双子岬を出航してからしばらく。
私は甲板に出てグランドラインの風に当たっていた。
頬に当たる雪の冷たさが何とも心地よい。先ほどまでいた双子岬は春のような陽気であったのに、出航して数刻で雪の降る冬の気候へと変わったのだ。
これもまた、グランドラインの特性なのだろうか。
「おっしゃ出来た!空から降ってきた男、雪だるさんだ!」
船にはすでにかなりの量の雪が積もり、ルフィとキャプテンは雪遊びに興じている。
ルフィは手足に見立てた木の棒を刺した雪だるまを作成したようだ。
「はっはっはっは…全く低次元な雪遊びだな、テメェのは!」
「クキャー!」
ルフィの雪だるまを見て、キャプテンとサリーが小馬鹿にしたように笑う。
「何!?」
「見よ、おれ様の魂の雪の芸術!“スノーサリー”だ!」
キャプテンが雪で作り上げたのは等身大のサリーの雪像だ。
女生体の細かい部分までしっかりと作りこまれ、色が真っ白なところ以外はサリーと見分けがつかない。
「クキャクキャクキャ!」
自分の雪像を作ってもらったサリーは非常に上機嫌だ。
「うおお、スゲェ!よし、雪だるパンチ!」
ルフィが雪だるさんの腕の付け根を叩くと、木の腕が勢いよく飛び出し、サリーの雪像に直撃した。
憐れ、サリーの雪像はただの雪の塊になってしまった。
「何しとんじゃお「グッギャァァァァァァァァァッ!!!」」
「痛デーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
キャプテンが文句を言う前に、激怒したサリーがルフィの頭に齧り付く。
こうなることくらい予想しろ、船長。
「ナミさん、恋の雪かきいか程に?」
「止むまで続けて、サンジ君」
「イェッサー♡」
サリーを頭に付けたルフィのいる甲板より一段高いところで防寒具を着込んだサンジが雪かきをし、ナミや岬で乗せた2人組は船室の中で凍えている。
この程度の冷気で凍えるとは…やはり、人間は脆い生物だ。
それに引き換え、ゾロはいつもの腹巻スタイルで甲板に寝ている。雪が降り積もっているが、全く気になっていないようだ。
順調にアラガミ化しているようで結構。
何気なしに空を見上げると、雪が降りしきる中、空気を切り裂くような破裂音が聞こえた。
「雷か…あまり好きではないな」
春の陽気、冬の寒気、そして稲妻。
天候や気候にまるで法則性が無い。
これがクロッカスの言っていたグランドラインの特性か…常識外れも良いところだ。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
突如、ナミの叫び声が響き渡った。
「な、なんだ!?どうした!?」
「何事っすか、ナミさん!」
それを聞きつけた仲間達が集まってきた。
「180度船を旋回!急いで!」
―――?
「何故戻る必要がある?」
「違うのよカリギュラ!船がいつの間にか反転して進路から逆走してるの!」
「馬鹿な、波は静かなままだったぞ…!」
「でも、実際にログポースは真反対を示してるわ。私もカリギュラと同じように考えてたけど、これが現実よ」
さすがはグランドライン。まだ最初の島にも辿り着いていないのに、これか。
「波に遊ばれてるな」
「あなた本当に航海士?」
毛布にくるまった2人組がナミを嘲る。
「ここはこういう海よ。風も空も波も雲も何一つ信用してはならない。不変のものは唯一ログポースの指す方角のみ!おわかりかしら?」
「よくわかった。頭を出せ、喰い千切ってやる」
「わー!ウソウソ!調子こいてすいませんでした!」
女の態度が気に入らなかったので、頭から喰らいついてやろうとすると、0.3秒で土下座を決められた。
「はあ………」
…興が醒めた。
「貴様等も航海を手伝え。さもなくば、次こそ私の腹の中だぞ」
「「イエス、マム!」」
「…なんつーか、カリギュラには女王って言葉が似合うな。色んな意味で」
ぽつりとキャプテンが呟いた。
