「オーナー!本当に大丈夫なんですか!?血塗れですよ!?」
「大丈夫じゃねぇっつってんだろ!いいから店戻って働け!」
ルフィと共に砲弾の着弾したバラティエ三階に近づくと、すっかり風通しの良くなった部屋の中から、怒鳴り声が聞こえてきた。
「大分お怒りのようだな」
「んー、謝ったら許してくれんかな?」
「対価を要求される可能性は十分にある」
「…まあ、とりあえず行こう」
「了解した」
「しかし、料理長!身体が…!」
「まだ言うかこのボケナスが!いいからさっさと…?」
「な、なんだこの音?まるで調理場の炎みてえな音だ」
「ここは三階だぜ?火の気なんて…」
「―――!お、おい!外を見ろ!」
「あ?外に何が―――!?」
「不躾ながら、空から失礼する。先ほどここに直撃した砲弾について、謝罪を申し入れたい」
「「「「「………び」」」」」
「―――?」
「「「「「美女がサルを抱えて飛んできたーーーーーー!?」」」」」
「え?サル?どこだ?」
ルフィはいつもと変わらず暢気で、少し安心した。
「なるほど、大体の事情は分かった」
目の前の老人が頷く。
老人といってもその眼光は鋭く、覇気に充ち溢れている。特徴は長いコック帽と二つの三つ編みにした長い髭、そして何より、右足の義足。この男がこの水上レストラン『バラティエ』のオーナー兼料理長のゼフとのことだ。
「いやー、最初は足を吹っ飛ばしちまったかもしれないと思って焦った」
「だが、全身打撲だ。このボケナス」
「慰謝料と治療費か…あいにくと今手元に現金がない。近くの町で船にある財宝を金に換えてくるから、それまで待ってくれないだろうか」
「駄目だな。そういって逃げ出して行った奴が山ほどいた。まあ、全員地の果てまで追って金を払わせたがな。現金一括。それ以外認めねぇ」
「そうか…ならば、今の私たちには払える金がない」
「金がねぇんじゃ、働くしかねぇよな」
「そうだな。ちゃんと償うよ」
「ふむ…では、私は誰と寝ればいいんだ?」
「―――あ?」
ゼフが訝しげな声をあげた。
「いや、こういうときの女の労働とは閨と相場が決まっているのではないか?」
少なくと、キャプテンの家のベッドの下にあった本にはそういう描写があった。
「このボケアマ!うちは娼館でも海賊船でもねぇ。レストランなんだ。んなことさせる訳ねえだろうが!」
「だが、部屋の外の男たちはそうでもないみたいだが…」
「―――!フン!」
ドゴン!
ゼフが背後の壁を蹴り破る。
全身打撲かつ義足でこれか…昔はさぞかし名のある男だったに違いない。
「「「「「ギャー!」」」」」
「………テメェら、何してやがる?」
「「「「「い、いや、オーナーのことが心配で…」」」」」
「全員一列に並べ!気合を入れなおすついでにぶっ殺してやる!」
「「「「「た、助けてェェェェェェ!!」」」」」
…死屍累々とはまさにこのことか。
「強ぇな、あのじいさん」
「ああ。両足がそろっていれば、鋼鉄でも蹴り砕けそうだ」
「ふう…話が脱線しちまったな。金がねぇんじゃ仕方ねぇ。うちで雑用1年。そしたら許してやるよ」
「い、一年!?一週間に負けてくれ!」
「なめんじゃねぇ。人の店ぶっ壊して、料理長に怪我までさせて雑用一週間じゃ落とし前がつかねぇよ。かっちり一年間、この店で働いてもらうぜ」
「嫌だ!」
「嫌だじゃねぇ!」
やれやれ、このまま行っても平行線だな。
「わかった。ならばその雑用一年間、私が受けよう」
「!?カリギュラ!」
「ほう、嬢ちゃんがか?言っとくがここはお行儀のいい職場じゃねぇぞ?」
「荒事は慣れている。なんなら、ここで試してもらっても結構だ」
「は、冗談だ。おれだって昔はいっぱしの海賊だったんだ。嬢ちゃんの眼を見れば、大体実力はわかる。いいだろう、このボケナスの代わりに―――」
「おれもやるぞ!雑用!」
「ルフィ?…お前にはグランドラインを制覇し、海賊王になるという夢があるだろう。こんなところで足止めされていいのか?」
「確かにそうだけど、カリギュラが欠けるなんて絶対駄目だ。おれたちは全員そろって麦わらの一味なんだ。誰が欠けてもいけねぇよ」
ルフィ………
「ふん、小僧が吠えるじゃねぇか。よし、二人で『半年間』雑用をやってもらうとしよう」
「了解した。早速仕事内容を説明してくれ」
その後、ルフィと共に雑用の仕事の詳細を聞いた。
ルフィはどうにかして、私たちの雑用期限を一週間にしたかったようだが、そのことを言うたびにゼフの蹴りをくらっていた。
◆
現在、私はバラティエ内の女子更衣室にいる。なぜか中は妙に小奇麗でロッカー等も新品同然だった。
そのことをゼフに尋ねると
「こんな荒くれどもの集まるレストランに、ウェイトレスなんざ来ねぇよ」
とのこと。ならば、なぜ女子更衣室など作ったんだ?
