「…どうやら、治まったようだな」
あれからしばらくして、建物の崩壊は治まった。
私達の入っている球体状の氷『インキタトゥスの防壁』は瓦礫の中に埋もれてしまったが、氷壁には罅一つ入っていない。
「怖かった!カリギュラのブレードが首に掠った時はホントに怖かった!」
「…悪かった。謝るから、手を貸してくれ」
命があることに涙を流しているルフィをこちらに向けさせる。
「今からこの球体の上方の氷の硬度を下げる。一緒に瓦礫もろとも打ち砕いてくれ」
「応、任せろ!」
「よし、ではやるぞ」
球体の天井部分の硬度下げる。瓦礫の重みで氷にひびが入った瞬間―――
「ハァッ!」
「ウォリャァッ!」
ルフィと同時に瓦礫もろともブチ抜いた。
開けた穴から空が見える。
ただ、少々穴が深いので、飛んで出ることにする。
「ルフィ、飛ぶぞ。掴まれ」
「空飛べるって、ホントに便利だなー」
私はルフィを抱きかかえると、空に向かって飛翔した。
「ルフィ!カリギュラ!」
「「ヴァ…ヴァ~二ギャ~!グァ~ヌェズァ~ン!(訳:兄貴!姐さん!)」」
瓦礫の山から飛び出た私達を見つけたナミやヨサク達が歓喜の声を上げた。
そして、ナミを見たルフィが大声で叫ぶ。
「ナミ!お前はおれの…おれ達の仲間だ!」
「………!うん!」
ルフィの言葉に、ナミは涙を流しながら、笑って答えた。
「フフ…台詞は格好いいが、この姿では締まらないな」
空飛ぶ女に抱きかかえられるルフィの図。
「う………だ、だったら早く下せよ!」
「お望みのままに、船長」
「アーロンパークが落ちたァッ!」
地面に降り立った瞬間、目に入ったのはアーロンの支配から解放された人々の歓喜の声と姿だった。
…あ。
「忘れるところだった」
「―――?」
首をかしげるルフィをその場に残し、アーロンと戦闘前に放り投げたもう一つの木箱を担ぎ直すと、ナミの前まで持っていく。
「カリギュラ、これ何?」
「ネズミの入れ物」
木箱を殴りつけて破壊する。
「ヂギャッ!」
「こ、こいつ、確か海軍の…!」
木箱の中に入っていたのはナミから金を奪った海軍の大佐である。
海軍の船でボコボコにした後、木箱にブチ込んでここまで持ってきた。
「お前のために生かしておいた。殺すなり、埋めるなり、好きにしろ」
「どっちにしろ殺すのかよ!」
キャプテンの突っ込みを聞きつけたのか、残りの仲間や群衆達も集まってきた。
「おばえら、おれにでをだじでみろ、ただじゃずまないがらな」
む、もう喋ることが出来るとは。確かに喉は潰したはずなんだが…
「これ、返すわね」
「―――!」
ナミは麦わら帽子をルフィの頭に被せると、愛用の棍を持って海軍の男のそばに近づいた。
「ノジコを撃った分と…ベルメールさんのみかん畑をグチャグチャにしてくれた分…きっちりと受け取りなさい」
言うが早いか、ナミは棍で思い切り男の顔を殴打した。
「ごハァッ!」
男はそのまま海と繋がっているプールへと落ちる。
「ありがと、ナミ。スッキリしたよ」
「もう千発ぐらい入れてやれ!」
「よし、リクエストにお答えしよう」
「…お前さんがやったら一発で顔が潰れたザクロみたいになりそうだからやめてくれ」
そうか?あの男見た目よりもずっと丈夫だぞ?
