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No.25145の一覧
[0] Der Freischütz【ストライクウィッチーズ・TS転生原作知識なし】[ネウロイP](2014/06/29 11:31)
[1] 第一話[ネウロイP](2011/02/06 20:37)
[2] 第二話[ネウロイP](2011/02/12 22:22)
[3] 第三話[ネウロイP](2011/02/21 20:35)
[4] 第四話[ネウロイP](2011/02/13 22:03)
[5] 第五話[ネウロイP](2011/03/08 21:48)
[6] 第六話[ネウロイP](2011/02/12 22:23)
[7] 第七話[ネウロイP](2011/02/12 22:24)
[8] 第八話[ネウロイP](2011/03/08 21:38)
[9] 第九話[ネウロイP](2011/02/12 11:31)
[10] 第十話[ネウロイP](2011/02/19 09:17)
[11] 第十一話[ネウロイP](2011/05/14 19:50)
[12] 第十二話[ネウロイP](2011/03/24 10:57)
[13] 第十三話[ネウロイP](2011/04/23 09:18)
[14] 第十四話[ネウロイP](2011/03/22 11:08)
[15] 第十五話[ネウロイP](2011/05/14 19:20)
[16] 第十六話[ネウロイP](2011/04/03 15:33)
[17] 超お茶濁し企画!![ネウロイP](2011/02/14 07:48)
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[25145] 第八話
Name: ネウロイP◆8cd559b4 ID:5faabe4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/08 21:38
Der Freischütz 第八話 「Quaking Heart」




「すいません穴吹大尉、朝から手伝ってもらってしまって……」


「いいわよ、私も朝は鍛錬の為に早く起きているから。それよりあなたの方こそ、基地に来てからいつも、こんなに朝早くいつもみんなの朝食の準備をして。訓練で疲れてるでしょうに……大丈夫?」


智子は部隊に入ってまだ日の浅い部隊の仲間、狩谷司の様子を心配する。11歳と聞いて最初は不安になったが実際に着任してみれば彼女は年に似合わず大人びていて落ち着いており性格も温厚で、問題行動も着任早々の戦闘でも分断を除けば特になく問題ばかりの義勇飛行中隊の中では一番まともな分類に入る。
ただ生真面目すぎるというか、肩肘張って頑張りすぎている様に智子には思えるのだ。
この朝食の件に関しても、朝は作らなくても共用の食堂に頼めばいいと言ったのだがアホネン大尉の飛行中隊が当番制で朝食を自前で作っているからと作り始めたし、別に頼まなくても部屋の掃除を始めたりとこちらに気を使いすぎるのだ。
義勇飛行中隊の中でも最年少なのだから、もっと部隊の仲間を頼ってほしいと智子だけではなく他のメンバーも少なからず思っていた。


「大丈夫です。朝食に関しても自分が好きでやっている事ですから。それに最近はすこぶる調子が良くて全然疲れてません。むしろ元気すぎるぐらいで、これから夜間飛行訓練まで寝れるか心配なぐらいです。夜間飛行がなかったら非番の時間で皆さんで食べるお菓子を作りたかったなぁ……」


満面の笑みを浮かべた後に、お菓子を作れないことで少し残念な表情をする司は年相応の少女に智子には見えた。
確かに潜在能力は高いし、他の同年代の子よりも体は大きいけどこんな子を戦場に出すなんて……。
しかし前線に出てくるウィッチの年少化は他の国で酷くなっている。国土を奪われたカールスラントなどはウィッチの適性を持つ幼い少女達が次々志願し、一日でも早く戦場に出る為に訓練に励んでいるという。
そう思うと智子は少しやりきれない気持ちになり、自分の中での気持ちを切り替える為に司に話題を振った。


「お菓子で思い出したのだけれどもハルカもお菓子を作るのが得意なのよ。今度二人でお菓子作りをしたらどうかし……」


そこまで言ってハッとなる。
ハルカの名前を聞いた後、司の体が小動物のようにビクッと震えたのだ。


「迫水少尉と二人になるのはちょっと……」


かなり怯えた様な声で申し訳なさそうに言う司。
無理もない、飛行訓練中でのお尻タッチ事件以降、司はハルカの事を警戒し色々な人物(主に義勇飛行中隊とアホネン大尉の中隊の面々)から話を聞いたのだ。
そして知ってしまった、迫水ハルカの実態を……。
先輩であるハルカを慕っていた司はそれから不用意にハルカに近づかなくなり、ハルカが居ると他のメンバーの後ろに隠れてしまうようになった(ただしジュゼッピーナを除く)。
ハルカはハルカで司に怖がられている事には残念がってはいたが、『だってかわいい後輩なんですから、――つい食べちゃいたくなるくらい』とか『アホネン大尉みたいに私も妹を作ってみたいな……』などと反省の色はみられない。

