめたような表情でそう呟く。そこにはいつもの飄々とした様子は微塵も見られなかった。それが今起きていることがどれほど絶望的な状況なのかを物語っていた。かごめがそんな二人に話しかけようとした時、

「四魂のカケラの気配がある!……小さなカケラが一つと大きなカケラが一緒に……間違いない、奈落だわ!」
かごめがそのことに気づきそう叫ぶ。その言葉に犬夜叉たちの顔に緊張が走る。それはこの事態に奈落が関わっていることを示していた。犬夜叉たちはそのまま戦闘の準備を始めカケラの方向に向かっていこうとする。刀々斎はそんな犬夜叉たちに向けて

「犬夜叉、竜骨精には絶対手を出すんじゃねえぞ。今のお前じゃあ逆立ちしたって敵う相手じゃねえ……いいな。」
そう忠告する。

「…………ああ。」

犬夜叉はそんな刀々斎の言葉をかみしめながらかごめたちと一緒に奈落の元に向かっていった………。




「ひどい………。」
犬夜叉の背中に乗っているかごめがあまりの惨状に言葉を失う。目の前には破壊しつくさた村、死に絶えている人々の姿、燃え続けている山々があった。まるで世界の終わりを見ているような光景だった。そんな光景が見渡す限り果てしなく続いている。そんな中をかろうじて生き残っている人々が逃げまどっていた。

そしてその中心に二つの人影がある。一つは狒々の皮をかぶった男。それは間違いなく奈落だった。

そしてもう一人、黒い長髪で鋼色の鎧を身に纏い、腰に刀をさしている初老の男の姿がある。その男は目の前の惨状を目にしながらも眉一つ動かさない。そして何よりその男からはかごめがこれまで対峙してきた全ての妖怪を前にしたとしても全く敵わないような絶対的な妖気を放っていた。巫女であるかごめですらその妖気にめまいを感じるほどだった。

犬夜叉たちはそのまま二人の前に降り立つ。そして両者の間に沈黙が続く。それは時間すれば数秒に過ぎなかったが犬夜叉たちはそれがまるで永遠に続くのではないかと錯覚するほどの時間に感じた。そんな中

「存外に遅かったな……犬夜叉……逃げ出してしまったのかと思ったぞ……。」
狒々の毛皮を頭からかぶっているためその表情をうかがうことはできないが間違いなく邪悪な笑みを浮かべているであろう奈落がそう犬夜叉たちに話しかける。奈落はもう一人の男に仕えるような位置に控えていた。

「奈落……てめえ今度は何をたくらんでやがる!?」
犬夜叉はそう奈落に叫ぶ。しかしその声はなぜか震えてしまっていた。それは決して奈落に怯えてのことではない。その隣にいる男が無意識に放っている妖気にあてられているからに他ならなかった。奈落はそんな犬夜叉に満足したのか

「私は大妖怪である竜骨精様を封印からお救いしただけだ……。」
奈落はそう頭を男に向け下げながら告げる。その言葉に犬夜叉たちは思わず戦闘態勢を取りながら男に視線を向ける。その威風、妖気、どれをとっても目の前の男がかつてこの国を二分していた大妖怪、竜骨精であることは疑いようがなかった。

(こいつが……竜骨精……!!)
犬夜叉は鉄砕牙の柄を握りしめながら竜骨精を睨みつける。犬夜叉の記憶の中では巨大な竜の姿しか見たことがなかったが恐らくそれは本性の姿であり今の人型は変化している姿なのだろう。竜骨精はそのままゆっくりと犬夜叉に目をやった後その手に握られた鉄砕牙に気づいた。

「貴様……奴の息子か………。」
竜骨精が地に響くような低い声でそう呟く。ただ話しかけられただけにもかかわらず犬夜叉は思わず鉄砕牙を抜き斬りかからなければという恐怖に襲われる。こんなことは初めてだった。

