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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第九話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/12 11:31
Der Freischütz 第九話 「夢で終わらせない」




「で、司軍曹は大丈夫なんですか?」


カウハバ基地にある病室の中、ベットで寝かしつけられた司に目をやりながら智子は女医に尋ねた。
司のベットの横にはエイラと二パの姿もあり、意識を失っている司の様子を心配そうに見守っている。


「大丈夫。ちょっと体の中の魔力が欠乏して意識を失っているだけだから、貧血みたいなものよ。――しかし分からないのは何で症状に陥ったかってことだわ。普通ウィッチがこういう状態になる時は長時間に及ぶ戦闘行動もしくは固有魔法の使いすぎが多いのだけれど。穴拭大尉、何か心当りはない?」


下にズボンとストッキングしか穿いていない――否、下にズボンとストッキングを穿いている若い女医は一応の症状をカルテに書きながらごく自然に組んだ足を組みかえる。
上から着込んだ白衣の裾が翻り、臀部が僅かに露わになるが特に気にした様子はなく、女医はカルテに書き込みを続け、智子に質問をした。


「気を失う直前に見た時は少し様子がおかしかったと思います。すこし喋り方が芝居がかってて、雰囲気もまるで別人みたいで……後、魔力光の色もおかしかったです。戦闘脚の先端の呪符(プロペラ)が赤い色になっていて、銃弾に込められた魔力や瞳の色も同じ赤に。固有魔法もいつもより強力でしたが何か関係があるんでしょうか?」


「う~ん。あなた達はどう、何か心当りはある?」


女医は司に付き添っているエイラとニパにも意見を求めた。


「いや、私達が駆け寄った時は既に気絶してたから。ただ私達が相手をしていたネウロイを倒した司の攻撃は穴拭大尉が言ったように前に見た時とは違った気がする。何か……こう、技の切れが違ったというか、とにかく段違いだった。私達が攻撃を当てられなくて苦戦していたネウロイをあっという間に倒したんだ」


エイラの言葉に頷くニパ。
どうやら同意見だった様だ。


「確か、カリヤ軍曹の固有魔法は魔力を込めた物体の方向操作だったわね。固有魔法の威力の増大が症状の原因かしら? 感情の昂ぶりで一時的に魔力や魔法が暴走するウィッチの事例は多数報告されてるからそれでしょう。けど、魔力光や瞳の変化に関しては私も聞いたことがないわ。私は専門外なんで分からないのだけれど魔力光についてはストライカーの不調で色が変わるってことはないの?」


「いえ、確かに戦闘脚にはウィッチの魔力を増大させる機構は搭載されていますが、魔力が変質するような話は聞いた事がありませんし。見た事もないです」


智子の言葉に今度はエイラとニパが同じ意見だと頷いた。


「分かりました。じゃ、取りあえずは安静ってことで。後、私がいない時に彼女が起きたらこれを彼女を食べさせておいて」


女医は椅子から立つと棚から何かを取りだし机に置く。
ステック状の直方体の物体は両の手で持てば包める程の大きさで、ステックを包む包装紙には武語がプリントされている。


「それは……?」


「リベリオン陸軍が開発した軍用レーションチョコレート、レーションDバーのウィッチ用改良型。元々のレーションDバーをより高カロリーにしたもので、長時間飛行をしいられるウィッチのエネルギー補給を目的に作られたそうよ。飛行中携帯を考慮してオリジナルよりコンパクトなサイズになってるし、片手でも包装が開けれるように改良されてて、なにより味もオリジナルは『茹でたジャガイモよりややましな程度』って言われるぐらいだけれど、お菓子のものと変わらないくらいに改善されているわ。ただ砂漠などの高温環境にも耐えるようにすごく硬く作られてるから。それだけ注意するように言っておいて」