(私が注意を促しても『妬いてるんですか?』とか、したり顔で見当違いな事を言って、結局なし崩しに……)

昨日のハルカとの夜間戦闘を思い出しながら智子が顔を赤らめていると、司がジト目でそれを見ていた。


「穴拭大尉、まさかまた迫水少尉とその……したんですか?」


やや口ごもりながらもはっきりと智子の眼を見て司は尋ねる。
司はハルカの事を聞いた時に、合わせて智子の事も聞いており、また既に当人の智子にも事実関係を確認していた。
顔を赤くしながらも智子は『別に私は女が好きとか、そういうのじゃないのよ!! でもいつも途中で抵抗できなくなって……』と弁解していたが司はやや懐疑的に考えていた。


「……えっ、そんなわけっ!!」


「……したんですね」


司の言葉に智子は押し黙る。

(この人は……。確かに穴拭大尉は優秀なウィッチで、中隊長で、指導者で、しっかりとした人格者だけどやっぱり迫水少尉やジュゼッピーナ准尉との関係だけは感心できない。本来なら本人の意思が尊重されることだから別に智子大尉が『そうよ、私は女の子が好き。何か問題でもあるの?』と言ったならこちらに火の粉が降り注いでこない限りは私も文句を言わないだろうけど、穴吹大尉はそうではなく非常に煮え切らない態度を取っているし。『私は女の子なんて好きじゃない』と言いつつ、実際は深みまで嵌まって抜け出せない泥沼状態っていえばいいのかな? とにかく誰かが指摘しないといけない事だから……)



「智子大尉、始めの頃は迫水少尉を自分の意志で拒むことが出来てたって言ってましたよね、なぜ拒めなくなったんですか?」


「え、それは……その、最初はベタベタ触ってこちらに迫ってくるだけだったけど、ハルカがアホネン大尉の隊に一時移った事があって。その後にあの子急に上手くなっちゃってそれから拒めない様に……って何言わせるの!!」


「つまり……迫水少尉の手管に籠絡され、ジュゼッピーナ准尉にもなし崩しに。言い方は悪いかもしれないですが世間的にそれって調教されてるって言うんじゃないですか?」


「ちょっ、調教って貴女……」


「『くやしいけど……でも感じちゃうみたい』って官能小説みたいな事になっているんです。穴拭大尉もはっきり自覚してください!!」


思わず過激な言葉を飛ばしてしまった司に、今度は智子が怪訝な顔をした。


「調教とか官能小説とか、貴女、真面目そうな子だと思ってたんけど、その年で意外と耳年増なのね。しかもかなりむっつり」


「違います! 私は女性として淑女として最低限の知識を持ち合わせているだけであって……」


「そんな年でそんな知識を持ち合わせている淑女がどこに居るの。仮に居るとするなら変態って書いて淑女って読むんでしょうね」


「うっ……」


司の苦しい言い訳を智子はその一言で言い負かした、
(この子、真面目そうに見えてこういう一面があったなんて……。まだ11歳なのよ。扶桑海軍はどうなっているの!?)
一応ソッチ方面の知識に関しては全て前世から継承したモノであって決して司は変態とか耳年増な訳ではなかったが、そんな事など知らない智子は司=真面目な子から司=実は幼い癖にむっつりと少し評価を改めた。


「――とにかく、想像してみてください。若くて実力もある扶桑陸軍の男性士官が居るとします。今まで挫折を知らず実績を重ねてきたのに仲間達が皆前線への派遣が決まった中、彼は一人だけネウロイなど見る影もない辺境に島流し。そんな失意の中、彼は同じ場所に派遣された女性に誘われて、なし崩しに関係を結んでしまう。本人にその気がないままで……何故だと思います?」


「それは……、その男は挫折を知らなかったんでしょ。それなのに一気に転落してしまって酷く衝撃を受けて……、弱っていた所をつけこまれたんじゃない?」


とても11歳が語る例えでないことに対し智子は『やっぱり耳年増ね』と確信しつつ質問に答えた。


「そう、それです!! 今の穴拭大尉の状態はまさにそれっ!! 隙間に付け込まれてしまっているんです!! 一度栄光から転落した男の人はお酒や女性に溺れたりすることがありますが、穴拭大尉は同じ様に女に溺れているんです!!」


