グロ注意!
色々とバイオレンスな回です。
苦手な方はすぐに引き返してください。
大丈夫だと言う方はこのまま↓へどうぞ。
ギィっとわざとらしく音を立てて入口の扉が少し開く。
扉の外には複数の人間の匂いがするが、誰一人として踏み入ってはこない。
(…背後の窓の傍に人間の匂いが3つか)
なるほど、正面は囮で本命は―――
「もらったァッ!」
―――背後からの奇襲か。
窓の割れる音と共に男の声が聞こえた。
私はソファに凭れかかったまま、首を限界まで逸らし、逆さまに男を見る。
そして、男目掛けて火が付いたままの煙草を吹き出した。
「熱ィ!?」
煙草は見事男の右目を焼いた。
宙に浮いたまま、咄嗟に目を庇った男を、背もたれを軸にして一回転するように蹴り飛ばす。
ゴキリと男の首から鈍い音がして、そのまま向かいの建物に突っ込んで動かなくなった。
私はそのままソファの後ろに着地するとコキコキと首を鳴らす。
「な、何だ!?」
「何か吹っ飛んでったぞ!?」
残りの奇襲組が蹴り飛ばした男に注意を逸らす。
「敵から注意を逸らすとは、余裕だな」
「え?」
「は?」
私は一気に注意を逸らした男達に接近し、両者にブレードを突き刺す。
男達が間抜けな声を上げるのを聞きながら、ブレードを引き抜くと、真っ赤な鮮血が吹き出し、私に降り注ぐ。
髪や衣服に掛かった血液は、まるで乾いた土に水が染み込むかの如く、吸収される。
私を構成するオラクル細胞が、貪欲に捕喰活動を行っている結果だ。
「…不味い。やはり弱者は口に合わんな」
そう呟いた瞬間、入口の扉が勢いよく開かれ、ドタドタと数十人の男女が家の中に入ってきた。
どうやら、奇襲が失敗したのを悟って、物量戦に切り替えたらしい。
人間相手であればある程度有効だろうが、私には悪手だ。
「やっちまえ!」
男の掛け声と共に、一斉射撃が開始された。
私はコートを盾にし、銃弾を受け止める。
「バカが!そんな布切れで銃弾が…?」
一斉射撃が終わっても、私のコートには穴一つない。
このコートも私の一部。つまり、オラクル細胞である。鉛玉程度で傷など付かないどころか、捕喰してしまう。
…物凄く不味いが。
実のところ、身体で受けても問題は無いのだが、僅かながら痛みがある。
アラガミとて、痛覚はある。古代において、あの女にブレードを砕かれた時は本当に痛かった。
「…豆鉄砲以下だな」
「―――!ぶっ殺せーーー!」
陳腐な挑発だが、効果は抜群のようだ。
逆上した襲撃者達は、半数が鈍器や刃物による接近戦、残りが銃での遠距離攻撃を仕掛けてきた。
「やれやれ、いくらなんでもその選択は無いだろう」
私は一番に接近戦を挑んできた男の斬撃をかわし、両腕を斬り落とした。
「ギ―――!?」
男が悲鳴を上げる前に口ごと頭を鷲掴みにして、盾にする。
「―――!!!!!!!!!!!」
憐れ、男は仲間の斬撃、打撃、銃撃を一身に受け、ボロ雑巾になってしまった。
さらに、肉盾から武器を引きはがそうとしている者どもを、肉盾ごとブレードを薙いで真っ二つにする。
「う、うわァァァァッ!!」
仲間が次々と斬り殺されるのを見て、半狂乱に陥ったのか、銃を持った襲撃者達は、銃を乱射し始めた。
私はコートを盾にしながら一気に襲撃者達に接近し、一人の男の首筋に喰らい付いた。
「ギ…ゴボボボボ…!」
私の歯が気道を押しつぶし、破れた動脈から流れ出た血液が男を陸に居ながら溺れさせる。さらに顎に力を込めて、歯を完全に閉じると、ボトリと男の首が床に落ちた。
「フフフ…」
自然と笑みが零れる。ああ、やはり狩りはこうでないとな。
「ば、化物…」
襲撃者の1人がそう呟いた。
「…Yes.I am creature.化物に挑んだ愚か者の末路は語るべくも無し」
「に、逃げ―――!?」
一目散に逃げ出そうとした女の心臓を氷槍が貫く。