女王は他のアラガミの別称なのだがな。
「よし、じゃあまずはブレスヤード、右舷から風を受けて!左へ180度船を回す!ウソップ、三角帆を!サンジくん、舵とって!カリギュラ、あんたは飛べるから、周囲の警戒を!」
「応!」
「喜んで!」
「了解した」
ナミの指揮の元、各自の役割を遂行すべく、私達は行動を開始した。
◆
―――クークー
ああ、カモメの声が耳に心地よい。
あれから本当に大変だった。
西からの風が吹いたと思った瞬間には東の風に変わるなど序の口。一寸先も見えない深い霧に、突如として進路上に現れる氷山など、まだ子供が考えた物語の方が現実味のあることが次々と起こった。
それらの現象に対処するために私達は船中をかけずり回る破目になった。
あと、栄養補給のためにサンジが作ってくれた握りメシが美味かった。
アラガミたる私はそうでもないが、人間には少々堪えるようで、ほぼ全員が大の字になって転がっている。
だが、その甲斐あって、船は落ちついた気候の中を、ログポースの示す方向通りに航海している。
ちなみに、ルフィは未だ修復されていない船首の代わりに、サリーの頭に乗ろうとしたようだが、振り落とされた上に怒ったサリーに追いまわされている。
「ん~~~…くはッ。あー、良く寝た。…ん?このありさまはどうしたんだ、カリギュラ」
あれだけの騒ぎにもかかわらず、全く起きなかったゾロが伸びをしながら、海を眺めている私に話しかけてきた。
「…まあ、色々あってな」
「おいおい、いくら気候が良いからって、全員甲板に寝転がるたぁ、気を抜き過ぎだぜ?
ちゃんと進路はとれてんだろうな」
お前…
「…そういや、名前なんつったっけ、お前ら」
おもむろに立ち上がったゾロが、岬で乗せた2人組に詰め寄る。
2人組はビクリと身体を震わせ、後ずさりした。
「ミ、Mr.9と申します…」
「ミス・ウェンズデーと申します…」
目を逸らしながら答える2人に、ゾロは顎に手を当ててニヤリと笑いながらさらに詰め寄る。
「そう…どうもその名前を初めて聞いた時から引っ掛かってたんだ、おれは。どこかで聞いたことがあるような…無いような…」
「「―――!」」
ゾロの言葉に、明らかな動揺を見せる2人組。
「まァ、いずれにしろ゛ッ!!?」
「…あんた、今までよくものんびりと寝てたわね。いくら起こしてもグーグーと…!」
だが、良いところでゾロの尋問は、怒れるナミの頭部への強烈な拳骨で遮られてしまった。
(貴様―――!)
「やめろ、氷女」
私は素早くゾロの隣に移動すると、ナミを斬りつけようと鞘から抜け出そうとした氷女の柄を押さえつける。
(やれやれ、仲間は殺さんと約束しただろう)
(私の主が殴られて、約束もクソもあるか!離せ、このクソアマをぶった斬ってやる!)
なんだか口調がとんでもないことになっているんだが。
「ん?どうかしたのか、氷女」
どうやら、ゾロには聞こえないように喋っているらしい。
…ゾロが氷女の影響でアラガミ化しているように、氷女にも何らかの影響が出ているのかもしれんな。
ま、今更どうこう出来るものでも無し。なる様になるだろう。
「ちょ、また氷女が勝手に動こうとしたの!?」
「ああ。しかもかつてないほどにご立腹だ。お前がゾロを殴ったのが余程気に入らないようだ」
「…言っとくけど、私は謝らないからね。悪いのはグースカ寝てたこいつなんだから」
ナミはジト目でゾロを指差す。
自分が斬られる可能性があるとしても、意見を曲げないのはさすがだな。
「チ…悪かったよ。ほれ、氷女も大人しくしろ」
(グ………主殿がそこまで言うなら)
ゾロに説得されて、しぶしぶながらも大人しくなる氷女。
本当、ゾロの言うことには素直に従うな。
「今やっとこの海の怖さをこの海の怖さを認識できた。グランドラインと呼ばれる理由が理解できた!この私の航海術が一切通用しないんだから間違いないわ!」
いや、そんなに胸を張って言われても。
「大丈夫かよ、オイ」