「ふぱはぁ!」
ほら、しぶとい。
男はプールサイドに手を掛けて、顔を出した。
すかさずナミが男のネズミのような髭を引っ張り上げる。
「あんた達はこれから魚人達の後片付け!」
「あ、ナミすまん。その男の部隊は全員喰らってしまったので、いない。代わりに、私がここに転がっている魚人達を処理しよう」
「「…は?」」
頭に風車を刺した男とノジコが「こいつ、何言ってるんだ?」という表情で私を見た。
…何か腹が立ったので、右手を捕喰形態に移行し、近くに転がっていたエイに似た魚人を一呑みにした。
「「………!!」」
風車男とノジコは絶句。
「…カリギュラ、あんまり刺激の強い光景をノジコ達に見せないで。ここから人がいなくなったら処理してちょうだい」
「了解した」
ナミに捕喰を見せるのは初めてだったはずなんだが…なかなかに肝が据わっている。
「う~ん…(バタ)…」
キャプテンも見習え。
「…話の続き。基地に居る残りの奴らに手伝わせてゴザの復興に協力!アーロンパークに残った金品に一切手を出さない!あと、私のお金…は、カリギュラが取り返してくれたか」
それだけ言うと、ナミは男の髭を手放した。
解放された男はプールサイドから十分離れると、私に向かって怒鳴り声を上げた。
「憶えてろ、このクソ海賊ども!青髪の人喰い女!名前をカリギュラと言ったな!お前が船長なんだな!?」
「違ぇ!おれが船長のルフィだ!カリギュラは副船長だ!」
おい、いつ決まったんだ?
「よし、憶えたぞ!忘れんな!テメェら凄いことになるぞ!おれを怒らせたんだ!絶対に復讐してやる!」
「…やはり、ここで魚の餌にしておくべきだな」
左腕のブレードをぺロリと舐める。
「ヒ、ヒィィィィッ!」
男は悲鳴を上げながら一目散に逃げて行った。
「おいおい、凄いことになるってよ」
「なんでおれが海賊王になること知ってんだ?」
「そうじゃねぇだろ、馬鹿だなお前」
「おい、どうする!?マジで凄いことになったらどうする!?」
「安心しろキャプテン。私が何とかしてやる」
「おお、頼もしい!」
「海兵か…実のところ、あの男の部隊はあまり美味くなかった。今度来る海兵は美味いと良いのだがな」
「そして恐ろしい!」
「さあ、みんな!私達だけが喜びに浸っている場合じゃないぞ!この大事件を島の全員にに知らせてやろう!アーロンパークはもう滅んだんだ!」
後ろで群衆が島中にこの朗報を知らせるために、駆けだすのが見えた。
…では、私も食事に移るとしよう。
◆
「…ふむ、やはりここまで重症だと、完全に治癒させることは無理だな」
アーロンパークでの戦闘で、大怪我を負っていたゾロに、ヒールバレットを撃ち込んだが、完全には直しきれなかった。
いかに改良したとはいえ、偏食因子を持たない人間に多量に撃ち込むのはリスクが高すぎる。
「そうか。けど、大分楽になったな」
「本来なら全治2年の大怪我だぞ!?それが傷跡しか残らん程までに一瞬で治癒するとは……その弾丸は一体何なんだ!?」
「カリギュラ特製の『癒し弾』だ。すげぇんだ」
…何だそのエキサイトに翻訳したようなネーミングは。
「まあ、これはまだまだ安全性に問題がある治療方法だな。早めに船医を仲間にすることを勧める」
「船医かー、それもいいなー…でも音楽家が先だよな」
「…何でだよ」
「だって海賊は歌うんだぞ?」
「…船医を後回しにしてでも音楽家とは……よほど海賊にとって、音楽と言うものは重要なのだろうな」
「…お前、頭良いけど時々馬鹿だよな」
………
◆
ここは海軍基地第16支部。
アーロンパークから命からがら逃げかえったネズミ大佐は、海軍本部と連絡を取っていた。
「もしもし!」
「はい、海軍本部」
「本部に要請する!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるよ」
