<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.25752の一覧
[0] 犬夜叉(憑依) 【完結】 【桔梗編 第六話投稿】[闘牙王](2012/02/27 00:45)
[1] 第一話 「CHANGE THE WORLD」[闘牙王](2011/04/20 21:03)
[2] 第二話 「予定調和」[闘牙王](2011/04/20 21:08)
[3] 第三話 「すれ違い」[闘牙王](2011/04/20 21:18)
[4] 第四話 「涙」[闘牙王](2011/04/20 21:28)
[5] 第五話 「二人の日常」[闘牙王](2011/04/20 21:36)
[6] 第六話 「異変」[闘牙王](2011/04/20 21:47)
[7] 第七話 「約束」[闘牙王](2011/04/20 21:53)
[8] 第八話 「予想外」[闘牙王](2011/04/20 21:57)
[9] 第九話 「真の使い手」[闘牙王](2011/04/20 22:02)
[10] 第十話 「守るもの」[闘牙王](2011/04/20 22:07)
[11] 第十一話 「再会」[闘牙王](2011/04/20 22:15)
[12] 第十二話 「出発」[闘牙王](2011/04/20 22:25)
[13] 第十三話 「想い」[闘牙王](2011/04/28 13:04)
[14] 第十四話 「半妖」[闘牙王](2011/04/20 22:48)
[15] 第十五話 「桔梗」[闘牙王](2011/04/20 22:56)
[16] 第十六話 「My will」[闘牙王](2011/04/20 23:08)
[17] 第十七話 「戸惑い」[闘牙王](2011/04/20 23:17)
[18] 第十八話 「珊瑚」[闘牙王](2011/04/20 23:22)
[19] 第十九話 「奈落」[闘牙王](2011/03/21 18:13)
[20] 第二十話 「焦り」[闘牙王](2011/03/25 22:45)
[21] 第二十一話 「心」[闘牙王](2011/03/29 22:46)
[22] 第二十二話 「魂」[闘牙王](2011/04/05 20:09)
[23] 第二十三話 「弥勒」[闘牙王](2011/04/13 00:11)
[24] 第二十四話 「人と妖怪」[闘牙王](2011/04/18 14:36)
[25] 第二十五話 「悪夢」[闘牙王](2011/04/20 03:18)
[26] 第二十六話 「仲間」[闘牙王](2011/04/28 05:21)
[27] 第二十七話 「師弟」[闘牙王](2011/04/30 11:32)
[28] 第二十八話 「Dearest」[闘牙王](2011/05/01 01:35)
[29] 第二十九話 「告白」[闘牙王](2011/05/04 06:22)
[30] 第三十話 「冥道」[闘牙王](2011/05/08 02:33)
[31] 第三十一話 「光」[闘牙王](2011/05/21 23:14)
[32] 第三十二話 「竜骨精」[闘牙王](2011/05/24 18:18)
[33] 第三十三話 「りん」[闘牙王](2011/05/31 01:33)
[34] 第三十四話 「決戦」[闘牙王](2011/06/01 00:52)
[35] 第三十五話 「殺生丸」[闘牙王](2011/06/02 12:13)
[36] 第三十六話 「かごめ」[闘牙王](2011/06/10 19:21)
[37] 第三十七話 「犬夜叉」[闘牙王](2011/06/15 18:22)
[38] 第三十八話 「君がいる未来」[闘牙王](2011/06/15 11:42)
[39] 最終話 「闘牙」[闘牙王](2011/06/15 05:46)
[40] あとがき[闘牙王](2011/06/15 05:10)
[41] 後日談 「遠い道の先で」 前編[闘牙王](2011/11/20 11:33)
[42] 後日談 「遠い道の先で」 後編[闘牙王](2011/11/22 02:24)
[43] 珊瑚編 第一話 「退治屋」[闘牙王](2011/11/28 09:28)
[44] 珊瑚編 第二話 「半妖」[闘牙王](2011/11/28 22:29)
[45] 珊瑚編 第三話 「兆し」[闘牙王](2011/11/29 01:13)
[46] 珊瑚編 第四話 「改変」[闘牙王](2011/12/02 21:48)
[47] 珊瑚編 第五話 「運命」[闘牙王](2011/12/05 01:41)
[48] 珊瑚編 第六話 「理由」[闘牙王](2011/12/07 02:04)
[49] 珊瑚編 第七話 「安堵」[闘牙王](2011/12/13 23:44)
[50] 珊瑚編 第八話 「仲間」[闘牙王](2011/12/16 02:41)
[51] 珊瑚編 第九話 「日常」[闘牙王](2011/12/16 19:20)
[52] 珊瑚編 第十話 「失念」[闘牙王](2011/12/21 02:12)
[53] 珊瑚編 第十一話 「背中」[闘牙王](2011/12/21 23:12)
[54] 珊瑚編 第十二話 「予感」[闘牙王](2011/12/23 00:51)
[55] 珊瑚編 第十三話 「苦悶」[闘牙王](2012/01/11 13:08)
[56] 珊瑚編 第十四話 「鉄砕牙」[闘牙王](2012/01/13 23:14)
[57] 珊瑚編 第十五話 「望み」[闘牙王](2012/01/13 16:22)
[58] 珊瑚編 第十六話 「再会」[闘牙王](2012/01/14 03:32)
[59] 珊瑚編 第十七話 「追憶」[闘牙王](2012/01/16 02:39)
[60] 珊瑚編 第十八話 「強さ」[闘牙王](2012/01/16 22:47)
[61] 桔梗編 第一話 「鬼」[闘牙王](2012/02/20 20:50)
[62] 桔梗編 第二話 「契約」[闘牙王](2012/02/20 23:29)
[63] 桔梗編 第三話 「堕落」[闘牙王](2012/02/22 22:33)
[64] 桔梗編 第四話 「死闘」[闘牙王](2012/02/24 13:19)
[65] 桔梗編 第五話 「鎮魂」[闘牙王](2012/02/25 00:02)
[66] 桔梗編 第六話 「愛憎」[闘牙王](2012/02/27 09:42)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25752] 第三十話 「冥道」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/08 02:33
「おい、もうちょっと離れろよ!」
「いいじゃない、別に。」
犬夜叉が顔を赤くしながらかごめに食って掛かる。しかしかごめはそんな犬夜叉を全く気にせずにその手を握りながらその隣を歩いている。一行にとってこの光景は見慣れたものに慣れつつあった。

