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No.25604の一覧
[0] 【完結】魔法少女ありか☆マギカ (まどかマギカ オリ魔法少女ループ)[ネイチャー](2012/03/15 03:28)
[1] 『あの頃に戻りたい』[ネイチャー](2012/01/02 21:38)
[2] 『現実って、摩訶不思議』[ネイチャー](2012/01/02 21:39)
[3] 『うん、わかった。絶対に』[ネイチャー](2012/01/02 21:39)
[4] 『やっぱり私はクズだよ』[ネイチャー](2012/01/02 21:39)
[5] 『まるで亡霊ね』[ネイチャー](2012/01/02 21:39)
[6] 『誰か、私を呼んだ?』[ネイチャー](2012/01/02 21:39)
[7] 『ただいま』[ネイチャー](2012/01/02 21:40)
[8] 『私が守ってあげる』[ネイチャー](2012/01/02 21:40)
[9] 『ごめんなさいでもありがとう』[ネイチャー](2012/01/02 21:40)
[10] 『そう、君は魔法少女になったんだよ!』[ネイチャー](2012/01/02 21:40)
[11] 『ん?』[ネイチャー](2012/01/02 21:40)
[12] 『ようやくおはなしできる』[ネイチャー](2012/01/02 21:40)
[13] 『わたし』[ネイチャー](2012/01/02 21:41)
[14] 『もちろん殺すつもり』[ネイチャー](2012/01/02 21:42)
[15] 最終話『幸せの所在』[ネイチャー](2012/02/12 06:06)
[16] ――ARiKa?[ネイチャー](2012/02/09 06:57)
[17] ――ARK[ネイチャー](2012/02/12 06:06)
[18] ――救いの方舟は現在此処に[ネイチャー](2012/03/07 01:29)
[19] ――アリカ・マギカ  (完結)[ネイチャー](2012/03/15 03:28)
[20] あとがき・設定[ネイチャー](2012/03/17 04:54)
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[25604] 『ただいま』
Name: ネイチャー◆3223ff75 ID:d12af934 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/02 21:40
――あなたは、誰?



「たらあああああああああああ!」

金属バットを掲げ、燃え盛る干しぶどう目がけて振り下ろす。内部の液体に浮かんだ細胞片をぶち抜いて、大きく身体をひしゃげさせた。
ごろごろと転がってくる絶叫仮面たちをゴルフ打ちで吹き飛ばす。真芯を叩きつけられた仮面は罅を入れながらブランデーの海にホールインワン。
びりびりと電気を放つウミウシを丸い先端で突いて蝋の地面に叩きつける。断末魔のようにぎらりと激しく輝いてから燃え尽きた。
なるべく最低限の力の入れ方で自重に任せるように殴りつけるも、やはりだんだんと腕が言うことを聞かなくなってくる。
それでも構わずぶん回し、

手からすっぽぬけて飛んでいった。

そして私は、ヤツらの射出された角で串刺しにされた。


バット――不可。殴り倒すだけの腕力がない。

一体二体までなら倒せるが、半永久的に殴れるだけの体力がない。





――いっしょにがんばろう?



「邪魔あ!」

包丁を突き出す。酒で清めて迷信に縋った刃が深々と、毛の生えた緑のトンボを串刺しにした。
返す刃で炎の怪物を切断しようと迫るも、その炎の強さにリーチの短い包丁での一撃を断念して反転。
駆けながら空中に飛んでいるウミウシを切断し、蝋の島から出る苺の飛び石を渡って別の島へ。遠くから飛んできた炎を纏った角を地を転がって避ける。
いい加減眼が慣れ始めた相手の挙動に、それでもなお冷や汗が噴き出る。ゲームやなんかと違い一撃貰えばほぼ終了だ。
いくら殺されることに慣れてようと痛いものは痛いんだから、傷なんて負ったら全力で動けなくなる。ただでさえ身体能力は未来より落ちているのだ、そのような状態で生き延びられるはずもない。
目の前で顎を開く緑トンボにステンレスの刀身を振り下ろし