ネズミ大佐と会話している海軍本部の通信員は、ネズミ大佐の怒鳴り声に辟易しながら答える。
この世界で長距離通話の手段として使われているのが、ネズミ大佐が使用している『電伝虫』と呼ばれる生き物だ。彼らは電話のように、人間が周波数を指定してやれば、世界中の同個体の内、一つに電波を届ける性質を持つため、離れた場所にいる人物との会話が出来る。
また、電伝虫には様々な亜種が存在するが、ここでは割愛する。
「いいか!青髪長髪の“カリギュラ”、麦わら帽子を被った“ルフィ”という2名の海賊!並びに以下4名の“その一味”を我が政府の『敵』とみなす!」
「カリギュラ…ルフィ…と」
海軍本部の通信員はネズミ大佐の言った名前を控える。
「かのアーロンパークの“アーロン一味”打ち崩す脅威、危険性を考慮の上、その一味の船長ルフィと副船長カリギュラの首に賞金を懸けられたし!」
「了解」
「写真を送信する!」
電伝虫には見たものを画像として送る機能もある。
電伝虫の前に置かれているのは振り返った瞬間の青髪長髪の美女の写真だ。ただ、深い血色に光る左眼が何とも言えない不気味さを漂わせている。
これは、ネズミ大佐の船内部で監視カメラの役割を果たしていた電伝虫が取った写真である。
この時、カリギュラは電伝虫がどういう生物なのかを知らなかったので、「何か変な虫がいる」程度の認識で素通りしてしまったのである。
「今送った写真は副船長カリギュラのものだ!この女は私の船に侵入し、船員を皆殺しにした上、死体を全て食ってしまった!明らかに危険な悪魔の実の能力者だ!」
「…!それは確かなのか!?」
「確実だ!私もこの目でこの女の右腕が巨大な口に変化し、人を食っているところを目撃した」
「了解した。その通りに上に報告する」
そして、次にルフィの写真が送られた。
「………よし、写真は全て受け取った。早急な事実確認の後、上に承認を求める」
「いいな!そいつらは凶悪な海賊だ!生死問わず、全世界指名手配の“賞金首”にしてくれ!」
こうして、世界にまた新たな賞金首が2人誕生した。
◆
アーロンからの解放を祝う宴は3日目に突入した今も終わることは無かった。
私も魚人達は“処理”し終わってしまったので、村の立食パーティーに参加している。勿論、食事…じゃなかった、“処理”は村人が見ていないところで行った。ナミに口を酸っぱくして言われたしな。
…あの時のタコの魚人はいつの間にか消えていたので、喰えなかったのが残念でならないが。
…うむ、この生ハムメロンというのは美味いな。
「あ、カリギュラ!」
「ルフィか?どうした」
骨付き肉を手と口に一杯に詰め込んだルフィがやってきた。
「生ハムメロンってどこにあるかわかるか!?」
「ああ、それならここに…」
生ハムメロンの皿は空っぽだった。
「…?ついさっきまでは山のようにあったのだが」
「いや、嬢ちゃんが物凄ぇ早さで食っちまっただろうが」
…え?
「くっそー!おれも食いてぇ!生ハムメロン!カリギュラ、お前も一緒に探せ!」
「わかったわかった。とりあえず、村はずれに向かって探すとしよう。向こうはまだ私も行っていない」
「応!」
私はルフィと一緒に、未だ収まること知らない宴の熱気の中、村はずれへと向かっていった。
「生ハムメロン!」
結局、あれから生ハムメロンは見つからず、村はずれの崖まで来てしまった。
…あそこに居るのはノジコと一緒に居た男か。
あの風車、間違いないだろう。
「あり…この辺は食い物ねぇな…まいった」
「………」
「………」
男が何か語りたそうにこちらを見ている。
「戻るぞ、カリギュラ」
「了解した」
とりあえず無視する。
「待て、小僧!小娘!」
「…?墓か。誰か死んだのか」
「ああ、死んだよ。昔な」