「ふむ、こんなところか」
支給されたウェイトレスの服に『似せた』服を鏡で確認する。
上半身は海兵が着るような白に青いラインが入ったセーラー服風のもので、比較的露出が少ないが、下半身は下着が見えそうなくらい短い白いミニスカート。腰の大きなリボンがチャームポイントだそうだ。まあ、私のこれは外皮を変化させただけのものなので、どんなにきわどい服装でも、結局は全裸と変わらない。長い髪はまとめてポニーテイルと呼ばれる髪型にしてある。
…ちなみに、この服はゼフが直々にデザインしたとのことだ。
更衣室を出ると、前掛けを着けたルフィとゼフと出会った。
…ゼフ、お前全身打撲じゃなかったか?
「お、なんかいつもと感じが違うな」
「まあな。普段は髪をまとめていないし、こんな短いスカートは穿かないからな」
「…グッジョブだ、嬢ちゃん」
いいから部屋帰って寝てろ。
「お、お客様ァーーーーーーー!!」
「ん?なんだこの声は?」
「パティの奴だな。大方サンジの奴がまたなんか問題起こしたんだろ」
「パティとサンジって誰だ?」
「この先の食堂に居るから自分の目で確認しろ。…いつもより騒ぎがでかいな。この分じゃ、おれも行かなきゃならなそうだ」
「フ、半年間、退屈しなさそうだな」
「にひひ!なんか面白くなってきたな」
「退屈してる暇なんかねぇよ。これが海上レストラン『バラティエ』の日常だ。行くぞ、雑用ども」
「応!」
「了解した。オーナーゼフ」
「頭に血が上るんだよォ!テメェみたいなつけ上がった勘違い野郎を見てるとよォ!」
「やめろサンジ!マジで殺しちまう!」
「テメェがどんだけ偉いんだ!?」
「ヒィ…!」
ふむ、なかなかの修羅場だな。あのくわえ煙草の黒スーツの男がサンジか?
…よく見れば、ボコボコにされてるのは海軍大尉のフルボディか。
「あ、オーナー!サンジを止めてください!」
「チッ…おい、サンジ!テメェまた店で暴れてやがんのか!」
ゼフがサンジのところに向かったのを確認してから、フルボディのところへ向かう。
「ク、クソ、何だこのレストランは!?柄の悪さが尋常じゃねぇ…海賊船かここは!グ…マ、マジでこの傷はヤべぇ…は、早く止血しねぇと」
「その必要はない」
「へ?―――!お前、さっきの海ぞゴァ!」
左手だけを原型に戻し、貫手でフルボディの心臓を貫いた―――
―――はずだった。
「ルフィ、何故邪魔をする」
ルフィが直前で私の左手をはじいたので、狙いがそれ、貫手はフルボディの腹部に突き刺さった。
「怒んのはわかるけどよ、そこまでやることはねぇ。誰も怪我はしなかったし」
「私たちがここで雑用をする羽目にはなったがな」
「お前って結構根にもつのな」
仲間が危機に曝されたんだ。当然のことだろう。
「いでぇ、いでぇよォ…!」
「ククク…まるで豚の悲鳴だな。海軍大尉殿?」
「…もう一度言うけど、お前ホント根にもつタイプだな」
「って、お、お客様がさらにヤバいことにーーーー!おいテメェら、一体何もんだ!?」
向こうでの騒動が一段落したのか、坊主頭に鉢巻きを巻いたの男がこちらへやってきた。
廊下で聞いたのと同じ声だな、こいつがパティだろう。
「「今日からここで働くことになった雑用」」
私は左手を人間に戻し、フルボディの血をぺロリと舐めて答える。これはアラガミの時からの癖だ。
「そっちの女はどう見ても雑用じゃねぇよ!殺し屋って言われた方がまだ納得できるわッ!?」
失敬な。
「オーナーに訊いてみろ。今日からウェイトレスをやるカリギュラだ」
「雑用のルフィだ」
「オ、オーナー!本当ですか!?」
「ああ、これから半年間この店で雑用をやる―――」
「ああッ!カリギュラちゃんっていうんだね!」
ゼフの説明を遮るように、先ほどの黒スーツの男が話しかけてきた。
「僕の名前はサンジ!このレストランの副料理長で、君の上司さ!さあ、手取り足とり腰とり、丁寧に優しく仕事を教えてあげるよ!」
「それには及ばない。先ほどオーナーから一通りの仕事の説明は受けた。後は実行に移すだけだ」
「グ…!ジジイめ、余計なことを」