甲高い音を立てて、折れた刃が飛んでいった。

そして私は、左胸を丸ごと食いちぎられた。



包丁――不可。刃が耐え切れない。

台所に突入して奪取、刃を日本酒で清めたりしてみたが途中で刃筋が立たなくなって使い物にならなくなる。







――はじめまして。




「「なので冬休みに入るにあたりー、皆さん我が校の生徒たちには以下のやくそくごとを守っていただきたいのです。これはなにも君たちの自由を奪おうという意地悪ではなく、あくまで校長先生がきみたちに元気で健やかに冬休みを過ごし、新年もまたはつらつとした姿で私たちの目の前に現れてくれるよう――」」

もう耳にたこができるほど繰り返し聞いた校長先生の話に、ありかがタイミングを合わせて唱和する。
前後から音の違う同一内容のお説教が聞こえてきたマミがぎょっとしながら振り向くが、ありかは眉ひとつ動かさない。

ただただ校長の話を、テンポを合わせて同時に唱えるのみ。

――ありかが3ケタ代も中盤に差し掛かるほどの回数聴いた、努力の結晶だ。

ありかにとってみれば、気の遠くなるほど回数を繰り返した世界での、数少ない眼に見える形での成果だ。
無論まったく意味はないが、いい加減前週のありかとは違うということをありか自身が知覚できねば気が狂いそうなのだから仕方ないといえば仕方ない。


「ねえ、どうしたのよ春見さん」

顔を覗き込むマミすら、ありかにとってみればもう何度目かわからない。
そんなときは黙って眼を見返してやれば、何事か悟ってか黙ってもう何も聞かなくなる。これも経験上すでに知っていた。


「まあ、当然だよね……」


純真無垢というか初心というか、ぶっちゃけバカだった頃の春見ありかから、死んで死んで死にまくり、そして父さんも母さんもマミたち巴一家もみんな救ってやろうと決意したありかに変わったのだ。
もはや別人と言っても相違ないだろう。きっと。

――私は、もうあの頃の自分じゃない!

ただ自分の幸せばかりを考えて、自己中心的に自分だけ平穏であればいいと逃げていた弱い春見ありかなどでは断じてない。
例え命を何度投げ捨てようと戦い、みんなの幸せを守る。周りの他人が幸せであるよう祈り、願い続ける。

此処に居るのはそんなありかだ。



だからありかは、今日も戦いの刻を迎えることになる。

逃げようにも何度だって目の前に戻されるし、それならいっそ戦い続けて、奴らをボコボコにしてしまったほうがよっぽどいい。





数周前から、ありかは本気でオカルトに頼ることを考え始めた。
塩に、清酒、銀、そしてパワーストーン。

結果としてそれは大成功を収めたと言っても過言ではない。


――右に構えた水晶でぶん殴る。

誰が落としたのかは知らないが、落とした人さまさまだ。キスぐらいまでならしてあげてもよろしく思えてくるほど感謝している。
丁度良く突き出た突起に紐を結わえられ即席の武器として振り回される卵型の水晶は、鋭く奴らの側面に突き刺さった。

パワーストーンで殴られた、干しぶどうは千切れて中から吹き飛ぶ。ウミウシは塵へと分解される。仮面は砕けて破片になって島に溶ける。

こと、労力に対するバケモノへの打撃力の効率は今まで扱ってきたどんな鈍器をも凌ぐ。それどころか下手をしなくとも刃物すら上回った。

目端に映る角に気づき、飛んできたそれにタイミングを合わせて側面から水晶を打ち付ける――霧散。
足元走る仮面をサッカーボールみたいに蹴って掬い上げ、角を打ち落とした慣性を脇で一回転させて殺してからぶん殴る――粉砕。


軽くて扱いやすく、かつ奴らを殺しきることができる武器に気づいたことによってありかの戦線は一気に色を取り戻したのだ。


「これでも……喰らいなさい!」

体勢を低くしたまま蝋の大地を踏みしめ、バケモノが十数体集まっている所へ突撃する。
身体の脇でぶんぶんと水晶を回転させたまま集団に分け入り、思いっきり薙ぎ払った。

数体がまとめて塵になる。

――もういっちょ!