「全く、仲睦まじいことですね……。」
「ほんとだね……。」
弥勒と珊瑚が少し呆れ気味にそんな二人に様子を眺めている。今、一行は四魂のカケラの気配を探して森の中を進んでいるところだった。

「しかし私は犬夜叉のほうがかごめ様に甘えるようになると思っていたのですが……。」
「あたしもそう思ってたんだけどね……。」
二人とも恋人になれば年下の犬夜叉のほうがかごめに甘えるような形になるとばかり思っていたのだったが実際にはその逆になっていることに少し驚いていた。

「おらは二人が仲良くなって嬉しいぞ!」
七宝が嬉しそうにそう話す。二人は恋人になって一番喜んでいるのは七宝だった。

「そうですね……では珊瑚、私たちも犬夜叉たちに負けずに……。」
そう言いながら弥勒がその手を珊瑚の尻に近づけようとするが

「何か言った、法師様?」
それは珊瑚の手によって防がれ逆につねられてしまう。まるでそうなることが分かっているかのような手際だった。そして弥勒は苦笑いしながらその場を誤魔化す。

一行は今日も平和に旅を続けていた……。





「ねえ、邪見様。殺生丸様何してるの?」
「わしが分かるわけなかろう……何か探しておられるように見えるが……。」

りんと邪見が殺生丸に聞こえないように話し続ける。殺生丸は犬夜叉とかごめが去ってから何かを探すように空を見上げることが多くなっていた。それに気付いた邪見が何度も殺生丸に尋ねたが結局その理由を教えてはくれなかった。殺生丸はそんな二人を気にせずに自分の鼻と天生牙の導きを頼りに歩き続ける。そして何かに気づいたように突然足を止めた。

