「ほう。サンジとゼフにはそんな馴れ初めがあったのか」
「馴れ初めって言うか、腐れ縁だけどね」
「フフ、それでも縁は縁だ。大切にすべきだな」
「…ああ、カリギュラちゃんの微笑み…なんて美しいんだ。その美しさの前には、君が人喰いの化物だってことなんて、おれには何の障害にもならない!」
「…はあ」
ナミを追う船の上で、新たな仲間となったサンジに私のことを全て話した。サンジも自分のことを話した上で、私のことを受け入れてくれたようだ。サンジともうまくやっていけそうだな。…ただ、女好きなところは少々問題だが。
この件はもういいとして、次に問題なのが―――
「…ヨサク、お前いつまで泣いてるつもりだ?」
「だっで、感動じたんでやんず!天晴れな別れでやんした。コックの兄貴!」
サンジとコック達の別れに感動したヨサクは、バラティエが完全に見えなくなっても顔をグシャグシャにして泣いていた。
「…お前、ちゃんと進路あってんだろうな?」
「お前だけが頼りなんだ。しっかりしてくれ、ヨサク」
私とサンジの心配をよそに、ルフィは船首に座り込んで伸びをしている。
「あー早くナミを連れ戻してグランドラインに行きてぇな!」
「しかし、ナミさんを入れてもまだ6人だろ?本当にグランドラインに行く気か?海を嘗めて掛かると痛い目に遭うぜ?」
サンジの懸念も最もだが…
「仲間集めならグランドラインでも出来るさ!なんたって『楽園』だもんなー」
我らが船長はそんなことを気にはしない。
「楽園?『海賊の墓場』だろ?」
「レストランを出る前にオーナーのおっさんに教えてもらったんだ。グランドラインを楽園と呼ぶ奴らもいるんだと」
しししし!と笑うルフィ。
「あのゼフがか。ならば、信頼できそうだな」
「クソジジイがそんなことをねぇ…まあ、おれはカリギュラちゃんとナミさんがいれば例え3人でも―――」
「甘すぎるっす姐さん達!」
突然、ヨサクが会話を遮った。
「大体、姐さん達はグランドラインを知らなすぎる!今回だって、ゾロの兄貴達にその辺の知識があれば、ナミの姉貴の向かった先が、どんなに恐ろしい奴の元か理解できて、あっし達と一緒に引き返してきたはずなんですから!」
「メシにすっか」
「そうしよう!」
が、そんなことを聞く船長とコックではない。
「そこになおれ!」
「ルフィにサンジ、折角ヨサクが頑張って説明してくれんだ。座って聞いておけ」
「はーい!カリギュラちゃーん!」
「えー、メシー!」
「うるせぇ!カリギュラちゃんの言うことが最優先だ!」
「…さあ、続きを頼む」
「へ、へい!」
ルフィ達を着席させると、ヨサクに話の続きを促す。
「これから行く場所について話す前に、言っておくことがありやす。そもそもグランドラインが海賊の墓場と呼ばれるのは君臨する3大勢力の所為だと思いやす」
「それは、『海軍本部』、『四皇』、『王下七武海』のことか?」
名前だけはカヤの屋敷の書物に載っていたのだが、極秘情報だとかで、詳しい情報は載っていなかった。
「おお、カリギュラ姐さんはさすがですね。その通りです。今回関係があるのは『王下七武海』です」
「シチブカイ?」
ルフィが首をかしげる。
「簡単に言えば、世界政府公認の7人の海賊達です」
「なんだそりゃ。何で海賊が政府に認められるんだよ」
サンジの疑問も最もだ。海賊と政府。完璧に敵対関係にありそうなものだが…
「七武海は未開の地や他の海賊を略奪のカモとし、収穫の何割かを政府に納めることで、海賊行為を許された海賊たちなんでやす」
「なんだそれは。海賊と言うより、政府の狗だな」
「カリギュラ姐さんの言うとおりです。しかし、奴らは強い!何を隠そう、ゾロの兄貴を打ち負かした鷹の目のミホークも七武海の一角を担う男なんです!」
「ウォー!すっげーーーー!カリギュラが傷をつけるのが精一杯だったような奴があと6人もいんのか!シチブカイすげーーー!」
「そうです、カリギュラ姐さんでも傷をつけるのが精一杯…ってエエェェェェェェェェッ!!」
ヨサクの目玉が飛び出した。…これが人体の神秘と言うやつか?
