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No.25343の一覧
[0] 手には鈍ら-Namakura-(真剣で私に恋しなさい!)[かぷりこん](2013/08/25 17:16)
[1] [かぷりこん](2011/07/09 17:24)
[2] 第一話:解放[かぷりこん](2011/07/09 17:27)
[3] 第二話:確認[かぷりこん](2011/07/09 17:34)
[4] 第三話:才覚[かぷりこん](2011/07/09 17:52)
[5] 第四話:降雪[かぷりこん](2011/07/22 22:57)
[6] 第五話:仕合[かぷりこん](2012/01/30 14:33)
[7] 第六話:稽古[かぷりこん](2011/07/09 18:32)
[8] 第七話:切掛[かぷりこん](2011/07/09 18:59)
[9] 第八話:登校[かぷりこん](2011/07/10 00:05)
[10] 第九話:寄合[かぷりこん](2011/12/19 22:41)
[11] 第十話:懲悪[かぷりこん](2011/07/10 00:13)
[12] 第十一話:決闘[かぷりこん](2011/07/18 02:13)
[13] 第十二話:勧誘[かぷりこん](2011/07/10 00:22)
[14] 第十三話:箱根[かぷりこん](2011/07/10 00:26)
[15] 第十四話:富豪[かぷりこん](2012/02/05 02:31)
[16] 第十五話:天災[かぷりこん](2011/07/10 00:29)
[17] 第十六話:死力[かぷりこん](2012/08/29 16:05)
[18] 第十七話:秘愛[かぷりこん](2011/08/20 09:00)
[19] 第十八話:忠臣[かぷりこん](2011/07/10 00:48)
[20] 第十九話:渇望[かぷりこん](2011/07/10 00:51)
[21] 第二十話:仲裁[かぷりこん](2011/07/10 00:56)
[22] 第二十一話:失意[かぷりこん](2011/07/06 23:45)
[23] 第二十二話:決意[かぷりこん](2011/07/09 23:33)
[24] 第二十三話;占星[かぷりこん](2011/07/12 22:27)
[25] 第二十四話:羨望[かぷりこん](2011/07/22 01:13)
[26] 第二十五話:犬猿[かぷりこん](2011/07/29 20:14)
[27] 第二十六話:発端[かぷりこん](2011/08/11 00:36)
[28] 第二十七話:哭剣[かぷりこん](2011/08/14 14:12)
[29] 第二十八話:幻影[かぷりこん](2011/08/26 22:12)
[30] 第二十九話:決断[かぷりこん](2011/08/30 22:22)
[31] 第三十話:宣戦[かぷりこん](2011/09/17 11:05)
[32] 第三十一話:誠意[かぷりこん](2012/12/14 21:29)
[33] 第三十二話:落涙[かぷりこん](2012/04/29 16:49)
[34] 第三十三話:証明[かぷりこん](2011/11/14 00:25)
[35] 第三十四話:森羅[かぷりこん](2012/01/03 18:01)
[36] 第三十五話:対峙[かぷりこん](2012/01/25 23:34)
[37] 第三十六話:打明[かぷりこん](2013/11/02 15:34)
[38] 第三十七話:畏友[かぷりこん](2012/03/07 15:33)
[39] 第三十八話:燃滓[かぷりこん](2012/08/08 18:36)
[40] 第三十九話:下拵[かぷりこん](2012/06/09 15:41)
[41] 第四十話:銃爪[かぷりこん](2013/02/18 08:16)
[42] 第四十一話:価値[かぷりこん](2013/02/18 08:24)
[43] 平成二十一年度『川神大戦』実施要項[かぷりこん](2013/02/18 07:52)
[44] 第四十二話:見参[かぷりこん](2013/07/17 08:39)
[45] 第四十三話:戦端[かぷりこん](2013/03/31 11:28)
[46] 第四十四話:剣理[かぷりこん](2013/05/11 07:23)
[47] 第四十五話:手足[かぷりこん](2013/08/20 08:47)
[48] 第四十六話:膳立[かぷりこん](2013/08/25 17:18)
[49] 第四十七話:鞘鳴[かぷりこん](2014/02/05 18:46)
[50] 第四十八話:咆哮[かぷりこん](2015/01/11 10:57)
[51] 第四十九話:決斗[かぷりこん](2015/11/29 14:16)
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[25343] 第四十話:銃爪
Name: かぷりこん◆273cf015 ID:94f5cb7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/18 08:16
『戦うことが罪なら、俺が背負ってやるっ!!』

――乾巧 「仮面ライダー555」より





























風間ファミリーにとっての中枢拠点が、かの廃ビルの一室であるのならば、マロード一派にとってのそれが、この場所と言って差し支えないだろう。 

重工業地帯・川神新町の玄関口に位置する、建造中の多目的娯楽施設“チャイルドパレス”。 その最上階屋根裏の一角に存在し、オープン後の予定としてはネットカフェや警備用の電算室となる予定(あくまで名目上であるが)の大部屋には現在、住人が全て居揃っていた。

