ここはグランドラインのとある島。
「う、うわ!鷹の目!貴様、何しに来やがった!」
「騒ぐな。お前達に用は無い。幹部どもはどこだ?」
その島に、世界最強の剣士、鷹の目のミホークはいた。
つい先日、政府から配布された手配書を、ある男に見せるために。
「こんな島でキャンプとは…暢気な男だ」
周りを囲む男達―――彼らはとある海賊団の一員である―――を威圧しつつ、ため息をつく。
しばらくして、彼を包囲していた海賊達の一人が、奥のジャングルへと駆けだした。
「頭ァーーー!!」
自分達の船長に世界最強の剣士がやってきたことを知らせるために。
「………」
ミホークは無言でその男の後を追っていった。
それを止めようとするほど、包囲していた海賊達は馬鹿ではなかった。
「…ん?おう、“鷹の目”。こりゃあ珍客だ」
ジャングルの奥に居たのは数人の男に囲まれた赤髪の男だった。
この男こそ、グランドライン後半の海、通称『新世界』の頂点に君臨する4大海賊の一人、“赤髪のシャンクス”である。
彼こそ、ルフィが海賊王を目指す切っ掛けを与えた人物だ。
「おれは今、気分が悪ぃんだが…勝負でもしに来たか?」
「ふん…片腕の貴様と今更決着をつけようとも思わん」
シャンクスの左腕は、肩から先がない。昔、ルフィを庇ったときに失ってしまっているからである。
それでもなお、この男は世界最強クラスの海賊なのだ。
「面白い海賊を見つけたのだが…ふと、お前が昔していた話を思い出した。ある小さな村のガキの話だ」
ミホークは一枚の手配書をシャンクスに渡す。其処には、麦わら帽子をかぶった笑顔の男が写っていた。
「………」
「何!?まさか…!」
手配書を見た幹部達が立ち上がる。彼らもまた、幼少時のルフィと関わりを持っているのだ。
「来たか、ルフィ」
ニヤリとシャンクスが笑った。
「おい、みんな!飲むぞ!宴だぁ!」
「あんた今飲み過ぎで苦しんでただろうが!」
「んなもんもう治った!こんな楽しい日に飲まないでどうする!鷹の目、お前も飲んでけ!」
陽気そうに笑いながら、シャンクスはミホークに酒を勧める。
ミホークはそれを鬱陶しそうに払いのけ、更に話を続ける。
「…おれが持ってきた話はそれだけではない」
更にもう一枚、手配書をシャンクスに渡す。幹部達もそれを後ろから覗き込んだ。
「おお!めっちゃ美人!」
「良い女だな」
「なかなか良い面構えだ」
幹部達はそれぞれの感想を述べる。そして、シャンクスは―――
「…血の臭いがする。それも、とびきり濃い、な」
女の本性を正確に見抜いた。
「その女の名はカリギュラ。お前が話していたガキの海賊団の副船長だ。そして、この傷を付けた実力者でもある」
ミホークは右頬に残る傷跡を撫でる。
「ほお…お前に傷を負わせるとはな。どんな奴なんだ?」
「一言でいえば、人喰いの化物だ。おれは実際に見ていないが、イーストブルーの名のある海賊を2人程喰らったらしい」
「へー、食人族かな?」
「肉食系の動物が悪魔の実を食ったのかもな」
「まあ、別段驚くようなことじゃねぇな」
この海賊団において、人喰いなどその程度のものらしい。
「さすがはルフィ。そんな奴を仲間にするとは…これは将来が楽しみだな」
シャンクスは楽しそうに笑う。
「ああ。実際、大したものだと思う。この女、冷めているようで、意外に激情家でな。対応を誤れば、文字通り即座に喰らいついてくるような奴だ。どうやって手懐けたのかは知らんが、化物(ひと)を引き付ける才能はお前をも凌ぐかもしれんな」
其処まで言って、ミホークは目を閉じる。
「…これは海軍にも言っていないことなのだが、おれと戦ったとき、カリギュラは万全の状態ではなかった。否、それどころか、身体はボロボロで、半分の実力も出せていなかっただろう」
「おいおい、冗談だろ?」
腰に銃を下げた幹部の男には、世界最強の剣士に、半分以下の実力で傷を残すルーキーが居るなどという話は、冗談にしか聞こえなかった。
「事実だ。実際、あの女が万全の状態であったならば、勝負はどちらに転ぶかわからなかった」
