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No.25343の一覧
[0] 手には鈍ら-Namakura-(真剣で私に恋しなさい!)[かぷりこん](2013/08/25 17:16)
[1] [かぷりこん](2011/07/09 17:24)
[2] 第一話:解放[かぷりこん](2011/07/09 17:27)
[3] 第二話:確認[かぷりこん](2011/07/09 17:34)
[4] 第三話:才覚[かぷりこん](2011/07/09 17:52)
[5] 第四話:降雪[かぷりこん](2011/07/22 22:57)
[6] 第五話:仕合[かぷりこん](2012/01/30 14:33)
[7] 第六話:稽古[かぷりこん](2011/07/09 18:32)
[8] 第七話:切掛[かぷりこん](2011/07/09 18:59)
[9] 第八話:登校[かぷりこん](2011/07/10 00:05)
[10] 第九話:寄合[かぷりこん](2011/12/19 22:41)
[11] 第十話:懲悪[かぷりこん](2011/07/10 00:13)
[12] 第十一話:決闘[かぷりこん](2011/07/18 02:13)
[13] 第十二話:勧誘[かぷりこん](2011/07/10 00:22)
[14] 第十三話:箱根[かぷりこん](2011/07/10 00:26)
[15] 第十四話:富豪[かぷりこん](2012/02/05 02:31)
[16] 第十五話:天災[かぷりこん](2011/07/10 00:29)
[17] 第十六話:死力[かぷりこん](2012/08/29 16:05)
[18] 第十七話:秘愛[かぷりこん](2011/08/20 09:00)
[19] 第十八話:忠臣[かぷりこん](2011/07/10 00:48)
[20] 第十九話:渇望[かぷりこん](2011/07/10 00:51)
[21] 第二十話:仲裁[かぷりこん](2011/07/10 00:56)
[22] 第二十一話:失意[かぷりこん](2011/07/06 23:45)
[23] 第二十二話:決意[かぷりこん](2011/07/09 23:33)
[24] 第二十三話;占星[かぷりこん](2011/07/12 22:27)
[25] 第二十四話:羨望[かぷりこん](2011/07/22 01:13)
[26] 第二十五話:犬猿[かぷりこん](2011/07/29 20:14)
[27] 第二十六話:発端[かぷりこん](2011/08/11 00:36)
[28] 第二十七話:哭剣[かぷりこん](2011/08/14 14:12)
[29] 第二十八話:幻影[かぷりこん](2011/08/26 22:12)
[30] 第二十九話:決断[かぷりこん](2011/08/30 22:22)
[31] 第三十話:宣戦[かぷりこん](2011/09/17 11:05)
[32] 第三十一話:誠意[かぷりこん](2012/12/14 21:29)
[33] 第三十二話:落涙[かぷりこん](2012/04/29 16:49)
[34] 第三十三話:証明[かぷりこん](2011/11/14 00:25)
[35] 第三十四話:森羅[かぷりこん](2012/01/03 18:01)
[36] 第三十五話:対峙[かぷりこん](2012/01/25 23:34)
[37] 第三十六話:打明[かぷりこん](2013/11/02 15:34)
[38] 第三十七話:畏友[かぷりこん](2012/03/07 15:33)
[39] 第三十八話:燃滓[かぷりこん](2012/08/08 18:36)
[40] 第三十九話:下拵[かぷりこん](2012/06/09 15:41)
[41] 第四十話:銃爪[かぷりこん](2013/02/18 08:16)
[42] 第四十一話:価値[かぷりこん](2013/02/18 08:24)
[43] 平成二十一年度『川神大戦』実施要項[かぷりこん](2013/02/18 07:52)
[44] 第四十二話:見参[かぷりこん](2013/07/17 08:39)
[45] 第四十三話:戦端[かぷりこん](2013/03/31 11:28)
[46] 第四十四話:剣理[かぷりこん](2013/05/11 07:23)
[47] 第四十五話:手足[かぷりこん](2013/08/20 08:47)
[48] 第四十六話:膳立[かぷりこん](2013/08/25 17:18)
[49] 第四十七話:鞘鳴[かぷりこん](2014/02/05 18:46)
[50] 第四十八話:咆哮[かぷりこん](2015/01/11 10:57)
[51] 第四十九話:決斗[かぷりこん](2015/11/29 14:16)
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[25343] 第二十九話:決断
Name: かぷりこん◆273cf015 ID:94f5cb7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/30 22:22