キャプテンは呆れかえっていた。
「大丈夫よ、それでもきっとなんとかなる!その証拠に…ホラ!」
ナミが見つめる先に、何やら大きな影が確認できる。
「1本目の航海が終わった」
船が更にその影に近づくと、はっきりと島の全景が確認できた。
島の内陸に、いくつもの巨大なサボテンのようなものがあるのが特徴的な島だ。
あれがウィスキーピークか。
「島だぁ!でっけーサボテンがあるぞ!」
いつの間にやら、サリーを振り切ったルフィが、ウィスキーピークを見て、歓喜の声を上げる。
「よかった、無事に着いた…!では、我々はこの辺でお暇させて頂くよ!送ってくれてありがとう、ハニー達」
「縁があったらいずれまた!」
「「バイバイベイビー!」」
ウィスキーピークを確認するや否や、2人組は船の柵に飛び乗り、そのまま海に飛び込んでしまった。
「一体なんだったんだ、あいつらは?」
キャプテンが呟くのを聞きながら、私はルフィに近づいて耳打ちする。
「どうする?今のうちに息の根を止めておくか?」
「ほっとけ!上陸だァーーーッ!」
しかし、船長は島に上陸することで頭が一杯のようだ。
…まあ、あの程度の奴ら、放っておいても問題は無いか。
「ば、化物とかいんじゃねぇか!?」
「ん?呼んだか、キャプテン」
「いや、オメェじゃねぇよ。それ以外の奴だ」
「クキャ?」
「氷女の事か?」
「だから違ぇつってんだろ!てか、よくよく考えてみれば化物多すぎだな、この一味…」
はは、何を今更。
「ま、ここはグランドラインだ。カリギュラちゃん達以外にも、化物が居る可能性は十分ある」
「そしたら逃げだしゃいいだろ」
「あ、私としては是非ともその化物とやらを捕喰したいんだが」
「じゃあ、それで」
「いや、そこは逃げとけよ!」
化物を捕喰しようとする私達に対して、キャプテンは逃げることを提案している。
まあ、究極の安全策としてはそれが正しいのだが…喰いたいな、化物。
「いいえ、カリギュラの案で行きましょう」
意外なことに、ナミが私の意見に同調した。
「珍しいな、お前が私の意見に同意するとは…あ、もしや」
「そう、このログポースにこの島の磁気を記録しなきゃ進みようがないのよ!それぞれの島でログの溜まる早さは違うから、数時間で済む島もあれば、数日滞在しなければならない島もある。むしろ、カリギュラ達が島にすむ化物達を排除してくれるなら、好都合よ」
「成程、例えそこが化物島でも、化物を全部倒しちまえば、安全だしな…カリギュラ隊員!最重要任務だぞ!」
生態系がズタボロになるがな。
…まあ、気にしない気にしない。
「まあ、とりあえず早く行こう!」
ルフィは待ちきれないようだ。
ちょうど真正面に大きな川があり、そこから内陸部に行けそうだ。
「川があるのに入らねぇなんて、おかしいだろ?」
「まー、あんたはそうだろうけど…」
「ルフィの言うとおりだ。行こうぜ、考えるだけ無駄だ」
「ナミさんのことはおれが守るぜ!」
「お、おいみんな聞いてくれ…!きゅ、急に持病の『島に入ってはいけない病』が」
ほぼ全員が島に入ることに同意したが、キャプテンは煮え切らない。
やれやれ、相変わらずなお人だ。
「覚悟を決めろ、キャプテン。万が一、化物がいても私が「クキャーーーッ!」」
私の台詞を遮るようにして、サリーが鳴きながらキャプテンの胸の中に飛び込む。
「サリー…自分が居るから大丈夫だって言いたいのか?」
「クキャ!」
「はは、そうだな。今のおれにはお前がいるもんな。よーし!おれとお前のコンビネーションで、化物どもをブチ抜いてやるぜ!」
「クキャーーーー!」
キャプテンに頭を撫でられつつ、またもやサリーが勝ち誇った笑みを私だけに見えるように浮かべた。
…ザイゴートは菓子感覚でいけるんだよな。久々に喰うのも悪くない。
「…じゃ、入るけど、戦う準備と一応逃げ回る準備もしておいて」
ナミの忠告を胸に刻みつつ、メリー号は川を進む。