女医の説明にその場に居たウィッチ三人は「分かりました」と答える。


「しかしまぁ、ウィッチっていうのは羨ましい存在ね。こんな高栄養価のもの、とてもじゃないけど私は食べられないわ。ウィッチは不思議な事にどれだけ栄養をとっても必要以上は脂肪にならずに体内の魔力に転化しちゃうみたいだし。学会でも注目され続けてる研究テーマだけれど未だに詳しい原理は不明。解明されて一般人にもこの原理を利用できれば、女性達の永遠の悩みの一つが解消されるでしょうに。――あなた達も今はいいけど、あがりを迎えた後は気を付けなさい。そのままウィッチだった頃の食事量を引きずるとすぐにとんでもない事になるんだから」


机の上のレーションを見ながら語る女医の忠告をまだ幼い二人はあまり実感が湧かず聞き流したが、智子だけは苦笑いしながら真摯に受け止めていた。


「少し用事で出るけど、基地の中には居るから何か緊急の事があったら放送で教えて。じゃ」


カルテを机の上に置き女医は病室から出ていく、すると入れ違いで義勇飛行中隊のエルマ中尉が部屋の中に入ってきた。


「どうです? ツカサちゃんの様子は……っ、居たんだエイラちゃん、ニッカちゃん」


「エルマ先輩、こんにちは」

「こんにちは」


エルマが親しそうにエイラとニパに話しかけると、エイラとニパも同じように親しそうに返事を返した。
その様子を智子は意外そうな顔で見つめる。


「司は大丈夫よ、魔力不足で眠ってるだけだって。それよりエルマ、あなたってその二人と知り合いだったの?」


「はい、二人ともカウハバ基地に転属する前の後輩なんです。カウハバ基地にこの子達が来た時には私も驚いたんですよ」


司の様子を聞いて安心したエルマは緊張して硬くしていた表情を緩ませ智子に語る。


「私達もエルマ先輩の元気な姿を見て安心したよ。いつも気弱でビクビク、オドオドしてたから転属してもやっていけてるかなって心配してたんだ」


「ちょっとイッル……」


エイラのエルマに対する遠慮のない物言いに対してニパは注意を促すがエイラは特に気にした様子もない。
言われたエルマはさきほどまで明るい雰囲気とはうって変わってどんよりとしたオーラを纏い、「わ、私って後輩の子からそんな風に思われてたんだ」と意気消沈している。
智子はそんなエルマを慰めようかとも思ったがエルマが落ち込むのはいつもの事であるのを思い出し、気になっていた事を確かめる為に義勇飛行中隊の戦闘脚が整備されている格納庫に向かう事を優先した。


「エルマ、悪いけど待機室で仮眠をとってる他のメンバーに司は気絶しているだけでどこにも異常がなかったって伝えておいて。後、あなた達は司の付き添い頼むわ。私は義勇飛行中隊の格納庫に行くから、司が起きたら知らせてね」


他の義勇飛行中隊の隊員達は夜間戦闘での救援に駆り出された為に、現在、仮眠を取っている最中なのだ。智子はハルカやジュゼッピーナが司にいたずらをしないか心配したが、さすがに倒れた仲間にその様な気を起すことはなく。年相応の寝顔を浮かべ眠りについている。
その仲間達への連絡をエルマに、司の看病をエイラとニパに頼むと智子は病室を出て、格納庫へと向かった。












「ヒデェな……こりゃ。どうやったらこんな風に成っちまうんだ?」


整備兵達は驚きと呆れの混じった声を上げる。
現在の格納庫内では司の愛機であるキ60のオーバーホールが行なわれていた。
司達が帰還した後、全員の戦闘脚に通常の定期点検を行ったところ司のキ60にかなりの異常がみられ、キ60の整備点検の為に扶桑海軍から派遣された整備兵に加えて、カウハバ基地の常駐の整備兵の一部も手伝い全面点検を開始したのだ。
二機で一対となるストライカーユニットから心臓部である魔導エンジンを二基とも取り外したところ、ひどい有様だった。
パッと両方のエンジンの外見周りを見ただけでも部品の著しい劣化に亀裂、果ては溶けて変形している部分すらある。
さらに細かい分解を始めると……出るわ、出るわの損傷のオンパレード。
まだ数年ではあるがストライカーユニットの登場時から、整備を行っていた古参でもこんな酷い状態は見た事がない。
耐久性のテストの為に魔導エンジンを壊れるまで稼働し続けてもこうならないといったレベルである。