「竜骨精様、そやつがあなた様を封印した憎き妖怪の息子です……。」
奈落がそんな竜骨背を見た後そう補足する。竜骨精は一目で犬夜叉が半妖であることを見抜き

「半妖か………人間などに誑かされおって……目障りだ……。」

そう呟いた後一歩犬夜叉に向かって歩を進める。犬夜叉はそれに合わせて思わず後ずさりをしてしまう。その瞬間、逃げまどう人々の悲鳴が響き渡る。人々は何とか逃げようと森に向かって逃げ出していく。竜骨精はそんな様子を見ながら

「邪魔だ。」

爪を村に向かって振り下ろす。その瞬間逃げようとした人々はその衝撃で村ごと吹き飛ばされてしまう。その後には大きな爪痕だけが残っていた。あまりの出来事に思わず犬夜叉たちは言葉を失ってしまう。たった一振り、たった一振り爪を振るっただけで村が消し飛んでしまった。何よりも何十人もの命を奪ったにも関わらず眉ひとつ動かさない。そのあまりの非情さに恐怖すら忘れてしまった。

「ど……どうしてそんなひどいことを……。」
かごめが声を震わせながら竜骨精に問いただす。竜骨精は無表情のまま


「ごみを片付けただけだ。」

そう何でもないことの様に答えた。



「てめえええええっ!!」
その瞬間、犬夜叉は鉄砕牙を抜き弾けるように竜骨精に飛びかかる。犬夜叉は頭に完全に血が上ってしまい相手が竜骨精であることも今の犬夜叉は理解していなかった。犬夜叉はそのまま風の傷を纏わせた鉄砕牙を竜骨精に向かって振り下ろす。しかし竜骨精はそれを見ながらも全く動かなかった。鉄砕牙がそのまま竜骨精に腕に叩きつけられる。しかし

「なっ!?」
竜骨精は腕だけで鉄砕牙を難なく受け止めていた。そしてその腕にはかすり傷一つ付いていない。ありえない事態に犬夜叉は思わず動きを止めてしまう。そしてその瞬間、竜骨精の爪が犬夜叉に向かって振り下ろされる。

「くっ!!」
犬夜叉は咄嗟に鉄砕牙を楯にしてそれを受け止める。しかしその衝撃によって犬夜叉は遥か後方まで吹き飛ばされてしまった。その衝撃で辺りは砂煙に襲われる。それが晴れた先にはボロボロになってしまっている犬夜叉の姿があった。

「犬夜叉っ!?」
その光景にかごめは思わず悲鳴をあげる。犬夜叉は竜骨精の攻撃を間違いなく防御したはずだ。それなのに犬夜叉はたった一撃であれだけの傷を負ってしまっている。弥勒と珊瑚はそのあまりの強さに言葉を失う。

(け……桁違いだ………!!)

犬夜叉は鉄砕牙を何とか構えながら竜骨精に向かい合う。犬夜叉は自分の考えの甘さに後悔する。いくら大妖怪といってもここまでの力の差があるとは思っていなかった。殺生丸との修行で感じた力の差どころの話ではない。次元が違う。冥王獣の鎧甲に匹敵、いやそれ以上の防御力にあれだけの力。刀々斎の言葉は間違いなく真実だったのだ。それでも何とかここから離脱するだけの隙を作らなければならない。犬夜叉はそのまま弥勒に視線を向ける。弥勒はそんな犬夜叉を見て瞬時にその意図を理解する。

「………かごめ様、珊瑚……ここはひとまず退却します……準備をしてください……。」
「っ!……分かった、法師様……。」
弥勒の言葉に珊瑚は静かにうなずきその準備を始める。恐らく機会は一瞬、それを逃せば全滅は必死。三人は臨戦状態で犬夜叉と竜骨精の戦いに集中する。そして犬夜叉が鉄砕牙に全力の妖力を込める。それによって生じる風によって辺りは暴風に包まれていく。

(風の傷で隙を作ってその間に逃げるしかねえ……!!)
恐らく全力の風の傷でも竜骨精にはダメージを与えられないだろうが目くらましにはなる。犬夜叉はそのまま鉄砕牙を大きく振りかぶった。竜骨精はそんな犬夜叉を見ながら