女は氷槍が貫いた部分から凍結して行き、全身が凍りつくと、砕け散った。
「貴様等が望んで私に牙を剥いたのだ。今更逃げることは許さん。皆、悉く死ね」
襲撃者達は皆、女だったものの氷片を茫然と見つめている。
「へへ…」
そんな中、ふと1人の男が米神に銃口を当てたかと思うと―――
―――バン
「………ヒヒヒ…」
他の者たちもそれに続く。
―――バン
―――バン
―――バン
―――バン
―――バン
…詰まらん結果だ。
「そこまでだ!この化けモン!」
銃で自らの脳天を撃ち抜いた襲撃者達にため息を付いていると、後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「…ほう、中々気骨のある奴もいたようだな」
振り向くと、キャプテンの長鼻を握り締め、ナイフを持った男が鬼気迫る表情でこちらを睨みつけていた。
私が襲撃者達の自害を眺めている隙に、キャプテンを人質にとったらしい。
「おれは…きゃぷて~んウソップ…zzz」
というより、起きろよ、キャプテン。
「うるせぇ!この長鼻の命が惜しかったら、大人しくしろ!」
「…わかった。私は大人しくしよう。私は、な」
キャプテンが危害を加えられて、奴が大人しくしているはずがない。
「何言ってやがる!」
「取った人質が拙かったな。せめて、そこの麦わらかステキ眉毛にしとけばよかったものを…」
そこまで言って、男の背後に血走った巨大な一眼が見えた。
「…まあ、もう遅いか」
「だから、何言―――」
男はそれ以上言葉を発しない。否、発せない。
なぜならば、たった今、首から上が無くなったからだ。
「グルルルルルル…グルァァァァッ!!!」
男の頭を喰いちぎった物体―――サリーはまだ怒りが収まらないのか、残った首から下に何度も体当たりを繰り返す。
男の身体がただのミンチに変わったころ、ようやくサリーは体当たりをやめた。
「ベッ!」
サリーが口から何かを吐き出す。
近寄って確かめてみると…やはり肉塊。
ふむ、肉は喰わずに骨だけ喰らったようだ。無機質を好むサリーらしい。
…味は悪いが、勿体ないので処理しておく。
「フーッ!フーッ!」
男を殺しても、サリーは未だ興奮状態にある。
放っておけば、外へ出てこの町の住人を皆殺しにするだろう。
「やれやれ、おれの出番は無かったか」
「ゾロ…お前、起きてたのか?」
テーブルに突っ伏していたゾロがムクリと顔を上げた。
酒臭いが、その顔に赤みは無く、意識ははっきりしているようだ。
「剣士たる者、いかなる時も酒に呑まれるようなバカはやらねぇもんさ」
(さすがは主殿。どこぞのホラ吹きとは格が違うな)
氷女がゾロを褒め称え、キャプテンを蔑む。
「おい氷女、いくらなんでも言い過ぎ「グギャーーーッ!」」
「うお!」
突如、サリーがゾロ…否、氷女に牙を剥いた。
ゾロは素早く氷女を抜刀すると、サリーの牙を受け止める。
…まさか、氷女の言葉がわかったのか?
「サリー、いきなり何しやがる!」
「グルルルルル!」
(貴様…!)
このままでは仲間割れで両者とも手痛い被害を被るな。
「そこまでにしておけ、馬鹿ども」
私は両腕を原型に戻すと、氷女とサリーを強引に引きはがし、左手で氷女を、右手でサリーの女性体頭部を鷲掴みにする。
そして、両者が潰れない程度に加減して力を込める。
「グギギギギギギギ!?」
(グ…や、やめろ…創造主…!)
「1.サリーはどうやら氷女の言葉を理解できる。
2.サリーは現在興奮状態。
3.氷女のキャプテンへの悪言でサリーが怒った。
というのが現在の状況だ。殺し合いで決着を付けるのも悪くは無いが、今は敵陣の真っただ中だ。
仲間達に危険が及ぶ。殺り合うならここを切り抜けてからにしろ」
「グ…ギギギ…!」
(この…化けモンが!)