『自ら苦しむか、あるいは他人を苦しませるか、そのいずれかなしには恋というものは存在しない。』

―――アンリ・ド・レニエ

















――――内閣情報調査室非公開部署、“処理課”内事班管理下、文書:二〇二六号より以下抜粋。










9がつ5にち、すいようび


にほんの、かわかみし、についた。

みんな、わたしたちとおんなじかおのひとがたくさんいた。

これからはにほんごで、にっきをかくことをした。

いっしょうけしめぃ、がんばろ。

おとうさんたちは、またしごとみたい。

すごく、いそがしい。

でもあとすこしでしごとがおわろらしい。

おわったら、にほんにしばらくいるって。

とてもおとうさんはうれしそうに、ばいばいしていった。

おにいちゃんはそれはうそだって、どうせまたひこうきにのるっていってた。

ちがうよ、こんどはほんとうだっておかあさんいってたもん。

おとうさんはちがうけどおかあさんはうそつかないもん。

だからほんとう。

だからちゃんとおるすばん。

がっこうにいくのはおかあさんたちがかえってきたら。

それまで、にほんご、もっとじょうづになりたい。

そういえば、あたらしいいえはすごい。

せんようの、へやがある。

ひみつきちだ。

おとめの、ひみつきち。

さっき、びーずのくまさんをつくった。

てがいたくなったから、おわり。











9がつ6にち、もくようび


しんらおねえちゃんとゆめおねえちゃんと、みゅうに、あいにいった。

でんしゃにのった。

ちゃんと、いえのかぎは、しめたからだいじょうぶ。

おとめのひみつはまもられた。

そういったらおにいちゃんに、はたかれた。

つねって、しかいし。

ななはまえきについて、どあがあいたら、ばんしょーのおじちゃんと、たいさんがいた。

ふたりきりできて、えらいって、なでられた。

はじめてくおんじのいえにいったけど、いえじゃなかった。

おしろ。

ちょう、おしろ。

おにわでみんなとあそんだ。

くおんじふらっぐ、おもしろかった。

それから、しんらおねえちゃんはおにいちゃんがすき、だとおもう。

ずっと見てた。

ずっとずっと、おにいちゃんを見てた。

おにいちゃんは、みんなのことをおじょうさまってよんでた。

いつも、あれくらい、ぴしっとしてたらいいのに。

そういえば、なんでゆめおねえちゃんは、みゅうをみゅうおねえちゃんってよぶのかな。

なんでみゅうは、ゆめおねえちゃんをゆめっていうのかな。

みゅうがおねえちゃんっていうのは、うそだ。

だって、ゆめおねえちゃんのほうがどうみても、おねえちゃんだもん。

あそんであげてるのかな。

さすがゆめおねえちゃん、やさしいおねえちゃん。

よるになって、かえった。

ばんしょーおじちゃんは、とまっていきなさいっていった。

とまろうっておにいちゃんにいったけど、だめだって。

すぽんさあに、めいわくかけられないって。

あぶないから、くるまでおくってもらった、いえまで。

すぺしゃるなおとこ、それがたいさん。

おふろにはいって、もうきょうはおしまい。

おにいちゃんはでんわでおかあさんとはなしてた。

でたいけど、ねむいからねる。

きょうはなにもつくれなかった。

おわり。











9がつ7にち、きんようび


きょうはたんけん。

かわかみたんけんたい。

たいちょうはわたしで、おにいちゃんは、さんとうへい。

えきのほうはあぶないっておかあさんはいってたから、ぎゃくのたまがわのほうへしゅっぱつ。

ぎゃくたま。

また、はたかれた。

おとうさんがかえってきたら、ぜったいにいう。

はんぎゃくしゃは、ぐんぽうかいぎにかけるべし。

しばらくあるいて、あまいにおいのするほうにちかよる。

なかみせどうり、というところの、おがさらわ、やさん?