「あっ、確かに……そうかも」


この場に他の義勇飛行中隊のメンバーが居たならば智子の台詞に対して『いやいや』と突っ込みが入っただろうが、少なくとも智子にとって司の言葉は自分が何故ハルカやジュゼッピーナを拒めないかという問題の答えとして都合の良いものだった為、すんなりと受け入れてしまった


「そうよ、なんで私がハルカ達を拒めないか自分でも分からなかったけど言われてみればそうかもしれないわ。欧州派遣の事も割り切ったつもりだったけど、結局、尾を引いてるし……。無意識に何かに逃避しようとしてハルカやジュゼッピーナの誘いを断れなかったのかも。いいえ、きっとそう、きっとそうなんだわ穴拭智子。ネウロイがいつ大勢で押し寄せてくるか分からないスオムスで女の子に逃避してるなんて武子に申し訳がたたないじゃない。今日ここで生まれ変わるのよ…………っ!! 指から血が!!」


手元がくるい、扱っていた包丁でほんのちょっぴり指を切ってしまった智子。
慌てて司は駆け寄る。


「大丈夫ですか。すぐに手当てを…………」


血が漏れる智子の指を見て、司の思考は一度止まってしまう。
血、血、血だ、赤の血、赤い血、紅い血、深紅の血。
嗚呼……、何て……………◆◆◆◆◆◆なんだ。
司は虚ろな瞳で血の出た智子の指を覗き込むと躊躇いなく咥え込んだ。


「えぇ!! ちょっと司、あなた何やって……っ!!」


「……ちゅぱっ、んんっ……んっ……はぁっ……ちゅるっ……んんっ」


司は意に介さず、流れ出る血を舐め取っていく。
頬を上気させ、顔に年に不釣り合いな官能を示し、まるで貪るようにしゃぶっている様子に智子の顔まで赤くなってしまう。


「ちょっと、嘘っ!! 何でこんなに気持ちいいのよ!? ―――体の力が抜けちゃう。お願いだから本当にやめて…………このままじゃ私、駄目になっちゃうっ!!」


けれど智子の言葉は既に司に届いておらず、ただ本能の赴くまま、ただ吸い続ける。
司が我を取り戻した時には風呂上がりのように体中を赤くし、床に倒れた智子の姿があったが指を咥え込んでいる最中の記憶が一切残っていなかった司には一体何が起こったのか理解できなかった。







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「暇だね。イッル、ニパ」


私は現在、朝食とその片づけを終え、夜間飛行訓練に向けてカーテンを閉めた薄暗い部屋の中に居た。
部屋の中には同じく夜間飛行訓練を受ける事となったイッルとニパがおり、自分と同じ様に暇を持て余している。
本来なら穴拭大尉も用意されたこの仮の詰め所の中で夜まで過ごす予定であったが何故か自分は別の場所で待機していると言い、この部屋にはいない。
何だか熱っぽい様子だったが大丈夫だろうか?


「夜まで寝てなきゃいけないけど……私達、今起きたばかりだしね。――そうだイッル、ツカサにタロット占いをやってあげたらどう?」


「そういや、話はしたけどツカサはまだ一回も占ってなかったけ。いい機会だな」


イッルはポケットからカードの束を取り出すと7枚のカードを地面に並べる。
私はその中から一枚のカードを選びとった。


「このカードは……」


角と羽の生えた男が描かれたカードを逆さまの状態で引いたのだ。ナンバーXVと刻印されているから……。


「――逆位置の悪魔」


「う~ん、束縛からの解放、自由の獲得、それに覚醒だから、――何から解放されて自由な気分になり新しい自分を発見するって感じだな」


イッルは占いの結果を私に伝える。


「イッルの占い良く当たるから、ツカサも覚えておいた方がいいよ」


「そうなんだ」


イッルの占いを自慢げに語るニパ。
しかし解放されて自由になり、新しい自分を発見するなんて全く自分では想像できない。
そんな自分なんて…………。
――ふと私は手に持ったカードに視線を送る、
逆位置で映った悪魔が私に何かを連想させた。
そうだ、何かを思い出すと思ったら――使い魔の伯爵に見えてたんだ。