天井の高い小振りなプラネタリウム、という表現がこの部屋にはしっくりくる。

ほぼ円形に広がる部屋の直径は十五メートル。 窓のない壁は外側に向かって弧を描き、床面積より一回り小さい円形の天井を支えている。

照明は小型の常夜灯タイプが六つ、均等に天井の円周に沿って散りばめられているが、いずれも明度を抑えてあるらしい。 二階分の高度から照らすには十分な明るさとは言えず、琥珀色の薄明が部屋全体を淡く染めていた。

それでもさほど暗く感じないのは、壁面に埋められたモニター群から発される液晶の光が煌々と照っているせいだろう。 小雪は主にテレビ観賞やインターネットの閲覧用に使用しているが、それ以外の用途、――例えば、川神市の至るところに張り巡らされた監視機器からの受像、はたまた本人のそれとは別名義によって行うお遊び程度の株の売買などに用いられる三〇インチ大のモニターは十数台、壁の四半分を覆う形でびっしりと設置されており、ハニカム構造――蜂の巣に似た格子模様に、海岸でフジツボを見たときのような鳥肌が立つ思いを井上準は幾度か味わっている。

この部屋唯一の欠点といえる水周りの不便があるとはいえ、空調、冷蔵庫、電子レンジはもちろん、樫材のデスク、ガラス張りのリビングテーブル、本革のロングソファなどの高価な調度品も完備されていた。

だが、井上準は知っている。 

ここは稚気めいた仲間うちの“ひみつきち”でも、心身をリラックスさせるプライベート空間でもない。 



――ここは、玉座だ。 



川神周辺を飛び交う何千何万という声、感情、打算、欲望。 

ありとあらゆる個人、ありとあらゆる団体が発信する情報を任意に呼び出し、それらを並列し、俯瞰し、流れを見極め、次なる干渉の一手を思索するための、玉座。 その結果、堀之外を中心に据えたアンダーグラウンドに君臨する王のための、玉座。 

黄泉の国、グソウの門より出で、常世の迷えるマブイ――魂を抜き去る男衆。 

その名を以って、マロードと称する男は今、モニターからもたらされる情報の奔流に浸っている。

安楽椅子にもたれて、手元のコントロールパネルを指先で不規則に突きまわし、めまぐるしく入れ替わる何十種類もの映像のモザイク模様に冷めた目を向けている。 

偏った思想をさも公共の意見然と垂れ流すニュース、身勝手で無責任な感情論を声高に振りまくワイドショー、茶番に茶番を重ね続けているようにしか思えないクイズ番組、たかが歌い手との握手や投票の権利をより多く得んがために生じた欺瞞に満ちるオリコンチャートに順じてカウントダウン再生を行う音楽番組エトセトラエトセトラ――。

幾百もの声が四方のスピーカーホンから沸き続け、恣意に満ちた光と音の洪水が棒立ちの身に降りかかってくる。 

そして、

「そろそろですね」

抑揚を欠いた小さな呟きだったが、五感を押しひしげる音と映像の中でも、その肉声は明瞭に響いた。 

モニターの向こうで何人が同時に喋っていようと、生身が発する声の響きは判別がつく。 

かれこれ十年来の付き合いになる“友達”の声であれば、なおさらだった。

ユートピアの首魁の、微かに赤く濁り濡れる目を盗み見て、

「……川神駅にゃ、もう着いたってよ」

そう言ってから井上は脇のサイドテーブルに取り付き、引き出しからマイクを取り出し、交信のセッティングに入った。

ちり、と静電気が爆ぜる音が聴こえ、目をやると、小雪が薄く埃が積もった画面の一つを撫でていた。 

そして「久しぶりー♪」と、画面の中の矢車直斗のむつくれた頬に向けて、えいえいと指を突き回す。

無意識に強張った指先を、井上は、一度拳を握る事で誤魔化した。





施された目隠しの闇の中に、あいつは今、何を見ているのだろうか。


















久方ぶりの川神の空の下、しかしその景色を堪能できたのは僅か五分ほどだった。

引き連れてきた板垣姉妹に駅の地下駐車場まで案内されると、早速目隠しを施され、後部座席の窓が目張りされたいかにもな●●●●●黒いバンに押し込まれ、虜囚の身に甘んじることになった。 

当然、装ったナマクラも没収される。 

手錠こそ嵌められなかったが、強いていうならば、右隣でむにゃむにゃ寝言を紡ぐ同行者が何よりの拘束具である。 更に加えていうならば、左隣から首や臀部を嘗め回す視線を送っているだろう男は何よりの拷問具だった。

密閉され、熱を溜め込みやすい色の車中にあって、冷房がキンキンに効いていたのだけは救いだった。

暗闇は時間の感覚を狂わせる。

記憶しきれないほどの右折と左折を繰り返し、車が雑踏のざわめきから抜け出したのは三十分後か、一時間後か。

スロープに差しかかったのか、全身が下降の感覚に押し包まれ、突如段差に乗り上げた車体が上下し、傷んだアスファルトを踏むタイヤの音が聴こえてまもなく、バンは出し抜けに停車した。

スライディングドアが開き、目隠しをされたまま外に連れ出され、両脇を支える者たちの指示に従って段差を越え、階段を降り、そして登り……。

僅かに潮の香を含む、澱んだ水の匂いが鼻をつき、地面に転がる角材やら鉄パイプのようなものを蹴ったような気がしたが、廃れた倉庫にせよ工場にせよ、他に場所を特定できる物音は一切聞こえなかった。