「殺生丸様……?」
そんな殺生丸に気づいた邪見が声を上げる。そして殺生丸は空を見上げた後、犬妖怪の本来の姿に変化し上空に飛び立っていった。

「あれは……?」
りんが何かに気づいたのか驚いたような声を上げる。殺生丸が向かった先には殺生丸にそっくりな巨大な犬妖怪の姿があった。その犬妖怪は殺生丸に気づいた後、その後を追うように地面に降り立った。その瞬間、辺りは砂埃に包まれる。そしてそれが収まった後には銀髪の髪をした妙齢の女性が殺生丸に向かい合うように立っていた。

「殺生丸、そなただったか……。」
女性は殺生丸を見据えながらそう告げる。その様子はどこか気品に満ちていた。

「貴様、何と恐れ多い!殺生丸様を呼び捨てにするなど……!」
いきなり現れた上に殺生丸を呼び捨てにされたことに怒りながら邪見が女性に食って掛かる。しかし女性はそんな邪見を完全に無視しながら

「大方、父上の形見の天生牙の話だろう。この母を訪ねてきたということは……。」
そう殺生丸に向かって言い放つ。

「え……?」
「御母堂様!?」
りんと邪見はその事実に驚きの声を上げるのだった……。



殺生丸たちはその後、御母堂に導かれ空の上にある屋敷に場所を移した。そこは御母堂を守るために大勢の衛兵が構えている厳かなものだった。

「殺生丸そなた人間が嫌いではなかったのか?それが人間の子供を連れて……餌にでもするつもりか?」
一際豪華な椅子に腰掛けた御母堂がからかうように殺生丸に話しかける。殺生丸はそんな母の言葉を無視しながら

「天生牙の冥道を広げる方法……父上から聞いているはずだ。」
そう単刀直入に御母堂に問いかける。しかし御母堂はそんな殺生丸の問いかけに対して

「全く相変わらず可愛げがない……。素直にこの母に聞きに来たと言えばいいものを……。」
そう拗ねた様な表情を見せながら呟く。殺生丸はそんな母の態度が気に入らないのか剣呑な雰囲気を漂わせている。御母堂はそんな殺生丸を見て満足したのか笑いながら

「殺生丸、そなたももうとっくに気づいていたのだろう?天生牙がこの母の能力を持つ刀であることに……。」
そう告げた。

「何とっ!?」
「そうなの?」
その事実に邪見とりんは驚きを隠せない。殺生丸はそんな御母堂の言葉を聞きながらも無表情なままだった。どうやら御母堂の言うとおりそのことにはとっくに気づいていたようだった。

「天生牙と鉄砕牙は元々一本の刀であり父とこの母の力を宿した刀であった。それを父の力である風の傷と爆流波を持つ鉄砕牙と癒しの力と冥道残月破を持つ天生牙の二つに分け犬夜叉とお前に分け与えたのだ。」
御母堂は淡々とその事実を殺生丸に伝えていく。殺生丸が何を考えているかはその表情からは読み取ることはできなかった。

「だというのにそなたは鉄砕牙にばかり執着しておったらしいではないか。そんなにこの母の力を受け継ぐことが気に入らなかったのか?」
御母堂はよよよという擬音が聞こえてきそうな態度で殺生丸に話しかける。殺生丸はそれを見ても無表情のままだった。そして

「御母堂様は犬夜叉様を知ってるの?」
りんが唐突に御母堂に質問をする。御母堂が犬夜叉やその母をどう思っているのか興味があったからだ。

「り…りん!無礼なことを聞くでない!人間との間に生まれた半妖のことなど……!」
邪見はりんの言葉に慌てながらそう取り繕う。しかしその瞬間、冷たい殺気が邪見を貫いた。

「ひっ!?」
その殺気に思わず邪見は身を震わせてしまう。

「小妖怪……今度、十六夜を侮辱することを言えば命はないと思え……。」
御母堂は冷たい視線を邪見に向けながらそう警告する。邪見はそれが冗談ではないことを肌で感じ取った。