「クソっ、魔法出力リミッターが焼き切れてやがる。普通は規定値以上の魔力が流れてきたらリミッターが働いてエンジンに流れる魔力がカットされるはずだぞ。どんだけ魔力を注ぎこんだらこんなになるんだ!?」


「魔導力増幅装置も完全にイカれてます。いったいどうゆう穿き方すればこうなるやら?」


「ウイングの先端に取り付けられている夜間飛行用の衝突防止灯も両方点きません。どうやら電子系統も駄目みたいです」


次々と故障の声が上がり、交換が必要な部品の名前が山のように出てくる。


「どうする? お宅らが持ち込んだキ60はどうやら一切合財、部品を変える必要があるようだぜ。幸いにも要請していたメルス(Bf109)の部品が大量に届いた後だから部品が足りねぇなら分けてやれるが、――いっそのことDB601Aエンジンからカールスラントから届いたばかりのメルス用のDB601Eエンジンか新型試作魔導エンジンのDB605に乗せ換えちまうか? キ60はメルスと構成が似てるし設計時に拡張用の余剰が残されてるからいけると思うが……」


キ60専属である扶桑人の整備兵達にカウハバ基地の古参整備兵はそう提案した。
どうやら原因は過剰な魔法力の流入による魔導エンジンのオーバーロード(過負荷)であることから、DB601Aの改良型か、DB601の発展型で一回りサイズが大きく、必要とされる魔法力も増大している試作のDB605を載せた方がマシになるのではないかという配慮からの発言であった。


「いえ、細かい部品についてはお願いしたいのですが、エンジンに関しては予備のDB601Aがありますのでそちらに換装したいと思います」


提案について扶桑の整備兵を代表して一人が丁寧な口調で返す。


「……そういや、お宅らのキ60は試作機としてのデータ取りも必要だったな。勝手なエンジンの変更は駄目か」


「いえ、そういう訳ではありません。必要なデータは既に本国で取り終えているので……、実戦でのキ60の運用のデータ取りとは名目上でしかなく、重要なのはキ60ではなく重戦闘脚が戦場で活躍する事によって零戦を開発した海軍派閥の人間にも重戦闘脚の有用性を理解させることです。余計な重圧を掛けない様に狩谷軍曹に伏せられていますが主目的はそういう事なのでエンジンの換装は問題ではないのですが、まずは使えるものを使いきってから頼ろうと思っています」


司は教えられていなかったがキ60の司への貸与にはそういう背景が存在しており、キ60の中身が多少入れ替わろうと問題はなかったのだがまずは使える部品を使って整備するという基本に従う旨を扶桑の整備兵は返答した。


「了解した。しかし戦場でキ60が活躍するのがあんた等の目的ならそのお役目をキ60共々あの嬢ちゃんは充分に果たしてるんじゃないか? 何せまだ一カ月経つか経たないかで新米ウィッチでネウロイの撃墜数が十数機ときてる。まだ10歳越えたばかりのガキとは思えないあの落ち着き払った態度といい。将来は大物だな」


「ええ、我々も彼女の成長には目を見張るものを感じています。日に日に魔法力も増大し続けていましたが、まさかエンジンが壊れるほどの魔法力を一度に出せるなんて……、このままいくと専用機が必要かもしれませんね」


そうやって会話を続けていく整備兵達。
そこに一人の部外者が立ち入った。


「少し司の戦闘脚の様子を見にきたのだけれど……、え!! ここまで分解する必要があるってどんだけ無理したのよあの子は!?」


司の戦闘脚が分解されているさまを見て驚く智子。
そんな智子に古参の整備兵は声を掛けた。


「ちょうど良かった大尉殿。ちょうどこの戦闘脚の主である軍曹の状態を聞きたかったんだが、どうなんだ?」


「司軍曹ならベットで寝てるだけよ。ただの魔力不足らしいからすぐに良くなるわ」


「そいつは重畳。聞いたか野郎共!! カリヤ軍曹は無事だそうだ。なら俺達の仕事は眠り姫ならぬ眠りの王子が目覚めちまう前にぺローの灰かぶり姫に出てくる魔女になったつもりでさっさと目の前のガラクタを魔法の馬車に仕立てちまう事だ! さぁ、始めるぞ!! 悪いが大尉殿、軍曹の戦闘脚の魔導エンジンを両方新品に挿げ換えなきゃならねぇ、手伝ってくれるか?」