「――まぁ、いいか。それよりイッル、ニパ。前の話の続きしてよ。ほら学校の校長から軍に復帰して活躍した……」


「シーラスヴオ大佐の話の続きか。何処まで話したっけ、ニパ?」


「えっと確か…………」


そうして長い時間取り留めのない会話した後、私達はベットで三人川の字(左右は私とニパ、真ん中はイッル)になり眠りについた。
……余談ではあるが話の最中、イッルが持参してきたサルミアッキを勧めてくれたが丁重にお断りした。
サルミアッキをおいしそうに食べる二人を見た私は、スオムスの人に凄い人物が多いのはその辺も関係しているかもしれないと思ったりしたのであった。













「暗いな……」


真夜中となり夜間飛行訓練となった私は滑走路へと出ていた。
空は分厚い雲のカーテンに覆われているらしく、月や星の光が全く見えてこない。
雲さえなければプラネタリウムでしかお目にかかれなかった凄まじい数の星を見る事が出来るのだが……、まぁ空に飛び立てば雲を抜けるのでそれまで待てばいい。
伯爵が憑依している為、最初は薄暗く感じた視界も徐々に鮮明なものとなって夜間飛行を行う他のメンバーの姿を捉えていく。
穴拭大尉、イッル、ニパ、それにアホネン大尉の飛行中隊傘下のナイトウィッチの……。


「フランセーン少尉、今回の夜間飛行の同行よろしくお願いします」


「お姉様より話は伺っています。こちらこそよろしくお願い致しますわ。ただ夜間哨戒の任務を兼ねていることだけはしっかり心に留めておいてください」


代表して穴吹大尉がフランセーン少尉に声を掛けた。
今回の夜間飛行訓練はフランセーン少尉の夜間哨戒に付きそう形で行われる。
前線であるカウハバ基地では貴重なナイトウィッチを遊ばせておく余裕がない為、こういう変則的な形の訓練となったが本来ならあがりを迎えたばかりでシールドは張れなくても魔導針が使えて空も飛べるウィッチが夜間飛行訓練に同行するのが一般的なのだ。


「眩しっ…………」


滑走路に誘導灯がつく。完全に夜の闇に目が慣れきっていた私は思わず目が眩んだ。
心配した様子でニパが駆け寄ってくれる。
どうやら眼が眩んだのは自分だけの様だ。夜闇の中で眼が利くのにもそれなりに弊害があるな。


「ではフランセーン少尉、訓練兵二人を頼みます。私は……司、一緒に手を繋いで飛ぶわよ」


何故か顔を赤くし、腕をフルフル震えさせながら腕を差し出す穴拭大尉。
さっき体調が悪いか尋ねたら穴拭大尉は『だ、大丈夫よ』と若干どもりながら答えていたが本当に大丈夫なのだろうか? 
顔もまともに合わせてくれない穴拭大尉を心配して再び声を掛ける。


「あの……、穴拭大尉。腕が震えてますけど体調の方は本当に大丈夫なんですか?」


「さっきからあなた、それを本気で聞いてるの?」


「当り前です! 私は穴拭大尉の体調を心配して……」


「分かった。分かったわよ。手を貸しなさい、お互いの魔導エンジンの出力を出来るだけ合わせて飛ぶわよ」


若干睨みをきかせていた穴拭大尉は一瞬呆れた様な顔をしたが、すぐに私の片腕を掴み飛行の準備を促す。
私は穴拭大尉の手をしっかり握ると魔導エンジンの回転数を上げていった。。


「離陸するからタイミングを合わせて」


穴吹大尉の顔を見てしっかり頷く私。
大尉はまた顔を赤くしたが、そのままフランセーン少尉達の後に続き私達は空へと飛び立った。
空を駆け上がりそのまま雲の中へと突入する。
闇の中でもはっきりものを見る事ができる私の眼も雲の中では用をなさず、ベテランである穴拭大尉の誘導にしたがって飛行していく。
やがて雲を抜けるとそこには期待していた満天の星空が広がっていた。


「凄い……、とても綺麗」


「そうでしょうとも。冬になればオーロラを見れるですよ。その代わりにストライカーの魔導エンジンが凍りつくほどの寒さですが」


私の感想にフランセーン少尉は言葉を返してくれる。
フランセーン少尉の方を見ると既にイッルとニパは少尉と繋いでいた手を放し単独で飛んでいた。
夜間飛行で難しいのは離着陸と視界が利かない状態なので月明かりが辺りを照らしている今は安全だと判断したのだろう。