「鉄砕牙……風の傷か……。」

そう呟き腰にある刀を鞘から抜く。それはまるで鉄砕牙と同じ錆びた刀だった。しかし次の瞬間、その刀は巨大な黒い大太刀に変化する。それは竜骨刀と呼ばれる竜骨精の牙から刀々斎に匹敵するといわれる刀鍛冶である灰刃坊が打ち出した妖刀だった。そして竜骨刀に竜骨精の妖力が注ぎ込まれていく。それに呼応するように雷雲は吹き荒れ、地割れが起こっていく。犬夜叉はそんな竜骨精に向かって

「風の傷っ!!」
全力で風の傷を放った。そしてその強力な妖力波が竜骨精を飲み込むかに思われた時、竜骨精が妖力を纏った竜骨刀を振り切った。その瞬間、竜骨精を飲み込みかけていた風の傷は吹き飛ばされその妖力が犬夜叉に襲いかかってくる。鉄砕牙と竜骨刀は互角の武器。そこに優劣はない。だがその技の威力は使い手の強さによって左右される。これは分かり切った結果だった。しかし

「これを待ってたんだ!!」
犬夜叉はその妖力に向かって自ら飛び込んでいく。犬夜叉は竜骨精の妖力の流れを感じ取り

「爆流波――――!!!」
そこを鉄砕牙で振り切った。そのまま犬夜叉の風の傷が竜骨精の妖力を巻き込んでいくかに思われた時、竜骨精の妖力波が逆に犬夜叉の風の傷を巻き込みながら逆流してきた。

「なっ!?」
犬夜叉は目の前で起きた信じられない出来事に驚愕する。爆流波は相手の妖力の流れを見切りそれを己の妖力で巻き込んで相手に返す技。まさに奥義と呼ぶにふさわしい技だ。しかし犬夜叉には与り知らぬことがある。
それは鉄砕牙と竜骨刀が皮肉なことに兄弟刀といっても差し支えないものだということ。打った刀鍛冶は別人だがその二人が辿り着いた刀の終着点は奇しくも同じ能力を持つ刀だった。つまりこの勝負を決めるのは純粋な『使い手の強さ』にあった。そしてその結果は既に語るまでもなかった。

「犬夜叉――――っ!!!」
かごめの絶叫が響き渡る。その叫びも空しく犬夜叉は竜骨精の妖力によって吹き飛ばされてしまう。そしてその後には血だらけで地面に倒れ込んでいる犬夜叉の姿があった。


「犬夜叉……犬夜叉……!」
犬夜叉に縋りつきながらかごめは泣き叫ぶ。犬夜叉は奇跡的に一命を取り留めていた。それは鉄砕牙の鞘と火鼠の衣の力によるものだった。しかしその体は満身創痍、いつ死んでもおかしくない、妖怪化ができない程の深手を負っていた。かごめはそのショックで戦意を完全に失ってしまっていた。かごめが何度も犬夜叉に向かって叫び続けるが犬夜叉の意識が戻ることはなかった。


「鉄砕牙を持っていても所詮半妖か……。」
竜骨精はあれだけの攻撃を繰り出したにもかかわらず息一つ乱れていない。その目には何の感情も見られない。そしてそのまま犬夜叉にとどめを刺そうと刀を振るおうとした瞬間、珊瑚と弥勒が同時に動き出す。

「飛来骨っ!!」
珊瑚が全力を持って飛来骨を放つ。そしてそれと同時に犬夜叉とかごめの元に走り出す。例え一瞬でも竜骨精を足止めし二人を連れてこの場を離脱する。それが珊瑚に残された最後の選択肢だった。しかし