ようちぇっくやで、っておにいちゃん。

こんどは、おせんこうのにおい。

おっきい、じんじゃ、じゃなくて、おてらだっておにいちゃんがいった。

おぼうさんがいっぱいならんで、けったり、なぐったり。

よわそう。

さんとうへいのほうが、つよい。

さんとうへいは、おくのほうにいるおんなのこがきになったみたい。

まるぎってみたいな、きれいなひと。

おんなのこのほうも、おにいちゃんのほうをみてたけど、すぐにおにいちゃんはわたしのてをひっぱってそとにでた。

もてもてだ。

こういうの、えいごで「しゃい」っていう。

けっきょく、くらくなったから、たまがわにはいかなかった。

あしたは、いく。

きょうはびーずのぱんださんをつくった。

おわり。











9がつ8にち、どようび


あつかった。

ちょう、あつかった。

なつが、またきた。

にほんのなつは、こんなにもあついのか。

でも、たんけんはする。

きっと、かわはつめたい。

つけたばかりのくうらーをけす。

せんぷうきもけす。

てれびもけすと、おにいちゃんはすごくにらんできたけど、いっしょにたんけん。

てれびは、にほんごのべんきょうになるっていってきたけど、だんごたるいしで、みかえしてやった

しゅつぱつ。

さんとうへいのうごきはのろかった。

かわにちかづくと、まあまあげんきになった。

げんきんだった。

おおきなはしが、めのまえにでた。

おおきい、おおきいはし。

わたってみた。

すごく、ながめがいい、それにすずしかった。

すると、とうくのかわらで、なんにんかが、あそんでた。

あ、っておもった。

きのうのきれいなひとも、いっしょだった。

わたしのしりょくは、さんてんぜろ。

みまちがえは、ありえないのだ。

おとこのこがさんにん。

おんなのこがふたり。

いこうって、おにいちゃんにいったけど、なまへんじ。

ひっぱったけど、うごかなかった。

なんで、ってきいたら、どうせすぐ、ひこうきにのるからって。

どうせすぐ、わかれるからって。

わかれるとき、どっちもつらいって。

さんとうへいは、てきぜんとうぼうした。

そういうふうにあきらめるから、ともだちができないって、いおうとしたけど、わたしもともだちすくないから、なにもいえなかった。

そうしているうちに、あっちは、かいさんしたみたい。

のこったのは、ひとり。

おとこのこだった。

きっと、あしたもここであそぶんだろう。

だから、いれてもらう。

かわらにおりた。

いっしょにあそぼっていったら、だめだって。

てんいん、おーばー。

なんでかな。

かわらって、ろくにんであそぶと、くずれるのかな。

なんでってきいたら、はしってどっか、いっちゃった。

ききかたが、わるいのかな。

やっぱり、にほんごはむずかしい。

それとも、きつおん、が、いやなのかな。

おとうさんもおかあさんもおにいちゃんも、きにしなくていいっていってたけど。

しんらおねえちゃんもゆめおねえちゃんも、みゅうも、なにもいわなかったのに。

はしのうえでまってた、おにいちゃんがどうだったってきいた。

やっぱり、おにいちゃんも、ほんとはあそびたいんじゃないの。

いったら、またはたかれそうだから、いわなかった。

あした、またくるっていって、いっしょにかえった。

あきらめたら、だめだよね、おとうさん。

きょうは、がんばってどらごんをつくった。

しかもふたつ。

いっしょにあそべるようになったら、いっしょにつくれるかな。

おとうさんからでんわがきたみたい。

おにいちゃんがよんでるから、きょうはおしまい。

だんだん、にっきがながくなって、てがいたくなるけど、いたくなっただけ、にほんごがじょうずになったきがする。

でも、まだかんじはむずかしいだから、あとで。

おわり。











9がつ9にち、にちようび


きょうも、かわらにいった。

きのうとおなじじかんに、とおちゃく。

きのうとおなじところで、みんな、あそんでた。

あそびおわるまで、また、はしのうえでまった。

なんでだよ、っておにいちゃんがいったけど、ずっとみてた。

じゅっぷんぐらいで、みんなが、どてにあがった。

みんないえにかえるみたい。

すにいきんぐみっしょん、かいし。

じりじりとむこうをみながら、あとをつけた。

おにいちゃんも、ふしぎそうに、わたしのうしろにつづいた。

でもすぐに、あのきれいなひとはきずいたみたいで、にびょうくらいまえにいたところまで、はしってきたけど、そのまえにおにいちゃんにかかえられて、はしのしたにかくれた。