「あ、あの鷹の目の男に傷をつけたんですか!?」
「ああ。ただ、私は心臓を串刺しにされたけどな。割に合わんよ」
「いや、あの男に傷をつけるだなんて、もはや人間業じゃ…って!心臓を串刺し!?何で生きてるんですか!?」
「再生した」
「「「………」」」
…何だ、その視線は。
「…もう、いいです。カリギュラ姐さんの無茶苦茶具合には驚くのも疲れました」
「…私はそこまで言われるような存在か?」
「うん」
「カリギュラちゃん、ごめん、否定できない」
…ちょっと傷ついた。
「と、とにかく!話を戻しやすが、問題はその七武海の一人、『魚人海賊団』の頭“海侠のジンベエ”!」
魚人、か…
「確か、人間と魚が融合したような特性を持つ少数種族だったか」
「魚人かー、おれまだ遭ったことねぇな」
「魚人と言やぁ、グランドラインの魚人島は名スポットなんだろ?世にも美しい人魚達がいると聞くぜ」
魚人に対する思い思いの感想を述べる。
そんな私達に、ヨサクは真剣な顔で話を続ける。
「ジンベエは七武海加盟と引き換えに、とんでもねぇ奴をイーストブルーに解き放っちまいやがった」
「こういいのかな?」
「だっはっはっは!何描いてんだよ、新種のモンスターか!?」
「これが魚人…ある意味恐怖だ」
勿論、誰も聞いていない。
「あんたらには集中力ってもんがねぇのか!それと、カリギュラ姐さん!そんな魚に手足が生えた生物じゃないですよ、魚人は!」
「ち、違うのか…!?」
「カリギュラ姐さんは物知りなのに、ところどころ天然ですよね…」
…そうか?
「まあ、ややこしい戦いの歴史はすっ飛ばして、これから行く場所の説明をします。今、あっしらが向かっているのは、『アーロンパーク』!かつて七武海ジンベエと肩を並べた魚人の海賊『アーロン』が支配する土地です!個人の実力なら、首領・クリークを凌ぎます!」
「なるほど、ヨサクの言いたいことはよくわかった」
「わかっていただけやしたか!」
「アーロンとかいう奴のネーミングセンスが最悪だということだな」
「違ぇッ!」
え、違うのか?
「だがな、自分の支配する土地に名前入れるのはちょっと…」
「だから、そこじゃねぇっつってんでしょ!?個人の実力がクリークを凌ぐってことです!」
私はそのクリークとかいう奴を裏拳一発で沈めたんだが…
「ハハハ、カリギュラちゃんは強気だね。それよりお前途中で引き返してきたんだろ?何でナミさんがアーロンパークへ行ったってわかったんだ?」
サンジの疑問も最もだ。同じ方向の別の場所へ向かった可能性も否定できない。
「あっしとジョニーに心当たりがありやしてね。あっしたちが賞金首のリストをばらまいた時、ナミの姉貴はアーロンの手配書をじっと見つめていやした。それから少々様子がおかしくなりやして…後日、あっしらが、アーロン一味がまた暴れだしたことを話した直後、ナミの姉貴は船を奪ったんです。そして、この方角から予測するに…」
「まず間違いなく、アーロンパークが目的地だと考えたわけだな」
「へい、その通りです。きっと、何か因縁が…」
「なあサンジ、これでどうだ?」
当然、ルフィにこんな長い話が聞けるはずもなく、黙々と描いていた魚人(偽)の絵をサンジに見せていた。
「なんだそりゃ。さっきの魚を立たせただけじゃねぇか。しかし、ナミさんその魚人に何の用だろうなぁ。もしかして、彼女は人魚だったりして…」
「え…?」
人魚ナミ(ルフィ画)爆誕。
「ぶっ殺すぞテメェ!」
「あんたらあっしの話を理解したんですか?」
「ん?強い魚人がいるってことだろ?」
「わかってやせんね!大体、強さをわかってねぇ!」
「そんなもん、着けばわかるだろ」
「そうそう。そんとき考えりゃいい」
「あっしの話全部無駄!?」
何か漫才を見ている気分になってきた。
…腹減ったな。
「まあ、ここで気をもんでいても仕方がなかろう。それよりサンジ、腹が減った。飯にしよう」
「丁度おれもそう思ったとこだよ。さて、何が食いたい?」
「骨付いた肉のヤツ!」
「あっしはモヤシ炒め!」
「人肉の香草焼き」
「おし、骨付き肉とモヤシ炒めと人肉の香そ―――え?」
「ちょ、カリギュラ姐さん!?」
サンジとヨサクがまじまじと私を見つめる。
…ああ、そうか。
「すまん。材料を渡し忘れたな。食材庫に布に包んであるから持ってくる。今取ってくるから少し待て」