「あ、おれはあんまわかんなかったから教えてくれよ」
「野郎に教える義理はねぇ!」
…典型的な女好き。今まで周りにいなかったタイプだな。
「フ、フルボディ大尉!」
いきなりレストランの入り口から海兵が飛び込んできた。おそらく、フルボディの部下だろう。
「も、申し訳ございません!船の檻から、逃げられました!我々7人がかりで捕まえた、海賊クリークの手下を逃がしてしまいました!」
「ば、馬鹿な!奴にそんな体力は無いはずだ!3日前に捕まえたときにはすでに餓死寸前だったんだぞ!?それから水一滴だって与えてねぇはずだ!」
おいおい、普通の人間にそんなことしたら確実に死ぬぞ。
「ク、クリーク…?東の海(イーストブルー)最強といわれるクリーク海賊団のことか!?」
店内の客が騒ぎ始める。
ふむ、それが本当なら、捕喰する価値がありそうだ。
「も、申し訳―――」
ドン!
銃声が一つ。倒れたのは海兵。後ろに立つは血濡れのバンダナを着けた男。
「キャー!」
「う、撃たれたぞ!」
たちまち店内が騒がしくなる。
「『お客様』一名入りました」
「やれやれ、本当に退屈しないな」
「ふん、おれが嘘を吐いたとでも思っていたか?」
「あいつ海賊か?」
「はあ…この状況でも眉一つ動かさないカリギュラちゃん、美しい…」
海兵を撃った男はドカドカと店内に上がり、中央の開いていた席にドカっと腰かけた。
「おし、雑用ども。おれが接客の手本を見せてやる」
「いや、私が行こう。ちょうどいい練習になる。お前は…パティであってるか?」
「あ?ああ、おれはパティであってるぞ。あれ、おれ名乗ったか?」
「オーナーから聞いた。とりあえず、行ってくる。お客様がお待ちだ」
「あ、おい!いくらオメェでも相手が―――」
なおも引き留めようとするパティを振り切り、クリークの手下という男の席に近寄る。
「あ、あのウェイトレス、殺されるぞ…!」
レストランの客の誰かがそう呟いたのが聞こえた。
「いらっしゃいませ、お客様」
「一度しか言わねぇから良く聞け。おれは客だ。食い物を持ってこい」
「お客様、失礼ですが、代金のお支払いは大丈夫でしょうか?」
「―――!」
どうやら、私の慇懃無礼な態度にカチンと来たようだ。
「鉛玉でいいか?」
銃口を私の口元に突き付けてきた。
ふむ、金は無いか、ならば、ゼフに言われたとおりに対処しよう。
ガブリ…ゴリゴリ…
「―――!?な…!」
「…不味いな。碌な銃ではない」
「あ、あの雑用、銃を食いやがった!」
弾倉の金属も大分劣化している。いつ弾けてもおかしくないボロ具合だった
「『金が払えなければ客ではない』というのがここのマニュアルでな。態々海軍の船から脱獄してきてもらって悪いが、失せろ」
男の頭を掴み、そのまま地面に叩きつけた。なお、今回は特に恨みは無いので、腕は人間のままだ。まあ、“床が陥没した”程度だ。死にはすまい。
「お、おお!」
「な、なんなんだあの海賊女は…!?」
「あのアマ、店の床を…!」
「おお、さすがカリギュラ、強ぇなー」
「あ…が…」
うむ、ちゃんと息があるな。このくらいの強さでのしてやれば人間は死なないのか。よく覚えておこう。
「いいぞ!ねぇちゃん!」
「畳んじまえ!雑用!」
やれやれ、危険が無くなった途端これか。調子がいいな。
ギュルルルル…
「腹の虫が鳴いているな。空腹の辛さは私も理解しているが、それはそれだ。さっさと出て行ってもらおう」
「グ…嘗めんな!」
男はなおも食ってかかってきた。
…仕方ないか。
「少し痛いぞ」
「―――ゴゲァ!!」
腹に蹴りを叩きこんでやった。
男はそのままレストランの外へ吹き飛んで行った。…ちょっと力加減を間違えたかもしれない。
「も、もう嫌だ!こんなところに居られるか!」
フルボディが逃げ出そうとしていた。
む、そういえば、奴はまだ会計を済ましていないな。
「お客様」
「ひっ!な、なんだ!?」
「お帰りでしたら、お会計をお願いします。パティ、お客様のお食事の代金を教えてくれ」
「あー…65000ベリーだな」
―――?