錆びた金属が軋む音を立てて、すぐ前の扉が開く気配がして、しんと冷え切った空気が体を押し包んだ。

内部に入って初めて目隠しを外され、外界の様子を窺うことを許された。

真正面、二メートルほど先に置かれた机の上には、スタンバイ状態のノートパソコンやらアンテナやらマイクやらが駐機されている。 

板垣家の能天気な漫才めいた会話を聞き流しながら、さり気なくぐるりと周囲に視線をめぐらす。 全長三十メートルはあるだろうか、放棄されて久しいらしい廃倉庫に天板は無く、赤い鉄骨の梁が剥き出しになっており、一瞬、蛇かと見紛いかねない電線やパイプ類がその上を這っている。 床のガラクタに紛れてカップ麺の空容器やコンビニ飯の包装が点々と散らばっているのは、ここが日常的に粗野な人間達の溜まり場になっている事を示唆していた。 

隅の方に座布団やマットレスが雑多にまとめられている箇所を見つけ、そこで行われたろう乱痴気騒ぎを幻視して胸糞が悪くなり、しな●●を作って携帯を弄る亜巳に「待ち合わせの相手は、」と質しかけた直前。

ヴン、と低い振動が空気を震わせ、目の前のパソコンがカリカリと音を立てて起動し始めると、黒い背景はそのままに「マロード」の文字が赤く、おどろおどろしいフォントで画面内に浮かび上がる。






『やあやあ、長旅ごくろうさま。 はじめまして、矢車直斗くん。 ……ん~っと♪ 何から? アハハッ、ナニから話せばいいのかな?』






溜息一つ。

打ちっぱなしのコンクリの床に堆積した埃をサンダルで軽くにじり、黴臭い空気を軽く吸ってから、

「面と向かって、腹割って、襟開いて話し合う場。 そう聞いてきたんだがな」

ヴォイスチェンジャーに加工された、白々しさ満点の陽気な挨拶に、とりあえずそれだけ返答してみる。 同時に、画面上の一ツ眼カメラに冷ややかな視線を送る。

『あー、やっぱ感じ悪い? いやさ、俺もそっちで全裸土下座で待機してたかったのは山々なんだけど、一応、なんつーの? 悪の秘密結社のボスだから? ハハ、勘弁してよw』

「そもそも、こういう趣向だったら、目隠ししてこんなトコまでくる必要もなかった。 丹沢にも、例えば九鬼系列のホテルなら、間違いなくホットスポットくらい常備してある筈だ」

ホットスポット――その一帯に無線LANの赤外線が張り巡らされ、ワイヤレス通信に対応したパソコンを持ち込むと、携帯電話やケーブルを介さずともネットに接続できる設備は、気の利いた喫茶店や図書館、ビジネス客が多い大型ホテルでは今や必須のオプションだ。

『雰囲気は大事じゃん……っと、アハハ、そう睨まないでよ、マジゴメンゴメンって。 君が暇じゃないってのはわかるんだけどさー、将来のお尋ね者との会話って、人目につかせるモンじゃないでしょ? いずれ表舞台には出ざるをえなくなるだろうけど、今のところは正体不明ってことにしとかないと動きにくくて。 んで、こっちも色々身元隠すのに苦労しててさ。 つか、何? 例えば万一、君がお世話になってる人とかに気取られでもしたら、その人、記憶トぶまで竜兵たちと遊んでもらう事になるから。 俺はさほど困んないけど、それはキミの本意じゃないよね?』

「へへっ、そん時は喜んで任せられちまおう」と獰猛で嗜虐心溢れる笑みを浮かべた板垣竜兵の双眸は、爛々と輝く。

久遠寺には川神院師範代クラスの使用人が絶えず二人張り付いている。 そこらのゴロツキ程度なら一蹴できるだろうが、そういう現実的な想像はひとまず置いておこう。

それよりも、少なからず久遠寺に面倒をみられた他の三姉妹は、我関せずの態。 

手前の身は手前で守る信条は、他の奴にも適用されて然りと言わんばかり。

ああ、これだ。 こいつらと付き合ってると、時折、こうした澄まし顔を見る。 

たまらなく、嫌だった。

「悪党なりの仁義ってか?」

わざと吐き捨てるように言ってやったが、どこ吹く風といった相手の口調は崩れそうもない。

『そゆこと。 これでも“俺と話せる”ってこと事態、結構ウルトラスーパーシークレットレアなワケで? そこに免じて許してよ。 ……じゃ、改めまして、』





――――俺が、マロードだ。





『好きなものはキレイナもの、嫌いなものはキタナイもの』

『……そして、今、一番邪魔だと思ってんのは、』




黒ずんだ画面が明転し、パッとスクリーンに映し出されたのは、晴天の河原を背景に、多馬大橋の歩道を悠々と歩く男女九人組。

両手のダンベルを上下させながら先頭に立つ一子、賑やかすように諸手を挙げ大口を開け広げて笑う風間、後ろ向きで表情は見えないがその聞き役に徹しているだろう大和、傍らでその横顔を絶えず見つめる椎名、得意顔で自慢話か不貞な話題でも教授しているのだろう百代、それに食いつくクリスと由紀江、最後尾で鼻を伸ばして春画の類を見ている師岡と島津。