ちなみに、産地はクリーク海賊団だ。
「いや、違うよ。おれが言いたいのはそういうことじゃないの」
「そうっすよ!」
「安心しろ。私の料理専用の調理器具や食器はすでに用意してある。さすがに、お前達のと共有するのは不味いからな」
うむ、完璧だ。
「だから違ぇって言ってんでしょうが!サンジの兄貴も言ってやってください!」
「…カリギュラちゃん、すまない。さすがのおれも人間を材料に使った料理は知らないんだ。コックとして、中途半端な料理を出すわけにはいかない。ごめんね」
「否定する場所が違ぇ!まずは食人を否定しやしょうよ!?」
そういえば、ヨサクには私のことを話していなかったな。
「ヨサク、ちょっと話がある」
「はい?」
手短にヨサクに私のことを話した。
「し、信じがたい話でやすね…」
「まあ、普通はそうだろうな。だが、事実だ。信じる信じないはお前の自由だ。サンジ、とりあえず、私は血の滴るレアステーキでいい」
「OK。あと、カリギュラちゃんが持ってきた食料、腐る前に何とかしてね」
「わかった。勿体ないから、前菜代わりに喰ってくる」
「…この人達は、なんでこんな異常な会話を自然に続けられるんだ…」
「まあ、カリギュラは仲間だし、良い奴だからな」
ニシシとルフィが笑った。
しかし、良く考えると、さすがにサンジに同族を調理させるのもな…
いっそ、自分で料理するべきか……となれば、今度サンジに料理のイロハを教えてもらうとしよう。
◆
「うん、美味い」
「美味ぇ美味ぇ!」
「美味いでやす!」
「ハハ、そりゃどうも。カリギュラちゃん、おかわりはいかが?」
「追加で100枚頼む」
「ハハ、カリギュラちゃんは健啖家だね。その豊満なプロポーションが更に素晴らしくなるように、おれも頑張るぜ!」
「…もうお前の反応に慣れてきた自分が嫌だ」
あれからしばらくして、私達はサンジの料理に舌鼓を打っていた。
ズズズズズ…
「ん?何の音ですかね、こりゃ?」
「海中から何かが上がってくるな」
バシャーン!
「…牛か?」
「牛だな」
「でけぇな」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
突如として、海中から牛…?が現れた。
魚と牛の間の子といった姿だ。
「か、海獣だァァァ!」
「正確には海王類の一種だ。妙だな…イーストブルーに海王類はいなかったはずだ」
「でっけー牛だー!」
「牛は泳がねぇだろ。これはカバだ」
「きっとグランドラインの生物っすよ!」
海から現れた海牛は船に顔を近づけると、匂いを嗅ぎだした。
「狙いはこの船のメシ―――」
「死ね、魚類」
「ゴムゴムのピストル!」
私は左腕を原型に戻すと、海牛の顎にアッパーを撃ち込み、同時にルフィが伸びるパンチを打ち込んだ。
「反応早ッ!」
「私達の食料に手を出すこと、それ即ち死と心得よ」
「カッコイイこと言ってるようで、全くカッコ良くないですからね!?」
「ブモォォォォォォォォーーーーー!!」
む、私のアッパーとルフィのパンチを喰らっても倒れないのか。やはり、この姿ではウェイトが足りないか。ならば、次はブースターで加速をつけて―――
「待ってくれ!カリギュラちゃん!」
それをサンジが止める。
「きっとこいつは怪我でもして、エサがとれなくて腹を空かしてるんだ。なあ、そうだろ?」
「………?」
料理を持ったサンジが海牛を見つめるが…
「さあ、食え」
「………(ガバ)」
…サンジごと喰う気満々だな。
「なにさらすんじゃコラァ!」
当然、その前にサンジの蹴りが炸裂し、海牛は蹴り飛ばされた。
「鬼かあんたはッ!」
「あの野郎、おれごと食おうとしやがった!」
「当然の報いだな。私なら生きたまま皮を剥いで、刺身にしているところだ」
「だから、カリギュラ姐さんはどうしてそう言動が一々過激なんでやすか!?」
「ヴォォォォォォォォォォォッォォォォォォォォ!」
サンジの蹴りで怒りが頂点に達した海牛は、私達の船を沈めようと、海面から飛び上がり、こちら目掛けてダイブしてきた。
「来たァ!船を沈める気でやすよ!」
「よし、おれが!」
「待て、おれがトドメを…」
「いや、私がやる」
他の2人の返事を待たずに、私は混成型に変形すると、ブースターを全開にして、海牛へ突っ込む。
激突する直前に、左右のブレードを展開し、首を狙う。
―――斬首一閃
ドシュ!