「………」
私は無言で両手に力を込める。
「…返事は?」
「クキャ!」
(わ、分かりましたッ!)
「よろしい」
私は両者から手を放す。
サリーはフラフラと蛇行し、氷女は少々歪んでしまったようだが、問題無いだろう。
「おい、氷女を歪めんなよ!刀は少しの歪みが致命的なんだぞ!?」
「問題無い。そこの死体に氷女を突き立ててみろ」
私の言葉に従って、ゾロは近くに転がっていた死体に氷女を突き刺す。
(う、不味い…だが、このままでは主殿に迷惑がかかってしまう。我慢我慢…)
氷女はブツブツ文句を言いながらも、死体から肉を喰らう。
すると、氷女の歪んでいた刀身が徐々に治り、死体が白骨化する頃には、完全な形を取り戻していた。
「…スゲェな。本当に元通りになりやがった」
ゾロが驚嘆の眼差しで氷女を見つめる。
「通常、刀と言うものはどんな名刀であれ、斬り続ければ劣化する。しかし、アラガミたる氷女は斬れば斬るほど切れ味を増す。また、人を切ったときの血や油も瞬時に吸収するため、それらを要因とする切れ味低下も抑えられるぞ」
「正しく理想の刀だな。あとは、おれの腕がお前にふさわしくなるよう、修行あるのみだ」
(そ、そんな…主殿はもう充分に私にふさわしいお方だ)
なんか甘ったるい空気が。
「ぺッ」
サリーはそんな氷女を半目で見つめながら唾らしきものを吐いた後、氷女の残した骨をボリボリと喰らい始めた。
私も近くに落ちていた右腕を掴み上げ、指に齧り付く。
「さて、これから打って出ようと思うが…キャプテン達も起こすか?」
ルフィ達は未だにグースカ寝ている。
もうこれは神経が太いとかいうレベルではない。
「いらないんじゃねぇか?おれ達4人で十分だろ」
「…それもそうか。人間であるキャプテン達は昼間の航海で疲れているだろうしな」
「おい、おれも人間なんだが?」
「は?」
「くきゃ?」
(主殿、その冗談はちょっと無理がある)
「………」
私達の総突っ込みで、ゾロがちょっとへこんだ。
「でだ、外の敵の処理はどうする?正直、ここの奴らは弱過ぎて不味い。あまり積極的に喰う気が起きんのだ。殲滅しろと言うのならやるが…」
「なら、おれにやらせてくれ。きちんと氷女と鬼徹の調子を確かめたい」
ゾロが腰に差している氷女と鬼徹という刀の柄に手を添えながら発言する。
「クキャクキャ!グルルルルルル!」
サリーも殺る気のようだ。
「決まりだな。サリーとゾロがオフェンス。私がディフェンスだ」
私はテーブルに置いてあった煙草の箱を取ると、二階への階段へ向かう。
「―――!」
と、ここで屋上から侵入してきた敵と鉢合わせ。
「くら―――!」
声をあげられる前に右手で男の口を塞ぎ、がっちりと頭を握ると、そのまま引きずっていく。
男は私の手を引きはがそうとしているが、悲しくなるくらい力が弱い。もはや、憐れみすら憶える。
「どうすんだ、それ」
「戦いの開始には、ゴングが必要だろう?」
ゾロにニヤリと笑いかける。
「………怖ぇよ」
「クキャ…」
(ガタガタブルブル…)
何故か引かれた。
「…とりあえず、屋上に上がって耳目を集めるぞ」
私達は未だ幸せな夢の中にいるキャプテンたちを後目に、屋上へと向かった。
◆
屋上へ登ると、私は早速男の右腕を斬り落とし、口を押さえていた手を放して悲鳴を上げさせた。
男の悲鳴が十分に響いたところで、左腕を捕喰器官に変化させ、喰らい尽くす。
後は屋根の縁に腰かけ、待つだけだ。
斬り落とした男の腕を齧っていると、悲鳴を聞きつけた連中が集まってきた。
ざっと100人といったところか。見た顔もちらほら。
その中で、ミス・ウェンズデーとイガラッポイが何やらヒソヒソと話していたが、私には聞き取れなかった。氷女ならば、聞き取れたかもしれない。
「悪りぃんだが、あいつら寝かしといてやってくれるか。昼間の航海でみんな疲れてんだ」
ゾロは氷女を左手に掲げつつ、下にいる連中に話しかける。
何やら言いたいことがあるようなので、私はすぐに襲いかかろうとしていたサリーを制止させた。
先ほどの説得が効いたのか、今度は素直に従った。まあ、眼は大分反抗的だったが。
「ミ、Mr.8!ミス・マンデー!へ、部屋の中は…さ、惨劇で…ウゲェ…!」
先ほどまで私達のいた部屋を確認してきた男が報告と同時に胃の中のものを戻した。
人間には少々キツイ光景だったか?