明らかに隠し撮りされたとわかる不安定な構図の中、それでも間違いなく、和気藹々の雰囲気を醸す彼らが“主役”とわかる。




『風間ファミリーと、キミだ』














<手には鈍ら-Namakura- 第四十話:銃爪>













ここから為された、マロードとの会話は、幾らか割愛しておく。 

ただ、あまり気持ちの良いものではなかったということは、聞いた誰もが思う筈だ。



『ボクと契約してこれ売ってよwって冗談はさて置き今見てもらってんのはユートピアっつー脱法ドラッグにハマっちまってる馬鹿共ね悲惨だろこれ泡とクソ吹き散らしながらイキ狂ってんだぜ爆笑爆笑あははははとか言ってもこの頃笑えないんだよね空しいんだよねつまんねーのよボアな毎日なのよこれがさ話が合う奴とつるむのはそこそこたのしーけどそいつらもおんなじ人間なわけで一皮剥けばこういうアヘアヘな本性晒しちゃうんだ怖いよねあー醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜いキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモオエェエって感じまあ俺もここまで生きてきて達観しちゃったわけでとりま資金繰りはこの辺からいけいけどんどんでヒャッハーできそうでそれはそれでハッピーなんだけどほんと真面目に生きてくには世知辛すぎだよねその価値ゼロだよこの世界――――』



とりあえず、彼の主張の前半部分を要約すると、そう、なった。




『直斗くんキミさー、嘘、嫌いでしょ?』

沈黙を肯定の答えとして受け取ったらしいマロードは、『俺も嫌いなんだ』と重ねた。

『正直で純粋なモノが汚物に踏み躙られんのは、キッツイよねー。 キミも経験あるだろうけど』

さらりと暗部に踏み入ってきた無遠慮な声は、それまで紡がれた言葉よりいっそう際立って、だだっ広い密室に無限に反響するように思えた。

能面、鉄面皮の類を維持するのは慣れているが、迂遠な言い回しの針で急所を突かれ続けるのは御免だった。 

「話が見えないな。 要求があるから、ここに呼んだんだろう、マロードさん? まずそれを話してくれよ」

長く続いた独演会に終止符を打たせ、熱を持ち始めた額に掌を当て、ここ一ヶ月でだいぶ伸びた前髪を五指で掻き分け、画面越しの逡巡の気配を察する。 

その立ち振る舞いが気に入らなかったのか、「大物ぶりやがって」と毒づく竜兵の唾吐き。 

暇を持て余し、つい十分ほど前から携帯ゲーム機と睨めっこを始めた天使の指元のせわしなさ。 

胸筋を寄せ集めて掻き抱くように、腕を組み足を交差して薄笑いを浮かべる亜巳の肌のつや。 

トタンの壁に背を押し付けて、ふやけた顔で相も変わらず舟を漕ぎ続ける辰子の寝息。

順繰りに様子を見終わったところで、眼前のパソコンが再び口を利いた。

『俺の目的っていうか、これからの予定なんだけど。 九人揃えば無敵で、出来ないことなんて何も無いって決め付けてる奴らがいる。 まずはそのふざけた幻想をぶち殺すぅw!ってね、ハハッ♪ で、それと並行して、楽しい楽しい“カーニバル”を盛大にぶち上げる』

カーニバルの一単語に、胡乱に顔を顰めたのを見て取ったか、

『詳細は板垣家のみんなに訊いてよ。 ま、平たく言うと、一晩だけ、川神市全体のモラルが壊滅するよう仕向けるイベントさ。 当然、警察はもちろん、川神院やら、それこそ目立ちたがりの風間ファミリーは黙っちゃいないだろうけど、そこはコトの持っていき次第で展開はある程度コントロールできるだろうし。 いやー、腕が鳴る鳴る。 ゾクゾクするねぇ』