「グモォォォォ…ォォォ…ォォォ…ォ………!」
鋭いブレードに加え、ブースターの推進力でさらに切れ味を増した刃によって、海牛の首が刎ね跳んだ。
「ヒュー、あんなにデカイ奴の首を刈り取るとはな。やっぱり、カリギュラちゃんには『強さ』っていう美しさもある」
「カリギュラかっけーーーーーー!」
「エエェェェェェェェェッ!!」
この首を刎ねる感触…フフフ、悪くない。
「…うぷ。しばらく肉は食えないっす」
「―――?何でだ?」
「まあ、おれは食材の解体とかで慣れてるけど、素人にはキツイ光景だな」
さて、後は…
「ただいま」
「応!ところでカリギュラ、それ食うか」
「勿論だ」
そのために態々船に海牛の頭と胴体を括りつけたんだからな。
「いや、駄目ですよ、そんな重いもん!船が動かないでしょうが!」
「む…確かに。…仕方ない、ここで急いで喰うから待っていてくれ。お前達の食事が終わるのとそう違わない時間で喰べ終わらせる」
右手を捕喰形態へと移行する。
「うわ!でっかい口!」
「ん?ああ、そういえばこれを見せるは初めてだったな。主に私はこれで獲物を捕喰している。勿論、顔にある口からでも喰えるぞ」
自慢の歯をカチカチと鳴らし、腕の口もウゾウゾと蠢かす。
「…カリギュラ姐さんって、アーロン以上のとんでもねぇお人なんじゃ…」
ヨサクが私のことを茫然と見ている。
まあ、ヒトでは無いな。
「さー、メシの続きだ!」
「イタダキマス…(ガツガツムシャムシャ)」
「ああ…今のカリギュラちゃんの姿、ボディラインがはっきりと見えて…最高!」
「無茶苦茶だ、この人たち…」
「「「ごちそうさまでした」」」
「…あの海牛が骨も残らねぇとは…」
食事が終わって、しばらくすると、前方に島が見え始めた。
「あの島か?」
「あ、はい、そうです」
この程度の距離なら、今の状態でも十分飛べるな。
「よし、ここからは私が船を引っ張ろう。その方が早く着く」
「へ?引っ張るって…?」
「こうするんだ」
私はロープを体に巻きつけ、更に反対側の先端を船に括りつける。
「しっかり摑まっていろ。飛ばすぞ」
「だ、だから、何を言ってるんでやすか?」
ブースター出力最大―――発進!
