楓の村から少し離れた場所にある草原で二つの人影が向かい合っている。
それは鉄砕牙を構えている犬夜叉と飛来骨を担いでいる珊瑚だった。
二人は互いににらみ合ったまま動こうとしない。そしてしばらくの沈黙が続き一際強い風が吹いた瞬間、珊瑚が先に動き出した。
「飛来骨!」
珊瑚が自分の身の丈ほどもある巨大な飛来骨を犬夜叉に向けて投げつける。飛来骨は凄まじい音を放ちながら犬夜叉に迫ってくる。しかし犬夜叉はそれを何とか鉄砕牙で受け止める。
その衝撃で二つの武器の間に火花が散る。
「はあっ!」
犬夜叉は両腕に力を込めそのまま鉄砕牙で飛来骨を受け流す。飛来骨はそのまま犬夜叉の後方に逸れていく。
(今だっ!)
犬夜叉は飛来骨が戻ってくる前を狙い珊瑚に向って飛びかかる。しかしそれは珊瑚も分かり切っていたことだった。
犬夜叉はそのまま珊瑚に肉薄し鉄砕牙を振り下ろす。しかし珊瑚はそれを後ろに飛ぶことで避わす。
「くっ!」
振り下ろされた鉄砕牙によって地面に大きな爪痕ができる。珊瑚の予想外の行動によって犬夜叉にわずかな隙が生まれる。そして珊瑚はその隙を見逃さなかった。
「そこだっ!」
珊瑚は鉄砕牙を握っている犬夜叉の手に向けて鎖を投げつける。
「何っ!?」
犬夜叉は鎖によって腕の自由を奪われてしまう。そして珊瑚の力によって引きずられそうになる。
「このっ!」
いくら珊瑚が強い力を持っているといっても半妖の犬夜叉のほうが腕力は大きく勝っている。逆にこちらに引き寄せてやろうと犬夜叉が力を込めようした時、先程受け流した飛来骨が犬夜叉に向かって再び迫ってきていた。
(まずいっ!)
犬夜叉は咄嗟に避けようとするあまり地面に突き刺さったままの鉄砕牙を手放してしまった。
「もらった!」
珊瑚はそのまま戻ってきた飛来骨を受け止め、そのまま再び犬夜叉に向かって飛来骨を投げつける。
犬夜叉は何とかそれを紙一重のところで避わす。しかし犬夜叉と鉄砕牙の間にはかなりの距離が開いてしまっていた。珊瑚はそのまま勝負を決めようと腰の刀を抜きながら犬夜叉に迫る。珊瑚は飛来骨との挟み撃ちを狙っていた。しかし犬夜叉は突然足を止め珊瑚を見据える。
(何だ…?)
珊瑚が犬夜叉の行動を訝しんだ瞬間、
「散魂鉄爪っ!」
犬夜叉は自分の爪を地面に向けて振り下ろした。その威力によって地面がえぐられ大量の砂埃があたりを覆う。
「何っ!?」
珊瑚は砂埃によって視界を奪われ犬夜叉と飛来骨の姿を見失ってしまう。
しかしこのままでは犬夜叉もこちらの姿が見えない。砂埃がおさまるのを待とうと考えかけた時、珊瑚は犬夜叉が犬の妖怪の血を持つ半妖であることを思い出した。
珊瑚は意識を集中し犬夜叉の気配を探る。そして自分の背後に微かに気配があることを感じ取る。犬夜叉は匂いによって珊瑚の位置を掴んでいた。
「もらった!」
「させるかっ!」
犬夜叉の爪と珊瑚の刀が同時に動き二人の間を交差する。しかしそのどちらも既でのところで動きを止めていた。
二人の間に沈黙が続く。そして
「こんなもんか。」
「そうだね。」
そう言いながら犬夜叉と珊瑚は互いに笑い合うのだった。
奈落との戦いから二週間が経っていた。珊瑚の怪我は重症だったが薬草の効きが良かったためか今は戦闘が行えるほどに回復していた。そしてここ数日は約束通り犬夜叉と珊瑚は修行を行っていた。修行といっても珊瑚はまだ病み上がりのため体の調子を図る意味合いが強いものだった。
「体の調子はどうだ、珊瑚?」
修行も一段落し二人で村に向かいながら犬夜叉が尋ねる。
「もうほとんど大丈夫だよ、まだ勘が鈍ってるところはあるけどね。」
珊瑚は自分の手を握りながらそれに答える。
「犬夜叉はどうなんだ?付き合ってくれるのはありがたいけど…。」
珊瑚から見ても犬夜叉の強さはかなりのものだった。自分が本調子でないことを差し引いても自分と互角以上の実力があることは疑いようがなかった。