「あれはいい女であった……。でなければ父との結婚などこの私が許すはずがなかろう……。」
そう言いながら御母堂はどこか遠くを見るような目をする。御母堂は人間であろうと妖怪だろうと力がある者、魅力がある者は認めるという信条を持っていた。それが殺生丸と犬夜叉の父が御母堂に惚れた大きな理由の一つだった。

「もっとも、私が正妻であることには変わりなかったがな。」
笑いながら御母堂はそう絶対の自信を持って告げた。


「ふん……そんなことなどどうでもいい。知っているのかいないのかどっちだ?」
心底どうでもいいという風な態度を取りながら殺生丸が再び尋ねる。

「全く……その性格は誰に似たのだか……。まあいい。殺生丸、そなたにはこの母の試練を受けてもらう。それを乗り越えることができれば冥道残月破は完成するだろう。」
そう言いながら御母堂は自らの首にかかっていた首飾りを外す。それは冥道石と呼ばれる冥界とつながっている石だった。

「だがもし失敗すればお前は命を落とすだろう。どうする、殺生丸?母は不安でならぬ。」
目を閉じながら御母堂は殺生丸にそう伝える。

「って笑いながら言ってるし……。」
「あんまり心配そうじゃないね。」
邪見とりんがその様子を見ながらひそひそ話をする。

(なーんかやっぱ似てるわ、この母子……。)
邪見は心の中でそんなこと考えながらこの二人は間違いなく親子であることを確信していた。


「ふん……心にもないことを……。」
御母堂の言葉を殺生丸はそう一蹴する。御母堂はそんな殺生丸を見据え

「ならば、楽しませてもらおうか。」

冥道石の力を解放した。その瞬間、石から巨大な影の様な犬が飛び出してきた。そしてそれはそのまま殺生丸に襲いかかってくる。殺生丸はそれに全く動じず

「冥道残月破!」
天生牙を犬の影に向かって振り下ろした。犬はそのまま巨大な円の冥道に飲み込まれてしまう。

「これが殺生丸の冥道か……。円を描いてはいるが真円には至っていないな……。」
それを眺めながら御母堂はそう呟く。そしてそれと同時に冥道に飲み込まれたはずの影の犬が再び姿を現した。

「えっ!?」
「殺生丸様の刀で斬れない!?」
天生牙が通じないことに二人は驚愕する。

「それは冥界の犬。殺生丸、どうやらそなたの天生牙は毒にも薬にもならぬようだな。」
御母堂はそんな様子を見ながら愉快そうに殺生丸に話しかける。その間に冥界の犬はりんに向かって矛先を変えそのまま襲いかかってきた。

「人頭杖!」
邪見がりんを守るために炎を人頭杖から放つ。しかし冥界の犬には全く通じないのかそのまま炎を素通りしりんを飲み込んでしまう。

「りんっ!」
「っ!」
邪見の叫びも空しく冥界の犬はりんを飲み込んだまま殺生丸が開けた冥道から冥界に逃げ去ってしまう。殺生丸はすぐさまその後を追い冥道に踏み込もうとする。

「お待ちください、殺生丸様!!」
そして邪見も急いでその後に続こうとした時

「待て、殺生丸!」
御母堂の叫びが殺生丸たちを貫く。殺生丸は一瞬、足を止め御母堂に目を向ける。

「冥道に踏み込むつもりか?それも人間を救うために……ずいぶん優しくなったものだな。」
真剣な表情で御母堂が殺生丸に問う。殺生丸はそれを一瞥した後

「犬を斬りに行くだけだ。」
そう言い残し邪見と共に冥道に足を踏み入れる。御母堂はそんな殺生丸たちを真剣な表情で見つめ続けるのだった。


「あれは……道!?」
殺生丸の尻尾に掴まっている邪見が声を上げる。漆黒の闇の中に一本の道が果てしなく続いていた。そしてその道を先程の冥界の犬が走っていた。

「ここまでだ。」
そう言いながら殺生丸は闘鬼刃を抜き冥界の犬に斬りかかる。しかしそれも先程の邪見同様、犬の体をすり抜けてしまう。
(そんな、闘鬼刃も通じぬのかっ!?)
殺生丸の攻撃すら効かぬ状況に邪見が焦る。このままではりんを救うことができない。りんの姿は犬の体の中に透けて見えるが気を失っているだけのようだった。しかしこのままではどうなるか分からない。
殺生丸はそんなりんの様子に目をやる。そしてりんの周りにあの世からの使いが近づこうとしていることに気づく。