「ギャァァァァァァァァァァァッ!」
ブースター全開の最大速度で、船は風となった。
「死ぬ死ぬ!この速度で何かにぶつかったら絶対に死ぬゥゥゥッ!」
「うおー!速ぇーーー!」
「これならあと数分で着いちまうな。ああ、カリギュラちゃんの形のいいお尻が眩しくて、気が遠くなりそうだ…」
「なんであんたらはそんな余裕そうなんだァァァッ!?」
しばらくすると、島の岸辺が見えてきたので、ブースターを逆噴射し、急停止する。
「よし、着いた―――」
船が頭上を越えていくのが見えた。
「………」
私の重さ<船の重さ+船と繋がったロープ=吹っ飛ぶ船に引っ張られる私
…慣性のことをすっかり忘れていた。
「みんな、めんご」
「可愛らしく言っても誤魔化されねぇ!むしろイラっときやしたよ!?」
「うほー!空を飛んでるみてぇだ!」
「ぶっ飛んでんだよ馬鹿!あ、カリギュラちゃんを責めてるわけじゃないよ?」
こんなときまでフォローを入れるサンジに、ある種の尊敬の念を抱いた。
「林に突っ込むぞ!」
ダァン!
サンジの言葉通り、船は林に突っ込んだが、上手く着地することが出来た。
着地した瞬間を狙い、私も甲板に足を着け、ロープを切断する。
「なんとか着地出来たな」
「でも、止まりやせんよ!?」
船は林の中の坂をグングンと加速しながら、下っていく。
しばらくして林を抜け、視界が開けた瞬間―――
「ルフィ!?」
「ゾロ!?」
ドォォォォン!
ゾロを轢いた。
◆
「テメェら一体何やってんだ!?」
「ゾロ、お前人間なら今ので死んでおけ」
激突した船がグシャグシャなのに、流血だけで済むのは人間としておかしい。
「開口一番で何言ってんだコラァ!」
「まあ、冗談はこのくらいにしておいて、私達もナミを連れ戻しに追ってきたんだ。そうだろ、ルフィ」
「応!で、ナミはまだ見つかんねぇのか?ジョニーとウソップは?」
「………」
「お前、大丈夫か?」
ヨサクは頭から船の残骸に埋まっていて、ピクリとも動かない。
多分、人間としてはお前が一番正しいと思う。
「―――!そうだ、こんなことしてる場合じゃねぇ!」
「―――?キャプテンに何かあったのか?」
「あの野郎、今、アーロンに捕まってんだ!早く助けねぇと殺さ―――」
「殺されました!」
ゾロの言葉を遮るように、別の方向から叫び声が聞こえた。
「何…!」
「…ジョニー」
「手遅れです…ウソップの兄貴は殺されました!………ナミの姉貴に!」
「「「「!?」」」」
「………」
………
「お前もういっぺん言ってみろ!」
ルフィがジョニーに掴みかかった。
「やめろルフィ!ジョニーには関係ねぇだろ!」
ゾロが宥め様とするが、ルフィは聞かない。
「でたらめ言いやがって!ナミがウソップを殺すわけねぇだろ!おれ達は仲間だぞ!」
「信じたくなきゃ、そうすりゃいいさ、でも、おれはこの目で…!」
「誰が仲間だって?ルフィ」
この声は…
「ナミ…」
「何しに来たの」
………
「何言ってんだ。お前はおれ達の仲間だろう。迎えに来た!」
「大迷惑。仲間?笑わせないで。下らない助け合いの集まりでしょ?」
………
「―――!」
「ナミさ~ん♡おれだよ、覚えてる?一緒に航海しようぜ!」
「テメェは引っ込んでろ!話がややこしくなるんだよ!」
「あんだとコラ!?恋はいつでもハリケーン何だよ!」
ゾロとサンジが小競り合いを始めた。
「言ったでしょう!?この女は魔女なんですよ!隠し財宝のある村を一人占めするために、アーロンにとりいって、平気で人も殺しちまう!こいつは根っから性の腐った外道だったんすよ!姐さん達はずっと騙されてたんだ!この女がウソップの兄貴を刺し殺すのおれはこの目で見た」
「…だったら何?仕返しに私を殺してみる?」
………
「―――!何!?」
「一つ教えておくけど、今、アーロンは“ロロノア・ゾロとその一味”を殺したがってる。ゾロが馬鹿なマネをしたからね。いくらあんた達の化物じみた強さでも、本物の“化物”には敵わない」
………
「そんなことはどうでもいい。ウソップはどこだ?」
「海の底」
「テメェ!いい加減にしろ!」
