「やっほー、マミ。遊びに来たぜよー?」
「なんで土佐弁なのよ」
以前から普通な動きをする娘とは言えなかったが最近輪をかけて変人になった友に、マミはため息をついた。
終業式から奇行が増え、(校長先生のお話がステレオ化したときは度肝を抜かれた)冬休みに入っても様子がおかしいありかのことは、密かに心配していた。
元からふざけたノリの好きなありかだったが、最近はどうも無理やりそうしているような、本当はもっとゆったりしたいんじゃないかなんて……ふとしたときに緩やかに凪いだ眼をすることが多い。
「時の旅人になってみた」
それでもこの脊髄反射のノリを楽しもうとはしているようなので深くは突っ込まない。
「まあなに、ちょっとした思いつきだよ。私は冬休み中特に予定とか無いからね、縁側でぼけーっとしてるような生活は送りたくないし」
「あなたはもう少し落ち着いて、ぼけーっとしてもバチは当たらないと思うわよ」
「同感。でも無為に過ごすとなんか時間を損してるみたいでヤだ」
ただの軽口――というわけでもないらしい。
どうも重いというか、焦っているというか、不自然なものを感じる声色。
「ちょっとは休んでもいいと思うけど……」
「マグロは泳ぐのをやめると死ぬんだよ?」
「そんなに生き急いでどうするのよ人間」
「ぶち殺すぞヒューマン?」
「私は別に機械でもなんでもないわよ」
それでも構わない。ありかが軽口にしたいのならば、軽口として喋ってしまおう。
だってこうやって笑っているありかは、とても楽しそうだから。
マミは十分に茶葉が飛び交ったティーサーバーの茶こしを押し下げた。苦み成分のそれ以上の抽出が止まる。
そのままカップに温めるために入れたお湯を捨て、ティーサーバーを傾けて紅茶を注ぎ入れた。
こぽこぽと音を立てて香りのいい、薄暗い紅色の紅茶が注がれる。
最後の一滴まで注ぎ入れてから、後に入れたほうをありかへ差し出した。
「はい、どうぞ」
「やっほー、いただきまーす!」
お茶菓子はありかがお母さんから、と持ってきたケーキ。
昨日クリスマスの処分で駅前で売ってたやつにデザインがよく似てるのは気にしないでおいて、マミはフォークで切って口に運ぶ。普通に美味しい、甘くてふわふわだ。
少なくともありかが「うめえうめえ!」などと品性をどこかに置いてきたような貪りかたをするくらいには味の保証が効くことは間違いない。
ちょっと甘くなった口の中を紅茶で一息。
ほんわかする香りに、適度な渋味が爽やかだ。
ありかもならうように紅茶を口に含み、
「ん~、60点!」
「そんな……」
ありかが飲んで出した答えに肩を落として落ち込む。
それを妙に生温かい眼で見守るありかにマミは軽く殺意が湧いた。
「あ、あなたに紅茶の何がわかるって……」
なにせ紅茶に限らず、食べることは専門で料理なんて目玉焼きレベル。
料理に関連する特技は早食いだけという基本的にずぼらなありかに言われるとどうにも理不尽だ。
「いや、マミだったらもっとおいしい紅茶を淹れられるはずだからさ」
さらりとさも当たり前のように言われるとマミとしてはかなり困る。
期待されてるようで嬉しいような、食い専に得意げな顔をされて鬱陶しいような微妙な気分。
「ははっ、マミったら変な顔してる、おっかしー」
「誰のせいよ、誰の」
顔に出ていたか、とマミはちょっと反省。
だがなんとなく気に食わないことには変りない。
「どこがマズいのか教えなさいよ。自分ながらいい出来だとは思うんだけど」
「あー、ちょっと到達点知ってるだけ……」
これより美味しい紅茶を飲んだことがあるだけ、なんて。
そう言われても、マミとしてはそう納得できるはずもない。
「むー、強いて言うなら……」
どーだったかな、などと呑気にこめかみをぐりぐりと揉んで、おおっと手をぽんと打った。
「なんかそれ使ってなかった気がする!」
びしりと指を指すは空になって茶葉だけが残るティーサーバー。
ありかの奇行に、いい加減マミも苛立ってきた。
「あのね……容器もなしにどうやって淹れろって言うのよ? まさか空中芸とか言わないでしょうね」