川に入った途端、船は濃霧に包まれ、川の両端すら視認できなくなってしまった。
どうやら、この島は、霧が発生しやすい傾向にあるようだ。
しばらくすると、微かに人間の匂いが漂ってきた。
(主殿、人間の声が聞こえる)
「本当か。おれには何も聞こえねぇが…」
「クキャ!」
「ん?サリー、お前何か見つけたのか?」
氷女、サリー共に人間の存在を探知したようだ。
ザイゴートであるサリーは視覚に優れ、氷女は聴覚に優れているらしい。
…そういえば、私も最近妙に嗅覚が鋭くなった気がする。
「前方から人間の匂いがする。一人や二人ではない。どうやら、集落か何かがあるようだ」
「あーよかった。とりあえず、いきなり化物に襲われる心配はねぇわけだな」
キャプテンが緊張を解いて、甲板に座り込む。
「安心するには少々早いぞキャプテン。私達は海賊だ。この島の人間達に攻撃を受けることも十分に考えられる」
(…その心配は無いようだ)
「何?」
私の意見を否定する氷女の言葉の根拠を尋ねる前に、集落方面から歓声が上がった。
「海賊だぁッ!」
「ようこそ!我が町へ!」
「グランドラインへようこそ!」
「なんだ?化物どころか、歓迎されてるぞおれ達」
「どうなってんだ?」
予期せぬ歓待に、戸惑うサンジとウソップ。
「海の勇者達に万歳!」
川の両端に陣取る町人達の歓声を聞きながら、メリー号は川を進む。
その一角に、若い女達の集団が居た。
「おお!か、可愛い子もいっぱいいるぜ!」
案の定、サンジの目はそれに釘付けとなる。
「感激だぁ!」
「…やっぱ海賊ってのは皆のヒーローなんじゃねぇか?」
「うおおーーーーい!」
おもちゃの剣を持った少年の歓声に、キャプテンは投げキッスで答え、ルフィも町人達に向かって手を振る。
3人は早々とこの歓待を享受するつもりらしい。
「どう思う?」
私はさりげなくアラガミ仲間達に問いかける。
(罠)
「クキャ」
「だろうな」
サリーは鳴き声だけだったが、なんとなく意味は伝わった。
まあ、罠ならば喰い破ればいい。アラガミらしく、な。
◆
その後、川岸に船を着けると、ウィスキーピークの町長、古代でいう中世の音楽家のような髪形をしたイガラッポイという男から、私達の話を肴に、宴を催したいと申し出があった。
勿論、宴が三度の飯より…否、五度の飯と同様に大好きな我らが船長はこの申し出を快く承諾。
半月と満月の境の月を湛える夜空の元、今まさに宴も酣(たけなわ)。
キャプテンは自慢のウソ話を堂々と話し、サリーはそれを聞きながら家具を片っぱしから喰い散らかしている。サリーの偏食傾向は無機物に偏っているようだ。
ゾロとナミは酒飲みの勝負で連戦中。相手にされない氷女がちょっとすねている。
ルフィはひたすらメシを喰い、サンジは女を口説く。
「やれやれ、何とも個性あふれる連中だ。あ、後50人前追加だ」
「ご、ごじゅ…!うーん………」
「10人目のコックが倒れたーーーッ!ば、化物か、あのネェちゃん!?」
はい化物です。
「あ、あの細い身体のどこに入ってんだ!?」
「そりゃ当然あの豊満すぎるおっぱウゴッ!」
急に割り込んできたサンジがウザかったのでとりあえず米神に肘をくれてやった。
それからしばらくして、騒ぎ疲れたのか、仲間達は皆、そのまま眠りに落ちて行った。サリーも例外ではなく、キャプテンに身体を密着させるようにして、大きな目を閉じている。
アラガミに睡眠など不要なはずだが…まあ、サリーはキャプテンに懐いているからな。猫が飼い主に擦りつくのと同じことかもしれん。良く見ると幸せそうに女生体をこすりつけているしな。
「…暇だ」
それに対し、私はほぼ完全に修復を終え、アラガミとしての機能を取り戻しているため、全く睡眠欲を感じない。
一緒に騒いでいた町人達も、いつの間にか姿を消していた。まあ、何のために消えたのかは大体予想が付くが。