しかも修行では風の傷は使用していない。もし風の傷も使われれば自分は犬夜叉に勝つことは難しいと珊瑚は考えていた。
「俺もいろんな戦い方を試してみたかったからな…。助かってるよ。」
犬夜叉はそういいながら自分の体に目をやる。
桔梗との戦いが終わってから少年は犬夜叉の体の違和感を感じることはなくなっていた。そして同時に戦闘においても犬夜叉の記憶に振り回されることはなくなった。それまで少年は犬夜叉の記憶を頼りにある程度決まったパターンでの戦い方しかしていなかった。
しかし自分の意思で体を完全に動かせるようになり臨機応変に対応するために少年は自分なりの戦い方を模索していた。例えるならオートからマニュアルになったようなものだった。
そして何より自分と実力が近い相手との修行は想像以上に楽しいものだった。殺生丸との修行は実力差がありすぎて修行という実感があまり湧かなかったことも関係していた。
「ならいいんだけど…。そういえばかごめちゃんは?今日は姿を見てないけど…。」
これまで修行の時は必ず一緒にいたかごめが今日は姿がなかった。
「かごめなら今日は楓ばあさんと一緒に村に結界を張るって言ってたぜ。」
「結界?」
犬夜叉の言葉に首をかしげながら珊瑚と犬夜叉は村に向かって歩き続けた。
「これでいい?楓おばあちゃん。」
座り込んだまま目の前にある大きな石に霊力を込め終わったかごめが楓に尋ねる。
「うむ、これで村に結界を張ることができる。助かったぞ、かごめ。」
楓が満足そうにかごめに礼を言う。
かごめの前にある大きな石は霊石と呼ばれる霊力を蓄えることができる特別な石。この霊石を村にいくつか配置することで邪な妖怪を寄せ付けない強力な結界を張ることができるという代物だった。
奈落が現れたことによっていつまた先日の様に妖怪が村を襲ってくるかわからないため強力な結界を張りたいと楓は考えていた。そこで奈落を浄化するほどの強力な霊力を持つかごめに協力してもらうことにしたのだった。
「うん……。」
これで村の安全は確保されたにも関わらずかごめはどこか憂鬱そうな返事をする。
「どうかしたのか、かごめ。体の調子が悪いのか?」
楓が霊力を使ったことでかごめの体調が悪くなったのかと思い尋ねる。
「ううん、体は大丈夫。先に家に戻ってるね!」
そう言いながらかごめは走って行ってしまった。
かごめはこの数日、犬夜叉と珊瑚の修行の様子を一緒に見せてもらっていた。本音としては犬夜叉と珊瑚を二人きりにさせたくなかったからなのだが。
そしてそこでかごめは自分と犬夜叉、珊瑚の間にある絶対的な差を感じてしまった。破魔の矢や神通力を使うことでかごめも犬夜叉と一緒に戦えるようになっていたがどうしても体力や戦闘経験の差は埋めることができない。二人の動きはかごめにとってとても真似できるものではなかった。
その事実を突き付けられたように感じたかごめは一人落ち込んでいるのだった。
その日の晩、犬夜叉はかごめたちにこれからの目的について話すことにした。
「これからは四魂のカケラを集めて行くことで奈落を追っていく。それと一緒に弥勒を探していくつもりだ。」
「弥勒?」
聞いたことのない人物に名前に疑問の声を上げる珊瑚。
「ああ、新しく仲間に誘いたい奴なんだ。」
犬夜叉はそれから弥勒について話そうとするが
「その人、女の人なの?」
かごめが不機嫌そうな表情で犬夜叉に尋ねる。
「お…男だ!何でそんな話になる!?」
かごめの様子がおかしいことに気付いた犬夜叉は慌てながら答える。
「別に……。」
かごめはそれきり黙りこんでしまった。犬夜叉は仕方なくそのまま弥勒について説明していく。
法師でありその実力は折り紙つきで風穴と呼ばれている呪いを奈落によって受けており早く奈落を倒さないと命が危ないことなどを伝えた。
一通り説明したところで
「その人どんな性格なの?」