おそらく、ナミとノジコの育ての親、ベルメールの墓だろう。
「いや、それはどうもこのたびはゴチュージョーさまでした…ん?」
「御愁傷様、だ。ルフィ」
「それだ!」
「おい、小僧、小娘。…ナミはお前達の船に乗る。海賊になる…危険な旅だ。………もし、お前らがあの子の笑顔を奪うようなことがあったら、私がお前らを殺しに行くぞ!」
「………」
「…まあ、おれは別に奪わねぇけど―――」
「わかったな!!!」
ルフィの曖昧な返答を遮るように、強い口調で聞き返す風車の男
「了解した。もし、ナミから笑顔を奪うようなことがあれば、私は自らこの命を差し出そう。まあ、そんなことは万に一つも無いがな」
「ほう、何故だ?」
「私が、そして、私達が必ず守るからだ」
「応!その通りだ!」
私達の迷いなき断言に、風車の男は目を見開いた後、微笑を浮かべた。
◆
出航の日、ナミは自分が稼いだ一億ベリーを置いて行くのと引き換えに、村人全員の財布をスるという、何ともらしい別れを告げ、ゴーイング・メリー号にて出航した。
甲板で女二人、並んで雑談をしている。
「やれやれ、お前は何も変わってないな、ナミ」
「あら、アーロンの束縛から自由になった程度で、私が変わるとでも思ってたの?」
「…それもそうか」
空は快晴。カモメが鳴きながら飛んでいる。
…ケジメをつけなければな。
「…ナミ、私はバラティエでお前が船を盗んで逃げだしたとき、その裏切りに憤怒し、我を忘れて本気でお前を殺そうと思った。だが、お前はアーロンが暴れだしたことを聞き、あの村のために、仕方なく私達と別れたのだな。…このような浅慮で愚かな私を許してくれ。本当にすまなかった」
姿勢を正し、ナミに向かって真っすぐに頭を下げる。
「や、やめてよカリギュラ!どんな事情があるにしたって、あの時裏切ったのは事実だし、カリギュラ達が来てくれなかったら、私は今でもアーロンの言い成りだった。むしろ、謝らなきゃいけないのは私の方よ。だから、気にしないで」
「そうか。ありがとう、ナミ」
「こちらこそ。でさ、次に向かうのはグランドラインの入り口に最も近い町、『ローグタウン』なんだけど、一緒にショッピングしない?」
「ショッピングか…あまり興味は無いな」
「カリギュラも女の子なんだから、きっと楽しいって!」
「だがな―――」
「だから―――」
日が暮れるまでナミと雑談をした。
何と言うか、今まで以上にナミとの距離が縮まった気がする。
ナミと『親友』になった日。それが今日だ。
◆
「また値上がりしたの?ちょっと高いんじゃない?あんたんとこ」
「クー」
ナミがニュースクーから新聞を受け取りながら購読料が上がったことに不満を漏らしている。ナミらしいな。
―――本によると、まずは地面に10㎝程度の深さの穴をあけて。
「何を新聞の一部や二部で」
そんなナミの声を聞いて、何らタバスコを弄っているキャプテンが呆れた声を出す。
―――で、“苗木”を差し込んで。
「毎日買ってると馬鹿になんないのよ」
「お前もう金集めは済んだんだろ?」
「馬鹿ね。あの一件が終わったからこそ、今度は私のために稼ぐのよ。貧乏海賊なんて嫌だからね」
「おい、騒ぐな!おれは今『必殺タバスコ星』を開発中なのだ!これを目に受けた敵はひとたまりもなく―――」
「触るなァッ!」
「うわッ!」
サンジに蹴られたルフィがキャプテンにぶつかり、手に持っていたタバスコが目にドバっと掛かった。
うん、あれは死ねる。
―――水をやる。早く実がならないかな。
「ぎぃやァァァァァァァ!」
「なんだよ、一個くらい良いじゃねぇか!」
「ダメだ!ここはナミさんのみかん畑!このおれが指一本触れさせん!」
そういえば、隣に植わっているみかんの木はナミが家から持ってきた物だったな。
―――肥料もやった方が良いかな?