ナミの返答に、ゾロは激怒し、斬りかかる。
「いい加減にするのはテメェだクソ野郎!」
が、サンジに阻止される。
「剣士って言うのはレディにも手をあげんのか?ロロノア・ゾロ」
「なんだと?何も事情を知らねぇテメェが出しゃばるな!」
「ハッ…屈辱の敗戦の後とあっちゃ、イラつきもするか。しかも、目の前でレディがその相手と互角に戦う姿を見せられちゃあな」
「あァ…!?おい、口にァ気をつけろ。その首飛ばすぞ」
「やってみろ、大怪我人」
「兄貴達、今張り合ってる場合ですか!?この大変な時に!」
見かねたヨサクが止めに入った。
「そういうこと。喧嘩なら島の外でやってくれる?余所者がこれ以上この土地の問題に首突っ込まないで!私があんた達に近づいたのはお金のため。一文無しのあんた達何かに何の魅力もないわ!船なら返すから、航海士見つけて、“ひとつなぎの大秘宝”でもなんでも探しに行けば?」
………
「さっさと出て行け!目障りなのよ!」
………
「さようなら」
「…ナミ」
ナミの罵倒を聞き終わったルフィは、バタリと仰向けに倒れた。
「ル、ルフィの兄貴!?」
「ねる」
「寝るぅ!?この事態に!?こんな道の真ん中で!?」
「島を出る気はねぇし、この島で何が起きてんのかも興味ねぇ。ちょっと眠いからねる」
「ハァ!?」
「―――!」
ルフィの対応に、頭に血が上ったのか、ナミが大声で叫ぶ。
「…勝手にしろ!死んじまえ!」
………
「…なあ、ナミ」
私の声には耳を傾けず、去っていこうとするナミに、更に言葉を続ける。
「何故そんな嘘を吐く」
「―――!」
ナミの足が止まった。
「え、嘘って…?」
ジョニーが呆けたように問う。
「ナミからはキャプテンの血の匂いがしない。ナミはキャプテンにかすり傷一つつけてはいない」
「ち、血の匂いなんて、わかるわけないでしょう!?」
振り返ったナミが私を睨む。
「忘れたのか?私はヒトではない。誰の血か、匂いで判別するくらいの事は出来る」
「―――!」
ナミに動揺が見られる。
「それに、先ほどの罵詈雑言…決して本心からではないだろう?うまく表現できないが、心の底から暴言を吐いていたクロやクリークとは全く様子が違っていた。体温および心拍数も異常なほど高かったぞ」
「―――!黙れ!いいからさっさと出て行け!」
それだけ言うと、ナミは逃げるように去って行った。
「カ、カリギュラ姐さん、さっきのはどうことですか!おれはしっかりとこの目でウソップの兄貴が刺されるのを…!」
「手袋を嵌めていた左手からナミ自身の血の匂いがした。おそらく、キャプテンを刺すふりをして、自分の手を刺したんだろうな。ジョニー、お前はキャプテンに刃が刺さっているとこを直接見たのか?」
「い、いえ。あの女が影になっていて…」
「…まあ、私の予測も確証は無いがな。少なくとも、ナミがキャプテンを殺したと見せかけ、アーロンのマークから外したという可能性も十分にあるということだ」
ジョニーは困惑した表情を浮かべた。
「………でも、やっぱりおれは、あの女を信じられねぇ」
「…ジョニーがそう感じたんなら、あっしはジョニーを信じやす」
「そうか。好きにしろ。私はここでルフィが起きるまで待つ」
私は道端にある木陰に腰を下ろした。
「短ぇ付き合いだったが、おれ達の案内役はここまでだ。みすみすアーロンに殺されたくねぇしな」
「応」
「グゴー…zzz」
「じゃあな」
「ここまでの案内、助かった」
ヨサクとジョニーに別れを告げる。
「じゃ、またいつか会う日まで!」
「兄貴や姐さん達もどうか達者で!」
「お前らもな」
ジョニー達にはナミがキャプテンを助けた確証がないと言ったが、十中八九、助けたのだろう。自分の左手に決して小さくない傷を負って。
更には、演技までして、私達がこの島から出て行かせようとした。私達が死なないように。
…一時でもナミを裏切り者扱いした自分が許せないな。
この罪は、ナミの苦痛の原因を喰い殺すことで償うとしよう。
【コメント】
モーム「私が死んでも(カリブー海賊団の船を引く)代わりはいるもの」