「はっ、今までコソコソやってきた分、俺ぁ、むしろせーせーするぜマロード。 サツなんぞに構うかよ? 壊し犯し奪う。 原始時代に戻るだけだ」

「つべこべ言う奴にゃ、片っ端からユートピアぶち込みゃいいだろ。 それでウチもみんなも最高にハイでオールハッピーだぜぇ♪」

「フフフ、まあ、痛めつける豚が一気に大量生産されんのは魅力的だしねぇ」

「――zzzzzz、」

『……んでそうそう、察してもらえたと思うけど、俺と風間達の間にも因縁があるんだ。 君と直江大和の間に“業の”が奔っているのと同じく、ね?』

君ほど関係が深いわけじゃないけどー、との補足を耳にしながら額に留めていた片手を下ろし、親指の爪先を前歯で軽く噛み挟む。

こいつらに共通する退廃的思想に、改めて辟易としただけではない。

板垣家の面々はともかく、マロードは全てを知っている。 

釈迦堂刑部を麾下に配するならば当然といえば当然なのだが、果たして……。 

その一念に思考の大半は尽きた。

そこからマロードという男の本質を見極めるために、俺は、この逢瀬に応じたのである。

『だから、初めはこう思ったんだ。 そのカーニバルの時に、俺の側にご協力願おうって』

潜められた過去形の語尾末節が、不吉を告げていた。

「俺に、どうして欲しかった●●●んだ?」

「こいつらみたいに仲間になれと?」

『いやいやいや、善人に悪人になれなんて、俺はそんな不毛な説教はしないよw ただ、タイミングを合わせられたらなぁーって、漠然と。 ……ギブアンドテイクで、俺の家族を取り返してみせろよっ! とか、漫画の熱血主人公ばりに君に直江大和を糾弾してもらうのに上手いこと被せて、あいつらの根城ぶっ壊したり何人か攫って手下にタノシンデもらったり、そんなタクティカルかつクリティカルなコンボを仕掛けられないかなーってね?」

「そりゃあ、お生憎だったな」

『ああ、非ッ常に残念だねー。 話を聞いてみれば、君は、妹の無念も、恨み辛みも、ある意味では晴らすんだろうけど、君の目的が達成されたところで、直江大和がそれを“晴らされた”ということを、ついぞ理解することはないワケで。 本当に、それでいいのかなぁ?』

「……そうでなきゃ意味がない●●●●●●●●●●●。 第一に、その他諸々の事情を無理繰りブッこんで、大和に誤魔化されたり潰れてもらったりされちゃ本末転倒だ。 あいつには、戦後“誠実に生きる”ことに全力投球させなきゃならん。 それが俺の川神大戦の正味で、本懐だ。 “矜持プライドがない事が矜持プライド”、実際のところは違うと思うさ。 あれは悪人でも人否人でもない。 だが、そう嘯いてる事実は確かで、俺が最後に相手をするのはそういう奴輩だ。 限りなくシンプルに叩かなきゃ、少なくとも、大和の限りない伸び●●●●●●はない。 ……ついでに言うと、全部ぶち撒けたら、惨い目に遭う奴が、大和以外にいる。 そいつは、たぶん俺と同じで、でも、俺と違って、まだ踏み止まれてる。 そいつの拠り所を奪いたくない事もある。 というか、今回の騒動で、ファミリーの澱みを綺麗に掃除して、少ーし居心地を良くしてやろうって、そういう話だ」

『はははっ、そこで思うんだけど、ちょっと薄情じゃない? 相手は妹の仇でしょ』

「お前に何を言われるまでもない。 どれだけ考え抜いてきたと思ってる?」

歯痒いさ。

口惜しいさ。

切歯扼腕の心地だよ。

全身が煮え繰り返りそうだ。

だけどな、

妹は●●もう死んだ●●●●●。 仇は●●もう取った●●●●●。 ――これ以上は言わせるなよ、マロード?」

『はいはい、目に角立てないでよ。 …………だいたいそう言うだろうって想像はついてたけど。 筋金入りってワケだ。 あー、となるとさ。 俺もここで考えないといけなくなるわけで』

「結論は?」

『うん。 とりま、消えてくれない?』

まるで、女御に酌をねだるような馴れ馴れしさで気安さで、マロードは排斥の命を下す。

ほとんど同時に真後ろから殺気が三つ、眠りからの覚醒の気配が一つ、立ち昇る。

『まず、なんで俺がカーニバルを起こすのかってことだけど。 さっきも言ったけど、俺は嘘が大、大、大、大大大大……だいっ嫌いでね。 だからそれを暴いて、みんな正直に生きてみようよって、そういう一つの提案なワケよ、カーニバルは』

「物は言いようだな」

『本音で生きろ、相手に正直でいろ。 これはキミの受け売りだと思ってるんだけどね。 不正直者はバイバイってワケ』

「ふざけろ。 俺が大人しく従うとでも?」

『じゃなきゃ、“全部”バラすよ。 ……従うしかないよね? 君の過去が明かされないことが、キミが川神に居られる大前提で、川神大戦の骨子のはずだ』

「……んっとに、小学生並みの脅迫だな。 俺が大嫌いな奴のやり口にそっくりだ」

『どんな脅迫もガキっぽいもんでしょ。 ピーターパンが俺の理想。 永遠の子供。 善悪考えない純粋さ、俺は好きだね♪ そして2は蛇足』

「最後だけは同意する。 大人ウェンディとの再会は、やって欲しくなかったよなッ!」

机の足を靴の裏側で押しやるように蹴り飛ばした。 

達磨落としよろしく机は奥に吹き飛び、乾いた音を立てて宙に浮かんだノートパソコンがコンクリに叩きつけられる。

ピクリと板垣の面々が反応したが、それまでだった。

満足した猫が喉を鳴らすような、陰惨な含み笑いが、隠されているのだろう其処彼処のスピーカーから這い出るように耳朶を犯す。

『さて、お返事は? 大人しく川神から出て行ってもらえれば、丁重に駅まで送り返すよ。 なに、キミが築き上げた川神学園における数々の黒歴史も、あと何年かすれば誰の口に上らなくなるよ』