「穴拭大尉、もう手を放しても大丈夫です。ここからは一人で飛べます」


「ねぇ、司。あなた本当に朝の事覚えてないの?」


唐突に自分にとっては何の脈略もないように思える内容が穴拭大尉からこぼれた。
朝のこと? 確か穴拭大尉が指を切ったから手当をしようとしたら立ちくらみを起しちゃって、気付いたら穴拭大尉が倒れてたことかな? 最初は驚いたけど出血は止まってたし気絶してただけだから大丈夫だと思ったのだけれど……。


「やっぱり朝、何かあったんですか? あれからずっと様子が変ですけど?」


「……演技とは思えないし、本当に覚えていないのかしら?」


「何て言いました、穴拭大尉?」


か細い声で穴拭大尉は何かを呟いたが魔導エンジンの駆動音とプロペラの音に掻き消されてしまった。


「何でもないわ、それより離陸と雲を抜けるまでに誘導しながら教えたことをちゃんと覚えておくように。基地へ帰るとき、もう一度雲を抜けて着陸するから教えた事を反復しながら飛ぶのよ」


穴拭大尉が手を放し、私は単独での飛行を開始する。
月と星の散りばめられた夜の空は昼とは違う趣があり、穴拭大尉から離れないようにしながら私は夜の空を楽しんだ。











……しばらく夜間飛行を楽しんだ後、ふとフランセーン少尉の方から音楽が聞こえてきた。


「フランセーン少尉、もしかしてラジオを聞いてるんですか?」


「魔導針で電波を拾ってそのまま出力しているの。ナイトウィッチ同士や基地などと交信できるのは知っていてもこれは知らなかったのかしら?」


自分の頭に展開している魔導針(魔導アンテナ)を指差し説明するフランセーン少尉。
魔導針による索敵や、味方との通信機能は知っていたけどラジオまで聞けるのか……、しかし何をスピーカーの代わりにしているのだろう? やっぱり魔導針?
それについても聞きたかったが、もう一つ気になっていた事があったので私はそちらを優先した。


「ずっと気になっていましたがアホネン大尉の率いる飛行中隊のメンバーは全員メルス(Bf109)を穿いているんですよね?」

Me109とも呼ばれるカールラント製ストライカー、前世でも第二次世界大戦時にドイツの主力戦闘機として名を馳せていた、カールスラントのウィッチ達も使用する性能の高い戦闘脚で、Bf109に積まれているエンジンと同系統のモノが私のキ60にも搭載されている。
そんな最新鋭機を中隊の隊員全てが揃えているかと思えばイッルとニパのストライカーはバッファローだし、スオムスは兵器全般は他国からの貸与品だからそこ等辺がアンバランスなのだろうか?


「……えぇ、お姉様が率いるスオムス空軍飛行第一中隊のメンバー全員がメルスを愛機としていますわ。カウハバ基地は前線ですが激戦区ほどネウロイが来る訳ではないので新型機や試作機の性能テストには調度いいとの事でカールラントから全員にメルスが貸与されました。本来ならスオムス空軍飛行第24戦隊などにも段階的配備されていく予定でしたが先のカールスラント陥落でそれどころではなくなってしまいまして。私たち以外のスオムス空軍のウィッチの殆どは旧型のストライカーを未だに使い続けているのが現状で……。カウハバ基地の整備兵の方々も何とかメルスの部品を最低限確保しようと躍起になっています」


知らなかった。最近、整備兵の人達が困っている所を見かけたけどそんな事情があったのか……。しかし他人事ではなく、キ60の心臓部といえる液冷魔導エンジンもBf109と同じ物を積んでいるのだから私の問題でもあるわけで。
私は魔導針の事を含め、Bf109の部品事情について尋ねようとした。
しかし……、


「前方に機影を発見、数は7。この反応は―――――ネウロイっ!!」


フランセーン少尉の魔導針の色が緑から赤に変わる。
どうやら敵を察知したらしい。
喉頭式無線機越しに穴拭大尉の声が飛ぶ。


「カウハバ基地に連絡をっ!!」


「既にやっています!! 敵機は7機全てが小型。真っ直ぐこちらに進行。待ってください……速度を上げました。すぐにこちらに来ます!!」


数刻と経たず肉眼でも確認できた。
平べったい形のネウロイだった。横にすれば魚に見えるかもしれない。
形状的に考えてステルス戦闘機のつもりなのか? この世界まだそんなものは存在しないはず……単なる偶然?
だがネウロイ達はこちらに考える暇も与えず攻撃を始める。