「………。」
竜骨精は無造作に竜骨刀で飛来骨を斬り払う。その瞬間、飛来骨は真っ二つに両断されてしまった。

「なっ!?」
珊瑚はそれを目の当たりにして動きを止めてしまう。そして竜骨精がそのまま珊瑚にその矛先を向けようとした時

「風穴っ!!」
弥勒が右腕の封印を解き放ち間髪いれず竜骨精に向かって風穴を開く。今の弥勒には風穴を開くことで自分の寿命が縮まることなど微塵も頭にはなかった。今、この状況を乗り切らなければ間違いなく自分たちは皆殺しにされる。その恐怖が弥勒を支配していた。風穴によって竜骨精が徐々に弥勒に引き込まれていく。もし奈落が瘴気を放ってきても弥勒は風穴を閉じることはないという絶対の決意で弥勒は風穴を開き続ける。しかし竜骨精は全く表情を変えずその刀を振り切る。その剣圧が風穴の力を切り裂きながら弥勒に迫る。全てを飲み込むはずの風穴の力がまるで何の役にも立たないかの如く通用しない。あり得ない事態に弥勒は身動きをとることさえできない。そしてその凶刃が弥勒に届くかという瞬間

「法師様っ!!」
珊瑚が間一髪のところで弥勒に飛びつき地面に一緒に倒れ込む。剣圧はその上を通過し後方の森はその威力で吹き飛んでいく。弥勒と珊瑚はその光景に目を奪われたままその場を動くことができない。不思議と恐怖は感じなかった。いやもはや恐怖を感じることすらできない程、弥勒と珊瑚の心は折れてしまっていた。そしてかごめは瀕死の犬夜叉に縋ったままただ泣き続けることしかできない。



自分たちはここで死ぬ。


弥勒たちは完全に戦意を喪失してしまった。


そして竜骨精の刃が犬夜叉たちを斬り裂こうとした瞬間、竜骨精の目の前に一閃の剣圧が襲いかかる。かごめたちが朦朧とした意識の中で見たその先には





闘鬼刃を構えた殺生丸の姿があった。



「殺生丸……?」
かごめが泣きはらした目を拭いながらその光景に目を奪われていると

「かごめ様、大丈夫!?」
「こ……こら!待たんか、りん!」
りんが慌てながらこちらに近づいてくる。そしてその後を邪見が追ってきていた。

「りんちゃん……どうしてここに……?」

「殺生丸様が急に飛んで行っちゃったから急いで後に付いてきたの。」
「全く……なんでわしがいつもこんなことを……。」

りんと邪見はいつもと変わらない調子で話を続ける。どうやら状況がつかめていないようだった。かごめは二人にすぐさま今の状況を説明する。しかし

「大丈夫だよ、殺生丸様は強いもん。ね、邪見様?」
りんはそう絶対の自信を持って答える。

「あ……当たり前じゃ!殺生丸様が負けるわけがなかろう……!!」
邪見も負けじとりんの言葉に続く。しかしその言葉とは裏腹にその声は震えていた。

(だ……大丈夫じゃ……相手があの竜骨精といえど……殺生丸様が負けるはずがない……!)
邪見はそう心の中で自分に言い聞かせる。しかしどうしても邪見は自分の中から不安を消し去ることができなかった。


「やはり貴様だったか……。」

殺生丸は一度倒れている犬夜叉を一瞥した後、闘鬼刃の切っ先を竜骨精に向けそう言い放つ。既に殺生丸の妖気は高まり戦闘態勢になっていた。しかし竜骨精はそれを感じながらも全く動じずに殺生丸に目をやる。


「………誰かと思えば殺生丸……貴様か。戦に加わらず逃げていた臆病者が今更何の用だ?」

竜骨精は殺生丸を見下すようにそう挑発する。その瞬間、殺生丸はそのまま一瞬で竜骨精の懐に入り込み闘鬼刃で斬りかかる。しかしそれは難なく防がれてしまった。

「なるほど……弟よりはマシなようだな………。」

そう言いながら竜骨精は殺生丸から距離をとり体勢を立て直す。殺生丸はそれを追いたてながら攻め立てて行く。殺生丸が放つ斬撃はその全てが一撃必殺といってもいい威力を誇っている。その激しい威力により闘鬼刃が悲鳴を上げる。竜骨精はそれを受けながら防戦一方になっていた……。