「貴様等………!」
イガラッポイ…否、Mr.8は苦々しげに私達を睨みつける。
「つまり、こういうことだろ?ここは“賞金稼ぎ”の巣。意気揚々とグランドラインへやってきた海賊達を出鼻からカモろうってわけだ…!
賞金稼ぎざっと100人ってとこか、相手になるぜ『バロックワークス』」
「―――!き、貴様!何故我が社の名前を…!?」
ゾロがバロックワークスという言葉を発した途端、Mr.8達に動揺が走った。
「何だ、バロックワークスとは」
「昔おれが賞金稼ぎだったころにその会社からスカウトさせたことがある。当然ケったけどな。社員達は社内で互いの素性を一切知らせず、コードネームで呼び合う。もちろん社長の居場所、正体も社員にすら謎。ただ忠実に任務を遂行する犯罪集団、それがバロックワークスだ」
成程、人間の集合体か。
確かに、人間は群れで力を発揮する生き物だからな。
ゴッドイーター達も、確かフェンリルとかいう集合体に属していたはずだ。
「………!こりゃ驚いた…!我々の秘密を知っているのなら、消すしかあるまい…」
………?
「また一つ、サボテン岩に獲物の墓標が増える」
あー、あの岩にある棘、全部墓なのか。
「ゾロ、話は終わりか?」
「ああ」
「了解した。サリー、もう良いぞ」
「グルアアァァァ…!」
私が煙草を懐から取り出すと同時に、ゾロとサリーは地上へと飛び降りた。
「殺せ!」
Mr.8の号令と共に、銃の一斉射撃が開始された。屋上に残っているのは私だけなので、狙われるのは自分だけだ。
ん?マッチを持ってくるのを忘れたな。
私は向かってくる銃弾の中の一つに、煙草の先端を掠らせ、火を付ける。
一服する間にも顔や身体に銃弾が当たるが、少々くすぐったい程度だった。
これなら、態々コートで受ける必要も無かったか。
「じゅ、銃が効かねぇ!?どうなってやがる!」
「お、おい!残りの奴らはどうした!?」
ようやくゾロとサリーがいないことに気が付いたのか、賞金稼ぎ達は辺りを見回す。
さて、私は高みの見物と洒落込むとしようか。
◆
私と主殿は現在、敵陣の真っただ中にいる。
屋上から飛び降りたのち、素早く敵の中に紛れたのだ。
ここで私を一振りすれば、一瞬で決着が着くと言うのに、主殿はそれをしない。
主殿曰く、「面白くない」そうだ。
ああ、その自信家なところも好ましい…
「い、いない!どこへ消えた…って!」
阿呆どもがようやく気付いたようだ。
「おし、やるぞ氷女」
(承知した!)
主殿は私を瞬時に抜刀すると、周りから狙っていた者どもを円を描くように斬りつける。
私は刃が触れた瞬間に捕喰を開始し、斬り裂き終わる前に肉を全て殺ぎ落とす。
後に残るは物言わぬ白骨のみ。
「餓鬼道・円…とか言ってみるか?」
(良い名だ。主殿)
「ほ、骨!?」
「な、なんだあの刀は!?」
仲間の白骨化に驚く阿呆どもの喧騒に紛れて、主殿は首領格の男…Mr.8の背後に回る。
「また消えたぞ!速い!」
「さっさと殺せ!たかが剣士一匹…!?」
テメェ等雑魚どもが敵うお人じゃねぇんだよ!喰い殺すぞクソ野郎!