(ならば……)
殺生丸はすぐさま天生牙を抜き

(癒しの天生牙!)
癒しの力で冥界の犬に斬りかかる。するとこれまでどんな攻撃も通じなかった冥界の犬の体は泡のように消えてしまった。そして助け出されりんはそのまま地面に倒れ込む。

「うっ……。」
「りんっ大丈夫か!?」
何とか目を覚ましりんが立ち上がると邪見は慌ててそれに走り寄った。
「邪見様……殺生丸様……?」
自分の置かれている状況が分からないのかりんは寝ぼけているような様子だった。
「全く、心配をかけさせるでない!」
邪見はそのままりんに説教を始めてしまう。殺生丸はそんな二人を一瞥した後、先が見えない一本道に目をやる。

(この先に……冥道残月破を育てる何かがあるということか?)
そう考えながら殺生丸はそのまま一本道を進んでいく。そのあとを邪見とりんも慌てて追っていく。

それからは道を進むごとに冥界の妖怪たちが次々に殺生丸たちに襲いかかってきた。しかしこの世のものではない妖怪に対しては絶大な力を誇る癒しの天生牙を持つ殺生丸は次々にそれらを薙ぎ払いながら道を進んでいった……。


「流石は殺生丸様、冥界の妖怪といえども手も足も出ないようですな。」

邪見がそんな殺生丸を見ながらそうゴマをする。しかし進めど進めど道に終わりは見えてこない。そのことに不安を感じさらに邪見が殺生丸に話しかけようとした時

先程まで自分の隣で歩いていたりんの姿がないことに邪見が気付いた。

「りん……?」
邪見は慌てて辺りを見渡す。すると自分たちの少し後ろで地面に倒れ込んでいるりんの姿があった。

「何を遊んでおるんじゃ、さっさと連いてこんかりん!」
邪見はそんなりんを見て悪態をつく。しかしりんはそこから全く動かなかった。

「りん………?」
その様子に不吉な何かを感じた邪見は恐る恐るりんに近づく。そしてりんの体が冷たくなっていることに邪見は気づいた。加えてりんはもう息をしていなかった。それは人間が冥界に足を踏み入れてしまった代償だった。

「せ……殺生丸様……り…りんが………。」
邪見は声を震わせながら殺生丸に声をかける。殺生丸はそんな邪見とりんの様子に気づき慌てて近づいてくる。

「せ……殺生丸様っ!天生牙で……癒しの天生牙でりんをお救いください!!」
りんが死んでしまっていることに気づいた邪見は必死の様子で殺生丸に懇願する。殺生丸は邪見がそう叫ぶのと同時に天生牙を鞘から抜く。そして癒しの天生牙を使おうとしたところで

あの世からの使いが見えないことに気づいた。

「せ……殺生丸様……?」
いきなり殺生丸が動きを止めてしまったことに驚きながら邪見が話しかける。しかし殺生丸はそのまま動こうとはしなかった。

(どういうことだ……あの世の使いどもが見えん……!?)
殺生丸は何度も目を凝らしりんの周りに目をやる。しかし何度やってもあの世の使いを見ることはできなかった。邪見はそんな殺生丸の様子を見て全てを悟った。

(りんが………死んだ………?)
その事実が徐々に殺生丸の心に広がって行く。動悸が激しくなり体から汗が噴き出してくる。こんなことは初めてだった。

(なぜだ………天生牙!答えろ!!)
殺生丸はそのまま天生牙を握る手に力を込める。しかし天生牙はそれに何も答えようとはしなかった。


「は……早く起きんか……りん……殺生丸様をこれ以上……煩わせるでない……。」
目に涙を浮かべながら邪見は何度もりんに話しかける。りんの頬に邪見の涙が落ちる。しかしりんはそのまま目を覚ますことはなかった。そして殺生丸はその様子をただ見続けることしかできなかった。