「頑張って、殺生丸様!」
「殺生丸様を馬鹿にするからじゃ!」
殺生丸の猛攻にりんと邪見は歓声を上げる。竜骨精は防戦一方で押し込まれていく。このままいけば殺生丸が勝利するのは間違いない。そうかごめも思いかけた時、

「かごめ様、犬夜叉を連れここを離れます!!急いで!!」
「行くよ、雲母準備して!!」
右腕を抑えた弥勒と両断された飛来骨を抱えた珊瑚が必死の様子でかごめたちの元にやってくる。その二人の様子から何かよくないことが起こり始めていることにかごめが気付く。

「どうして……?このままいけば殺生丸が竜骨精を倒してくれるんじゃ……」
かごめがその不安を誤魔化すようにそう口する。

「そうじゃ、なんでわしらが逃げねばならんのだ!?」
邪見がそれに続くように二人に食って掛かる。しかし


「気づいていないのですか!?竜骨精は片手しか使っていないのですよ!!」

弥勒が凄まじい剣幕でそう告げる。その言葉に思わずかごめたちは殺生丸と竜骨精の戦いに再び目をやる。そこには片腕で殺生丸の攻撃をさばき続けている竜骨精の姿があった。


「………っ!」
「どうした……その程度か?」

竜骨精がつまらないといった表情で殺生丸を見つめる。殺生丸は全力で竜骨精に斬りかかり続ける。にもかかわらず竜骨精に一太刀すら浴びせることができない。それどころか殺生丸は竜骨精に両腕を使わせることすらできない。まるで大人が子供に稽古をつけている、それの程の純然たるの力の差が二人にはあった。二人の間にひときわ大きな鍔迫り合いが起こる。しかし竜骨精は片腕でそれを押し込んでいく。徐々に殺生丸がそれに押し込まれてしまう。そして

「やはり奴には遠く及ばぬか……。」
竜骨精がそう呟く。それは殺生丸にとって許しがたい言葉だった。

「黙れっ!!」
激高した殺生丸がそのまま竜骨精を渾身の力で吹き飛ばす。しかし竜骨精は何事もなかったかのように地面に降り立つ。そして殺生丸は妖力を闘鬼刃に込め

「蒼龍波!!」
全力の奥義を竜骨精に向かって放つ。それには山を軽々と吹き飛ばすほどの威力があった。竜骨精はそのままそれに飲み込まれてしまった。その威力によって地面が割れ一帯が消し飛んでいく。その後にはどこまでも続いていくような爪痕が残っていた。

「やったあ!!」
「流石は殺生丸様!!」

りんと邪見は喜びの声を上げ殺生丸に近づいていこうとするが殺生丸が刀を構えたまま動かないことに気づき二人は動きを止める。蒼龍波によって起こった砂煙が収まった先には傷一つ負っていない竜骨精の姿があった。


「え………?」
「な………?」
りんと邪見はその光景に何が起こったのか分からないといった表情を見せる。確かに殺生丸の攻撃は直撃したはずだ。それも恐らくは全力の一撃が。にも関わらず竜骨精はかすり傷一つ負っていない。あり得ない。悪い夢を見ているに違いない。邪見はそう考えるしかなかった。
竜骨精の強さはその攻撃力よりも防御力にあった。かつて殺生丸と犬夜叉の父が竜骨精を倒しきれなかったのはその完璧ともいえる防御を破ることができなかったことが大きな理由だった。そして殺生丸もそれを破ることができなかった……。


「人間の小娘か……。奴といいお前といい……下等な人間に誑かされおって。やはり蛙の子は蛙か……。」
竜骨精はそう吐き捨てながら殺生丸に向かって竜骨刀を向ける。その言葉には余人には理解できない程の重みがあった。殺生丸はその言葉を聞きながらその妖力を高める。その目は怒りによって赤く染まっていた。