何にせよ、1人でいると気が滅入ってくる。ただのアラガミだった頃はこんなことを考えることすらなかったが…意外と堪えるものだな。
何か気晴らし出来るものは無いかと、辺りを見回すと、サンジの煙草がテーブルの上に置きっぱなしになっているのが目に入った。
確か、人間にとって、煙草は合法的な麻薬だったと記憶している。自らの身体をボロボロにしながらも、快楽を求める。何とも人間らしい創造物だ。
「…物は試しか」
私は煙草を1本手に取ると、口に咥え、隣にあったマッチで先端に火を点ける。
程無くして、口の中に紫煙が広がり、それを肺(に似せた器官)に吸い込む。そして、ため息をつくように外へと吐き出す。
「…不味い。それに臭い」
だが、不思議と癖になりそうだ。
1本目を吸い終わり、2本目の煙草に火を点けたところで、建物のドアがゆっくりと開き、そこから火薬と生肉の匂いが漂ってきた。
―――さあ、メインディッシュの時間だ。
◆
「騒ぎ疲れて眠ったか…」
月が照らす中、1人の男が夜空を見つめる。
「良い夢を…冒険者よ…今宵も、月光に踊るサボテン岩が美しい…」
「詩人だねぇ………『Mr.8』」
そんな男に声を掛ける人影が2つ。
王冠を被った男と水色の髪のポニーテイルの女。紛れもなく、島に着いた直後にメリー号から脱出したMr.9とミス・ウェンズデーである。
「君たちか」
「やつらは?」
「堕ちたよ………地獄へな」
ウィスキーピーク町長イガラッポイの裏の顔、それがMr.8。
「失礼、少々席を外させていただきます。ごゆっくりどうぞ」
宴の会場の建物から出てきた大柄なシスターが、先ほどの3人の元に歩み寄って来る。
「…ウップ、良く食う、良く飲む奴らだわ…こっちは泡立ち麦茶で競ってたってのに…!」
麦茶でパンパンに膨れ上がった腹を摩りつつ、愚痴をこぼす。
「しかし、わざわざ“歓迎”をする必要があったのかねぇ。あんな弱そうなガキ5人と女1人、あとペットが1匹」
「ミス・マンデー」
シスターが法衣を脱ぐと、そこには筋骨隆々の大男にも負けないほどの逞しい肉体があった。
この大柄の女性こそ、Mr.8のパートナー、ミス・マンデーである。
「港で畳んじまえば良かったんだ。ただでさえ、この町は食料で困ってるんだからね」
ミス・マンデーはMr.9ペアを見てため息を一つ。
「…どうせクジラの肉も期待してなかったし」
「そう言う言い方って無いじゃないのよ!」
「そうだぞ!我々だって頑張ったんだ!」
それに対し、Mr.9ペアは抗議の声を上げる。
「まーまー、落ちつけ、とりあえず」
それをMr.8が抑える。
「奴らについてはちゃんと調べておいた」
そして、満面の笑みを浮かべるルフィの手配書を仲間達に見せた。
「「「さ、3000万ベリー!?」」」
その手配額に驚愕する3人。
「海賊どもの力量を見かけだけで判断しようとは、愚かだな。ミス・マ゛ン゛…べ………マ~~マ~~♪ミス・マンデー」
どうやらこの男、名前通り、イガラッポイらしい。
「あいつらが…」
「め、面目ない…」
「…だがまァ…もう方は付いている。社長(ボス)にも良い報告が出来そうだ」
Mr.8はいつの間にか集まっていた町人達に指示を出す。
「早速船にある金品を押収し、奴らを縛りあげろ!殺してしまうと3割も値が下がってしまう。政府は公開処刑をやりたがっているからな」
「あの…」
Mr.8の指示に従って、町人達が動き出す…前に、1人の手が挙がった。
「なんだ」
「海賊達の中で、カリギュラってのがまだ眠って無いんですが、そちらの方は?」
「奇襲を掛けて一番最初に捕縛しろ。人質を取っても構わん」
「わかりました」
町人達は各々の配置に付く。
Mr.9とミス・マンデーが自分配置へ移動を開始したとき、Mr.8がミス・ウェンズデーの耳元で囁いた。
「…ビビ様、お耳に入れたいことがございます。このまま人目の付かぬ所に」
「…!解ったわ、イガラム」
どうやらこの2人にはさらに別の顔があるらしい。