「まあ、今は気分が良いからいいや。でも、カリギュラが隅っこで何かやってんぞ?」
「ん?カリギュラちゃん、何やってるの?」
船のみかん畑(と言うには少々小さいが)の隅で作業をしていた私にルフィ達が気付いた。
「私も何か育ててみようと思ってな。ちょっと苗木を植えていたんだ」
「へー、カリギュラもそういうことに興味があるんだ」
新聞を読もうとしていたナミがこちらに歩いてきた。
「なになに?何を植えたの?」
「これだ」
みかん畑の隅にポツンと植わるギザギザの鋸状の物体。
「「「「「アーロンの鼻なんか植えるなッ!」」」」」
ナミに引っこ抜かれて海に捨てられてしまった。
「な、何をするんだ!あの鼻を育てれば、いずれたくさんのアーロンが収穫出来たはずなのに!」
「「「「「出来てたまるかァァァッ!」」」」」
その後、ナミに動物は植物とは違い、土に植えても成長しないことを教えられた。
私の『アーロン食べ放題計画』はここに潰えた。ああ、あいつ私好みの味だったのに…
「はあ…カリギュラ、あんたって、時々とんでもなく基本的なことを知らないから、何をするか予想がつかないわね」
「元々はただ喰らうだけの存在だったんだ。人間の常識なぞ、私にとっては未知の領域だよ。まあ、恥は掻きたくないし、一般教養の本も読むようにしよう」
「それが良いわね。あ、じゃあ、まずはこの新聞読んでみれば?世界の情勢だけじゃなくて、人間がどういうことに興味があるとかわかると思うし」
ナミが新聞を手渡してきた。
「そうだな。そうしよう」
私が新聞を開いて内容を読もうとした時、1枚の紙が新聞から滑り落ちた。
「「「ん?」」」
近くに居たルフィとナミ、そして未だ悶絶するキャプテンが落ちた紙を見つめる。
私も落した紙に目をやると、其処にはなかなか面白いことが描いてあった。
「ふむ」
「あ…」
「あ…」
「あ!」
「グー…zzz」
「お」
「「「ああァァァァァァーーーーーッ!!」」」
さて、これから更なる刺激に満ちた楽しい毎日を送れそうだ。
◆
世界政府直下“海軍本部”。
今、ここではある2人の賞金首について、将校達の会議が行われていた。
「―――では、少なくとも、もう支部の手に負える一味ではないということか?」
「そういうことです」
質問に答えたのは、額が眩しいサングラスを掛けた男、海軍本部少佐『ブランニュー』。
「“道化のバギー”1500万ベリー、海賊艦隊提督“首領・クリーク”1700万ベリー、魚人海賊団“ノコギリのアーロン”2000万ベリー。懸賞金アベレージ300万ベリーのイーストブルーで、いずれも1000万の大台を越える大物海賊団ですが、粉砕されています」
ブランニューはルフィの手配書をボードに叩きつける。
「まずは一味の船長についてです。“麦わらのルフィ”、初頭の手配から3000万ベリーは世界的に見ても異例の破格ですが、決して高くないと判断しています。こういう悪の芽は早めに摘んで、ゆくゆくの拡大を防がねば」
「そうだな。で、次が本題だということだが?」
「はい」
ブランニューは頷くと、カリギュラの手配書を同じくボードに叩きつける。
「一味の副船長、“人喰らいのカリギュラ”。ある意味、この女の存在が一味の危険性を押し上げていると言っても過言ではありません。まず、先ほどあげた3名の海賊達ですが、バギー以外の者は消息不明、さらに、構成員も忽然と姿を消しています。これについて、実際に対峙した第16支部のネズミ大佐の証言や、その他海賊達の戦闘の目撃者からの情報から、信じがたい事実が判明しました。…この女は、第16支部の船の乗船員、そしてアーロンおよび海賊団の構成員を文字通り喰らい尽したということです」
会議場にざわめきが起こる。
無理もない。いかに百戦錬磨の海軍将校といえども、人喰いの化物がいると聞いて、平静さを保っていられる方がおかしい。
中にはそのおかしい者たちもちらほら居たが。
「クリーク海賊団については明確な情報はありませんが、おそらく同じ末路をたどったと思われます。このことから、非常に危険な悪魔の実の能力者であることが予測されます」
「どんな実を食べたのか、はっきりとしないのか?」
「はい。情報では変身能力を有しているとのことですので、動物系だと思われますが、特定は出来ていません。可能性が一番高いのが動物系幻獣種とのことです」