智子は眠りの王子というフレーズを聞き、司がカウハバ基地でも初陣で訓練兵のニッカ・エドワード・カタイヤネンを助けてアホネン大尉傘下の飛行中隊の隊員達から影で『王子』などと呼ばれていたのを思い出す。

(ここまで広まってたのね。私はどちらかというと王子というより姫って言葉が似合う子だと思うのだけれど)


智子がそんな事を考えていると扶桑の整備兵達が遠慮の声を上げる。


「いえ、穴吹大尉に手伝ってもらう訳には……」


「いいわよ。いざって時にあの子が飛べなきゃ困るのは隊長である私なんだから。喜んで手伝わせてもらうわ」


扶桑の巴御前に手伝いなどさせられないといった具合の扶桑の整備兵をしりめに智子は手伝いを始め、なし崩しに作業は開始された。
















「みんな、ツカサちゃんはただ魔力不足で眠っているだけだから安心していいそうですよ!」


義勇飛行中隊の面々が待機していた部屋にてエルマの声が響く。


「……そうか。なら安心した。他の寝ている面々には後で伝えればいいだろう」


「ミーも安心したね。ツカサが倒れたら、ミー達の食事は持ち回りで温めた缶詰を開けて皿に出すだけの虚しいモノに逆戻りヨ」


寝ているハルカとジュゼッピーナに代わり、ビューリングとオヘヤはそう返答した。
エルマもかなり大きな声を出して皆に伝えたのだがどうやら二人は相当深い眠りについている様だ。


「しかし……眠り姫ならぬ、眠りの王子か。誰かキスする姫が必要だな」


「まだそのあだ名を引っ張るね? ミーはどちらかというとツカサはプリンセスって感じがするけど」


「いや、そうでもないさ。確かにいつもはお淑やかにしているが、よく見るとたまに粗野な面が垣間見れる。片手を後ろにやって頭を掻いたり、大きな欠伸をしたり。そこだけ見ると男みたいな感じだ」


「それはまだ、ツカサが子供だからね」


「確かにな。だがそれに加えて不思議な事がある。ツカサ軍曹の料理を手伝った時にブリタニア料理のフィッシュ&チップスの話になったんだが料理の事で興奮していた彼女はふとこう漏らしたんだ。『本場のパブでフィッシュ&チップスにモルトビネガーと食塩をかけてビールと一緒に頂くのは格別ですよね!!』と……。不思議だろ、まるでツカサ軍曹が本場のブリタニアのパブでフィッシュ&チップスをビールと共に頂いた事があるように言ったんだ。まだ11歳で扶桑からスオムスへの出国が初めての彼女が」


「ミーも同じようなことがあったね。ツカサの料理の手伝いをしてて、いつの間にかバーベキューの話で盛り上がって、後日に智子やハルカとその話題で話したら『バーベキュー、なにそれ?』って返されたね。でもおかしいとは思わないヨ」


「どうしてだ?」


「だってツカサは洋食屋で働いて、そこの店長からいろんな国の料理の話を聞いたと思うね。ツカサぐらいの年の子供なら大人から聞いた話をさも自分が体験したかのように言いたくなるからビューリングの話も、バーベキューの話もきっと洋食屋の店長から聞いた話ね」


「そうか、そうだな……」


ビューリングはオヘヤの話を聞いて同意の言葉を述べる。
けれど未だにビューリングの中では司の事が引っ掛かっていた。
司から感じるあの違和感は――まるで外見と中身がずれている様な……。
そこまで考えて、他人の事情に対しあまりに深入りしようとしている自身にビューリングは気付く。

(他人にそれほど深入りするような人間ではないだろうエリザベス・ビューリング。私らしくもない……)