「いやそうじゃなくて……、その無駄に付いてるかこーんって押し下げるやつじゃなくて、普通の急須っぽいの使ってた気が、しないでもなくなくない」
「むちゃくちゃ曖昧じゃない!」
それでもなんとなく一見筋は通っているように見えるから性質が悪い。
だいたいティーサーバーではなくティーポットを使ったからと言って……言って……。
「変わりそう……」
細かい知識があるわけじゃないが、なんとなく無駄に機構が付いてるものよりもシンプルなもののほうが美味しく淹れられる気がしないでもない。
癪だけどあとで調べてみよう、などと考えるあたりマミは真面目だった。
「あとは足りないものといえば……愛情?」
「ああ、ごめんなさい。それだけは絶対に足りてなかったわね」
「ひどっ!?」
こんなにも私はあなたを愛しているのに! などと抱きつきに来るありかの額を押して止めると、マミに手は届かない。古典的なギャグが成立した。
時間遡行してから、ないしは遡る前までも望めなかったような、平穏で温かい日常がそこにはあった。
そんな日々に埋没する中、ありかにはひとつ気がかりなことがある。
「これ、このままほっといていいのかな……」
リビングのサボテンの鉢にいつの間にやら生えていた、負の思念を詰め込んだかのように黒い立方体のような不思議なデザインをした肥料っぽい何か。
どことなくあのバケモノのおぞましさに似たものを感じるが、そんなものがそうそう居るはずもない。だから肥料かなと勝手に思ってはいるが、見ているだけで精神が汚染されるような感覚を覚えるためあまり好きではない。
というかむしろ捨てたいくらいなのだが、母さんが植えたんなら勝手に捨ててはマズかろう。
冬休みの宿題として出された計算ドリルの問題を解きながらあくびを軽く一つ。どうにも退屈だ。
だがここでやめるわけにはいかない。だってそうして後で後でと伸ばし続けていたら冬休み最終日になっていたからだ。
こればかりは、ありかの母もすっかり呆れてしまっていた。
「なんというか……やっぱり私の娘よねえ……」
ながらダイエットとして爪先立ちして皿を洗いながら、ダイニングキッチンから居間でドリルに取り組むありかを見やる。
ここまで切羽詰まるまで手をつけないのは珍しいが、地味にやっていたけれど最後結局間に合わずに切羽詰まることになるのは懐かしい気持ちになる。
「ママも若い頃はそうやって宿題を最終日に片付けたもんだわ……」
大学のゼミでの悪夢。そして出会い。
レポートの提出期限ギリギリに図書館に篭ってガリガリ筆を掻き鳴らしているときに閉館だからと止めに来たバイトがありかのパパだった。
あのときは「放して! 私にもう少し、もう少しだけレポートをォォォ!」などと絶叫しながら机に意地でも齧り付こうとして、結局その図書館バイトにカラオケボックスで完成を手伝ってもらったんだったか。
「はぁ……懐かしいわねー」
思えばあの人には迷惑かけっぱなしだった。最近毛が怪しいのも、私がストレスを与えすぎたのかも知れない。
思えば最近、お互いの悪いところしか見ていなかったかも知れない。
もう少し優しくしてあげてもいいかな、なんて物想いにふけりながらありかを微笑ましげに見守っていた。
「じゃあちょっとくらい手伝ってもいいんじゃないかな、なんて思うけど」
「だーめ、勉強は自分でやらないと自分の為にならないぞ?」
「わかりきってるからもういいよ……」
切実なありかの訴えも算数の嫌いな小学生の言い訳にしか聞こえない。
円周率は3.14とするってなんだ。もうπでいいだろ。もしくは3.14って残しておいちゃダメ? あ、そうダメですか。
ぶちぶちと文句をぶうたれながらもありかは計算を続ける。
バケモノを殴るのはもう苦にもならなくても、3.14はとても苦になるのだ。正直だるい。やってられない。眠いチョコ食べたいお腹すいた。
☆
まるっきりありかは緩みきっていた。