「ルーキーにして、自然系よりも希少と言われる動物系幻獣種の能力者か…」
「問題はそれだけではありません」
ブランニューは一層深刻そうに顔を顰める。
「実は、グランドラインに入ってきたクリーク海賊団を追っていた七武海“鷹の目のミホーク”氏が、この女と戦闘を行っています。そして、ミホーク氏に小さいとはいえ、一生ものの傷を負わせたとのことです」
ざわめきが更に大きくなる。
「あの鷹の目にか?…戦闘力は4海クラスではないな。グランドラインでも相当な強者に入るぞ」
「確かに、それも脅威ですが、問題はここからです。ミホーク氏によれば、彼の愛刀である“黒刀・夜”で確かに心臓を貫いたとのことです。しかし、この女は実際にまだ生きて人喰いを続けている。このことから、『白ひげ海賊団』1番隊隊長“不死鳥マルコ”に匹敵する再生能力、もしくは不死性を持っていると思われます」
「心臓を貫いても死なない…まさに『化物』だな」
その将校の言葉は会議場の全員の意見を代弁していた。
「以上のことから、麦わらの一味副船長カリギュラは、人を喰らい、七武海に傷を負わせる高い戦闘力を持ち、更には高い不死性を兼ね備えた凶悪な怪物であると結論付けます!」
ブランニューは再度、カリギュラの手配書に拳を叩きつける。
「初頭の手配額『1億ベリー』!歴史上でも類を見ない額ですが、この女の危険性を鑑みれば、決して高くは無いと判断いたしました。この化物がこれ以上力をつける前に、確実に抹殺しなければなりません!」
ブランニューの意見に、会議場に集まった将校達から、反論が出ることは無かった。
◆
「なっはっはっは!おれ達はお尋ね者になったぞ。3000万ベリーだってよ!」
ルフィは自分の手配書を持って嬉しそうに笑っている。
「あ、見ろ!世界中におれの姿が!モテモテかも!」
キャプテンがルフィの手配書の自分の後頭部を指差して自慢げにしている。
「後頭部だけじゃねぇかよ…ケッ」
「そうだな、モテモテだな………ハッ」
「鼻で笑うな!ははーん、カリギュラ、お前手配書に写ってるおれに嫉妬してるんだな?安心しろって、もっと有名になれば船長じゃなくても手配書に載るって!」
「あんたらまた見事にことの深刻さがわかってないのね。これは命を狙われるってことなのよ?この額ならきっと“本部”も動くし、強い賞金稼ぎにも狙われるし…」
ナミが仲間達の気楽さに頭を抱えていると、更に新聞から1枚紙が私の足元にこぼれ落ちた。
「これは………」
「どうしたのカリギュラ?」
「…とりあえず見てくれ」
私は拾った紙を仲間達に見せた。
―――『麦わらの一味 副船長 “人喰らいのカリギュラ” 懸賞金:1億ベリー』
「「「「い、1億ベリィィィッ!!」」」」
寝ているゾロを除く全員が驚愕する。
「なんで船長のおれより懸賞金額が高いんだよ!」
「突っ込むところはそこじゃないでしょーが!?1億ベリーの賞金首なんて、グランドラインの海賊でもそうはいないわよ…」
…それよりも気になることがあるんだが。
「…私はもう副船長で決定なのか?」
「ぜってーカリギュラの賞金額越えてやるからな!副船長より賞金額が低いなんて、格好がつかねぇ!」
「お、おれだっていつかは賞金首になってやるからな!悔しくなんかないからな!目から出てるのは海水だからな!!あ、お前、副船長な」
「ああ、カリギュラちゃんの見返り姿…真っ赤な左眼が幻想的だ。あ、カリギュラちゃん副船長ね」
「グー…zzz…カリギュラ…副船長…zzz」
「だめだこいつら、事態の深刻さをまるで理解してない。カリギュラ、副船長のあんただけが頼りよ」
「………」
麦わらの一味副船長カリギュラ、ここに爆誕。
…まあ、良いけどな。
「…これはイーストブルーでのんびりしてる場合じゃないわね」
ナミが顔に手を当て、深刻そうな声色で呟く。
確かに、モタモタしていたら海軍やら賞金稼ぎやらがケーキに群がる蟻の如く押し寄せてくるだろう。
「よし!おれももっと強くなって、カリギュラの懸賞金額を越えてやる!張り切ってグランドライン行くぞ!ヤローども!」
「「うおー!」」
船長と副船長に賞金が掛かり、それなりに海賊団らしくなってきた我らが麦わらの一味。
グランドラインの入り口に最も近い島にある“始まりと終わりの町”『ローグタウン』はその後すぐに見えたのだった。
【コメント】
ちょっと政腐を滅ぼしてくるので更新が遅れます。