「黙れ………!」
殺生丸はそのまま天生牙を抜き、その切っ先を竜骨精に向ける。そして

「貴様が父上を語るな!!」
竜骨精に向かって冥道残月破を放った。その瞬間、真円の冥道が竜骨精を飲み込んでいく。

竜骨精はそのまま冥道に飲み込まれ姿を消してしまった……。

「や……やったの……?」
「いなくなってしもうたぞ……?」
かごめと七宝が恐る恐るそう口にする。竜骨精の姿は完全になくなってしまっていた。殺生丸はそのまま天生牙を鞘に納め踵を返す。

「殺生丸様っ!!」
「殺生丸様、邪見は殺生丸様の勝利を信じておりました!」

りんと邪見がはしゃぎながら殺生丸の元に近づいていく。殺生丸がそのまま二人に向かっていこうとした瞬間、凄まじい妖気の波動が辺りを襲った。


「きゃあっ!!」
「みんな、伏せて!」
かごめたちは互いにに寄り添いながらその衝撃に備える。殺生丸はりんと邪見を庇うように闘鬼刃の剣圧でそれを防ぐ。妖気の波動の中心には先程閉じた筈の冥道が開いていた。そしてそこから



「冥道残月破か……残念だがその技ではわしを倒すことはできん。」

悠然と竜骨精が姿を現す。そして開いていた冥道はそのまま再び閉じられてしまう。殺生丸は驚愕の表情でその光景を見つめる。冥道残月破は使った相手を必ず冥道に送る防御不能の技のはず。それがなぜ?竜骨精はそんな殺生丸を見ながら


「信じられないといった顔だな。冥界から脱出する方法が存在しないとでも思っていたのか?現に冥道残月破を持っていた奴はわしを倒せてはいない……少し考えれば分かりそうなものを……。」

冥界を脱出する方法は確かに存在する。一つは天生牙を使うこと。現に殺生丸は天生牙の力によって冥界から脱出することができた。そしてもう一つが己の強力な妖力を使う方法。記憶の中の犬夜叉も妖怪化した妖力を使って冥界を脱出しようとしたことがある。しかしそれには冥道を圧倒するほどの妖力、制御、タイミング、そしてそれをなし得る天賦の才とも言えるものが必要だ。それほどの絶技を竜骨精は難なくやってのけたのだった。


「万策尽きたか……。ならば死ね。」
その言葉とともに竜骨精は妖力を込めた竜骨刀を振り下ろす。その凄まじい妖力波が殺生丸を襲う。しかし殺生丸の後ろにはりんと邪見がいる。殺生丸はそれを避けるわけにはいかなかった。

「ぐ………っ!!」
殺生丸はその攻撃を真正面から受け止める。闘鬼刃の剣圧と天生牙の結界の力で何とかそれを受け流し続ける。しかしその威力によって殺生丸の体は傷つき切り刻まれ血に染まっていく。それでも殺生丸はそれを避けようとはしなかった。

「殺生丸様!!」
傷ついていく殺生丸に向かってりんは悲鳴を上げる。殺生丸が自分たちを庇うために傷ついていることにりんは気づくが今の自分には何もすることができない。りんは自分の無力さに涙するしかなかった。そして殺生丸は竜骨精の攻撃を何とか耐え抜く。りんと邪見は無傷のままだった。しかし殺生丸はそのまま地面に膝を突き座り込んでしまう。


(なんということだ……殺生丸様が膝を突くなど前代未聞……!!)
あり得ない事態に邪見は恐怖する。これがかつてこの国を二分していた大妖怪の力。その力の前では殺生丸でさえ無力だった。

「あれを耐えたか……。」
竜骨精が膝を突いている殺生丸を見ながらそう告げる。全力ではないとはいえ自分の一撃に耐えたことに竜骨精は素直に感心する。そしてそのまま竜骨刀に再び妖力を込めようとした時