珊瑚が犬夜叉にそう尋ねる。犬夜叉は少し思案した後
「一言でいえば……不良法師かな…。」
そう答えてしまった。
「「え……?」」
かごめと珊瑚の声が重なる。二人は怪しむような表情で犬夜叉を見つめる。
「そんな人、仲間にして大丈夫なの…?」
かごめが不安そうに犬夜叉に問う。
「あたしは別に犬夜叉とかごめちゃんがいれば問題ないと思うんだけど…。」
珊瑚もかごめの言葉に続く。
「い…いや……頼りになる奴なんだって…!」
犬夜叉は自分の説明の仕方がまずかったことに気づいたが後の祭りだった。結局、何とか二人を説得し本人に会ってから決めるという話に持って行くことができた。
実のところ弥勒を一番仲間にしたいと思っているのは犬夜叉だった。こちらの世界に来てから犬夜叉は同年代の男性とかかわることがほとんどなかった。女性が苦手なわけではないがやはり男同士でないと話せないようなこともある。奈落と戦う上でも頼りにしているがそれに加えて男の仲間が欲しいと犬夜叉はここのところ強く感じていた。
(すまねえ……。弥勒……。)
犬夜叉は自分の説明のせいでイメージが悪くなってしまったまだ会ったこともない弥勒に心の中で謝るのだった。
次の日から珊瑚と雲母を新たに加えた一行は四魂のカケラ集めの旅を再開した。
かごめの感じる四魂のカケラの気配はかなり遠くにあるのか一日では辿り着くことが難しかったため犬夜叉たちは野宿をすることになった。そして幸運にも近くに温泉があり犬夜叉がそれを匂いで見つけたため女性陣は先に温泉に入ることになった。
「ふう……。」
温泉につかりながらかごめは大きなため息をつく。道中ずっと犬夜叉の背中に乗っていたかごめだったがうまく犬夜叉と話すことができなかった。犬夜叉が悪いわけではないのは分かっているがどうしてもかごめは自分の感情を抑えることができなかった。
「お邪魔するよ。」
そう言いながら珊瑚がかごめの隣に座ってくる。
「あ…」
そこでかごめは珊瑚の背中に傷跡があることに気付く。
「ああ…この傷。残っちゃたな…。」
珊瑚は特に気にした風もなく呟く。
「それ……。」
かごめが言いづらそうに珊瑚に尋ねる。
「うん…。琥珀につけられた傷だよ…。」
珊瑚は少し遠くを見るような様子で答える。
「ご…ごめんね…。変なこと聞いちゃって…。」
かごめは焦りながら珊瑚に謝る。
「いいよ…気にしないで。かごめちゃんと犬夜叉には本当に感謝してるんだ。」
「え…?」
全く気にしていないような様子の珊瑚に戸惑うかごめ。
「一緒に行こうって誘ってくれたこと……本当に嬉しかったんだ…ありがとう。」
「珊瑚ちゃん……。」
二人の間に静かな時間が流れる。そしてそれを気にした珊瑚は話題を変えようとかごめに話しかける。
「そういえば犬夜叉は覗きとかしないの?」
「え…?」
かごめは予想外の質問に言葉を失くす。
「犬夜叉って確か十四歳なんだろう?それぐらいしてもおかしくないと思うけど。」
珊瑚は冗談で話し続ける。珊瑚は犬夜叉とかごめが別の世界の人間だということは既に聞いていた。
「覗かれたことは…ないかな…。」
しかしかごめは珊瑚の冗談を真に受けて考え込む。
(川で水浴びしてるのは見られたことはあるけど……。やっぱり私って女の子として見られてないのかな……。)
かごめはかつて友人に言われた言葉を思い出してさらに深く考え込む。珊瑚はそんなかごめの様子をしばらく見つめた後
「……かごめちゃんと犬夜叉は恋人同士なの?」
そうかごめに尋ねてきた。
「え!?ち…違うわよ!そんなんじゃないんだから!」
かごめは慌てながら珊瑚の言葉を否定する。二人はそれで緊張がほぐれたのか和気あいあいと話を続けるのだった。
「これでよしと。」
テントを組み立て終わった犬夜叉は木にもたれかかりながら座り込む。かごめが入浴している間にこれからのことを考えるのが犬夜叉の日課になりつつあった。