さすが。

おにいちゃんも、なんでかくれようとしたのか、じぶんでもわからないみたいだったけど、おやゆびをたてたら、わらって、またいっしょにあとをつけた。

とちゅうでみつけただんぼうるを、おにいちゃんはかぶりたそうだったけど、こんどはわたしがはたいて、やめさせた。

それでも、ほんとうにあのきれいなひとはすごい。

けはいにすごくびんかんで、このあとも、にかいくらいおなじことがあった。

おれより、たぶんつよいって、おにいちゃんはいってた。

ちょっと、うれしそうだった。

そうして、あとをつけて、まえにいるのはふたりだけになった。

もうひとりの、ちいさいおんなのこと、きのうのおとこのこ。

おんなのこは、じゃあね、やまと、っていって、いえにはいっていった。

すぐちかくの、むかいのいえに、おとこのこ、やまとくんは、むかっていった。

おにいちゃんに、ぜったいにうごかないでっていって、わたしは、かどからでて、やまとくんにむかった。

とつぜんでてきて、やまとくんはすごくびっくりした。

あやまって、そして、またなかまにいれてほしいって、あそびたいっていった。

おにいちゃんのことも、いってみた。

でも、そしたら、おまえみたいな、どんくさそうなやつ、きらいだって。

だから、やだって。

かぜがふいた。

ふりかえった。

さっきまでかくれてたかどから、こわいめがにらんでたけど、だめって、にらめかえした。

そうしてたうちに、ばたんって、げんかんがとじて、わたしはひとりになった。



かえりみち、なんでだ、って、おにいちゃんはいった。

なんで、あいつにこだわる、だって。

ほかのやつと、はなせばいいじゃないか、たのめばいいじゃないかって。

それか、こんどは、おれがかわりにあいてするよって。

だめ、ってわたしはまた、いった。

わたしは、まるぎってにいったこと、まもりたいから。

なぐるよりも、はなすほうが、ぜったいただしいから。

おかあさんが、おとうさんが、ただしいもん。

しぶしぶ、おにいちゃんは、わかったっていった。

でも、じゃあ、なんで、ほかのやつらに、はなしかけないんだ。

おにいちゃんはいった。

すこし、あるいたあとに、わたしはいった。

だって、それじゃあ、ともだちにならないもんって。

ほかのひとにたのんで、なかまにしてもらっても、やまとくんは、なかまにならないもん。

おにいちゃんは、たちどまった。

おまえ、あいつ、きらいじゃないのか。

うううん、って、くびをよこにふった。

やまとくんの、なかみは、まだわからないから。

なかみ? っておにいちゃんは、いった。

やまとくんだって、わたしのなかみを、よくしらないから、ああいうふうにいったんだとおもう。

わたし、いまは、あんまり、しゃべれなくて、どんくさくみえても、しかたないし。

きつおん、だし。

それでも。

それでも、がんばって、なかみを、しってもらう。

せいしん、せいい。

みんなが、みんなのなかみをしれば、へいわになるって、おかあさんいってたから。

そういったら、おにいちゃんは、しょうがないやつだなって、てをあげた。

はたかれるとおもったけど、なでられただけだった。

おわり。










9がつ10にち、げつようび


やった。

やったやったやった。

あしたは、あそべる。

みんなと、みんなと。

すごく、やまとくんはふきげんそうで、こんまけしたってかんじだけど。

でも、これから、なかみを、わかりあっていけばいい。

とびはねてると、はっぱたいみたいだって、おにいちゃんは、わらってた。

おにいちゃんも、あそぼって、いったら、まだいいって。

また、なぐりそうになったらかなわないから。

あしたは、みんなであそんでこい。

おなかがすくだろうから、めし、たくさんつくっててやるよって。

きょうは、はやくねる。

はやく、あしたがくるように。

おわり。



やまとくんが、わたしのなかみをわかったら、おにいちゃんも、ぜったい、ぜったい、いっしょにあそぼ。

































――――平成十三年九月十三日付、川神新聞朝刊、地域欄より以下抜粋。








十二日午前五時二十五分ごろ、川神市多馬川下流、三角州近くにて、身元不明の女児の遺体が川底(水深約1・3メートル)に沈んでいるのを付近にいた釣り人らが発見した。  川神署によると女児の年齢は小学校高学年程度で、目立った着衣の乱れも外傷もなく、死因は水死とみられる。 なお、県内に住む児童たちの中で、捜索願が出されている者はいないため、神奈川県警は情報提供を広く求めている。 現場の状況検分から当該女児は誤って河川に転落、上流から流されたものとみられ詳しく調べられており、また、現場は私立川神学園高等学校の西、約二百メートルの河川敷付近で、県警によると、県内で子どもが犠牲になった水難事故は今年初めて……

