「見たことないタイプね。フランセーン少尉、二人を頼みます。司は私とロッテを組むわよ! 敵を迎え撃つわ」


敵が新型といえど小型である事や敵の機動性の高さから今から逃げても背中を捉えられる可能性がある事から穴拭大尉は敵との交戦を指示する。
フランセーン少尉も同じ意見だったらしくイッルとニパに指示を出して編隊を組んだ。
私も穴吹大尉の後ろに付き、PzB39を構える。
4機がフランセーン少尉達に、3機が私と穴拭大尉の方に飛んできた。
こちらに突っ込んでくるネウロイに対し、大尉のホ103 12.7mm機関砲と私のPzB39が発射される。
だが、


「何よその動きっ!」


穴吹大尉は驚きの声を上げる。
敵のネウロイ三機は横に滑るような動きで銃弾を回避したのだ。
上下を軸として独楽の様に回転するあの動きはヨーイングかっ!!
とにかく距離を詰められ過ぎている為、銃弾の方向を変えても上手く当てることができない。
三機のネウロイは私達の懐に入ると間に割って入る様に執拗に攻撃する。
なんとか分断に抵抗しようとしても、大尉に2機、私に1機のネウロイが張り付いて段々と距離が離される。

(最初からこれが狙いだったのか…………)

何とかネウロイを引き剥がそうと飛行する中、チラリとフランセーン少尉とイッル、ニパの様子が見えた。
こちらと同じ様に分断され、少尉に2機、イッル、ニパにそれぞれ1機ずつのネウロイが同じ様に張り付いている。
追いかけてくるネウロイに攻撃を当てようとしても距離が詰まりすぎていて当たらない。
後ろを取ってもすぐにヨーイングで前を向いてくる。
つまり攻撃を当てたかったら敵の真上か真下を取ればいい。
なら、
私は意を決して魔導エンジンの出力を調整し下降した。
相手のネウロイも横の機動では私に勝っているが下降能力はそれほどでもなく簡単にネウロイの下につく。


「もらったっ!!」


トリガーを引こうとした瞬間、機銃の音が響く。
敵ネウロイは正面からの光線攻撃だけではなく機体の底に対地用の機銃を備えていた。
急いでシールドを張るが一発の弾が予備弾薬の詰まったバックの革紐を掠め、そして千切れる。
慌てて掴もうとするが敵の機銃攻撃に動きが安定せず、予備弾薬が入ったバックは地面に落下していった。
一気に形成はこちらの不利に傾く。

(――どうする、残った弾は今のカートリッジに入っている3発のみ。真上をとって再度仕掛けるか? しかし同じ様に真上を取っても相手は攻撃できるかもしれない。できるだけ相手の意表をついて短い時間で決着を付ける必要がある。しかもチャンスはそう多くない)


《3発も要らぬ、せいぜい1発だな》


焦燥感に苛まれながら必死に策を考えていると直接頭に声が聞こえた。


(誰っ?)


《今はそんな事より敵を倒すことが先決だ。我と同調しろ、我が主よ》


(本当に誰なの! それに同調ってどうやって?)


《少々、頭の中がごちゃごちゃし過ぎているな。ふむ、少しばかり干渉するか。それに同調にも言霊が必要になるな。別に心を震わせ昂ぶらせられるのなら何でもいいのだが、何か洒落の効いたのは…………うむ、飛びきりいいの思いついたぞ我が主。魔弾の射手たる主に相応しい詠唱を謳い上げようぞ!!》


謎の言葉とともに私の思考はクリアなものとなった。
簡単な事だ。
今は声の主と同調して、ただ敵を倒せばいい。
その為の術は既に頭に流れ込んで来ているのだから…………。


『Was gleicht wohl auf Erden dem Jagervergnugen?《この世で狩の喜びを何に例えられるだろう?(分かりきっている。例えられない、比べようもない娯楽なのだ)》』


体に流れる魔力が変質していく。


『Wem sprudelt der Becher des Lebens so reich?《命の杯は誰が為に泡立ち溢れるのか?(決まっている。我らにこそだ――)》』


清らかなる、聖なる力を象徴するかの如く青い光を発していた魔力光は徐々に赤く、紅く染まっていった。


『Diana ist kundig, die Nacht zu erhellen, 《狩を司る神は夜を照らし》』


『Wie labend am Tage ihr Dunkel uns kuhlt. 《陽の光さえも陰らせる》』


まるで心の中のしがらみが一つ一つ溶けてゆくように感じている。
かつてこれほどまでに自分が自由だった事があっただろうか?