(奈落……。)
犬夜叉は先日の戦いを思い出す。思えばあれが奈落を倒す最大のチャンスだった。まだ四魂のカケラで力を増していない状態の奈落なら間違いなく今の自分とかごめで倒すことができたはずだった。しかし村を狙われ消耗したうえで罠にかかってしまったのが致命的だった。何とか撃退できたものの風の傷とかごめの力を見られてしまった。おそらく奈落はこちらの力を上回ったと考えない限り姿を現さないだろう。こちらもそれを考えて力を蓄える必要がある。そのためにも一刻も早く弥勒を仲間にしたいと考えていた。
そしてもう一つ犬夜叉は気になることがあった。それは犬夜叉が違う行動をしても結局記憶にある通りの結果になってしまっていることだった。殺生丸に関することは記憶と大きく異なっているが、四魂のカケラが飛び散ったこと、桔梗の復活、琥珀のことなどは結局変えることができなかった。そこで犬夜叉はもしかしたら自分は何も変えることができないのではないかと最近不安に感じていた。そんなことを考えていると
「犬夜叉、お待たせ。もう入ってきてもいいよ」
珊瑚がそう犬夜叉に話しかける。二人ともすでに寝間着に着替えていた。
「一人だとかわいそうじゃから一緒に入ってやるわい!」
そう言いながら七宝が犬夜叉を引っ張って行く。
「分かったから手を離せって!」
二人は慌ただしく温泉に向かっていった。そんな二人を珊瑚は笑いながら見送る。
かごめは先ほどの話題のせいもあって犬夜叉をまともに見ることができなかった。
その後、犬夜叉と七宝が温泉から上がりテントに入りかごめたちがこれから寝ようした時、犬夜叉は寝袋を担いでテントから出ようとしていた。
「どうしたの、犬夜叉?」
そんな犬夜叉にかごめが話しかける。
「いや、珊瑚もいるしな。今日から俺は外で寝るぜ。」
そう言いながら犬夜叉はテントを離れて行った。
「そんなこと気にしなくていいのに。」
珊瑚がそう呟くも犬夜叉は戻ってはこなかった。
(何よ……私の時はそんなこと気にしなかったのに……。)
かごめは不貞腐れながら眠りについた。
次の日、かごめが感じる四魂のカケラがあると思われる村に犬夜叉たちは向かっていた。そして村の入り口に差し掛かった時、
「気をつけろ……。」
犬夜叉が腰の鉄砕牙を握りながらかごめたちに警告する。
「どうしたの、犬夜叉?」
その様子に緊張しながらかごめが犬夜叉に尋ねる。
「血の匂いだ……。それも大量の……。」
「何じゃと!?」
犬夜叉の言葉に怯えて七宝がかごめにしがみつく。
「とにかく行ってみよう。」
珊瑚の言葉に続くように犬夜叉たちは匂いの元に向かっていく。
「ひどい……。」
かごめが目の前の惨状に言葉を詰まらせる。
目の前には武者たちの集団が一人残らず肝を抜かれて死んでいる光景が広がっていた。
「妖怪の仕業だね…それもただの雑魚妖怪じゃなさそうだ……。」
珊瑚が冷静に分析しながら呟く。
「四魂のカケラを持った妖怪の仕業じゃろうか…?」
七宝が怯えながら犬夜叉に尋ねる。
(血の匂いだけじゃねえ…これは…墨の匂い!)
犬夜叉はその瞬間に記憶を思い出す。
これは四魂のカケラを手に入れた墨絵師の書いた鬼の絵の仕業だった。墨絵師は四魂のカケラを入れた壺に人間の生き胆を墨代わりにして絵を描くことでその絵は命を得て操ることができた。そして一目ぼれしたこの村の姫を我が物にしようと企んでいた。記憶の中では初めて弥勒とともに共闘した敵だった。犬夜叉は墨絵師を助けようとしたが結局墨絵師は自らの墨に喰われ絶命してしまった。
犬夜叉はそのことをかごめたちに伝える。珊瑚には犬夜叉が予知能力があるということにしていた。記憶のことを伝えると弥勒と結ばれたことや琥珀が助かったことがばれてしまう恐れがあったからだ。そして犬夜叉は話しながらあることに気付く。
(事情が分かっている今回なら墨絵師を助けることができるかもしれない…!)