あのバケモノから逃げた周で発現した麻痺の兆候もなく、父さんも母さんも仲良く火種は見当たらない。ありかが帰ってきたかったのはこんな楽しい日々だったと強く思ってしまう。
だからひと通りレースゲームなんてして遊び倒し、次の約束をしようとしてマミに告げられるまで忘れていたのだ。
「私、明日の日曜日は家族でドライブにいく予定なのよ。だからちょっと遊べないわ」
ごめんなさいね、と困ったように笑うマミを見て、ありかは硬直した。
幸せすぎて忘れていた。あの刻が迫っていることをだ。
――ありかの生活の、全ての破滅の始まり。
その時が来てしまえば、もはやマミとは今まで通りの関係ではいられなくなる。
時間を遡る前では、ありかの無神経さがマミを傷つけてしまった。お節介さがマミを暴き立てようと猛威を奮い、関係を根こそぎ抉り取ってしまった。
――そして数年後、マミは消えた。
勇気を出して一歩踏み出し、仲直りできればと何度夢想したことか。
日に日に余裕を無くしていくマミを見ては気を揉んだり、何か開き直ったかのように取り繕い始めたマミに邪推したり、仲の良い後輩ができて少し肩の力が抜け始めてその娘に嫉妬したり……。
そして、しばらくして突然いなくなったり、だとか。
後輩の娘に尋ねて見ようと席を立ったことが何度あったことか。
でも、結局聞くことはできなかった。あんな夢が砕けたような顔をされてはそう簡単に話しかけることができるわけもないし、それにその後輩も、結局……。
「ヤバい件に足でもを突っ込んでたんだね、きっと」
「家族のドライブにそれ以上の深い意味はないわよ!?」
家族の予定を話しただけでヤクザの抗争にでも巻き込まれたような表現をされたらそれは驚く。
マミの突っ込みは会話の流れとしては妥当なのであった。言語というコミュニケーションツールの不自由さの具象だ。
だが、ありかとしてはここは退けない。どうにかしてこの家族小旅行を止めねばマミの崩壊が始まる。
ありかは顔を引き締めた。
「ねえ、ドライブなんて行かずに遊ぼうよ」
だから、言った。
「えっ……?」
そんなことを真顔で言うとは思わなかったマミの思考が一瞬停止する。
「ドライブ中止にしようよ、何か嫌な予感がするからさ、お父さんお母さんも一緒に説得してあげるからさ、家にいようよ。ほら、今マミのお母さんに……」
「ちょっとちょっと、何を言ってるのよ!」
強引につかんだ腕を振り払う。そこにあるのは拒絶の意思。
「勝手に人の予定を決めないで! なんなのよ一体……」
「でもさ……」
当然の反応だ。ありかはもとよりあまりわがままな少女ではない。他人の意思は尊重し、自分も殺さず妥協案を見つけるような性質をしていて、必要以上に気を使うこともなく付き合いやすい娘だ。
それが突然あまりに強引に、本人の意志を無視して話を持って行こうとした。驚きとありかがこんなことをするわけないという信用、そして一抹混じった疑念と失望。
少なくともいつものありかじゃないということだけはわかっていた。
「ちょっと頭冷やしなさいよ。今のあなた、ちょっとおかしいわよ」
だから、遊んだあとでちょっとハイになっていたのかわからないが、考えなおしていつものありかに戻って欲しいとマミは思っただけだ。
それでも、否定は否定以外の何物でもないのだった。
「……そうだね。私、ちょっとおかしくなってたかも。じゃあね」
「……ええ、また今度」
そう挨拶して手を振り、自らの家の方向へ歩み去るありかの瞳にあったのは執着にも似た決意だ。
マミは気づいていた。明らかに何かがおかしいと。二ヶ月弱過ごしてきて、やっぱりどこかがおかしい。
大旨の態度は元のありかと大した違いはない。――多少過激になった気はするが、その程度だ。
だがその瞳の奥に秘めているものが違いすぎた。利発さと激しさを天秤にのせてぐらつかせていたそれではない。
何も求めていなさそうでナニカを渇望するギラつきが違いすぎた。世の無常さを悟ったような平静が違いすぎた。
今までが「精一杯生きている」だとすれば、今は「命をかけてしがみついている」とでも言うのか。
(しがみついているって、何に……?)