(連れてくるべきではなかった………)
殺生丸の脳裏にある光景が浮かぶ。それは天生牙でりんを救った場面だった。


野盗に殺されたりんをあの世から呼び戻したあの時―――――

あのまま―――――

人里に残してくれば―――――



そう後悔した瞬間、冥界の闇が殺生丸たちを襲う。そしてそれが過ぎ去った後にはりんの姿が無くなってしまっていた。

「っ!!」
「りんっ!!」
殺生丸と邪見がその後をすぐさま追おうとした時、突然まばゆい光が二人を照らした。それは御母堂が冥道石の力でこの世と冥道をつないだために起こったことだった。

『出ておいで、殺生丸。そのまままっすぐ進めば冥界から出られる。』

御母堂の声がその光の方向から聞こえてきた。その声はこれまでの物とは違い、本当に殺生丸の身を案じたものだった。

『この道はすぐに閉ざされる。そうなればそなたは二度とこの世には戻れぬぞ。』
殺生丸はそんな母の言葉を聞きながらもそのまま振り返り

「邪見、お前はこの道を行け。」
そう邪見に言い残し先に進んでいく。しかし邪見は迷うことなく殺生丸の後に続いていった。

「死ぬかもしれんのだぞ……なぜ付いてくる……?」
殺生丸は横目で邪見を見ながら尋ねる。しかし

「この邪見、殺生丸様が行くところにはどこまでもお供いたします!」
邪見はそう絶対の決意に満ちた声で答える。殺生丸はそんな邪見をしばらく見つめた後

「………好きにしろ。」

そう邪見に言い残した後、再び歩き始めるのだった……。


二人がさらに冥界の奥に進むにつれて死体が腐ったような臭いがどんどん強くなっていくことに邪見は気づく。そしてその先に黒い巨大な人の影があった。それはこの冥界のある時の姿でありその周りには死人の山が積み上がっていた。そしてその手にはりんが握られていた。

「りんっ!!」
そのことに気づいた邪見が叫ぶ。その瞬間、殺生丸は天生牙を抜き冥界の主に向かって飛びかかって行く。殺生丸の目に積み上がった死人たちの姿が映る。それが命を失った者たちが迎える最期の姿だった。

(りん!)
天生牙を握る手に力がこもる。

(そこには行かせん……連れて帰る!!)

殺生丸は全力で癒しの天生牙を振り切った。それと同時に冥界の主の腕が切り裂かれりんが空中に投げだされる。殺生丸はそれを両腕で抱きとめたまま地面に降り立った。殺生丸はそのまま自分の胸にいるりんを見つめ続ける。りんはまるで眠っているかのように安らかな顔をしていた。

「りん………起きろ………。」
呟くように殺生丸がりんに話しかける。しかしりんは決して起きることはなかった。

(救えんのか……?)
殺生丸の手から天生牙が抜け落ちそのまま地面に突き刺さる。しかし殺生丸はそのことに全く気付いていなかった。

「殺生丸様………。」
殺生丸の胸中を察した邪見はそれを見て涙を流すことしかできない。

(救えんのか……!!)
りんを抱く手に力がこもりそして悔しさから唇を噛み血が流れて行く。殺生丸はそのまま天生牙に目をやる。


何の価値がある―――天生牙―――こんな物のために――――

「りん……。」

お前を死なせてしまった………。

りんの命と引き換えに得るものなど――――何もない!!


そう殺生丸が気付いた瞬間、天生牙からまばゆい光が放たれる。そしてそれに縋るように死人の山が天生牙に集まって行く。

(し……死人の山が……まるで天生牙に縋っているようじゃ!)
その様子に驚きながら邪見も殺生丸に近づいていく。

(救われたいのか………)
殺生丸はそのまま導かれるように天生牙を手に取り、天に向かって突き出した。その瞬間、凄まじい光が辺りを包んでいく。それは殺生丸の慈悲の心による浄化の光だった。その光によって冥界に取り残された死人たちは次々に浄化されていく。そして同時に目の前には完全な真円の冥道が開いたのだった………。