そう考えた犬夜叉は珊瑚に頼みごとをする。
「珊瑚、いつも口につけてるマスクを一つ貸してくれないか!?」
「ますく…?防毒面のこと…?」
どうしてそんなものを欲しがっているのか分からないまま珊瑚は防毒面を犬夜叉に手渡す。
(これで臭気にあてられずに戦うことができる…!)
記憶の中で犬夜叉は墨と生き胆の血で作られた鬼の臭気にあてられて上手く戦うことができなかった。しかしこの防毒面があればその心配もない。犬夜叉は初めて記憶の出来事を変えることができるかもしれないという期待に魅せられていた。
「……」
珊瑚はそんな犬夜叉の様子を静かに見つめていた。
その後犬夜叉たちは四魂のカケラの気配を頼りに墨絵師の家を見つけ出すことができた。しかし日が沈み辺りがすっかり暗くなってしまっていた。そして鬼の大群が空から墨絵師の家に向かってくる光景を犬夜叉たちは捉えた。
「おお…姫…お待ちしておりましたぞ……。」
小柄な眼の下にクマを作っている墨絵師が鬼たちが攫ってきた姫に向かって話しかける。
そしてそのまま姫に触れようとした時
「そこまでだ!」
犬夜叉が家の扉を壊しながら突撃しその後にかごめたちも続く。
「な…何だ、お前たち…!?」
墨絵師が犬夜叉たちに驚いている間に犬夜叉は姫を抱きかかえる。
「かごめ、姫様を頼む!」
「う…うん!」
かごめと七宝は姫を支えながらその場を離れて行く。
「さあ、観念しな!」
そう言いながら犬夜叉は墨絵師が持っている壺に目をやる。
(あれを壊せばこいつを死なせずに済む…!)
犬夜叉がそう考えた瞬間
「許さぬ…邪魔立てするものは皆食い殺してくれる!!」
墨絵師は懐に隠し持っていた巻物を広げる。そしてその中から鬼の絵の大群が現れる。
「くっ…!」
鬼の大群が犬夜叉に襲いかかる。犬夜叉は防毒面を着けそれに向かっていく。
「邪魔だ!どけってめえら!」
犬夜叉は鉄砕牙を抜き鬼たちを斬り伏せながら墨絵師に迫る。
「ひいっ!!」
墨絵師はそれを見て怯えた声を上げる。犬夜叉は墨絵師の壺に狙いを定める。
(もらった!)
犬夜叉がそう思った瞬間、後ろからの鬼の攻撃が犬夜叉の背中を襲う。
「がっ!!」
そのまま犬夜叉は床に吹き飛ばされてしまう。火鼠の衣のおかげで大したダメージはなかったがその隙に墨絵師は逃げ犬夜叉は鬼たちに取り囲まれてしまった。
(しまった……!)
犬夜叉は壺を壊そうとするあまり周りへの注意が散漫になってしまっていた。
そして鬼たちは床に倒れている犬夜叉に向かって襲いかかろうとする。
「犬夜叉っ!!」
かごめがそれを見て叫び声を上げる。かごめは何とか援護しようとするが間に合わない。
(やられるっ……!!)
そう犬夜叉が覚悟した瞬間、
「飛来骨!!」
珊瑚の飛来骨が犬夜叉の周りの鬼たちを薙ぎ払っていった。
「珊瑚……!」
犬夜叉はその隙にその場から離脱する。
そして珊瑚はそれを確認した後、犬夜叉に話しかける。
「どうした、犬夜叉。動きが悪いよ。何をそんなに焦ってるのさ?」
珊瑚の表情は防毒面で見えないがその顔が笑っていることは犬夜叉にもすぐに分かった。
「うるせえ!ちょっと油断しただけだ!」
犬夜叉は赤面しながら珊瑚に食って掛かる。
「あたしたちは仲間だろ?ちょっとは頼ってくれなきゃ。」
珊瑚がそう言うと変化した雲母も犬夜叉に近づく。その姿は一緒に戦おうとする意志の表れだった。
「お前ら……。」
犬夜叉は珊瑚と雲母に目をやるそして
「……墨絵師の持ってる壺を壊したい。手伝ってくれ。」
そう犬夜叉は二人に頼んだ。
「飛来骨!」
珊瑚の放った飛来骨が鬼たちを切り裂き道を作って行く。それを犬夜叉は一直線に突っ切って行く。
そして必死に逃げようとしている墨絵師に追いつく。
「逃がさねえっ!!」
犬夜叉はそのまま墨絵師に近づこうとするが
「捕まってたまるか…!」
墨絵師は蛇のような絵の妖怪に乗って上空に逃げて行く。
「くそっ!」
何とか飛び上がって捕まろうとするが間に合わない犬夜叉。墨絵師はそのまま遠ざかって行こうとする。
(どうすれば……!)