「お前に其処まで言わせるとはな。おれも興味が出てきたなぁ~」
シャンクスは顎を摩りながら、微笑を浮かべる。
「よかったじゃねぇか、鷹の目。片腕になっちまったおれはお前と決着をつけられないが、そのカリギュラっていう奴がお前のライバルになれそうなんだろ?」
「…可能性はある、と言うだけだ」
そう言いながらも、ミホークの口元は笑みを作っていた。
「うお!あの鷹の目が笑った!?」
「初めて見たぞ…おい」
「…明日は空島が降ってくるな」
何気にひどい。
「よし!じゃあ、お前にライバルが出来た祝いに乾杯しよう」
「…貴様が酒を飲みたいだけだろう…まあ、たまには付き合ってやる」
「「「ギャー!今日が世界最期の日かァァァッ!?」」」
その後、幹部3人がミホークにボコボコにされたのは言うまでもない。
◆
グランドラインの海軍本部元帥の部屋。
その一室で凄まじい怒声が鳴り響いていた。
「ルフィの奴め!わしが少し目を離した隙に海賊になどなりおって!」
部屋には二人の男。
怒鳴っている男は白い短髪の老人。しかし、その熊と見まごう程の巨体と鍛えられた肉体は、彼が相当な実力者であることを窺わせる。
「…兄のエースに次いで弟もか…お前のところの家族は一体どれだけ世界に害をまき散らすんだ?」
呆れたようにため息を吐いたのはカモメが乗った帽子をかぶり、髭を三つ編みにした大男。
先の老人は海軍の英雄、海軍中将『モンキー・D・ガープ』。名前から解るとおり、ルフィの祖父に当たる。
もう一人の男は海軍元帥『仏のセンゴク』。海軍の頂点に立つ男だ。
「やかましいわ!わしはちゃんと最強の海兵に育つように育てたんじゃ!」
「…山賊に孫を預けといてよくそんなことが言えるな。まあ、お前の孫らしいと言えばらしいか。“麦わらのルフィ”、懸賞金3000万ベリー…初頭の手配額としては世界的にも異例だな」
センゴクは手元の手配書を見ながら呟く。
「あ、やっぱり?さすがわしの孫じゃろ?」
「褒めて無い!」
ガハハハハと笑うガープに頭を抱えながら、センゴクはもう一枚の手配書に目を移す。
「そして、問題はお前の孫の一味にこの女がいることだ。“人喰らいのカリギュラ”初頭手配額1億ベリー。この金額は歴史上でも片手の指で数えられる程度だ」
「センゴク…」
真面目な顔でガープがセンゴクに顔を向ける。
「もう年なんじゃからあんまりお盛んなのもどうかと思うぞ?」
「貴様は一体何の話をしとるんだぁぁぁッ!?」
センゴクは座っていたイスから立ち上がり、机を力いっぱい両の掌を叩きつけた。
「冗談じゃ冗談。人喰いくらいそれ程珍しいもんじゃないじゃろう。ま、あの鷹の目に傷を付けた点はちょっと気にはなるがな」
ガープ言うとおり、食人の風習をもつ部族等はそれほど珍しくは無い。グランドラインはおろか、4海でも結構な数がいる。
「…おれが気になるのは食人そのものではない。その捕喰方法だ。報告書によれば、この女の腕が巨大な顎門に変わり、人を丸のみにしたとある」
「…何?」
それを聞いたガープの目つきが変わる。
「この女はあの生物達と関係があるかもしれん」
「…あいつらと?」
ガープが目を細める。
「だが、あの生物がこんな4海までどうやってきたというんじゃ?そもそもあの生物たちの中にこのような人間型の奴はいなかったはずじゃ」
「…4海まで来た経路については全くわからんが、姿かたちに関しては、悪魔の実を食べた可能性がある。動物系悪魔の実の中には“ヒトヒトの実”というものもあるしな」
「もしこの女があの生物達の仲間なら、ルフィが危ないかもしれんな」
「言っておくが、助けに行こうなどとは考えるなよ?」
センゴクがガープを睨みつける。
「この男はすでに賞金首。世界政府の敵だ。海軍に所属するお前が助けに行くなどと言うことは、到底見過ごせん」
「…ふん。そんな気は更々ないわ」
「まあ、そういうことにしておいてやる。それに、自分で言っておいて何だが、まだ完全にこの女があの生物達の一種だと決まったわけではない。むしろ、そうでない可能性の方が高い」