「竜骨精様……あとはこの奈落めにお任せください……。」
そう言いながら奈落が竜骨精の前に跪く。奈落の思惑通り竜骨精は犬夜叉だけではなく殺生丸まで追いつめてくれた。後は犬夜叉たちにとどめを刺し四魂のカケラを完成させるだけ。そう考え奈落が狒々の皮の下で笑みを浮かべた瞬間




「お前の役目はもう終わりだ、半妖。」

奈落は突然妖力波によって消し飛ばされてしまった。

「な……っ!?」
「誰だっ!?」
弥勒と珊瑚がいきなり目の前で起こったことに驚愕の声を上げる。その妖力波は竜骨精が放ったものではなかった。
その視線の先には青い髪をし、額から触角の様なものを生やしている男の妖怪の姿があった。年は殺生丸と同じぐらいだろうか。その立ち振る舞いからその男が只者ではないことをかごめたちは感じ取る。そしてその手には竜骨精が持っている竜骨刀と瓜二つの巨大な刀が握られていた。

「逃がしたか……まあいい……。」
その男はそのまま竜骨精に近づいていきそして

「お久しぶりです……御館様……。」
そう言いながら跪き頭を下げた。

「瑪瑙丸……久しぶりだな……。」

竜骨精はそんな瑪瑙丸を見ながらそう告げる。瑪瑙丸(めのうまる)は蛾の妖怪であり竜骨精の部下で一番の猛者。その力は竜骨精には及ばないものの凄まじい強さを誇っていた。そのためその強さを認められた瑪瑙丸は竜骨精の牙を譲り受けもう一つの竜骨刀の所持していた。

「封印が解けたのですね……もう少し時間がかかると思っていたのですが……。」
瑪瑙丸はそう言いながら竜骨精の体にある四魂のカケラに目をやる。瑪瑙丸は竜骨精の封印が解けるのは早くとも数十年後だと考えていた。しかしその妖力を感じ取り竜骨精の元に馳せ参じたのだった。

「わしもそう思っていたのだが……どうやらこの四魂のカケラとかいうものの力でそれが早まったようだ……。」
竜骨精はそのまま己の体にある四魂のカケラに目をやる。その四魂のカケラは竜骨精の妖力を強める働きはしていなかったが竜骨精の封印の力を抑える働きをしていた。

そして二人がそのことについて話している間に殺生丸は再び立ち上がるがその体は、満身創痍。とても戦えるような状態ではなかった。しかしそれでも殺生丸はそんなことは関係ないとばかりに竜骨精に向かって闘鬼刃を振るう。だがそれは瑪瑙丸によって防がれてしまう。

「邪魔をするな……!」
殺生丸は瑪瑙丸に用はないといわんばかりに闘鬼刃に力を込める。だが

「そうはいかん……俺の役目は御館様をお守りすることだからな……。」
瑪瑙丸はそのまま竜骨刀を振るい殺生丸を吹き飛ばす。殺生丸はその威力によって地面に倒れ込んでしまう。殺生丸は何とか闘鬼刃を杖代わりにすることでやっとの思いで立ち上がる。しかし殺生丸にもう戦う力が残っていないことは明白だった。


(せ……殺生丸様の強さを上回る妖怪が二人も……あ……悪夢じゃ………)

邪見はそのまま地面に座り込んでしまう。もはや自分たちに勝ち目はない。そしてそれはかごめたちも同様だった。どうしようもない絶望がかごめたちを襲う。それを感じ取りながらも瑪瑙丸は殺生丸に近づきながら刀を構える。殺生丸は鋭い目つきでそれを睨みつけるがその場を動くことができない。

「お前たちに恨みはないが……死んでもらう。」
抑揚のない声でそう宣言した瞬間、瑪瑙丸の竜骨刀から妖力波が放たれる。そしてそれが殺生丸を襲おうとした時


「殺生丸様――――っ!!」

りんの絶叫が響き渡る。その瞬間、りんの胸に掛けられていた首飾りがまばゆい光を放つ。それは殺生丸の母がりんに持たせていたものだった。妖力波が全てを飲み込んでいく。そしてそれが収まった後には



何もない荒野だけが広がっていた………。


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