風の傷を使えば墨絵師は死んでしまう。犬夜叉があきらめかけたその時
「犬夜叉っ!」
空から珊瑚の声が響いた。
犬夜叉は驚きながら上空を見上げる。そこには雲母に乗った珊瑚の姿があった。そして珊瑚は犬夜叉に向かって手を伸ばす。犬夜叉はそれで珊瑚の意図を理解する。
犬夜叉は雲母に向かって飛びあがる。そして珊瑚は犬夜叉の手を掴む。
雲母は速度を上げ墨絵師に追いつく。
「いくよ、犬夜叉!!」
「ああ!!」
珊瑚の合図とともに犬夜叉は墨絵師に向かって投げだされる。そして犬夜叉は墨絵師の書いた蛇の上に着地する。
「ここまでだな……。」
そう言いながら犬夜叉は鉄砕牙を構える。
「ま、待て、命ばかりは……。わしは元々非力な人間…。こんなものさえなければ…。」
そう言いながら壺を差し出す。墨絵師は命乞いをし隙を見つけ攻撃するつもりだった。しかし
犬夜叉はその言葉を意に介さずそのまま斬りかかった。
「ひいいいっ!!」
墨絵師が思わず頭を下げながら屈みこむ。鉄砕牙は壺だけを断ち切っていた。
その瞬間、足元の蛇が崩れ去って行く。
そしてそのまま犬夜叉と墨絵師は地上に落下してしまう。しかし犬夜叉は慌てず墨絵師を抱えながら上に手を伸ばす。雲母に乗った珊瑚がその手をつかむ。
「なかなかしゃれたことするじゃねえか。」
「まあね。」
軽口を言いながら二人は笑い合う。
犬夜叉は墨絵師を救うことができたのだった。
その後、邪気にまみれた四魂のカケラをかごめが浄化し一行は楓の村に戻ろうとしていた。しかしかごめの様子がおかしいことに犬夜叉が気付く。
最近、かごめの雰囲気がおかしいことには気づいていた犬夜叉だったが今回は特にそれがひどかった。
犬夜叉は恐る恐るかごめに近づく。
「おい…かごめ、何怒ってるんだよ…。」
犬夜叉がかごめに話しかけるもかごめは答えない。
「かごめ!」
犬夜叉はかごめの正面に回り問いただす。
「……怒ってなんかないわよ…。」
かすれるような声でそう返すかごめ。
「やっぱり怒ってんじゃねえか…。」
そんなかごめを見て犬夜叉はそう続ける。二人の間に沈黙が続く。そして
「うるさいわよ、バカーーーーーー!!!」
かごめの大声があたりに響き渡った。
「なっ……!?」
いきなり怒鳴られ思わず動きを止める犬夜叉。かごめはそんな犬夜叉に目もくれず
「珊瑚ちゃん、雲母貸してくれる?」
そう珊瑚に尋ねる。
「いいけど…どうするのかごめちゃん?」
「帰るのよ。」
そう言い残し飛び立とうとするかごめと雲母。犬夜叉は慌てながらかごめに走り寄りながら
「おい、どこに行くんだ!?」
そう尋ねる。
一瞬の間の後
「実家に帰るのよ!バカーーーーーー!!!」
大きな叫び声を残したままかごめは雲母と一緒に村に戻って行った。
犬夜叉はその大声にあてられて呆然としていた。
(全く…犬夜叉の奴……。)
事情を察した七宝はあきれた様子で犬夜叉を見つめる
そして
(かごめちゃん……。)
珊瑚はそんなかごめを見ながらなにかを思案するのだった。