…おっといけない。少々興奮した。
私の1mm横にあるクソ親父の顔が主殿の悪言を言ったので、頭に血が上ってしまった。主殿が僅かでも奴の肌に私を触れさせてくれれば、一瞬で喰らい尽くしてやるのだがな。
そういえば、この親父、ミス・ウェンズデーとかいう女を守るとかどうとか抜かしてたが…まあ、私には関係ないな。
「聞くが…墓標はいくつ増やせばいいんだ?」
巻髪親父と背中合わせに私を頬の横に突き付けている主殿は小馬鹿にするように笑う。
墓など必要ない。どうせ、骨も残らんのだから。
「いたぞ!そこかァ!」
「バ、バカよせ!おれごと撃つ気か!やめろ!」
主殿を見つけた阿呆どもが一斉に銃を向ける。それに巻き込まれることになるMr.8は制止の声を上げるが、やめる気配は無い。
ヒヒヒ、阿呆には似合いの末路だな。
当然、主殿は引き金に指が掛かる瞬間に、その場を離脱した。
「―――!」
だが、Mr.8は手に持っていたサックスを咥えると、引き金が引かれるより速くそれを吹き鳴らした。
「イガラッパ!!」
サックスからは効くに耐えない歪音と共に、弾丸が飛び出し、発砲しようとしていた者たち全員を吹き飛ばす。
炸裂音からして、散弾銃に近いものだろう。
「ヒュー…ありゃショットガンかよ。あぶねぇもん持ってんな」
近くの建物の壁に身を隠しながら、主殿は呟く。
(―――?何故だ、主殿)
「ショットガンってのは小さな弾をばら撒く銃だからな。遠距離なら大したことねぇが、近距離は必殺の間合いだ。剣士であるおれとの相性は悪い」
(いや、主殿。もはや貴方は人間という枠を逸脱している。ただの鉄の塊をばら撒く銃など、例えゼロ距離で喰らっても致命傷にはならん。まあ、多少は痛いだろうがな)
「…おれは人間だ。だからショットガンは絶対に食らわん!当たったら死ぬからな!人間だし!」
(何をそんなに意地になっているのだ?)
人間などと言う脆弱な生物から強靭なアラガミになっているというのに、一体何が不満なのだろうか…
ハッ!も、もしや主殿は私と一つになることに照れているのでは!?
だ、大丈夫だ主殿!優しくするから!絶対痛くしないから!
「さて、そろそろ新入りを実戦で試すとするか…行くぞ、氷女」
(…ハ!しょ、承知した、主殿!)
いかんいかん、少々浮かれ過ぎた。雑魚しかいないとはいえ、ここは戦場。いつ何が起こるか分からない。気を引き締めねば。
…そういえば、あのクソ卵はどこに行ったんだ?さっきから全く姿を見ていないんだが。
…まあいいか、奴がどうなろうと、私の知ったことでは無い。
◆
何と粗野な考え方なのでしょう。常識を疑います。
まあ、あのマリモ頭の野蛮人の下僕ですし、仕様が無いと言えばそれまでですけど。
現在、私は元居た建物の中に戻っています。このままあの野蛮人2人が暴れれば、人質を取られるのは必至。ゆえに、キャプテン…いえ、この呼び方はあの青髪と被るのでやめましょう。…そう、マスターを最も安全なところへ避難させに来たのです。
私はマスターの傍へと近づきます。ああ、なんと安らかな寝顔なのでしょう。癒されます。
私はマスターを起こさぬよう、慎重に女性体の下部を使って持ち上げ―――
―――丸飲みにしました。
捕喰した訳ではありません。
これは私の能力の一つで、中に取り込んだものを、保存できるのです。
保存したものは私が消滅するまでほんの僅かな変化・劣化もしません。
オラクル細胞に有効な攻撃手段を持たない人間だけの戦場で私が傷つくことなどありえませんから、最も安全な場所と言っても過言ではないでしょう。
さあ、これで心おきなくマスターに狼藉を働いた愚者どもを殲滅できます。
マスター以外の奴らなど、知ったことではありません。特にゴム猿はどさくさに紛れて殺されてくれると嬉しいです。
「ク、クソ!奴ら化けモンだ!こうなったら人質を取って…!」
あら、言ってる傍から人質を取ろうとする愚者がやってきましたね。しかも後からゾロゾロと…ディフェンス担当の青髪は何をしているんですかね。やっぱり、殿方を物理的に見下す女は役に立ちませんね。あの女、190cm越えてますし。