まったく此処へ来て本当に変わってしまったと、自分に呆れつつ口に片手を当て自嘲気味な笑みをオヘヤから隠した。


「どうしたねビューリング?」


「いや、少しヤニを吸いたくなってな。少し外に出てくるよ」


そういってビューリングは部屋から出ていく。
外で煙草を吹かして戻ってきた頃には司に対する違和感など綺麗さっぱり頭の中から消し去っていた。

















――エイラは気付くと闇の中に居た。

(そうだ……。結局ツカサが起きないまま夜になって。女医は自室に戻ったけど私とニパはこのまま付き添うって言ったんだっけか)


次第に暗がりに目が慣れる。どうやら椅子に座ったまま、肩に毛布をかけて寝てしまっていたらしい……。
エイラはいったん立とうとするが片手ががっちり掴まれている事に気付く。

(ツカサか……ってニパが握ってんのか)

最初はツカサに手を握られていたかとエイラは思ったが良く見てみるとニパに片手を握られており、ニパ本人は何故だが満ち足りた表情で眠りについている。

(ニパの奴、私とツカサの手を握り間違えたのか?)

とりあえずこのままでは動けないのでエイラはニパの手を、起さないようゆっくり引き剥がした。
すると幸せそうにしていたニパの表情は若干歪み今度は苦しそうな表情へと変わる。

(何か夢でも見てるのか……。まぁ、どうでもいいか)

立ち上がったエイラは司の様子を確かめる。
司は静かに寝息を立てながら、穏やかな表情で眠りについていた。
カーテンより漏れる月の光が司の顔を照らし、白い透き通るような肌と銀の髪は淡い光を受けて幻想的な雰囲気を醸し出す。
その様子を見つめていたエイラはひどく落ち着かない気分となっていった。

(なんでだろう? こうやって眺めているだけで胸がドクンドクンいってる……)

正体の分からぬ想いに駆り立てられエイラは身を乗り出し、ベットに両手をついて自分の顔を司の顔に近づけていく。
顔が赤くなり、動悸が激しくなり、息が荒くなる。
司の顔をじっと眺めているとエイラの頬は赤くなり、体が熱くなっていった。


「ツカサ、ツカサ。――ツカサ」


熱病にうなされるようにエイラは司の名前を呼び、数センチと離れていない顔をさらに近づける。
そして顔と顔とが接触する直前――

カッと司の眼が見開かれた。


「うあっ!」


驚いたエイラは夢遊病のような状態から我を取り戻し、急いで司から離れようとするが司にがっちり肩を掴まれる。


「あの、ツカサ、これはな――えっ!?」


司から逸らしていた目を司の顔に合わせエイラは驚く。
――司の眼は赤くなっていた。
充血などではない。
まるで最初からそうであったかのように月の光を受け、司の両眼は美しいルビーように赤い煌めきを放つ。

(そういや、トモコ大尉が女医の人にツカサの眼が赤くなってたって言ってたけど……)

違うのはそれだけではない。
無表情の状態で肩を掴んでいる司はどこか違うとエイラは感じていた。

(分かんない、分かんないが……今、目の前にいるのはツカサじゃ――)

エイラが自分の思考を帰結させる前に司に変化があった。
笑ったのだ。
聖母のような慈愛の笑みを浮かべて。
どこか幻想的で人間味のない笑みを浮かべた司の赤い瞳が妖しく光る。


「すまぬな。お前は少し良くない夢を見ていただけだ。だから寝ていろ――」


司のモノであって司のモノではない声を聞き、エイラの意識はそこで途切れた――。





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「ふぅ、主の回復を促す為に同調率を上げていたが、この様な弊害があるとは……」


司の体を借りている我は眠りについた主の友人の一人を見て、そう呟く。
しかし我の魅惑に当てられたとしてもそれなりの素養がなければこうはならぬのだが……。


「主の力を高める為に、パスの繋がりを強化したのは逆効果だったかもしれんな。さきの夜間戦闘では同調というより主の意識を我の意識で塗り潰していった感じであった。主の自己の境界性を保つために己の事を『私』から『我』というように変えたがそれでも足りぬらしい」