そのまま勢いに乗って水晶の起動を縦に変え、目の前に居るヤツを殴り倒した。
半円を描いて戻ってきた水晶を今度は斜めに軌道変更、側方へ踏み込みながら――

視界の端に、こちらへ突っ込んでくるウミウシが見えた。

しかしもう軌道の変更は無理だ。構わずに側方の連中を薙ぎ払ってから、手元に水晶を引き戻し――


――腕にぴとりと貼りついた、ぬめっとした冷たい感覚が一瞬で灼熱感に変わり、意識が吹き飛んだ。










――ねぇ、どうしたの? どこか痛いの?






「「なので冬休みに入るにあたりー、皆さん我が校の生徒たちには以下のやくそくごとを守っていただきたいのです。これはなにも君たちの自由を奪おうという意地悪ではなく、あくまで校長先生がきみたちに元気で健やかに冬休みを過ごし、新年もまたはつらつとした姿で私たちの目の前に現れてくれるよう――」」

いい加減聞いた回数が千の位に繰り上がりそうになるほど繰り返せば、いい加減声のトーンすら覚えてくる。そして、校長がどのような発生方法をとっているかも研究できるというものだ。
ありかはもはや、完璧だった。

「「知らない人にはついていってはいけません。あなたたちは目がキラキラと輝いていて、実に素晴らしい子供たちです。我が校の誇りです。ですから、かわいいからと怪しい人がよからぬことを企んで寄ってくるのも理解出来ない話では――」」

完璧なトレースであった。完璧な校長ボイスによる、完全なステレオ音声であった。
毎回微妙に違う校長の間の取り方すら、列の後ろのほうから肩とお腹、それから目線を見るだけで全てが手に取るようにわかる。
長年付き合った親友同士でもこうは合うまいというほどに、一方的にありかは校長のすべての動作に深い理解を示していた。

もはやありかのその動きは、完璧に校長だった。

ひょっとしたら、校長がありかだったのかも知れない。

全宇宙が始まったとき、ありかは校長と同化し、あらたなる校長の説教を継ぐものとして担い手になることを義務付けられていたのかも知れない。


――無論、そんなわけはない。


だが、それほどまでにそれは芸術的だった。ステレオ音声と化し、完全に溶け込んでいたのだ。

「春見さん……あなたは一体何をしているのかしら?」

「魂の結晶よ」

マミが顔を引き攣らせるのも当然だろう。さっきまで寝ていた親友が起きたと思ったら示し合わせたかのように校長と説教を合わせるのだ。
そのようなことが人間にできる技だろうか。否、明らかに尋常ではない。というかアホだ。

しかし傍から見ればアホではあっても、ありかにとってはもはや譲れないライフワーク。
一度生き返ったら一説教をサラウンド。そのあとはマミとふざけるなり他の友達と談笑するなりしばらくのびのびと過ごし、その後は家に帰ってご飯。
いい加減味にも飽きてくるが、そのへんはもうどうしようもない。一回、飽きたのでマヨネーズをしこたまかけて食べてみたこともあったが、怒られて武器の準備時間が削られた上に油っこくて別に美味しいわけでもなかったのでやめにした。
味に飽きたという理由で丸腰で奴らに相対、素手で倒せるのが仮面のバケモノしかなくて、仮面を蹴り飛ばして逃げ続けた末に足に力が入らなくなって崩れて死亡、なんて情けない回もあったものだ。

だからありかは、いつもどおりに脂っこいチキンを噛みしめ、あさりが入っているチャウダーをすすり、カリカリのガーリックトーストを胃に流し込む。

戦闘継続時間が少しでも伸ばすためにも腹ごしらえはしておくべきなため、食べないなどという愚は犯さない。
半ば義務のようなものながらも腹八分目までいただき、水を汲みに行くふりをして台所へと席をたつ。

その中でまず日本酒を取り出し、滅多に使わない肉切り包丁と使い古しの万能包丁に適当に振りかける。
あまり変わらないような気もするが、しないよりは心なしかバケモノを殺しやすい気もするのでおまじない程度だと思ってこのプロセスは欠かさない。
そうして肉切り包丁を腰に下げ、万能包丁を左手に、ちょっと濁った気がする水晶に繋がった紐を右手に持ったところで世界が切り替わる。