センゴクが天井を仰ぐ
「どちらにしろ、奴らは賞金首となったんだ。イーストブルーでのんびりとはしていられまい。おれの予測通りだとすれば、もうまもなくローグタウンに入る頃だろう。あそこの支部には本部のスモーカー大佐がいる。うまくすれば、そこで捕えて牢獄送りにしてくれるさ」
「ああ、あの問題児か」
「貴様がそれを言うか?」
センゴクがジト目でガープを睨むが、彼は気にも留めない。
「ところで、もう茶うけはないんか?」
「奥の戸棚にあるから勝手に取ってこい」
「チ、客に対するマナーがなってないのう…」
文句を言いながら棚を漁るガープ。こんなのでも海軍の英雄である。
「…お、黄金栗の羊羹みっけ!」
「あ!貴様、それはおれが楽しみにして、隠しておいたやつだぞ!?」
「知るか!食ったもん勝ちじゃわ!」
「待て!返せーーー!!」
今ここに、海軍本部元帥の部屋で壮絶な鬼ごっこがはじまった。
…こんなのでも、一応、海軍の英雄とトップである。
◆
「おい、なんか島が見えるぞ?」
私の手配書についてひと悶着あった後、いつの間にか起きていたゾロが船の前方を指差す。
「見えたか………」
どうやら、ナミはあの島が何か解っているようだ。
先日の会話から考えれば、答えは一つ。
「察するに、あれが『ローグタウン』か?」
「その通り。グランドラインに一番近い町よ。そして、海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑された町でもあるわ」
「海賊王が死んだ町…」
ルフィが島を見つめながら一人呟く。
「行く?」
ナミの問いに、ルフィが何と答えたか、語るまでもあるまい。
ローグタウンはこれまで見てきた町の中で、最大のものだった。町のゲートから続く街並みは活気に溢れ、人間の数も段違いに多い。
…何と言うか―――
「無性に腹が減ってきたな」
「怖ぇ発言すんな!」
相変わらず、キャプテンの突っ込みは鋭いな。
「よし、おれは海賊王が死んだ死刑台を見てくる!」
「ここは良い食材が手に入りそうだ。あと女♡」
「おれは装備集めに行くか」
どうやら、ここからは各自自由行動になるようだ。
「おれも買いてぇもんがある」
「貸すわよ?利子3倍で」
ふむ、ゾロの買いものとは十中八九、刀だろう。
ゾロはミホークに愛刀を折られてから、未だに新しい刀を見つけていない。
アーロンパークではヨサクとジョニーの剣を使って戦ったと聞いた。
…実験がてら、試してみるか。
―――集積情報検索。検索ワード『刀』。
―――検索中…該当件数34件。
―――該当要件から『刀』の構成、形状を抽出。
―――オラクル細胞加工開始………完了。
掌が盛り上がり、1.5m程の長細い物体を形作る。それは瞬く間に蒼い鞘に収まった刀の形を形成した。
「ゾロ」
「ん?なんだ、カリギュラ」
「これをやる」
私は、自身のオラクル細胞から作りだした刀(正確にはモドキだが)をゾロに渡す。
「これは…」
「私の細胞から作りだした刀…のようなものだ。ただ単に私の魔氷を加工したジョニーの剣よりも造りはしっかりしている。数打ちの刀よりは役に立つだろう」
「そうか、あのジョニーの剣はカリギュラが造ったんだったよな。あれでさえとんでもねぇ切れ味だったぞ?」
「そうなのか?」
「ああ、タコの魚人の剣を豆腐でも斬る見てぇに切断した。斬鉄ってのは本来剣士の秘奥の一つなんだがな…」
「剣技に関しては解らんが、確実に言えるのは、その刀は“色々な面”でジョニーの剣を上回るものだ。使いこなせるかはお前の腕次第だ」
「おれの腕次第か…」
ゾロは刀を握り締めた。
「本来ならもう一本作ってやりたいんだが…今の私ではオラクル細胞の加工はそれが限界だ。すまんな」
「十分すぎる。残りの一本はナミから借りた10万ベリーでなんとかするさ」
ゾロは背を向けてローグタウンの街中へ消えていった。
アーロンパークで魚人達を喰って修復率が50%を越え、本体からオラクル細胞を離しても制御できるようになった。あの刀はその試運転も兼ねて造り出したものだ。