元々、前世の自己と現世の自己が融合して出来た主である。
それ故か、憑依している我と同調すると同一化がすさまじい勢いで進行し、最終的に自我の強い我の方が体を支配してしまう。
戦闘が終われば同一化は完全に解除されるが戦闘時に我が表に出過ぎるのはデメリットが多い。
元々、無尽蔵に魔力を持っていた我は魔力の扱いが下手で燃費がすこぶる悪く、自身と我の魔力を合わせ、出撃前は莫大な魔力を保有していたが我が同調した数分で大部分を消費してしまった。
理想的なのは我が持っている固有魔法や知識を駆使して、主が己が意志で魔力を扱い戦う事なのだが……。


「問題は我の事を知らない主が同調時に我のことをきちんと認識できず、無意識に自分と同一化させようとすることか」


ならば、いつぞやの様に主の意識に夢という媒体を使って介入して我の事を少しずつ認識させればいい。
主との対話を始めようとする前に、我は主共々に空腹であることに気付き、女医が何か食べるようにと机に置いた事を聞いていたのを思い出した。





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私はただ何処かを漂っているように感じていた。


「固い、固すぎる!! 我も飲み物としてのチョコレートは嗜んでおったし、主の記憶でも固形のチョコートもおいしいものと刻まれていたからいくら軍用とはいえ少しはマシなものを期待したが……。岩でも噛み砕いてる気分だぞ、これではいくら美味でも意味がない。溶かして飲もうにも高温でも溶けぬ様になっておるし。主の記憶通りにこちらの世界もいくならレベリオン陸軍のレーションにM&M'sが開発され加わるのは1,2年後か――。こちらにも回ってくる事を精々期待しよう」


私でない者の声を聞いて私の意識は次第に覚醒していった。
瞼が開いた後、周囲に広がる風景に私は唖然となった。

「なに……ここ?」


とても広く豪華な部屋の中であった。
床に敷かれたカーペット、机、天蓋付きのベット、天井のシャンデリア。どれも高級品に見える。
だというのに同時に貧乏くさいコタツにTV、レコーダーと対応する映画や特撮、アニメのメディア、ゲーム機、PC、漫画や文庫に雑誌が存在していた。
大きな部屋の中央にコタツがちょこんと置かれ、延びていたコードは延長コードを伝い壁まで伸びており美しい装飾がされている壁にはそぐわない電源プラグに繋がっていた。
高級そうな机には、やたらとミスマッチかつ見覚えのある高性能のゲーパソが配置され、TVの近くには無数のゲーム機にカセット、ディスクが散乱し、書籍類は所かまわず積み上げられている。
その手の趣味人が部屋に置いているアイテムをそのまま、お城の一室みたいな部屋に移植したらこうなるだろうといった様相だ。
その部屋の中でコタツに座り、片手でステック状のチョコレート?を食べながら携帯ゲーム機を器用に操作している少女がいるのだ。
年は同い年ぐらいか? 髪の色は私より少し白く、眼の色は私とは違い赤い。
あれ? 確かどこかで見た事がある様な気が…………。


「ようやく目覚めた。ようこそ我が領域へ。歓迎しよう。我が主よ」


我が主? 我が領域? 領域っていうのはこの残念な部屋の事をいってるのか?


「あなたは誰なの?」


「この姿では分からぬか、――ならこれでどうだ」


チョコレートとゲーム機をコタツの上に置き、立ち上がると少女は光り輝き、その姿を変えた。


「は、伯爵~~!?」


「ご名答だ。我が主」


コウモリへと姿を変えていた伯爵はその姿のままに言の葉を発し、人の姿へと戻った。


「なんで伯爵の姿が人に! そもそも何、この部屋は! もしかして私夢を見てる!?」


「少し落ち着け主よ。立ち話もなんだ、ここに座れ」


伯爵?の言葉に従い、私はコタツに足を突っ込み。対面する形で座る。
『食べかけだが、食べるか?』とやたらとフレンドリーな感じでステック型のチョコレートを勧められ、少し迷った後、私はチョコレートを頂いた。


「固い……」


溶かして使う事を前提としている業務用チョコレートでもここまでは頑強に作られてはいない。
この固さは人の頭を殴るのに使ったら凶器になるレベルだろう。


「そうか、そうか。やはり主もこのチョコは固すぎだと思うか」


コタツに対面して座っているのはゴス調の服を来たアルビノちっくな美少女の自称伯爵。
そしてお城の一室と見まがう豪華な部屋には何故かオタクアイテムが散乱している。
なんだか悪夢というか、頭の悪い夢を見ているんじゃないかと自分でも思う。
夢って自覚したら起きるものじゃなかったっけ?