ちかちかと天井が裂け、床が割れ、サブリミナルに移り変わる感覚にはもう何の感慨もわかない。



「もう、いい加減殺されてなんかやらないんだから!」

奴らとの戦いで生残るのは、慣れてみると意外と簡単だった。
死なない戦いの秘訣は、下手に退くよりも相手の鼻先で踊って見せることだ。
もうやめてしまったとはいえ剣道でもそうだったが、変に気圧されて逃げるよりも案外思い切って突っ込んだほうが安全なものだ。

背後から飛んできた燃え盛る角を、炎に怯むこと無く舞うように一回転し手に持った包丁の柄で払いのけ、そのまま撃ち出したヤツを無視して前へと駆ける。

最低限の時間ならば炎に触れても火傷はしない。それを利用してなるべく最小限の消耗で連中唯一の投擲武器をいなして、前回覚えた順路で蝋の島を駆け抜ける。
バケモノを無視して進むのは、今回の目標は奴らの殲滅ではないからだ。


――この数周で気づいたことだが、この世界にはちゃんと座標があるらしい。

ブランデーの海に浮かぶ蝋の浮島が大地になり、少しの水路を飛び越えればすぐまた別の島がそこにある。
端の島まで来たかと思えば、その上にちかちかとがめつく輝く結晶体でできた飛び石が宙に浮き、どこかに繋がっているのだ。

それを飛び移って進んでいけば、白とショッキングピンクの目に痛いしましまで飾り付けられた、ありかの高校生の頃の身長の十倍はありそうな馬鹿でかい扉がある。
前回は遠くから見える扉を頼りに、探検がてら道を探しバケモノを殲滅しながら扉の寸前まで進んだ。
だが結局疲れが溜まっていたせいで、扉の前にいた連中の密集部隊と戦っている間に力尽きて殺された。


よって今回はなるべく体力を温存し、記憶していた道から最短ルートを考えて扉の前まで辿り着く。

例によって扉の前では、バケモノたちが数十体ほどひしめいてぼうぼう燃えていたいた。
毎回毎回、ぼうぼうと自分の体燃やしてご苦労なことだ。

取り留めもないことを考えながらも、自然体で連中の間に分け入る。

まずは右手に持った水晶での薙ぎ払い。手元の一振りだけで十体近くがはじけ飛ぶ。
その大きく縁を描こうとする弧の間隙を掻い潜って飛来するは空飛ぶ電気ウミウシ。これは左手の万能包丁で串刺しにし、そのまま振り捨てながら他のバケモノを水晶で薙ぎ払う。

そうやって旋風のようにありかが蹂躙した後は、もうバケモノは一体も残っていなかった。

しかし、扉をゆっくり調べたり、果てはピッキングまで試すにはこいつらを残しておくと都合が悪いかと思い殲滅したが、どうやらその必要性は薄かったようだ。


――ごがががが。


お腹を震わせるような重い音を立てて、ショッキングピンクが真紅に変色し、扉が部屋の向こうへと開き始めたからだ。

「防犯意識のかけらもない無用心っぷりだね。いいよ、乗ってあげる」

誘っているのだろう。向こうはにやついた唇の描かれたベールに包まれて見えないが、どうせ次の部屋に行ったらこの狂った世界から開放してあげますおめでとうなんて言うはずない。
だったら行って蹂躙するまでだ。どこまで続くかは知らないが、例え無限に近い距離があろうとも、それが有限であるのならばいくらだって奥まで進んでやる。

「それにしても敵を全員倒したら開く扉とか……、RPGのダンジョンかなんかかっつーの」

まあ、ありかとて分かりやすいのは嫌いじゃない。
いい加減最適な解がわかってきているせいで大分小難しい事に手を出すようになってきてしまっているが、本来はシンプルに行くのが好きな性分だ。
実際に複雑な事情に直面してしまうとどうすればいいのかわからなくなって閉塞してしまうものの、眼の前に敵がいてどれだけ失敗しようとも最終的にそいつらを倒せなどというのは得意分野だ。