(レシートをチラリと見たが、30000ベリーじゃないのか?)
(馬鹿、お客様はお前にビビってんだから、しっかりボッたくれ!)
(了解した)
アイコンタクト終了。
「へ?あのコースは30000ベリーじゃ…」
「お客様、お支払いいただけないのでしたら先ほどの方と同じ「お帰り」となってしまいますが、よろしいですか?」
「は、払う!払うから、もう勘弁してくれェ!」
フルボディは代金を払うと、すぐさま自分の船で逃げ出して行った。
まあ、ルフィの言葉もあったしな。この辺で勘弁してやろう。
「それでは「お客様」方、引き続き、ゆっくりとお食事をお楽しみください」
「かっこよかったぞ!ねぇちゃん!」
「バラティエに新しい名物が出来たな!」
「凛々しくて素敵…」
「よくやった、雑用!」
「美人で気骨もあるウェイトレスか…ようやっとこの男くさい職場にも憩いができたな」
…ちょっと恥ずかしい。
◆
とりあえず、もう昼のオーダーは済んで、コックたちも休憩だということで、自由時間を与えられた。ルフィもその辺でフラフラしていることだろう。
「ん?副料理長、キッチンで何をしているんだ?休憩中だろ?」
キッチンではサンジがピラフを作っていた。
「あ、カリギュラちゃん。いや、まあ、ちょっとね…」
「…あの男にやるのか?」
「…ああ。『腹を空かせた奴には食わせる』。それがおれのコックとしての正義だからな。どう?かっこいいでしょ?」
「フフ…まあ、その回答は保留としよう。実は、私も外に居る男にこっそりと何か喰い物をあげるつもりで来たんだ。…空腹の辛さは身をもって知ってるからな」
まだアラガミであった時、私は常に『飢え』に苛まれ続けてきた。
喰べても喰べても決して癒えることのない飢えと渇き…今にして思えば地獄だった。あの時、今のような自我があったら、とうの昔に狂っていただろう。
今はヒトヒトの実の効果か、ある程度の食事を取れば、それが抑えられるようになった。正直、これが一番この身体になって良かったと思っていることだ。
「そうか、カリギュラちゃんも…意外と修羅場を潜ってるんだね」
「まあな。それより、料理が出来たら私も一緒に行っていいか?あの男に謝罪をしておきたい。仕事とはいえ、大分痛めつけてしまったしな」
「ああ!その義理堅いところも素敵だ!」
「いいから手元を見て料理をしろ」
「面目ねぇ…!もう死ぬかと思った…!こんなうまい飯を食ったのは初めてだ!」
「ほら、そんなにガッつくと喉に詰まらせるぞ。水だ、飲め」
「す、すまねぇ」
「さっきは悪かったな。私はここのオーナーに借りがあってな。ああする以外に対処しようがなかったんだ」
「い、いや、悪いのはおれのほうだ。いきなり銃なんか突き付けちまって…本当にすまなかった」
「気にするな。あの程度の銃など、直撃したところで、かすり傷が付くかどうかだ」
「………銃を食ったことといい、あんた本当に何もんだ?」
「馬鹿、レディにそんな無粋なこと訊くんじゃねぇよ。レディは秘密を着飾って美しくなるもんだ。それを男が毟り取るなんざ、許されねェ」
やれやれ、良くもそんなに歯の浮くようなセリフが出てくるものだ。
「よかったなーお前!メシ食わせてもらえて!」
二階の手すりにルフィがいた。
「ルフィ、どうしたそんなところで」
「カリギュラ、おれは決めたぞ」
「―――?何をだ」
ルフィは私の質問には答えず、サンジに声をかけた。
「おいコック!お前仲間になってくれよ!おれの海賊船のコックに!」
「「あァ…?」」
サンジと男が訝しげな声をあげた。
「ルフィ、それでは言われた方もわけがわからない。きちんと説明しろ」
「えー…おれパス。カリギュラ頼んだ」
やれやれ…
「私から詳しい説明をしよう。少し長くなるが、聞いてくれ」
「はい!カリギュラちゃんのお話なら、何時間でも!」
…本当にこいつでいいのか?