マミはかぶりを振ってその疑問を振り飛ばした。考えすぎだ。
最近読んだファンタジー小説のせいで疑心暗鬼になっているのかも知れない。老いた魔女が秘薬を使って近衛騎士の心を乗っ取り主人公の姫を破滅させようと企む、シリーズものの第4巻。
最終的に魔女が騎士に精神を重ねすぎ主人公に恋心を抱くことで、より強い恋心を持つ騎士に逆に精神を飲み込まれて倒さるといった内容だ。心のなかで戦う騎士の描写や、それと戦う魔女の悪意が次第に和らいでいき、最後には倒されても幸せそうだった様子がとても心にのこっている。
「まったく、ホントに考えすぎね……。私もありかのこと、言えないじゃない」
自身も相当めちゃくちゃなことを考えているくせに、とくすりと笑った。
ちょっと強引に遊びに誘いたくなるような気分だったのだろう。そんな時も人にはあるのだろう。
せめて楽しんで帰ってきて、普通にあったことをありかに話して聞かせていれば、そのうちありかも機嫌を直すに違いない。
だが、それは所詮夢想である。
ありかが帰って普通に夕飯を食べるところまでは、マミの予想圏内だったろう。
だが夜、寝る時間になってからは大外れだ。
「マミのお父さんとお母さんは、私が守ってあげる」
散々使い倒した包丁を物色しに置き場に行く。今回は肉切り包丁を一丁だけ拝借。
刃を清める必要など無い。今まではバケモノを殺めるために使っていた包丁だが、今宵はバケモノ狩りが目的ではないのだから。
包丁を持ったら即、マミの住むマンションに人目を避けつつ失踪した。。地下駐車場から巴宅の車を探し出す。
――メタリックブルーのワンボックス、メタリックブルーのワンボックス……と。あった。
見つけた小型の車へと近づくと、まずはそのホイールに刃を立てる。
何かを突き刺し、貫通させて斬り開くのは慣れたものだ。余裕をもって四輪総てをパンクさせた。
それでも、車輪だけ換えてドライブに行かれるかも知れない。
ありかはワイパーを叩き折る。コンクリートブロックで殴りつけボンネットをへこませる。そのままブロックを投げ込んでフロントガラスに蜘蛛の目を張らせる。
拾いあげてもう一度、拾いあげてもう一度……。
そうやって息が上がり始めるほど運動した頃、ようやくコンクリートブロックはフロントガラスを突き破り、車の運転席へ入っていた。
これだけやればもうどれだけ強行しようとしたところで走ることなどできまい。
昏い達成感に溢れながら、ありかは身を翻した。
車を壊してしまった罪悪感と命を救ってやったのだという達成感がないまぜになって、なんとも言えぬ昂揚を感じさせた。
包丁の刃はフロントガラスを破る過程で欠けてしまったが、なに、どこかで捨てればいい。
途中で目に入った工事現場に投げ捨て、家に気配を殺して駆け戻った。
☆
月曜日、小学校の教室で雑談に興じる二人が居た。
喧騒の中で二人の声がこれといって通るわけでもなかったが、HRを前にクラスの半分以上はすでに登校している。
「それでね、結局ドライブは中止になっちゃったのよ。あなたの約束を断ったんだから、土産話くらい用意しておきたかったのだけれど……」
「まあ、仕方ないよ」
あはは、とありかは笑った。
「お父さんなんて『久しぶりの家族サービスがー!』だって。本人たちの前で言うセリフじゃないわよね」