「どうした殺生丸?浮かない顔だな。そなたの望み通り冥道残月破は完成した。少しは喜んだらどうだ。」
御母堂がそう殺生丸に話しかける。りんは寝台の上に寝かされており、邪見がその近くに控えていた。

「………りんがこうなることを……知っていたのか。」
殺生丸が鋭い視線を向けながら御母堂を問い詰める。しかし御母堂はそんな視線にも動じずそれに答える。

「そなたは既に一度、小娘を天生牙で蘇らせたのだろう。天生牙で死人を呼び戻せるのは一度きりだ。」
「っ!!」
殺生丸はその言葉に思わず目を見開く。御母堂はそんな殺生丸を見ながらさらに続ける。

「当然だろう、本来命とは限りあるもの。そなたの都合で何度も救えるほど軽々しいものではない……。そなた神にでもなったつもりだったか?天生牙さえあれば死など恐るるにたらぬと……。」
殺生丸は黙ってその言葉を聞き続けることしかできない。

「殺生丸、そなたは知らねばならなかった。愛しき命を救おうとする心と同時に、それを失う悲しみと恐れを……。」

(悲しみと……恐れ……)

「冥道残月破は相手を必ず冥道に送り込む技。それを使うときには命の重さを知り、慈悲の心を持って敵を葬らねばならぬ……。それが百の命を救い、敵を冥道に送る天生牙を持つ者の資格だ。」
御母堂はそう言いながら殺生丸をまっすぐ見据える。そして殺生丸は顔を下げたまま動こうとはしなかった。

(殺生丸様が慈悲の心を知るために……りんは死なねばならなかったというのか……)
邪見は目に涙を浮かべながらりんに目をやる。

「小妖怪、泣いているのか?」
そのことに気づいた御母堂が邪見に話しかける。

「殺生丸様はどんな時でも涙を見せぬご気性ゆえ……この邪見が代わりに……。」
邪見は着物の袖で顔を隠しながらそれに答える。その声は涙ですっかり枯れてしまっていた。

「悲しいか……殺生丸……?」
御母堂の言葉を聞きながらも殺生丸はその表情を変えようとはしなかった。御母堂はそんな殺生丸をしばらく見つめた後

「……二度目はないと思え。」
首にかけていた冥道石をりんの胸の上に置いた。その瞬間、石が光を放ち始める。その光は冥界に置き去られていたりんの命だった。そして

りんはゆっくりとその目を開けた。

「りんっ!!」
その様子に邪見は思わず歓声を上げる。りんは生き返ったことに驚き何度も咳込んでしまう。そしてそれを慈しむように殺生丸の手がりんの顔に添えられる。

「殺生丸……さま……。」
その手のぬくもりに安心したようにりんが殺生丸の名を呼ぶ。

「もう……大丈夫だ……。」

殺生丸はそう優しくりんに告げる。その言葉には殺生丸のりんへの想いがすべて込められていた。邪見はそんな二人の様子を見ながら号泣し続ける。


「全く……小娘一匹にこの騒ぎ……変なところが父親に似てしまったな……。」
そんな殺生丸の様子を見ながら御母堂は静かに微笑むのだった……。




「ありがとうございましたっ!」
そう御母堂にお礼を言いながら体調を取り戻したりんは先を進んでいく二人の後を追っていこうとする。しかし

「待て、小娘。」
りんは突然、御母堂に呼びとめられてしまう。そのままりんが言われるまま御母堂に近づいていくと御母堂はりんに懐から首飾りを取り出し手渡した。

「何、これ?」
りんがそれを不思議そうに眺める。

「それをそなたに預けておく。もし殺生丸にどうしようもない危機が訪れた時に使え。」
「え?」
御母堂はそう言うとそのまま屋敷に戻って行ってしまった。りんはどういうことなのか詳しく聞こうとするが

「何をやっておるんじゃ、りん!置いていくぞ!」
邪見が怒りながらこっちにやってくる。

「はい、今行きます邪見様、殺生丸様!」
りんはそのまま二人の元に向かっていく。


りんがその言葉の意味を知るのはもう少し後のことだった………。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.051573991775513