「へぇ、カリギュラちゃんと雑用Aにそんな関係が」
「おい、雑用Aってなんだ。おれにはルフィって名前があるんだ!」
「野郎の名前なんぞ一々覚えてられるか。まあ、とにかくお前らの仲間になるのは断る。おれにはここで働かなきゃいけねぇ理由があるんだ。こればっかりは、カリギュラちゃんの頼みでも聞けないね」
「私は無理強いをするつもりはない。本人が納得しなければ、意味が無いしな」
「ああ!その謙虚なところも最高だよ!」
…いい奴なんだが、話していると疲れる。
「嫌だ!断る!」
「な、何がだ…?」
「お前が断るのを断る!さっきお前がバンダナにメシやってるの見て決めたんだ!お前、いいコックだから一緒に海賊やろう!」
「おいおい、おれの言い分を聞けよ」
「じゃあ、理由って何だ?」
確かに気になるな。三度の飯より女が好きそうな男がこのレストランにこだわる理由が。
「…お前に言う必要はねぇ」
「お前今訊けっていっただろ!?」
「おれが言ったのはおれの意見を聞き入れろってことだ!三枚にオロすぞクソ麦わら野郎!」
「何だと!この麦わらをバカにするとぶっ飛ばすぞ!」
ルフィとサンジはそのまま口喧嘩に突入してしまった。
「はあ、何をやっているんだ」
「…姉さん、あんたも海賊だったんだな」
「ん?ああ、1ヶ月ほど前からな」
「1ヶ月のルーキーであの強さか…底が知れねぇな。そういえば、まだ名乗って無かったな。おれはクリーク海賊団の「ギン」ってもんだ」
「私はカリギュラ。今あそこで副料理長のサンジに蹴りを貰ってるのがルフィ。私が属する海賊団の船長だ」
「あの麦わらさんが船長…おれはてっきりカリギュラさんかと思ってた」
そういえば、フルボディもそんなこと言ってたな。
「ところで、あんたらの海賊団の目的はなんなんだい?」
「―――!おれはワンピースを目指してる!グランドラインへ入るんだ!海賊王になるのがおれの夢だ!」
サンジとド突き合いをしてたルフィが答えた。
ワンピース…“ひとつなぎの大秘宝”。
かつて、海賊王ゴールド・ロジャーが見つけたという伝説の宝。
「―――!」
―――?ギンが何か言いたそうだな。
「…コックを探しているくらいだから、まだあまり人数が揃っちゃいないんだろ?」
「ああ、こいつを入れて6人目だ」
「勝手に頭数に入れんな!」
「あんたらは悪い奴じゃなさそうだから忠告しとくが………グランドラインはやめときな」
仮にもイーストブルーの覇者と言われる海賊団の団員から、グランドラインの恐怖が語られ始めた。
「じゃあな、もう行くよ」
バラティエの買い出し船に乗っているのはギン。サンジの計らいで、買い出し船を使って、海賊団の元へ戻るつもりらしい。
「応!忠告ありがとうな!だけど、おれはグランドラインへ行くぞ!」
「…ああ。もう止めねぇよ。元々、他人のおれに、あんたの意志をどうこうする権利も無いんだ。好きにしな」
そういうと、ギンはサンジの方に向き直った。
「サンジさん…本当にありがとう。あんたは命の恩人だよ。あのメシは最高に美味かった。また、食いに来てもいいか?」
「いつでも来いよ」
「次に来るときはしっかりと金を持ってこい。またお前を蹴りだすのは酷だ。お互いにな」
全員で笑っていると、上から怒鳴り声が落ちてきた。
「コラ!雑用小僧とウェイトレス!そこにいたか!」
「げ!おっさん!」
「!………」
ふと、ゼフはギンが食べて空になったピラフの皿をじっと見つめた。
「行けよ、ギン…」
「ああ、悪いな。怒られるんだろ?おれなんかにただメシ食わせたから」
バリバリ…モグモグ…
「ふむ、この「落ちていた」食器はうまいな」
「…怒られる理由と証拠がねぇ。」
皿を喰った私に、サンジが笑いながらウインクを飛ばしてきた。なかなか様になっていた。
「もう捕まんじゃねぇぞ!」
「じゃあなー!ギーン!」
「お前が無事に仲間の元へたどり着けることを願う」
「おいテメェら!休憩はとっくに終わってんだよ!さっさと働け!」
ギンを送り出した後、ゼフに追い立てられながら、私たちはそれぞれの持ち場へと散って行った。
………イーストブルー最強の海賊団がわけもわからないうちに壊滅、か。
なんとも面白そうな海じゃないか、グランドラインというのは。
【コメント】
タイトルを決めました。正しく読めた方にはカリギュラさんがハグしてくれます。