オラクル細胞そのものを加工したものなので、ゾロに渡した刀は私自身とも言える。しかし、それでは私に何かあったときにオラクル細胞が暴走する可能性があるため、あの刀には私のコアを模写したコアを埋め込んである。つまり、あれは刀の形をしたアラガミなのである。
…色々と危ういところはあるが、ゾロなら平気だろう。…多分。
「―――?どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
一応、刀のオラクル細胞は私も制御できるようにしておいたし、“万が一”が起きても問題は無いだろう。
「さて、お前はどうするんだ?ナミ」
「私はショッピングよ。カリギュラもどう?」
「…いや、私は食べ歩きに行く。何か腹に入れていないと道端の人間を喰ってしまいそうだからな」
「うん!是非そうして!」
私の両肩をガッシリと掴み、ナミは真剣な目で私を凝視した。
…冗談だったんだけどな。
◆
武器屋へ向かう道すがら、ゾロは悪漢に襲われそうな少女を見掛けた。
すかさず助けようとしたゾロだったが、少女は手にした刀を素早く抜き放つと、あっという間に悪漢を退治してしまった。しかし、勢い余ってコケて眼鏡を落としてしまう。
眼鏡はゾロの足元に落ちていたので、彼はそれを彼女に手渡した際、顔を見て息をのんだ。
整った顔立ちのショートの黒髪に同じく黒い瞳の刀使いの剣士。
今は亡き幼馴染の少女に生き写しだったのである。
ゾロはそのまま少女と別れると、「世の中には同じ顔を持つ人間がいるってのは本当なんだな」と考えつつ、武器屋へとたどり着く。
武器屋の店主がゾロの白拵えの刀を名刀『和同一文字』と見抜き、だまし取ろうとしたところ、先ほどの少女が急に割り込んできて、ゾロにそれが名刀であることを説明した。
自分の企みが失敗したことを悟った店主は、乱入してきた少女を怒鳴りつけると、投げやりに5万ベリー均一の刀が刺さった樽を指差した。
少女も共に樽の刀を見繕っていると、一本の刀を手にして驚きの声を上げた。
少女が手にしていたのは『三代鬼徹』。通常なら100万ベリーは下らない業物であるにも拘らず、なぜかこの樽の中にあった。
ゾロは説明されるまでもなく、その意味を悟った。抜き放った刀身から感じる言い知れぬ不吉な気配。これは持ち主を死へと誘う妖刀であると。
店主と少女はそれを持つのはやめろと言うが、この男、そんなことを恐れはしない。むしろ、鬼徹を気に入り、これをくれと言いだした。
しかし、店主はお前が死んだら目覚めが悪いと売るのを渋る。ゆえに、ゾロは鞘から抜いた鬼徹を真上に放り投げ、その落下軌道上に自分の左腕を差し出した。下手をすれば、間違いなく左腕が無くなる。
店主と少女はゾロの狂気の所業に目を見開いて驚くことしかできなかった。
だが、鬼徹はゾロの左腕に傷一つ付けることは出来ずに、床に突き刺さった。
こうして、ゾロは鬼徹の呪いと自分の運、どちらが強いか見せつけたのだった。
「うっし。これで刀三本揃ったな」
床に突き刺さった鬼徹を引き抜き、鞘に入れて腰に差す。
「オヤジ、勘定だ」
「―――!ちょっと待ってろ!」
先ほどのゾロの運試しを目の当たりにして腰を抜かしていた店主は勢いよく立ちあがると、店の奥から一本の刀を持ってきた。
「造りは黒漆太刀拵え。刃は乱刃小丁字。良業物”雪走り”!切れ味はこのおれが保証する。これが、おれの店で最高の刀だ」
「ハハ…悪いけど金がねぇから買えねぇよ。それに、刀はもう間に合ってる」
「いや、言っちゃ悪いが、お前さん刀の腕は確かみたいだが、鑑定眼はいまいちだろう?もう一本の刀は大したことないんじゃねぇか?」
店主はゾロの腰にある蒼い鞘を見つめる。
「おいおい。これはおれの仲間がくれた刀だ。あんま悪くいわねぇでくれ」
「へえ、お仲間が…ちょっと見せてもらっていいですか?」
先ほどまで店主と同じように腰を抜かしていた少女も蒼い刀に興味を示したのか、立ちあがり、近寄ってきた。
「ああ、いいぜ」
ゾロは腰につけた蒼い刀を少女に渡す。