唇のヴェールをくぐると、そこには巨人がいた。

――否、正確に言えば人ではない。
薄暗い部屋を色とりどりの光を放つ歯車が照らし出す光景は実に派手だ。
その部屋の主は光の中で、それを誇るかのようにふんぞり返る。
そいつはガラスみたいにてらりとした光沢をした透明なヒトガタで、顔に黒いしわしわの複眼を貼り付けてそこに居座っていた。身の丈5mはある透明な肉体が壁際の光を照り返し、色とりどりに輝いている。
ここまで部屋と身体が相乗効果を生み出していると、そもそも部屋自体がこのヒトガタを美しく見せる為に存在するように思えてすらくる。

そいつは柔らかに、五指をこちらを歓迎するかのように開き、そして足を六本増やしてそのまま足踏みを始める。
人間としての動きをする気がまずないことは明らかだった。

そして突然ぐねりと身体を回しブリッジするように仰け反って、ありかめがけて猛進した。


「はっ、いいじゃない。下手に人間っぽい姿をしてなくてね。思う存分やれるってものよ!」

軽口を叩いて応じるように前に踏み出す。右手に水晶、左手に万能包丁。構えは必要ない、あくまで自然体。
今までの連中とは姿が違うため、どう殺しに来るのかが読めない。だがそれでもありかとて今までの戦いの中で動体視力を大いに伸ばしている。

上半身に構えられた拳の一撃を右に半歩移動して避けつつ、包丁ですれ違うように斬りつけた。
ずぶずぶと沈み込んで掬いあげられたその刃に、手応えは無い。

――この感覚には覚えがある。

このデカブツの手下だったのか、今までの部屋に居た奴らの中の干しぶどう頭の外膜を斬りつけた感覚だ。
炎に巻かれているのは中身そのものではなくその外側の膜のようなもので、それを斬りつけても特に相手に痛手は負わせられない。
そいつらを狙うときは中身をやらなければならない。だがこのデカブツには中身がなく、透明な肉体があるだけだ。

「八方塞がりとかカンベンしてよ……、まあ駄目でも力づくで押し通させて貰うけれどね!」

振り下ろされる、腹から生やした鎌のようなガラス質の腕を包丁の柄で横から殴って軌道をそらし半歩ステップ。
腰の動きをそのまま右手に集め、水晶を相手の胴体目がけて叩きつける。
そこそこの手応えと共に脇腹が抉れるが、すぐにその穴は埋まる。

胴体にも、腕にも特に弱点はない。

確かに目で見たところでも、そいつのその部分は透明で手応えがありそうには見えない。
ありかは槍のように突き出される腕の一撃を次々と左右に捌いて避けながら考える。
どうすれば死ぬかなんて特に思いつかない。けど――

「流石にさ、頭に心臓に股間……」

腹から生えて突き出されたガラスの槍の上に手をついて、そのまま身体を一気に跳ね上げ、相手の胸元を水晶の一撃で粉砕した。
小さい頃は体操を習っていた身の上だ、こちとら持久力がなくとも小学生の頃が身軽さの最盛期。高校生じゃ余分な肉で無理だったであろうこんな動きだってできる。
しかし手応えはない。

「鼻目鎖骨喉肘膝、どれか当たれば死んでくれるよねぇ!」

どこに当たれば死ぬのかわからなければ片っ端から殴り倒す。
どうせそれで力尽きてありかが死んでも、もう一度やりなおせばいい。
ありかの強みは、例え肉体を轢き潰されて死んだとしても平気でリベンジできるということだ。
例えみんなが助かる確立が1%に満たない奇跡でも、それが引き起こるまでありか自身が繰り返せばただの必然へと引き摺り下ろせる。

奇跡を必然に。

そのためならばどんな闇でも振り払ってしまえる。

ありかは左腕が変化した槍を掻い潜り、デカブツの足元へ転がり込んだ。

今度は八本あるうちの三本ほどまとめて膝を薙ぎ払って破壊し、同時にもう一本を肉切り包丁で引き裂く。――手応えなし。
一瞬体勢を崩しかけたデカブツのやや下りてきた鎖骨めがけて水晶をぶん回す。――手応えなし。
危機感でも覚えたのか、取り付くありかを引き剥がそうと振り上げた右腕に繋がる肩を粉砕する。――手応えなし。
次々と潰される攻撃に焦れたか腹から杭を伸ばすが、その上に踏み込んで登り首に一撃。――手応えなし。
首が吹き飛んで大きく傾いだ頭の複眼から青い炎が噴射される。流石に少し驚いたものの足の下に潜り込んで背後から頭蓋を打撃。――手応えあり。