他の仲間に気付かれぬよう、建物の陰に隠れながら、Mr.8は先ほどとは違う手配書をミス・ウェンズデーに見せる。
「こ、これは…!」
「はい、あの海賊達の副船長『人喰らいのカリギュラ』のものです。訳あって、他のもたちには見せませんでした」
ミス・ウェンズデーは不気味な赤光を放つ左目を持つ女の手配書を持ちながら震える。
「い、1億ベリーって…あいつの懸賞金額よりも高い…!」
「はい。ゆえに、我々が束になっても敵わないことは容易に想像が付きます。政府が掛けた懸賞金に対する危険度は、正確ですから」
「ここまで来て…こんな化物と出会ってしまうだなんて…どうしよう、イガラム。こうなったら、このままアラバスタへ逃げる?」
「いけません。任務を放棄すれば、アラバスタに付く前にこの組織からの刺客が押し寄せてきます。もし、オフィサーエージェントが来た場合には…情けないですが、貴女をお守りすることは出来ない」
Mr.8は自分の不甲斐なさに、唇をかみしめる。
「進むも地獄、退くも地獄ってわけね…ク!」
「いえ、光明はあります」
「―――え?」
Mr.8の意外な言葉にミス・ウェンズデーは間の抜けた声を出してしまった。
「恩を売るのですよ、人喰らいに。貴女の報告では、双子岬で謎の危険生物と出会った際、人喰らいが助太刀をしたとか。その話が本当ならば、ある程度の義理人情を持ってはいるのでしょう…あくまで可能性ですが」
「で、でも、恩っていったって…」
「あるではないですか。今、この状況ですよ」
Mr.8の言葉に、ミス・ウェンズデーはハッと気付いた。
「なるほど、私達で彼らを助けるのね」
「はい。戦っているところに助太刀、万が一捕縛出来たならば、我々2人で助け出します。そして、我々の素性を話し、アラバスタまでの護衛を依頼するのです。相手は海賊ですから、それなりの金額を要求されるでしょうが、祖国のためと思えば安いものです。特に副船長のカリギュラは奴を超える賞金首。その強さは頼りになるでしょう」
「そうね。これが、今の私達にとれる最善の手段。私達は、何としてもこの情報をアラバスタへと持ち帰らなければならない」
ミス・ウェンズデーの瞳には、強い意思の光が浮かんでいる。
「その通りです…さて、これ以上ここにいては拙い。私達も持ち場に…」
―――ギャァァァァァァァ!
「な、何!?」
「海賊達が居る建物の方です!」
Mr.8とミス・ウェンズデーは悲鳴の聞こえた方角へと走る。
そして、そこで見たものは―――
「…数は多いな。だが、質はコレと大差なさそうだ」
人の腕を貪る青い女と
「フーッ、フーッ…グルルルルル…!」
巨大な一眼に殺意を滾らせる異形と
「だー!落ちつけ氷女!ちゃんと食わしてやるから、ちょっと我慢しろ!」
蒼刀に怒鳴る剣士の姿だった。
「イ、イガラム…!」
いくら強い意思とて、それを超える恐怖に直面すれば、陰るもの。
ミス・ウェンズデーは震える声で、しかし他の仲間に聞こえないようMr.8に話しかける。
「…ビビ様、やはり、こ奴等を倒すしか道は無いようです。『人喰らい』…よもや、そのままの意味とは。とてもではないが、貴女の護衛が出来るとは思いません」
人を喰らう化物に、自らが守るべきものを預けるなど、出来ようはずもない。
打ち倒さなければ、あの化物達を。
例え、この身が朽ち果てようとも!
「ご安心を。貴女は必ず、守り抜いて見せます」
悲壮な決意を固めるMr.8。
その姿は、裏組織に身を置く者というより、高貴な者を守る守護騎士に見えた。
【コメント】
まずは謝罪を。すいません。
かなり間が空いてしまいました。
遅れた理由は次の通りです。
1.仕事が忙しくなった。
2.転勤になった。
3.ちょっとユイドラを救っていた。
4.ちょっと神室町を救っていた。
5.ボルグ・カムラン堕天(雷)を狩っても、雷騎神酒がなかなか出なかった。
次回からも更新ペースが落ちると思います。すいません。