<手には鈍ら-Namakura- 第二十九話:決断>

















これは、お前が三才の時に書いている。

寝ている息子の前で、遺書を書く、罪深い俺を、決して許さないでくれ。

俺も、許したくない。 そして絶対にお前に同じ事をして欲しくない。

娘に向けた遺書を書いてる六花も、同じだろう。

だが、書かなければならないんだ。

俺たちがこれから果たしていく使命は、これまでよりもずっと、命の危険が伴うものだから。



これがお前に届けられたということは、俺たちは死んだのだろう。

これを読んでいるお前が、少年か青年か、はたまた中年かはわからない。

字が読める歳であることを願うばかりだ。



これは俺と六花の遺書であると同時に、これからどう生きるかの決意表明でもある。

俺たちは、世界中のガキ共を救う。

「一人でも多く」ではなく「全員」を。

そしてそれに立ちはだかる障壁と、不条理と、強かに戦っていく。

この世には、不条理がある。

これまでに俺たちは幾度となく、その片鱗を見てきた。

これからも見ていくのだろう。そして、それと戦っていく。




お前たちは、不条理に会ったらどうする?

戦うのか、逃げるのか。

どちらも、選択として間違ってはいない。

俺たちは、進んで戦えとは言わない。

おそらく俺たちは、戦うために、たとえばお前たちの育児を少なからず犠牲にする。 ……俺たちの選択は、親としての責務を削り取るものだからだ。

人の命だったり将来だったり、大切なものの犠牲を孕む行為を、俺たちは勧めたくない。

逃げる、目をつぶる、という選択肢も、確かに、俺たちにはあった。

だが、選べなかった。

12歳で妊娠する奴。
10歳で銃弾の肉壁となって死ぬ奴。
8歳で両足を地雷で吹っとばされた奴。

ゴミ山でカラスに啄ばまれる赤ん坊。

そういう不条理を見て、俺たちは俺たち自身の本能から、それを滅したいと思った。

そして、お前達が生まれて、使命を全うする決心がついた。




……すまない。 お前たちへの言い訳になっている。 許せ。




俺が言いたいのは、中途半端に迷いをもったまま、選ぶな、ということだ。

心の奥底から、本能からの願い。

それから目を離すな。

何かに抗い戦うなら、徹底抗戦。

逃げるなら脇目も触れず、脱兎の如く。

シンプルで、一番ハード。

言うは易く、行うは難い。



決して、要領良く柔軟に対応、なんて考えるな。 ……俺の子なんだから、パンクするのが関の山。

半端モノにならないために、相手にする物事を人物を、より深く、掘り下げて考えろ。

選択する行動が、どんな結果を生むのか。 どんな意味を孕むのか。

誰が満足するのか。 何が変わるのか。 何の意味があるのか。

考えろ、考えろ。

そして、即時、実行。

全力で、相手に向き合え。

覚悟とともに、お前自身を、貫いてみせろ。




……書いてて恥ずかしいな、これ。




そうだな。 

あとは遺書らしいことを書こう。

川神の自宅を含め、財産は久遠寺の田尻さんに任せてある。

信用できる人だ。 今後はこの方を頼ってくれ。

こんな職業だから額は多くないが、いくらか保険金も下りる予定だ。 学費の足しくらいにはなるだろう。

それと、川神院の当主、川神鉄心さんにもし会うことがあれば、礼を尽くせ。

俺が真っ当に人としての生活を送れたのは、師と、六花の御陰だ。

総代からの借りは、悪いがお前が返してくれ。

俺からっつーのは、どうもな。




最後に、真守とお前が、幾多の困難があろうとも、幸せに、健やかに生きることを願っている。

お前たちの、唯一無二の父として、母と共に。























俺達は、いつまでも、家族だ。

本文に続く氏名の下に、そう走り書きされているのを見て、俺はテーブルに、何度読み返したかわからない紙束を滑らせた。

両肘を黄ばんだランチョンマットにつけ、祈るように組んだ指に額を押し付ける。

どれくらいこのリビングで時間を過ごしたのだろうか。 
今日も終日、外は雨模様。 カーテンも閉め切っているために日差しで時刻を知る術はないが、瞼が無意識に下りてくるくらいに日は暮れているのだろう。


―――中途半端に、終わるなよ?