本当に耳障りな、幼児に言い聞かせるような催促に、俺は、規定●●の問いを投げかける。

「そんなにこの世に救いはないかっ」

『ないね』

それは本当に冷ややかな。

間髪を入れない、にべもない返答だった。

直前の愉悦の気配はない、無情の応答だった。

『キタナイのは嫌いって言ったじゃん。 だから、キタナイものをキタナイと思えなくなるようにするしかない。 ――皆、キタナクなっちまえばいいんだよ』

「その中から綺麗なものを掬って救い上げてくのが、人生って奴だろうに」

『メンヘルな本からとか、そういう何処かで聞きかじったような説教はやめてくんない? というか、他でもないキミが、そんな達観を、そんな口触りのいい事を、本当に心の底から言えてるの? 世の中には、絶対に剥がれない穢れってものがあることくらい嫌でも自覚してるのに。 虚飾、痛恨、重圧、不和、打算、欲望、悲哀、孤独。 ……あとは、そうだね、“血統”とかかな。 決まりきった善に道徳にコクコク頷こうとするから、俺達はいつまでもそいつらに縛られてるんだよ。 だいたい――』






スピーカー越しの人物が、どんな道を歩いてきたのか。

今、俺を取り巻く板垣の兄弟姉妹が、どれだけの愛を知り、どれだけの艱難辛苦を味わってきたのか。

たとえその来歴が一日と余すところなく纏められた分厚い書類を丸暗記したとしても、果たしてどれだけ、“わかった気に”なれるのか。

いつだって経験は感情を伴うもので、他人のその瞬間の心の機微を即座に完全に理解するための利器などは存在しない。





だから、と思う。

だけど、とも思う。




やはり今、目の前にいる人間を理解したいとは思う。 

その理解の為に虚飾は打算は不純は取り払われるべきで、ならばやはり正直に殉じるべきなのでは、とも。

けれど、何があって、どんな過去があったとしても、その経験は●●●●●――。

それに憐憫を抱けても、同情を抱けても、それを必死に解そうと努力して、ついに共感を持つに至ったとしても、その経験だけは、当人限りのもの。

あの時、クリスの平手をくらった時も、多分、無意識ではそう思っていたからこそ、何もかも暴露したい衝動を堰き止められたのではなかったか。

誰だって辛い過去を通り抜け、厳しい現実に耐えながら、先の見えない未来を待たせている。

中には後悔なんて生易しいものじゃ決して済まない、一生苦しまなきゃいけない過去を、罪科を、失望を抱えている奴だっているだろう。

忘れてしまえばいいとか、時間がいつか代謝してくれるとか、そんなおためごかしが何の役に立つのだろうか。

救われようとする事自体が、もしかしたら土台から虫の良過ぎる話なのかもしれない。




だから、と思う。

だけど、とも思う。




背負って、進むしかない。

戻れないのなら、前を向くしかない。 

直面する自分の意を通すべき闘いからの逃避は、即ち堕落である。

その肩に、その背に担うものがどんなものでも、背負って生きるのが人間に許され、科せられた義務。

もし自分の人生に赦される時があるのだとしたら、それは潰されないで歩き切った時。

そうだ。 

重石おもしの中身がどうだこうだという話ではない。

ただ単に、そいつの足腰が強いか弱いか、いまこの瞬間、この一刹那の中の話なのだから。




「繰り返しご高説の所、本当に申し訳ないんだがな」



呟く。

ならばまた、もうひとつ背負ってみようと思うのは、俺のしょうもない自惚れなんだよ、真守。

……大丈夫だ。 

お前の事は必ず俺が。 後回しになんか、していないつもりだよ。 でも、そう思えたらごめんな。

俺はある意味、甚だしく浮気性なのかもしれない。

でも、 

「お前は、綺麗なものは全て穢されると言ったな?」

それでも俺は、こういうの●●●●●、黙ってみてられないんだよ。

「どんなに穢されようとも、綺麗なまま残るものがある。 また再び輝けるものがある。 俺が親から、川神院から教わったのはそういう事で、そう信じてる。 それを大戦で証明するんだ。 ……俺が想うことは、口に出すことは、いつだって借り物の理想だけど、でも、もう借りてから何年も経ってて、返す宛なんてない。 このまま借りパクしたって、文句は言われないだろう?」

滅茶無茶苦茶な論理を思うままに、自侭に振りかざして。







「ああそうだ。 だから今からだ。 何がどうあってもだ。 俺はお前をすくうんだよ。 ――葵冬馬●●●







もとより双方、互いの必滅を本懐とする銃口を向け合い、そのトリガーに指を掛け合っていたのである。 

そして、ほんの少し先に、銃爪を絞り切ったのは――。 

今回は、ただ、それだけの話である。

























若の名の開示が、通信を傍受していた者たちへ向けた、状況開始の符牒だったのだろう。

その突入はまさに電撃作戦という名に相応しく、見事で、もう二度と遭遇したくない手際だったと、後になって井上準は述懐する。

奴がマロードの正体を言い当てたという現実に、大なり小なり浮き足立ってしまったことは確かだった。

直後、階下から猛然と接近してくる異様な気配を察したのだろう、「トーマッ!!」と小雪の警醒の声が部屋いっぱいに響き渡った時には、壁のドアは勢いよく開かれていた。

挨拶代わりに投入されかけた音響閃光弾スタングレネードをノーモーションのインステップフロントキックで打ち返し、ドアの外に再び追いやった小雪の挙動は流石と言う他なかったが、しかしそのとき、幾重もの発報装置のセンサーを欺瞞あるいは無効化して掻い潜ってきた手練れ共に臆せず瞬時に動けたのは、やはり小雪ただ独りきりであって、