「蒼拵えの鞘は初めて見ます。私も刀については結構勉強してますけど、こんなに綺麗な蒼い鞘は見たことがありません」
少女は鞘から刀をゆっくりと抜いた。
「…うわぁ」
「…ほう」
「…こりゃたまげた」
3人の目に飛び込んできたのは真っ青な刀身。まるで蒼い水を凍らせて、そのまま刀にしたように見える。
たしぎは慎重に波紋や刃の強度等を調べていく。
「私の見立てでは良業物…いいえ、大業物に匹敵する逸品だと思います。いっぽんマツさんはどうですか?」
「おれも同意見だ。悔しいが、この刀の前じゃ、おれン家の家宝も霞んじまう。さっきのことは謝る。気を悪くさせてすまんな」
「いや、いい。おれもここまでのものとは思って無かったからな」
ゾロは少女から刀を受け取る。
(―――それは心外だな)
「―――?なんか言ったか?」
「いや?」
「いいえ?」
「空耳か…?」
何か声のようなものが聞こえた気がしたが、気のせいだったか、とゾロが刀を腰に挿し直して店を出ようとすると、少女が声を掛けた。
「あ、ちょっと待ってください。その刀の銘はなんて言うんですか?これだけの業物、そうそう見られませんから、憶えておきたいんです」
少女は愛用のメモを片手にゾロに迫る。
「い、いや、これを造った奴も特に何にも言ってなかったしな。無銘なんじゃねぇか?」
「そ、そんな!こんな名刀が無銘!?いけません!しっかりと銘を決めましょう!!」
少女の気迫にゾロは少し引く。
「そ、そうか…」
ゾロはしばし思考する。
この刀はカリギュラが造ったものだが、さすがの彼女も造刀技術まではもっていないだろう。
確か、先ほどこの刀は彼女自身のオラクル細胞という物から出来ていると言っていた。
つまり、この刀は彼女の分身のようなものだ。
ゾロはそこから銘を付けることにした。
「『蒼刃・氷女』。これがこの刀の銘だ」
「蒼“刃”ですか?蒼刀の方があってる気がしますけど…」
「いや、あいつが造った刀なら、“蒼刃”しかありえねぇ」
ゾロはキッパリと断言した。
「じゃ、おれはもう行く。そろそろ仲間と待ち合わせの時間なんでね」
ゾロは今度こそ、武器屋を後にした。
(『蒼刃・氷女』、か…なかなかに良い銘だ。気に入ったよ、主殿)
ゾロは不思議とそんな声を聞いた気がした。
◆
(なかなか気骨ある男だ。奴になら使われてやっても良い。安心したか?創造主)
(ああ。まあ、お前がゾロを気に入らなかったら、処分するつもりだったしな)
(…さすがは我が創造主。恐ろしいことをサラっと言うな)
(回りくどくなるよりはずっと良い。さて、お前がゾロを主と認めたのならば、私の方からの制御は取り外す。これでお前は本当の意味で一つのアラガミとなった。後は好きにしろ)
(私が言うのもなんだが、もう少し警戒するとかはしないのか?)
(それこそ無駄なことだ。別個体になったとはいえ、お前は私の分身。一度認めた者を裏切ることなどない。そのくらいは解るさ)
(…そうか。では、主殿のことは私に全て一任させて貰おう。では、また後ほど)
ゾロに渡した私の分身―――今は『蒼刃・氷女』だったか―――との念話を切る。
私達は元々一つの存在であったため、別個体となった今でも、念話と言う形で離れていても情報のやり取りが出来る。解りやすく言えば、個々の体内に電伝虫を内蔵しているという感じか。
さて、心配ごとも片付いたし、本格的な食事を開始しよう。
「店主、もう一度大食いチャレンジ系統の料理を全て持ってきてくれ」
「すいません!もう勘弁してください!」
これからというところで店の主人に土下座されてしまった。
やれやれ、これで16件目だぞ…まだ腹一分目にも満たないというのに。
最初に貰った10万ベリーなどとうに使い果たしてしまったしな。仕方がない、またチャレンジのある店を探すか。
「スモーカーさん!遅くなりました!」
「たしぎ!てめぇトロトロと何やってやがった!」
店を出ると、若い女の声とそれを怒鳴り飛ばす男の声が聞こえた。
声の方を見ると、刀を持った女と葉巻を二本咥えた白髪の男が目に入った。