―――大丈夫です。 ……ウチの家訓ですから。


ひとつ、嘆息する。 
出所前に教官と交わした言葉は、よくよく考えれば、この遺書を彼が読んだ上で成立するものだった。

まあ、今更自覚しても、何の意味もなさないか。





久方ぶりに帰った川神の自宅は、まだ、あのころの匂いを内包していた。

あのころ。 二人で、親父達を待っていたころ。

一ヶ月に二度はここに戻ってきているが、この匂いを消したくなくて、掃除も換気も殆ど出来ずにいる。 

さすがに、虫の死骸くらいは処理しているが。


……あれから、四日が過ぎた。

処分保留という名目で、俺は今、無期自宅謹慎、停学中の身の上。

即刻退学処分とならなかったのは、学長――、御本家の尽力があったのが一つ。

もうひとつとして、結局、凶器を握らなかった事が挙げられる。 事故で・・・、足に当たった剣が抜かれてしまったと、そういう事になったそうだ。

由紀江は、何も言わなかったという。

ちくりとした痛みが胸を刺したのはさておき、あの時の不覚がこんな形で役に立っているとは、皮肉なものだった。

首元と左肩に常時走り続ける鈍い痛みが、数日前の乱闘の記憶が現実であった事を、嫌でも思い起こさせる。 本当に、嫌でも。

衝動的に振舞いすぎたなと反省する反面、やはり、所詮これが俺の本質なのだという自嘲がこみ上がってくる。

……最後にあずみから喰らったのは、神経毒だったらしい。 非致死用に調合されたものだと総代から伝え聞いた。

おかげで一昨日まで肌の感覚がなかったが、もう麻痺の影は鳴りを潜め、その代わりにありがたいといえばありがたいが、できれば最後に回して欲しい痛点、痛覚が復活したのだった。

健常体に戻りつつあるな、と目を瞑りつつ体の状態を感受する一方で、しかして、今までは本当の意味で健常であったのか、という疑問が、片方の口端と共に吊り上がる。


「龍、封穴……」


目の焦点をしっかりと結ばないままに、厚い埃の被膜がかかる電灯に向かって独白する。

これも一昨日、初めて聞いた話だった。

この身に宿る才と氣を著しく制限し、一般に言う安定状態・・・・・・・・・へと導いている、川神流極技。 武の終着点と言って差し支えないだろう封印術。

もともとは、百代のために会得を目指していたが、完全にこの奥義を修める前に、御本家はこれを緊急避難的に俺に使ったのだという事だ。


封印は不完全だったらしく、白髪頭になったのもこれが遠因と考えられた。 御本家の氣が、遺伝子の配列すら組み替えてしまったのだろうか。 時期的に符合するのが、その証拠だった。

眼が良い、という川神に来てから自覚した才も、何の事はない、これの残滓だったわけだ。




真実を聞いた途端、一抹、ふざけるなよ、という苛立ちがむらと起き上がったのは確かだった。

緊急避難的? だったら何故、解こうとしなかったのか。 この一年が馬鹿らしく思え、言っても際限のない罵倒が喉まで出かかった。

あんた、俺がなんでここに来てるか知ってんだろうっ―――と、迷惑をかけ続けている意識も忘却して。

だが先日の、隣で俺と同じく横になって告白する総代の、心労に満ちた横顔を見れば、何を言うにも億劫になったのだ。

それに、つまるところ遣わざるをえなかった、遣い続けざるをえなかった理由は、俺自身にあるのだろうから。






俺も正直、一遍に様々な事が起こりすぎて、新しい事実が次々に掘り出されて、気後れも気疲れもしている。

もう、疲れた。 寝たい。 忘れたい。 泣きたい。 というのが本音であるが、そうも言っていられなかった。

今、こうして漫然と椅子に座って思考に沈溺している中でも、刻々と時間は過ぎていく。

選択の時限は、もう残り僅かなのだ。







事ここに至りては、予定通り戦うか、全てを話し糾弾するか、それとも今すぐ何もかも放り出して逃げるか。

この、三択。

そして九分九厘、戦うという選択に俺の心は傾きつつある。

そうでなければ、何のために川神に戻ったのか。 何のために川神流門下に入ったのか。

何のために武の頂ももよを目指したのか。

あってはならない、あってはならなかった・・・・・・・・・・、こういう時のためだろう?







だが、もう一歩を踏み出せずにいるのは、



―――なぐるよりも、はなすほうが、ぜったいただしいもん。



……俺だって、出来ることなら、そうしたい。



―――だが私は君に、同情も慰めもしない。 ……私も人を斬った事がある。 だから、その必要が無い事はわかっている。 私は、ただ君の行為を侮蔑する。 戦士でもない者を、死ぬ覚悟をしていない者を、君は幾人も手にかけた



また、同じことを、繰り返すところだったのだ。



―――君なら、由紀江の第一の友に、相応しいとみた。



あれほどの事をやらかしたのだ。 黙って消えるのもまた、考慮に値する。


















……だが、それでも・・・・、犠牲が俺の良心だけで、済むのなら――――

















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