「おっと。 ……危ない、そしてなんとはしたない●●●●●。 スカートを装う女性が、おいそれと足を高く上げるものではありませんよ?」

続く、ふしゅっ、と短い気息と共に放たれた小雪渾身の頭部への上段廻し蹴りを、鏡写しのように寸分違わぬ足技で防禦せしめた優男が其処に居た。

「ふむ。 12、といった所ですか。 わずかながらも確かに“壁”は越えて――」

廊下の奥で先の手榴弾が炸裂した生理に反する大音響に、優男のセリフは途切れた。

刹那、ようやく頭の中で危険信号が一斉に灯り、準は周囲に振り向けていた意識を全て前方に集中させる。

それが間違いだった。

次いで、期せずして玄関口に作られた双脚のアーチを潜り抜け、闖入してきた眼光鋭い金髪の外人女を前に、準は反射的にボックス、拳という名の岩石を両腕の先にかたどった。

相手は二人。 部屋の外に後詰めの人間が居たとしても、はからずも今の爆発で数十秒は足止め出来ている筈。

そう祈って。

「若っ、逃――」

そう言いかけて。




金髪の手に握られていたグロック17自動拳銃の暴力的な轟音が、続く言葉をあらかた吹き飛ばした。





直後、遠くのほうで聴こえたような、くぐもった悲鳴と砂袋が落ちるような物音に体中の血の気がさっと引いて、消え。

思考は停止、構えは緩み、なかば棒立ちになった身のまま、熾烈なクロース・クォーターズ・バトルの幕が開く。

豊かな胸元に突き刺すように銃を仕舞った金髪が繰り出してきた腕に右手首を捕らえられ、そのまま床に引き倒されるところで我に帰った準は、そうはさせじと左手で傍らのサイドテーブルの縁を掴み、力を受け流して体の向きを変えた。 

同時に蹴りだした膝を脇腹に叩き込み、力が抜けた一瞬に手を振り払う。 

だが、井上準はあくまで拳闘士である。 人並み以上の膂力が下半身に秘められてはいるものの、蹴術に関しては門外漢であったためか、それは大した打撃にはならず、結局すぐさま体当たりで床に押し倒され、軟調と見えるがその実、肉の充ちた体躯に圧し掛かられる。 

骨身が軋み、内蔵がはみ出るような衝撃に晒されながらも、若っ、若っ、と呻くことは止められなかった。 

すると、左右にじたばたもがくうちに相手の重心がずれ、身を捩りに捩って相手を跳ね除けた拍子に、ごつりとした感触に行き当たり、それが何なのか確認する間もなく掴み抜くことになった。

わずかな汗に湿った強化プラスチックの銃把は、存外温い感触を準の掌に奔らせる。

これは双方にとって意外な展開であり、

「うぇっ!?」

たたらを踏んだ相手の狼狽の声に、しかしその相手以上に気が動転していた準は、直感的に“これを奪われたら最後”と、握った手を必要以上に強張らせた。

次の瞬間、手首ごと銃を封じ込めようとして迫る相手の手の平にまたも過剰に反応してしまい、ぐらぐら揺れる視界の中、銃口の照星と視線を一致させて、荒い息のまま、地に、伏し、伏したままピクリともピクリともしないピクリともしないピクリともしななななななななななななななななな冬馬の後頭部をここで初めて目に入れてしまった瞬間一片残った理性も吹き飛び――。







「――――ぁかァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――――――ッ!!!」






なんだこれ。

なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

一番大事なものが失われる、失われつつある、失われてしまったのかという桁外れの戦慄が絶望が悔恨が憤怒が。

出口なく滞留する感情の渦が、ひとつ瞬きする間に胸を過ぎっては逆流し過ぎっては逆流し――、その激情の奔流をヒトの身が許容できる筈はなく。

準は絶叫して、膝立ちのまま、何も考えずにトリガーを絞った。

常夜灯の薄明の中、眩い閃光が膨れ上がり、連続する銃声が耳鳴りを圧して鼓膜をつんざく。

いちにさんしごろくしちッ――――

次々に射出された9ミリ弾が倒れこみつつある金髪の胴体に、至近からとはいえ驚異の集弾率で直撃するさまをまざまざと網膜に焼き付ける。

十発まで数えたところで頭が真っ白になり、自分が何をしているのかわからなかったが、準はひたすらトリガーを引き続けた。

残弾全てを叩き込むサチュレーションアタック。

砕かれた射手の魂。 その断片を、これでもかこれでもかと吐き散らすような、苛烈も窮まる飽和攻撃だった。

グロックが十七発目の弾丸を吐き出し、カーペットに音もなく最後の薬莢が転がり、後退したスライドが動かなくなってからも、人差し指は痙攣したようにカチカチと空撃ち音を鳴らし続けた。