「家族サービスを考えるだけでも幸せじゃない。言葉尻をあげつらっちゃだめだよ」
「そうね、そんなこと言うのも悪いわね。だってそのかわり一家で家の中でくつろいでいたけど、ああいうのもいいかなと思っちゃうもの」
「おばさんくさいぞー?」
「うるさいわね、仕方ないでしょ?」
それでも、ありかにはやはり油断があったのだろう。もう全ての引き金は潰してしまったという油断が。
その緩みが、再び破滅のトリガーを引いてしまう。
「そうだよね、車が壊されてたんなら仕方ないよね」
「そうねぇ、春見さん。ところで――」
――かちり。
世界が凍りついたような錯覚に囚われた。
「なんであなたが、私の家の車が壊されていたことを知ってるのかしら?」
にこり。巴マミの顔は仮面が張り付いたように笑顔のままだ。
そう、今までの会話でマミは一度もこのことを話していない。
マミとありかの家は通学路で合流するようになっており、相当迂回してこないとマンションを通らないため朝に確認しているはずもない。
発覚したのが昨日の朝。マンションの地下駐車場の利用者は多くない。
薄暗くもあるため、相当視力が良くないと気づかない程度の片隅に置かれているとそこまで注目を集めもしなかった。よって、あまり噂は拡散しない。
「え、えっとー……」
答えに詰まった時点でありかの負けだった。
何故知っている、何故ドライブに行く前日に車が壊された。何故断ったとき、あんな瞳をしてマミを睨んだ。
そして何故、どもってしまった。
それが示すのは、示してしまうのはただひとつの事実だった。
「あなたなのね、あれは」
「で、でもあれは! 良くない予感がするから、仕方なく……!」
「そんなわけのわからない理由でそこまでする?」
でも、本当なのだ。本当にあのままドライブに行けば交通事故に巻き込まれて死んでしまっていたのだ。
マミ独りだけになってしまっていたのだ。
それはやっぱり悲しい。
だから、あれはマミのためにやったことだったのだ。
――だが、そんな理屈はマミには通らない。
人間には通らないのだ、そんなおとぎ話な理屈。
「ごめんなさい。私、あなたとはやっていけそうにないわ」
「えっ……?」
『あなたとはやっていけそうにないわ』
どこかで、遠い昔に聞いた言葉だった。
それは日常の崩壊への引き金だった。
それは友達も両親も、あらゆる日常をありかから奪い去る第一石だった。
おかしい。
なんでだ。
私はただ、マミの両親を助けたかっただけなのに。
マミのためにやったのに。
どうしてマミは、マミのために何かすると去って行ってしまうの?
変だ。おかしい。ありえない。
すたすたと歩き去るマミに手を伸ばし、指を開こうとして――失敗。だらりとゾンビのように手の甲が垂れ下がる。
一歩踏み出そうとして――失敗。ぐにゃりと膝と足首がその役割を放棄し、崩れ落ちる。
『あ……れ……?』
口から出そうとした声は声帯のどこにも引っかからず、声にならない空気の吹き抜けになってひゅうひゅう音を鳴らすだけ。
覚えがある感覚。ずっと前に体感したことのある麻痺。
そして絞めつけられる胸と心臓。
苦しさに呻き、胸を掻き毟ろうとして腕を少しも動かせず――
ありかの精神は暗転した。
――長い、長い夢を見ていた気がする。
――ねぇマミ、どうしてそんな顔するの?
――大丈夫、私は大丈夫だから。
※4/22修正。GSなんてなかった。