にやり、とありかは口端を歪めた。

そういえば全面透き通ったボディの中で唯一色を持っていたのは頭についた複眼だった。
4mちょっとの高さにあるため狙いにくくはあったが、少し考えれば狙うべきはそこだとすぐにわかってしまう。


『GYKWYYYVPHYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!』

ぐるりと頭が180度反転してこちらに向き直ると、天井へ向かってガラスをひっかくような咆哮を上げる。
脳髄を焼き切るような騒音に耳を塞ぎたい衝動に駆られるが、ありかはそれを無視した。今武器を手放すなんてことはしたくないのだ。

脳の伝えてくる鈍い痛みに耐えていると、ここにきてデカブツが突如吠え始めた意味を知った。
――囲まれている。仲間を呼ばれた。
どこに潜んでいたのやら、ウミウシのバケモノが周りにぞくぞくと現れてありかをずらりと囲んでいた。

タイマンでやる気はなかった。今までは遊びのつもりだったから一対一を許してやっていたといったところか。

ならばそれはそれで構わない。ありかは危機を逆に笑い飛ばす。
どれだけ相手が物量を投じようが――


「私を消せると思うなよっ!」


バケモノの手下どもにはかまわず、ありかは駆けだした。
思えば今まで殺してきたのは小物しかいなかった。その中で、小さいのを呼び出したりと親玉のような働きをするこのデカブツを倒せば何か事態が好転するのではないかとありかは希望を抱いた。


腕を駆け上がり複眼に一撃。背中から伸ばされる刃腕の側面を蹴り飛ばしながらもう一撃。


青く輝き炎を吐く予兆を見せた眼に一撃。悶えながら伸ばされた左腕に跳び乗って一撃。


3本ほど腹部から増えた腕を根元に入り込んで避けながら一撃、外から飛んできたウミウシを肉切り包丁で刺し殺しながら一撃、


跳びながら一撃、乗りながら一撃、やられる前に一撃風のように一撃舞うように一撃――


―― 一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃!!



一回で駄目なら二回やれ。
二回で駄目なら百でも千でもやってやれ。

これがループの中で身につけたありかの真骨頂だ。

一撃入れるごとに目に見えてデカブツは弱っていく。
悶えて増やした腕も崩れ去り、下半身はブランデーの雫になって蒸発し、もう腕も右一本しか残っていない。


「これで……終わりぃ!」


水晶を思いっきり頭上で一回転させてからくす玉大の頭部に叩きつけると、そいつはガラスが割れるような断末魔を上げて蒸発していった。
同時に水晶が輝きを強め、光を照り返してきらきらと輝いてみせた。

初めて見たときの体育館の中での輝きを覚えている。
ループを繰り返すごとに濁りを強めたそれが、初めて見たときの輝き以上に綺麗に見えた。

「きれい……」

風のくり抜かれたような臭いのする色彩の狂った電飾の世界がほつれ、さぼてんとクリスマスツリーの共存する我が家のリビングへと戻っていく中で見た水晶の美しさに、自然とため息をつく。
こんなもの、別にそこまで珍しかったわけでもない。
単純にきらきら光る物くらい高校生の頃に割と見慣れているのだからそこまで気にする必要も見られない。

それでも、なんとなく惹かれてしまった。きれいだと思ってしまった。

目の前で机に突っ伏してすやすやとやすらかな寝息を立てている父さんと母さんを見たときの、勝利の美酒とでもいうやつだろうか。

「父さん、母さん……」

よく考えて見れば、最初の一回以降は家に帰ってきたのは身体だけで、心は別の方向へ向いていた。
家庭に帰ってきてなどいなかった。
だから、改めてもう一回言っておくべき言葉は……


「ただいま」


この一言だった。







私はやっと、日常に帰ってきたのだった。





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