「こっちもかよ!」
人質を取るならどうぞご勝手に。特にそのゴム猿何かはお勧めですよ。
「待て、あの女と剣士はともかく、こいつならやれるんじゃねぇか?」
「…確かにそんなに強くなさそうだしね」
「よし、こいつを倒してから人質を取って奴ら倒すぞ」
…どうやら、死にたいらしいですね。
良いでしょう望み通りにして差し上げます。
「グアァッ!」
私が集中して“能力”を発動させると、男達の周りの空間に、無数の眼が現れます。
「な、なんだこりゃ!?」
クスクス…もう終わりです。
その眼から鈍い光が放たれると、あるものは銃を構え、またあるものは手にした刀を構えました。―――味方に向かって。
「お、おい!な、何の真似だ!?」
「お、お前こそその銃を下せ!」
「か、身体が言うことを効かない…!」
「や、やめて!い、嫌…!」
―――さあ、殺し合いなさい。
私が念じると、男達は同志討ちを行い、血液や脳漿をブチ撒けました。
クスクス…クズにしては良い悲鳴でしたよ?
これが私の「ジロジロの実」の能力。
ありとあらゆる場所に目を作り出し、監視は勿論、その眼から発する光による催眠や読心等が出来る悪魔の実。
先ほどの氷女のマスターへの罵詈雑言等を“見た”のはこの能力のおかげです。
あの島で“クソ女”が実験と称して私に喰べさせた物ですが、思いの他、役に立ってくれています。まあ、感謝の念などかけらもありませんが。
さて、他に隠れている敵などはいないか調べてから、外に行きましょうか。
私は視覚を無機物のみを透過するように切り替え、ざっと部屋を見渡します。
…おや?机に突っ伏しているオレンジ色の髪の女―――確か、ナミとか言いましたか―――の体温が急激に上がっています。発汗も確認できますね…少々心を覗いてみるとしましょう。
(ウ、ウソップが食べられちゃった!?それに、何あの不気味な能力…!急に敵が同志討ち始めちゃうし、何よりあのサリーの顔は…)
あー、見られちゃいましたか。能力はともかくとして、“顔”を見られたのは拙いですね。しかしながら、こんな姿になっても、治りませんか、“顔”。
…仕方ありません。
私はスーッとナミに近づきます。
(こ、こっち来た!?だ、大丈夫!サリーが心を読めるとか無い限り、私が起きてることは気付かれないはず)
持ってるんですよね、それが。
さらに、近づきます。
(平気平気!私達は仲間だもん!喰われたりしないわよ!)
クスクス…仲間?
クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
そう思っているのは、貴女だけですよ?
大口を開けてナミの頭を喰い砕―――
「グゲギャ!?」
―――こうとした瞬間、横から強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされました。
…身体が全く言うことを利きません。たったの一撃でこれですか。こんなことが出来るのは1人しかいませんね。
「………」
ナミの前に無言で仁王立ちしている青髪の女。その左眼は赤く発光し、明確な殺意を持って私を射抜いています。
…これは嵌められましたね。あの女はずっと私を監視していたのでしょう。そして、態とあの男達を見逃し、私に戦わせた。おそらく、最初は私の能力を見るためだったのでしょうが………私も運がない。
「…岬での約束通り、お前を処分する」
ああ、妬ましい。その強さと―――美しさが。
まあ、今となっては何もかも無意味ですが、せめて、マスターだけは傷一つ無いようにしなければ。
青髪―――カリギュラのブレードが迫る中、私は初めて温かさを感じたマスターとの出会いを思い出しながら、ゆっくりと眼を閉じました。
【コメント】
カリギュラさん以外のアラガミ娘の視点を書いてみました。
これからは別行動も多くなりますので、その練習といった意味合いもあります。
ただ、このSSの視点はオリジナルキャラ+三人称のみでやっていこうと決めていますので、原作キャラの視点はありません。