『Den blutigen Wolf und den Eber zu fallen,《慈悲を知らぬ異形共を!》』


『Der gierig die grunenden Saaten durchwuhlt,《血に飢え、生を犯す獣共を喰い散らして》』


心が昂ぶり、震えているのが分かる。
倒せ、倒せ、倒せと何かが叫んでいるのだ。
あのような異形の存在は一片たりとも、一秒たりとも許してはならないと何かが私に訴えかけている。


『Beim Klange der Horner im Grunen zu liegen,《その断末魔を聞き、笑みを浮かべ》』


『Den Hirsch zu verfolgen durch Dickicht und Teich,《山河を飛翔し、獲物を追うは》』


『Ist furstliche Freude, Ist mannlich Verlangen.《王者の喜び、愚者の憧れ!》』





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…………………………………………………………………
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言霊を紡ぎ終えた後、狩谷司は確かに変生した。



「さしずめ魔夜の狩人《Der Freischutz Teufelsnacht》とでもいうか。それよりも今は敵を倒すことが最優先だな」



金の双眸は赤く染まり、闇夜に妖しく光っていた。
司は愉快そうに笑みを浮かべると魔導エンジンに込める魔力量を増やす。
ストライカーユニットもそれに応え、紅い魔力光を噴射させて速度を上げていった。
疾走する司に、ネウロイも喰らいついていくが司は笑みを崩さない。
司は頃合いを見計らって直進飛行から宙返りの機動に移った。
半円を描き、上昇し赤い魔力光の軌跡を残していく。
ネウロイもその軌道の後ろにぴったりと追従する。
そして円の頂点、宙返り機動の中間に差しかかって……。


「拡散しろ――」


ストライカーの先端から発生している推力を全方向に拡散させた。
“魔導エンジンを最大出力にして失速する”というあり得ない矛盾を引き起こし、司はそのまま左に旋回していく。
低速で旋回した事で旋回半径を大きく短縮し、宙返りの機動についてきたネウロイの背中を容易く取る。
捻り込み――、それは扶桑の熟練したウィッチにしか出来ない戦闘機動であり現状の司の経験からは為し得ぬ技だった。
だが、血という情報源から他者の経験の一部を取りこんでいた司は固有魔法を補助に使う事で可能としたのだ。


「曲がれ――」


拡散した推力を再び収束し、今度は推力の向きを変える事によりそのまま距離を詰めていった。
左捻り込みと推力偏向、プロペラ機とジェット機、それぞれでしか行えない機動が合わさった事により誰も為し得ぬ魔の機動が生まれ、奇跡という名のデタラメは産声を上げる。
魔導障壁を前面に展開すると司はPzB39に纏わせるように収束していく。
防御など必要ない、何故なら今の司は◆◆◆なのだから。


「Gotz!!《Leck mich im Arsch!!》」


獰猛な笑みを浮かべた司は魔導障壁を収束したPzB39を槍に見立て、ネウロイを貫く。
円錐状に収束した魔導障壁の槍が容易く装甲を突き破り、ネウロイの核である赤い12面体のコアを貫くと、司は笑い声を上げ躊躇なく抉る。
コアが抉られ破壊された事によりネウロイはたちどころに鉄屑の塊と化した。


「弾は一発も要らなかったか」


だが獲物は残っている。
そう思うと司の口から自然と笑みがこぼれる。
司は愉快で愉快でたまらなかった。
空を鬱陶しく飛びまわる黒い虫共を狩るのがこんなにも楽しいものだったのかと。
故にこの愉悦を少しでも長く味わう為に司は狩りを続ける。
頬を赤く染め、乾いた唇に舌を這わし満面の笑みを浮かべる司。
再び魔導エンジン出力を上げると司は残りの獲物の元へと飛翔していった。