男の背中には巨大な十手と“正義”の文字。正義の文字は海軍将校の証である。
そして、女の方は氷女を通して見た記憶がある。まさか海兵だったとはな。
「ちょ、ちょっと腰が抜けてて」
「抜けてんのは気合だけじゃたりねぇのか!?」
「ご、ごめんなさい…」
どうやら、たしぎという女はスモーカーと言う男の部下らしい。
「ついて来い。もう広場でことは起きている!」
「はい!」
広場…確か、あそこには死刑台があって、ルフィが見学に行ったはずだ。
…やれやれ、ルフィの奴め、今度は一体何をしでかしたのやら。
とにかく、私も急いで広場に向かうとしよう。
◆
「あ、大佐、曹長!」
海軍のローグタウン支部の指揮を任されているスモーカー大佐は、海賊達が問題を起こしている広場を俯瞰できる建物内に入った。
「状況は?」
「民間人が取り押さえられています。まず、今広場に居る賞金首は3人。“金棒のアルビダ”、“道化のバギー”、“麦わらのルフィ”」
先に建物内で海賊達を監視していた海兵から報告を受ける
「ルフィ?知らねぇ名だ」
「先日手配されたばかりですが、3000万ベリーの大物です」
「3000万!そりゃ久々に骨がありそうだな」
「いえ、それが…その男、今殺されそうです」
海兵が死刑台に固定されたルフィを指差す。
「…成程、海賊同士のいざこざか」
「す、すぐに突撃しますか?」
「バーカ、あわてんな」
浮足立つ部下にスモーカーは待ったをかける。
「し、しかし、ぐずぐずしていては…!」
「おれがこの町から海賊どもを逃がしたことがあったか?」
スモーカーの眼光に部下達はゴクリと息をのむ。
「い、いいえ」
「なら黙ってろ。海賊が海賊を始末してくれようってんだ。世話ねぇこった。いいか、あの“麦わら”の首が飛んだら、アルビダとバギー一味を包囲し、畳みかけろ」
「「「はッ!」」」
部下達は敬礼を返すと、それぞれの持ち場に散っていく。
しばしの間、ルフィとその首を刎ねようとする道化姿の男―――バギーとの間にいざこざがあった後、スモーカー達にも聞こえるほどの大音声でルフィが叫んだ。
―――「おれは海賊王になる男だ!」
死刑台の周りに集まった群衆にざわめきが走る。
「その死刑、待て!」
そんな中、死刑台に凄まじい勢いで向かう人影が2つ。
「―――!」
「どうした!?」
「ロロノア・ゾロです!」
海兵の一人がゾロを確認した。
「ロロノア・ゾロがこの町に!?」
たしぎは双眼鏡でその人物を確認する。
「賞金稼ぎか!こんな時に!」
「いえ、それが…あの“麦わら”の一味だという情報で…」
「何!?」
「―――!あの人…!」
スモーカーが驚くと同時に、たしぎもロロノア・ゾロが先ほど武器屋で遭った男であることを理解した。
ゾロともう一人の男―――サンジがルフィが捕えられている死刑台を破壊しようとするが、アルビダとバギーの部下に邪魔され、なかなか近付けない。
そして、無情にもバギーの持った処刑刀がルフィの首に振り下ろされた瞬間―――
―――バギーの身体が真っ二つに斬り裂かれた。
さらに追い打ちとばかりに、刀を持った上半身に落雷が落ちる。
「お、カリギュラ。お前、良く間に合ったな」
「かなりギリギリだった。しかし、殺される間際に笑うとは、お前も相当イカレてるな」
「そうか?」
「そうだ」
落雷の光が収まり、最初にスモーカーの目に飛び込んできたのはルフィの隣に立つ背中に機械的な翼を生やした青髪長髪の女だった。そして、死刑台からかなり離れているというのに、はっきりと解る左眼の色。
「ち、血色の左眼…!ス、スモーカー大佐!カ、カリギュラです!懸賞金1億ベリー!人喰らいのカリギュラです!!」
「2等部隊は直ちに突撃!3等部隊以下は民間人を避難させろ!急げ!“人喰らい”に喰われる前に!」
嵐の始まりを告げる豪雨が降りしきる中、3海賊団と海軍による大乱闘がここに幕を開けた。
【コメント】
基本的に原作と変わりの無いところはバンバン飛ばしていきます。そこを詳しく知りたい方は是非原作を読んでください。
…何気に真面目なコメントは初めてですね。