「言っておくが主よ。ここは確かに夢の中であるが、主自身が創り出したまやかしという訳ではない。それに主の食べているチョコレートは、現実でも主が食しているモノなのだぞ」


確かにチョコレートの味も食感も、夢とは思えないリアルさだが現実でも食べているとはどういう……
しかし私の思考は伯爵の言葉に遮られた。


「主よ。さきの夜間戦闘では魔力を無駄使いし過ぎて申し訳なかった」


突然の謝罪に驚いた私だが、『さきの夜間戦闘』という言葉にあの戦闘で起こった事を思い出す。


「あの声って伯爵だったの!? 本当の、本当に!? ――なんで喋れるの!?」


「扶桑でも動物の形をした物の怪の類を使い魔にしている者が居るだろ。我もその類だ。主に拾われる前に酷く消耗してしまい。確固たる自分の意識を取り戻したのはごく最近だったので喋るに喋れなかったのだ」


物の怪、確かに智子大尉の使い魔の『こん平』を紹介してもらった時に人の言葉で挨拶をしてきたし、そういう類の者が居る事は聞いているけど伯爵がそうだったなんて……。


「とにかく、我の事を主に知ってもらう為に今回はここに呼んだのだ。――では目覚めるといい転生者。言い忘れたがこの部屋の場違いな物体達は主の記憶の結晶の様なモノだ。これのおかげで我も飽きがこない、感謝しているぞ」


伯爵は聞き捨てられない台詞を吐くがこちらが口を開く前に私の意識はその場から引っ張られていき現実へと戻った。


「――ちょっと今、転生者って……え」


気付けば私はベットの上に居た。
確かここはカウハバ基地の病室の筈だ。
時計を見ると時刻は早朝だった。
ベットの横にはイッルとニパが布団を被ってこちらにもたれている。
どうやら気絶した私は病室に運ばれて寝ていたらしい。
やはりただの夢だったのかと思った時、手に何かが握られている事に私は気付く。


「これって……、さっき夢の中で食べてたチョコレート」


口の中にもチョコの味が残っていた。
ということは…………。


《ところがぎっちょん!! 夢ではありません。……これが現実、……これが現実。というわけでコンゴトモヨロシク。――転生者の主殿》


やたらとふざけた口調でさきほど夢の中で聞いた声が頭に響いた。
……どうやら私の記憶は使い魔の伯爵に筒抜けになっているらしい。





















後書き

ファンブック読んでて魔導エンジンではなく、公式では魔道エンジンと呼称されてる事に気付きましたがとりあえず本SSでは魔導エンジンのままでいきたいと思います。




補足

・レーションDバー

史実ではアメリカで開発された軍用チョコレート。
主に士気高揚とカロリー補給を目的とする。高温下でも簡単に溶けないよう若干粉っぽい食感が特徴。
ひとりの戦闘員が1日に必要とする最低限のエネルギー1,800キロカロリーが補給できたが味が改善される前はその味と相まって人気がなかった。
その後に軍用チョコレートとしてM&M'sもアメリカで開発される。


・ぺローの灰かぶり姫

グロ夢もといグリム童話の方ではないシンデレラの事。日本などで絵本にされているシンデレラの物語はぺローが改変したモノが元となっている。


・ホ103 機関砲

前話で記載し忘れたのでここで記述。
史実では日本が開発したアメリカのブローニングM2重機関銃の劣化コピー品。
全長126.7cm 重量23.0kg 砲口初速780 m/s 発射速度 800 発/分 ベルト給弾式で装填弾数は250~350発。


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