「ちぃっ―――」


智子は苦戦しつつも小型ネウロイの一体を撃破した。
何とか真上を取って射撃で運良くコアを貫けたから良かったものの、もしそうでなかったのなら未だに二体のネウロイと戦っていた事であろう。
フランセーン少尉達の方は訓練兵であるユーティライネンが一機撃墜した為、全員が一機ずつ相手をしておりそれほど危ない状態ではない。
それよりも問題は司の方だと、智子は不安を募らせる。
司の装備は対装甲ライフルだ。
いくら弾道を操る能力があるとはいえぴったりと張り付かれればひとたまりもない。
離された司を案じ、一刻も早く助ける為に奮起するが……

突然、赤い光の線がネウロイを貫いた。


「えっ――!!」


赤い閃光は何度かネウロイを貫くと、コアを捉えたようで智子の相手をしていたネウロイは砕け散る。
光が飛んできた方向に顔を向けるとそこには司の姿があった。


「司っ! あなた無事だったのね。相手をしていたネウロイは倒したの?」


けれど返答はなく、代わりにPzB39の銃口が智子に向けられた。


「ちょっと! 何やってんの!! 今はふざけている場合じゃないわ……っきゃ!!」


何の警告もなしに弾丸は発射される。
驚く智子は反射的に魔導障壁を展開するが、弾丸は智子を避けてフランセーン少尉達の方に向かう。
不規則な弾丸の軌道は今までの司のモノと全く違った。
前の司の弾頭軌道がただ獲物を真っ直ぐ追いかける猟犬だとしたら、今の弾頭軌道は海を縦横無尽に泳ぐ鮫の様だった。
不規則かつ高速で動く弾の軌道はその場に居た誰一人とて捉えることはできず、フランセーン少尉達の相手をしていたネウロイ達を貫く。
何度も何度も、獲物を嬲る様にコアを貫通するまで赤い魔力の込められた弾頭はネウロイ達を貫き続け、やがて三体とも消滅に追いやった。


「有象無象の区別なく我が弾頭は許しはしない……といったところか」


「ちょっと司、危ないじゃない!! それに今は何やったの? 一気に三体倒しちゃってるし。 それに今の台詞、あなた本当に大丈夫なの?」


何となしに司の様子がおかしい事に気付いた智子は尋ねた。


「大丈夫だ、問題な――――いや、どうやらはしゃぎ過ぎたらしい。ガス欠だ。後を頼む」


司は智子に近づき寄りかかるといきなり意識を失った。
慌てて司を抱える智子。
フランセーン少尉達もこちらの方に近づいてくる。
諸々の疑問を残しつつも夜間でのネウロイとの戦闘は一応の決着を見せた。
















後書き

今回も難産でした。もっと早く書けるようになりたい。


司に覚醒後の戦闘シーンではヒロインらしくオリジナル笑顔(ガン×ソード的な意味で)を浮かべている所を想像して書いてます。
さらに「ゲェェァァァ――ハハハハッハ!!」というとてもヒロインらしい(装甲悪鬼的な意味で)台詞を付けようと思いましたがそれだと司があまりにもヒロインらしくなってまうのでやめました。
まぁ冗談ですけど(ヒロインについては)。


補足


・ネウロイ

作者の考えたオリジナルネウロイでモデルはX-36、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社とNASAが開発した無人の無尾翼戦闘機機動研究機。ヨーイングの制御の為に推力偏向機構が搭載されている。一応ステルス性もあり。


・シーラスヴオ大佐

チート小学校校長。フルネームはヒャルマー(ヤルマル)・フリドルフ・シーラスヴォ《細川さん、ご指摘ありがとうございます》。
予備軍役となっていたが復帰し司令官を任されて冬戦争や続く継続戦争で凄まじい戦果を上げた。

・フランセーン少尉

完全に作者の捏造ウィッチ。いらん子中隊の小説ではアホネン大尉の部下はモブなのでナイトウィッチを登場させる為に捏造。捏造ウィッチはあまり出したくなかったが物語の都合上出しました。

・メルス

本編で記述しているので割愛。


・厨二もとい詠唱

SSタイトルになっているドイツのオペラ、魔弾の射手の中で歌われている狩人の合唱より引用。
SS本編中の歌詞の日本語訳は主人公に合わせてかなり意訳しています。後、使っているのは歌全てではなく適当に文を引き抜いてごちゃ混ぜにしているので注意。
後、元ネタが同じなので某怒りの日の赤騎士さんの第一創造に微妙に被っている。

・Leck mich im Arsch!!

モーツァルトの名曲のタイトルになっているが日本語に直すとかなり下品になる。
とりあえずSSの中ではカールラントの戦車乗り(ウィッチでない)には一度は言わせる予定。


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