連射の反動で手首がじんじんと遅れて痛み始め、ようやく弾が尽きたことに気づく。 

痺れ切った手元はグリップを握ったきり動かない。

ぼんやりと銃から顔を上げて目の前の光景に焦点を合わせようしたが、これがまた難しかった。

霧のように辺り一面にかかった白い靄を通して見て推測するには、ドアの傍には、小雪を押し倒しながらも、まるで彼女を庇うようにこちらに背を向けている件の優男が居るようで。

いまだ銃口の先にうつ伏せで横たわる――を視界に入れて。



あれ、そういえば見たことあるエプロンだ。 と今更のように気づいて――。


































「超絶ファックに痛ってぇだろこのハゲッ!!」

死体が、跳ね起きた。 らしい。 辛うじて見える薄い影がそう教えている。

「ゴム弾頭、ついでに超弱装弾だよ、くっそ。 それでも痛ぇもんは痛ぇけど、そこの色黒は死んでねぇ。 つーか気絶とか、服厚そうなとこ狙ったのにどんなモヤシだファック!」

「――ぁ」

「お元気そうで何よりですが、それにしてもご自分の得物を奪われるとは。 肝が冷えましたよステイシーさん。 ……今の不手際、不始末はヒューム卿に報告させていただきます」

蛇が鳴くような空気が擦れる音がした後に、男の声が響いた。 

ユキがどうなったのかは、さっきから視界が脂に覆われてしまっているらしく、よく見えない。 



                    ――あれ、俺、いま、もしかして、ものすごく泣いてるのか? 



「あぁ!? ち、ちょ待て、ちょい待ち、な? そ、そこは、ほら、スタグレにビビんなかったところで帳消しイーブンにしようぜ? な? 今度バーガー奢るからよぉ」

「そのあたりも鑑みていますよ? 本来ならば次回の従者部隊特別会議のような場で、あの武田小十郎を差し置いて●●●●●●●●●●●●●、いの一番に言及されるべき大失態です。 ……が、伏せておきましょう。 今回の浄化作戦は内容が内容ゆえ、英雄様、ひいては忍足さんに対して固く秘しておくようにというのが我が上司マープルの意向でした。 査問もなく減給もなく序列が下位へ動く事もない。 それが温情だと思ってください。 躾役だったヒューム卿にお叱りを頂いたほうが、反省もより深く出来そうですし」

「こんの……。 アタシよりランク低いくせして、相変わらずずけずけ偉っそうに。 ああ、はいはいロックにわかったよ。 ったく、栄えある武士道プランの現場監督様は最高にファックにお優しいぜ……」

「さて、九鬼のトップシークレットに関する今の失言も聞かなかった事にします。 まずはそこでいい具合に固まっている少年をさっさと無力化するように」

まるでこれから断頭台へ上る死刑囚のように、一挙に目が死に始めた金髪女――ステイシーに、どこまでも容赦のなさそうな優男の、慇懃無礼が滲み出た声だった。

爽やか過ぎて逆に胡散臭さ全開の笑顔に向けて悪態をついて、体中の空気を抜き切るような長い溜息とともに、ステイシーはよろよろと立ち上がると、

「あいよぉ……っと。 さて、っつーわけでちょっとの間、眠ってもらうぜ? ……アタシは今、殺しはしねーまでもガキに向けて銃ブッ放して、あげくの果てにゃ、てめーの銃で撃たせて、てめーが撃たれちまって、このあとジェノサイドな説教が待ってるわけで、いやはや、最ッ高にファックでファックな気分だが。 まあ、お前はなかなかにダチ想いっぽくて、火遊びしてたガキにしちゃロックンロールでナイスファイトだった。 今度からはもうちょい、胸張って腰入れて戦うこった」

言いたい事だけ言いながら、こちらとの距離を詰めてくるステイシーに対して、準の反応は鈍いものだった。

理解の限度を超えた状況の変遷に、精神はいわゆる忘我の境地にあって、ふらつく膝からは完全に力が抜け、腰をも抜かして準はその場にへたり込んでいたものの、さすがにメイドの鼻先までの接近には反射で身を引きかけ、その瞬間、どこからともなく取り出されたスプレー缶が即座に眼前に突きつけられ、いかにもケミカルな液体の白色噴霧を顔いっぱいに浴びせかけられた。

こなれた手つき。 息を吸い込んだ一瞬を狙って吹きかける、絶妙なタイミングでの噴射だった。

どこか自分に身近な場所で嗅いだ覚えのある、甘ったるい果実の芳香に包まれる。







かくして両の瞼は、エーテルの薬効によって強制的に閉ろされ、握り締めた拳銃をもぎ取られる気配を察したのを最後に、準の意識はぷつんと切れた。


































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感想で連続投稿するとか調子こいててまだ次話できてないとか……

八月上旬中には仕上げられ、たら、いいなぁ(遠い目)

とりあえず今回は再びArcadia繋がったのを祝して、出来あがってた分だけ投稿。




そして全然関係ないけど、バルドスカイゼロってのが出るらしいですねひゃっほーい
レイン可愛いよレインprpr

でも原画キャラデザが綱島にチェンジって……レイープ展開強化以外の何物でもないというね


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